ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第60話   カンナギタウン

 

 210番道路を程なく通過し、カンナギタウンに到着したパール達。

 ソノオタウンやズイタウン、あるいはパールの故郷であるフタバタウン同じように、ここカンナギも静かで小さな町だ。

 山間の大きな盆地を中心に拓かれたこの町は、山林と傾斜に周囲を囲まれるように佇み、どこにいようと耳を澄ませば、山の声が聞こえてくると例えられる。

 具体的に語ると情緒を欠くが、林間を抜ける風の音や、それによって揺らめく木々や葉のざあっという音のことを概ね指すと思えばいい。

 山林の真ん中に拓かれた町であるゆえ、山々を駆け抜ける風の集う場所として、一際それがよく人肌に届く場所として相成っているのだ。

 ある程度標高が高いせいもあのだろう。また、それゆえにシンオウ最北のキッサキシティに次ぎ、寒くなるのが早い町でもある。

 今日この頃はそこまででもないが、秋半ばにしてパールもプラチナも、ちょっと肌寒さを感じているぐらい。

 

「プラッチぃ~……覚えてろぉ~……」

「覚えとくのはパールの方でしょ。

 絶対忘れないでよ、忘れた頃に今日のこと引っ張り出すかもだよ」

「うぐぐ……私、何をさせられるんだろう……

 プラッチはすけべだし、保留にされると恐怖しかない」

「誰がすけべだよっ。

 次それ言ったら命令がきつくなるからね、覚えておきなよ」

「あい。

 敗者には何も言い返す資格がないのです」

「そういうとこは潔いんだね」

 

 さて、パールとプラチナだが、静謐で趣あるカンナギタウンの情緒を味わうにはまだ少し若い。

 特に今日の二人は、そんなことより大事なことで頭いっぱい。

 崖登り勝負ではプラチナが勝利し、パールはプラチナの言うことを何でも一つ聞かなきゃいけなくなったのだが、プラチナがその話を保留にしてきたのだ。

 今、特に何かして欲しいことが思い付かないらしい。また今度に取っておく、と。なんかそれってずるい気もするのだが。

 そんなわけで、いったいどんなことをある日突然要求されるのかと、パールは今後に懸念を抱えて過ごすことを余儀なくされたのであった。

 

 まあ、プラッチのことだからそこまで意地悪な命令はしてこないだろう、とはパールも信頼しているので、そこまで悲観的にはなっていないのだが。

 反則じみた保留を許すのも、二人の間に信頼関係があるからだ。

 保留なんてパールももっとごねるかと思っていたシロナ目線、パールも随分プラチナ君のことを信用しているんだなと察せたものである。

 

「私、ここの生まれなのよ。

 今日は、里帰り」

「えっ、そうなんですか?」

「パール、知らなかったの?

 けっこう普通にシロナさんのプロフィールとか見たら書いてあるよ?」

「あはは、私そういうのあんまり見ないから……」

 

 チャンピオンたえうシロナのファンの間では常識、そうでなくてもプラチナのようにちょっと物覚えのいい子なら知っているような話なのだが。

 本当にこうしてジム巡りの旅に出る前は、ポケモンバトルという文化の豆知識に疎かったことを垣間見せるパールである。

 それでもここまで、バッジ5つを集められた彼女の結実を見るに、ポケモンバトルに重要なのはそういう知識ではないということの証左かもしれない。

 確かに現チャンピオンの出身地なんて知っていようがいまいが、バトルの腕には関係あるまい。大事なことは全て、旅立った後から学んできたパールである。

 

「今日は久しぶりに実家で寝るけど、あなた達も来る?

 たまにはポケモンセンター以外のお布団で寝たくない?」

「ええっ、そんなの悪いですよ。

 シロナさん、せっかくの実家帰りなんでしょ?」

 

「あ、パールが遠慮してる。僕にもわかる。

 ほんとは行きたいオーラが凄い」

「うるさいぞプラッチ~!

