ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

6 / 160
第6話    初めてのお友達

 

 

「ピョコ! たいあたり!」

「――――!」

 

 さて、草むらを歩き始めたパール。

 草むらはそうでない場所と比べて、野生のポケモンとの遭遇率が高い。

 ピョコをボールの外に出して一緒に歩く中でありながら、パールは首を動かす頻度が高く、どきどきしながら歩いている。

 いつ、どこから野生のポケモンが襲いかかってくるかわからない。パールからすれば気が気で無いところ。

 それでもピョコの新しい友達を探そうという想いから、それに踏み込んでくれるパールだから、ピョコだって彼女の必死めいた指示にはよく応えてくれる。

 

 今は草むらの陰から姿を見せたケーシィに、ピョコが体当たりしたところ。

 その一撃を受けてごろごろと転がったケーシィは、パールがモンスターボールを投げるより先に、テレポートして逃げてしまう。

 野生のポケモンは逃げ足も早い。やばいと思ったらすぐ逃げちゃう。

 

「あう……ごめんピョコ、また逃がしちゃった」

「――――♪」

「あはは、励ましてくれてる?

 うんうんっ、私もまだまだ諦めてないよ!」

 

 謝るパールを笑顔で見上げて、気にするなって言ってくれるかのようなピョコの姿に、パールも胸の前で両拳を上下させる仕草で頑張るアピールをする。

 でも、今逃がしてしまったケーシィは、なんだかピョコも悪くない友達候補らしくリアクションしてくれた相手。

 逃げられてしまったことを気に病みながら、パールはそれをピョコに気取られぬよう、元気なふりして草むらを歩いていく。

 

 野生のポケモンを捕まえるには、いくらか弱らせてからというのが常套だ。

 姿を見せた瞬間の元気なポケモンに、捕まえるためのモンスターボールを投げても、避けられるか、ボールに捕えかけても逃げられてしまうからである。

 だから野生のポケモンに遭遇すれば、最低一回はピョコの体当たりで弱らせるのがセオリーと言えるのだが。

 野生のポケモンも馬鹿じゃないから、ダメージを受け過ぎて"ひんし"とでも呼べるほど弱ったら、一目散に逃げてしまう。

 

 困ったことにピョコが強過ぎて、野生のポケモンに遭遇して繰り出すピョコのファーストアタックで、相手はすぐに逃げてしまう。

 弱らせてから捕まえる、というのが逆に難しいぐらい、ピョコのポテンシャルが高くなってしまっていると言えよう。

 ここまでに何人ものトレーナーとの戦い、野生のポケモンの撃退を経て、ピョコがもりもり強くなってしまっている功罪と言えるかもしれない。

 

「――――……」

「だ、大丈夫だよピョコ。今いっぱい考えてるから。

 絶対、ピョコの新しい友達を探してみせるからね」

 

 良くも悪くも賢いピョコは、自分の能力高さのせいで、野生のポケモンにパールがボールを当てられないことに気付いていそう。

 しょんぼりとまではいかないものの、どうしたものかと思案を巡らせるピョコの表情は、パールにだって読み取れてしまう。

 

「ピョコはお友達になりたい子がいたら、それをアピールしてね?

 あとは私が色々考えるからさ」

「――――」

 

 そうは言うものの、パールも悩ましい。

 どうすれば、ポケモンって捕まえられるんだろう。

 ピョコの体当たり一発でどんなポケモンも逃げちゃう。さっきのケーシィに限らず、ムックルも、ビッパも。

 これはもしかすると、成功率の低さにも目をつぶって、出会い頭の相手にボールを投げるのも考えなきゃいけないかもしれない。

 ポケモン捕獲に確たる手法を編み出していないパールなりに色々考えてはいるようだが、有用な解決策はまだ見いだせていないというところ。

 パールもピョコも悩ましい中、草むらの中を歩いていく。

 

「ねぇ、そういえばピョコは男の子な……」

 

「――――ッ!」

 

 これまで幾度か野生のポケモンと遭遇する中、いい反応だったりそうでなかったりするピョコ、それにパールが問いかけようとしたところ。

 視野をピョコに偏らせていたパールは、草陰から近付いていた野生のポケモンに気付いていなかった。

 よりにもよってその野生ポケモンは、ピョコではなくパールにぶつかりにきていたのだ。

 その行動に対し、自らの体をその間に割り込ませるピョコは、飛びかかってきた野生ポケモンの突撃を額で受け止めて踏ん張っている。

 

「ふあっ!? わわっ!?

