ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第65話   VSサターン

 

「ポッタイシ! みずのはどう!」

「ミーナ! 走って!」

 

「ふむ、わかりやすい」

 

 ポッタイシの撃つ水の波動を、サターンのミノマダムはひょいっと跳んで躱す。

 本来動きが遅いとされるミノマダムにしては機敏だが、パールやプラチナにとっては想定外ではない。

 相手がレベルの高いポケモンであることはわかっているのだ。

 

「ミーナ! メガトンキック!」

 

「む? 用心深いな……」

 

 水の波動を躱した直後のミノマダムにミーナが繰り出したのは、ハイキックめいた全力の回し蹴りだ。

 このミノマダムは"ゴミのミノ"個体だ。はがねタイプを複合しており、メガトンキックの効果はさほど大きくない。

 "とびげり"の方が効果が高そうなところ、回避されれば逆に痛手と見たか、攻撃の命中性を高めるコンビネーションを敷いてきたにしては用心深いと見える。

 格上相手の挑戦なりの技の選び方をしている辺り、幼く見えて侮れない子供達だとはサターンも意識すく

 

「なんだ、"やつあたり"か?

 あまり懐いていないようだな」

「うっ……一目で……!」

「まあ、悠長に戦うのがお望みなら私も付き合おう。

 ミノマダム、準備しろ」

 

 ミーナに蹴られてやや飛ばされながらも、着地しくるっと容易に体勢を整えるミノマダムに、大きなダメージは通っていなさそうだ。

 蹴ったミーナの方が、蹴り足がちょっと痛くてぴょんぴょんしているほど。反動と呼べるほどのダメージではないようだが。

 一方で、パールの言う"メガトンキック"が別の技であると即座に看破したサターンは、ミノマダムに新たな指示。

 ぶるぶるっと体を震わせるミノマダムは"せいちょう"しているのだが、この仕草を見て何をしているか見極めるのは少々難しい。

 

「まずいよ、パール……!

 時間をかけると相手がどんどん強くなる!」

「そ、そうなの!?

 ミーナっ、急げる!?」

「――――z!」

 

「なるほど、見る目はあるな」

 

 しかしプラチナはしっかり見極めている。

 そんなプラチナの態度を見て、決着を急ぐべきだと察し、水の波動を自発的に撃つポッタイシの賢さも、サターン目線では評価点。

 対するパールはやや動揺気味で、詳細を省き要点のみ伝えたプラチナの言葉から、本質を100%理解しているわけではなさそう。

 比較的厄介なのは少年の方だ。ひとまずサターンは、そう見定める。

 

「ミノマダム、撃て」

「――――」

 

 水の波動を受けて少し後退したミノマダムだが、ポッタイシに向けて反撃だ。

 少し目つきを鋭くしたかと思ったら、避けようもないほどの速い光線が発射され、ポッタイシの体の真ん中を撃ち抜いた。

 その光景を目にしたミーナが、やめろこの野郎とばかりに横から飛びかかり、技を撃っている途中のミノマダムに横殴りの"とびげり"をぶちかます。

 蹴飛ばされて転がって、すぐ跳ねて体勢を整えるミノマダムは頑丈で、しかしサイケ光線の発射が途絶えたことでポッタイシも助けられた形となる。

 

「ポッタイシ……!」

「ッ、ッ……!」

 

「ミーナ、でんこうせっか!

 好きなようにさせちゃ駄目だよ!」

 

「ふむ、流石に一撃では沈まないか」

 

 成長一度を挟んで威力を高めたにせよ、あのサイケ光線の威力はかなり高かったようで、ポッタイシが膝を地面から離して立つまで数秒かかった。

 いっそう相手が強くなってはまずいと見たパールが、速攻戦術に切り替えたのは正着手だろう。

 速度重視の接近速度でミノマダムに組み付いて、両手と耳で相手を捕まえれば、逃がさぬ姿勢で足を縮めて得意技へ。

 

「メガトンキック!」

「防げ」

 

 ミーナが両足でミノマダムの眼の下を蹴飛ばし、自身はくるんと後方回転して着地する中、蹴っ飛ばされたミノマダムは地面を転がりこそすれほぼ無傷。

 "まもる"ことでダメージを殆ど緩和している。元が頑丈なだけでなく、小さなダメージすらゼロに持っていく堅固さがこのミノマダムにはある。

 続いてポッタイシが撃ってくる水の波動も、来ることが概ねわかっている中では、跳躍で以って回避してしまう。

 高く跳んだ中で、再び体を震わせていることが目に留まるなら、またも攻撃力を高めていることも理解できるはずだ。

 

「っ……!

