ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第53話   ヨスガジム

「ハーイ! お待ちしておりました!

 あるいはお待たせしたのはワタシの方でしょーか?」

「あははっ、そんなことないですよ。

 その間に、私も他の街を回ってバッジを集められましたから!

 今日はよろしくお願いします!」

「フフッ、気持ちのいいお返事デース!

 いいでしょう、今日は心ゆくまで真剣勝負デース!」

 

 元気いっぱい、気合充分。

 一度お預けされたこともあり、やっとこの日が来たという想いめいたものを抱え、パールはヨスガジムを訪れていた。

 

 バトルフィールドの真ん中で、ジムリーダーの"メリッサ"と強く握手を交わし、これから始まる熱戦に向けて両者の胸も熱を帯び始める。

 紫色のドレスに身を包み、髪型も派手に四つ分かれに括ったメリッサの姿は、ジムリーダーらしく見えるよりもコンテストのプロの出で立ちと見えやすい。

 しかし、手を結び合える距離で向き合えば、メリッサは微笑みつつも、そう簡単にバッジは渡しませんよという強い眼を返してくれている。

 らしからぬ風貌で見誤ってはならぬ、挑戦者を迎え撃つに相応しきプライドを持つジムリーダーであることは、対峙してみれば明らかだ。

 

 ヨスガジムの、ジムリーダーと挑戦者が鎬を削る舞台となるバトルフィールドは、障害物の全く無い平面フィールドだ。

 しかし趣は、やはりジムの特色を主張するように癖がある。

 広大かつ平坦なフィールド全体ながら、真ん中広くが強いスポットライトで照らされており、トレーナー同士が立つ所も小円にして同様の照らされ方。

 小・大・小の三点が天井からの強いスポットライトで照らされ、ポケモン同士がぶつかり合う場所が広く、トレーナーが立つ場所は狭く照らされるという形だ。

 その三点以外は真っ暗闇。バトルフィールドを照らすスポットライトは上手く光を絞られており、照射する場所以外は闇に包んでいる。

 この闇は、双方どのように活用しても構わない。闇の中も障害物は無く平坦だ。

 

「そういえば、昨日一緒に来たお友達はどうかしましたか?

 今日は応援に来ていないようですが」

「あ~、えぇと……プラッチは……」

 

 さて、こうして五度目のジム戦に臨むパールだが、これまで必ず彼女の檜舞台を観戦してくれた彼の姿が無い。

 不思議がるメリッサに、パールはなんだか居心地悪そうに、今日はプラチナが来ていない理由なるものを説明しておく。

 

 パールとプラチナが212番道路を越え、ヨスガシティに到着したのは一昨日の晩。

 昨日は朝一番でジムに訪れこそしたものの、ジムリーダーのメリッサに挑戦する前の、ジム生達との手合わせのみに留めたパール達である。

 ジム生達を撃破するのが午前中に済んだので、一旦ポケモンセンターで休んで夕頃に挑戦、という流れでも良かったのだけど。

 どうもパールの顔が赤く、少し熱っぽく見える姿だったので、プラチナから強めの待ったがかかったのである。

 考えてみれば前夜はびしょ濡れ、そのまま長時間過ごしていただけあって、いくらすぐにお風呂でよく温まったとはいえ風邪を引いてもおかしくなかったのだ。

 そんな調子でジム戦なんてして、明日本格的に風邪引いたら大変だよ、というプラチナの強い主張により、メリッサとのバトルを今日に移したのである。

 まあ、一日休んだ方がパールのポケモン達にとっても健康的だし、賢明な側面の方が目立つ判断だろう。

 

 さて、それはいいのだがポケモンセンターに帰ってから、プラチナが世話を焼いてくれる焼いてくれる。

 明日は大事な日なんだからと。万が一にでも風邪をこじらせちゃ駄目と。

 泊まり部屋の空調を調整してくれるわ、念の為にと漢方薬みたいなものを買ってきてくれるわ、お粥まで作ってくれるわ。

 簡単なものとはいえ普通に料理してくれている。パールの知らなかったプラッチの、えらく家庭的な一面が垣間見えたというものだ。

 差し出されて渋りながら口にした漢方薬はお味最悪だったが、そのおかげで今日は熱っぽさも無く、体調万全でジム戦に挑めているとも言えるかもしれない。

 

