ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第52話   212番道路(夜)

 

 どうして、こうなっちゃうんだろう。

 

 212番道路の人が歩く道をはずれた山道を駆けてきた一匹のミミロルは、大きな木の根元に座って休みつつ、その一言で総括できる悔いに俯いていた。

 自分と同じぐらい足の速いパッチから逃げるべく、全力でここまで駆けてきて。

 激しい雨音だけが響き渡る森の中、滴りやまない樹上からの雫で顔を濡らしながら、ミーナはぎゅうっと唇を絞りながらその手も握りしめている。

 

 あんなこと、絶対にするべきじゃなかったのに。

 パールの脚を蹴ってしまった感触が、今も自分の脚に残っている。激しい雨でも洗い流せない、弱い女の子の柔らかい脚を蹴った感触。

 ぺたんと地面に座り込みながらも、脚に残る嫌な記憶とうずくまったパールの姿を思い返すたび、ミーナは雨に濡れた目元を新たに濡らしてしまいそうになる。

 

「――――」

 

「…………!?」

 

 人が歩ける道路を大きくはずれた場所、野生のポケモンもかなり多い。

 一匹のコロトックがミーナに近付いてきて、そんなところで何をしているんだと鳴き声を発してくる。

 敵意は無さそう。縄張り意識という強い感情ではなく、僕らのプレイスポットで何をしているのと問いかけるような態度に過ぎない。

 害意無き問いかけに、ミーナは他者の領分に踏み込んだ申し訳なさだけ感じ、返事もせずに駆けて逃げていく。

 コロトックや、彼が養うコロボーシも唖然と見送る中、ミーナはいっそう木々群がるその先へと逃げていくのみだ。

 

 走れば勿論、体力を使う。

 まして今日は、張り切ってパールと相対するトレーナーとの戦いに、積極的に参じてきたミーナである。

 溜まった疲労は足にも重く、そう長く走れないままミーナは歩き始め、間もなくへたり込むようにして息を整える。

 何をしているんだろう、私は。

 こんな所で独りぼっちで膝をつき、ずっとそばにいてくれた温かい誰かのことを脳裏に思い浮かべて。

 今になって、そんなあいつのことを思い浮かべる自分のことが好きになれず、長い耳の先を握りしめて、座り込んで丸くなる。

 

「……………………」

 

 どうしてパールは、あんなに私のことを見放さないんだろう。

 こっちだって、自分の言いたいことが通じないこともたくさんあって、やきもきすることはあるけれど。

 そのぶん、こっちの言葉を100%伝えられないことだってわかってるし、パールが困ってる顔をするのも理由もわかってる。

 自分が主張するたび悩ましい顔をするパールが、愛想を尽かして自分を嫌いになっちゃうことだってずっと覚悟しているぐらいなのに。

 そしたらお別れになっちゃうけど、私は前のように野生に戻るだけなんだし。

 パールが私と一緒にいたくないって思うんだったら、きっとお別れするのだってお互いのためになるはずだって思ってる。

 

 でも、お別れするのはちょっと嫌だなって思ってる自分が嫌だ。

 だってパール、優しくしてくれるんだもの。甘やかしてくれるんだもの。居心地がいいんだもの。

 好きなように生きてる私を、全部許して可愛がってくれる。

 それに甘えたくさせられる。私、どんどん嫌な奴になってる気がする。

 

「ミーーーナーーーーー!

 どこーーーーー!?」

 

 ううっ、来た。やっぱり探しに来るんだ。探しに来てくれるんだ。

 もう放っておいてよ、雨だってすごいよ?

