ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


第30話   ふれあい広場

 

 朝を迎えたパール達。

 さっそく北上し、トバリシティを目指してもいいのだが、せっかく初めて訪れるヨスガシティだ。

 ちょっとぐらいは観光していきたいものである。

 今日は諸々の旅の目的も忘れ、一日この街を見回って遊ぼう、とはパールの提案であった。

 プラチナも快く頷いたものだ。最近の彼は、パールに遊ぼうと言われるとそちらの方が嬉しい気分にある。

 やっぱり男の子である。年の同じ女の子に、他の目的も無く遊ぼうと言われたら嬉しくなっちゃうものだ。決してプラチナに限ったことではあるまい。

 

 さて、朝から真っ先にパールが向かった場所。

 それはコンテスト会場でもなく、ポケモン大好きクラブでもなく。

 女の子のパールが真っ先に行きたがりそうな場所といえば、そのどちらかとプラチナは勝手に想像していたのだが。

 

「この"ふれあい広場"では、あなたのポケモン一匹と一緒に好きなように歩いていいことになっています。

 手持ちのポケモン、全部出してみんなで遊ぶようなことはしちゃダメですよ?

 みんながみんな、そうしちゃったら、広場いっぱいがポケモンでいっぱいになって狭くなっちゃいますから」

「はーい! わかりましたっ!」

 

 ヨスガシティの名物の一つ、ポケモンと共に歩くことを推奨された上でのびのびと歩きまわることが出来る、ふれあい広場。

 まあ冷静にパールの性格を想像すると、プラチナ目線でもここが本命だったかとは今になってわかるのだが。

 華々しいコンテストよりも、ポケモン大好きな人との交流よりも、大好きで大好きでたまらない自分のポケモンとの触れ合いが真っ先。なるほど。

 もっと言えば、昨日の話をすればそれよりもさらに彼女が優先したのはジム。

 案外パールって、プラチナが想像している女の子像から、ちょっとずれた位置にいるらしい。

 

 ふれあい広場のゲートをくぐる前に、受付のお姉さんに言われた諸注意に対するパールの返事も、まあ元気で明るくテンションの高いもの。

 早く早くここに入りたいという気持ちを抑えられないらしい。

 本当に、自分の感情に素直な挙動が表れやすい子である。

 

「気持ちはわからなくはないけど、そこまで楽しみ?

 ポケモンと一緒に歩くなんて、いつでもやってるじゃんって言っちゃったらヤボ?」

「だめだめ、プラッチ、そういうことじゃないんだから。

 自分のポケモンと二人きりで広~い広場をお散歩するなんてたまんないよ。

 えっ、むしろプラッチこのカンジわからない?」

「う~~~~~ん……全然わかんないつもりは無いけど……」

 

 と、プラチナが感じてしまうのは案外仕方ないことである。

 だってパール、時々自分のポケモンを街はずれで全部出して、みんな同士で好きなだけ遊んでおいで、ということをしている。

 仲良く遊ぶピョコやパッチ、ニルルやミーナを眺めているだけでうっとりのパール、しかも遊び疲れたらピョコもパッチもニルルも彼女にすり寄ってくる。

 スキンシップ混じりの自分のポケモンとの"ふれあい"なんて、プラチナが知るパールがいつでもやってることなのだ。

 それを知っていると、今さらふれあい広場にここまでわくわくする心情も、ちょっとよくわからないというのが本音である。

 

「あ、もしかしてプラッチ、パンフレット見てない?」

「いや、見たけどね。

 ポケモンセンターに置いてた、ふれあい広場に関するパンフレットでしょ?

 広場いっぱいにポケモン達が安らげるハーブが植えられてて、一緒にお散歩するポケモンの可愛い表情が見られますよ、ってやつだよね」

「え~、わかってんじゃん。

 なんでわくわくしないの?」

「まあ、魅力的だとは思うけど……

 パール、そういうのに頼らなくたって自分のポケモン達とはラブラブじゃん」

「えっ、プラッチから見てもそう見えてる?

