ヨスガシティは見所が多い。
一日じっくり街中を見て回ったパールとプラチナは、その日は街を出発せず、再びポケモンセンターでお休みだ。
遊んでいるうちに夕頃になってしまい、今から出発というのも……という流れだったようで。
ジム巡りの旅をしている身分ながら、行きずりの街で一日丸々潰してしまうのだから、ここだけ見ればもはや単なる旅行のよう。
もっとも、初めて訪れる地ばかりとなるのが地方全体を巡る旅なので、こんな丸一日があって良くもある。
さて、一夜明ければ二人はヨスガシティの東へ向かい、いよいよ新たな地へ向けて出発だ。
ヨスガの東へと伸びる209番道路は、しばらく進んだ所で北へと曲がり、旅人を北上の足取りへ導いていく。
209番道路は、ヨスガシティとズイタウンを繋ぐ道路であり、パールの目指すトバリシティはズイタウンのさらに北東だ。
コトブキシティからソノオタウンを経てハクタイシティへと至った時のように、今回も少々の長めの旅路となる。
この209番道路、ズイタウンと、人口の多いヨスガシティに挟まれた場所ということだけあり、連日多くのポケモントレーナーが散策している。
ズイタウンの北にある210番道路側が、草が多くてあまり多くのトレーナーが好んで行く場所ではないらしく、209番道路側に人が偏りがちなのだとか。
そして、ただでさえ209番道路はやや長い道のりなのだが、パールはポケモントレーナーに勝負を求められると、全部受けてしまう。
結論だけを先に言ってしまうと、この日はそんなパールが旅路に長い時間をかけ、ズイタウンに辿り着く頃にはもう夕時前になってしまっていたほどだ。
まあ、先述のとおり209番道路自体が長いのも無関係ではないが。
どうも自称初心者のパール、持ちかけられたバトルを全部喜んで受けるのは、積極的に経験を積んでいきたいという気持ちが強いからようだ。
今日に至っては、自分からトレーナーらしき人に声をかけ、勝負しませんかと持ち掛ける側にすらなった場面もある。
バッジ2つを既に獲得し、ポケモン達と共に山一つ越えるような旅をしてきた彼女、そろそろ初心者と自称するのもどうかという域に達してもいるのだが。
当人の中ではまだ初心者。ギンガハクタイビルで、ジムリーダーナタネが本気を出した姿を、生で見てしまった影響もあるのかもしれない。
若いうちにあまりにも凄いものを見てしまうと、人間なかなか驕れなくなってしまうものだ。
目指すところがあれなんだから、自分なんてまだまだ、という意識が根底に根付いてしまっているのだろう。
ちなみに当のナタネさんとは、昨晩も、その前の夜も、ポケモンセンターで寝る前に長電話していたパールである。
怪我も回復し、ジムリーダーに復帰したナタネと、近況報告し合うだけで二人とも夜話が弾む弾む。
ナタネが入院していた間も、ジムには挑戦者が何人か訪れており、そうした人達にはナタネ復帰後のジムリーダー挑戦を予約して貰っていたそうだ。
ジムリーダーに復帰したら、列を作って待っていた挑戦者との勝負がいくつも待っていたらしい。
しかし、そんな挑戦者すべてを捌いたナタネ、きっちり全勝したそうだ。
苦戦しなかったわけではないが、何だかんだで負けなかったのである。当人が言っていた、ジムリーダーは負けることが仕事とは何ぞや何ぞや。
つまりナタネが最後に負けた相手はパールであり、あなたみたいな強いトレーナーはまだ現れてないよ、と言葉を変えて伝えてくれるナタネ。
先日の勝利を改めて讃えてくれるナタネに、パールがてれてれしているのは電話越しの声でも向こうに伝わっただろう。
基本、誰にであろうが褒めて貰えれば喜ぶパールだが、ナタネお姉さんに褒められると普通以上に嬉しい。なついている、ってこういうことである。
