「あっ、パール!
遅いぞー! 遅れたら罰金1000万円って言ってただろー!」
「遅れてないでしょ、10分早く来てるよ。
あんた何分前から来てるの?」
「ずっと待ってたぞ!」
「ダメだ、会話が成立してない」
フタバタウンの入り口で待ち合わせいていたダイヤと顔を合わせるや否や、パールはさっそく頭を抱えたい気分である。
旅立ちが待ち遠しいあまり、30分早く来ていた可能性ありありの幼馴染だ。
自分だって待ち合わせ時間に余裕を持って来たパールをして、きゃんきゃん文句言ってくるダイヤの姿は理不尽極まりない。
「さあ、行こうぜ!
マサゴタウンまでは一緒に行くんだからな!」
「はいはい」
手のかかるせっかちな弟に急かされる気分で、パールはダイヤと一緒にフタバタウンを発つ。
昨日がダイヤの誕生日であり、ダイヤの家にも行って誕生日を祝ったパールから見れば、どうもダイヤはいつまで経っても子供っぽいというか。
自分のことも気にもかけてくれず、ずいずいずんずん前に行ってしまうダイヤに、相変わらずだなぁという気分で歩いていく。
「パールは旅に出たらどうするんだ?
憧れの人を探すって言ったって、手がかりもナシじゃ難しいだろ」
「あんたからそういう理論的な発言が出るとすっごい新鮮」
「えっ、この程度で?
俺もしかしてパールの中じゃすっげーバカ?」
「バカとは言わないけど、考えてそうなイメージ無い」
「なんだってんだよー!
俺だって色々考えながら生きてるんだぞー!」
愉快にいつもどおりの掛け合いをしながら、201番道路を通ってマサゴタウンへと向かっていく。
わざわざ野生のポケモンに絡まれたくないので、そうならない場所を選びながらの歩みである。
「昔はアイドルになるんだー、とか言ってたよな、パール。
有名になって、テレビに出て、思い出の人に呼びかけてみるんだって」
「覚えておいて欲しくないこと覚えてるね……
あの時はほら、子供だったし」
「じゃ、どうやって探すつもりなんだ?
パールも結構ノープランで突っ込むタイプだから、何もナシでも驚かないけど」
「あんたの中でも私って結構バカな感じになってない?」
「バカとは言わないけど、パールは感情まっしぐらレッツゴータイプじゃん」
「あんたにだけは絶対言われたくない」
幼馴染というものは困ったもので、パールにとっては幼い頃、無邪気に宣っていたような黒歴史をダイヤに覚えられている。
あんまり色々ほじくり返して欲しくない。恥ずかしくなる。
「……今のところは一応、ジムを回ってバッジを集めて、ポケモンリーグに挑戦してみたいかなあって思ってる。
ほら、有名になれば"あの人"だって、私のことに気付いてくれるかもしれないじゃん?」
「アイドル目指してた時の発想とあんまり変わってなくね?」
「違う違う、全然違うっ!
アイドルなんてムチャなこと目指さなくなったの! 私もオトナになったの!」
「そっちの方がお前は可能性ありそうなんだけどな~。
なんてったって、可愛いし」
「っ……あんたのそういうとこ苦手っ!」
「いててて、なんで!?」
つねる。なんでつねられたのかわからずダイヤも逃げる。
異性も意識するようになってきた年頃、お前は可愛いなんて歯に衣着せず言い放つダイヤの子供っぽさは、パールの調子を本当に狂わせる。
ぷいっとダイヤから顔を逸らす素振りを見せるパールだが、それはちょっと熱くなった顔をダイヤに見せたくないからだ。
「どうせあんたも、すっげー強いトレーナーになるんだー、とか言ってポケモンリーグに挑みに行くんでしょ?」
「ああ、それが俺の夢だからな!
パールもポケモンリーグを目指すっていうんならライバルだな!」
「あんたがそんな凄い人になるイメージ全然沸かない」
「なんだってんだよー!