 そして、今日はプラチナが熱を出してダウンしたのである。

 プラチナもパールと同じように、一昨日のずぶ濡れを味わった身ながら、昨日パールのために色々奔走しまくった結果なのだろう。

 今はポケモンセンターでお休み中。おいたわしや。

 パールをジム戦に万全の状態で送り出すために、自分が風邪を全部持っていくとは、献身ここに極まれり。

 

「んん~、あなたのお友達はいいヒトですね~。

 もしかして、あなたのお嫁さんですか?」

「あの、プラッチ男の子なんで」

「世界は広いデース。

 女性の旦那さんに男性のお嫁さんが嫁ぐことだってあるかもしれまセ~ン」

「めちゃくちゃですよ、それ」

 

 専業主夫とかそういう話をしたいのかもしれないが、微妙に変な言葉の使い方のせいでわけのわからないことに。

 まあ、完全に冗談と聞こえるメリッサのこの語り口の方が、パールにとっては都合が良かったかもしれないが。

 もしも、彼はあなたのお婿さんですか? なんて形で冗談をかまされていたら、ちょっと想像してしまってどきっとさせられたかもしれない。

 大事なバトルの直前に、あまり雑念は望ましくもなかったので。

 

「さて、始めましょうか。

 ルールは3対3デスよ?

 バッジを4つ集めてきたアナタなら、慣れてきているかもしれませんネ?」

「はいっ、もう3対3は四回目ですから。

 ちゃんと出す順番もイメージしてますし、展開次第で出す順番を変えるイメージもバッチリです!」

「エクセレント!

 もはや若きルーキートレーナーと見くびっていては、アタシの方がイのナカのカワズにされてしまいますね!」

「負けませんよ~!」

 

 メリッサは生まれがシンオウ地方でなく、かなり遠くの外国だ。

 流暢に語れるほど現地の言葉を身に付けはしながらも、細かい所で粗がある。

 井の中の蛙じゃなくて、才子才に倒れるとかそういうことを言いたいのだろう。油断していると私が負けてしまうかも、的な。

 誰か突っ込んであげればいいのだけど、パールはそもそも意識していない。

 やる気満々な上、メリッサが闘志をあらわにしてくれているのはわかるので、細かいことはどうでもよくなっちゃっているらしい。

 

「それでは、お遊びはここまでデスよ!

 オンステージ!」

「はいっ……!」

 

 ウインクしてパールのお喋りは終わりと主張すると、メリッサはパールが立つトレーナーエリアを指し示す。

 モデルのような体型での優雅な仕草は、流石にポケモンコンテストの第一人者として全国的にも有名なだけある。

 しかし示されたエリアへと歩いていくパールは、深く息を吸って吐いてを繰り返し、昂る気持ちを抑えることでいっぱいだ。

 常に見所たり得るメリッサの雅な仕草や挙動も、一つの山場を迎えて緊張しているパールの心や目だけは奪えない。

 

 こうした格上挑戦は、パールのような自身不足の子にしてみれば、何度経験しても慣れないのだろう。

 5度目のジムリーダー戦でなお、少し歩み足の硬いパールの後ろ姿を見たメリッサは、その初々しさにくすりと笑う。

 いいじゃないか、挑戦者というのはあれほどまでに緊張するのだ。自分にもそんな頃があったとメリッサも想いを馳せられる。

 そんな当時の自分がいくつかのことを成し遂げてきたように、若くして大願に挑む志は、挑まれる側の想像を超えることを成し遂げることもある。

 挑み、挑まれた、その経験すべてが、メリッサにそう学ばせてくれたことだ。

 

 双方トレーナーエリアに立ち、振り返ったパールの真剣な眼差しをバトルフィールド越しに見たメリッサは、この高揚感こそ堪らないと言って憚らない。

 わくわくする。各地を巡り、バッジを4つも集めてきた挑戦者。どんなに年下で可愛らしくたって強いに決まっている。

 挑む者達の高みを目指す魂の熱さもさることながら、迎え撃つ者達には迎え撃つ者達の、何度だって経験したくなるこの胸の熱さがある。

 8人の彼ら彼女らはみんなよく言うのだ。ジムリーダーはやめられない、って。

 

「さあ! 参りましょう!

