ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第50話   212番道路

 

「うぅ……まだ眠い……」

「夜更かししてたでしょ。

 具体的にはナタネさんとの長電話」

「はい、ごめんなさい」

「いや、別に謝るほどのことじゃないけど……」

 

 ノモセ大湿原でたっぷり遊んだ翌日、パールはたいそうお寝坊さんだった。

 先に起きたプラチナが、のんびり朝支度してからパールの泊まり部屋に行ってコールしても起きてこなかったのだ。

 

 ひとえに、前日に体力を使い過ぎた上で夜更かししたせい。

 大湿原ではピョコ達とこれでもかというぐらい遊び回ったパール、楽し過ぎて疲れを忘れていただけで身体はへとへとである。

 例え話だが、大湿原であれだけ遊んで、帰りが車かバス辺りであれば、車内で一度寝ちゃうであろうぐらいには遊び疲れていただろう。

 しかも、泥んこになってしまった体を綺麗にするためお風呂に入っている間、洗濯が普段の倍ほどの時間がかかるんだから長風呂で体がほぐされ過ぎて。

 その後、たくさん遊んでお腹も空いているから普段より沢山食べて。

 この上、あまりに楽しい一日だったせいで、ナタネさんとのお電話でも話すことがいっぱい出来てしまい、ついつい12時過ぎまでの長電話ときた。

 ベッドで寝転がって通話している間、それほど楽しく電話しているにも関わらず寝落ちしそうになったんだから、実際よほど疲れていたということだ。

 でも楽しい電話は切りたくない。部屋をうろうろ歩きながら、長らくナタネときゃっきゃお話ししていたようである。

 

 それだけ無理して起きてるにも等しい夜更かしをしていたら、あったかくて柔らかい布団に包まれて熟睡したが最後、そう簡単には起きられない。

 ポケッチのアラームでも起きない、部屋の外からコールされても起きない、ついにプラチナがモーニングコールしてみても起きない。

 自然に目を覚ます朝の10時まで、パールは幸せな夢を見ながらず~っとすやすや。

 朝起きて、ポケッチで時間を確認した時、すっごくプラッチを待たせていることに気付き、寝ぐせも整えず部屋を飛び出すパールは大慌てだった。

 まあ、プラチナは結構賢い子で諸々の推察要素から、今日はパールも寝坊するかもなと予想していたので、全然気にしていなかったが。

 むしろ長いあの髪が寝ぐせまみれのばっさばさ、帽子もかぶらず飛び出してきた彼女の姿を見て、朝から面白かったので、別に。

 

 きちんと身支度を身だしなみを整えて、朝食というにはあまりに遅すぎるお昼ご飯を口にしたら、ノモセシティを出発だ。

 西へと進む、あるいは西へと帰る道のりとも言える212番道路を行く、ヨスガシティへと戻る旅の始まりである。

 212番道路はシンオウ地方の道路の中でも最も長い一つとしても有名で、出来れば朝早めに出発したかったのだが、パールが寝坊したのでやや遅い出発に。

 さて、一日で走破できるだろうか不安が残るところ。

 出来てもヨスガに着く前に夜になりそうなので、それなりに急ぎ足で進んだ方がいいかもしれない。

 

 パールは夜の野外がたいそう苦手である。

 野生のズバットを想像してしまうからだ。212番道路に目撃例はないそうだが、絶対いないとは言い切れないので。

 

「多分、トレーナーさん達も結構いるよ。

 わざわざバトル全部受けるようなことさえしなければ、夜になる前にヨスガシティに着けるかもしれないけど」

「いや、そういうわけには……

 ヨスガシティに着いたらジム戦の可能性大だよ?

 ちゃんとサボらず修行しつつ行かなきゃ」

「だよねぇ、パールならそう言うと思った。

 まあ、歩くのはなるべく速めに、すたすた行こうか」

 

 どちらにしたって暗くなると、足元の視界も悪くなって危ない。

 朝起きが遅く、出発が遅れて急ぐ旅になっていることを少し気にしながらも、パールは気持ちを切り替えてノモセシティを出発した。

 長尺と名高い、212番道路の旅の始まりである。

 

 

 

 

 212番道路は、3つのエリアに分かれていると言える。

 沼めいた深みのある、ぬかるみが広がっている湿地帯エリア。

 海へと繋がる大河に隣する、水場に近い場所を行く水際エリア。

 木々と草むらが広く長く続く、緑溢れた草木エリア。

 ノモセを出発してヨスガに向かう旅では、この順番で3つのエリアを通過していくことになる。

 