言っとくけど、俺だってお前にだけは絶対負ける気はしてないぞ!」
あしらいながらダイヤの夢を聞くパールだが、本音では応援している。
でも、素直に頑張れと言うのも今の話の流れではやりづらい。色々複雑だ。
「なーに、パールがどっかでポケモンリーグを諦めたとしても、俺がいつかチャンピオンになってお前の言うこと代わりに言ってやるさ!
俺の友達が、昔シンジ湖で助けてくれた人を探してるってさ!
パールはそれを、の~んびり待っててくれてもいいんだぜ!」
「人任せなんてやだよ、自分でやるよ」
「あははは、ほら感情優先じゃん!
じっとしててもいいのに自分で頑張りたがるんだから!」
「うるさいっ」
わざと空振りする感じでダイヤを叩く手を振り、すかっすかっと相手を痛くさせない突っ込みだ。
ダイヤもひょいひょい大袈裟めに躱して楽しんでいる。
「せっかくパールがおんなじ日に出発するようにしてくれたんだもんな!
俺とお前は今日からライバルだっ!
どっちが先にバッジを全部集めて、ポケモンリーグのてっぺんに挑戦するのかも競争しよう!」
「あはは、私あんたにだけは負けないつもりで頑張れそう」
「ありがとな、ほんと同じ日の出発って面白いや!
待っててくれたパールのおかげで、俺いますっげえわくわくしてる!」
「……もぉ」
やっぱりなんだか、パールはダイヤのことが憎めない。
せっかちで、そそっかしくて、よく怒らせてくる友達だけど。
その裏表のない素直さで、いつだって自分の考えてることを尊重してくれるダイヤの言葉の数々が、パールにとっても居心地がいい。
容赦のない掛け合いはしてしまうけれど、絶対に絶好したくない友達。
仲良く語らいながら、マサゴタウンに到着だ。
パールも、ダイヤも、一緒にいるとずっと話しちゃって、時間が経つのもすごく早い。
あれ、もう着いたんだ、とパールが思うほどには、喋りっぱなしの二人旅はあっという間に感じられたということである。
「それじゃな、パール!
今度会った時には、すっげー強くなった俺の姿にびびらせてやるからな!」
「はいはい」
マサゴタウンのポケモン研究所、ナナカマド博士のいる研究所の前で、パールはダイヤとお別れした。
パールは既に、先日ナナカマド博士に初めて会った翌日、再びここを訪れてポケモン図鑑を受け取っている。
ダイヤはその時まだ11歳になっておらず、昨日誕生日を迎えた今日、ナナカマド博士に図鑑を受け取るのだ。
ここでお別れ、というのはダイヤが言い出したことで、旅立ちこそ一緒に踏み出したものの、二人別々に旅を行こうという運びである。
その方が、いつかまた再会した時にお互いの成長に驚けて面白そう、というのがダイヤの発想である。
男の子の考えることはわからん。一緒に旅した方が面白そうなのに。
ともかくここでお別れということになり、パールもなんだかいきなり一人になっちゃうと寂しさめいたものも感じる。
なんだかんだであの親しんだ騒がしさ、急にいなくなられると静かになるもので寂しく感じるのだ。いてもいなくてもパールを悩ませる子。
「……まあ、気持ちを切り替えて。
さあ、行くぞーっ」
無理矢理独り言めいたことを言って気持ちを切り替えると、パールはマサゴタウンの北の方へと歩いていく。
マサゴタウンの北から202番道路に出ることが出来、そこを通ってさらに北の、コトブキシティに行くことが出来る。
パールがひとまず目指すのはそこである。
始まった旅路、今までに行ったことのない場所を目指して一人で歩いていくことは、やっぱり無性にわくわくするものだ。
「んんん、どこにポケモン棲んでるかわかんないや……
でも今は、この子がいるもんね……うん、大丈夫大丈夫」
地元に近い201番道路やシンジ湖なら、どこに野生のポケモンが出没するかもわかっているパール。
しかし、一人で来るのが初めての202番道路はそうはいかない。
いつ、どこで野生のポケモンに絡まれるかわからない環境であり、一人歩きをするにはちょっとした怖さもある。
パールは葉っぱのシールを貼り付けたモンスターボールを両手でぎゅっと握り、202番道路を歩いていく。
頼れる、今は唯一そばにいてくれる友達が入ったボールだ。
野生のポケモンが出てきたら、速攻でそのボタンを押す準備が出来ている。
「――――z!!」
「わわわっ、出たっ!?
