「フフフ、無念でしょうけどミステイクですね!
この勝負は、頂きましたよ!」
「……大丈夫だよ、ピョコ!
絶対、勝とうね!」
ピョコと対峙するゲンガーは、毒タイプを併せ持つポケモンだ。
ピョコが得意とする草タイプの技が効きづらく、タイプ相性は非常に悪い。
この辺りはパールとて、ジム生との勝負でゴースやゴーストをピョコで相手取る場面もあったため、元々の知識からのみならず経験でも痛感している。
相手の次鋒がゲンガーだとわかっていれば、ピョコを出すことはしなかったかもしれない。緒戦を引き分けで括られたのが響いている。
「ピョコ、たいあたり!」
「オホホホ、狙いが見え見えデスよ!
ゲンガー、まずはエスケープです!」
しかしピョコには、毒タイプ相手には有効ではないけれど、ゴーストタイプ相手には有効な技がある。
接近戦にさえ持ち込めれば――そんなパールの思惑は、ゴーストポケモンの使い手であり知識豊富なメリッサには知れたものだ。
ゲンガーは、駆け迫ってくるピョコからゆったりと後退しつつ、充分にピョコを引き付けてから、バトルフィールド外の闇の中に消えていった。
見えない場所に姿を逃がされては、ピョコもそれ以上追えずに立ち止まるしかない。
「"かみつく"、でしょう?
体当たりなんて、ブラフにしてはアマチュアですよ?」
「うぐぐ……!」
広大で平坦な長方形な一室、その中央部の広く円形をスポットライトで照らしているのが、ヨスガジムのバトルフィールドの特徴だ。
光は上手く絞られているようで、スポットライトに照らされる円形フィールド外は、境界線に区切られたかのように綺麗な真っ暗闇。
例えるなら、円形バトルフィールドと、不可視の場外と区切られているようなものなのだ。
地続きながら敵の見えない闇の中へ足を踏み入れられず、立ち止まったピョコが歯ぎしりする姿のみが残る。
「むしろあなたは崖っぷちデスよ……!
ゲンガー! アサルトです!」
そんな、スポットライトと闇の境界線近くにいるピョコは、ゲンガーにとっての絶好の狙い目だ。
メリッサの指示を受ける前から、ピョコの正面位置から場所を素早く移していたゲンガーは、ピョコの右側位置の闇から飛び出してくる。
ゲンガーの人相によく似合う自信げな笑みを含む口元、ピョコがはっとして振り返っても、相手の出所がわからず遅れて振り返ったのでは間に合わない。
「ッ――――z!?」
「ピョコ!
っ、つかまえて! かみついて!」
「ヒットアンドアウェイですよ! ゲンガー!」
強襲を意味するメリッサの指示の下、ゲンガーが選んだ攻撃手段は"どくづき"だ。
ピョコの苦手な毒タイプの技、それは甲羅横殴り越しに受けてなお、強固さが強みのピョコの表情を苦悶いっぱいにするほど痛烈。
その痛苦を想いつつも、敵が近くにいるこの好機を逃しちゃダメだと、かみつく攻撃を指示するパールはよくやっている方。少なくとも動転はしていない。
だが、怯んだピョコの動きに満足して退いたゲンガーは、ピョコの噛みつきを回避して再び闇の中へと姿を引っ込める。
痛打を受けて反撃ならず、こちらはダメージを抱えて相手は無傷。良くない出だしだ。
「さぁて、ゲンガー! ネクストアタックです!
かみつく攻撃が怖いですよ! わかりますね!?」
「うぅっ……ピョコ、来るよ!
絶対、敵の動きを見逃さないで!」
ピョコの目が届かない上で近い位置に逃げ込んだゲンガーに、次の一撃を示唆した指示を下すメリッサ。
これが、パールを焦らせる。身構えなきゃと思わせる。
パールにそう意識誘導させるためのメリッサの発言でしかなく、不測の状況に追い込まれた挑戦者を、ジムリーダーが心理戦で翻弄していると言える図だ。
相手が見えない闇の中に潜むこのシチュエーション、その闇のそばにいることなどデメリットしか無いのだ。
パールがピョコに発するべきベストの指示は、一旦退がって光に照らされたフィールドの中央側に立つこと。
それを咄嗟に判断させないための、メリッサの指示だったと言える。
「ゴー!!」
この指示は必要無かったのだが。ゲンガーの攻撃タイミングを指示の声で、相手にもわかるようはっきりさせるなんて。
とはいえ、これはこれでメリッサなりのジムリーダーたる矜持の一つ。僅か僅かのハンデだが、これぐらいは。
バッジ4つ持ちの挑戦者なので、心理戦も解禁するメリッサながら、幼いパール相手の心理戦なんて大人のメリッサには有利極まりない。
これぐらいは甘くする。パールがバッジ6つ以上なら容赦しなかったけど。
「!?
