ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第58話   もっとプラッチといっしょ

 

「次はキッサキジム?」

「うん、ミオシティと迷ってたんだけどさ。

 キッサキシティに先に行こうかなって」

「ミオじゃないんだ、どうして?」

 

 今朝のメリッサとの稽古を終え、ポケモンセンターに短時間だがみんなを預け、昼食を食べたら出発。

 パール達は北上する方向へ、ヨスガシティを歩いていた。

 6つ目のジムを目指す旅の足取りを、シンオウ地方最北の街、キッサキシティへと向けた進行である。

 

 パールがまだ制覇していないジムがあるのは、ミオシティ、キッサキシティ、ナギサシティの3つである。

 このうちナギサシティは、大抵のトレーナーが最後のジムとして目指す傾向にある。

 ナギサシティから北に出発して、223番水道を真っ直ぐ進むと、シンオウ地方のポケモンリーグ本部に到着するからだ。

 ナギサシティはその位置そのものが、ポケモンリーグへの最寄りであり玄関口のようなものである。

 ゆえに最後に制覇するジムをここに見定め、それを果たせばさあポケモンリーグだ、という計画を立てる人が非常に多い。

 一方ナギサシティ出身で、そこから出発するトレーナーなんかは、むしろ初挑戦のジムとするケースも少なくはないようだが。

 比較的近い、ノモセ出身やトバリ出身のトレーナーも、2つ目か3つ目の挑戦先とすることはあるそうで。

 ナギサジムは、バッジの少ないトレーナーの挑戦対象となるか、既に7つ集めたリーグ目前のトレーナーの最後の関門、どちらかに挑戦者が偏りがち。

 パールはその後者に当たるというわけだ。ナギサジムは、最後に挑むと概ね決め打っている。

 

 残る候補はミオジムか、キッサキジムか。

 ここヨスガからでは、どちらも等しく遠い位置にある。どちらを選んでも大差は無い。

 判断基準は正味なところ、気分に任せても良いぐらいだ。

 

「キッサキシティって一番北の寒いとこでしょ?

 本格的に寒くなる前に行っておきたいじゃん」

「あ~、なるほどね。

 今はまだ秋だけど、冬になったら多分ずっと雪だよね」

「秋でもけっこう雪が降るらしいじゃん?

 絶対今のうちだよ」

 

 シンオウ地方はそもそも北国で、他の地方に比べれば年間の平均気温も低い方だ。

 パールは昔からシンオウ地方の生まれ育ちなので、この気温には慣れているが、余所の地方から来た人は、中秋の今でも寒いなと感じるらしい。

 この寒さの中、ノースリーブとスカートという肌の出た格好で元気に旅するパールなんて、他の地方から来た人はびっくりするレベルである。

 そしてそんなパールであっても、シンオウ地方で最も寒い最北地に、冬に足を踏み入れようものなら寒い寒い。

 暖かいうちに、キッサキジム挑戦は済ませておきたいというのが、こちらを6番目のジムに選んだ最大の動機のようだ。

 

「それにミオシティに行こうとしたら……

 ほら、フタバタウンのそばを通るじゃん?」

「いいじゃないの、たまには家に帰ったって」

「いや~、久しぶりに家に帰ったら、たぶん私のんびりしちゃう。

 思い出のシンジ湖もそばにあるしさ」

「駄目なの?」

「バッジ6つ集めてからだったら、もうポケモンリーグも目前だ~、って気分でのんびりしてられないと思う。

 そっちの方がいい。私、早くポケモンリーグに挑戦したいし」

 

「パール、チャンピオンになって有名になって、シンジ湖で助けてくれた人に会いたいんだったっけ」

「会えなくたって、もしテレビに出られたら、あの時はありがとうございましたって言うよ?

