213番道路の浜辺で、マキシマム仮面主催のショーをたっぷり楽しんだパール達。
その後、進行を再開してノモセシティに向かったが、結局街に着いたのはすっかり空が赤らんだ時間帯だった。
どうやらショーとその後も含めて、思った以上に長い間あの場所に留まっていたらしい。
今回のショーでは悪役を演じたマキシマム仮面だが、元より人気者であり、ショーが終わって浜に上がってくれば子供達からも大人気。
さっきまで悪役をしていたおっちゃんが、子供達になつかれて、抱っこしてあげたり、一緒に写真を撮ってあげたりと人気者。
最後はマキシマム仮面とギャラドスを中心に、集まってくれた子供達全員集めての記念撮影なんてやっちゃって。
後で現像すればわかることだが、照れ臭くてしょうがないギャラドスの緩んだ笑顔は、子供達にとって素敵な思い出の写真になるだろう。
ちなみにカメラのシャッターを切っていたのはフローゼルである。カメラまで使えるとは、流石ファンサービス旺盛なマキシマム仮面の身内である。
水に濡らしてカメラを壊したりしないよう、タオルを使って入念に手を拭いていたし、ポケモンってちゃんと教え込めば本当に賢くなってくれる。
解散と相成ったショーだが、その後マキシマム仮面は改めてパールに声をかけ、握手を求めて深い感謝の意を伝えてくれた。
元より今回のショーは、見た目で怖がられがちなギャラドスに対する、子供達の持つイメージを少しでも良くしていきたかった試みだったそうだ。
悪のマキシマム仮面を海の神ギャラドスが成敗する、というシナリオは、いかにもそれを目指したものだったということ。
脚本を作ったマキシマム仮面にとっても、果たして感情に素直な子供達相手にどこまで上手くいくか、かなり挑戦的な内容だったそう。
結果としては大成功であり、それはやはり子供達の純真さに助けられたものとし、マキシマム仮面としては客に助けられたなぁという想いひとしおである。
しかし何と言っても、ノリよく攫われ役を担ってくれたパールの楽しみようが、空気を良くすることに一役も二役も買ってくれたのは事実だろう。
おかげでショーは大成功、と半分近く言えるレベル。マキシマム仮面はそれについて、ありがとうなとパールに熱烈な感謝の意を述べていた。
そんな意図は無く、心から楽しみ過ぎていただけのパールは、そこまでお礼を言われてしまうと戸惑い照れるだけだったが。
その隣でプラチナが、入れ込み過ぎてただけなのにね、とくすくす笑っていたので、パールがしゃーっと威嚇していたのも一幕としてあった。
思い返すと私、子供よりも子供っぽかったなぁとパールは恥ずかしくなっちゃうようで。後から思い返すと恥ずかしい、の多い子だ。子供な証拠。
さて、ところでノモセシティのジムリーダーは"マキシ"という名で知られる。
プラチナがマキシマム仮面に、もしかして的なことを尋ねたが、はぐらかされたような自白されたような。
マキシマム仮面が言うには、ジムリーダーのマキシは私用でいつも出払っているだらしない野郎で、仕方なく俺がジムリーダー代理をしているのが殆ど、と。
本当にそんなジムリーダーだったらとっくに解任されているだろう。
マキシがマキシマム仮面を名乗ってジムリーダーやってるだけだろうと、大人も子供もわかりきっている話である。パールとプラチナにもわかった。
何故そんな一秒でバレる作り話をするのやら理解し難くもあったが、まあそこは突っ込んであげなくてよろしい。遊び方は人それぞれである。
パールがジム巡りをしている身だと話せば、よしよし来い来いとマキシマム仮面も上機嫌。