 212番道路は海から離れているが、北より流れる河いくつかの合流点でもあり、潮水ではない水が集う場所でもある。

 つまり水に恵まれた自然環境であり、3つのエリアは、湿地、河越え、水ですくすく育った植物の群生地、とも言い換えられる。

 恐らく海に近いエリアほど、潮風に晒されがちで草木もそれほど元気になり過ぎず、水気をたんまり含んだ湿地はぬかるみに。

 海から離れてヨスガに近付けば近付くだけ、塩から離れて植物も元気いっぱい、というところなのだろう。

 この辺りは、ノモセのポケモンセンターに置いてある、旅のトレーナーが自由に取ってよいパンフレットにも書いてあることである。

 もちろん、パールとプラチナも昨日のうちに目を通してあることだ。

 

「わ゙っ!?

 またやっちゃった!」

「すっかり僕らドロドロだね……」

「うへえぇぇ……全然すいすい進めないよぉ」

 

 さて、まずは旅人泣かせの湿地帯エリア。

 ヨスガからノモセではなく、ノモセからヨスガに向かう時は、ここを最初に通らなければならないというのが旅人にとっては厄介な話。

 沼地のような広いぬかるみを、靴の中に泥が入るぐらいずぶずぶ足を沈めながら歩かなければならないのだ。

 しかも所々に落とし穴の如く深くなっている所があって、そこに踏み入ってしまったら子供のパールやプラチナでは、おへそまで沈んでしまう。

 どちらかが深みに嵌まれば、その都度もう片方が手を握ってあげて、引っ張り上げてあげることの繰り返し。

 一人でもがいて這い上がることも出来るのだが、手や胸まで泥まみれになってしまうので、二人いるんだから助け合った方が勿論いい。

 

「プラッチ大丈夫? 気分最悪だったりしない?

 私はまあまあ大丈夫だけど、プラッチ昨日は大湿原でも汚れるの避けてたし……」

「いやぁ、気にしてないよ。これは仕方ないことだし」

「やっぱり、高台ルートを選んだ方がよかった……?」

「あはは、大丈夫だってば。

 僕だって、こういう所だってわかった上で来てるんだからさ」

 

 昨日、泥んこになってピョコ達と遊ぶパールを遠巻きに見ていたプラチナなので、こんな泥まみれは本意じゃないのではとパールも気にかかるところ。

 とはいえ、パールと同様に自分も下半身全部泥まみれのプラチナも、それが嫌な気分にはなっていない。

 ここを歩くと決めた時点で、こうなることは覚悟しているのである。

 泥んこになってぶつくさ言うぐらいなら、こんな所を歩くことを選ぶこと自体が間違い、というのがプラチナの発想である。

 

 実はこの湿地帯エリア、どうしても泥沼を歩きたくない旅人のために、地形の高台を歩けるように作られたルートもある。

 ただし、こちらはかなりの回り道になるのだ。

 どれぐらい遠回りかと言うと、その高台ルートをずっと走り続けたとしても、沼に足を取られまくった下道ルートの方が早いぐらい。

 高台ルートで時間的に下道を行くより早くこのエリアを抜けようと思ったら、それこそ自転車でも無ければ無理だろうとさえ言われる。

 

「やっぱり私が寝坊したからだよねぇ……

 そういうプラッチの優しいところは好きなんだけど、ほんとに無理はしないでね?」

「うん、大丈夫。

 僕だって、無理なことを無理にやろうとすることはしないからさ」

 

 靴の中にまで泥が入ってくるぬかるみを歩きながら、パールはちょっぴりプラチナに頭が上がらない。

 この下道を行くことを発案してくれたのはプラチナの方である。

 パールが夜を怖がることは知っている彼、実際どれほど長いのかわからない212番道路越えに、最初のエリアから時間をかけることを拒んでくれたのだ。

 足を取られようとも、急ぐ旅ならこちらの方がいいのは、昨日目を通したパンフレットにも書いてあった信頼できる情報である。

 プラチナがそういう想いで自分から下道を提案してくれたとも、それは自分が寝坊したせいだともわかるパールは、胸がちくちく痛むところ。

 本当に気まずいのが顔に出ているパールなので、そういうとこ好きだよと言って貰えて内心嬉しいプラチナも、喜ぶよりまずフォローの言葉が先んじる。

 