甲羅にっ……」
だが、そのハンデが致命的な反撃を許す気の緩みになるほど、メリッサだって甘すぎる気の抜き方はしていない。
闇の中から飛び出して襲いかかるゲンガーだが、その出所はピョコの正面位置、つまり敵との距離が近い、しかしながら高所位置。
前か、左右か、闇から駆け出て現れると思っていたゲンガーが、45度頭上から飛びかかってくる姿はピョコにとっても想定はずれのこと。
気付いて敵の方を向いて見上げた瞬間にはもう、ゲンガーはピョコの目前にまで迫っており、今さら回避も反撃も間に合わない。
そんな中、甲羅に頭を引っ込めるよう指示したパールの声が、ぎりぎりピョコが額を"どくづき"で傷つけられる結果を免れさせている。
ピョコが頭を引っ込めた甲羅に毒突きを当てたゲンガーは、さすがに硬いものを殴った感触に多少顔をしかめたが。
ちょっと痛い、とばかりに手を振りつつ、素早く闇の中へとバックステップで引き下がる。
ダメージを緩和させられたとはいえ、二度目の攻撃を受けたピョコ、相手は未だ無傷。良くない流れが出来つつある。
「ピョコ、照らされたとこの真ん中に戻って!
そこで戦っちゃ駄目……!」
「フフッ、気付きましたね……!
遅すぎた決断にならなければいいのでしょうけど……!」
二撃目の毒突きを受ける前にこうしていられれば、もっとよかった。
パールの指示どおりに動くピョコの姿を見ながら、パールは後悔しきり。
これはメリッサさんの言葉に焦り、翻弄され、この決断がもっと早く出来なかった自分のミスだ。
掌の上で転がされていたことに気付いたら、へこむよりもまず悔しい。
「ピョコ、まだ戦える……!?」
「――――z!」
「さあ、ゲンガー!
毒突きで弱った相手をクッキングする時間ですよ!」
弱った獲物をお料理とな。外国生まれで現地の言葉遣いの使い方が若干拙いせいか、なんだか悪役みたいな言葉遣いになってしまっておられる。
しかし状況はそのとおりで、二度も苦手なタイプの強撃を受けたピョコの衰弱ぶりは確かである。
闇から飛び出してきて駆け迫ってくるゲンガーに、ぐっと足元を踏みしめて迎え撃たんとする小さな挙動から、パールの目にはピョコが弱っているのは明らか。
「……はっぱカッター!」
「――――z!」
「苦しいですね!
ゲンガー、お構い無しでアサルトでーす!」
ピョコの持ち技の中で、対ゴーストで最も効き目のある技が、かみつく攻撃なのはパールもわかっている。
とはいえ距離のある場所から駆け迫ってくる相手に、ただ待ち構えるだけというのも間違い。
葉っぱカッターでの迎撃を指示して、毒突きの瞬間に噛みつき返せという意図のパールの目論見は正しいはずだ。
ピョコも利口で、葉っぱカッターの指示を受けつつも、接近戦ともなれば話も変わるんだろうという算段は立てている。
「アウェイ!」
「えっ!?」
「…………ッ!」
「シャドーボール!」
もっとも、近付いてくる相手を飛び道具で迎え撃ちながらも、毒突きに対するカウンターを構えている相手に、接近戦を仕掛ける道理もメリッサにはない。
もう少しでハヤシガメの待つ位置に到達する、という所で指示を出したメリッサに、ゲンガーも待ってましたとばかりに進行方向を折るサイドステップだ。
ピョコとの距離をある程度残したままの位置に移り、既に両手に溜めていたエネルギーを凝縮し、ピョコに向かって飛び道具として発射する。
ゲンガーの両手から放たれる黒い球体めいたゴーストエネルギーは、駆けだしていたピョコの額に着弾した。
そう、ピョコは駆けだしていたのだ。牙をちらつかせる自分の懐に、相手がわざわざ飛び込んでくるとは思わずに。
ゲンガーが自分から距離を作る動きを見せた瞬間に、その方へと駆けだしていたピョコの判断は、パールに言われて取った行動ではない。
己の額に着弾した瞬間、高密度のエネルギーが額で炸裂する重みに耐え、ゲンガーに急接近するピョコの挙動は、メリッサにもやや想定外。
