トバリシティはシンオウ地方の中でも、近年異色の発展を遂げた街として知られている。
黎明期より地質の関係で、掘れど拓けど大きな岩がごろごろ出てくるトバリシティの真ん中には、"石に囲まれた街"という看板が今も立っている。
山林を切り拓いて町を作ろうとした過程でも、かつての技術では開墾の難しかった地層が多く、高低差の激しい街の全容にその名残が未だ在る。
発展を遂げた今でも、街の中心部から少しはずれれば、露出した岩肌をそのままにしている場所も多い。
その近くには、かつて落ちてきたという隕石と、その衝撃で生じたという大きな盆地がそのままに残され、ある種の名物として顕在だ。
天と地、共の石との関わりを今でも意識したトバリシティは、石に囲まれた街という謳いを未だ重んじる、シンオウ北東部の主要都市として名を馳せている。
シンオウ地方の一角に広く築かれたこの街、元より人口の多い都市としては名高かったが、ここ十年における発展模様は相当に著しい。
今やこの街の新たな売りとなった大きなトバリデパートや、シンオウ地方初の巨大ゲームコーナーも、ほんの数年前に出来た名物だ。
その後も大きな建物が次々に造られ、古くからこの街に住む大人達の中には、随分と空が狭くなったなと近年の変わりようを形容する人も多い。
シンオウ地方の都会といえば、西のコトブキか東のヨスガと言われたものだが、今やトバリもそれに加えて、シンオウ三大都会と呼ぶも良しとさえ語られる。
それほどまでには、ここ近年のトバリシティの発展ぶりは目覚ましく鮮烈であった、ということだ。
そうした形で近年名高いトバリシティだが、この街にはその急成長と関係深い、もう一つの大きな特徴がある。
雨でずぶ濡れになった体を、ポケモンセンターのシャワーで流してさっぱりし、夕時前の街へと繰り出した二人。
そんな二人が街にて目にしたものとは、それは何にも勝って衝撃的なものだ。
「と、トバリシティって山賊の村みたいなとこなの……?」
「それは言い過ぎだと思うけど……
でも、パールの言いたいことはわからなくもないね……」
道行く人々の中に、当たり前のように溶け込んでいる、シルバーボディスーツを纏った、緑色のおかっぱ頭の大人の男女。
パールとプラチナには忘れようの無い、ギンガ団の象徴的コスチュームだ。
谷間の発電所やハクタイシティ近隣での蛮行、二人にとっては悪党集団でしかないギンガ団の者達が、この街では天下の往来を堂々と闊歩している。
パールの言い草は極端だが、悪党としか見えない出で立ちの者が当然のように散見する光景は、決してずれた例えとも言えぬものだ。
「でも、思ってたより雰囲気柔らかいね……
街の人達とも普通に笑顔でお話してるし……」
「……だ、だまされないもん。
ギンガ団は、私やナタネさんを炎で焼こうとしたひどい奴が幹部の組織だもん。
みとめない」
「そ、そうだね……油断しちゃダメだ、いけないいけない」
しかし、歩み進む中で二人が見かけるこの街のギンガ団は、どうも二人が抱くギンガ団員のイメージとは違う。
団員同士で談笑している者達もいるが、街の人々と世間話に花を咲かせて笑い合う者もいれば、子供と遊んであげるギンガ団もいる。
お年寄りの荷物を持って並び歩く、目に見えていい人そうなギンガ団員の姿さえあるのだ。
あれ? みんないい人? ギンガ団員達を受け入れて、朗らかな表情で語らう街の人々の姿もまた、二人にいっそうそんな印象を抱かせる絵。
以前のことがあるため、信用なんかしないぞとパールは意地っぽく主張するが、逆に言えば理屈を付けないと、ギンガ団員達の姿は敵視に値するものではない。
強く抱いていたイメージとは真逆のギンガ団の姿に、トバリシティを進むパールとプラチナの困惑ぶりは相当なものだ。
それに、団員同士や街の人と語らうギンガ団員達の声が耳に入ってくる中で、もう一つ自分達が知るギンガ団のイメージと乖離した要素がある。
マーズやジュピターが率いていたギンガ団員は、皆どこか余所の国生まれを思わせる言葉遣いだったが、この街のギンガ団員達は普通に喋っている。