 ポッタイシ! 水鉄砲!」

 

 着地した瞬間のミノマダムを狙い撃つよう発したプラチナの指示は、サターンに僅かな違和感を与えたはずだ。

 水の波動の連発ではないのか。水鉄砲など、威力でもそれに劣るはずだ。

 だが、開いた口から実際に水鉄砲を撃ったポッタイシの姿を見た瞬間、サターンもまさかという想いは抱いた。そして、その予感は的中している。

 

「"しおみず"か……!」

 

「やっぱり、最初から弱ってる……!」

 

 ポッタイシの水鉄砲を受けたミノマダムのリアクションは、格下の撃つ基本技を受けたそれではない。

 痛い痛いとばかりに身をよじらせて、浴びせられる水鉄砲からミノマダムの仕草から、サターンもただの水鉄砲ではないと確信したようだ。

 既にダメージの蓄積した相手、傷のある相手にこそよく効く"しおみず"だ。

 

「ミノマダム、撃て。ポッタイシだ」

 

 サターンの判断は早かった。潮水使いを一気に叩き潰す。

 ミノマダムの撃つサイケ光線は、ポッタイシの胸元に直撃し、浴びせられた者の全身が四方八方から押し潰されるかのような苦痛を与える。

 派手に吹っ飛ばしたり倒したりこそしないものの、身体を内側まで傷つけられるかのようなダメージに、立つ力を失ったポッタイシが後方に倒れた。

 

「くうぅ……ポッタイシ……!」

 

「ミーナっ、当てたら退がって!」

「――――z!」

 

 倒れたポッタイシをボールに戻すプラチナの傍ら、パールの指示もやや冷静。

 攻撃直後で隙のあるミノマダムに跳び蹴りをぶつけたミーナに、威力の高まった反撃を浴びないよう離れるよう指示。

 ここで畳みかけるのは、戦闘不能覚悟の捨て石戦略も同然。パールの指示に従い退がるミーナも、少々不満げだが意図は理解しているようだ。

 

「やるな、少年。

 どうして私のミノマダムが、既にダメージを受けているとわかった?」

「答える義理なんてない……!」

「参ったな、意趣返しか。

 だが、見上げた態度だ」

 

 リッシ湖を占拠したギンガ団が、警察と二度の交戦を経たという事実。

 サターンが口にした、既にここを訪れた目的は達成したという発言。

 そしてマキシの相手を、切り札ドクロッグ一匹でこなしたという実績。

 まさかマキシのポケモン全てを、既にダメージのあったドクロッグ一匹で倒したなんて話はあるまい。

 つまりその前の戦いや使命は、ドクロッグ以外のポケモンに任せていたというのが妥当な読み筋である。

 その中にこのミノマダムが含まれていたとは限らないので、あくまで可能性は半々にしか過ぎなかったが、充分な推察要素であったのは確かだろう。

 

 格上挑戦を意識して、ある程度の緊張感やプレッシャーもある中で、思索を巡らせこの仮説に辿り着いたプラチナには、サターンも舌を巻いている。

 敵に情報なんてわざわざ渡すか、と突っぱねる度胸もなかなか。

 それを相手取るサターンにとっては厄介な気骨だが、それを踏まえてもサターンはこうした若者は嫌いじゃない。戦っていて楽しいとさえ感じる。

 

「頼んだよ、ガーメイル……!」

「ほう」

 

 プラチナがポッタイシに繰り出したのは、ちょうどミノマダムの親戚筋とも言える個体だった。

 分岐進化するミノムッチの進化先は、雌のミノマダムに対して雄のガーメイル。

 だが、ゴミのミノを纏う種類のミノマダムに対し、ガーメイルの相性はあまり良くない。

 一見、他に選択肢があるならもっと他のポケモンを出せば、と言われそうな判断だ。

 