 早く街に着いてあったかくしないと風邪ひいちゃうよ。

 私のことなんていいから、もう行っちゃってよ。私は野生に帰っても大丈夫なんだから。

 

 暗い森の中をパールから離れる方へ駆け、ミーナは見つからないよう、捕まらないよう距離を作っていく。

 二度と会えない遥か遠くまで至れぬまま、息を切らして立ち止まるのは、疲労ゆえなのか未練ゆえなのか。

 後者だとしてもミーナには自覚できない。今の彼女は、今の自分の姿をパールに見せたくないと、心の底から思っている。

 わがまま喚いて、家出同然にトレーナーのそばを離れて、ばつの悪さのあまり顔向けできないほどの気持ちに陥っている。

 

「パール……」

「プラッチお願い、手伝って。

 二手に分かれて探そう? 私は大丈夫だから」

「でも、脚が……」

「平気平気! ダイヤと遊んでた頃なんて、あいつに振り回されてもっと沢山ケガしてたんだから!

 そのたびダイヤのお母さんがダイヤのことこっぴどく叱ってくれたなぁ、懐かしいや」

 

 遠く離れた場所でのパールとプラチナの会話も、激しい雨音の間からでもミーナは聞き取ることが出来る。ミミロルは耳がいいのだ。

 そして、プラチナがパールの脚を心配している声を聞いたその瞬間、自分が犯した一番ひどいことを想い返したミーナが青ざめる。

 むしゃくしゃするあまり、かなり強く蹴ってしまったのは、蹴ったその瞬間にわかったことだ。

 うずくまって立てなくなったパールの姿の実像、それでも自分を探そうとしてくれているパールの想像、それがミーナの心をいっそう追い詰める。

 

 もう駄目、絶対駄目、あんなことした私がもうパールのそばにいていいはずがない。

 あぁ、でもお別れする前に、せめてそれだけはきちんと謝った方が……

 そんなの駄目、顔を合わせたら私は絶対泣いちゃう。それで、パールは私に怒りはするだろうけど、きっと最後は私を許そうとする。そんな人だもん。

 いや、もしかしたら、お前なんてもう嫌いだ、どっか行っちゃえって言ってくれるかな?

 その方が、いいような――――

 

 そこまで想像したら悲しくなってきて、垂れた耳を両手でぎゅうっと握るミーナ。

 もう、どうしたらいいんだろう。

 また一緒にいたい、でももう一緒にいちゃいけない。

 ごめんなさいって言いたい、許して欲しい、でも許されるべきじゃない。

 このままもう会えないぐらい遠くに行くべきだ、だけどそうしたくない。

 私って本当にわがままだ。嫌い、嫌い、パールのことじゃない、私のことがどんどん嫌いになる。

 

「――――z!」

 

「!?」

 

 降りしきる雨とは別のもので、目元がじわぁと滲み始めたミーナのそばへ、一匹のムクバードが降り立ってきた。

 敵意のある目だ。きっと、俺の縄張りに入って何をしてるんだという眼。

 身構えたミーナの前、もう一度鳴き声を発して威嚇してくる姿に、久しぶりに独りぼっちで外敵に見舞われるミーナもびくびくする。

 

 独りってこんなに心細かっただろうか。

 パールに会う前は、こういう敵に遭遇したら、すぐに勝てそうかそうじゃないか判断できて、攻めるか逃げるかがすぐに行動に移せたのに。

 どっちつかずで足の止まっている私は、もう野生の私じゃなくなってしまったんだと思い知らされる。

 

「――――z!」

 

「ッ……!」

 

 威嚇されても立ち去らないミーナに、ムクバードが翼を広げて飛びかかってくる。

 くちばしを突き出した攻撃を、ミーナはほぼ反射的に両手で塞いだ。

 手先を傷つけられつつも、攻撃を止めて耐えきり、押し返す仕草をするミーナにより、ムクバードはばさばさ翼を動かして千鳥足でたじろぐ。

 野生のミミロルだった頃の彼女には出来なかった力技の押し返しに、ミーナは自分が昔より強くなっていることも思い知らされるというものだ。

 やった、今の私ならムクバード相手でも――という喜びではなく、こんなに自分を強くしてくれたパールに私は――という呵責ばかりが胸を裂く。

 

「パッチ、行ってみて!

 もしかしたらいるかも!」

「――――z!」

 

「…………!?