片言ではなく、自分達が当たり前のように話すのと同じだけ言葉も流暢だ。
自分達が知るイメージとはかけ離れたギンガ団員達の言動すべてが、二人を不思議の世界に迷い込んだかのような気分に陥らせている。
「……まあ、でも、いっか。
とにかく今はジムだっ! 着いた着いたっ!」
「詳しいことは、また後で調べてみることにしようか」
歩く中では困惑しきりの二人だったが、目的地を目の前にしたパールは、努めて雑念を振り払うかのように、胸の前でぱんぱんと二度手を鳴らして気分転換。
暗くなるまでの時間があまり残されていない中、今日のうちにパールが行っておきたかった場所だ。
ジムリーダーへのご挨拶と、泊まるポケモンセンターからここまでの道のりの確認を兼ね、トバリジムに到着である。
新しい街に辿り着いたら、物見も楽しみではあるのだが、やっぱりパールは何につけてもまずはジム。
根本的にはそれを目的とした旅なので、ある種のぶれなさをプラチナにも感じさせる。
「すいません。
ジムに挑戦に来たんですけど、ジムリーダーのスモモさんはいらっしゃいますか?」
「はい、いらっしゃい。
スモモは今、お客さんに対応しているところだよ。
そろそろ終わると思うから、もう少しだけ待っててね」
トバリジムに入ったパール達。
格闘ポケモンの使い手として知られるスモモのジムは、広大かつ木目敷き平坦な風景を表しており、さながら道場のような趣だ。
そこで空手道着に身を包む、さながら門下生のジム生達がポケモンバトルという形で腕を高め合っている。
もっとも、木目敷きと見えるデザインというだけで、それは単なる模様の平面床なのだが。
ここでジムへの挑戦者を、門下生がまず迎え撃つのである。本当の木目敷きだったら、炎ポケモンが戦っただけで焦げ焦げに。
そのたび床を張り替えるなんてしていたら、ジムの経営の方が火の車。
というわけで、土足で入っていいらしい。門下生の皆様はみんな空手王コスチュームで裸足だが、挑戦者側は気にしなくてよい。
トバリのジムの受け付けはお婆さんだ。
入ってすぐの所に番台のようなものが電話ボックスのように作られていて、そこから訪問者にお婆さんが対応する。
木目敷きの雰囲気に合わせて番台なのだろうか。何かがヘンなトバリジム。
「パール、落ち着いてるね。
ジム挑戦も慣れてきた?」
「え、そう見える? けっこう緊張してるよ?」
「今までのパールだったら、すいませーん、って子供っぽい挨拶してたと思う」
「あぁ、そういう……まって、プラッチもしかして私のこといじってる?」
「いや別に」
「こら、人の目を見て話しなさい。
返答によっては罰する」
「場合によっては何の刑?」
「死刑」
「こわっ」
すごく機嫌を悪くした目をしたパールに詰め寄られ、プラチナは余裕のある目の逸らし方でたじろいでみせる。
逃げるなと手を伸ばして捕まえようとするパールだが、その手をプラチナは捕まえてそれ以上の接近を許さない。
プラチナが右手で掴んでいるのはパールの左手首だが、左手はパールと掌を合わせて指の間が噛み合う掴み合いの絵図。
片手だけ恋人繋ぎ状態なのだが、特に意に介さず、ぷんすこパールといなすプラチナの絡み合いは、たいそう仲良く親しくなった二人の間柄を顕していた。
「うふふ、二人とも仲が良いんだねぇ。
ほら、スモモが来たよ。ちょうど応接も終わったみたいだね」
「あっ、やった、あんまり待たなかった。
プラッチ、おぼえてろ。絶対そのうち蒸し返してやる」
「そんな根に持つアピール初めて聞いた」
キッ、と覇気不足の眼でプラチナを威嚇するパールは、迫力の欠片もない捨て台詞を吐いてジム奥の扉から出てきたスモモに目を向ける。
結局のところ、性根では結局のところ喧嘩や争いごとを嫌う子はこんなものだ。威嚇の才能ゼロ。
"おっとりした性格"ながら、バトルとなれば闘志を燃やして"いかく"を放てるパッチのようにはいかないものである。
「…………えっ、あれ?