「でもパール、あんまり急ぎ過ぎないようにね。

 つまづいて転んだら顔からべちゃりだよ」

「うん、私も流石にそれはヤだから気を付けてる。

 ピョコ達と遊んで泥まみれなら楽しいからまだ我慢できるけど、こけて顔まで泥んこはちょっと……はわぅっ!?」

「あぁまた……よかったね、顔からいかなくて」

 

 また深い所にずぶりんこ。

 窪みめいた所に足を嵌めても、柔らかい土の中なので捻挫しないのは結構なのだが、嵌まるたびに声が出るぐらいには焦る。

 何がって、前に進みながらで足ががくんと下がると、前のめりに転びそうになってしまうので。

 血迷って走りだしたりして、それで深みに足を嵌めようものなら、確実に沼に顔から突っ込んでしまうだろう。

 速く進みたい旅ながら、その割に歩みもゆっくりだ。これでも高台ルートよりは下道ルートの方が抜けるのは早いそうな。高台ルートどれだけ長いのやら。

 

「ほらパール、つかまって」

「ありがと、プラッチ……ん?

 ちょっと待って、ちょっとだけ……」

「ん? どうしたの?」

 

 下半身全部が沼にどっぷりのパール、プラチナの手を握りながら、泥に沈んだ自分の体を見下ろしてもぞもぞ。

 身体を揺らすパール、何をしているのだろうか。プラチナにはわからない。

 だが、泥の中で硬い何かを踏んだ気がしたパール、泥中で足をもぞもぞ動かして、それを上手く日の当たる地上まで持ち上げてきた。

 靴のつま先で引き上げて、膝で押し上げて、泥の上まで持ってくる。けっこう器用なことをやってらっしゃる。

 

「何コレ、モンスターボール?」

「あー、ここで落としちゃって、探すの諦めた人がいたのかも。

 ……まさか無いと思うけど、中にポケモン入ってたりしないよね?」

「えっ……あぁうん、それは大丈夫みたい、流石に。

 怖いこと言うのやめてよプラッチ、ポケモン入ったボールをこんな所に沈めていく人いたらマジで悪魔だよ」

「あ、あぁ、そっか、よかった。

 一瞬頭をよぎったらゾッとしちゃって、つい」

 

 泥まみれのボールのスイッチを連続押ししてみたパールだが、反応が無いので空っぽの新品ボールと判明。ひと安心。

 こんな場所でボールを落としてしまったら、沼に手を突っ込んで探すのも億劫になり、諦めて捨てていってしまう人もいるのだろう。

 この湿地帯の泥沼、底深くには案外こういう落とし物が沈んでいたりする。

 時間と汚れを気にせずに、沼全部を攫ったらちょっとした宝探しになったりするかもしれない。そんなことする人は一人もいないけど。

 ただ、そんなことが何年も続いたらゴミのポイ捨てが溜まるようなものなので、半年に一回はノモセシティの業者が沼攫いをしたりもするそうだが。

 

「……あるいはもしかすると、底なし沼に嵌まって命を落としたトレーナーの遺品だったりするかもしれない」

「はえ……っ!?

 ちょっとプラッチ、ヘンなこと言わないでよっ! 今ほんとに寒気したよ!?」

「あはは、ごめん。

 そんなにびびられるとは思ってなかったからさ……」

「い~から早く引っ張り上げてっ!

 けっこう下半身冷たいんだよっ!」

 

 感情が顔や態度に出やすいパールなので、上手にからかうとパールは表情豊かに、笑うし怒るし怯えるし慌てる。

 なんだかプラチナ、悪い味を覚えてしまいそうで、自分で自分が気がかりだ。

 自分の言動でパールが色々と反応してくれて、それが狙い通りだったりすると、ちょっと楽しくなってしまう。

 

 心配しなくても、本当に顔まで沈んでしまうような、嵌まれば沈み切って死んじゃう底無しスポットなんて212番道路には無い。

 そんな危ない沼があるなら、そんなものが通過点にある場所を公に謳える道路にするわけがないのだ。

 212番道路によって繋がるノモセシティとヨスガシティ、その街二つの業者が徹底的な調査の末に出した結論である。

 底無し沼自体はシンオウ地方にも実在するが、それは人の道の外側にある。公共道路はちゃんとそれを避けて名付けられているというわけだ。

 

「ほら、スカート引っ張って。

 張り付いてるから」

「みるな~!