 私、そのためにポケモンリーグ目指してるんだからさ」

 

 パールの旅をする動機そのものであり、彼女の原点かつ旅足の力の源泉だ。

 命の恩人である憧れの人に、出来れば会いたい。会えなくたって、感謝の想いを伝えたい。

 それを語る時のパールの目は、夢に向かう前向きさと、顔も覚えていない憧れの人を想う気持ちに溢れて輝いている。

 

 プラチナには、ちょっと胸がちくちくする姿なのだけど。

 パールにとっての"一番の人"は、その人でずっと揺るがなそうにしか見えないから。

 僕がその人よりも特別になるのは無理なのかな、と思わせられるほどのパールの目だから、なんだか寂しく感じてしまう。

 

「まあでも、まずはキッサキジム!

 行って、挑んで、すぐ勝てるとも限らないしさ。

 今まではずっとそんな感じで勝ち続けてこられたけど、今度こそはそうもいかないかもって毎回思ってるよ。

 ジムリーダーさん達、ほんとに強いんだもん」

「毎回ひりっひりで勝ってるもんね。

 風邪引いてみられなかったけど、メリッサさんとのバトルどうだった?」

「なんかもう、奇跡みたいなもんだったよ。

 ミーナが私が思ってたよりずっと、ずーっと頼もしかったから勝てたってカンジ」

「そっかぁ。

 今後のジムでも、やっぱ苦戦させられそうな気はしちゃうよね」

「でもやっぱり、私はまだまだ今の無敗記録もっと更新していきたいな。

 その方が、一番早く夢に近付けるしさ。

 ナマイキ?」

「いいんじゃないかな、いけるとこまで行こうよ。

 頑張ってなくてただ勝ってるだけじゃないのは僕が一番よく知ってるし、勝ってる限りは自慢していこうよ」

「えへへ、ありがと、プラッチ。

 けっこう強気なこと言うのも怖いんだよね。

 こういう話、笑わず聞いてくれるプラッチに話せるの、私すごい助かってる」

 

 現状、対人バトルで未だに無敗のパールだが、いつまでも誰にも一度も負けずにやっていけると思うほど、流石に彼女とて楽観的ではない。

 でも、ここまでこうしてやってこられていると、出来る限りこのままいきたいと思ってしまうのも人情というやつ。

 もっともっと無敗、という、大きく出たなと言われそうな意気込みというのは、口にするなら少々自分にプレッシャーがかかりがちだ。

 パールのような自信家でないタイプなら特にそうなのだろう。

 初心者上がりで調子に乗って、とも言われかねないことを、真顔で受け止め応援してくれるプラチナがいることは、彼女も言うとおり本当に嬉しいことだ。

 高めの目標を持つというのは、なかなか難しいことである。気持ちを支えてくれる誰かがそばにいてくれた方が、ずっとずっとそうしやすい。

 

「成り行きで一緒に旅するようになったけど、私、プラッチとはずっと一緒に旅がしたいな。

 だめ? たまには一人になりたい時とかもあったりする?」

「な、なに急に?

 そんな、かしこまって言うこと?」

 

 街の東、209番道路へと向かう道のりの中、パールは足を止めてプラチナに向き直り、大事なことを伝える表情でそう言ってくる。

 拒絶されたら嫌だな、という、ちょっと勇気を使って言っているのが、感情が顔に出やすいパールだからよくわかる。

 プラチナも足を止めてそれを受け取るが、改めてこうされると調子が狂う。

 

「メリッサさん、言ってたもん。

 人と人ならわかり合うために、最後は言葉で通じ合えばいいって。

 それって、言わなきゃわからないことだってある、っていうことだよね?」

「ま、まあ……そういう解釈も出来るかな。

 あれは、言葉の通じないポケモンと理解し合うのは、人と人同士よりも難しいねって話だったと思うけど……」

「だからちゃんと言うの。

 前も言ったかもしれないけど、これが今の私の気持ち。

 それに、前に言った時よりもずっと強いよ?