あの人って、もしかして……」
「え、うそ!?
お客さんって、そういう……!?」
応接していたという客人とともに、ジムリーダーのスモモと思しき人物が、ジム奥の部屋から姿を見せた。
パールもプラチナもスモモの顔を見るのは初めてだが、消去法でどちらがスモモなのかはわかった。
ジムリーダーと客人、二人の人物が姿を見せた中で、片方があまりにも有名で名高い人物であり、一目でそれが誰なのかパール達にもすぐわかったからだ。
パールと同じ年頃と見える裸足の女の子が、噂の天才格闘少女スモモなのだろう。
黒衣に身を包むもう一人は、パールもプラチナもテレビで何度か見た偉人。
現在の、シンオウリーグチャンピオンである"シロナ"の顔を知らないポケモントレーナーは、シンオウ地方にそうそういない。
「……あら?
スモモ、あの子達ってもしかして挑戦者なんじゃない?」
「あっ……!
すいません、シロナさん! 急いでお仕事に戻ります!」
「ふふ、いいわよ、そんなに気にしてくれなくても」
スモモと思しき女の子は、シロナに手短に一礼すると、受付の前に立っているパール達に駆け寄ってくる。
小走りなのは姿勢を見てわかるのだが、それでも駆け寄ってくる速度が速くてパールはちょっとどぎまぎ。
トレーナーの身体能力が高そうなジムリーダーである。
「すみません、挑戦者の方ですか?」
「あっ、はい……」
「お待たせしたようですね、お詫び致します。
あたし、トバリジムのジムリーダーを仰せ仕る"スモモ"と申します。
以後、お見知りおきを」
「え、えぇぇと……パールともうし、ます?
よろしくお願い、致しますで、す」
パールを前に立ち止まったスモモは、拳と掌を合わせてぴんとした背筋を曲げ、立ち姿勢のまま毅然としたお辞儀を見せる。
どう見ても年が近いのに、しっかりとしたご挨拶を見せるスモモである。
パールとプラチナの立ち位置を見て、挑戦者はパールの方だと見切った目も、本質を見抜く目としては優秀だ。
パールもそれに従って、自分も厳かな言葉でご挨拶しようとするが、慣れないことはするものじゃない。
使い慣れない言葉を使おうとして、しばしば言葉が詰まる始末。プラチナ目線ではなんだか可笑しい。
「……どうしましょう。
本来ならば、ジム生の皆様と勝負して頂いて、それからあたしへの挑戦という流れなのですが。
お待たせしてしまったようですし、お詫びの意味も込めてさっそく……」
「こらこらこら、スモモ?
挑戦者は挑戦者であって"お客様"ではないのよ?
あなたはいつものように、普段通りに、ジムリーダーとして勝負を受けなきゃ」
前のめりな話の流れを作ろうとするスモモをシロナが窘める。
トバリジムも多くのジムと同様に、挑戦者はジム生数人とバトルして実力を証明してから、ジムリーダーに挑む運びとなるはず。
待たせてしまって申し訳ないからと、過程を省いてお受けしますというスモモの配慮、ちょっとお客さんに対して甘すぎである。
「う……そ、そうですね。
いけないいけない、しっかりしなきゃ……」
「ごめんなさいね?
すぐジムリーダーに挑めそうな流れだったところ、邪魔しちゃって」
「あ~、いえ、それは別に……
し、シロナさんですよね? 本物ですか?」
「ふふふ、どうかしら?