 どうしよう、嬉しい。ありがと、プラッチ」

「ど、どういたしまして?」

 

 駄目だ、パール的乙女心がわからない。

 今の何が嬉しかったのやら、肩をひょこひょこさせて大喜びのパールである。

 元より乙女心というのは男の子が察するには少々難しいものではあるが、とりわけパールの嬉しがるツボというのはプラチナにはわかりにくい。

 

 まあ、パールを喜ばせようと思ったら簡単なのだが。

 明かしてしまえば、彼女が大好きなポケモン達を褒めてあげればいいのである。

 パールはきっと、自分のことを可愛いねと言われるより、綺麗だねと言われるより、最愛のポケモンを可愛い子達だねと言われた方が喜ぶ。お世辞でもウケる。

 愛に生きている。生き過ぎだが。

 自分で捕まえた、鳴き声を聞かせてくれる、すり寄ってくれる、肌で触れ合えるポケモンが、可愛くて可愛くてたまらないのは仕方ないことだけど。

 

「で、パールはどのポケモンと一緒に広場を歩くの?

 やっぱりピョコ?」

「……………………み、ミーナ?」

「なんで疑問形なのさ」

「むっ、今プラッチも疑問形な顔してるぞ」

 

 目先をあらぬ方向に向けて応えたパールだが、確かにプラチナにとっても意外な答えだった。

 たった四人しかいないパールの手持ちで、一番パールに懐いていない子だ。

 と言うよりもむしろ、みんなパールに懐いている彼女のポケモンの中で、唯一彼女に好意的な態度を徹頭徹尾見せてくれない唯一とさえ。

 

「これを機会に、ちょっとでもミーナと仲良くなっていきたく」

「知らないよ、テンションだだ下がりで帰ってくることになっても」

「も~! なんでそんな幸先悪いこと言うの!」

「いやぁ、だって……冒険的ではあるし、心配にもなるよ。

 暗い顔で帰ってきそうな予感は凄いし」

「うぐぐ、心配してくれてるなら責められない……

 私も正直、けっこう思い切ってるところはある」

 

 自覚はあるようだ。

 どうにも懐いてくれないミーナと一緒にふれあい広場を歩き、少しでも心を近付けられたらいいな、という望みを含めてのチョイスと見えてならない。

 実際そうで、目論見がはずれてミーナに終始つんけんされて、結局上手くいかずにしょんぼりして帰ることになる覚悟もしているようだ。

 わかっているなら、プラチナも異は唱えられない。肯定してあげるしかない。

 

「まあ、頑張って」

「あっ、なに、その気の毒そうに見送る目!

 見てろよ~! ぜったいミーナと仲良しになって帰ってくるからな~!」

 

 とはいえパールからしてみれば、他者からこんな眼で見られては意地を張りたくなる。

 ミーナと関係が良くないことは自分でもわかっているとも。

 それを他人に突き付けられたらむかっとしちゃうというのもよくある話である。

 

 啖呵を切って、ミーナをボールから出してふれあい広場に入っていくパール。

 いくらふれあい広場が、ポケモンにとって心安らぐハーブの香りに満ちた場所とはいえ、それで昨日の今日であのミーナが態度を改めるとは考えにくい。

 友達なんだから応援はするのだけれど、厳しいんじゃないかなぁ……という現実的な視点で見送るプラチナの眼差しも真っ当だ。

 

 苦笑い気味に手を振って、パールを見送るプラチナだが、彼は彼で寂しいものである。

 結局パールはプラチナを遊びに誘っておきながら、自分のポケモン達のことで頭がいっぱいなのだ。

 自分に好意を持ってくれていて、今日一日パールと一緒に遊べるなら楽しそうだな、と思ってくれている異性にこの仕打ち、まあまあ罪作りなパールである。

 プラチナはパールを見送ると仕方なく、自分のポケモン達をボールから出して、パールを待つ間ヨスガシティを散策して時間を潰すのだった。

 

 ちょっぴり気の毒なプラチナだが、彼は案外残念がっていない。

 初めて訪れる街を興味津々に見回す、自分のポケモン達はやっぱり可愛い。

 パールが自分のポケモンを、他の何よりも勝って愛する気持ちは、プラチナにだって理解できてしまうのだ。

 可愛い自分のポケモン達の姿を見て、パールの気持ちも察して余ったプラチナは、今度こそより強く、上手くいけばいいねとパールに想い馳せるのである。

 優しい友達がそばにいてくれてパールも幸せ者だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ……まっ、待てえぇ……ミーナぁ……」

 