 私、プラッチと一緒に旅しててほんとに楽しい。

 もう、今さら一人で旅するのなんて絶対寂しくなっちゃうよ」

 

 プラチナと一緒に旅してきた思い出を胸に馳せながら、明るい声と表情で話していながら、最後の一文だけは照れ臭そうに言うパールだ。

 そんな寂しんぼな自分を晒すのは恥ずかしいような、でも言わなきゃダメだから言うような、気恥ずかしさに耐えているのは少し赤らんだ顔からも明白。

 だからこそ、言葉以上によく伝わるはずだ。

 パールが、どれだけ、プラチナがそばにいてくれることを、特別嬉しいことだと実感してくれているかが。

 ほんの少し前、パールの"憧れの人"と自分を比較して、勝手に沈みかけていたプラチナにとって、小さな穴を空けられた胸を新たな何かで満たしてくれる姿だ。

 

「どうしても、一緒にいるのがイヤになったら言ってね?」

「そんなことは……」

「全力で引き止めるから」

「あ、拒否権とかは無いんだね」

「拒否したら泣く。

 プラッチに女の子泣かせの罪を背負わせる」

「あっ、それすっごい卑怯なやつ」

「手段を選ばないのだ」

 

「……大丈夫だよ、僕はそんなつもりないからさ。

 僕もまだまだ、パールと一緒にいたいよ。

 お父さんに、急に帰ってこいって呼ばれても、やだって言うよ?」

「あははっ、嬉しい!

 もっともっと、一緒に色んな所に行こうね!」

 

 嬉しいと言葉にするパールだが、その言葉以上に、太陽のような笑顔で喜ぶその表情が、どれだけ雄弁に彼女の心を描くか。

 自分とまだ一緒に旅できるという確約を得られただけで、こんなにも嬉しさに満ちた表情をしてくれるのだ。

 胸が温かくなる。それだけで、たまらなく心地良いほどに。

 一緒にいてね、って言われる喜びは、それに勝る感情を探せと言われて難しいほど、並び立つ嬉しさなどそうそう無い。

 

 言わなきゃわからないことだってある。

 パールにそう言われ、プラチナも胸の内に溜めているこの気持ちも、伝えなければ形にならないものだと改めて思う。

 もしかすると、今がその最大の機会なのではないだろうか。

 自分だけに向けた笑顔を見せてくれるパールを前に、プラチナもまた、ずっと黙っていたことをそろそろ言う時なんじゃないか、という感情が湧き上がる。

 

「…………ねえ、パール。

 僕も、パールに伝えたいことがあるんだ」

「えっ……な、なに?

 急にかしこまる感じで、どしたの?」

「かしこま……それはパールだってそうじゃん」

「そ、そうかな? あははは……

 で、な、なに? 聞くよ?

 大事な話? 多分そうだよね? そういう空気出てるぞ?」

「まあ……大事な話、だね……」

 

 急に男の子が神妙な面持ちで、じっと自分の顔を見つめて話を切り出してくると、パールだってついついどきどき。

 普段より口数が露骨に多くなっている。動揺している証拠。

 まさかまさかっていうのは考えちゃう。思春期の女の子だもの。

 

「えぇと…………あのさ、パール」

「な、なに?」

「僕、実は……」

 

「――――あっ!

 おーい、そこの二人っ! 久しぶり!」

 

 駄目でした。話の腰を折られました。

 このくそ大事な場面で水を差してきた相手は、パールとプラチナ二人にとって、今の空気も吹っ飛ぶほどの敬い対象。

 思わぬところで再会、それはシンオウ地方のチャンピオンである。

 

「はわっ、シロナさん!?

 お、お久しぶりなのですっ!?」

「ど、どうも……お久しぶりです」

「あははは、堅い堅い。

 もう一度一緒にトバリシティをみんなで仲良く歩いた仲じゃない。

 そんなにかしこまらなくたっていいわよ? えいえいっ」

「はわはわ……」

 

 最近ジムリーダーにも親しく話せる相手が増えてきたパールながら、チャンピオンともなればさらに上の人。流石に急に会うと緊張しちゃう。

 シロナはそんな反応は織り込み済みなのか、パールの両肩を持って揺さぶり、無邪気なスキンシップでパールをほぐそうとしてくれる。

 されるがままのパールはお人形さん状態だが、五秒も揺らされて放して貰ったら、実際ちょっと楽になれる。

 微笑むシロナの姿は、みんなの憧れである凛々しきチャンピオンのそれではなく、気さくで優しいお姉さんの姿なのだから。

 

「パール、メリッサに勝ったんですって?

 電話で聞いたわよ、やるじゃない」

「えっ、もう知ってるんですか?

