ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第68話   ミオジム

 

「うむ! よくここまで辿り着いた!

 どうだったかな、うちのジム生達は!」

「大変でしたぁ……!

 はがねタイプって、話には聞いてたけど本当に頑丈なんですね……!」

「うむ! 堅牢堅固、面壁九年!

 はがねタイプを有するだけで、その粘り腰の強さは特徴の一つとさえ言える!

 他のタイプのポケモンを相手にする時よりも、一味違った苦しさがあっただろうな!」

「けんろ……?

 え~と、とにかくカタいってことですね?」

「まあ、それでいい!」

 

 ジム生達を破り、ジムリーダーのトウガンへの挑戦者を勝ち取ったパールは、一度ポケモンセンターに戻ってみんなをリフレッシュさせて。

 ついでに海を越えるに際して濡れてしまった靴と靴下も、お風呂上がりに服を乾燥させてくれる機械でがーっと乾かして、とりあえず足元もさっぱり。

 準備万端でポケモンセンターを出発したのが日没で、トウガンの前に立った頃にはすっかり外は夜。

 それだけジム生達とのバトルに時間がかかってしまったということだ。

 はがねタイプのポケモン達は頑丈である。はがねポケモン使いが集まるこのジムは、前哨戦一つ一つが他のジムより長引きがちな傾向にある。

 

 多くのタイプの技を今一つの威力に抑え込んで耐えることで有名なはがねタイプだ、それをパールも実感したことだろう。

 いい思い出ではないが、リッシ湖で戦ったサターンのミノマダムだってはがねタイプ。レベル差があるとはいえ頑丈な相手だった。

 一方で、炎や地面や格闘タイプの技が使えれば勝負を優位に進められるのだが、いかんせんパールの手持ちにはその使い手が少なめで。

 ニルルが地面タイプの技を、ミーナが格闘タイプの技を使えるため、ミオジムにおいてはこの二人がジム攻略のキーを握りそうだ。

 それも、ジム生とのバトルを通じてパールが学んできたことである。

 以前からそうだがジム生とのバトルは、後に戦うジムリーダーの得意とするタイプに、どのように戦えばいいかの試金石を得る機会として重要だ。

 

「それでは改めてここに、君の挑戦を受諾しよう。

 良いバトルを期待しているぞ。

 事前に君とバトルした各地のジムリーダーに話を聞いてみたが、いずれも良いバトルだったと評してくれている。

 私としても、非常に期待しているよ」

「わわわ、そんな、なんだか恐れ多いカンジ……

 っていうかトウガンさん、先にリサーチ済だなんてずるい」

「はっはっは、君がどのように戦ったかなどは聞いていないよ。

 信頼してくれたまえ。それは流石にフェアではないからな」

 

 ジムリーダー達同士にはジムリーダー同士だけのネットワークがあり、まあ簡単に言えばグループチャットみたいなものだと思えばいい。

 トウガンが『パールという女の子が来たんだが、そちらではどうだった?』と聞けば、まあまあみんなから良い反応が返ってきた模様。

 あまりにみんなから『いい勝負だった』という反応が返ってくるものだから、トウガンとしてはパールとのバトルが楽しみになった一方で。

 まだパールとバトル出来ていないキッサキシティのジムリーダー"スズナ"からは、早く戦ってみたいよ~という声も返ってきたそうな。

 こういうトレーナーは決してパールだけに限ったものではない。バッジを5つも集めてきたトレーナーというのは、やはりみんな結構な有望株。

 挑戦者とのバトルの思い出話に花を咲かせるのは、ジムリーダーの皆々様方の楽しみの一つである。

 

「聞けば君は、未だ全戦無敗の身だそうだな。

 ジム戦以外も含めてかな?」

「え~、まあ、それはそうなんですが……

 みんなが頼もしいからですよ? まだまだ負けさせたくないですけど……」

「ふふっ、そうか。

 ということは、もしかすると私が今日、君の連勝街道を止める人物になってしまうこともあり得るわけだ」

「え、えっと、お手柔らかにお願いします……!」

 

 不敵な笑みと共に、パールをバトルフィールドに導いていくトウガンだ。

 戦前にこうして煽りをかけてくる辺り、やっぱりヒョウタさんにどこか似ているなぁとパールも感じつつ。

 ジムごとに個性あるバトルフィールド、しかしトリッキーな戦い方を求め過ぎないフィールドへ、パールはどきどきしながら足を踏み入れる。

 