 泥まみれの手でさわるぞっ!」

 

 スカートをつまんで引っ張って肌から離すや否や、その手を向けてくるパールには、プラチナも後ずさって距離を作る。

 が、運悪くそこに深みがあってプラチナもずぶりんこ。上半身だけ泥の中から出たプラチナ君の出来上がり。

 

「うわ流石にそれはヤだ。

 逃げ逃げ……うぅわっ!?」

 

 泥の中から引っ張り上げた直後のパールはいつもそうだが、びちゃびちゃになったスカートがぺったり肌に張り付いている。

 脱いだみたいに下半身のラインが出過ぎるので、パールからしたら恥ずかしくて見られたくないし、プラチナとしても目のやり場に困る絵だ。

 こればっかりはからかっているわけじゃない。正直なところを言っただけ。パールの羞恥心を掻き立てて、彼女の顔を真っ赤にさせているのは結果論。

 

「んふふ」

「なにその笑い。はやくたすけて」

「私をからかうからそうなるんだっ! バチが当たったね!

 ざまーみろっ! はっはっは!」

「う……パール、身体反らしたらスカートが……」

「あ゙っ!?

 みるな~っ!!」

 

 からかってくれやがったプラチナが無様に泥に吸い込まれた姿を見て、とりあえずパールは胸を張って高笑い。

 が、それに伴ってスカートの前部分が、パールの下腹部と太ももにぺたり。

 土色ながらも肌のラインをぺっとり明朗に表すその様に、まして低い位置から見上げるプラチナは流石に顔を逸らしている。紳士的な子だこと。

 気付いたパールはまた顔を真っ赤にして、スカートの張り付いた下半身を両手で押さえて後ずさる。

 その先には、先程あなたが嵌まったばかりの深みがあるのですが。

 

「はえぅっ!?」

 

 ずぶりんこ。プラチナの目の前でパールは泥沼に半身沈んでいった。

 それも、スカートを押さえていた手ごと沈んでいったので、肘の近くまで腕半分ごと泥沼の中へ。

 濁ったお風呂に入っているかのようなパールの出来上がり。

 

「…………」

「はぁ~……」

「まってまって、何その心底呆れたような溜め息。

 ぷ、プラッチが私のことからかうからだよ?

 私だけのせいじゃないと思うよ?」

「うん、わかった。とりあえず頑張って出よう?」

「ぷ、プラッチぃ……そんな目で見ないでぇ……」

 

 お互い離れた位置で共に沼に嵌まってしまったので、引っ張り上げて助けることが出来ない者同士になってしまった。

 こうなってしまうと、プラチナも頼れる相手がいない現実を直視して、自分で粛々と這い上がる。

 底のはっきりしている沼なので、上手に足を動かしつつ、沼に手をついて力を加えればなんとか上がってこられるのだ。

 何度も嵌まってきた二人なので、下半身の動かし方はそろそろ慣れてきているらしい。ここ以外では一生使い道の無さそうなスキルだが。

 

「パールどうしたの? 上がってこないの?」

「ぷ、プラッチたすけて……

 私がわるかったです……調子に乗ってすみませんでした……」

「え、もしかしてホントに自分で上がってこれなくなってる?」

「頑張れば出来るけど、がんばれません……

 助けて下さい……もう逆らいません……」

 

 へこんでいる。

 足を動かして泥に手をかけて、沼から這い上がってくるのにもまあまあ体力は使う。それはプラチナにもわかること。

 パールだってそれぐらいは出来るはずだが、今は頑張れないテンションになっちゃっているらしい。

 深みに嵌まったプラチナをざまーみろと笑い、しかしおドジをかまして自分も嵌まり、なんだかんだでプラチナを助けるつもりだったのも叶えられなくなり。

 そんな自分に呆れ果てたようなプラチナの目を見てしまったら、なんだかもう色々と折れて、地力で這い上がる力も入らないようだ。。

 

 プラチナも最近はすっかりパールに嫌われたくない気持ちが強くなっているようだが、案外パールも同じような心境なのだろう。

 一度嵌まった場所にお間抜けに再度沈み込んだこと自体より、それを見て溜め息ついたプラチナの姿にこそ、最もショックを受けたぐらいなのだから。

 もう調子に乗ったりしないから助けて、お願いと、手を伸ばして哀願するパールの目を見たら、プラチナだってこれ以上からかう気力も無くなってしまう。

 

「……大丈夫だよ、パール。

 ほら、つかまって。怒ってたりするわけじゃないからさ」

「うぅ……その優しさがかえってつらい……」

 

 ここまでへこまれたら、安心させる言葉を向けてあげるしかないじゃないか。

 ここでもう一声いじめたら本当に泣かせてしまうかもしれないし。

 しょうがないな、ではなく、これぐらいのやりとりいつもどおりの友達同士のお喋りだよ、と微笑んで手を握ってくれるプラチナである。

 大へこみしているパールにしてみれば、調子に乗って煽り返したりしていた自分には優し過ぎるプラッチだと自己嫌悪バリバリ。

 

 深みから出てきて、パールはとりあえずスカートを整えた。

 無言で粛々と恥ずかしい部分だけ整える彼女の姿に、大丈夫かな、落ち込み過ぎてないかなと心配になりかけるプラチナだが。

 

「…………よしっ!