世話になったがジムでは手加減しないぞ、と笑うマキシマム仮面の言葉に意気込んで、パールは改めてノモセシティを目指した。
道中で出会う、ポケモントレーナー達との勝負にも、ジム戦が目前というのもあってパールも気合が入っていたものだ。
そうやって時間を使うから、真っ直ぐ帰ったショーの観客とは違って、街に着くのが夕頃になってしまったのだが。
この日パール達は、ポケモンセンターに向かい、自らもポケモン達もゆっくり休み、明日に備えたものである。
明日はノモセジムへ。
意気込みたっぷりのパールが、ナタネ相手の夜長の電話で気合充分の声遣いであったのは、プラチナにだって容易に想像できたことである。
さて、翌朝さっそくパールはノモセジムに向かい、出迎えてくれたマキシマム仮面と再会だ。
今日来るとわかっていたため、マキシマム仮面もわざわざ待っていてくれたらしい。パールもちょっと嬉しい。
好意的に迎えてくれたジムリーダー代理さんだが、まずはうちのジム生と勝負だぞというのは、贔屓無しの正当な要求。
パールも気合充分にはいと応え、ジム生達との勝負に臨んだ。
ノモセジムは、ジムリーダーであるマキシが水ポケモンの使い手であるのと同様に、水ポケモンの使い手が集うジム。
水タイプに対して有利なタイプは、草と電気の2つであり、言い換えれば水タイプには弱点が少ない。
どこの地方にも沢山いる、特段メジャーなタイプの水ポケモン達だが、バトルとなればその弱点の少なさは強みである。
だから逆に、自分の手持ちのポケモンに、草タイプか電気タイプの技を一切覚えさせていないベテラントレーナーはかなり少ない。
バトルにおいて常に存在感を強く意識されるという意味でも、水ポケモンというのトレーナー全般にとって身近に感じられやすいものだ。
親しみやすい可愛らしいポケモンが特に多いのも水ポケモンの特徴とされるが、水ポケモンの愛好者が多いのは、きっとそれだけが理由ではないのだろう。
幸いなことにパールは、特に意識して手持ちを操作しなくても、草タイプのピョコや電気タイプのパッチが普通に手持ちにいる。
両者の活躍はジム生相手にも著しく、バッジ3つ持ちの挑戦者相手にジム生達も気合が入っていたが、苦も無い勝利続きだったのは否めない。
あまりに快進撃続きだったので、調子に乗っちゃわないよう気を付けなきゃと、かえってパールも意識していたぐらいである。
ニルルとミーナも出番を貰えれば頑張ったが、やはりジム戦においての主力がピョコとパッチになることは、パールも早期から意識しただろう。
その後、そつ無くジム生達に勝利したパールは、晴れてマキシへの挑戦権を勝ち取るに至った。
「うーむッ、いい戦いぶりだったぞ!
こいつぁ骨のある挑戦者だ! 俺も燃えてきたぞ!」
「マキシさん、よろしくお願いし……あっ、マキシマム仮面さんでしたっけ……」
「おう、間違えるなよ? 俺はマキシマム仮面だ! ガハハハ!」
マキシって呼んじゃダメらしい。どう考えてもマキシなのだが。
こういう時に、ちゃんと相手に都合と話を合わせられるのがいい子。
子供ながらに無粋しないパールの態度には、マキシも嬉しく上機嫌である。
「ポケモン達も疲れてるだろう。
一旦ポケモンセンターに行って、ゆっくり休ませてくるといい。
そうだな……今日の夕方ぐらいに来て貰えるか。
それまでに俺も、自分のポケモンを用意して待っているとしよう」
「はい、わかりました。
私、絶対に負けないつもりでいきますからね!」
「ガハハハ、いい意気込みだ!
俺も全身全霊で以って迎え撃つとしよう!
