ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第7話    クロガネゲート

 

「パッチ! たいあたりっ!」

「――――z!」

 

 パールの指示を受け、コリンクのパッチが野生のビッパにぶつかっていく。

 一撃で吹っ飛ばされたビッパは、何とか立ち上がると一目散に逃げていった。

 ピョコと一緒でこの辺り、第203番道路の野生ポケモンぐらいなら、一撃で退けられるパッチの姿にパールもうきうき。

 

「あははっ、強くなったねパッチも!

 昨日いっぱいトレーニングしてみた甲斐があったね!」

「――――♪」

 

 昨日パッチを捕まえたパールは、その時点でそこそこの時間帯に至っていることを顧みて、先へ進むことを取りやめた。

 野生ポケモン達との戦いや、出会ったトレーナーとの戦いで、それなりに時間を使っていたようだ。

 これ以上旅を急いでも、夜になってしまう。そう考えたパールはコトブキシティの方へ戻り、その道のりで遭遇する野生ポケモンとの戦いをパッチに任せた。

 

 マサゴタウンからコトブキシティへの道のり、また、パッチと出会うまでの間は、野生ポケモンとの戦いはずっとパッチが一人でやっていた。

 そんな中で、出会った頃よりピョコがより強くなっているのは、パールの目にも明らかだった。

 ポケモンは、バトルを重ねるたびに強くなると言われる。あれは本当だったんだ、と、パールも実感することが出来たはずだ。

 そんなわけで、今度はパッチにも実戦経験を積ませてみたいと思ったのが、昨日のパールの発想である。

 ポケモントレーナー初心者ながら、育成の基礎を理解できたと言えるだろう。

 

 捕まえたばかりのパッチはピョコほど強くなく、野生のポケモンを体当たりで押し切ろうにも、はじめ反撃を受けることは多かった。

 買い溜めてあった傷薬もまあまあ使ったものである。

 しかし、そんなことを繰り返しているうちに、いつしかパッチの体当たりを受けた相手が、反撃に移る余裕を失う局面が増えてきて。

 返す刃が無いと見れば、果敢に攻め込むパッチの思い切りの良さもあって、反撃を受けずに勝てる場面もいくつか生じていた。

 西の空が赤くなる頃には、ムックルが体当たり一撃を当てただけで逃げていく、一撃勝利も叶えられたものである。

 

 ポケモンセンターに泊まり、ピョコとパッチもゆっくり休んで、元気いっぱい今日も第203番道路を行く旅。

 昨日もここで会ったトレーナー達、ポケモンバトルをした相手にご挨拶しながら、パールはパッチと共に進んでいく。

 ピョコは今日はボールの中。時々ボールが揺れる。出番があったら出してね、と訴えるボールの動きに、パールは微笑みボールを撫でる。

 勇ましくって頼もしいピョコ、と改めて思うパールだが、ピョコは単にパールと一緒に歩きたいだけである。微妙に気持ちが伝わっていなかったり。

 

「う~、着いた着いた。

 クロガネゲートだぁ」

「?」

「これを抜けた先に、クロガネシティがあるんだ。

 昨日も話したけど、そこのポケモンジムに挑戦してみようかなって」

「――――♪」

 

 ピョコにも話したことではあるが、パッチにも昨日のうちに話してある。

 パッチもパールのジム挑戦に付き合おうということには、非常に前向きでいてくれているようだ。

 ここまでに遭遇した野生のポケモンなど一ひねりの実力を持つパッチは、今やピョコと同じでパールにとっては非常に頼もしい仲間である。

 

「交代しよっか、パッチ」

 

 今日はここまで頑張ってくれたパッチを、パールはボールの中へ収める。

 うなずいたパッチがボールの中へ入って、代わってパールが呼び出すのはパッチ。

 何戦もしてきて疲れているかもしれないパッチを休ませ、ピョコと一緒にクロガネゲートに入っていく心積もりだ。

 

「――――♪」

「ピョコっ、頑張ろうね!」

 

 初めて足を踏み入れるクロガネゲート。

 旅は進めば進むだけ、行く限り初めて来る場所ばかり。

 新たな世界を見続ける旅路には、パールも胸が躍るばかりである。

 