最近あたしのニセモノさん、多くなってるみたいだからね」
「あーっ、わかるわかる!
子供向けのシロナさんコスチュームが最近売られるようになったから、シロナさんごっこしてる子が結構いるんですよね!」
「チャンピオンになるとそういうこともあるのよ……
正直、あたしとしては見かけるたびに気恥ずかしいんだけど……」
ふいっと目を逸らしたシロナ、正直あれは勘弁して欲しいなという苦笑い。
黒い服のシロナだが、これは世間的にも、彼女が公の舞台でポケモンバトルをする時にいつも着る"勝負服"として定着している。
若くて綺麗で格好いいチャンピオンのシロナ、彼女の勝負服と同じものを売ったら当たるんじゃないか? と企画した会社は結構儲かっているらしい。
チャンピオンごっこする女の子はシンオウ地方にもそれなりに多く、バトルはさておき大人の女性シロナの真似っこをして遊ぶだけの女の子だっている。
結果的に、バトルに興味のなかった女の子がその世界に入っていくきっかけになったりもするようで、裾野の拡大にも一役買う形になっているようだ。
パールもこの手の流行には敏感なので、シロナの言う"ニセモノ"の意味を、このようにすぐ察している。
「えーと、えーと、握手して貰えませんか?」
「ええ、あたしでよければ」
「あはははっ、すごいすごいプラッチ!
私いまチャンピオンさんと握手してるよ!
私もうこの手、寝る前まで洗わないかも!」
「そういう時は、嘘でも一生洗わないっていうところじゃないの?」
不潔っぽいことは冗談でもあんまり言いたがらないらしい。
案外こういうところで、敏感に人目を気にするパールである。
チャンピオンの前だから? どちらかと言えば、一緒にいる時間が長く、今後も一緒の時間を過ごすプラチナの前という側面が強そうだが。
「あなたがパールなのね。
ナタネから聞いてるわ、すっごく将来有望なトレーナーさんらしいわね」
「え~、そんなことないですよぉ。
私のポケモン確かにすごく頼もしくって強い子達ですけど」
「あなたがプラ……プラッチ君ね?
正義感の強い子だって、ナタネからも聞いてるわ」
「プラッチ……え~、あ~、はい、プラッチです。
よ、よろしくお願いします」
大好きなナタネさんが、自分のことをそんな風に人に話してくれているのが嬉しくて、てれてれ凄く嬉しそうなパール。
一方、恐らくナタネからプラチナの本名を聞いているはずであろうに、意味深な笑顔でプラッチ呼びしてくるシロナにプラチナはたじろぐ。
大人の女性陣二人でからかってきている。未だにパールに本名を教えていないこと、そのきっかけを察されているふしさえある。
初対面から茶目っ気を見せてくるシロナに、渇いた笑いでご挨拶するプラチナ、本当いつパールに本名を教えるきっかけを作ろうかと迷走中。
「スモモ。
あなたと年の近い挑戦者だけど、この子けっこう強いわよ?
あなたも負けられないでしょうし、全力で迎え撃ってあげましょうね」
「はいっ、勿論です」
自分ばかり喋っていても仕方ないので、シロナはスモモに話を振って、二歩退がった立ち位置を作ってそう表明する。
代わってスモモがパールの前で、改めて拳と掌を合わせて会釈気味に頭を下げる。
「パールさん、ですね。
ジムバッジはいくつですか?」
「2つです」
「えぇと……では、ジム生四人と勝負して、いずれにも勝てれば奥のバトルフィールドに来て下さい。
今日それを達成して、一度休んでからの明日の挑戦でもいいですので。
あたしはいつでも、あなたの挑戦を受け付けます」
「あっ、はいっ……!
必ず達成して挑戦します! よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ジムリーダー挑戦までの流れを説明してくれるスモモだが、少々ぎこちない面も垣間見える。
彼女はジムリーダーになってからの日が浅い方だ。
堂々挑戦者を迎え撃って来たヒョウタやナタネと違い、年の近いパール相手でも少し緊張が顔に表れている。
一方、それでもお辞儀や一礼の仕草は身に沁みついて柔らかいので、普段から礼儀正しい彼女の気質もまた挙動に表れていると見えよう。
「あら、スモモ?