 プラッチどうしよ、私いまチャンピオンさんに褒められてる!」

「偉くなったね」

「え~、どうしよう、なんかすっごい嬉しい! 調子に乗っちゃいそう!」

「こらこら、まだまだバッジ3つあるんでしょ。

 調子に乗っちゃダメダメ」

「えへへへ、わかってます!」

 

 ちょっとほぐしてもらったら、もう完全にいつものパールである。

 嗚呼、さっきの空気は吹っ飛んでどこかに行ってしまった。プラッチ無念。

 今日こそ、いい機会だと思ったから、僕ほんとはプラチナっていう名前なんだよって伝えようとしたのに。

 まだ見事なほど運命に遮られるらしい。未だプラッチ君。

 

「二人はこれから、どこに向かうの?

 209番道路に向かって歩いてる感じを見ると、キッサキシティ?」

「はい。

 カンナギタウンを通って、北のテンガン山道を通ってキッサキシティに行こうかなって」

 

「あら、ちょうど私と行き先が一緒ね。

 私もキッサキシティに用事があるのよ。

 どう? 一緒に行かない?」

「えっ! ぜひぜひ!

 っていうか、いいんですかレベルですけど!」

「もちろんよ~、むしろ何がダメなの?

 私がチャンピオンだから?」

「チャンピオンさんと一緒に旅なんてすっごいことですよ! たぶん!

 そうだよねプラッチ!」

「うん、まあ……

 パール、なかなか出来ない経験してるよね、たくさん」

 

 ジムリーダー三人と連絡先を交換して、毎夜毎朝お電話する関係になり、今度はチャンピオンと一緒にしばらく旅とは。

 けっこう多くの人に羨ましがられそうな経験が出来ているのは確かだろう。

 冷静に考えると、僕の友達って実はすんごい子なんじゃないかって、ついついプラチナも思っちゃう。

 

「ふふふ、楽しい旅になるといいわね。

 遠慮なんかせず、気軽に話しかけて頂戴ね。

 あなた達がどんなふうにこれまで旅してきたかなんて、いっぱい聞かせて貰えると嬉しいわ」

「えっ、そんなのいっぱい話せることありますよ!

 ハクタイジムのこととか……」

「あっ、ナタネとのこと?

 あなた本当に好きよねぇ、あの子のこと」

「色々あって、今日もっと好きになったのです!」

「え、なになに、何があったの? 詳しく聞かせて?」

 

 209番道路に向かって、三人で歩きだす。

 最初はチャンピオンさんだって少し緊張していた顔もどこへやら、楽しそうにはしゃいでお喋りのパールになっている。

 本当、人懐っこいんだから。尊敬する大人と話す時、どうしてもああなってしまう。

 もっとも、シロナが話しやすい空気を作ってくれているから、というのもあるのだろう。プラチナも傍から見ていて、そう感じている。

 

 すっかりパールをシロナに取られてしまったプラチナだが、パールが楽しそうなのでむしろプラチナは、微笑ましくって嬉しいぐらいである。

 パールが幸せそうなら、それで何より良いらしい。

 流石は雨の中を突っ切ったパールを、我が身も厭わず世話を焼いて、自分が翌日風邪を引いてしまうような子である。

 もうちょっと我が儘でもいいぐらいなのに、なんて言われる人は、世の中そんなに多くないのだが。

 プラチナはきっと、そういうタイプに該当しそうである。

 

 

 

 

 

 その後パール達は、シロナと話を弾ませながら、209番道路を進んでいった。

 パールとプラチナ、二人の旅路の身の上話を聞きたがり、よく話を振ってくれるシロナのおかげで、パールもシロナに沢山のことを伝えた。

 ナタネに限らず、数々のジム戦での苦闘の数々。どれも特別な思い出だ。

 いつだって、自分のポケモン達が必死で戦い、決死の想いで食い下がり、薄氷の上で掴み取ってくれた勝利の数々なのだから。

 追い詰められた苦い記憶の数々を、最後は大好きな子達が勝ってくれたことをきらきらした目で語るパールの話は、シロナにとって心温まるものだ。

 自分にも、そんな頃があったから。本当に、気持ちがよくわかるのだから。

 

