ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第36話   トバリシティとギンガ団

 

 ギンガ団という名が社会に初めて姿を現したのは、ここトバリシティである。

 

 ちょうど十年前、今ほど都会的ではなかったトバリシティだが、元々トバリシティはシンオウ北東部に位置する広い街だ。

 近年の人口の増加に伴って、華々しいヨスガシティに負けないぐらい、開発を進めて都会化させていこうという話が持ち上がった。

 競いたがったと言うよりは、郷土愛溢れる人々の、俺達の街をもっといい街にしようぜという純粋な想いが強かった企画である。

 元より山の中に切り拓かれたトバリシティ、少し開拓を進めて街を少々広めて、じっくりと都市化計画は進められていた。

 

 そんな折、七年前のことだ。

 有志を引き連れた"ギンガ団"を名乗る若者が、トバリシティの発展計画に荷担したいと申し出た。

 突然の余所者の申し出だったが、後にギンガ団の"オーナー"として名を馳せるこの若者は非常に礼儀正しく、トバリシティの人々にすぐ受け入れられた。

 人当たりの良い若者に、私達の町おこしに協力してくれるならありがたい、と、トバリシティにギンガ団が居着く形となる。

 結果的にギンガ団を受け入れたことは、この後トバリシティに只ならぬほどの影響を与えたと言っていい。

 

 ギンガ団は"銀河エネルギー"と謳う絶大なエネルギーを組織の売りとし、それをトバリシティの開発事業に惜しみなく提供した。

 スケールの大きい単語を用いているが、実質その単語が意味するところは、簡単に言えば"すごい膨大なエネルギー"とでも考えて差し支えない。

 本当に宇宙から降り注ぐエネルギーを享受して人々の生活に、というわけではないらしい。単に、ギンガ団の持つ力をアピールするための造語だそうで。

 しかしゆくゆくは、広大なる宇宙からエネルギーを得られるほどの技術を得られれば、という目標も暗には抱えているそうな。

 企業秘密めいたもので、どのようにしてそんなエネルギーを生み出しているかは非公開だが、実際ギンガ団の提供するエネルギーは凄かった。

 始めは小さなビルを間借りして活動していたギンガ団だが、その時点で発電所一つに相当するほどの膨大なエネルギーを都市開発に提供しているのだ。

 これにはトバリシティの開発部も目をひん剥いて驚き、ギンガ団の成果に適正な報酬を支払うことも厭わなくなる。

 活躍目覚ましいギンガ団への適正な報酬とは、言ってしまえばかなりの大金だ。それが惜しまれぬほど、ギンガ団の活躍がもたらしたものは大きかった。

 

 発足二年目にして、現在も街の北部にそびえ立つ巨大なビルを擁するようになったギンガ団。

 施設が充実すれば、元より著しかったギンガ団によるトバリシティへの発展支援も急加速する。

 現在トバリシティの名物である、巨大デパートやゲームコーナーの設立もその少し後だ。

 まさしくギンガ団の活躍あってこそ、そうした街の売りになるほどの近代的施設が完成に至ったと言っても過言ではない。

 設立から数年経ち、今や"ギンガビル"と呼ばれて定着するその総本山は、ビル一本で発電所5つとガス会社3つに匹敵するほどだとさえ囁かれる。

 決して大袈裟ではない。この程度の規模の建物で、それほどまでに人間社会への高い貢献度を為す組織は、世界広しと言えどもそう多くない。

 十年かけての都市開発は今、ちょうど山をいくつか越えたところで落ち着いているが、未だギンガ団がこの街のエネルギーを提供し、人々の生活を豊かに保つ。

 発展に伴って、各施設の維持に必要なエネルギーも常にそれなりなので、今は新開発に着手する時期ではないとされる。

 言い換えればギンガ団は、今や発展を遂げたこの街の基盤を根底から支える、そんな組織でさえあるということだ。

 