「まあ、ゆっくり様子を見よう。

 ミノマダム、撃て」

 

「ガーメイル、"かぜおこし"!」

 

 とはいえ、知恵も知識もそれなりのプラチナが選んだカード、サターンの警戒心もそれなり。

 現に天井のあるフィールド下とはいえ、高所を素早く飛ぶガーメイルは、狙撃する側にとって厄介だ。

 高威力のサイケ光線を回避したガーメイルが、羽をはためかせて生み出す強い風は、土を舞い上げそれをぶつけながら、ミノマダムをぎゅっと押す。

 

「ミーナっ、行ける!?」

「――――z!」

「よしっ……! 跳び蹴りだよ!」

 

「地上と頭上からの挟撃か……

 2対1の利を最大限に活かした戦い方には違いないな」

 

 ミノマダムがガーメイルを狙撃しようとすれば見上げざるを得ず、地上を駆けるミーナへの対処が一瞬でも長く遅れる。

 ミーナを迎撃しようとしても同様だ。ミノマダムの視線は振り回される。

 そしてじわじわとミノマダムの体力を削る"風起こし"、その強い気流の中にあっても強い足腰で走るミーナは、味方の風に遮られない。

 吹き飛ばされないよう踏ん張るミノマダムが動けない所へ、風を切って素早く突っ込んでいく。

 

「防げ」

 

 "まもる"ことでミーナの跳び蹴りを真っ向から受けたミノマダムは、少々揺らされた程度で踏ん張りきっている。

 鋼のように頑丈なミノマダムに踏ん張り受け切られたミーナにすれば、鉄の壁に思いっきり突っ込んで蹴ったようなものだ。

 突き出した蹴り足である右足が内から割られるかのような、そんな痛みに片目をぎゅっと閉じたミーナが、立つ姿勢を崩したかのように腰を沈める。

 

「頑張れえっ! メガトンキック!」

「ッ――――z!」

 

「む……!?」

 

 怯んだミミロルに至近距離でのサイケ光線を浴びせる心積もりだったサターンだが、やられる前にやっちゃえの無茶を言うパールも必死。

 でなきゃ撃たれるのがパールにだってわかるのだ。ここには必要なガッツ。

 そしてミーナも、腰を下げたのはもう左足を引いたからで、つまり痛いはずの右足を軸足にしている。

 気付いてしまえば明らかなこと。ミーナも元よりそのつもり。

 

 目の前のボールを全力で蹴飛ばすかのように左足を振り上げたミーナは、天井までぶっ飛ばす勢いでミノマダムを蹴り上げた。

 軽いミノマダムが踏ん張りを失って蹴飛ばされればよく飛ぶ。本当に洞窟の天井まで届いた。

 蹴られたことに続いて叩きつけられたダメージは大きく、両目をぎゅっとしたミノマダムがひるると落ちてくる。

 

「"サイコキネシス"!」

 

 だが、それでも戦闘不能にまでは追い込まれないのだから、このミノマダムのレベルの高さは並じゃない。

 落ちながらにしてぐいっと頭を下げ、ミーナを睨みつけたミノマダムが、その念動力で対象を捕える。

 そのままぐいっと頭を上に向けたミノマダムの動きに合わせ、今度は超能力に捕獲されたミーナの身体が天井まで放り上げられた。

 ミノマダムが天井に叩きつけられたのと同様、あるいはそれ以上の勢いで天井に背中から叩きつけられたミーナは、痛烈すぎるダメージにけはっと息を吐く。

 そして何とか着地したミノマダムが、再びぐいっと頭を下げると、ミーナがただ落ちる以上の速度で、地面に向けて叩き落とされる。

 強力な念動力によるそれは、ミーナを掌握した見えない巨人の手が、天井に叩きつけた後に地面にも叩きつけるかの如し、無容赦極まりない連続攻撃だ。

 

「み、ミーナっ……!」

 

「~~~~……っ……」

 

 腹這いに倒れたミーナは立ち上がろうとしているが、手足に力が入らず震えるだけに留まっている。

 気を失っていないだけで、戦闘不能なのは明らかだ。

 彼女を引っ込めようと、パールがボールのスイッチに手をかけるのも早い。

 