 ピョコっ、だいじょ……」

「――――!」

 

 強い体当たりを受けながらも、ピョコは自分が後ずさったり吹っ飛ばされたりしてパールにぶつかったりしないよう耐えきった。

 さらに頭の上の葉っぱが揺れるほど首を振り、相手を見ろとパールに示すかのような所作も見せる。

 突然の出来事にびっくりして動揺しているパールが、はっとして野生ポケモンに目を向ける、そんなきっかけを作ってくれる頼もしい姿である。

 

「えぇと、えぇと、あれは、コリンク、だっけ……!?」

 

「――――z!!」

「――ッ……!」

 

 なんとかゆっくり状況を把握し、冷静な頭を取り戻そうとするパールだが、現れた野生ポケモンのコリンクは待ってくれない。

 パールを背後に守るような立ち位置をキープするピョコに、再び力強い体当たりを繰り出してくる。

 ぶつかられる寸前に頭を突き出し、互いの頭をぶつけ合う受け方をするピョコも少し後ろにたじろぐが、コリンクもまた押し返されたように三歩退がっている。

 

 力負けしているコリンクだが、その後もさらに二歩退がり、前肢で地面を引っかいてピョコの出方を伺う姿は、未だ逃げるつもりはなく好戦的。

 少しだけピョコの側面に回り込もうとするような動きを見せれば、ピョコもまた位置をずらして、顔の向きと眼差しはコリンクへ真っ直ぐ向けて。

 ちらちらとパールの姿を見ながらコリンクを睨みつけるピョコは、パールに手を出したら只じゃおかないと、敵に対して警告を発している。

 それを受けたコリンクもまた、視界にパールを含んでいた眼差しを改め、前方のナエトルに集中する構えに移っている。

 

 トレーナーと一緒に戦うポケモンは、トレーナーの指示にのみよって動くと思われがちだが少し違う。

 それは戦況を把握し、先読みし、的確かつ迅速な指示でポケモンをコントロールする、レベルの高いポケモントレーナー同士の戦いに限ったこと。

 戸惑うパールからの指示が無い中でも、ピョコは自分の考えで敵を見定め、位置取りを構えている。

 指示が無ければ棒立ちで待つのみ、たとえ敵から攻撃されたとしても。そんなポケモンそうそういない。

 

「っ……ピョコ! たいあたりっ!」

「ッ、――――!」

「え……!?」

 

「――――z!!」

 

 意志がある。だから、指示に従わないこともある。

 体当たりを指示したパールだったが、首を振ってピョコは動かない。

 その挙動に見たコリンクがピョコにぶつかってくる。隙と見たか。

 

 だが、パールの指示した体当たりに従わなかったピョコは、コリンクにぶつかられる瞬間に、手足と頭を甲羅の中に引っ込めた。

 止まりきれなかったコリンクは、硬い甲羅だけあらわにしたピョコに頭からぶつかり、二歩退がって額を痛めたかのように頭を下げて呻く。

 ころりんと後ろに少し転がったピョコだが、すぐに頭と手足を出し、コリンクにぶつかりに行くかのように体を勢いよく前に傾ける。

 フェイントめいたそれに、コリンクも体当たりされてたまるかと、痛い頭に耐えて少し距離を稼ぐ。

 

「そっか、ピョコが体当たりしたら逃げられちゃうから……!」

 

「――――!」

「――――!? ――――、――――ッ……!」

 

 たいあたりの指示に従わなかったこと、体当たりするふりをしてコリンクをびびらせて退かせた行動。

 それが、パールにも真意を気付かせてくれる。

 さらにピョコは、ぶるっと体を震わせた後、顔を上げてコリンクの方を見据えたまま口を開ける。

 それに伴って、コリンクが地面に四肢で踏ん張るようにして、吸い込まれるのを耐えるかのように身を震わせる光景は、パールの理解に足るものだろうか。

 

 よく見れば、ピョコとコリンクの間の空気が陽炎のように揺れ、コリンクの方からピョコの方にエネルギーが流れる動きも僅かに見えるのだが。

 体当たりよりは威力が劣り、しかしコリンクに着実にダメージを与える、"すいとる"攻撃をピョコは繰り出している。

 パールにそれを目視する余裕は無いが、少なくともコリンクが片目を閉じ、苦悶の姿にあることを見受け、ピョコが何かを繰り出していることは理解できる。

 

「――――、――――!」

「うんっ、ピョコ……!