 一度は通った209番道路、以前バトルしたトレーナーとの再会もあり、シロナが見ている前だからかいっそう、パールは挑まれた再戦にも燃えた。

 相手もそうだろう。チャンピオンが見てる。両者、熱が入る入る。

 最後はきっちり勝ってみせるパールだが、以前よりも強くなった相手との勝負は、どきどきさせられる場面も多かった。

 パールがそうであるように、誰しもみんな、自分の最愛のポケモン達とともに、昨日までの自分達より強くなっているのだ。

 今日も負けちゃったか、と悔しそうな顔をするトレーナーに、パールは必ず相手の手を握りに行ってでも、勝負できた感謝を表すことを忘れない。

 悔しそうにしていた相手が、表情を改めて、次は負けないぞと笑う姿こそ、きっと今後も伸びていくトレーナーの姿そのものなのだろう。

 それを当事者として、一番間近で見られるパールもまた、いつか負ける日が訪れたとしても、そんな彼女になっていけるはずである。

 一つ一つのバトルに、教えて貰えることが沢山あるのだ。

 

 どうでしたか、とチャンピオンに勇気を持って尋ねてみるパールに、シロナは何一つアドバイスを与えなかった。

 その調子で頑張りなさい、とだけ言う。笑顔ゆえ、冷たくはない。

 そこにはポケモントレーナーの第一人者たるシロナ、一介のトレーナーに肩入れした指導は推奨されるべきではないという、難しい事情もあってのこと。

 しかし一方、その短い言葉もまた事実であると、シロナが自信を持って告げられるという側面もまたあった。

 

 バトルごとに何かを感じ取り、やがては目指すべき人物像を自分なりに形作っていくパールの姿を見れば、それでいいんだよの一言に尽きるからだ。

 お偉い様のアドバイスで育ててあげる必要なんてない。むしろ、重く受け止められかねない言葉をわざわざ、紡がない方がいいかもしれないぐらいだ。

 だから立場を踏まえた上でも、率直な意図でも、シロナがパールに向けるアドバイスめいたものは、そのままで頑張りなさいの一文に尽きる。

 具体的な答えを貰えないまま、少し不安げでありながらも、頑張りますと元気よく返事するパールの姿もまた、シロナを嬉しく感じさせてくれるものだ。

 それでいい。明確な指針を与えられないまま模索していく道が、不安を伴うものだとは、シロナも知っているけれど。

 その先にしか、"パールにしか出来ないこと"は存在しない。シロナもそんな過去を経て、"シロナにしか出来ないこと"を身に着けている。

 そうしてチャンピオンにまで上り詰めた彼女だからこそ、寄る辺無くも手探りで進み続け、己だけのものを掴み取ることが大切なのだとも知っているのだ。

 

 チャンピオンと一緒に歩く旅路が、今のところ、パールを成長させてくれる何かをもたらしてくれたかと言えば、それはきっと皆無である。

 シロナがそう努めているからだ。それもまた、公に徹するべきとされるチャンピオンに推奨される能力。シロナにはそれがある。

 その上で、バトルするたび少しずつ、何かをその内に育んでいるパールの姿にこそ、シロナは心躍るものを感じている。

 プラチナと目を合わせ、無言で微笑み合ってそれを共感するほどにだ。

 

 十年先と言わず、一週間先でさえ楽しみ。

 それが、旅路の中で見せてくれたパールのトレーナーとしての素質の片鱗から、シロナが感じた所感である。

 一つ一つの勝利に無邪気に喜びつつ、少しずつ、確かに強くなっていく少女の姿とは、それを感じさせるほどのものがあるということだ。

 純真さは他ならぬ強み。大人には得難い何かを、少年少女は持っている。

 特別なのはパールじゃない。ただただ今よりも強くなりたいという濁り無き想いには、誇張無く無限の可能性が秘められている。

 

 シロナはそれを知っているから、若き志には胸躍る。

 いつか自分が超えられる日が来たとしても、それを歓迎するだろう。

 それもまた、求められるべき大人の姿の一つである。

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