挑戦者とジム生のバトル、見ていかないの?」
「あたしだけがパールさんの手の内を先に見るのはフェアじゃありませんから。
パールさん、お気兼ねなく全力で戦い抜いて下さいね」
「おおぅ……スモモさん、なんかかっこいい」
挨拶を済ませるとジムの奥へと帰っていこうとするスモモに、シロナが問いかけたところの返答がこれだった。
元々ジムリーダーの方が、自分の使うポケモンのタイプと傾向を把握されているので、挑戦者の手の内ぐらいあらかじめ見ても不公平ではないのだが。
迎え撃つ側として、それは敢えてしないというスモモったら漢らしいものである。女の子なのだが。
「それじゃ、あたしは見てから帰ろうかな。
ナタネが言ってた強い子、どんな戦い方をするのかしら?」
「えっ、ちょっ、あ、あんまり見て欲しくないような……
私、指示とかヘタだし……チャンピオンさんに見られたら笑われちゃうかも……」
「笑ったりなんかしないわよ、あたしだってあなたと年が同じだった頃は指示だって下手だったわ。
さ、見せて見せて。頑張ってね!」
パールは自覚があるぐらい、自分のポケモンの自己判断に助けられて勝ってきたタイプなので、トレーナーとしての自分の手腕には自信を持っていない。
ポケモンバトルの第一人者の前で、そんな自分の戦いぶりを見られるというのは少々恥ずかしく感じちゃう。
いいからいいから、とパールの背中を言葉で押すシロナに、パールは人目気にしまくりのちらちら振り返りぶりで、ジムの門下生の前に立つ。
「おおっ、挑戦者だな!!
俺達カラテ4兄弟!! 押忍!!」
「お、おすっ!
声おっきいですね! よろしくお願いします!」
気合の入ったジム生の皆様方である。パールもびくっとしながらも、自分も大きめの声を出して返答だ。
面白いことに、がたいも良く年上の男性らが大声を出してくる割には、そんなに怖いと感じさせてはこない。
強そうだけど暴力的な人には見えないのだ。健全たる心身の精進を志した格闘家として良い姿である。
「行くぞっ! ワンリキー!」
「ええっと……!
よしっ、ニルル! 任せるよ!」
ちょっと呑まれそうになりかけながらも、パールはポケモンをボールから喚び出してバトルスタート。
始まってしまえばパールも集中する。チャンピオンさんに見られて恥ずかしいような、という気持ちも今は頭の隅にどけて。
流石にもうポケモントレーナーだ。バトルとなれば頭の切り替えも早い。
「シロナさん、こないだハクタイシティにもいましたよね。
色んな街を回ってるみたいですけど、やっぱりチャンピオンさんって忙しいんですか?」
「まあ最近は、ちょっとね。
あたしは家でゆっくりして、考古学の資料を眺めていたいんだけどな」
パールが戦う姿を眺めながら、プラチナはシロナとの会話を繋いでおく。
なんだか最近忙しいらしいチャンピオンさん、現状を憂い気味。
気乗りしない忙しさに追われているようだ。それはプラチナの目にも、なんとなく伝わった。
パールの方は、このジム生にそつなく勝ったあと、その後三人のジム生とも連戦し、破竹の勢いさながらにジムリーダーへの挑戦権を獲得を果たす。
ジム生の皆さんも、バッジ2つのトレーナー相手のポケモンを使うので、そんなに滅茶苦茶レベルの高いポケモンは使ってこない。あくまで試験みたいなもの。
順調に勝ち進めたパールは、スモモに挑む資格ありと認められ、奥のバトルフィールドで待つスモモの元へ赴いてご挨拶だ。
瞑想していたスモモだったが、意識を深いところに沈めるより早く、思ったよりも早く挑戦権を獲得したパールに少し驚きの表情を見せていた。
同時にスモモも、パールを強い挑戦者だと認識したようである。