 広大なミオジムのバトルフィールドは、一面つやつやぴかぴかの鋼の床。

 よく磨かれた床は、もう少しツヤを出せば鏡のように自分の顔すら確かめられそうなほど。

 滑りやしないかと靴でぎゅっぎゅとしてみるが、特殊なコーティングでもしているのか、ツヤめく割には滑ったりしない。

 平坦なフィールドでバトルするにあたって、ポケモン達の足元に不自由は無さそうだ。

 あとは、床と同じくぴかぴか金属の、太くて天井まで届くような柱が四本あるのが、ミオジムバトルフィールドの個性と言えるか。

 特別、頑丈な金属らしい。どんな攻撃でも折れたり削れたりしないし、どんな熱でも溶けることのない頑強な柱。

 ピョコぐらい大きなポケモンでも、柱の陰に隠れれば相手の視界内から消えられるほど太い柱、戦術上でも何らかの使い道がありそうなオブジェクトだ。

 トウガンも"使い方"は熟知しているだろう。

 相手方だけが便利に活用する地の利とするか否かは、パールもまたこの柱をどのように有効活用するかどうかに懸かっている。

 

「勝負は3対3だ。

 話は少し変わるが、もしも君が私に勝利し、7つ目のバッジを目指す次のジム戦を迎えるならば、その時は4対4のバトルになるだろう。

 つまり君のジム巡りの旅において、3対3のバトルを行うのはこれが最後になる。その意味が、わかるかな?」

「え、えぇと……?」

 

「6つ目のバッジを目指す戦いとは、3対3バトルの集大成ということだ。

 心してかかってくるといい。

 今まで以上に、楽なバトルにはならんぞ?」

 

 いたずら含みににやっと笑って見せるトウガンだが、そこには微かに、甘く見てくれるなよという強気の感情もまた垣間見えた。

 甘い戦いぶりを見せるなら、一方的に蹂躙することも辞さぬ、真剣勝負に臨むジムリーダーの表情だ。

 これは絶対に、お手柔らかもくそもない。パールもびりっと肌がひりつく。

 

「……よろしくお願いします!

 全力で、挑みます!」

「うむ! いい返事だ! ここまでは期待通りだぞ!」

 

 パールが女の子じゃなかったら、背中でもばっしーんと叩いてやりたいぐらい、トウガンも気合が入ったようだ。

 というか、あわや叩く手を振り上げそうになってしまい、パールが敏感にびくっと反応してしまったぐらい。

 しまった、これはいかんな、と思いとどまったトウガンがパールに背を向け、危ない危ないと苦笑いしながら、フィールドを挟んだパールの対面位置へ移る。

 お互い、充分に熱くなった。熱くなり過ぎないようにご注意を。

 

 双方、先鋒の収められたボールを手にして、バトル開幕前の目線合わせ。

 準備万端を確かめ合うこの視線の衝突は、多くの言葉を要さない。

 真剣な眼差しを向けてくれる挑戦者の姿だけで、それはどんな言葉より雄弁にそれを物語ってくれるのだから。

 一足先に観戦席に座っていたプラチナには、両者の

 

「始めようか! 挑戦者パール!

 君の旅路がどれほどのものを培ってきたか、私の前に見せてみろ!」

「はいっ!

 負けませんからね!」

 

「行こうか! ドーミラー!」

「任せるよ! ニルル!」

 

 初戦はトウガンのドーミラーと、パールのトリトドンの対峙から始まった。

 大事なバトルの開幕戦、どちらもそれなりの読みや意図あっての選択とされるのがトップバッターだが、さて。

 

「うっ……いきなり……!」

 

「はっはっは、いきなり計算が狂ったか!?

 私のドーミラーに地面タイプの技が有効かどうか、試してみるのも一興だぞ!