「――――z!」

「えっ! うそ!?」

 

 だが、パールがミーナを引っ込めるよりも早く、ニルルが自らボールから飛び出した。

 パールから離れた前方まで一気に現れ、粘液で地表を滑り、ミーナを飛び越えてミノマダムを真正面から見据える位置取りに。

 それはやってやるぞという意気よりも、ミーナを守るべく自らの後ろに置いたその姿から、これ以上はミーナをいじめさせないという気骨が窺える。

 温厚なニルルがこんなに自発的な行動を取ったことは、パールにとっても驚くほどのことだ。

 

「……ニルル! 頼むね!」

「~~~~!」

 

「どうも、トレーナーの手を離れた行動を起こすポケモンが多いな。

 額面よりも、脅威的であると認識すべきか」

 

 ミーナをボールに戻してニルルに激励を送るパール。

 対するサターンも、自主的な行動を起こすパール達のポケモンは興味深い。

 指示が無くても水の波動を撃ったポッタイシ、言われるまでもなく蹴る体勢に入っていたミミロル、呼ばれるより早く飛び出したトリトドン。

 それは強みか、あるいは欠点か。楽観的でない方の結論を取る。

 

「サイコキネシスだ」

 

「ニルルっ、危ないよ!」

「~~~~!」

 

 捕まってしまうとかなり危うい念動力だ。一方的な展開にもなり得る。

 わかっているのかニルルはにゅるるっと地表を素早く滑り、ミノマダムが標的を念動力で捕えようとした指定座標から逃れる。

 相手をよく見て発動のタイミングさえ見極められれば、策の無いサイコキネシスの回避は案外難しくない。

 サターンが軽視できないのは、指示されるとほぼ同時か少し早く動いたニルルの、自力でそれを見極め判断した賢さである。

 

「ガーメイル、かぜおこし!

 相手を好きなようにはさせるな!」

「みずのはどう!」

 

「むぅ……撃て、ミノマダム」

 

 ガーメイルの起こす風に煽られ、耐えて、しかし差し向けられる水の波動の回避も強いられるという難しい立場にミノマダムはある。

 跳んで水の波動を躱したはいいが、風に煽られやや叩きつけられ気味に地面を転がるダメージもあろう。水の波動を受けるよりはマシというだけ。

 少し苦しいか。顎を動かして上空のガーメイルを撃てと命じるサターンに、ミノマダムも成長を経て強力化したサイケ光線を発射する。

 

「防いで!」

 

「ミノマダ……」

 

「どろばくだん!」

 

 ガーメイルが"まもる"でサイケ光線を凌ぐことは、サターンも折り込み済みだ。同じミノムッチの進化系、それが出来るのは当然わかっている。

 ガーメイルを黙らせてトリトドンにサイケ光線を、と続けようとしたサターンだが、ニルルが飛ばしたのは泥爆弾。

 狙撃対象から飛来する大きな泥の塊は、障害物かつ攻撃手段としてミノマダムに襲いかかり、攻撃体勢にミノマダムは回避できず攻撃そのものまで不発。

 次なる狙いがトリトドンと絵図を描いていたサターンの思惑を読み切っての指示だとしたら、パールもサターンにとっていっそう侮り難く映る。

 

「サイコキネシス……!」

 

「あっ、あっ……!」

 

 かなり苦しくなってきた中でも、ミノマダムはニルルをがっちりと見定め、その念動力で捕えた。

 浮かされたニルルが壁面に向けて飛ばされ、叩きつけられた姿はパールを焦らせる。

 自転車に乗っても追い越せないような速度で、硬い壁に叩きつけられるニルルの痛みは、その表情からも明らかなのだ。

 

「次は、あちらだ」

 

「え!?」

 

「ぁ……!」

 

 なおもニルルの体を念動力で捕まえたままのミノマダムは、ニルルの体を全速力でパールへ向かわせた。

 充分距離のある所からの飛来だ。躱すことも可能だろう。それはそれでいい。

 飛来したトリトドンから逃げたパールが、その後地面に叩きつけられるトリトドンも含め、数秒バトルに参加できなくなる時間にガーメイルを仕留める。

 それがサターンの思い描いていた次の展開だ。

 

