ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第57話    Fate

「ミーナ今だーっ! ジャンプー!」

「――――z!」

 

「ムウマージ、ラスト!」

 

 メリッサに勝利し、ジムバッジを受け取った翌朝、パールは再びヨスガジムに訪れていた。

 バトルフィールドに招いて貰い、メリッサのポケモンとお手合わせである。

 

 とは言っても、今日は真剣勝負が目的ではない。

 現にメリッサのムウマージは一切反撃せず、高所を漂いパールのポケモン達の攻撃を躱し続けるのみである。

 今日は風邪が治ったプラチナも同行し、観客席ではなくパールのそばで観戦である。時々、パールにアドバイスしたりしつつ。

 

「ハーイ、終了です!

 ベリーグッドですよ、パールさん。エクセレント未満、グッド以上です」

「んん~、褒めて貰えてるんでしょうか?」

「反撃意識の無いあの子に、一撃でもヒットさせられるぐらいであれば上出来すぎるぐらいです。

 当てられないのが当然、と、私の立場からは申し上げたいですね。

 とはいえ、あわやの場面が何度かあったのは、ベリーグッドであったと評価して然るべきなのです」

 

 昨晩ポケモンセンターで休んでいたパールのもとへ、わざわざヨスガジムのジム生が訪れ、パールにメリッサからの言伝を預かってきてくれた。

 明日の朝には時間が作れるから、私のポケモン達と稽古をつけないか、と。

 ジムリーダーさんにお稽古をつけて貰えるなんて、一介のトレーナーにとってはなかなか出来ない経験であり、パールは二つ返事で喜んだ返答。

 そうして今、メリッサとメリッサの"切り札"とお手合わせしているというわけだ。

 

 普通の実戦形式の稽古付けではなく、空を舞うメリッサのムウマージに攻撃を当ててみよう、というゲームめいたものだ。

 昨日のバトルでメリッサはパールのポケモン達を見て、空中の相手への攻撃の当て方に慣れていなさそうだと感じた模様。

 野生のポケモンや、旅行く先々でのトレーナーとのバトルなどで、空を飛ぶ相手との勝負自体はパールも経験済みではある。

 とは言っても、ジムリーダー級の強いトレーナーが擁する、空中戦に秀できった難敵と勝負した経験があるかと言えば、否。

 メリッサとの勝負では、工夫を凝らして攻撃を当ててみせていたパールだが、今が頭打ちではそのうち必ず行き詰まるだろう。

 それを強調するかのように、今日、メリッサの繰り出したムウマージは、パールのポケモン達の攻撃を一撃も受けなかった。

 

 このムウマージ、バッジ4つ所持のパールに対して繰り出したムウマージと異なり、メリッサが本気を出す時の主将格である、正真正銘の切り札ポケモンだ。

 ナタネがジュピター相手に繰り出したロズレイドと一緒で、かなりの相当な高レベル個体である。

 動きも素早く機敏であり、まして反撃を意識せず攻撃を避けることに専念するのだから、今のパール達が攻撃を当てるには難易度の高すぎる相手だろう。

 ピョコも、パッチも、ニルルも、今しがたミーナも、一人ずつムウマージに攻撃を当てようゲームに臨んだが、結果はいずれもムウマージは無傷である。

 とはいえあと少しで当たったのに、という場面はあったので、向こうが攻撃も意識する実戦であれば、全く当てられないということもなさそうだが。

 それぐらいにはパールのポケモン達も、格違いの相手にしっかり健闘を見せたということである。ただ、まだまだ強くなれる。

 

「今後ももっともっとストロングな相手との勝負もあると思います。

 私のポケモン達に昨日ビクトリーした時のようには、簡単にはいかないこともあるでしょう。

 昨日の勝利には胸を張って下さい。でも、あなた達はまだまだ強くなれます。

 何が足りないか、何があればもっと良くなるか、いっぱい、いっぱい今後も考えて励んで下さいね?」

「はいっ。

 ありがとうございます、メリッサさん」

 

「とりあえず、アドレスでも交換しましょうか?」

「えっ、いいんですか!?