話を戻すと209番道路だが、ここはヨスガシティを出発していくつか橋を渡り、川を越えた辺りで随分と地層が変わる。
坂道や階段といった高低差が非常に少なく、町全体の平坦さを強調したヨスガシティとは対極、盆地や窪みの多いでこぼこした地形が散見されるようになる。
川を隔ててがらりと大地が変わったというよりは、元々はヨスガシティもその近隣、太古には凹凸の多い大地ではあったそうだ。
つまりヨスガシティとは、人の手であそこまで丹念に拓かれたものであり、子供も老人も過ごしやすい平らな街として定着したものだとも語られる。
逆に言えば、そんなヨスガシティから離れれば離れるだけ、わざわざそこまで開拓されていない209番道路は、自然体の地形が残っているということだ。
いったい何の意味があるのか不明な石の塔、階段まで作ってある広い盆地、虫ポケモンが群がる大樹。
ズイタウンに近付けば近付くほど、自然は有りのままの形で残されている。
また、209番道路にはズイタウンに近い場所に"ロストタワー"と呼ばれる施設が建てられており、パール達はここにも立ち寄った。
ここはいわゆる墓地である。トレーナー達に大切にされていたポケモン達が、長い眠りについた後、安らかなその後を願って見送られてきた場所なのだ。
何階層にもある塔の各階には墓石が並び、それはまさしく大事にされてきたポケモン達の数多さを物語るものだ。
ポケモンは人類にとっての掛け替え無きパートナーである、と語る者は多い。
笑顔で歩ける場所ではないし、そんな気持ちにもなれないが、墓前に手を合わせる人の姿を見るたび、パール達が抱く感情は寂しさだけではなかった。
墓地とはただ悲しみの象徴だろうか。別れを乗り越え、前へと進もうとする人達がいることを雄弁に語ってくれる場所でもある。
幸せに眠っているポケモン達も沢山いるはずだ、と、救われた気持ちになるパール達の感情もまた、ロストタワーを訪れることで得られた正しい解釈だ。
ただ、ついうっかりプラチナが、僕達のポケモンもいつか別れが来たら、必ずここで眠らせてあげようねと言ったのはちょっとまずかった。
縁起でもないことではあるが、別におかしなことは言っていない。
これは、大好きなポケモンだからこそ、別れの日が訪れるなら尽くせる形で、という情念から生じた感情なのだから。
パールもプラチナのその言葉に、そうだねと心から同意する笑顔で答えていたものである。ここまでは良かった。何もおかしくなかった。
が、その後数十秒、無言で神妙なこのロストタワーを歩いていた時のこと。
急にパールが早歩きでプラチナから離れ始め、どうしたのとばかりにプラチナが駆け寄ろうとすると、パールが手をぶんぶん。
来ちゃだめ見ちゃだめとプラチナの接近を拒絶する仕草をするパール、階の隅に行って断じてプラチナの方に顔を向けない。
泣いてるっぽい。急に泣きだした。プラチナもびっくり。
どうやらプラチナの言葉に心から同意したところまでは良かったものの、本当に今の自分のポケモンと"お別れ"する時のことを想像してしまったらしい。
よほど具体的に想像してしまったのか、想像しただけでぐずぐず。時間差で自ら涙腺に傷を負うとは器用な子だこと。
いや、まあ、確かに、確かに。
最愛の誰かが目を閉じてもう動かなくなり、二度と話せなくなった、笑い合えなくなった姿を本当に想像すると、けっこう目にくるものはあるのだが。
きっと今後も一生自分のポケモン達のことが大好きなパールだが、ややもすれば今こそ一番、自分のポケモン達が可愛くて可愛くて仕方のない時期でもある。
初めてのポケモンに、自分で捕まえたポケモン達、すくすく育ってくれている姿を現在進行形で見守っている、初心者が一番自分のポケモンを好きになれる頃。