 ッ――――!」

 

 このまま何とかムクバードを撃退しようかと思っていたミーナだったが、今のムクバードの大きな鳴き声に反応したらしい声を聞きつけて焦る。

 だめだめ、見つかっちゃう。パッチは足が速いし、見つかっちゃって追い回されたらきっともう逃げられない。

 ムクバードから、それ以上にパッチから逃げるべく、ミーナは慌ててその場を去っていく。

 

「はぁはぁ……パッチ、どう?

 ミーナ、いた……?」

 

「――――」

 

「あ、あっちの方にいそうなの……?

 うん、わかった、行ってみよう……!」

 

 しばし遅れて、ミーナとムクバードが遭遇した場所に駆けつけたパッチは、一度ムクバードと睨み合ったが。

 ひとまず威嚇対決でパッチの方がムクバードをたじろがせるに至る。野生のムクバードも、明らかに自分より強そうなルクシオ相手だと出方が悩ましい。

 しかしパッチは、きゅうきゅう鳴き声を発してムクバードに語りかけ、縄張りに踏み込んでごめん、すぐに行くから話を聞いてと穏やかに会話し。

 ミミロルが来なかった? という問いかけに対し、ムクバードはあっちに逃げたよと翼で示した。

 ありがとう、すぐに行くからね、とぺこりしたパッチに、だったらまあいいよとムクバードも息を吐き、ひとまず樹上に羽を休めに行ってくれた。

 それからパールがパッチに追い付いたのだ。どういう経緯でパッチがミーナの行く先を知り示しているのかわからないが、信じてパッチと一緒に森を行く。

 

 うう、多分あのムクバードが行き先を教えたんだ。

 パッチの足音がすごい勢いでこっちに来る。パッチは目がいいから、近くに来られたら絶対見つかっちゃう。

 どうしようどうしよう、もう走れないよ。逃げきれない。

 見つかっちゃったら絶対パッチは逃がしてくれないよ。

 

 おろおろしていたミーナだったが、起死回生の閃きで樹をよじ登っていく。

 地上にいたら絶対パッチに見つかってしまう。だけど、樹上にいれば見上げられない限り見つからないし、凌げるかも。

 疲れた両手と両足で、急いでよじよじ樹の上に登っていくミーナも必死である。

 

「ミーナーーー……!

 どこにいるのーーー……!?

 返事してよぉ~……!」

 

 危ないところだった。

 高い所に昇ってから見下ろしてみれば、ほんのついさっきまでミーナがいた所にパッチが辿り着いている。

 すんすん鼻を動かして、少しでもミーナの手がかりを探そうとしている。雨が降ってるから、匂いで探すのも難しいだろう。

 お願い上だけは見ないで、私を見つけないで。

 そう祈りながらぷるぷる震えているミーナだったが、パッチに追い付いてきたパールの姿が、ミーナにとってはショッキングで胸が苦しくなるほどのもの。

 

 樹上から見下ろすミーナには、帽子と後ろ髪だけが見える、うつむき息切れした疲弊しきりし姿。

 そしてそれ以上に、ミーナに蹴られた足を引きずって、歩くことさえつらそうなのが見るも明らか。

 自分がしてしまったことが、今どれほどパールにつらい想いをさせているのか目の当たりにしたミーナは、顔面蒼白でまばたき一つ出来なくなる。

 

「ミーナぁー……どこーー……!?

 勝手にどこか行っちゃ、嫌だよぅー……!」

 

 息切れしながら必死に声を出すパールの姿に、ミーナまで泣きたくなってきてしまう。

 絶対駄目、パールは絶対私のことを責めるより許そうとする。

 そんなのおかしい、絶対おかしい、私は絶対やっちゃいけないことをやってしまった奴だ。

 どんどん合わせる顔が無くなってきて、これだけ求められているのに動けないミーナは、こんなに近いのにパールと再会できない。

 会いたいと願ってくれているパールの姿が、いっそうにミーナの胸を締め付けても、求められる行動に移ることが出来ないのだ。

 