「はっぱカッター!」
「ゲンガー! どくづきでイかせますよ!」
指示していないはずのピョコの行動だが、それにすぐ対応した指示を出せるパールだが、それはそれで強みである。
ずっと自分のポケモンに助けられて勝ってきた自覚のある子だ。予想外の行動を見せた自分のポケモンに、それが自分には見えなかった好判断だと信じて。
早かった指示はその甲斐あり、ゲンガーに回避を許さず無数の葉っぱカッターを当てる結果に繋がっている。だが、ダメージは小さい。
「かみついてえっ!」
葉っぱカッターの連撃を受けてでも、自らとの距離を詰めきったピョコの"かみつく"攻撃に身構えていたゲンガーだ。
身を逃がすが、その逃げた方向へすぐ舵を切って牙をちらつかせるピョコから、どうやら逃げきれそうにはない。
それなりの自己判断を見せつつも、なるほどやはりメリッサの言うとおりだなと、手に毒突きの力を込めるゲンガーの瞬時の判断も早い。
ゲンガーとメリッサの間にもまた、パール達とは違った形の信頼関係がある。
「ッ、ッ……、――――z!」
「――――!?」
先に入ったのはゲンガーの毒突き。
ピョコの額にゲンガーの爪めいた形の指先が、カウンター気味に突き刺さる光景は、パールの顔色がさぁっとしたものだ。
それでもここが踏ん張り所、ぎらっとした眼を一切伏せず、大口開けて前に出たピョコが、ゲンガーの腹部にがぶりと噛みついた。
噛みつかれた痛みだけで、ゲンガーが軽く怯む程度には、やはり噛みつく攻撃はゴーストタイプに特効だ。
「ピョコっ、絶対放さないでえっ!
思いっきりやっちゃえぇっ!」
「ゲンガー、リベンジですよ!
サヴァイヴのためです! 決死で!」
一度食らい付いてしまえばピョコの腹の括りようはメリッサも察するとおり。
毒突きを何度も受けた自分が、この至近距離で毒突きを放てるゲンガーを相手に、自分が最後に立っている結末を迎えられないこともわかっている。
負けても諸共、次に繋げるべく、このゲンガーに少しでも大きなダメージを。
前身を振り上げてでもゲンガーの重い体を持ち上げると、牙を抜かぬままにして地面に叩きつけ、少しでも大きなダメージを積み重ねようとする。
げは、と息を吐いたゲンガーであったが、このまま死兵に限界近くまでいたぶられてたまるかの意地を目に燃やし。
ぎらりと目を光らせて振るったゲンガーの爪先が、ピョコの頬にがすりと突き刺さる。無論、"どくづき"の一撃だ。
その一撃で顎の力が抜けそうになったピョコだが、遠のきかけた意識を引き戻し、いっそうぐっと噛み絞める力を取り戻して。
ゲンガーが苦悶の表情を浮かべる姿からも、ピョコの執念は確かなダメージをゲンガーに通し続けている。
「シャドークロー!!
ゲンガー! ノー・マーシー!!」
響き渡ったメリッサの声は、今日一番の強い声だった。
この局面に絶対に慈悲は要らぬと唱えたメリッサに応じ、牙を突き立てられたゲンガーはその爪で、ピョコの目元を切り裂いた。
反射的に瞼を閉じたピョコだが、今まで一度も傷つけられたことの無い場所を傷つけられれば、小さく呻いて口元の力も緩む。
その瞬間、両手でピョコの口に手をかけたゲンガーが、相手の口を開かせて抜け出て転がると、すぐに立ち上がって次の技を撃つ構えを見せている。
「シャドーボール!!」
目元を切り裂かれてなお顔を上げ、相手を見据えようとしていたピョコの執念は認められるべきものだが、そこに飛んできた攻撃は痛烈だ。
顔面に直撃したゲンガーのシャドーボールは、着弾と同時に炸裂する様を見せ、それが大柄なピョコの前身を浮き上がらせるほど。
ひっくり返りそうなところを耐え、なんとか前のめりに着地するよう後ろ脚で踏ん張ったピョコだが、前足で地面を踏みしめることは出来なかった。
腹ばいに屈したピョコの姿は、彼がもうこれ以上ゲンガーを相手に渡り合えぬことを、パールに確信させるには充分な姿である。
「っ……ピョコ、ありがとう……!