 急発展したトバリシティだが、古くから刻まれてきた歴史、石に囲まれた街というイメージも決して壊れてはいない。

 アスファルトの道路も増えたが、所々に露出した、山林を拓いて町が作られた過程を思わせる石は随所に残されている。

 十年前と随分景色の変わったトバリシティでありながら、ギンガ団がもたらした急発展に、過去を惜しむ意味で不満を唱える者は皆無である。

 トバリシティにおけるギンガ団とは、ただただこの街をより良き街にするため尽力してくれた人達に他ならないのだ。

 街の人々がギンガ団員に親しみを持って接するのは、そうした背景があってのことである。

 トバリシティに鎮座するギンガビルだが、街の人々に"ギンガトバリビル"とは呼ばれない。

 トバリシティの人々にとって、ギンガビルという単語でイメージするのは、この街にそびえ立つあの総本山の他には無いのである。

 たとえ他の街にギンガビルが建ったとて、私達にとってのギンガビルはあれだけだ、と、トバリの人々が主張するほどには、ギンガ団は愛されているのである。

 

 

 

 ゆえにこそ、先日テンガン山の向こう側で、ギンガ団を名乗る者達が蛮行をはたらいたことは、トバリシティの人々には衝撃的ですらあった。

 街の英雄が犯罪組織めいたことをしていたかのような報道だ。耳を疑った者も多い。

 当然、社会のギンガ団への追及も強く、今では人前に顔を出すことの少なくなったギンガ団の"オーナー"も、記者会見に出席する事態となった。

 今となっては大企業とでも言える存在となったトバリのギンガ団、オーナーというのは社長のようなものだと考えてよい。

 

 オーナーの主張は一貫して、我々ギンガ団はテンガン山の向こうには一切関与していない、というものだった。

 つまり、谷間の発電所やハクタイシティ近辺で暴れていた、ギンガ団を名乗っていただけの集団は、自分達とは無関係という主張である。

 これに対する世間の反応には、当然厳しい声も多い。

 特にギンガ団に実害を受けたハクタイシティやソノオタウンは良い感情を抱いておらず、差し向けた刺客を知らんぷりして尻尾切りしただけとしか見えまい。

 現にパールとプラチナも、シロナにこの話を聞かされた時は、そんな言い逃れが通用するんですかという顔を隠せなかった。

 

 しかし、ある程度は主張に理屈は通っているのだ。

 ハクタイシティに建てられた、ギンガ団の根城とされたビルは、そもそも三年だか前に造られたビル。

 確かに大きくなった企業が他地方に進出する例は世に多くあるが、ハクタイシティはギンガ団が、トバリの外へ事業拡大を目指す最初の地としてそぐわない。

 テンガン山を越えずに至れる、カンナギタウンやヨスガシティやノモセシティが、トバリシティからはより近い場所にある。

 あまり開発を進めていないカンナギタウン、あるいは都会のヨスガシティと、企業拡大に赴くならまずそちらであろう。

 ハクタイシティをシンオウ西部側の新拠点とするにしても、だったらより都会的なコトブキシティや、炭坑と競合できるクロガネシティの方がより現実的だ。

 ハクタイシティに鎮座していたビルが、我々の手で作られたものではないという主張には充分な説得力がある。

 

 それに、ギンガ団の幹部を名乗ったマーズとジュピターが引き連れていた構成員。

 みな逮捕されたのだが、いくら取り調べてもトバリのギンガ団に結び付く情報が全く無い。

 言っちゃなんだが、逮捕されたギンガ団員の皆様、あまり頭はよろしくなさそうである。

 組織の関与を悟られぬよう上手く凌いでいる、という感じはしない。逮捕された数十人、全員にそれが出来る能力は無さそう。

 ギンガ団の活動の目的を問い質しても、ろくな回答が出てこないところを見ると、恐らく上手く誤魔化しているのではなく本当に知らされていないと見える。

 結論としては、マーズとジュピターというあの幹部格が、独自に集めた寄せ集めの集団というところなのだろう。これは恐らく真実と思われる。

 つまりマーズとジュピターが、トバリに拠点を構えるギンガ団という組織と繋がりがあるのか、そこが最大の争点となる。

 肝心の二人が逃亡中なので、ここをはっきりさせられないのだ。

 事件性ありとして法の手がギンガ団に及ぶには、決定的なものがない。

 