 結果だけを語るなら、パールはニルルのことを避けなかった。

 避けられなかったのではない。きちんと腰を低くして、両腕を開いてニルルをキャッチするかのような掌を開いて。覚悟を決めて避けなかったのだ。

 だが、重くて速いニルルの飛来を、女の子の華奢な身体が受け止め切れるはずがない。

 パールにぶつかったニルルは、彼女を押し飛ばし、さらにそのニルルに下敷きにされる形で倒れたパールへのダメージは並々ならぬはず。

 なんてことを、と真っ青な顔で気を取られるプラチナの姿を鑑みれば、戦略上ではサターンにとって、躱されるよりいっそういい展開だった。

 

「ゔ……ってえっ……!!」

「~~~~……!」

 

「なに……!?」

 

 だが、ニルルの体に下敷きにされたまま、パールが絞り出すように発した声、撃てというをニルルは決して聞き逃さない。

 ニルルは自分の体と地面の間にパールを挟んだまま、ぐいっと首を動かしてミノマダムに水の波動を撃つ。

 力強い発射に対し、踏ん張りひとつ利かせなかった水の波動は、ニルル自身の体をパールの上に乗っかった位置から動かすほど。

 そしてサターンやミノマダムの想定より、遥かに速く発射された水の波動は、躱す暇も与えずミノマダムの真正面から直撃だ。

 素早い上に"まもる"という防御手段も持つミノマダムに対する、今日一番のクリーンヒットである。

 

「パールっ……!」

「っ、げほっ、えぐっ……!

 に、ニルルっ……ナイス、ショットっ……!」

「~~~~!!」

 

 軋む体でなんとか立ち上がり、ニルルの成功を褒める言葉を発して。

 案じる言葉を投げかけてくれたプラチナに対し、まだ大丈夫だという言葉こそ発す余裕もないものの、苦しそうな表情に笑顔を作って張り付けて応じる。

 こんなのダイヤに振り回されて、ケガしたもっと幼い頃の経験からすれば些細なもの。今はあの頃より、もっと強い自分だってパールは信じている。

 

「ちっ……流石に限界だな」

 

 水の波動の直撃を受けて一度倒れながら、なんとかぴょこんと跳ねて立ち上がったミノマダムは、その気になればもう少し戦える。

 だが、そんなミノマダムに躍起になられる前にボールへ戻したサターンは、ほぼ同時に入れ替えるようにユンゲラーを喚び出した。

 プラチナも、そして誰よりニルルも、サターンを睨みつける眼差しの鋭さが尋常じゃない。その眼が語る怒りを表す針が限度を振り切っている。

 一秒たりとも自分の身を守るポケモンをそばに置かない時間があれば、取り返しがつかないことにもなり得る。サターンとてそう判断せざるを得ない。

 

「ここまでだ。

 ユンゲラー、撤退するぞ」

 

「逃げるのか……!?」

 

「私の敵はお前達だけではないのでね。

 だらだら居座っては、そろそろ警察が押し入ってくる」

 

 バトルを続けようと思うなら、このユンゲラーに加え、疲れがあるとはいえドクロッグも控えているサターンだ。

 だが、引き際は見極めなければならない。プラチナの挑発にも乗らない。

 充分、パール達のお手並みは拝見したというものだ。

 

「お前達に、我々の邪魔をするなと忠告しても無駄なんだろうな。

 ならばもう、何も言うまい。いつでも挑んでくればいい。

 今回のように、我々の目的を挫くことも出来ず、己や身内が傷つくことだけの徒労に終わることを覚悟の上でならな」

 

 合成音声で語るサターンだが、その息遣いには嘲笑の意がはっきりと感じられた。

 かっとなりそうになるプラチナだが、必死で冷静さを保とうと、最も案じて守るべきパールをちらちらと見て自らを律する。

 

 全身痛むであろうのに、震える身体で立ち上がるパールだ。いくらでも無茶する彼女をそばに、自分がこれ以上冷静さを失ってはならない。

 そしてその姿こそ、どんなに暴力的な手段で警告しようと、折れずに立ち向かってくるであろう少女の姿としてサターンには映っている。

 忠告しても無駄、と口にしたサターンの根拠はそこにある。

 