 いや、案外そこまで幸せなばかりではないのかもしれない。

 ふれあい広場に入って数分後、息も絶え絶えのパールと意地悪に笑うミーナの姿があった。

 たいそう振り回されているパールである。こっちの友達は超やんちゃである。

 

 ふれあい広場は広大で、ボールから出てきたミーナはその眺めに目を輝かせていた。

 いい匂いが漂っていて心地良い上に、いくらでも走り回れそうな広さが目の前にあれば、ミーナだって機嫌が良くもなる。

 都会のコトブキシティを訪れた時、目移りする光景に瞳を輝かせていたパールと同じように、目に上機嫌を物語るミーナの姿にはパールも手応えを感じていた。

 今の機嫌が良いミーナとなら、ちょっとずつでも仲良くいけるかも、と。

 

 実際その後、ミーナの方からパールに近付いてきて、彼女のスカートをくいくいと引っ張る姿を見せてくれたものである。

 こんなの初めてのことだ。それだけでパールはたまらなく嬉しかったのだが、ミーナが何を言いたいのかをすぐに考える。

 ミーナは走りかける仕草を見せてくれたり、振り返って来い来いと手で招いたり、鬼ごっこでタッチする仕草のようにパールのお腹をぽんと叩いたり。

 その後、身振り手振りで何かを主張するミーナの姿から、どうやら追いかけっこがしたいんだなとはパールも理解できた。

 人とポケモンでは言葉による会話は出来ないが、一生懸命ジェスチャーしてくれるポケモンとなら、大まかな疎通は出来たりするものである。

 

 それこそパールにしてみれば、ミーナが初めて自分に遊ぼうと持ち掛けてくれた展開である。気合だって入ったとも。

 しかし、ミーナの足ときたら速いのなんの。

 元々ミミロルは足が速い方のポケモンで、ミーナはパールの下で鍛えられた結果、健脚でバトル慣れしたパッチと駆けっこで競えるほどの走力がある。

 ミーナに全力で逃げられたら、パールに追い付ける道理なんてはじめから無いのだ。

 パールだってそれはわかっているし、何なら"負けてあげる"ことだって全然吝かではなかったぐらいなのだけど。

 

「――――♪」

「はっ、はひ……

 こいつめええぇぇぇ……」

 

 ミーナときたら、逃げ方にも煽り方にも明確な意地悪心がある。

 パールが全力で走ったら追い付けそうな速さに自分のスピードを調節し、近くまで迫られたらちょっと本気を出してそれ以上距離を縮めさせない。

 鬼ごっこの鬼から逃げる中、相手に追い付けそうな希望を錯覚させつつ、結局捕まらない逃げ方を普通にやっている。

 なまじパールも頑張らざるを得ず、ずっと必死でミーナを追い回し、しかし結局捕まえられない、それがずっと続いている。

 ずっと全力で追う足を駆けさせ、とうとう息が切れて膝に手をついてひぃひぃ息を荒げるパールに、ミーナは得意気な顔で歩み寄って来る。

 

 スキップして近付いてきて、息を切らしてうつむくパールの顔を下から覗き込んで、どうしたの? もう限界? とにんまりした顔を見せつけるのだ。

 露骨に挑発している。そんな煽り顔をされては、パールも思わず捕まえる手を伸ばしかけるが、ミーナは余裕いっぱいにぴょんと跳び退がって回避。

 そしてパールに背中を見せると、突き出したお尻をふりふりするのである。

 その時、振り返り気味にパールの方を見て、ザコめと鼻で笑うかのようなミーナの表情たるや、パールに新たな認識を抱かせる。

 この子、かなり性格尖ってるなと。

 

「ぜ……っ、ぜえったい捕まえてやるうぅぅ……!」

 

「――――♪」

 

 こんなに煽られるとパールも熱くなってしまって、汗だく息切れの身体を起こして、再びミーナを追い始める。

 あと数分は走り回っても息切れしないスタミナのあるミーナ、へろへろ必死の足で追ってくるパールから、軽やかな足取りで逃げるだけ。

 引き付けるだけ引き付けて、パールが掌を伸ばしてきたら悠々と加速して、捕まらない距離をあっさり稼ぐ。

 その都度勝ち目の無い勝負をしていることを突きつけられ、疲労も相まって絶望的な顔をするパールを、振り返ってきひひひと笑うミーナである。

 