 あなたの全てを、この戦いで披露してみせて下さいね!」

「はいっ!!」

 

「セットアップ! フワライド!」

「パッチ! 任せたよ!」

 

 両手で握りしめたボールのスイッチを力いっぱいに押すパールと、高々と投げたボールから先鋒を繰り出すメリッサ。

 高所に漂うフワライドを、まずはそれを見上げるパッチが強い声で威嚇したことに、二人の勝負が幕を開けていた。

 

 メリッサは、ゴーストタイプのポケモンの使い手だ。

 パールが選んだ3人も、それに対抗する策をちゃんと考えてのもの。

 高い場所に浮かび、そう簡単にパッチに接近戦を許すまいとするフワライドのポジションだが、パールに動じる気配は無い。

 

「レッツゴー、フワライド!

 コンベンショナル!」

 

「パッチ、まずは凌いで!

 最初は我慢の時間だよ!」

 

 特有の指示を出すメリッサだが、その単語が意味するところは"いつもの"というところ。

 出てきてこの構図ならまずこの技、という指示をしっかり理解したフワライドは、身体を震わせ全方位に向けて強い風を吹かせた。

 

「ひうっ……!?

 な、何これぇ……!?」

 

 "かぜおこし"だろうか。いや、その余波を受けたパールが、思わず鳥肌を立てて身震いするその風は、ただの風起こしによるものではない。

 風の強さや冷たさではなく、嫌な風音や肌の撫で方で受けた者に身の毛よだたせる、"あやしいかぜ"と呼ばれる技だ。

 あらゆる方向へその風を発するフワライド、駆けるパッチもある程度風の流れに身を乗せて寒気を凌いでいるが、完全なる回避は不可能な攻撃だ。

 余波を受けた程度でパールが縮み上がるこの風、バトルフィールドで受けるパッチには、寒さと痛さとおぞましさで肉体的にも精神的にも効く。

 

「さあ、どうしますか!?

 何も出来ずに黙って受け続けるだけでは、一方的な展開になりますよ!」 

「パッチ、そのままそのまま!

 絶対にチャンスは来るよ!」

 

 高所を確保し降りてこないフワライドによる、パッチに直接攻撃を届かせない位置からの遠距離攻撃。

 浮遊が出来て飛び道具を持つというのは、それだけでかなりの強みである。

 きちんとそれに対する対策を編み出してきていないトレーナーが、こうしたポケモンを前にして完封されてしまうことも珍しくはない。

 

 しかし、このまま自分の言ったとおりの展開にはならないだろうと、メリッサだって思っている。

 パールの指示には迷いが無い。絶対に何か仕掛けてくる。いや、今すでに仕掛けているのだろう。

 ジム生とのバトルで、浮遊能力を持つフワンテの使い手ともバトルしたパールだ。こんな相手が立ちはだかり得ることを想定していないわけがない。

 

「~~~~……!」

 

「ンっ!?

 フワライド、バッドコンディションですか!?」

 

「効いてるよパッチ!

 でも、焦らないで!」

 

 身体を震わせ妖しい風を発し続けていたフワライドだが、メリッサはその震え方の中に、僅かな苦悶があることをすぐに見抜いた。

 つぶらなお目々を少し細める、そんなフワライドの顔を見ずしてだ。

 そして現に、パッチが跳び付こうとしても届かないほどの高所にいたフワライドが、重たいものを背負わされたかのように少しずつ高度を下げている。

 ちょうどそんなフワライドの真下にいるパッチの体が、ばちばちと放電しているのは、強いスポットライトの光で照らされたフィールド上では目立たない。

 

 相手のポケモンを麻痺状態にする"でんじは"という技があるが、パッチが発電するとともに発している磁場は、そうした技より微弱なもの。

 しかし、高く離れたフワライドにびりびりと身体が痺れる感覚を強い、高所に位置を保つのを苦しい状態にさせている。

 どんなポケモンだって、望む自らの高度に保つためには、翼に限らず何らか自らの力を用いて浮力を作っているものだ。フワライドもそう。

 "まひ"させられてそれが続くほどではないにせよ、パッチが磁場を放つ限りは、安全地帯をキープし難くなるこの痺れ。

 うんうん踏ん張るように上を向くフワライドだが、徐々に高度を下げていくフワライドはパッチの飛びつける射程圏内に近付いていくのみだ。

 

「これは捕まるのも時間の問題デスね……!