 真実が確定していない以上、オーナー側の主張も決して苦しい言い逃れだと断ずることは出来ず、公には捜査中という形で話は続いている。

 もしもオーナー側の言い分が本当ならば、ギンガ団はならず者の自称によって風評被害をこうむった被害者だ。

 不確かな現状、公の声でトバリのギンガ団本陣を糾弾することは得策ではなく、現状では草の根レベルで議論が交わされる程度に留まっている。

 スキャンダルを好む人々の間では、そんなこと言って実は裏で糸を引いてるんでしょ、という声も立つし、トバリの人々はギンガ団の肩を持ちたい。

 よりはっきりとした情報が出回るまでは、この事件はここまでというところである。

 ギンガ団に悪いイメージは少しついてしまったが、組織の地盤が揺らぐほどの批難が常に寄せられているわけでもないのが実状だそうだ。

 

 これが、シロナが二人に聞かせてくれた話である。

 

「え~、なんか納得したくないなぁ……

 まあ、本当に無関係だったらトバリのギンガ団さんも被害者だし、あんまり今の時点じゃ言えないけど……」

「ハクタイは進出先じゃないっていう主張もどうなんだろうね。

 そう主張できるような場所に着手したから言い逃れられてるのかもしれないし。

 だからこそハクタイを悪行の拠点にしたのかもしれないよ」

「名探偵プラッチ」

「いや、わかんないよ?

 僕も今けっこう思い付きで喋ってるし」

 

「真相はわからないからね。思うだけなら自由だから。

 でも、あんまり大きな声で悪い推理を口にしちゃ駄目よ?

 トバリの人達はギンガ団のことが好きだし、邪推を聞かされて面白くはないでしょうからね」

 

 どうしても、ギンガ団に苛烈な迎え撃ちを受けたパールとプラチナは、ギンガ団へのイメージがそう簡単には覆らない。

 風評被害を受けているのなら気の毒だし、逆に裏で繋がっているなら、本当に腹黒い悪の組織そのもの。

 わからない、ってやきもきする。思い付きなれど推測を述べる程度には頭の回っているプラチナはまだましだが、パールなんて珍しく腕組みして歩いている。

 かしげた首、釈然としない口元、憎むべきものを見失った眼、憤慨すべきか哀れむべきかもわからず悩み沈む目尻。

 感情豊かな彼女の複雑な想いが、顔に出やすい子なので全部混ざって表情に出るらしい。

 恐らく今後、今と全く同じ顔をすることもそうそう無さそうで、作ろうとして作ることさえ難しそう。それぐらい、雑多に感情が混ざり過ぎ。

 

「シロナさんが最近忙しいのって、もしかしてギンガ団の関係で?」

「えぇ、実はそう。

 本当のところを調べたくて、今はシンオウ地方を渡り歩いてるの」

「チャンピオンさんって、そういう警察みたいなこともしてるんですか?」

「いや、別にそういうわけじゃないわ。

 あたしが個人的に気になってね……まあ、色々あるのよ」

 

 有数の実力者であるチャンピオンは、手腕を頼られ本業とは違う仕事を頼まれることも少なくはない。

 しかし流石に、ギンガ団の真相を明かすために動いてくれだとか、そんなことを依頼されているわけではないようだ。

 ほんの少しの何かをはぐらかすような目の動きをされたが、どうやら彼女は彼女自身の意志でこの事件の真相を追っている。

 

 プラチナ目線では首をかしげる想いも新たに沸くところだ。

 トバリジムでシロナは、本当は家でゆっくりと考古学の資料を眺めていたい、とも言っていた。

 やりたいことが他にあるのに、誰にも強いられていないシンオウ巡りを今やっている。

 そこにあるのは使命感なのか、あるいは義務感なのか、どういった想いで趣味を諦めて旅に出ているのか、少し気になるが尋ねにくくもなる。

 語らず伏せたかのような態度を見てしまうと踏み込みづらい。プラチナにだって、人に話したくないことの一つや二つはあるので。本名は早く明かしたいが。

 

「それより二人とも、ナタネと一緒にギンガ団に挑んだんだって?」

 

「あっ、これ怒られる流れだ」

「怒られそうだね」

 

「はぁ……まあ、わかってるならそこまでは言わないけどね。

 聞けばギンガ団の幹部を名乗るジュピターって、ナタネと渡り合うほどの実力者なんでしょう?

 そんな奴がいる敵、まして人に向けて火を放つような非道な相手に、あなた達が挑むなんて本当に危険なことよ?