 余計なことを言うでなし~!」

「あはははは、いいのよいいのよ。

 せっかく一緒に旅してるのに、今日は別の所で寝ましょうなんて水臭いじゃない。

 来て来て二人とも、一緒にご飯食べて一緒に寝ましょ?」

 

 年長者の里帰りを邪魔するなんて、と遠慮全開のパールだが、そわそわ靴先で地面をかいている姿から、プラチナには一目瞭然。

 シロナさんの実家ってどんな所だろう、行ってみたいなぁ、シロナさんと夜もいっぱいお話できたら楽しそうだなぁ――と、絶対そんなこと考えてる。

 我慢してるのにそれを暴いてくるプラチナに、パールはふしゃ~っと吠えて抗うが、子供はもっと素直でいい。パールはちょっと行儀が良過ぎ。

 

「シロナさん、キャッチして下さい」

「さあ来いっ」

「えっ」

 

「よいしょ」

「はわっ!?」

 

 プラチナとシロナが最短の会話で意志疎通。

 何かと思ったパールの背中を、プラチナが突き飛ばし気味に押してシロナの方へよろめかせる。

 彼の意図を理解していたシロナは、わたわたっとしていたパールに歩み寄って、真正面からぎゅむっと両腕で抱き止めるように捕まえた。

 たった一日のうちに打ち解けて、なんとシロナもプラチナもわかり合っているものであろうか。シロナがそれだけ話しやすいお姉さんということか。

 

「あぷぷ……

 ご、ごめんなさいシロナさん、プラッチが……」

「パールぅ?」

「は、はう?」

 

 シロナの胸に顔をうずめる形になったパールは、自分の足で立って顎を上げ、シロナの顔を間近に見上げる形に。

 自分を抱いて離さないシロナが、至近距離でいたずらっぽい笑顔を浮かべる目前光景には、一旦言葉を失うパールである。

 それに際し、シロナがパールの頭を優しく撫でてあげると、あっという間にパールが弱くなるのを何となくシロナもわかっているようで。

 

「一緒にお泊まり、しましょ?

 あなたがどんな風に旅してきたか、私、たくさん聞かせて欲しいな?」

「は、はい……

 よろしくおねがいします」

 

 どうにもパールは、尊敬する人に強く迫られると弱い。

 元々ナタネにも、スモモにも、メリッサにも、敬意を抱けばわかりやすい程で、一番惚れているナタネさんへのなつきっぷりは随一。

 そして他の女性陣に比べても、押しの強いシロナがぐいっと迫れば、パールは遠慮や気遣いなど削ぎ落とされ、されるがままに従うのみ。

 そんな子だとわかっているプラチナのアシストもあって、シロナはあっさりパールを丸め込むに至ったのであった。

 

 しかし、言質を受け取りにっこり笑ったシロナの腕から解放され、よろよろ後ずさって顔を赤くするパールの姿は如何なものか。

 本当、一度心から尊敬した相手には、何をされても言われても従順なほど弱々なんだなぁ、とプラチナも再度痛感するばかり。

 そもそも『よろしくお願いします』と言うのもなんだかヘン。『お世話になります』ならまだしも。頭が回っていなかった証拠。

 なんだか間違えて悪い奴を尊敬してしまったが最後、ころっとダマされてしまうタイプにも見えてきて、今後もプラチナはパールから目を離せなくなりそうだ。

 

 同い年に母親のような心配をされているパール、彼女が頼りないのかプラチナが心配性すぎるのか、どちらゆえなのかは一概に語れないところである。

 恐らく、両方なので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後パール達は、シロナの実家に一度赴き、シロナのお爺ちゃんとお婆ちゃんのご挨拶。

 今晩はお世話になります、と礼儀正しく挨拶する二人を、シロナの家族も快く受け入れてくれた。

 ひとまず今夜、二人がシロナの実家にお泊まりすることはこれで確定だ。

 

 ただ、暗くなる前にとシロナのお婆ちゃんが、シロナに頼んだことが一つある。

 カンナギタウンには、古くから在る遺跡があり、それはこの町にとって非常に重要なものとされている。

 その遺跡の入り口に陣取っている、気持ちの悪い恰好をした男がいるから、そいつを追い払って欲しいという頼みである。

 ちなみにお婆ちゃん、"気持ち悪い恰好"とはっきり言った。容赦ない物言いである。

 