「~~~~」

 

「!?!?」

 

 ふと、そんな時である。

 樹上で背中を丸めていたミーナの肩を、誰かが後ろからちょんちょん叩いてくる。

 びっくりして振り返ったミーナだが、そこには一匹のフワンテがぷかぷか浮いている。

 

「~~~~?」

 

「――――、――――――……!」

 

 なんだおまえ、あっちいけ、しっしっと、足場の悪い樹上で手をばたばたするミーナ。

 声は出せない。下にいるパール達にバレちゃうかもしれないもの。

 無言で鼻息荒くふんすふんすして、フワンテを追い払おうとするミーナである。

 

「~~~~」

 

「――――z!?」

 

 なんかどこかで見たことあるフワンテだな、とミーナが考えかけた直後のこと。

 小さいお手々のフワンテが、どんっとミーナのことを押してきた。

 そんなに力は強くないが、この不安定な場所で押されるとバランスが崩れ、ミーナはあわあわしながら枝を掴む。

 ぶらさがった形に。やばいやばい、今パール達に見上げられたら見つかっちゃう。

 

「~~~~♪」

 

「――――~~!?」

 

 その捕まってる手も、フワンテの両手であっさり剥がされた。

 ちょっとー!? ってな鳴き声をあげて落ちていくミーナ。高い場所からの落下だが、元々跳躍力のあるミーナ、高所からの着地は得意な方。

 望まぬ形の落下でも、きちんと足を下にして土の上にのしんと着地完了である。

 

「~~~~……!」

 

「!!」

「えっ!? ミーナ!?」

 

「!?!?!?

 ――――z!」

「――――――――z!!」

 

 真上でふわふわ漂っているフワンテを、よくもこのやろうと見上げて睨みつけるミーナだが、あなたが立っているのはパールとパッチのすぐそば。

 探していたミーナが突然上から降ってきて、自分達の前に姿を見せたので驚かされたのはパール達の方である。

 やばい、と悟って逃げようとしたミーナだが、すぐにパッチに尻尾をくわえられ、脚だけ前に言ってお尻を土のうえにべちゃん。

 反応の早いパッチである。逃がさない。

 

「~~~~っ、こらっ! ミーナっ!」

「…………!」

 

 初めてパールに強い声で迫られることになったミーナは、びくっとして両耳を握りしめ、丸くなって震え始める。

 ああ、やっぱり怒ってる。ごめんなさいごめんなさい。

 すっごく怒られることを、蹴ったんだから頭をばちんされることさえ覚悟して怯える姿は本当に、悪いことした子供の姿によく似ている。

 

「そんなに震えて! 寒いに決まってるでしょ!

 ほら、あっためるよ!」

「ッ…………?」

 

 そう言うとパールはミーナを抱きかかえ、痛む脚でひょこひょこ歩いて大きな木の根元に座り、まずはその大樹に背中を預ける。

 そしたらなんと、自分の服をめくり上げて、自分のお腹にミーナの顔をぎゅうっと押し付けるのだ。

 戸惑い目をぱちくりさせるミーナだが、パールは女の子座りした膝の上にミーナのお尻を座らせたまま、ミーナの両手を自分を抱きしめさせる形にする。

 びしょ濡れのミーナの体と体毛を、自分のお腹と背中にぴったりつけたパールは、ミーナに見えない位置で少しだけ歯を食いしばった。

 そりゃあ、びくっとするぐらい冷たいんだもの。一気に体温を持っていかれる。

 

「~~~~、~~~~!?」

 

「もうっ、ほんとに心配したんだからね!

 ミーナだって、風邪とか引くかもしれないんだよ?

 こんな天気の時に離れていっちゃ駄目っ……!」

 

 なんでこんなことされてるのかわからないミーナはもごもごするが、逃がさないとばかりにミーナの頭を両腕でぎゅ~するパール。

 声は、少しだけ震えていた。

 寒さや冷たさからくるものではなく、ミーナと会えたことへの安心から、張り詰めていたものが切れたせいなのだろう。

 雨に濡れた彼女の目元が、自分のもので滲んでいたかは見てもわからないけど、近いものはあるだろうなとはその表情からパッチも窺い知れている。

 

「…………」

 

「……あと、そうだっ!