しかも最も多感な年頃かつ、感情で生きているパールには、想像しただけでもかなりきつかったということである。
試しに一番好きな人が、本当にそうなって自分の目の前で動かなくなった姿を想像してみれば、パールの気持ちに近いものは感じられるかもしれない。
やっちゃったなぁ、と気まずい感情を抱いてしまったプラチナだが、まあこれは彼女の問題なのでプラチナが自責するべきような話ではない。
しばらくパールに近付いて声をかけることも出来ず待っていたプラチナだが、ようやく涙を拭い終えたパールは、笑顔を取り戻してプラチナのもとへ。
お目々が真っ赤っか。かなり泣いたらしい。困った子。
ついつい謝ってしまったプラチナだが、私の方こそ急にごめんねと、鼻をすすってばつの悪い笑顔でパールも謝る。
充分泣いたら気持ちの整理もついたらしく、元気を取り戻したパールと共に、改めてロストタワーを見て回る。
これでもう嫌、すぐに帰ろうとならない辺りは、二人ともここをちゃんと見て回りたい気持ちがある。
ロストタワーは、どうしても哀愁の漂う施設ではあるが、ポケモンが大好きな人達にとってこそ、決して忘れたくない貴き場所にも違いない。
ちょっとしたアクシデントに見舞われつつも、時間の許す限りロストタワーを見て回った二人は、ここに刻まれた情念を胸に旅を再開するのである。
さて、そうして果ての夕時に辿り着いたズイタウン。
都会的なヨスガシティや、北のこれまた都会寄りのトバリシティからこの町に訪れると、非常にのどかで自然に囲まれた場所という印象が強まる町だ。
かつては広い牧場も擁していたそうだが、現在では人口が増えて開発されていった結果、それは残っていない。
ただ、この町にある"ポケモン育て屋さん"が広い牧草地を有し、今日もポケモン達を開放的に育成している姿に、かつてのその名残らしきものはある。
ズイタウンの魅力は、のどかでのんびり過ごすには最適なその気風であり、ソノオタウンと同様に、住めばその魅力もわかりやすい地だ。
ここから北のカンナギタウン、北東のトバリシティ、東のヨスガシティを繋ぐ町でもあり、シンオウ地方東部における町としての重要性も高い。
しかし、名物にはやや乏しく、通行する者と移住してくる者は多いものの、観光客があまり群がってこない場所でもある。
育て屋さんがあるため、この町を訪ねるポケモントレーナーは多いのだが、そうした人々は一旦預けると、しばしこの町を離れるケースも多々。
出入りは激しいが、多くの人が一期一会でこの町を去る形を取ることが多いのだ。
ある意味では、この町と南の209番道路が、ポケモントレーナー同士の一期一会の場となることも多い、と評ぜられることも無くはない。
ただ、それは別にどこの街のポケモンセンターでも、どこの道路でもある話なので、特筆するほどのこととは言い難くもある。
しかし果たして名所が全く無いのかと言えばそうでもない。
町の東には"ズイの遺跡"と呼ばれるものがあり、決して数多くは無いが、これが目当てでズイタウンを訪れる人もいる。
一度この町に立ち寄った人が、話を聞いてとりあえず行ってみようということが多い場所にも違いない。
パール達もその例に当て嵌まり、夕時前にこの町に着いて、ズイの遺跡なるものがあると聞き、行ってみようという運びに。
あまり観光名所と呼べるものが無いぶん、今日のうちに遺跡を眺めてみて、明日の朝にはこの町を出発する勢いだ。
やはり長旅するトレーナー達には、通過点として認識されることが多い町ということだろう。
名物の一角、ポケモン育て屋さんも、パールとプラチナにとっては興味の対象にはならない。