 カンナギタウンはハクタイシティとは少し異なる意味で、"昔を伝える町"と呼ばれている。

 ハクタイシティは神話をまず中心に置き、それに携わってきたシンオウ地方の人々の歩んできた歴史や暮らしを、追想するかの形で今に伝える町。

 カンナギタウンはそうではなく、古くからあるものをなるべく残し、古来よりの地に残るものを重んじ、あるがままを現代に残そうとする形で歴史を語る。

 周囲の山林に全く手を加えられておらず、盆地を中心に山間の起伏の多い町の形を、ご老体も多い中で全く均さないのもその意図ゆえ。

 ホテルの一つも無く、それらしい宿に泊まろうとするならば、民宿めいた旅館に泊まるのがこの町だ。

 カンナギタウンを訪れる外来者は一様に、ここは今時にして古風だなと口にすることが殆どである。

 

 そんなカンナギタウンにとって、古くから人の手を決して加えてこなかった遺跡の価値は、只ならぬほど大きいものとさえ言えるだろう。

 そんな町の宝である遺跡の前に、不審者が陣取っているという情報自体の由々しさは、あまり冗談では済ませたくないものだ。

 

「気持ち悪い恰好、ってどんなんでしょうね?」

「身なりが汚いとかだったら、うちのお婆ちゃんなら"だらしない"って言いそうだけどねぇ。

 よっぽどこう、変人な恰好してるんじゃない?」

 

「ヘンなメイクしてるとか?」

「奇抜な色の服装してるとか?」

「あなた達の想像力、楽しいわ」

 

 シロナのお婆ちゃんは、カンナギタウンの長老と呼ばれる人物で、それなりにこの町のためになる判断を重んじる人だ。

 そういう人が、あいつを何とかしてくれ、と明言してくる時点で、問題ありということなのだろう。

 その気になれば、という力があるシロナに排除を頼むということは、単に恰好が変なだけじゃなく、そいつはお行儀も悪いということである。

 でなければ、長老と呼ばれる人物が、あれをどうこうしてくれと頼むこともあるまい。

 お婆ちゃんだって本来、無用な波風は望むべくもないはずなのだから。

 

 そんな頼みごとをされたシロナも、これは軽く見ていい問題じゃなさそうだな、と思うのだが、連れの二人のおかげでちょっと和む。

 自由な発想力で不審者を想像してくれるパールとプラチナの言葉を、そのまま想像すると、ちょっとくすっと笑えてくる。

 変なメイクして奇抜な服装の変人か。そりゃあ確かにド変人。

 

「……あっ?

 もしかして、あれがそうでしょうか……?」

「うっ……!

 私あの恰好してる人すっごく嫌い……!」

 

 さて、そうして町の真ん中の遺跡入り口の方まで来たパール達なのだが。

 その遺跡の入り口に立っている男の姿を見て、プラチナが眉間に皺を寄せ、パールに至っては後ずさるほど嫌悪感を顔に出している。

 この辺りは、感情が表に出やすいかどうかの違い。シロナから見れば、プラチナも同じぐらい嫌なものを見た態度だと察して余る。

 

「そんなに?」

「ギンガ団だと思います……!

 ハクタイシティにいた人達と同じ髪型ですもん……!」

 

 ギンガ団の服装自体は、トバリシティで公共事業に携わる、悪事と無縁とされる本家ギンガ団も同様だ。

 谷間の発電所やギンガハクタイビルにて、悪事に手を染めていた自称ギンガ団らに加わる特徴は、みな一様の髪型とその色。

 それが、あの不審者と一致する。パールにはもう、悪人にしか見えない模様。

 

 シロナもニュースや新聞で、件の悪党についての容姿は一度見ているが、いま見てピンとくるかどうかは別問題。

 二十年以上生きて色んなトレーナーを見ていると、色んなファッションの方々を見てきているので。

 各地のジムリーダー、四天王、コーディネーターを例にとっても、皆様それなりに個性的だもの。シンオウ四天王の一人だって、赤毛の丁寧なアフロ頭。

 ギンガ団下っ端の出で立ちが、一度見れば忘れないほどの奇抜な恰好かと言えば、案外そこまででもなかったりする。

 

「……ふぅん」

 

「うえっ?