 今なんだね……!?」

 

「――――z!!」

 

 コリンクは逃げない。"ひんし"に至っていない証拠だ。

 ピョコに向かって体当たりしてくるそれに、迎え撃つ側も激突寸前に頭を突き出して対抗する。

 何度もピョコの石頭や甲羅にぶつかって、弱りつつあるコリンクは、このぶつかり合いを再び経てよろよろと退がる。

 それでも荒い息を吐いてピョコを睨みつけるのだから、蓄積したダメージで弱りながらも逃げない、捕獲するには良い状態。

 

「っ、いけ~っ!」

 

 ピョコに示されてモンスターボールを握りしめていたパールが、コリンクに向けてそれを投げ付けた。

 下手投げながら彼女なりの全力、目の前に星を散らしながらピョコを注視していたコリンクに、そのモンスターボールが向かっていく。

 はっとしてボールに振り向いたコリンクだが、その頭に当たったモンスターボールが開き、次の瞬間に光粒の集合体になったコリンクがボールに吸い込まれる。

 閉じたモンスターボールは地面に落ちて転がり、中でコリンクが暴れるかのように、がたがたボールは震えている。

 ポケモンを捕えようとするボールと捕獲対象の抵抗が鬩ぎ合う光景に、パールは前のめりな姿勢のままどきどきするばかり。

 

 しばらく揺れ続けるボールを見つめるパールは気が気でなかったが、やがて動きが小さくなってきたボールは、とうとうその動きを止めて。

 さらに、かちりと大きな音を立てた。これが、ポケモンを捕まえたことを表す、モンスターボールが主張する音。

 それはポケモンを捕まえたいトレーナーに対し、成功を伝えるものであり、とりわけ大きな音を立てるよう設計されたものである。

 

「っ、やったぁ~!

 ピョコっ、ありがとう! つかまえた! つかまえられたよー!」

「――――♪」

 

 ぱたぱたボールに駆け寄って、それを両手で持って胸元にぎゅっとするパールに、ピョコもまた嬉しそうに駆け寄っていく。

 初めて自分の投げたボールで捕まえたポケモンなのだ。パールが抱いた感動に近い達成感は並々ならないだろう。

 でも、彼女にとっては自分の未熟な指示に反してでも、こうやるのが一番だってリードしてくれたピョコへの感謝だって、同じぐらい並々ならない。

 駆け寄ってきてくれたピョコを、腰を下ろしてぎゅうっと抱きしめるパールの表情を満たす喜びには二つの意味がある。

 初めてポケモンを捕まえた嬉しさと、ピョコがいてくれてよかったという幸せ。

 双方の意味で笑顔いっぱいのパールに抱かれ、ピョコも満足げに笑っていた。

 

 

 

 

 

「よーしっ、出てきてっ!」

 

 草むらから一度出たパールは、周りに野生のポケモンがいなさそうな場所に移り、コリンクを捕まえたモンスターボールのスイッチを三度押しする。

 開いたボールからコリンクが出てくる。座った姿勢で着地したそれは、未だ痛むのか額を前足でくしくししながら。

 そしてパールとピョコの姿を見ると、少し身構えて顎を引く。

 

「わわわ、あ、あんまりニラまないで……?

 ケガ、治してあげるから……」

 

 見下ろすほど小さなコリンクだが、睨みつけられるとパールだって腰が引けてしまう。

 捕まえたからといって、怒っている相手には物怖じだってするものだ。

 バッグから傷薬を取り出したパールは、目線をなるべくコリンクに近づけようと、しゃがみ気味に腰を曲げてゆっくりと近付く。

 