大好きな自分のポケモン達と、一日たりとも離れたがらない二人なんだから。人に預けたがるわけがない。
ただし、この町が無ければヨスガからトバリやキッサキに向かう中、この辺りで野宿しなければならなくなるので、旅人にとってはありがたい町には違いない。
「わ、明るいね。
観光しやすくはされてるんだ」
「うーん、凄いなぁ。
こんなにくっきり壁画が残されてるんだ」
ズイの遺跡に足を踏み入れた二人。
洞窟めいているが、中にズバットは生息していないとあらかじめ教えて貰えたため、パールは全く怖がっていない。
これまで洞窟に入るたびにそわそわしていたパールだが、別に暗い場所や洞窟そのものが苦手というわけではないのだ。
連想してしまうので、わざわざ進んで入りたがらないというだけである。
遺跡内も、自然を破壊しない程度に導線から繋げられた蛍光灯で淡く照らされており、少々薄暗くはあるが充分に歩ける明るさである。
「凄いの?」
「けっこう凄いことだよ、こんなの。
何百年も前のものが、こんなにくっきり残されてるなんてさ。
岩石に刻まれたものだって、どんなに人が触れないようにしたって風化していくものなんだからさ」
「プラッチが熱い。
学者さんの卵だから、やっぱり遺跡はワクワクする系?」
「そうだからっていうつもりはないけどね。
なんかこう、無性にわくわくするとこはある」
大昔に人の手で作られた遺跡内の階段は、比較的近年テンガン山に作られた階段と比べれば、時代の技術の差なのか少々粗い。
カドも削れて丸くなりつつあり、降りる時は少々程度に気を払わないと足を滑らせるやも。
テンガン山の階段は、定期的に形を整えられているというのもあるが、この遺跡内の階段の粗さもまた、積年の歴史を感じられて趣深くある。
そして所々に、現代ほど娯楽に溢れていなかった時代の人々が、お戯れに岩壁に刻んだ壁画の数々は、時代を越えた感情を感じさせる。
正直、わざわざその壁画に芸術的な何かを感じることは無いけれど、遥かなる時を越えて当時の人々の存在に触れる感覚は、こうした遺跡の魅力であろう。
自分達が生まれるずっと前から、シンオウ地方にはずっと人がいて、そうした人々が命と歴史を紡いできた末に今がある。
見方を変えれば今の自分達も、何百年も未来の誰かに、ふとした形でその存在を思い返されることさえあるかもしれない。
遺跡が物語る人の歴史の面白さとは、きっとそんなところにあるのだろう。
興味があるなら身近な遺跡に是非。想像力豊かにその地で様々に想い馳せられるなら、佇むだけの遺跡がいくつものことを雄弁に語ってくれるはずだ。
写真や画像や映像でも充分だが、触れてみればもっと色んなことが感じられるので。
「わっ、アンノーン文字だ。
よめない」
「ん~と……みぎ……みぎてまえ……みぎ、てまえ……」
「えっ、もしかしてプラッチ読めてる?」
「いや、案外アンノーン文字ってシンプルなんだよ。
読み方さえちょっと勉強すればすぐ読めるようになるからさ」
「え~でもなんか凄い!
今プラッチほんとに学者さんっぽい!」
しばらく進んでみると、アンノーンが並ぶように刻まれた壁画も。
文字のような形をしている、不思議な不思議なポケモンとして有名なアンノーン。
非常に稀だが、こうして文字のように刻まれる遺跡もあり、読み方さえ現代風に解読すれば、書いてある内容も理解はしやすい。
現代の文法にも似通うアンノーン文字、果たして人の歴史では、文字が開発されたのが先なのか、アンノーンが先に存在したのか未だに議論の的。
アンノーンの姿から着想を得た太古の人類が文字を作り出した、という説が現代ではやや有力だが、確証たり得るものも無いため未解決の謎のようだ。
「ポケモンセンターに帰ったら、寝る前に教えてあげようか?