 ただ、胸の前で握った拳を上下に振り、ピョコに頑張ろうねという気持ちを訴える姿は、少し気合を入れ過ぎな姿とも取れる。

 実は、こうしていないと手が震えそうだったから、パールは仕草で誤魔化したのである。

 クロガネゲートは言うなれば、洞窟的環境とも言える。

 パールは諸事情あって、こういう環境は少し苦手なのだ。

 

 

 

 

 

 クロガネゲートはあくまで人口のトンネルであって、道も歩きやすいように均されており、躓いて転ぶような足元はしていない。

 所々にランプめいた蛍光灯も吊り下げられており、強い発光のおかげで視界も良い。

 パールのような子供でも、一人でここを抜けてクロガネシティに辿り着くのはそう難しくないはずだ。

 

 一方で、壁面にあたる岩肌は粗っぽいまま残されており、足元に目を向けない景色のみで語るなら洞窟的。

 明かりはあるから人造的で、だけどそのぶんこの景色もはっきりわかる。

 コトブキシティとクロガネシティを繋ぐトンネルとして造られた一方で、歩きやすさだけは確保しつつも、自然の景色をあまり損なわない構造と見える。

 

「ピョコ離れないでよ?

 絶対どっか行かないでよ?」

「――――」

 

 頻りにきょろきょろして歩くパールにそう言われ、ピョコも頷きつつ怪訝な顔。

 気合入れて来た割にはびくびくするばかりのパールだ。

 暗くもないし不安にもならない眺めだろうに、そんなに怖がるほどの場所かな? と、ピョコには思わずいられない。

 昨日、パッチのトレーニングという名目で、いつどの近い場所から野生のポケモンが飛び出してくるかわからない草むらを積極的に歩いていたパールなのに。

 あそこに比べれば野生のポケモンが寄ってきてもすぐわかるし、ここの方がずっとびびらず歩けそうなものなのだが。

 

「――――!」

 

「わあっ!?

 来た来た来たっ、びっくりしたっ!

 ピョコっ、構えてっ!」

「――――?」

 

 20メートル以上離れた場所から、野生のポケモンが鳴き声をあげて近付いてくる姿にも、パールは些か過剰な反応。

 動きも速くないイシツブテが跳ねながらこちらに近付いてくるのに身構えつつ、そんなにびっくりすることないのに、というのがピョコの本音。

 

「えぇと、イシツブテは岩タイプだからっ……!

 ピョコ、すいとる攻撃っ!」

「――――z!」

 

 でも、指示はけっこう冷静である。

 ポケモンにはタイプというものがあって、それには相性というのがあるのだが、パールだってそれぐらいは知っている模様。

 見るからに岩タイプのイシツブテに普通に体当たりしても効きが弱く、一方で草タイプの攻撃はよく効くとわかっている指示だ。

 自己判断ですいとる攻撃を仕掛けようとしていたピョコだったが、なんだわかってるじゃんとばかりに少し微笑み、離れたイシツブテに攻撃を仕掛けた。

 

 距離を詰める前から力を吸われるような感覚に、イシツブテは分の悪さを感じたか一度立ち止まると、振り返って逃げる方向へと切り替えていった。

 けっこう野生のポケモンは引き際上手である。そりゃあこてんぱんにされて捕まりたくはなかろう。逃げられないほど動けなくなる前にちゃんと逃げてしまう。

 ともあれあっさり退けることには成功だ。ピョコはふんすと鼻息を鳴らして得意気にパールに振り返る。褒めて褒めての顔。

 

「うんうんっ、ピョコありがとう!

 ピョコがいてくれれば安心!」

「――――♪」

 

 不安げだったパールの顔にいつもの元気が戻ってきており、ピョコは褒められたこと以上にそれが嬉しい。

 自分がやったことのおかげで、パールが元気になったような気がして。なかなか達成感めいたものもあることだろう。

 

「よーしピョコっ、行……」

 

「あーーーーーーーーーーっ!!

 パールっ!!」

「わひえっ!?!?!?」

 

 前進再開しようとしたパールだったが、背後からのもの凄い大声に、体が浮きそうなほど背筋を伸ばしてびっくり。

 突然のことに心臓が口から飛び出そうになったが、振り返って声の主が駆け寄ってくるのを見て、すぐに我に返ってかっとする。

 

「パールっ、お前もクロガネシティに行……わああっ!