 よくも蹴ってくれたな~っ!!」

 

「~~~~~~~~!?!?!?」

 

 しかし、流石にあれが全くのお咎めなしとはならないようで。

 抱きしめたミーナの頭を、パールがその両腕で力強くぎゅううう。シメる。

 さすがに痛苦しい頭絞め、ミーナもぺちぺちパールの背中を叩いてやめてやめての抵抗。

 自分が悪いことをしたせいだとはわかっているので、ぺちぺち叩きも弱め。

 

「ごめんなさい、は?」

「~~~~……!」

「うりうり、ごめんなさいは~?」

 

 ミーナの顔を自分のお腹にぬらぬら押し付けるようにして、くすぐったさも手伝ってパールは少しずつ笑顔とその声を取り戻しつつある。

 もごもごしながら、謝るから謝るからという風に顔をこくこく上下するミーナの反応に、初めてパールは勝ってる気分。

 元々、いっつもけちょんけちょんにしてくるミーナだもの。たまには勝っておきたい。

 

「パッチ、プラッチを呼んできてくれない?

 ミーナ見つかったよ、って伝えたいからさ」

「――――z!」

 

 気立て良い返事をしたパッチが森を駆け始め、プラチナに届くよう鳴き声を上げる。

 すぐにプラチナと合流できるだろう。そうなれば、プラチナだってすぐこっちに来てくれる。

 山探しは概ね解決した。腕をゆるめてほっと息をつくパールの前、パールのお腹から顔を放したミーナがこちらの顔を見上げてくる。

 ここまでの至近距離で見るのは初めてかもしれないミーナの顔、その目もまた初めて見る色で、しおらしくパールを見つめる申し訳なさそうな顔である。

 

「私、大丈夫だよ。ミーナのこと大好きだもん。

 ケンカしたっていいじゃん、何でも言いたいこと、思ったこと、全部言ってくれて、行動してくれていいんだよ。

 ミーナの言葉はわかんないけど、何もしてくれなかったら、ほんとに何にもわかんないからさ」

 

 ただ優しく微笑んでそう言ってくれて、頭を撫でるパールを目の前に、ミーナはちょっとうつむいた。

 本当、ダメにされそう。パールの優しさって、私をダメな奴にしていく優しさだと思う。

 そんなパールにまだ見放されず、可愛がって貰えることを、やっぱり嬉しいと感じてしまう辺り、私はもうダメにされてるんだろうなとミーナも感じるばかり。

 

「わわ、なになにミーナ、くすぐった……」

 

 ミーナが自分の蹴ったパールの脚を、その手でさわさわと撫でる。

 けっこう腫れてる。やっぱり、強く蹴り過ぎたのだ。くすぐったいと言ってはくれているが、もう少し強く触ったらきっとパールは短い悲鳴すらあげるだろう。

 ミーナはお尻をずらしてパールの膝の上から降りると、座り込んでいるパールの前に、彼女を見据える形で一度立つ。

 

 みぃ、という小さな鳴き声とともに、ミーナはパールに向けて深く頭を下げた。

 ごめんなさい、のジェスチャーであることは、パールにだってよく伝わっただろう。

 元々許すつもりだったパールも、こうしてしおらしくきちんと謝るミーナの姿を前にすると、そうしてくれる嬉しさが勝って、責める責めないどころじゃない。

 コミュニケーション一つも困難だった相手と、こうしてしっかりした意思疎通を叶えられているのだ。感慨深いものすらあろう。

 

「うん、わかった。

 おいで、ミーナ♪」

 