 わーい! きっと電話しますよ! たくさん!」

「ホホホ、そうらしいですね。

 少し前、ナタネさんとお話しましたが、パールさんとテルするのは楽しいと仰ってましたよ。

 私もちょっぴり楽しみです」

「え~、ナタネさんそう言ってくれてるんだぁ。

 えへへへ、なんか嬉しいなぁ」

 

「パールがジムリーダーのコミュニティに溶け込んでる……」

 

 プラチナ唖然気味。

 ジムリーダー同士にも横の繋がりというものがあり、それは同性のジムリーダー同士だと強い傾向にあり、プライベートでの遠距離通話も多め。

 なにぶん女性同士、みんな根が明るくお喋り気質である。スモモなんかもストイックな反面、心開いた先輩ジムリーダー相手の会話ではよく喋るらしい。

 そのうち3人の女性ジムリーダーと連絡先を交換して、恐らく今後も懇ろにお喋りしそうなパールである。

 やがてはグループチャットにまで溶け込んで、普通に話せるようになるんじゃないだろうか。いちトレーナーとしてはもはや特異点級である。

 

「ミーナっ、これからも頑張っていこうね!

 私達、まだまだもっと……」

「――――z!」

「あいたっ!?」

 

 メリッサさんとアドレス交換できて、嬉しい嬉しいのパールだが、その勢いでミーナに話しかけたのだが。

 ミーナに伸ばしたパールの手を、耳でべちんと払われたのである。

 パールがびっくりする前で、ミーナはふしゃ~と不機嫌な目と息遣いを返し、さらにはぷいっとパールから顔を逸らしてしまった。

 機嫌が悪い。今日はムウマージに一撃も当てられなかった、というのも不機嫌の一因であろうとは分析できるのだが。

 

「ん~……やっぱりあなたのミミロルさんは、あなたにあんまりフレンドリーではないですか?」

「んむむむ……む、昔はほんとになついてくれなかったですけど……

 最近、仲良くなれてるような気はしてたんだけどなぁ」

 

「僕もそう思うんだけどな。

 ほら、こないだ雨降った時も……」

「ふしゃーーーっ! 思い出さなくてよろしい! どすけべ!」

「どす……べ、別にあの時のことだけ言ってるんじゃないよっ!

 だいたいアレ何してたのさ! 未だに意味わかんないんだけど!」

「思い出さなくていいって言ってるでしょ~!

 このエロ~!」

 

「何の話ですか?

 ファニーな予感がします。その話詳しく……」

「「ノゥ!!」」

 

 パールが雨の中で服をめくり上げてミーナを抱きしめていた時の話をしているらしい。

 あれがパールの人肌ぬくぬく作戦だったとは、ちょっとプラチナにも想像に至りきれない。

 ちょっと刺激的だったあの光景を思い出した時点で、思考にノイズが入るのも問題になっているのかもしれないが。

 とりあえず二人とも、メリッサにこの話は教えたがらない。二人だけのひみつ。

 

「ふーむ……私から見ても、良い関係と見えるんですけどねぇ。

 ミミロルさんの"やつあたり"が強力なのも、むしろ合点がいかないぐらいなのですが」

 

「…………へっ?」

 

 プラチナとの安っぽい喧嘩に傾倒していたパールだが、メリッサの言葉を聞いて思わず頭の中身が入れ替わる。

 いま、なんと? やつあたり? パールもそういう技があるとは知っている。

 ひどいやつである。自分が絶対ポケモンに教えないような技。

 

「あなたが"メガトンキック"と言っていたあれ、"やつあたり"でしょう?」

 

「えっ、うそ、えっ?

 わ、私そんな技教えたりしてないです、よ?」

「やつあたり、って、なついてないポケモンほど強い威力を出す技ですよね?」

「イエス。

 あの技は、間違いなく"やつあたり"ですよ。

 蹴りを放つ瞬間の、憂さ晴らしの想いを込めた眼差しは確実にそうです」

 

 パールが固まった。

 うそうそ、そんなことってないない、まさかそんな。

 ミーナの切り札だと思っていたメガトンキック、あの威力抜群の必殺技が、やつあたり?

 それが、必殺技と思っていたほどの威力って、えっ?

 私、もしかしてひどいやつ? 超ひどいやつ?

 

「ミーナ、全然なついてないんだね……」

「…………」

「全然なついてないんだね……」

「いや聞こえてるよ! 二回も言わなくていいよ!?」

「あ、あぁ、いや、聞こえてないかなって思うぐらい固まってたから……」

 

 現実に頭がついていかず、ショートした頭で硬直していたパールであった。

 傷に塩を塗られても気付かないぐらい呆然としていた彼女だったが、もいっちょ塗られたら流石にはっとしたらしい。精神的ダメージ増幅。

 しかし、立ったまま心が死にかけていたので、そこから目を覚まさせて救い出したという意味ではプラチナは彼女を助けたかもしれない。

 

「まあ、私が見る限りではミミロルさんも、あなたに心を許していないわけではないと思います。

 とはいえ、他の皆さんのように素直にあなたの愛情に応えるわけではない振る舞いには、何か理由があるのかもしれませんね。

 きっとそれは、その子と一番長く一緒にいる、あなたにしかわからないことでもあるはずです」

「うぅ……そ、そうなのかな……」

「嫌われているわけではないと思いますから、ね?