 ですが、フワライド! もっと、もっとデス!」

 

「ひゃうぅ……っ!

 ぱ、パッチ、耐えて耐えて一気にいくよっ……!」

 

 手のような四枚の羽をぱたぱたして、なんとか落ちまいとしつつも硬度を下げ続けるフワライドだが、ならば襲いかかられるまでの時間いっぱいを攻撃に。

 フィールドいっぱいに妖しい風を再び発するフワライドの攻撃は、高度が下がったぶんだけより近い距離でパッチを苛む。

 パールを襲う余波もさっきより強い。体の芯までぞわつく。

 それでも明確な意図を以って指示を出すパールに、妖しい風に晒されながら尚ばちばちと火花を散らすパッチは、来たる好機を逃さぬ眼差しだ。

 

「"じゅうでん"デスね……!

 クレバーです……!」

 

「今だよ、パッチ! かみつけえっ!」

「――――z!」

 

 自らの内側にも強い電気を溜め込まんとしたパッチの行動は、耐え忍ぶべき局面で自らに活を入れ、我慢強さを自らに命じることを兼ねている。

 今も自らの全身を襲う妖しい風を前にして、身の内に迸る充電電力に奮い立つパッチは、受けるダメージへの意識より闘志が勝っている。

 単に気力でカバーしているだけではなく、意図し強い電力を"じゅうでん"するルクシオは、本当に我慢強さを発揮できるようになる。

 

「フワライド! フェードアウト!」

 

 地を蹴り牙を剥いて飛びかかるパッチだが、メリッサが指示したこととは要するに"ちいさくなる"。

 襲いかかるパッチの攻撃を躱そうとしながら、すんっと急激に萎んでサイズを小さくしたフワライドが、パッチが牙をがちんと空振り鳴らす結果をもたらす。

 

 突然小さくなるフワライドがまるで遠のいたかのように見える辺り、フェードアウトという指示でも間違いではないのかもしれないが。

 もしかすると、直訳してもすぐには何の技かわからないように、意訳お構いなしの指示を採用しているのかもしれない。

 発する指示で、相手のトレーナーに技を悟られないようにする言い回しは、他のジムリーダーもそこそこやっていることである。

 

「思いっきりいっちゃえ!」

 

「――――――――z!!」

 

 しかし、これから飛びかかるぞと予告して放ったも同然の初撃、躱されてしまうことはパールだって想定済。

 フワライドのそばを空中ですれ違う形になったその瞬間、内に溜め込んでいた電気をパッチが全身から一気に放出する。

 それは大きなダメージを与えるほどの電撃ではないが、至近距離でその渦中に含められたフワライドを、一時ながらきつく痺れさせることを果たしている。

 高所の敵を引きずり下ろす手段、それを狙い撃つ攻撃の選択、それを凌がれた時に備えた策。一人前のトレーナーらしく練った戦い方が出来ているではないか。

 

「エクセレント……!」

 

「パッチ、いけえっ!」

 

 やはり麻痺が残るほどではないにせよ、痺れから動きが止まってしまったフワライドへ、着地して直ちに踵を返したパッチが跳びかかる。

 萎んだ身体で噛み潰されては大変だ、と、せめてぷくっと身体を膨らませたことが、フワライドに出来る最大限の抵抗だった。

 がぶりと噛みついてフワライドを捕まえたパッチは、振り上げていた頭を着地と同時に振り下ろし、フワライドを床へ思いっきり叩きつけた。

 そしてなお、放さない。強烈な一打に目を白黒させるフワライドだが、未だパッチに捕われたままという危険な状況だ。

 

「クールに! フワライド!