ごめんね……!」
ピョコのボールのスイッチを押したパールの判断は英断と言える。
まだ立ち上がろうとしていたピョコだが、もう戦えない体なのにそれを続けようとするポケモンは、トレーナーが自分の手で退くことを命じねば。
ピョコもパッチも、そういう性質が強過ぎる。もう無理な身体でも、パールを勝たせるためならまだやろうとする傾向にあり過ぎるのだ。
長くそんな彼ら彼女らとの付き合いの中、パールは退き所を直感的に身に付けられてきていると言えるだろう。
「オーッホッホッホ! これでアナタは後がありませんね!
さあ、どうしますか!?
ワタシのゲンガーはまだまだパワフルですよ!」
これ見よがしなほどの高笑いを見せて、パールを挑発するような言動を見せるメリッサである。
これは、そこそこのバッジを集めて自らに挑む者相手にならと、メリッサが解禁する精神揺さぶり攻撃の一つ。
相手もわかっているであろう、追い詰められた状況を復唱して精神的に追い詰める、心理戦の基本技とも言えよう。
仮にこのように自分優勢の流れになっていなくても、何か隙があれば言葉を用いて相手を揺さぶることを、案外ジムリーダーの皆様は厭わない。
まあ、相手がバッジ1つか2つ以下の初心者認定級トレーナーなら、こんなきつい精神攻撃はジムリーダーの皆様もしないのだが。
基本的にジムリーダーは未熟者には優しい。でも、皆様勝ちに行くすべには秀でている大人だから、その気になればやれちゃう。
例えばパールが大好きなナタネさんだって、もしパールがバッジを4つか5つ集めた後で挑む相手であったなら、こんな心理戦を仕掛けてきたかも。
ジムリーダーとは、トレーナー同士の舌戦を学ばせることも、挑戦者を鍛え上げる使命として掲げていたりする。
そこまで出来ないジムリーダーもいるけど。若過ぎるスモモとか。
「残る一匹のポケモンで、私のゲンガーをディフィート出来ますか!?
仮に出来ても、ワタシにはまだ切り札が残っていますよ!
さあ! さあさあさあ! やれるものなら、かかってきなさい!」
「うぅ、っ……」
パールはかなり苦しい逆境に置かれている。メリッサにこうして突きつけられるまでもないほど、わかりやすく苦境だ。
しかし、言葉にして突きつけられると重い。べろぉと舌を出して挑発的な顔を見せるゲンガーは、見るからに余力がある。
残る最後のポケモン一人で、このゲンガーと、残る最後のメリッサの一体を撃破できるものだろうか?
敢えて『諦めるなら今のうちですよ!』と言わないメリッサだが、それをパールに迫ることさえ、この状況を以って伝えているほどだ。
諦めたらどうですかと、はっきり口にしてしまうと若いパールに意地を張られてしまいかねないので、明言しない辺りメリッサも上手いものである。
諦めずに次のポケモンを考えるパールは、追い詰められた中で活路を見出さんとしているだけでも、挑戦者としての資格を失っていない。
だが、この状況を打破するには誰が適切? ニルルか、ミーナか。
どちらがゴーストタイプのポケモン使いのジムリーダー相手に、最適解なのだろう?
この状況、迷うべくもない中でボールに手を伸ばせないパールは、半ば勝利への道を見失った迷い子そのものだ。
(――――――――ッ!)
「あ……」
心の折れかけたパールの目を覚まさせてくれたのは、自分を出せと、ボールの中で身体をわめかせ、そのボールを揺らした子。
鞄の中からのその反応に、思わずそれを手にしたパールだが、その隣にあるもう一つのボールは揺れもしない。
ピョコとパッチを失ったパールの鞄の中、まだ戦える力を残した二人の家族。
そのうち片方が、私を出せと強く主張する中、もう片方がそうすべきだとおとなしくしている姿は、鞄の中を見るパールに与えられる解答だ。
あなたの選ぶべき正解はこっちだ。
それは、それが選ぶべきものだと思っていたパールの考えと一致するものであり、肯定してもらえたように感じられたパールに勇気をくれる。
諦めてなるものか。ギブアップなんて、最後まで戦わずにやるべきことじゃない。
「む……」
「……メリッサさん! 私、諦めませんよ!
絶対、あなたに、今日、勝ちたいんです!