お願いっ、出てきて"ピョコ"っ!」
そんな折、がさがさっと草むらの音が鳴り、振り向けばそちらからビッパが姿を現した。
パールをじーっと睨むような姿勢で、逃げなきゃ飛びかかってきそうである。
はらはらしつつも落ち着くよう努め、ぎゅっと握りしめたボールのスイッチを三度押ししたパールにより、中から彼女のパートナーが飛び出してくる。
ナナカマド博士に貰ったナエトルだ。
着地し、ビッパとパールを交互に見て、"ピョコ"と呼ばれたナエトルは状況を把握し、ふんすと鼻を鳴らしてパールに指示を仰ぐ目を送ってくる。
任せろ、さあ何でも言ってくれ、というその表情は頼もしい。
「ええっと……!
ピョコ、たいあたりっ!」
あわあわしながらビッパを指差し、慣れない指示をパールが発する。
ナエトルは、ピョコはビッパに駆けだして、身構えた相手に思いっきりぶつかっていく。
身構えていてもビッパには重過ぎる一撃だったようで、あえなく吹っ飛ばされたビッパは地面に転がった。
なんとか立ち上がったビッパだが、恐れを為したのか尻尾を巻いて逃げだして、パールをびびらせたビッパを追い払ったピョコが得意顔である。
「あはは……!
ありがとう、ピョコ! 頼もしいよ!」
「――――♪」
頑張ってくれた友達の奮闘に嬉しくなって、パールはピョコに駆け寄って抱き締める。
ほんとは抱っこして頭をなでなでしてあげたいけど、ナエトルって案外重いのだ。平均10kgくらいあるそうな。
しゃがんだパールに抱かれ、彼女の胸元に体を預けて嬉しそうにするピョコだが、これだけでもまあまあパールには負担になってたりする。
「それじゃ、ボールに……」
「――――!
――――、――――――!」
「え、な、なになになに?」
ピョコをボールに戻そうとしたパールだが、彼女から離れたピョコは首を振って、何かを訴えるように首を振る。
何を言いたいのか言葉では理解できないパールだが、必死な目で何かを訴えようとするピョコの態度である。
言葉の通じない相手の主張、これをどれだけ汲み取れるかも、"ポケモントレーナー"の資質と呼べるかもしれない。
ピョコの言いたいことがわからず戸惑うパールだが、思い当たった一つの発想に沿って、ピョコのボールをバッグの中に入れてみる。
それを見て、ピョコの表情はぱあっと明るくなり、ぴょんっと一回跳ねるのだ。
これは明らかに、パールの行動に喜びを表している。
「……一緒に歩こっか?」
「――――♪」
パールの提案に対するピョコの笑顔がまさしく答えだ。
モンスターボールの中は、ポケモンにとって居心地のいい場所だと言われる。
ピョコだって、ボールの中が嫌だとは思っていないはずだ。
だけど今のピョコは、もうちょっとボールの外に出て、パールと一緒に風を感じていたいと思ってくれている。
「んふふ、ピョコは甘えん坊さんなのかな?
うん、それじゃ、一緒に歩こっか」
パールの言葉に満面の笑みのピョコを見て、しょうがないなぁという態度を見せるパール。
人のことを言えた口か。自分こそ、ピョコのことが可愛くて可愛くて仕方なく、甘えられて顔ふにゃふにゃになっているくせに。
言動こそ、甘えられた側の上から目線に近いものだが、パールの方こそ仮にピョコに急に嫌われでもしたら、お先真っ暗みたいな顔をしそう。
ポケモンって可愛いのだ。
初めてのポケモンなんてそれぐらい好きになってもだいたい当たり前なぐらいである。
「よーし!
ピョコっ、コトブキシティに向けてレッツゴー!」
「――――♪」
元気のいい声で先導しようとするパール。よほど楽しいらしい。
初めてのポケモンと一緒に歩く、未知なる世界へ向けた旅立ちは、彼女をそれだけハイテンションにさせてしまうぐらい楽しいものだった。