 もしかすれば、そこまで高い浮遊能力は無いかもな!」

 

「パール、ほんと顔や態度に出やすいなぁ……

 トレーナー同士の駆け引きとかには、未だに全然向いてないんだな……」

 

 はがねタイプに有効なのはじめんタイプ。ニルルの泥爆弾はじめんタイプ。

 そうした狙いも、"ふゆう"が得意な相手であれば、じめんタイプの技も全く効果を為さなくなりがち。

 そして大抵のドーミラーは"ふゆう"持ちである。まあ"たいねつ"に優れる一方で"ふゆう"能力がいまいちの個体もいるにはいるのだが。

 あまりドーミラー相手にじめんタイプの技が有効だという戦術は立てにくい。

 

「でもっ、だったらみずのはどう!」

「――――z!」

「ドーミラー! まずは惑わせ!」

 

 しかしパールが先鋒にニルルを選んだのは、最悪出鼻を挫かれようと戦いようがある、ニルルの柔軟な攻め手も根拠の一つ。

 耐性の多いはがねタイプだが、みずタイプに対する耐性は無いのだ。

 ドーミラー相手だろうと有効な一撃を指示するパールに間違いは無く、困らず済むのもニルルの引き出しの多さゆえ。

 対するトウガンは、決して相手を侮らぬ一手、まずは"あやしいひかり"でニルルを弱らせる動きに出る。

 

 水の波動を受けたドーミラーが宙に浮いた体をぐらつかせ、ニルルもドーミラーが発した妖しい光に少し頭を傾ける。

 相手の初手に怯む両者だが、どちらも頭や体をぷるぷる振るって持ち直し。

 バトルはまだまだ始まったばかり、ここからだ。

 

「ニルルもう一回! よく狙って!」

「ドーミラー! "じんつうりき"だ!」

 

「――――、ッヵ……!?」

「~~~~☆!?」

 

「はわっ!? ニルルっ!?」

「むうぅ……!

 みずのはどうで"こんらん"させられたか……!?」

 

 妖しい光で混乱させられたニルルは、開いた口から水の波動を撃とうとしたところ、咳き込むかのように発射叶わず不発。

 しかも口の中で水の波動のエネルギーを暴発させたかのように、のけ反りひっくり返って床の上にべちゃあ。

 対するドーミラーも、ニルルに向けて放とうとした技が上手く発動せず、自分で自分を床に叩きつけるかのようにがつん。

 こちらもニルルの水の波動による、稀に生じる追加効果で混乱しているようだ。

 

「お互い混乱するとたまにこんな風に泥仕合っぽい眺めが出るよね……

 公式戦でもよくあることだし、別にお間抜けではないんだけど……」

 

「っ、どろばくだ……違う違うっ、みずのはどう!」

「ふむ、冷静だな……!」

 

 なんとか体勢を整えたニルルに、パールは一時の気の迷いを封じて、水の波動を指示していた。

 床に落ちたドーミラーを見て、相手が浮く前にじめんタイプの技を当てられればという浮気心が一瞬沸いたようだ。

 しかし、そんな甘いものじゃないとすぐに思い直し、確実性の高い攻撃技を選べるパールは、ちゃんとトレーナーなりの判断が出来ている。

 現にドーミラーはすぐに身を浮かし、水の波動を受けこそしたものの、仮に泥爆弾を発射されていても、すぐに身を浮かせて躱しきっていただろう。

 着実にダメージは与えられている。悪くない流れだ。

 

「ニルルしっかりー!

 立て直すよ! こっちこっち!」

 

「よく見て狙え! じんつうりき!」

 

 パールが大きく手を振る仕草で、ニルルの行く先を指示する。

 応えたニルルが向かう先は、フィールド上に点在する巨大な柱の一つの陰。

 にゅるるると鋼の床を滑って進む姿は意外に素早いのだが、その中で顎を引いて身を強張らせるニルルの姿は、敵の攻撃を受けた表れだ。

 "じんつうりき"は見定めた相手の体を、念動力で締め上げる技だ。

 少し具体的に例えると、見えない力で全方位からぎゅうっと強く締め上げたり、身体をねじられるような痛みを与えたり。

 光線を介さないサイケ光線のような技だ。技の使い手が対象を凝視するだけで叶うので、サイケ光線よりも躱しづらい厄介な技である。

 

「ある程度は、凌ぎ方も覚えてきているようだな」

 

「ニルルっ、しっかり!