諦めて、今度勝てばいいやなんて絶対に考えたくありません!」
鞄の中から最後のポケモンが入ったボールを掴み取り、メリッサに向けて強い声を発するパールの真意は何か。
一つは、折れかけていた自分の心を奮い立たせるため、このバトルに臨んだ自分の初心に喝を入れるため。
そしてもう一つは、これから出す自分にとっての切り札に、私は諦めてないよと力強く伝えるため。
これほどの劣勢にありながら、その想いの丈を口にするパールの姿に、真意二つを察したメリッサもぞくぞくしてくるというものだ。
舌戦は大人の専売特許だろうか。そんなはずはない。
きっと心理戦のいろはも知らぬであろう少女が、勝つために自分の感情を大声で口にすることで、遮二無二勝とうとしていることだけが伝わってくる。
これぞ決死の真剣勝負じゃないか。
若き志の、勝ちたい気持ちを気取って隠さぬその姿が、しばしば逆転劇すら起こすことを知っているメリッサには、こんな彼女こそ望むべく姿そのものだ。
「エクセレント!
貴女のネバーギブアップ、ここにご披露して頂きましょう!」
「お願い! ミーナ!
私、勝ちたい……! 頑張って!」
この局面、パールが両手で握りしめたボールのスイッチを力強く押して喚び出したのは、ニルルではなくミーナである。
出てくるたび、やる気満々の顔でフィールドに降り立っていた過去と同様、今日もミーナは鼻息荒く敵を見据えている。
一方、思わぬ最後のポケモンに、うっ、と動揺をメリッサが感じるのもまたやむないことである。
「ミミロルですか……!?
ゲンガー相手に……」
「ミーナ、"見破れる"よね……!?」
「――――z!」
ゴーストタイプ相手にノーマルタイプのポケモンを、それも物理的な攻撃手段しか持たぬミミロルを繰り出したパールの行動は、メリッサを驚かせるには充分。
そしてその行動の真意を、パールが口にするのもまた早い。
前のめりな姿勢かつ、ゲンガーをぎっと睨みつけるミーナの姿は、タイプ相性最悪の相手を、これから打ち破ってやるぞというものに他ならない。
「……"みやぶる"ことさえさえ出来れば、ワタシのゲンガーを、そしてワタシの切り札を破れるとお考えですか?」
「やるしか、ないです……!
ミーナは、私の、切り札です……!」
「甘く見られたものデスね……!」
「っ……勝てる子、です……!
信頼、してますから!!」
メリッサの精神攻撃は続いていた。
ゴーストタイプのポケモンに、物理的な攻撃を当てられるようになる、ミミロルの"みやぶる"技に理解は出来る。
だが、それで不利が有利になるわけではない。マイナスがイーブンになるだけ。
それが藁に縋る少女の苦肉なら、大人なりの威嚇で舐めるなと強く言うだけで、子供は腰を引けさせるだろう。
パールが気の強くない子なのは目に見えてわかるし、これで以って精神的有利に図式を傾かせるのは、メリッサにとって充分可能なことであったはず。
だが、パールはメリッサの恫喝的な声色に対し、少しびくりとはしつつとて、はっきり強く反発して見せた。
虚勢かもしれない。だが、そこに強調されるのは、ミーナ一人ででも勝ちにいくんだという強い意志力。
甘く見てくれるなという怒ったような眼差しこそ表向きに保ちつつ、まだ死んでいないパールの闘志に、内心メリッサは喜びすら感じる。
こうでなくては、ここまで言われても絶対に屈しない挑戦者でなければ、熱くなれないじゃないか。
本当に、いい挑戦者に巡り会えたと思える。ジムリーダーの本音だ。
「エクセレント……!
いいでしょう、かかってきなさい!
貴女達のファイティングスピリット、見せて貰いましょう!」
「ミーナ、頑張って……!
もう、あなたしかいないの……!」
「――――z!」
何度もパールに反発し、時によってはパールをいじめに来たミーナが、任せろとばかりに口の端を上げて鼻息を鳴らした。
その挙動に、パールも感慨を感じる暇もないぐらい必死である。
対峙するゲンガーを睨みつけるミーナは、それだけ余裕の無いパールに、自分を選んだことが正解だったと証明せんとばかりに拳を握りしめる。
ジム戦という、パールにとっての大一番で、初めてパールが自分を最後に選び、すべての命運を懸けてくれたのだ。
自分の意志でボールから飛び出す形以外で、ジム戦のメンバーにさえ選んで貰えることさえ無かったミーナにとって、これは過去最大の檜舞台。
パールが祈るように両拳を握りしめるのと同様に、ミーナもその心血をこのバトルに注ぎ込む腹は決まっている。
パールとミーナ、その二人の心が初めて一つになった戦いが、ここから幕を開けようとしているのだった。