 あやしいかぜデスよ!」

 

「~~~~!!」

「ッ、ッ……!」

 

 噛みつき捕えた、つまり至近距離。

 喉の奥まで入ってくる、身体を芯から凍らせにかかるようなフワライドの起こす風に、パッチもフワライドをぶん投げて逃げたくなる。

 それでも耐え、ぎちっと牙に力を入れて踏ん張るパッチは、捕らえたこの機を逃すのはもっと駄目だとよくわかっている。

 ぎりぎりと突き立てた牙で締め上げられるフワライドも、四本の羽をばたばたさせるほどには苦しんでいる。厳しいのはこちらの方。

 

「オーケー、サプライズですヨ!

 ビックリさせてあげましょう!」

 

「!!」

「――――z、ッ!?」

「はわ!?」

 

 少なからず怯みかけながらも耐えて顎に力を入れていたパッチだが、いきなりフワライドが瞬時に倍ほどのサイズに膨らんだのだからびっくり。

 はがっと口を強引に開かされる驚きにパッチが完全に虚を突かれ、その瞬間に身をよじって萎んで元のサイズに戻るフワライド。

 これまで多くの敵を捕らえて離さなかったパッチの牙から、フワライドが逃れ果たしたことにはパールも驚愕だ。単に急にでかくなったことにも驚いたが。

 "おどろかす"やり方にも色々ある。ばちりと嵌まれば窮地を凌ぐ妙手にもなる、フワライドの隠し技だ。

 

「~~~~……!」

「フワライド、もうひと頑張りデスよ!

 相手に負けないガッツを見せて下さい!」

「~~~~ッ!!」

 

「パッチ頑張って!

 全力でスパーク!」

「――――z!」

 

 傷ついた体で苦しそうに漂い離れていくフワライドだが、握り拳のメリッサが発する言葉で眼に強さを取り戻し、妖しい風を吹き荒れさせる。

 根性と執念に秀でたルクシオだ。だが、私だって負けちゃいないんだという意地がフワライドにもある。

 その姿に呼応するように、吠えたパッチが強く帯電した体で突撃していく姿もまた、骨身を包むおぞましげな風にも気圧されぬ勇猛たるものだった。

 

 元々物理的な攻撃を受ける頻度が他のポケモンに比べて低いゴーストポケモンは、物理的な激しい痛みに対する慣れがどうしても低くなりがちだ。

 牙を突き立て、なおもぎりぎりと締め上げる"かみつく"攻撃などが、ゴーストタイプのポケモンに与えるダメージは、身体的にも気力的にもかなり大きい。

 パッチに受けた攻撃は"かみつく"攻撃の一度ながら、叩きつけられ、さらに噛み絞め上げられたフワライドの限界は間近だったのだ。

 全力スパークの激突を受けたフワライドが、その一撃で戦闘不能に陥ることは、受ける前からメリッサにもわかっていたことである。

 

「サンクス、フワライド……!」

 

「えっ!?」

 

 激突されて強い電流を流されたその瞬間、小さな目を最大限までフワライドが開き、真っ赤になって膨らんだ。

 その瞬間に、フワライドを中心に発生した大爆発は、その爆心地に接した場所にいたパッチを吹き飛ばす。

 パールの所にまで届く強い爆風、それも火のように熱い熱風は、その爆発を至近距離で受けるパッチへのダメージを容易に想像させる。

 

「ぱ、パッチ……!」

 

「ッ……ッ…………」

 

 体内に溜めたガスのすべてを体表から発したフワライドは、へろへろとフィールドに降りて横たわり、メリッサによりボールに戻されていく。

 爆風に煽られて何度もフィールドに身を打ちつけながら、やがて止まって倒れたパッチも、立ち上がろうとするものの。

 今の爆撃によって受けたダメージは相当のもので、どんなに力を入れて立ち上がろうとしてもそれが出来ない。

 パッチだって何度もフワライドの妖しい風を受け、そもそもダメージは蓄積しているのである。これ以上は流石に無理がある。

 

「っ……パッチ、戻って……!