 し、シロナさん……?」

 

 が、パールの口から悪しきギンガ団の名を聞いて、それを確信すればシロナの目の色が変わる。

 パールとプラチナを後ろに置き去りにして、遺跡の前に陣取っているギンガ団員の方へ歩み寄っていくシロナ。

 彼女の横顔を一瞬見ただけのパールだったが、その瞬間にパールの頭からは、ギンガ団への嫌悪感も一瞬で吹き飛んだ。

 

 シロナさんのぎらっと鋭く光った眼が怖かったからである。

 ひゅんっとプラチナの方を見て、シロナさんどうしちゃったのと無言で冷や汗を流すパールの顔に、概ねプラチナも共感する。

 

「ちょっと、あなた」

「は? 何ですかアナタ」

「こんな所で陣取って、何してるわけ?」

 

「な、なんかすごいよ、シロナさん……

 私いまあの人に近寄りたくない……」

「僕も……なんか怖いね……」

 

 決して強い声でも無いし、どすの利いた低い声を発しているわけでもない。

 それでもシロナから漂う、声をかけた相手に対する敵愾心は、後ろ姿からでもびんびんに伝わってくる。

 しかし、優しいシロナさんにしか触れていないパールとプラチナでさえそうなのに、それを真っ向からぶつけられるギンガ団員はそう感じていなさそう。鈍い。

 

「遺跡を調べているところデース!

 邪魔しないでくだサーイ!」

「へぇ、それはそれは精が出るじゃない。

 で、何か発見はあった?」

「なんにもありまセーン!

 名高い遺跡と聞いてわざわざここまで来たのに、何の発見も無くてイライラしてるぐらいデース!」

「あらあら……それはご愁傷様。

 すぐに発見を得られないからってイライラするぐらいじゃ、あなた考古学には向いていなさそうね」

 

 ちょっと嘲笑気味に笑ってそう仰るシロナの声が、パールとプラチナには何だかぞわぞわくる。不機嫌オーラがえぐい。

 自分が何か言われてるわけでもないのに、パールもプラチナも蛇に睨まれた蛙のようにびびっている。

 

「なんですかアナタ! 何様ですか!

 私はイライラしているのですよ!」

「奇遇ね、私もまあまあイライラしてるのよ。

 私、ここカンナギタウンの出身なんだけど、町にとって大事な遺跡の前に変な人が居座っててさ。

 イライラしてるあなたが妙なこと起こさないか、町の人も私も気が気じゃないのよ」

「妙なことなんてしまセーン!

 どうせ何ひとつ発見の無い遺跡なら、ギンガ爆弾でドカーンとやっちゃいたいと思ってるだけ……」

 

「は?」

 

「……………………で、別にホントにやろうとは思ってませーん」

 

「ひえっ……」

「パール、わかる、わかるよ……

 僕も今すっごいびびってるから……」

 

 人間、たった一文字の発言であんなに恐ろしいオーラを放てるものだろうか。

 パールはシロナの背中しか見えないシチュエーションで幸いだったというところだ。

 あれだけ覇気に鈍感だったギンガ団員の男性が、びびってシロナから目を逸らしたぐらいである。今のシロナはどんな目をしているだろう。

 恐らくパールがそれを自分に向けられていたら、恐怖で腰を抜かしていたのではなかろうか。それだけの眼をしている。

 怯えてプラチナに身を寄せるパールの背中を、プラチナがさすさすして気遣っている。

 

「ねえ、悪いんだけど余所行ってくれない?

 迷惑なんだけど」

「そ、そんなことあなたに言われる筋合いは……」

「さっき言ったこと、もう一回言わなきゃ駄目なの?」

「…………え~~~…………あ~~~……」

「余所行ってくれない?

 二回言ったわよ。三回目は言わせないで欲しいんだけど」

 

 殆ど恫喝と化しているが、ぎりぎり仰ることは筋が通っている。

 去って欲しい理由はさっきもう言ったはず。それでも知るかと言われるなら次の話に移るだけ。

 まあ、次の話に移ってくれそうな顔をしていないシロナだが。

 

「し、仕方ありまセーン! ここは私が妥協しマース!

 そこまで仰られるなら折れるのも私が大人だからデース!」

「悪かったわね、子供で」

「それでは、さよーならー!」

 

 びびって退散するなりの捨て台詞を吐いて、ギンガ団員は一目散に逃げていった。

 走る足の速さから見て、相当びびったことは見て取れる。

 パールやプラチナから見れば尚更にわかる。この位置からでも怖かったもの。

 そして、二人に振り返るに際し、表情が元に戻りきっていないシロナだったから、思わずプラチナでさえびくっと肩が跳ねた。こわい。

 一瞬見えた無表情でも、ぞっとするほど怖い。

 

「あ……あははははは、ごめんね、二人とも。

 我慢できなくてイラッとしちゃってたから……」

 

「あい」

「はい」

 

「ぱ、パール~?