真剣勝負だ! 万全の構えで来てくれよ!」
「はいっ!」
気合充分のパールに対し、マキシマム仮面も熱い言葉でパールを鼓舞してくれる。
これまでのジムリーダーと同様、悔いなき全力勝負を望むのは彼も同じだが、声と見た目の大きさもあっていっそうそれが如実。
パールもふんすと気持ちを燃え上がらせ、夕時の決戦に向けて熱くなれたものである。
4つ目のジム。ここを勝利すれば、バッジを8つ集める旅の折り返し地点。
パールの旅にとっての大きな節目である。
勝ってそうしたいパールの意気込みは、これまで以上に並々ならぬものだった。
「マキシさ……あ、いや、マキシマム仮面さん、いい人だよね」
「マキシさんでいいんじゃない?
本人の前じゃない限りは」
「あはは、そうかな?」
ポケモンセンターに身内を預け、ノモセシティを歩くパール達。
夕時までは時間潰しだ。街巡りは明日以降にもやる予定だが、とりあえず今日も。
後から予定があるのでじっくり遊ぶには向かないが、今日のうちに街を見て回り、明日以降にじっくり行く場所を決めておくには悪くないだろう。
ノモセシティは元々湿原が広がっていた場所に作られた街だ。
アスファルトの敷かれていない自然体の地面は、意識して踏みしめれば湿地帯らしき柔らかさも感じ、所によっては足跡もつきそう。
日によっては霧がうっすら張るほど湿度の濃い街として知られており、今日は快晴ゆえそうでもないが、普段は少しでも曇ればしっとりした空気が漂うらしい。
そんな街の性質もあってか、ノモセシティではグレッグルをマスコットキャラクターとして扱っており、どこの商店でもグレッグル人形が買える。
蛙っぽい見た目の上に可愛いので抜擢された、というところなのだろう。
街の北部には"ノモセ大湿原"が広がっており、ノモセシティはむしろ、当初ここを保護することを目的に築かれた街だと言ってもいい。
人間社会の発展に伴って、人が住みやすい世界が広がるに連れて、開拓と共に破壊される自然というのはどうしたって生じてしまう。
ノモセシティとてそうした側面は否めないが、シンオウ地方東南部に広がるこの湿原は、とりわけ特殊な環境かつ、野生のポケモンも多い。
シンオウ地方に限って見ても、世界的に見れば殊更に、珍しい環境かつ貴重な自然遺産とさえ言える。
ノモセシティはこの大湿原を保護していくことを固く定めており、そばに人里が出来た今なお、ノモセ大湿原は昔と大きく変わらぬまま今もある。
もっとも、そうした歴史価値が生じてしまうと、観光客が増えるのも世の常だ。
ノモセ大湿原にはクイック号という乗り物と線路が作られ、広い広い湿原を見回りやすくする配慮も為されている。
見方によっては自然破壊だが、この辺りは難しい。それのおかげでノモセシティの財源も潤い、湿原保護に充てられる資金も溜まる。
近年では試験的に、期間限定でノモセ大湿原を利用したサファリパーク企画も試行されているが、これもいつまで続くかはわからないところ。
観光客のポケモン捕獲が続き過ぎるようなら、湿原の生態系も狂うかもしれないし、それも絶え間なく続く調査の末に、まだ問題無しとして継続されている。
ノモセシティは湿原の保護に敏感ということだ。街の使命とさえ言える。
おかげでパール達も、明日はこの湿原を見て回ろうと決めることが出来た。何百年もそこにある湿原を、ほぼ自然体のまま観光することが出来るのだ。
それも、湿原を保護するよう努め続けてくれたノモセシティの、連綿と続けられてきた保護の賜物である。
「パールは新しいポケモンを捕まえてみたい?
6匹のポケモンをバトルで使える中、あと二つ空きがあるけど」
「うーん、どうだろ?
これ! っていう子がいれば捕まえてみたいけど」
「パール的には今いる子達って、これ! って感じで捕まえた子達なんだ?