 大丈夫? 頑張ってね、お願い、頼りにさせてね!」

「ッ、~~~~!」

 

 混乱が残る頭でも、ニルルはドーミラーの視線からはずれた位置で、パールの方に目を向けてうなずいてみせた。

 時間が経てば経つほどに、浴びせられた混乱も快方へ向かう。

 一時凌ぎの柱隠れだが、ニルルを持ち直させるという意味ではこれも悪くはない。

 

「そう簡単に好きにはさせんぞ……!

 ドーミラー! 狙い撃て!」

 

 しかし、ドーミラーは自分と相手の間に柱があることもお構いなしに、力を溜めるかのように発光する。

 次の瞬間、鏡状のドーミラーの顔全体から発射されるのは、レーザー砲のような光線だ。

 狙いは? ニルルの隠れた柱とは別の、鋼の柱に向けて発射された光線は、そこから反射してニルルに直撃するのである。

 

「ええぇっ!?

 ニルルっ、ちょ、だ、大丈夫!?」

「~~~~! っ、っ……!」

 

「もしかして、あれが"ラスターカノン"……?

 反射を利用して物陰の相手も狙えるのか……」

 

 ドーミラーの光線を浴びせられたニルルは、たまらず身をよじらせて柱の陰から飛び出した。

 急に受けると、じっとしていられないほど熱いようだ。ビームかレーザーのようにも見えたラスターカノン、威力は見た目どおりと見てよさそう。

 流石にニルルもカチンとくるほど痛かったのか、パールの指示を待たずしてドーミラーに水の波動を発射だ。

 柱の陰から飛び出してすぐのことであり、ドーミラーも躱しきれずに直撃を受ける。

 

「いける……!?

 よしっ、ニルルっ、のしかかり!」

「――――z!」

 

「撃て! ドーミラー!」

 

 ドーミラーの攻撃手段が、ラスターカノンにせよ神通力にせよ、回避の難しい技ばかりと見て、接近戦に持ち込もうとするパールの判断は良い。

 中距離、遠距離の戦いを得意とするドーミラーだとはっきりしたのだ。

 接近戦も仕掛けられるニルル、距離を詰めて相手への攻撃をより当てやすい中で戦う方がずっとやりやすいだろう。

 

 鋼の床を滑って直進するニルルに、ドーミラーが迎撃のラスターカノンを撃つ。

 躱せなかったが、それでも構わない。どのみち躱せと命じられても難しい光線だ。

 真っ向からの光線を受けても怯まず、そのまま突っ込んでいくニルルが跳び、ドーミラーにのしかかる攻撃を仕掛けていく。

 

「ッ――――!」

 

「ニルルまだだよ!

 みずのはどう! 至近距離!」

「――――z!」

 

 愚直な飛びかかりはドーミラーに躱されたが、着地したニルルが逃げた相手に首を向ければ、すぐそばに敵の姿。

 ニルルの賢いところは、パールに指示されるまでもなくこの展開に備え、水の波動を撃てる構えと首の動きを為していたこと。

 至近距離で発したニルルの水の波動がドーミラーに直撃し、地面に落ちることこそしないものの、宙でふらつくドーミラーの姿がそこにある。

 

「跳び付け~っ!」

「~~~~!」

 

 怯んだ相手に跳びかかるニルルが、今度こそドーミラーを自分の下敷きにしてしまう。

 はがねタイプのポケモン相手に、この攻撃自体はさほど有効ではない。

 だが、自分の体重でドーミラーを捕えて押さえつけるニルルは、既に次の技に繋ぐべく口を開けている。 

 

「じんつうり……」

 

「撃てえっ!」

 

 さながらマウントポジジョンを取った相手を殴りつけるかのように。

 押し潰した相手に顔を向けたニルルが、駄目押しの水の波動を発射だ。

 まずいと思って神通力での抵抗を命じようとしたトウガンだが、畳みかける展開で一気に攻め立てるパールとニルルの方が早かった。

 床と上からの水圧に挟まれたドーミラーに甚大なダメージが与えられ、ニルルはにゅるんと後退してドーミラーを解放する。

 

 せっかく捕まえた相手を自らニルルが解放するのだから、勝負の結果は現場のニルルがはっきりわかるものだったということだろう。

 水しぶきが霧のように舞うその真ん中で、床の上に寝そべったドーミラーはすっかり目を回していた。

 

「うぅむ、見事だ……!