 大丈夫よ~、いつもの私よ~? 怯えないで~?」

 

 駄目です、そんな風に誤魔化そうとしたってどうにもなりません。

 両手と胸を開いて、よければこっちに来てと訴えるシロナだが、プラチナにぎゅっと身を寄せたままのパールは動かない。

 女の子に身を寄せられるプラチナは役得だろうか。そうでもない。怖くて未だに余裕がないので。

 普段にこにこしていた人の豹変ぶりは、それだけ衝撃的なものを二人に深く刻み付けるほど鮮烈だったようで。

 

「シロナさん、元ヤンキー説」

「だから強くてチャンピオンなんだね。

 今シロナさんの強さの秘訣がわかった気がする」

「誰がヤンキーかっ!

 聞こえてるわよ、二人とも!」

「ひゃ~! 怖いシロナさんモードだっ!」

「遺跡に逃げ込めっ!」

 

 しかし、わざと聞こえる声でひそひそ話の素振りを見せ、シロナをいじる二人の切り替えも早い。妙な息の合わせ方とも。

 抗議するシロナから逃げるように、誘われた遺跡の中へ。

 話のわかってくれる二人である。シロナも、いい子達と親しくなれたんだなぁと、内心ほっこり嬉しく感じる所存だ。

 

 

 

 

 

 カンナギタウンの遺跡は洞穴めいており、中に明かりも通さない自然体のまま残されているため、手ぶらで来ると真っ暗である。

 ライトを持ち込んでもいいのだが、ポケモントレーナーならフラッシュを使いましょう。

 プラチナはケーシィに、シロナは今回もどのポケモンに使わせているのかわからないが、二人ともボールの中のポケモンにフラッシュを使って貰っている。

 そしてパールも今回は、先日プラチナに教えて貰ったフラッシュの使い時。

 パッチがボール越しに光を発してくれて、三人分の光で真っ暗なはずの洞窟も道行き明るし。

 

「へぇ~……なんか、人が棲んでた形跡あるんですね」

「雨ざらしにもなっていないから、けっこう旧いままの形でそのまま残ってるの。

 これだけ太古の生活感を残した遺跡って、現代じゃなかなか珍しいのよ?」

「これもしかして、昔の人がテーブルみたいに使ってたのかな?」

「恐らくね。

 そばの段差も、腰かけるにはちょうど適した形じゃない?」

 

 腰掛けに丁度いいような、盛った土の塊が長椅子のように佇み、その前に低くも平たい台のような形のものがあるのは、まるでテーブルと椅子のよう。

 壁面に、意図的に作ったんじゃないかと思われるような出っ張りがあるのは、彫像品や装飾品でも飾っていた名残なのだろうか。

 蟻塚のように高く盛られた土の塊は何の目的でそこに作られたか不明だが、昔はてっぺんに穴が開いていて、松明の差し所だったのではという説が有力。

 当時の人々の暮らしは想像で補うしかないが、容易に想像させてくれるのも、こうして形良く残った遺跡がもたらしてくれる楽しみだ。

 

 風雨に晒される野外の遺跡と比較すれば、こうした閉じた空間の遺跡は、かつての面影をやや残しやすい。

 もちろん経年に伴う風化は進んでおり、五十年後、百年後にはまた、いま現存する太古の名残も失われているだろう。

 パール達も200年早く生まれていれば、今よりもっと鮮明に過去を刻む遺跡を見られたし、逆に200年後に生まれるよりはよりよい眺めとも。

 それもまた、古くからカンナギタウンがこの遺跡を保存しようと努めてきた、今後もそうであろうからこそ語れる仮想の話。

 

 過去より連綿と現代まで続く人の歴史と文化を識るにあたり、遺跡というものの存在は極めて貴重である。

 誰しもにわかってもらえる価値とは限らないが、多くの人々が神秘性と歴史的意義を感じるものには違いない。

 先のギンガ団員は爆破を仄めかしていたが、切にとんでもないことだ。

 誰かにとって並々ならず大切であるはずのものを、軽はずみにぶち壊しにしてしまおうと思うような、想像力に欠き過ぎる大人にはならないようにしよう。

 