勉強って感じもしないぐらい、簡単に覚えられるよ」
「うん、ちょっと興味湧いてきた!」
「あはは、そっか。
まあ、今はとりあえず進もう。
途中に文字があれば、今日のところは僕が読むから」
パールはうきうき、プラチナも内心では喜んでいる。
夜はポケモンセンターで別室泊まりの二人、ポケモン達の回復が済んだら二人ともすぐ部屋に行ってしまい、その日は一旦お別れになってしまう。
今日はポケモンセンターに泊まった後も、パールと夜遊び出来る話の種が出来た。
今夜限りの話題だが、それでも遊べるきっかけが出来るとプラチナも嬉しい。
さて、ズバットの出ないズイの遺跡だが、野生のポケモンもいるにはいる。
アンノーンがいる。色んな形のアンノーン、ふわふわ、ふよふよ。
案外散見するのだが、多くはパール達人間と目が合っても、興味なさげにどこかに行ってしまう。
しかし、時々こちらに興味を示し、寄ってくる個体もいる。
そういう時は要注意。近付いてきて"めざめるパワー"を放って攻撃してくるからだ。
人類目線ではそれ以外のアクションが確認できないアンノーン、それが敵意からくるものなのか、単に興味からじゃれてきているだけなのかもわからない。
しかし、攻撃力はあるので困りもの。
「わわっ、パッチ、あのアンノーンこっち来てるよ。
ほえて」
「――――z」
パールが共に連れているのは、ルクシオに進化したパッチである。
アンノーンは決して強い個体ではないし、めざめるパワーの威力も高くないので、真っ向迎え撃って勝てない相手ではない。
とはいえ遺跡の中に生息する、いかにも不思議なこのポケモン。傷付けちゃうのは遺跡に傷をつけるような気さえして気が引ける。
別に、たとえ捕獲したとしても罪深くはないのだけど。
たまに、多種あるアンノーンを全種揃えようと、こうした遺跡に乗り込んで乱獲するトレーナーもいるのだが、そんな人達も咎められはしない。
何故ならこの手の遺跡、限られた空間内に少数漂っていると見えるアンノーンを、百匹捕まえようが千匹捕まえようが、何故かアンノーンは絶えない。
いつの間にか湧いてきて、必ずいつも同じ程度の数だけふよふよ漂っているのである。何もかもが不思議なアンノーンだ。まさにアンノウン。
普段は野生のポケモンも戦って撃退して貰うパールも、今日はパッチに"ほえる"をお願いして、寄ってくるアンノーンを無傷で追い払う。
遺跡内で大きく吠えると、響いて他の人に迷惑になりかねないので、パッチも唸るように静かに吠える。
強い威嚇行為と見えれば、アンノーンもすすっと逃げ出してくれる。
きちんと目を配って歩く限り、何ら困らず歩いて行ける遺跡である。
「ん、ここ最下層かな」
「ここにもアンノーン文字あるね。
プラッチ、読んでみてよ」
「せっかくだから、いま簡単に読み方教えてあげようか?
パールにもすぐ読めるよ」
プラチナはポケッチを起動して、色々書いてパールにアンノーン文字の読み方を教える。
このアンノーンは現代で言うところのこの文字に対応してて……という講座。
いくつか教えて貰ううちに、パールもアンノーンが、普段から知っているあの文字に見えてきたりで、法則性を感じてくる。
「じゃあ、もしかしてこれは……えっと……友達、って意味?」
「そうそう、ほら、読めたでしょ?
他のも読んでいこう。わかんない文字があったら僕が教えるよ」
遺跡の壁画を読む遊びで、パールとプラチナはまったり楽しむ。
教えて貰いながらなのでパールもすいすいとは読めないが、わかってきた法則性に沿って、ゆっくりと壁画文字の短文を読む。
時間はかかったが、全解読が出来た時のパールは、何だかパズルを解いたような達成感があったものだ。
「すべての、いのちは、べつのいのちとであい、なにかをうみだす……
昔の人が残した言葉、ってことなのかな」
「そうかもね。
わからないけど、説得力みたいなものは感じるよ」
パールはパッチをまず見てから、ボールに入った三人の友達を見て、次に目線を向けた先で、自分を見ていたプラチナと目が合う。
見つめ合うというよりも、お互い同じことを考えているのがわかり合えた気がして、パールもプラチナも小声で笑ってしまった。