 様子見のつもりだったが、得られたものは少なかったな……!」

 

 ボールにドーミラーを戻したトウガンは、風向きの良くない展開を口にしながらも、その表情はどこか楽しそうだ。

 やはりジムリーダー、手応えのある相手が挑んできた時が一番楽しい。

 豪気な性格を体つきや顔つきにも表すような人物たるトウガンだが、大人びた口ぶりの奥に隠れた、彼のトレーナーとしての情熱に火が灯り始める。

 勿論、初めから真剣だったとも。だが、バトルが始まり場が熱を帯びてきてから得られる真の情熱は、やはり今こそ沸き始めるものだ。

 

「やったね、ニルル!

 さすが私達のトップバッター代表だよ!」

「~~~~!」

「でも油断しちゃダメだよ! 次が来るからね!

 次はきっと、トウガンさんのもっと強いポケモンだよ!」

「――――z!」

 

「だが、たった一つのこの得られた真実は、他のどんな憶測にも勝って大きかったであろうな……!

 君は私が、最高の札を切ってでも全力で打ち破るに値する挑戦者だ!」

 

 トウガンの先鋒、ドーミラーの本分とは、本来搦め手で勝負を長引かせ、敵の手の内を明かしていくことにある。

 相手方の先鋒の戦い方、それを通してトレーナーの性格や戦法、それを解き明かしていくことがドーミラーの本来の役目なのだ。

 結果は決して、芳しいものではない。勝負はやや早く決められてしまい、トウガン目線で初対決となるパールの戦い方なるものの実像を得られていない。

 本来これは、斥候による視察が充分な成果を挙げられなかったも同然の結末で、単なる一敗以上にトウガンにとっては重い敗北とも言える。

 ただ負けるだけでなく、為したかったことも充分に為せなかった敗北とは、後々の戦局にも大きく響きがちだ。

 

 だが、だからこそ得られた真実というものもある。

 ジムリーダーの思惑をも潰してきた、パールとトリトドンが強い挑戦者であるという事実こそ、今のトウガンにとっては重要な真実だ。

 残り二匹のポケモンのうち、どちらを先に出すか。

 この展開を迎えた以上、トウガンの選択肢は一つしかない。

 ここからどう戦うのが正解か、それをはっきり教えてくれる真実は、確かにどんな情報にも勝って大きいものに違いない。

 

「さあ、見せてもらおうか! 君達の底力の程をな!

 行くぞ! トリデプス!」

 

 トウガンが次鋒に選んだボールを放り投げ、中から飛び出してきたポケモンが放つ存在感は非常に強いものだった。

 まずはその巨体もさることながら、でこぼことした顔の陰になっている眼差しは鋭く、ざりざりと前足で足元を引っかく姿からも血気盛ん。

 大きな声と共にトウガンが繰り出してきたことから、パールもニルルも気を引き締め直してはいたが、目の当たりにすればいっそうのプレッシャーだ。

 

 今の弱ったニルルなら、"ふみつけ"一撃でダウンさせそうな恐竜に見える。

 パールのぎゅっと握った拳には汗が滲み始め、ニルルも体力の削られた今、どこまでこいつとやり合えるだろうと戦慄を覚えている。

 言い換えれば、自分自身は負けることを既に視野に入れ、せめて少しでも弱らせて退場しようと腹を括っている辺り、ニルルの献身的な内心でもあるが。

 

「君の快進撃はどこまで続くかな?

 私の切り札を前に君達が、どこまでやれるか見せてもらうぞ」

 

 不敵に笑うトウガンの表情からは、このトリデプスに対する強い自信が垣間見えていた。

 図式は3対2。それでもパールには、これを絶対的優勢には感じられない。

 さりげなくトウガンが発した、このトリデプスを切り札と称する言葉は、一時の優勢など気休めにならぬことをパールに突きつけるものだ。

 それは今までのジムリーダー達との戦いで、嫌というほど学んできた実戦の厳しさが裏付けている。

 

 パールの方を一度振り返ったニルルに、パールは緊張感に満ちた顔でぎゅっと唇を引き締めて、小さく頷くので精いっぱいだった。

 頑張ろう、という表明。ニルルもその意を感じ取って、強大な敵に対峙する。

 厳しい戦いはここからだ。パールも、ニルルも、そう感じずにはいられなかった。そして、それもまた真実だ。

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