 そんな馬鹿にするような顔をされたら、熱くなって奮起しちゃって、顔を上げてまたミーナを全力で追い走るパールである。

 賢明ではない行為と言えばそうなのだろう。そもそも捕まる気の無い脚自慢のポケモンと追いかけっこなんて、最初から勝ち目のない勝負なのだ。

 もう何分も付き合ったんだし、もういいでしょと膝を着いていい頃合いである。

 だが、パールは熱くなっちゃってる。煽られたらムキになっちゃう。

 パールは感情に素直である。結果、ミーナの掌の上で転がされまくる。

 

 結局その後も、元気な時の全力疾走には遠く及ばない足取りで、パールがミーナを追いかけ回し続けて。

 何らかの奇跡が起こって捕まえられることもなく、とうとうパールの体がついていかなくなり、走れなくなってすっかり立ち止まり。

 もうだめ、むり……とばかりに心の折れたパールが、倒れ込むかのように草地の上で膝をつき、頭を垂れて息を掠れさせるところで追いかけっこは終わった。

 

「――――? ――――?」

「く……っ、くゃしぃ……

 み、ミーナ……今日のこと、ぜったいにわすれないからね……っ!」

「――――♪」

 

 完全に力尽きたパールに歩み寄り、腰に両手を当てて頭を低くして勝ち誇るミーナである。

 屈服して跪いたパールを、顎で見下して笑うかのように、鼻まで鳴らして。

 解釈次第では、自分有利な追いかけっこでマウントを取れて勝ち誇る子供っぽいミーナ、とでも言えそうな姿だが、どうやら本質はそうじゃない。

 好かぬパールを煽って、限界以上まで引きずり回して、息を苦しくしているパールを見下してご満悦という顔だ。

 背丈の低いミミロルを、低い位置から見上げたパールが見た、ざまぁみろと嗤うミーナの表情には、パールにさえもそう確信させるものがある。

 

「~~~~♪」

 

「ちょ……ま、待ってぇ、ミーナ……

 一人でうろうろしないでぇ……」

 

 パールをここまでへとへとにさせて満足したミーナは、ぴょんぴょこ上機嫌な足取りで広場の散策へ向かっていった。

 保護者にあたるはずのパールも、がくがくの膝に力が入らず、胸もお腹も痛くて立ち上がることさえすぐには出来ない。

 パールのことなんか知ったこっちゃないと奔放に離れていくミーナは、いくらパールが手を伸ばして呼びかけても無視して去っていく一方だ。

 飽きたオモチャにはもう興味も無いと言わんばかりの態度である。

 

 自分に懐いてくれていないからのあの態度だと思っていたパールだが、どうやらミーナは元々じゃじゃ馬気質のようだ。

 悪い企みをする知性が、好かない相手はいたぶるように苦しめることすら出来、飽きたらポイ。

 あのずる賢さ、バトルで活かせれば案外大物になったりするかもしれないが。

 そういう発想をするにはまだ幼過ぎるパールをして、ミーナには今後も何度も苦しめられそうな予感しか感じられない。

 ミーナが自分に懐いていないことは明白なだけに、これからもこんな意地悪をされ得ると思ったら、立てない弱った体で気が滅入る。

 

 それにしても。

 これだけ苦しめられながら、自分が捕まえたポケモンなんだからと、なんとかミーナとの関係を良いようにしていきたいと念じているパールである。

 可愛がるんだと決めた初心は、絶対に覆さない。ここまでされて尚だ。

 実は"ぶきよう"なミーナだが、パールも好きになっていこうと一度決めた相手を決して見限るまいとするその思考、こちらも案外器用ではないのかもしれない。

 

 今のパールって、出会いや縁に人生まで左右されそうな子だ。

 素敵な人に出会えれば、尽くして愛して幸せな人生。

 逆に悪い人に騙されて絆されたら、本質的には苦しめられつつも、それに気付かず、あるいは気付くまいと献身的であり続けるやも。

 11歳って純真である。ややもすると、パールは特に。

 最近出来た友達のプラチナが悪い子じゃなかったことは、こんなパールにとっては、本来以上に幸せなことだったのかもしれない。

 もしかすれば、パールもそのうち気付くかもしれないことだが。

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