 あなた達が思ってる以上に、ナタネだって強いんだから」

「見てました、見てましたよ~。

 ナタネさん格好よかったですよ~、守って貰えたあの時のこと、思い出すだけで痺れちゃう」

「あたしに時々勝つぐらい強いトレーナーだって知ってる?」

「えっ!? そんなに!?

 シロナさんチャンピオンでしょ!?」

「公式戦ではまだ負けたことないけどね。

 正直、負けるたびにすっごい悔しいの」

 

 そんなに凄いの!? と、そんな相手と毎夜電話している自分にもびっくりなパール。

 ナタネが、というよりも、本気を出した一部のジムリーダーはそれだけ強いという話である。

 ジムバッジを8つ集めてから、ジムリーダーに本気の手合わせを望んでみればいい。どこの皆さんもびっくりするぐらい強い。

 バッジを集めきったトレーナーというのは、これで僕も私もトップトレーナーの仲間入りだと、一旦そこで大きな達成感を得られるものなのだが。

 一度勝ったことのあるジムリーダーに、軽い気持ちでお手合わせを望み、こてんぱんに負かされて鼻っ柱を折られるケースは結構多いらしい。

 

「チャンピオンだからって私も絶対無敗じゃないからね。

 公式戦では負けてない、ってだけよ」

「本番に強いタイプなんですね」

「ふふ、そう言うと聞こえがいいわね。そこはあたしも自慢できるかも」

 

 最強のトレーナー=負けない、というイメージは抱かれがちなものだが、現実のところは案外そうでもない。

 この試合で負けたらチャンピオン交代、という試合で負けていないから未だチャンピオン、というだけだ。

 立場上、メディア出演も多く、腕利きトレーナーとのバトルを求められることも多いので、案外彼女も非公式の草の根バトルはそれなりの頻度でやっている。

 そんじょそこらの相手に負けるシロナではないが、相手が四天王やジムリーダーだったりすると、勝敗はどちらに転ぶか全くわからないらしい。

 高頻度ではないが、シロナも絶対的な王者という世間的認識に比べれば負けることは意外と多く、勿論その時もちゃんとシロナは全力で戦っている。

 良き友人であるナタネに負けた時なんかは、かえって特段悔しいそうな。

 

「でもあたしだって、そんな強い悪者と対峙したら、必ずしも制圧できるとは限らないぐらいよ?

 あなた達も、無茶に挑むのは程々にね。心配してくれる人、いるんだから。

 特にパール、あなたがもしも二度と話せないようになっちゃったりしたら、ナタネなんて絶対に大泣きさせちゃうのよ?」

「うぅ、そういうとこ突かれるときつい」

「わかった?

 大人に任せて、危ないことはしないように我慢するのも大事よ。

 あなた達と同じように正義を信じる、そんな大人達の中にもきっと、あなた達が信頼に値する人はいるはずなんだから」

 

 冷たく解釈すれば、子供がこんな問題に首を突っ込むなともとれる。

 最大限、そうは聞こえにくいよう言葉を重ねているのは、パール達の意志も汲んでくれているのだろう。

 ギンガ団に無謀にも挑んだパール達を肯定するのは難しいが、その気持ちまでは否定したくない彼女の感情が多少なりとも滲み出ている。

 

「ちょうど着いたわね。

 さっきも言ったけど、トバリシティで夜にうろうろしちゃ駄目よ?

 これに関しては、トバリの良識的な大人の人だって同じことを言うからさ」

「この街に住んでてこの街が好きな人でもそう言う、ってことですもんね」

「気を付けます!

 シロナさん、送ってくれてありがとうございました!」

「ふふ、よろしい。

 それじゃあ二人とも、元気でね」

 

 ポケモンセンターに到着し、シロナはパールとプラチナに手を振って去って行った。

 彼女は予約してあるホテルがあるそうだ。流石はチャンピオン、きっとVIP待遇とかされたりするんだろうな、なんて二人も勝手に想像してしまう。

 

「パール、実はシロナさんと電話番号交換したかったんじゃないの?」

「いや~、流石に私もあれほどの人に自分からそんなの言えないよ……

 ナタネさんとの交換だって、向こうが言ってくれなきゃムリだったよ絶対」

「流石にパールも、いきなりそこまで出来るほどじゃないか」

「プラッチ私のこと何だと思ってるの?」

「いや、誰にでも、初対面の人にでも普通に話しかけられるパールは凄いな、とは普段から思ってるんだけどね」

 