ピョコと出会ったあの日から、パールの旅が始まった。
パッチと出会い、彼女が頑張ってくれたからこそ、初めてのジムバッジを手にすることが出来た。
ニルルとの出会いは、苦手なズバットがよくいるという洞窟を、今までよりもずっと歩きやすくしてくれた。
ミーナと出会ったパールは、ポケモンにだって心があり、捕まえたからって何でも思い通りになるわけじゃないという当たり前を改めて学ぶことが出来た。
そして、プラチナという彼に出会えて、一緒に旅をしていることで、きっと一人じゃここまで楽しくなかった遺跡を歩くのもこんなに楽しい。
旅にまつわる出会いだけでも、それがこんなにも自分の毎日を彩ってくれていることを、パールはつくづく思い出す。
湖で自分を助けてくれた、顔も名前も知らない人との出会いから、パールはいつか旅に出てその人に会いたいという夢を描いた。
幼い頃に初めて出会ったダイヤは、今でもどこで何をしているんだろうと思い馳せられる大切な親友だ。
初めて挑んだジムリーダーのヒョウタは、目指した夢への道のりが険しいことと、その一歩を刻めた達成感の両方を実感させてくれた。
ともにギンガ団に挑んだナタネの背中が見せてくれた、許すべからざる者達に胸を張って挑みし強い意志は今も忘れられない。
ここまでの旅だけでも、ここまで総括めいたものが出来る。
そして、この思い出を胸に、出会ってそばにいてくれるみんなと一緒に、まだ見ぬ明日がこれからも紡がれていく。
壁画の語るとおりだ。パールは別の命と出会った自らの命ある胸に、こんなにも明日へわくわくする感情を生み出して貰ったことを、実感せずにいられない。
過去も、今も、そして未来も、希望に溢れた日々の根底にあったものが、出会いと縁にあったというなら、パールはその言葉を疑うまい。
「私、プラッチに出会えてよかった!
みんなとの旅も楽しいけど、やっぱりプラッチがいてくれて楽しいよ!」
「……あははっ。
僕も、パールに出会えてよかったよ」
「私達、ずっと友達だよ! これからも、ずっと!」
両手でプラチナの手を握って笑うパールに、プラチナの頬が赤らんだのは、この薄暗さで幸いにもパールの目にはよくわからなかった。
プラチナは、きゅっと優しくパールの手を握り返すことで応え、もう片方の手で帽子を目深に引いて顔色を隠す。
照れた仕草だとしか認識できなかったパールは、その奥にあるプラチナの感情にこそ気付かなかったのが、それも結構なことだろう。
親愛感情を伝えたパールに、照れて快い返事を表してくれたプラチナの姿は、パールが幸せな想いを胸に抱くには充分なものだったのだから。
ズイの遺跡で長い時間を過ごしていたこともあり、二人が遺跡から出てきた頃には、町は夕時を過ぎ去って既に夜を迎えていた。
夜分の外歩きは良くないものだとわかっている二人、足早にポケモンセンターへ。
しかし、いけないことをしていると思っている時は、かえって楽しいものだ。叱る親もそばにはいない、子供達だけの世界。
急いで帰らなきゃ、と足早な割に、パールとプラチナはどこか楽しそう。
ふと顔を見合わせた時、お互い同じことを考えていそうだとわかってしまい、それが余計に二人を楽しくさせてくれる。
本当に、一人旅では得られない楽しみが、二人が出会って共に旅することによって、いくつも生まれているというものだ。
寝る前に、アンノーン文字をパールが教えて貰うというその時間も、こんな時間に一緒に語らっている、そのことが二人を何よりも楽しませた。
親しい者同士の話の種なんて、往々にして一緒にいられる楽しみのきっかけに過ぎないのだ。
この日は夜更かし。プラチナの泊まる部屋で、アンノーン文字のことばかりじゃなく、沢山のことを語り合った二人は、夜遅くにようやく別室に別れた。
時計を見て、流石にそろそろ寝なきゃ駄目だよね、と、名残惜しい顔をしてくれたパールの表情は、プラチナにとっては嬉しくもあり寂しくもあっただろう。
毎晩ナタネに電話していたパールが、今日はもう遅いしと、今宵はナタネに電話をしなかった。
電話番号を交換して以降、本当に毎晩電話をしていたパールがだ。今日は、パールとプラチナだけの一日だったのだ。
きっと今まで以上に、はっきりと、二人の心は近付いている。