 警戒しているコリンクだったが、スプレー状の傷薬をしゅっしゅっと噴きつけられ、目を閉じそれを額に受けて間もなく、痛みが引いてきたのか目を開ける。

 痛みが消えたことに驚くその顔からは敵意が抜け、真ん丸な目でパールを見上げるコリンクの顔になった。

 野生のポケモンは基本的に攻撃的な眼をしているので、毒気の抜けたこの顔は、概ね捕まえた後でなくては拝めない。

 元々可愛らしい風貌のコリンクではあるが、こうして見ればいっそう可愛らしい、本来の魅力がいっそう露わになった姿と言えるだろう。

 

「――――、――――♪」

「ッ――?」

 

 きょとんと首をかしげていたコリンクに、横からピョコがすり寄っていく。

 驚いたコリンクではあったが、好意を示す、そして痛めていた額をぺろぺろと舐めるピョコの仕草には満更でも無さそう。

 先程はがっつりやり合った間柄ではあるが、少し前には痛んでいた場所をいたわるピョコの行動は、仲直りを求めるものだ。

 ピョコがパールのポケモンで、自分もパールに捕まえられたことを理解しているコリンクは、和解を求めるピョコの態度に微笑んで頬ずりを返す。

 

 ポケモン達はみんな純真だ。それはまるで、感情に任せて喧嘩してしまっても、ごめんなさいって言われれば許して仲直り出来る人の子のように。

 そんなコリンクとピョコの姿を前にして、さっき戦ったばかりの子と仲良くなっていけるかな、と不安だったパールも心が温まる。

 

「あははっ、ピョコ、その子とはいい友達になれそう?」

「――――♪」

「ねぇねぇ、私ともお友達になってくれない?」

「――――♪」

 

 じゃれ合うように身を寄せ合う、ピョコとコリンク双方に声をかけるパールは、まずピョコから嬉しくなれる反応を得られて。

 問いかけたコリンクにも、目を細めた笑顔を向けられて、もっと嬉しくなって抱きしめにいく。

 初めて捕まえたポケモンであるという感慨も、今に限っては吹っ飛んでしまう。

 ただただ好意的な笑顔を向けてくれるコリンクが可愛い。

 

「――――♪」

「わっ、わわっ?

 なんかぱちぱちするよ?」

 

 ハグしたコリンクから、強い静電気みたいな強い刺激を肌に受け、思わずコリンクを抱いた腕をほどきそうになるパール。

 でも離さない。耐えも入っているが、自分から抱きしめにいって離すことはしたくない。

 首元に頬ずりされ、顔に近い位置にぱちぱちと痛みが走っても、これだけ好意的な接し方をされて突き放すなんて、傷つけかねないことはしたくないのだ。

 

 しばらくそのまま抱きしめてから、後ろ足だけで立ってパールに身を寄せていたコリンクを離し、パールは前足を着地させる。

 尻尾を振って、これからも仲良くしてねと微笑むコリンクの姿に、パールは胸がきゅんきゅんする。

 やっぱりポケモンって可愛い。たまらなく可愛い。

 テレビの向こう側や、他人様のポケモンを遠目に眺めていた時とは全然違う。

 目の前にあって活き活きとした仕草を見せてくれる、そんなポケモンの実像の可愛らしさは想像以上と言う他ない。

 

「えぇと、えぇと……"パッチ"、って呼んでいいかな?」

「?」

「あなたの名前。

 私、あなたのことそう呼びたい。だめ?」

「――――♪」

 

 コリンクは、自分のことをどう呼ばれようが気にしない。コリンクなんてのは人間が勝手につけた呼び名にして分類だ。

 問いかけるパールに、パッチという名でこれから呼ばれるのだと名付けられたと知って、コリンクは猫のような鳴き声を出して微笑んだ。

 快諾のリアクションに、パールの表情もぱあっと明るくなる。

 

「えへへ、ピョコ、覚えてね? この子はパッチ!

 パッチも覚えて、この子はピョコだよ!」

「――――♪」

「~~~~♪」

 

 パッチにピョコの名前を教えて、ピョコにパッチの名前を教えて。

 自分の名前を捕まえたばかりのポケモンに伝えるのは二の次のようだ。

 そんなことより、ピョコにとって一緒に旅する、初めてのポケモンの友達が出来そうなシチュエーションに、パールは頭いっぱいである。

 鳴き声を交わし合い、ポケモン同士でのみ伝わる声で改めて自己紹介し合うかのようなピョコとパッチの姿を、ただただパールは幸せそうに眺めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。