 今日はチャンピオンさんとお話ししちゃった。二人ともどことなく意気揚々。

 明日はトバリのジムリーダーとの勝負を控え、寝る前にでもなれば緊張感が蘇って、寝付けない夜になるだろう。

 しかし、まだ夜も浅いこの辺りの時間帯、それを忘れてうきうきと過ごせたのは、パールにとって幸せなことである。

 大一番を前に緊張するのも悪くない。でも、そんな時間が長すぎても息苦しいので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。

 来て下さいましたね、パールさん」

「おはようございます。

 スモモさん、今日はよろしくお願いします」

 

 翌朝、トバリジムを訪れたパールとプラチナ。

 ジム奥のバトルフィールドは昨日も覗いたが、戦前視察要らずの障害物ゼロフィールドだ。

 

 特殊素材の床に木目の模様が描かれていた、ジム生達と戦ったエリアと異なり、こちらは本当の畳敷きだ。

 いわく畳に見えて特殊素材を用いたものらしく、火にも氷にも汚れにさえも強く、激しくバトルしても損傷せず、毒が沁みても掃除はしやすいらしい。

 地面に関わる技で穴が空くことがあっても、時間をかければ修繕も容易だそうだ。不思議素材の畳に似た何かだと考えるべきだろう。

 一方で、掌で触れてみればわかるとおり、手触りは殆ど本物の畳と変わりなかったりもする。

 障害物一つ無い、畳敷き平面の非常に広大なバトルフィールドは、格闘ポケモン使いのジムリーダーに挑む者達に、さながら道場破り感覚を味わわせてくれる。

 

 加えて言うなら、クロガネやハクタイのジムなどに見られる、トレーナーが立つ高台が無いのも特徴の一つか。

 トレーナーが立つ場所は、四畳半ぶんの朱染め畳の上であり、戦うポケモン達と目線の高さは一緒である。

 少し高い所から戦況を俯瞰的に見ることが出来た今までのジムとは、そういう点でも少々勝手が違う。この違いは大きいか否か、それは挑戦者次第。

 

「あれ?

 パールさん、脱がなくてもいいんですよ?」

「えへへ、雰囲気重視です。

 スモモさんも裸足ですし、畳ですし、私もせっかくなので」

「ふふっ、そうですか。

 お楽しみ頂けているならそれで結構ですよ」

 

 さて、畳敷きの広大なバトルフィールドだが、靴で上がっていい場所だ。

 ポケモン達も土足で戦う場所なのだから、雨の日に濡れた靴の裏で上がって汚したとしてさえ、たいした問題じゃない。

 しかしパールは、畳のフィールドに上がる前から既に靴を、靴下までも脱いで裸足である。

 足の裏で畳に似た感触を味わいながら、バトルフィールドに踏み込んでいく。

 

 一度、フィールドの真ん中でスモモと対面する位置に立ち、お手合わせ前の改めてのご挨拶とばかりにスモモがお辞儀。

 拳と掌を合わせて一礼するスモモを真似して、ぎこちないながらも同じ仕草を返すパールである。

 ジムリーダーとして毅然の顔を装うスモモも、単なるお遊びだけでなく、礼を応じようとしてくれるパールに微笑みが溢れる。

 

「勝負は3対3です。

 ポケモン三体は、もう決めてこられましたか?」

「はいっ、いっぱい考えてきました。

 絶対に勝ちたいと思って選んだ三人です」

「三人……?

 パールさんは、自分のポケモンを一人二人と数えるんですか?」

「へ、ヘンですか?

 個人的には拘ってるんですけど……」

「いいえ、なるほど、わかりました。

 パールさんにとってのポケモンは、特別な仲間ということなんですね」

 

 正直なところ、パールも変わり種なことをしている自覚はあるので、意識せず人前で口にしたそれに驚かれると腰が引ける。

 だからこそとも言えるが、理解を示して笑顔を見せてくれるスモモの態度は、パールにとって嬉しかったりする。

 年は近くても懐の深いジムリーダーだと、パールも認識できただろう。

 

「パールさん、今さら言うまでもないことですが……

 是非、全力で、全身全霊でかかってきて下さいね」

「へっ?