 ネバーギブアップ、もっともっとあなたのポケモン達について理解していこうとすることを続けていきましょう。

 私だって、一番付き合いの長いこのムウマージについて、まだまだ知らないことが沢山あるぐらいなのですから」

「そうなんですか?」

「ええ、たくさん。

 この子が本当は、夜のような暗い場所ではなく、明るい場所の方が好きだなんてことも、出会って五年経って初めて気付いたぐらいですから」

 

「そうなんですか?

 ムウマージは、夜を好みそうなイメージなんですけど」

「フフッ、私もずっとそう思っていたんです。

 ですから、幼い頃にこの子をお散歩させる時は、夕方の日が沈みかけていた時間にしていたんですよ?

 この子は気を遣ってくれる子ですからね。今にして思えば、わざと喜ぶふりをしてくれていたんでしょう、大袈裟に。

 きっと、私がこの子にとってはそれが良いと思っていたことに……あっ、こらこら」

 

 昔日の思い出に馳せるメリッサを、ムウマージがぺちぺちと横から叩いてくる。

 照れるからやめろ、という態度なのだろう。そんな昔の話はいいでしょ、と。

 こうした照れくさそうな態度もまた、メリッサにとっては可愛らしい。

 

「人と人のフレンドシップでもそうです。

 自分にとっては本当は好ましくないことでも、相手がよかれと思ってやってくれていることだと感じたら、敢えて喜んで見せる人だっているでしょう?

 相手の心というのは、必ずしも言葉や態度ですべてがわかるわけではありません。

 言葉が通じないポケモン達が相手では、それは尚更、なのでしょうね」

 

「む、難しいですね……」

 

「大切な人、大切なポケモンに、優しくしたくなるのは当たり前です。

 ですが、誰かに優しくしてあげるというのは、思った以上に難しいことです。

 相手が何を望んでいるか、あるいは何が本当に必要なのか、考え、思いやり、現実との追いかけっこの繰り返しです。

 なかなか大変なことだと思いませんか?」

 

 それはそうなのだが、本来そんなに重く考え過ぎなくてもいい話でもある。

 この程度の話、戒め程度に心の片隅に置いておけばいいだけの話に過ぎない。

 最後は言葉で疎通して、わかり合っていけばいいのだから。

 メリッサが今この場、多感な少年少女にこうして教訓として授けるのは、自分達が付き合う最大のパートナーが、言語の通じぬポケモン達だからだろう。

 

 仲間になり、時を経て親しくなり、なついてくれたポケモン達は、どんどん我が儘を言わなくなりがちだ。

 そんな子達をもっともっと幸せにしたいと思ったら、言語の通じ合わぬ彼ら彼女らの気持ちを、常にたくさん考えてあげるぐらいでちょうどいい。

 ポケモン達は、トレーナーに多くのものをもたらしてくれる。それに同じだけ応えようと思ったら、対人以上に大変なのがポケモン達なのだ。

 自分のポケモン達には世界一幸せになって欲しいと思うぐらい、自分のポケモン達が大好き大好きなパールにとって、それは長い長い旅路である。

 

「ミーナ、と呼んでいましたね。

 あなたは、ミーナさんのことが好きですか?」

「はい、大好きです」

「ふふっ、大事にしてあげて下さいね。

 もっと、もっとです。必ず、いつか、あなたの気持ちは伝わると思いますよ」

 

 即答したパールに、顔を背けていたミーナも、思わずちらっと彼女の横顔を見た。

 メリッサに、私はミーナのことが大好きですと答えたパールの眼は、絶対に嘘一つないものだったのは明白だ。

 自分がそれを見ていたことを悟られないよう、すぐにパールから目と顔を逸らしたミーナは、むにゅむにゅ動きそうな口元に力を入れていた。

 好きって言われて嬉しくて、にまにましちゃいそうな口元を、力を入れて封じているのだ。見られてもいないのに。

 

 "ぶきよう"な子である。なかなか、素直になれないらしい。

 ポケモン達の心というのは、そう簡単にはわからないものだ。対人以上に、ずっと、遥かにだ。

 きっと、それにどこまで深く心及べるかもまた、一流のトレーナーと一流半のトレーナーの大きな違いなのだろう。

 その根拠は非常に簡単だ。

 本当に強いポケモントレーナーに限って、自分のポケモンのことをよく知っているものだ。対戦で強いトレーナーを想像すればわかる話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いいんですか? ああいうの」

 

「……まあ、本当はバッドですね。

 ジムリーダーが、一部のトレーナーの向上に、過剰な手添えをするべきではありませんから」

 