全力の戦いを望むお互い同士、勝負はゆっくり休んでからの明日と決め、パールはジムを後にした。
大きな戦いに向けてふつふつと胸を熱くする想いを抱え、今宵は一夜を過ごすことになる。
3つ目のジム挑戦。何度経験しても、まだまだこの胸の高鳴りにパールは慣れていけそうになさそうだ。
「すいませんシロナさん、送ってもらっちゃって」
「いいのよ、子供だけで暗い時間をうろうろするのも良くないしね。
無視してあたしだけ帰るのもなんだか冷たいじゃない」
トバリジムからポケモンセンターに帰るパールとプラチナだが、シロナもポケモンセンターまでついてきてくれる運びとなっていた。
時は夕深く、夜の一歩手前。西日も沈んだ頃合いだ。
まだ空は暗く染まりきっていないが、これも何かの縁とばかりに、心配してついてきてくれるシロナである。
「ゲームコーナーが出来てから、そこでお金全部すっちゃう人とかもいてね。
お金欲しさに悪いことする人もいて、ちょっとトバリシティでは問題になったりもしてるのよ。
人の街をあまり悪く言うべきじゃないけど、治安のいい街だってあんまり言える状態じゃないからね」
「あわわ、私達が夜に子供だけでうろうろしてたら危ないやつだ。
……山賊の街」
「パールそのフレーズ気に入ったりでもしてるの?」
「さっきは冗談だったけど、今度はもっとしっくりきちゃう感じだからもっかい使ってみた」
「あんまり大きな声で言っちゃ駄目よ?
悪いことなんかせずに普通に過ごしてる人が大半なんだから、そういう人達にそういう言葉を聞かれたら悲しい想いをさせてしまうからね」
パールもわかってはいるようで、山賊の街という単語はひそっとした声で使っている。
身内間だけの冗談で済ませておくべき言葉の使い方なので。
街の人に聞かせたらいい想いはさせないだろう、という配慮はパールも出来るようだ。
「……治安で思い出しましたけど、この街ってギンガ団が普通に闊歩してるんですね。
これ、街の人達は大丈夫なんですか……?」
「プラッチがムズかしい単語を普通に使っている」
「え、闊歩のこと? 普通に使わない?」
「いや~、どうだろ……」
「あなた達、ナタネと一緒にハクタイシティのギンガ団に挑んだんだっけ。
そうねぇ……あなた達なら、ギンガ団にはとりわけ不信感を抱いていても不思議じゃないわ。
……まああたしも正直なところ、不審視はしてるけどね」
シロナも、ギンガ団を不審視しているという主張を、やや小声でパール達に伝えている。
これもあまり周りに聞かせたくない言葉なのだろう。周囲に気を遣っている。
そして気を遣う程度には、この街においてのギンガ団というものは、中傷されて構わないといった類の集団ではないということ。
谷間の発電所やハクタイ周辺でのギンガ団の蛮行を知るパール達にしてみれば、気を遣う必要の相手に感じられなくて当然なほどなのだが。
「あなた達、二人ともシンオウ西の生まれ育ち?」
「はい」
「僕もあんまりこっち側には来たことないですね」
「じゃあ、知らないのも仕方ないわ。
トバリシティにおけるギンガ団って、きっとあなた達が思うギンガ団のイメージとは少し違うのよ。
この街の発展にも根深く関わってる組織で――」
テンガン山を境とした、シンオウ西部で過ごしていると、シンオウ東部のトバリシティのことには詳しくなりにくい。
パールとプラチナには知る由もなかったトバリシティの事情というものを、シロナが少しずつ紐解いて話してくれる。
二人にとっては単なる悪の組織だという認識でしかなかったギンガ団だが、どうやら話はそう単純ではないらしい。
納得いく部分にもいかぬ部分にも分かれる内容だったが、シンオウ西部育ちのパール達にとっては、なかなか新鮮な話だった。