 ありがとう、よく頑張ってくれたよね……!」

 

 緒戦はフワライドの"ゆうばく"による相討ちという形で勝負が決まった。

 パッチをボールに戻したパールは、二人目を出すべきこの局面を、全く情報が無いまま迎えている。

 今までのバトルでは、片方のポケモンが戦闘不能になれば、そのトレーナーは相手のポケモンを見て次鋒を選ぶことが出来ていたからだ。

 二人目を出すこの場面で、相手がどんなポケモンを出してくるかわからないという、バトル開始時と同じ駆け引きを強いられるとは。

 よくあることではある。だが、実際に直面すると初めての時は戸惑う。

 

「――血も涙もない戦い方だと見えますか?

 ですがこれも、タクティクスですよ!」

 

「っ……いいえ、そんなことありません!

 負けられないのは、メリッサさんだって一緒ですもんね!」

 

「グレイト……!

 チャイルドではありませんね! アンビシャス!」

 

 二体目のポケモンを選び悩むパールの表情に、自爆技めいたもので引き分けを導いた自分を、ひどいとでも感じたかとメリッサは語りかけた。

 そうじゃない。ただ一方的に破られるだけに留めず、一矢報いて引き分けに持っていく戦法に、強い覚悟と決断が必要なのはパールにだってわかる。

 勝つためならば、相手のトレーナーをポケモンが放つ炎で焼き殺そうとまでする、悪の組織のやり方と一緒にするような非道なんかじゃない。

 むしろ苦しい中で尚、パッチと刺し違える形に持っていったフワライドの執念にこそ、パールは敬意に似た驚嘆を得ているぐらいである。

 

 どんなトレーナーにとっても、一戦一戦すべてが負けたくない、全身全霊を投じてでも勝ちにいきたい勝負である。

 メリッサもそうだ。そう易々とバッジを譲るような敗北など、若き大志の目指すべき目標とされるジムリーダーとして、そう簡単には叶えさせたくない。

 そしてメリッサもまた負けられないというのを、相手の立場に立ってパールが考えられるのは何故か。

 パールにだってジムリーダーとしての責任感は想像できるから? そんなわけがない、彼女にジムリーダーの気持ちなんて真にわかるものか。

 どんなバトルでも絶対負けないようにしたいと、常に全力で臨める、望み続けたパールだからこそ、相手もそのはずだと確信している。

 ほら、だから伝わってくるんじゃないか。このバトルにだって、彼女がどれだけ全身全霊を投じているか。

 ジムリーダー達はいつだって、こんな挑戦者をこそ待ち望んでいるのだ。

 

「さあ、早く次を!

 この熱く燃え上がるハートが冷めてしまう前に!」

 

「はいっ……!」

 

 迎え撃つ立場として無粋かとは思いつつ、メリッサは急かすことを耐えられなかった。

 もっともっと、ぶつかり合いたい。情熱を見せて欲しい。

 格上が挑戦者の決断の時間を待たず、考える時間を減らすよう求める不躾を厭わぬほど、メリッサはパールとのバトルに熱くならずにいられないのだ。

 それにパールが応えるように、迷っていたはずの次のボールをすぐ握ったのは、彼女もまたメリッサの熱き魂に胸打たれたから。

 尊敬に値する大人が、ジムリーダーが、こんなにも自分とのバトルに燃え上がってくれているのだ。

 心震えずにいられない。応えずにいられるものか。

 

「参りましょう!

 セットアップ! ゲンガー!」

 

「ピョコ! 頑張って!」

 

 握りしめた少女の手から喚び出されたパートナーと、もはや相手を単なる挑戦者とは見做さぬジムリーダーが投げ上げた先から現れたアークエネミー。

 ボールから飛び出してバトルフィールドに降り立った両者は、共に普段よりもいっそう強い眼光で、対峙した相手を睨みつけている。

 2対2で迎えた自分達のこの舞台が、勝敗を大きくする戦いだとわかっているのだろう。

 頑張れ、私の友達、アタシのフレンズ、そう言わんばかりに拳を握りしめるパールとメリッサの強い想いは、語るまでもなく二人の相棒に伝わっているのだ。

 

 もう四度目のジムリーダーとの真剣勝負、もう百回以上は経験してきた挑戦者とのバトル。

 何度やったって、強い相手とバトルするたびに熱くなる血は抑えられない。

 だからみんな、ずっと、大人になってもポケモントレーナーなのだ。

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