 パール達と別れ、彼女らがヨスガジムを離れてからのこと。

 一人のジム生がメリッサに問いかけたことに、メリッサもまた少しばつの悪い苦笑いを見せていた。

 

 口頭で色々とアドバイスする程度ならまだしも、自分に勝ったトレーナーに、飛空ポケモンへの対処法を稽古付けするのは、少々やり過ぎなところがある。

 そんなの、ジムリーダーさんにご指導頂ければと思うトレーナーなんて、枚挙に暇がないというのに。

 だからこそメリッサも、いや、他のジムリーダーだって、たとえ教えを請う者が訪れたとしても、バトルの相手をするだけであってその最低限しかしない。

 ジムリーダーに教えを請いたいのであれば、そのジムのジム生になれという話だ。それがジム生の特権なのだから。

 昨日自分を破った挑戦者に、わざわざ宿まで遣いを出して、稽古を付けましょうなんて申し出るのは、異例かつ推奨されるべきことではない。

 ヨスガジムのジム生達に、俺達は私達は? と思われても仕方のない愚挙と言える。

 

「……友人に聞く限り、あの子達には、自分で自分を守るだけの力が必要なのです。

 そうでなければ、あの子達は……」

 

「あ、いや、その……別に、私達はいいんですが……」

 

「ええ、信じています。

 あなた達は、あの子達に妬くような門下生ではありませんね」

 

 メリッサに問うジム生は、メリッサさんがあの子達に特別な指導をしたことに、嫉妬しているわけではないという。

 気遣いだろうか。いや、本心だろう。メリッサを敬い、信頼するヨスガのジム生達は、メリッサの行動に意図があったであろうこともわかっている。

 こんなことをメリッサがやるのは初めてなのだから。ジム生達だって馬鹿じゃない、何かあるんだろうとは考えるとも。

 

「どうか、あの子達の光ある未来を祈ってあげてくれませんか?

 あの子達は、力なくば、あるべき光さえも浴びられない、そんな境遇にあるのです」

 

「……何か、あるんですね。

 わかりました、みんなにそう伝えておきますよ」

 

 笑顔を作ってそう告げるメリッサに、ジム生もまた微笑みを返し、同門の友の方へと向かっていく。

 深い詮索は無かった。メリッサが、敢えて抽象的な表現を使ったからだ。

 話せないこともあるのだろう。ジムリーダーには、一介のトレーナーには知り得ない苦労もあるのだろう。そう考えてだ。

 これこそ真意を嘘で隠すのとは異なる気遣いだ。メリッサは、深入りしないことを選んでくれたジム生に、感謝の想いを胸に秘めて唇を噛み締める。

 

 実状は知っている。

 パールとプラチナがどのような境遇に置かれているのか。

 ナタネとも、スモモとも、そしてジムリーダー以上の立場にいる者とも繋がりのあるメリッサは、その現実を痛烈に知る情報も握っている。

 

 自分で自分を守るだけの力が無くば――

 光ある未来とは、そのポジティブな単語から想像される、栄光に包まれた世界に到達することを単に語るものだろうか。

 そうした未来に辿り着けぬということは、光無き世界に堕ちるという解釈も出来るのではないだろうか。

 あるべき光さえ浴びられぬとは、それはメリッサなりの言葉でいうところ、光届かぬインフェルノのことを指すのではないのだろうか。

 

「……………………ギンガ団。

 一線を越えることあらば、私とて黙ってはいませんよ」

 

 パールも、プラチナも、まさか自分達がそれほど逼迫した状況に置かれているとは、今の時点では想像もしていまい。

 谷間の発電所で、そしてギンガハクタイビルで、悪を憎む志をはっきりと主張し、力をつけてきている少年少女。

 出る杭は打たれる。それは行儀の悪いトレーナーがひしめく故郷にて、頭角を現しつつあった者の身に起こった災いの数々を見てきたメリッサが学んだ教訓だ。

 耳にした情報の数々から、メリッサが想定する悪しき未来とは、決して、断じて、的外れな杞憂などではない。

 

 

 

 8つのジムバッジの半分以上を集め、チャンピオンロードの折り返し地点を過ぎたパール。

 彼女はこれより、未だ彼女が想像だにしていなかった形で、激動の渦へと巻き込まれていくこととなる。

 それをパールが知ることになるのは、まだ今よりも先の話。

 それこそが、何よりも彼女に対して過酷な運命であると断言できる。

 

 果たして未来予知が出来たなら、そんな運命も変えられたのだろうか。

 後戻り出来ぬようになってから気付く、というのは、想像しただけで恐ろしい響きである。

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