 あ、えと……それは、勿論ですけど……」

 

「あたし、こんな年でジムリーダーという大役を仰せつかってます。

 正直なところ、あたしよりも強くて、立派なトレーナーは、トバリシティにはいっぱいいます。

 あなたが勝利してきたトバリのジム生の皆様だって、あたしの知らないことを沢山知っていて、敵わないなと思うことも多いぐらいです」

 

 柔和な笑顔でパールと話していたスモモだが、ふいに神妙な面持ちとなり、パールに気持ちのこもった声を向けてくる。

 ジムリーダーが、ジム生に敵わないなどと口にするのは、あまり推奨されるような行動ではない。

 スモモもわかっているのか、観戦席のプラチナには絶対に聞こえないよう、パールにだけ聞こえる程度の小声である。

 

「あたしは、どうして自分がジムリーダーに選ばれたのか、未だにわかっていません。

 強いポケモントレーナーっていうのが何なのか、その答えも見つかっていません。

 あたしはこのジムに挑戦しに来てくれる沢山の人々の戦いで、それを見付けられたらと思っています」

「スモモさん……?」

「パールさん。

 挑戦者として、腰を低く、謙虚なその姿勢は見習いたくも存じます。

 ですが、ポケモンバトルの場においては、大人も子供も、男も女も、ジムリーダーという肩書きがあるかどうかも関係ありません。

 すべてのポケモンバトルは対等です。遠慮も、物怖じも、必要ありません」

 

 少し表情の硬かったパールをわざわざ奮起させることを言うスモモだ。

 それだけ彼女は、全身全霊の出し惜しみ無き戦いを望んでいる。

 真っ直ぐな瞳でそう訴えかけてくるスモモの姿には、パールも胸を打たれるというものだ。

 

「あたし達、きっと同い年です。

 負けたくありません。きっと、負けたらすっごく悔しいです。

 全力で迎え撃たせて頂きますよ……! どこからでも、かかってきて下さい!」

「……はいっ!

 スモモさん、絶対に負けませんよ!」

 

 ばちんと両手で自分の頬を叩き挟むようにして、気合を入れたことを表明したパールに、スモモは両の握り拳を引く姿勢で返答する。

 双方、情熱を胸に燃え上がらせ、それが相手にも伝わるほど。

 笑顔一つない表情、しかし相手への敬意を目に宿した両者は背を向け合い、トレーナーが立つ朱塗り畳の上へと歩を進めていく。

 

 振り返り、離れたスモモと対峙したパール。

 最初のポケモンはもう決めてある。そのボールを手に握る。

 勝ちきれるかどうかはわからない。だが、考えられるだけのことは考えてきた。

 あとは力の限りをすべて、このバトルに置いてくるだけだ。

 

「参ります! パールさん!」

「はいっ!」

 

「行きますよ! アサナン!」

「行くよ! ニル……」

 

 パールが先鋒のニルルを出そうとしたその時だ。

 バッグの中から、正確にはバッグの中に入れていたボールの中から、バトルフィールドに飛び出してきた子がいる。

 突然の出来事に、ニルルの入ったボールのスイッチを押す指も止まったパールだが、出てきた子の姿を見てさらにびっくりする。

 

「えっ!? ミーナ!? えっ!?」

 

 それはパールが、スモモとの勝負で繰り出す三人のうち、4分の1ではじかれた唯一のポケモンだ。

 気合充分、ざりざりと両足で畳を引っかいて、離れた前方のアサナンを睨みつけるミーナは、やる気満々なのが背中からも伝わってくる。

 いや、それは結構なのだが、そういう予定はまったくなかったのが。これは困る。

 

「格闘タイプの使い手であるあたしに、ノーマルタイプのミミロルですか……?

 出方も、なんだか事故だったような……」

 

 怪訝な顔をするスモモに対し、パールは目を泳がせてパニックに陥りかけている。

 3対3のバトルだ。一度出てしまったポケモンは、引っ込みつくのだろうか。

 負けられない戦いでやんちゃをされたパールは、意気込むミーナとは裏腹、身内を出鼻を挫かれる形で激戦必至の舞台に立っていた。

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