 行こっ、プラッチ!

 次にプラッチが深い所に嵌まったら、からかったりせず全力で助けるよっ!」

「ははっ……うん、頼りにしてるよ」

 

 見るからに落ち込みきっていた数秒前、そこから心底ここまで立ち直るほど、パールもお天気頭でないのはプラチナも知るところ。

 自分の沈んだ顔を見せる時間は早めに終わらせ、敢えて大きめの声を出して空気を入れ替えようとするパールである。

 自分のしょんぼりをプラッチにまで伝染させたら最悪だ、と空元気を出す姿は、プラチナ目線では嬉しい心遣いでもあろう。

 プラチナのように、頼もしく、相手の心と身体を助けることは出来なくたって、自分なりに何とかしようと頑張る姿はやっぱり憎めない。

 

 その後二人は、何度も何度も深みに嵌まりながらも、お互い快く助け合うままにこの湿地帯エリアを抜けていくのだった。

 特筆すべきはきっと、野生のポケモンが出没しないこの沼を抜けようとする間、二人とも連れのポケモンを一切出そうとしなかったこと。

 パールの手持ちにはトリトドンのニルルがいる。

 例えばパールが深みに嵌まったとして、泥に沈まないニルルに引っ張り上げて貰えれば、別にプラチナの助けは必要ないのだ。

 極論、小さな背中だがパールだけでもニルルの背中に乗せて貰えば、パールは靴を泥で汚すことなく沼越えを果たすことも出来るぐらいである。

 

 それらの発想は、二人には無かったのだけど。

 知識豊富なプラチナですら、それを思い付けなかったのは何故だろう。

 それはやっぱり、ポケモンの力を頼らずに進める道なら、二人で力を合わせて歩いていければいいな、という想いが深層心理にあったからかもしれない。

 そして現に、パールはプラチナに引っ張り上げて貰う時も、自分が一生懸命引っ張り上げる時も、大変ではあるけどどこか充足ある表情をしていたものだ。

 彼女は顔に出やすいから。パールほど顔に出やすくはないプラチナですら、助け合って進む旅路において表情は明るかった。

 

「よいしょ、っと。

 なんかもう、沼に嵌まっても全然動じない僕らがいるよね」

「あははっ、何度も嵌まっちゃってるもんね。

 次に嵌まった時もよろしくね? プラッチ」

「こちらこそ」

 

 旅人を悩ます湿地の沼も、それさえ楽しみの一つに変えられる無敵の旅人には、たいした障害になり得ない。

 パールとプラチナがそうあれるのは、きっと一人じゃないからだ。

 ポケモントレーナーにとっての最大のパートナーは、己が愛するポケモン達に他ならない。

 しかし、トレーナーであると同時に二人は、ただの少女と少年でもある。

 山あり谷ありの旅の中で、二人を支えるのはそばにいてくれるポケモンのみに限った話ではないということだ。

 

 プラチナとの出会いが無ければ、ナナカマド博士の提案さえなければ、プラチナのいない自分の足だけで歩いていく旅さえ想定していた、旅立つ前のパール。

 今はどうか。

 もう、プラッチがそばにいない自分だけの旅なんて、今さら想像できやしまい。

 きっとプラチナも、パールと一緒じゃない見聞の旅なんて、今より絶対につまらないと密かに言い切ってしまえるだろう。

 学者を目指す者として、一人のロードワークなんてつまらないという言い分に、未熟過ぎると言われようとも、プラチナだって自分の気持ちに嘘はつけまい。

 

 人は一人では生きていけない。そんな格言を当てはめるに足るほどの好例ではないだろう。

 だが、人は一人で生きていってもつまらない。

 ポケモントレーナーは、一人じゃないようにポケモンに補って貰える。

 だけど、そこに親しい友達がもう一人いてくれれば、ずっと、もっと、楽しくなる。

 何ら、当たり前のことである。

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