 両手と胸を開いて受け入れる姿勢を見せてくれるパールに、ミーナはもじもじしながらも歩み寄り、再びちょこんとパールの膝の上に座る。

 再び自分の服をめくり上げたパールが、お腹にミーナの顔を抱き、ミーナの手も自分の背中に回すよう導く。

 雨で冷えても、人肌は温かい。ミーナとパール、冷えた体同士でもひっついていれば、内側からの温かさがじんわりと滲み出る。

 冷えていたミーナの体をパールの肌のぬくもりが温めてくれて、対するパールは発熱しないミーナの毛皮の冷たさに、ずっと肌を直接冷やされ続けるけれど。

 心地良い温かさに、きゅっと抱きしめる力で肌を擦り合わせてくるミーナの前では、絶対放さないの意志で微笑みを浮かべるのみだ。

 

「パール~! 見つかった!?」

 

「あっ、プラッチ……!

 え、えとえと、あのっ……くるな~!」

 

「えっ、なんで……

 うわわっ、何してんの!?」

「みるな~!!」

 

 パッチが呼んできてくれたプラチナだったが、パールの姿を見るや否やびっくり仰天。

 自分の服をめくりあげてミーナの顔を素肌で抱きしめる姿は、胸やお腹こそミーナの身体で隠しているが、上半身裸みたいなものである。

 見られちゃいけない場所はきちんと隠れていながら、下手をすると裸よりもえっちぃ恰好なのでプラチナも慌ててパールに背を向ける。

 自分がそういう姿な自覚があるパール、絶対見るなと叫ぶ声も必死である。

 

「いまミーナをあっためてるの!

 終わるまで待っててよ! あと絶対こっち見るなっ!」

「わかった、わかったから……わかってるから……」

 

 だいたいパールのやりたかったこと、今やっていることの真意を理解して、プラチナもたはぁという気分である。

 本当、突拍子もないことばかりする友達なんだから。

 あなたも大変ね、とプラチナを励ますような息遣いを、彼の顔を覗き込んで見せてくるパッチは、今のプラチナにとってはささやかな理解者であった。

 

 ひと悶着はあったけど、こうして再びミーナとも再合流できて一件落着だ。

 あたためタイムを適度な所で切り上げると、再び212番道路を抜ける旅の再開。

 脚の痛むパールがひょこひょこ歩くので、見かねてピョコがボールから出てきて、パールに背中に乗れと示してくれた。

 身体をなるべく揺らさないように、のしのし進んでくれるピョコの甲羅の上でパールは、やっぱり私は友達に恵まれてるんだなと幸せいっぱいの気分。

 ありがとうピョコ、と彼の頭を撫でるパールの表情には、あるはずの脚の痛みさえ気にならない、満たされた幸福感の方がずっと大きかった。

 ミーナがボールに戻らずに、ピョコとその背に乗るパールのそばを、一緒に歩きたがっていたことも、今日の特筆点の一つと言えるだろうか。

 

 長い212番道路だったし、すっかり夜になってからのことながら、パール達はそれを抜けきり、ヨスガシティに辿り着くことが出来た。

 雨の上がっている空のした、ずぶ濡れ二人は街を歩くのがちょっと恥ずかしくもあったが、ポケモンセンターにまっすぐ向かう。

 何のかんので疲れの溜まる一日だった。ミーナ探しに限らず、沼に何度も嵌まって抜け出すことにも体力を使って。

 温かいお風呂で雨と泥を流し、洗濯して乾かした服を着て、さっぱりほくほくの身体で夕食を食べて、あとは眠りにつくだけだ。

 ナタネさんといっぱい話したいことがあったパールも、今日は電話こそしたものの短めの通話とし、早めに眠りにつくのだった。

 今朝、寝坊してしまったことへの負い目はまだ少し残っていたのかもしれない。

 

 以前訪れた時は、ヨスガジムのジムリーダーが遠出していたため、この街におけるジム挑戦はお預けとなった。

 そろそろ今日ほどにもなれば、ジムリーダーも帰ってきているはずだ。

 明日はいよいよ一度見送ったジムへの再挑戦だと、パールはわくわくしながら眠りにつくのだった。

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