ピョコは特別だろうけど」
「うん、なんかみんな、こう、ビビッと来て捕まえた感じ。
愛着すごいんだよ? 熱く語っていい? 一晩中話せるよ?」
「あはは、また今度ね。
だいたいそんな話しだしたら、僕も一晩中離せそうで終わらないよ」
「二晩中かかるね。何時間かな」
「二晩中って何なのさ、どういう時間の使い方すればいいの」
街の展望台に上がり、望遠鏡を覗かせて貰い、明日訪れると決めたノモセ大湿原を遠望したパール達。
街のマスコットキャラクターであるグレッグルを始め、地元じゃなかなか見られないポケモン達の姿を、望遠鏡越しながら沢山見られて楽しかったものだ。
特にルリリやマリル辺りは、シンオウ地方ではノモセ大湿原以外での目撃例自体が極めて希少である。
初めてそれをテレビ越し以外で目にしたパールは、思わず見て見てとプラチナに望遠鏡を譲ったぐらい興奮していた。
珍しい上に可愛くて興奮してしまったのだろう。明日ノモセ大湿原でマリル辺りを見付けたら、きっとボールを投げるだろうなとプラチナは思った。
「とりあえず、ご飯食べに行こっか。
夕食にはちょっと早いけど、ジム戦の前に腹ごしらえって感じで」
「えー、太るかも。
ジム戦の後も絶対お腹すくから、食べるよ?」
「あ、パールもそういうの気にするんだ」
「するよっ! 当たり前でしょ!」
「わああ、怒らないで。ごめん、ごめんって」
うっかりデリカシーの無いことを言ってしまい、パールに帽子を取られて頭くしゃくしゃされるプラチナである。
ジム戦のたび、パールは全身全霊を投じ、終わる頃には毎回へとへとだ。お腹だって空く。
というわけでジム戦後のご飯は定常化しており、それは今回もパールとて規定事項として考えている。
今お腹を膨らませてしまったら、数時間後にもまた夕食、となって、体重増加を懸念してしまうのも仕方ない。
あんまりそういうデリケートな所を軽々しくつついちゃ駄目。
「ほ、ほらパール、あんまり騒ぐと人の目惹くよ。
見られてる見られてる」
「うぐっ……あ、あははは……」
大きい声を出してしまったので、周りの人がこっちを見てる。
こいつは恥ずかしい。パールは誤魔化すように笑いながら、いそいそプラチナの手を引いて早歩き。
上手いこと凌がれた感があるので、さっきの場所の人の目を避けながらじとーっとプラチナを睨んでおく。
「ごめんってば、機嫌直してってば」
「別にもういいけどさ~。
私もちょっと、がーっといき過ぎちゃった感あるし。
どうもプラッチ相手だと、素直になり過ぎちゃうんだよね」
確かに初対面の頃は、もうちょっと落ち着きのあるパールだと見えたプラチナだが、最近は子供っぽい性根が隠しきれていない場面がやや多い。
それだけプラチナに心を許しているということだろう。
パールだって、付き合いの浅い人の前では態度を考えるし、気心知れている相手の前でこそリラックスし、素の自分を出してしまうこともある。
程々にしてよね、と苦笑するプラチナも、無意識に言ってしまって何も考えていないパールも、それが良好な関係を象徴する発言だったことには案外無自覚だ。
あるいは、意識しなければこれぐらいのやり取りが当然と感じる親密さ、そんな証拠ともとれるかもしれない。
「……っていうか、まだ結構こっちちらちら見てる人多くない?」
「えぇ、うそ?
私そこまで大きな声出したかなぁ……」
そんなことより気になるのは、さっきの場所からそれなりに離れた場所まで来ているのに、なぜかパール達を二度見する人が多いこと。
今、おとなしくしているのだが。わざわざ人目を惹くようなことはしていないはずなのに。
気付いてしまうと、行く先行く先、周りをよく見れば常に、パール達のことを一瞥していく人が必ずいる。気のせいではない。
「ちょっと待ってプラッチ、私もしかしてくさい?」
「大丈夫でしょ、昨日もホテルでお風呂入ったでしょ。
というか周りの人がついつい振り向くほど臭かったら僕が突っ込んでる」
「だよね、よかった、よかったけど……
なんで私達こんなにじろじろ見られてんの?