「だが、次に私と相見えることがあれば、今回のように穏便な結末を迎えられるとは思わない方がいい。

 私はマーズのように甘くもなければ、ジュピターのような半端も好まない。

 また会う日が訪れるなら、私はお前達を守ろうとする仲間達を一匹残らず叩き潰し――」

 

 サイコキネシスで操ったニルルをパールにぶつけ、彼女の体を傷つけて尚、サターンはこんなもの穏便な結末だと言っている。

 マキシの体にドクロッグの毒を打ち込んでもだ。

 今日、サターンの手にかかった者達は、みんな明日を迎えられる。

 

「最後は抵抗さえ儘ならぬお前達を八つ裂きにするまでだ。

 手足をもがれ、皮膚が膨れ上がるほどの毒を流し込まれ、血みどろの身体で這いつくばる覚悟が出来るなら、いくらでもかかってくるがいい。

 なればこそ、私もそれ相応のもてなしを以って応えよう」

 

 あれほど熱意を以って挑んでいたパールとプラチナも、サターンの言葉には血の気の引くような想いを抱いたものだ。

 言葉だけじゃない。それを現実にせんとする意志が、迫真がある。

 淡々とした語り口にして声も合成音、なのに冷徹かつ有言実行の意に偽りを感じさせない現実味を含ませるサターンの声には、それだけのものがあった。

 敵対する者を、人を人とも思わない、それがどうなろうとも自分には関係ない話だと、葬ってしまうことも良心に咎めぬ悪意がサターンからは漂っている。

 

「ふふ、また会える日を心待ちにしておこう。

 我々に歯向かおうとする生意気な小鼠に、思う存分報いを受けさせる日が楽しみだ」

 

「っ……待……」

 

 芽生えた恐怖心から、待てと発しようとしたプラチナの声も躓いていた。

 サターンは悠々と、そばに置いたユンゲラーにテレポートを発動させ、忽然とその場から姿を消してしまった。

 静寂に包まれたこの洞窟内、消えたはずの敵に抱いた戦慄の名残に身を縛られ、パールもプラチナもしばし動けず立ちすくむばかりだった。

 

「………………マキシさん!」

「あっ……!」

 

「だ、大丈夫だ、大丈夫だ俺は……

 ったく……たいした奴らだぜ、お前らは……」

 

 はっとするように、毒を打ち込まれて倒れていたマキシの名を呼び駆け寄るプラチナに、パールも追従するように足を向かわせる。

 立つことも出来ないマキシだ。打ち込まれた毒は、彼が発熱と目眩を覚えるばかりか、痺れる身体で立てぬほどに強力。

 それでも、自分に代わりサターンへ立ち向かい、一匹撃破するも同然の結末を導いた二人に、いま発せる限りの賞賛を惜しまない。

 そして何よりも、バトルの実績など以上に、ここへ駆け付け悪しきに挑まんとした二人の精神そのものにだ。

 

 心配そうに自分の顔を覗き込むパールとプラチナに、マキシは力無く、しかし満面の笑みを返さずにいられなかった。

 戦いが終われば、やっぱり子供の顔だ。傷ついた誰かを前にして、心配でならない想いを、飾らぬ表情そのものに表す幼い顔立ち。

 強き者にはこうあって欲しい。他者の痛みがわかる、優しくて強い者こそ、こんな世の中には必要なのだから。

 

 二人の戦いを見届けたい一心で意識を失わず耐えていたマキシは、そろそろもう疲れたとばかりに、先の言葉を最後に目を閉じた。

 いや、死んじゃったりしたわけではないのだけど。

 単にもう、意識を保つよう耐えるのも限界なのであった。ほっとしたら気が抜けてしまってもう駄目。

 でも、まるでそれが事切れたかのように見えた二人には、目の前でマキシさんが毒にやられたように見えてしまってさあ大変。

 必死でマキシさんマキシさんと呼びかけまくる二人に耳を劈かれ、おちおち安らかめに気絶することも出来ず、マキシはかすかな苦笑いを浮かべるのであった。

 

 声を聞く限りパールが本気で泣きだしそうだったので、マキシは力を振り絞って地面をべんべん叩き、生きてるっつーのというアクションを長く続けていた。

 大人って大変である。子供を泣かせちゃいけないんだもの。

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