「けっこうがちがちに固められてるんだなぁ……

 シンオウ地方ってそこそこ地震も多いのに、そのたび崩れ落ちずにこうして残ってるんだ」

「現代の建物なんかは、多くの建築士さんの設計で、耐震性の優れたものが沢山作られてるわよね。

 昔の人は現代のような、発展した算術や計量に基づく設計技術は無かったはず。

 それで、こうして現代まで残るようなものをこうして造っていること自体、凄いことだと思わない?」

「んむむむ……言われてみると、確かに……

 見てるだけでもへぇ~って思えるとこ沢山あるけど、ここにこうして残ってるだけでもそういうとこ見えるんですね……」

 

 壁面に触れてみるパールに、シロナは遺跡や歴史を好む学者らしい言葉で解説を添えてくれる。

 しみじみ聞いて新たな考察を得るパールに対し、語るシロナも楽しそう。

 それを見て、プラチナが微笑ましく感じるぐらいである。

 プラチナも学者の卵だ。気持ちはすごくよくわかる。彼とて自分なりに気付いたポケモンに対する知識は、人に沢山話せたらきっと楽しい。

 奥ゆかしい彼なので普段は控えているが、好きなだけポケモンについて語れる機会があったら、一晩中だって語れそうな子には違いない。

 

「一番奥には、この遺跡の一番の名物とも呼べる壁画があるのよ。

 行ってみたくない?」

「行く行く!」

「すごい興味あります」

「ふふっ、じゃあ、レッツゴー♪」

 

 シロナも昔からよく触れてきて愛着のあるカンナギの遺跡だ。

 パールとプラチナが興味を持ってくれると、まるで可愛い兄弟に好意を示して貰えたかのように嬉しい。

 先導するシロナは、背を向けた二人に見えない角度で、上機嫌な笑顔を絶やすことが出来ずにいた。

 

 進む中でも、太古ここにいた人々の生活感をほのかに感じる情景がいくつもあり、それを眺めながら歩いていく。

 階段もある。果たして人類が、階段という原始的かつ現代でも有用な造形を初めて開発したのって、果たして何千年前なんだろう? 何万年前なんだろう?

 そんなことさえ、ふと疑問に感じれば面白い。シロナがそれを話し、過去を想う楽しみを二人に教えてくれたりなんかしつつ。

 そう広くないこの遺跡の最奥に辿り着くまで、そう時間はかからなかった。

 

「……あら?」

 

 そろそろ着くわよ、という言葉を用意していたシロナだが、間もなく目的の最奥だという所、行く先に人がいることに気付く。

 ライトのようなもので壁画を照らし、じっとそれを見つめている後ろ姿に、パールとプラチナも気付いたようだ。

 ほんの一瞬だけ三人とも、気付きによって足が止まったが、先客かなという軽い気持ちでその人物に近付く歩みを再開する。

 

 しかし、その後ろ姿、どこかで見覚えがあるような。

 シロナにとっては古くからの知り合い。そしてパール達にとっても、比較的最近出会ったばかりながら見知り合い。

 誰なのかわかったのはシロナが一番早かったのだが、近付いてから声をかけようとした彼女なので、まだ声を発して呼びかけることはしない。

 

「あれ……?

 アカギさん、ですか?」

 

 シロナが足を止め、少し驚いた顔でパールに振り向く。

 え?知り合い? という顔と心情である。

 そして名を呼ばれた人物もまた、既に足音から気付いていた者達に、壁画に背を向けて振り返る。

 

「……パール、だったかな。

 それに、シロナと、プラッチ君か」

 

 まずは自分の名を呼んだ少女の名を。

 続いて、旧知のシロナの名を。

 そして、間違えて覚えたプラチナの名を。

 かゆくなるプラッチ君である。そういえばちゃんと名乗っていなかったなぁと。

 

 女の子のパールに"君"付けをしないアカギで、"ちゃん"をつける語り口でもないゆえ、アカギがパールだけ呼び捨てにしたかのような一幕となった。

 シロナ目線では、二人が知り合いだったことに加え、その事実にもまた驚きを隠せない。

 そんな形で迎えた、誰しも予想だにしなかった、パールとアカギの邂逅だった。

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