いなかもの? 私いなかものオーラ出てる?」
「そんなことはないと思うけど……」
立ち止まって、マフラーに鼻を当てたり、帽子を脱いで鼻に押し付けたりして、すんすん自分で確かめるパール。
今日はたいして汗もかいていないし、そんなはずは無いのだが。
それでも万が一を考えてぞっとして、確かめずにはいられないぐらい、何故か町行く人達の注目を浴びている自分達である。
どうしてこうもじろじろ見られているのかわからないパールは、気付かぬうちに恥ずかしいことでもしてるのかと感じてそわそわ。
「――あっ! お姉ちゃんだ!」
「ふえ?」
そんな折、パール達を指差す男の子が一人。知らない子。
実は213番道路の浜で、マキシマム仮面のショーを見ていた子供の一人なのだが、流石にパールもプラチナも覚えていない。
ただ、向こうは攫われた女の子として覚えている。
「あらあら……あなたがジムの挑戦者なのね。
ふふ、頑張ってね。この子と一緒に応援しに行くからね」
「へっ?」
「夕方だよね? 頑張ってね!
ジムでのマキシマム仮面は強いよ!」
さて、なんでそんなことをこんな子や、一緒にいるお母さんも知っているのだろうか。
パールが狐につままれた顔をしていると、色々察したお母さんが、パールに一枚のパンフレットを渡してくれた。
それはそれはもう、その一枚に全ての答えが詰まっている。
「なぁにこれぇ!?」
「し、仕事が早いなぁ……」
そこにはマキシマム仮面の写真がでかでかと載っており、つまり今日の夕方6時からジム戦を行うと大々的に告知するパンフレット。
とっくに町中にばら撒かれているのだろう。パールがジム生達に勝利し、ジムリーダーへの挑戦が決定したのが昼前のこと。
そこから超速でビラを作って刷って、3時過ぎの今、パール達が街を歩けば"あれが挑戦者の女の子か"と振り返られる状況の出来上がりと。
プラチナの言うとおり、素晴らしい仕事の速さである。
「ちょっと~! マキシさ~ん!」
「おおっ? 早過ぎないか?
それと人違いだぞ、俺様はマキシマム仮面だ!」
「じゃあそれでいいですけどっ!
マキシマム仮面さんっ、このパンフレット何ですかっ!」
約束の時間より随分早く、ノモセジムに舞い戻ってきたパール。
息が切れている。本日初のたっぷり汗。突っ走ってきたらしい。
さっきのお母さんから借りてきたパンフレットを手に、まあまあの剣幕で詰め寄るパールにマキシも少し後ずさる。
「まずかったか?
うちのジムでは、ジム戦があると街のみんなに告知する風習があるんだ」
「しょーぞーけんの侵害で訴えたら勝てる気がする」
「いやいや、写真を使ってるわけじゃねえだろう?」
挑戦者を迎え撃つジムリーダーの戦いぶりとは、ジムを地元に持つ人々にとって、さながら身近でポケモンバトルの公式戦を見られるようなもの。
見物として非常に評判高い。ジム戦自体も決して秘匿されるべきものではないため、都合が合えばテレビカメラやリポーターが入ることもある。
それ自体はどこの街でもある話だ。ノモセシティにおいては、ジムリーダーのマキシの掲げる方針で、積極的に客入れを行うというだけである。
勝手に人の写真を使っている点は少々頂けないが、苦情が出たのは今回が初なので、今後はマキシも同じことはしなくなりそうだ。
「え~、うそでしょ?
絶対私の写真とか載せたパンフレットも作ってませんか?
街歩いてると妙に、色んな人からじろじろ見られたんですけど……」
「人様の写真を勝手に使ったら揉め事の種になるからやらねえのよ。
ただ、ビラを配ったうちのバイトに、配るついでに挑戦者の特徴は話してくれとは頼んだ。
帽子、マフラー、可愛い女の子、充分わかるだろ」
「かっ、可愛いって言われても誤魔化されません!」
ぷりぷり怒るパールだが、可愛いって言われてちょっとだけ嬉しそうな間があった。
単純すぎてプラチナも呆れそうになる。ちょろ過ぎ。
「まあまあ、別にバトルの内容に変化があるわけじゃねえ。
ちっとお客さんが増えるってだけだ。あまり気にするな」
「そ、それが一番問題なんですってば……
私、そんな沢山の人前で試合したことなんて無いし……」
「なぁに、始まってしまえば気にもならなくなるさ。
同じ事を言う挑戦者も少なくはなかったが、みんなバトルとなりゃあ目の前のことに集中してそれどころじゃなくなってる。
それに厳しいことを言わせて貰えば、負けたのは観衆のせいで緊張したから、なんて言われても言い訳だぞ?」
「うっ……そ、そうかもしれないけど……」
「お前さんもいつかはバッジを集めて、ポケモンリーグに挑戦するんだろう?
その時は嫌でも、山ほどの観客の前でバトルすることになるんだ。
今のうちに、それを経験しておくのも悪くはない話なんじゃねえか?」
「うぐぐ……そういう見方も、あるのかもしれないけど……」
腑に落ちたくないパールだが、ある程度の筋が通っているので返す言葉が無い。
経験しておくのも悪くは、というのは後付けだが、客が入ってると緊張して全力が出せないかも、なんてのは少々言い訳がましい。
いつでも自分にとって最も望ましい環境でのみバトルさせて貰える、それが当然と考えるのはちょっと違う。
マキシの言い分にも充分な理がある。ジムにはジムの流儀があるのだ。そこはある程度、挑戦者が合わせねば。
勢いよく乗り込んできたのはいいものの、あっさり丸め込まれたパールは返す言葉なく撃沈。
確かにジムバッジを8つ集めてポケモンリーグに挑もうという身、人前では試合できません、では後々通用しなくなるのも確かだ。
事後承諾の形にはなっているが、ここでどうしても嫌ですと言うのは、逃げであると断じざるを得ない。世の中厳しい。
「わ、わかりました……
気合入れてきます……ぜったい負けませんからね……!」
「ガハハハ、頼むぜ!
白熱するようなバトルを俺も望んでるからよ!」
最後に人睨みして、敗者の捨て台詞のように啖呵を切ると、パールはすごすごと引き下がる。
すいませんうちのじゃじゃ馬が、と軽く会釈して去るプラチナに、流石にマキシもちょっとだけ気まずそうな顔であった。
どうせ挑戦者が嫌と言おうが言うまいが、これがノモセジムの流儀なのだ。事後承諾なのは関係ない。
それに、人前でバトルすることに慣れるのも必要なので、相手に望まれようが望まれまいが、マキシなりの心遣いがそこにあるのも確か。
集まった観客からお金を取るでもなく、パンフレットを刷ったり、それを配ってくれる人に払うお小遣いのぶんだけ出費もある。
実利ゼロでそこまでやるジム側の方針を、挑戦者側が咎めるのは難しい。根本的にジムの方針というのは、ジムが決めていいのだから。
さりとて、これはパールにとっては想定外の試練。
ジムからずんずんと出たパールは、ぐるっとプラチナに向き直って途端に弱い表情になった。
「プラッチ助けて~!
私ぜったい凄く緊張するよ~! ミスしたらどうしよう~!」
「頑張ろうよ……どうせいつかは経験することなんだから……」
もっとも、あらかじめ知れて、これからしばらくの間に心の準備が出来るだけでも幸運だったかもしれない。
大衆の前での公式戦。パールにとっては初めての経験となる。
思わぬ形で直面した早すぎる現実に、パールはひたすら取り乱してプラチナに縋るばかりだった。