 なんだなんだっ!?」

「~~~~~っ!!」

 

 近付いてきた声の主、ダイヤに平手をぶんぶん振りかぶるパール。

 よくもびっくりさせてくれたな、という怒りが声に出ていない。

 本気で当てにいっている"はたく"攻撃だが、ぴょんぴょんひらひら避けるダイヤには当たらない。

 じゃれ合い攻撃だったら甘んじて受けてくれるダイヤだが、本気で当てにいくとちゃんと避ける。そして身のこなしがいいので回避率もよろしい。

 

「なんだってんだよ~!?」

「っ、なんだってじゃなあああいっ!!

 びっくりするでしょうが~っ!!」

 

 やっと声が出たパール。こちらもダイヤに劣らぬ大声だ。

 離れた場所の野生のイシツブテやコダックがこれに驚き、なんだなんだと水底や岩陰に隠れるほどである。パールも大概なびっくりさせ屋さん。

 

「あははは、ごめんごめん!

 それより久しぶりだな! お前のポケモン強くなったか!?」

「それよりじゃなくってっ……!

 ううぅ、もうっ、話が通じないとこある……!」

 

 本当マイペースなダイヤである。パールは未だばくばくしている胸に手を当て、はぁ~っと心底の溜め息。

 怒っても無駄な相手だもの。こういう奴だってパールが一番よく知っている。

 

「パールもクロガネシティに行ってジムに挑戦するつもりなんだろ?」

「まあ、そうだけどぉ……」

「じゃあさ、じゃあさ、ポケモンバトルしてみよーぜ!

 俺のポケモンも結構強くなったんだぜ!」

 

 釈然としない気持ちを抑えて会話を合わせるパールに、ダイヤは言いたいこと、やりたいことをぽんぽんぶつけてくる。

 呆れたようにほっぺたを指先でかりかりしながら、あらぬ方向を見てパールは遠い目。

 まったく、こいつは……というパールの表情を、ピョコが心中お察ししますの顔で見上げている。

 ピョコ目線でもダイヤは悪い人には全然見えないのだけど、パールを苦労させてそうだなぁというのはもう充分わかったようだ。

 

「ジムに挑戦する前に一勝負だ! いいだろこういうの!」

「わかった、わかったわよ……

 ピョコ、やってくれる?」

「――――」

 

 こんな流れだけどお願い出来る? と、ピョコにはちょっと申し訳なさそうな目を向けるパールに、ピョコは気のいい笑顔を浮かべて頷いた。

 いいよいいよ、パールも大変だね、と言ってくれているような顔に、少し癒されるパールである。

 

「よーし、そう来なくっちゃ!

 行くぞ~! ヒコザル、出て来い!」

 

 バトルの承諾を得られたダイヤは、パールに背を向けて駆けだして距離を作りつつ、腰元のモンスターボールを手にして。

 パールとの間にバトルフィールドが出来るだけの距離を作ったらすぐ、振り返ると同時にボールのスイッチを押す。

 すべての動作が速い。矢継ぎ早に放たれる言葉の速さに、ちゃんと行動が追い付いている。

 フタバタウンでせっかちのダイヤと有名になるだけのものはある。

 

「あっ、ちょ……!

 炎タイプじゃん、ずるい!」

「だ~いじょうぶだって! "ひのこ"は使わないから!

 な、ヒコザル!」

「――――」

「タイプの相性だけで勝っちゃうのはなんかズルいよな!

 今日のところは普通に力比べだぞ!

 さあ、かかってこーい! パールのナエトル!」

 

 草ポケモンのピョコは炎の攻撃に弱い。

 ダイヤのヒコザルは炎ポケモンだ。たいそう不利。

 しかし、お互い手持ちのポケモンも多くなさそうで、戦略的な選択肢も少ない今、ダイヤはパールとの勝負に相性を持ち込まないつもりでいてくれるようだ。

 そんなダイヤにヒコザルもうなずいている。パールとピョコが相性の良い付き合いをしているように、ダイヤとヒコザルの関係もよく通じ合った仲と見える。

 

「かかってこい、って、戦うのはあんたじゃなくてヒコザルなんだけど」

「こまけーことはいいんだよ!

 行けっ、ヒコザル! ひっかく攻撃!」

「――――z!」

「――――!」

「わわっ、ピョコ、甲羅に入って!」

 

 いかにも身軽そうな見た目のヒコザルは、素早い動きでピョコに詰め寄ってきた。

 急に始まってしまったのでパールも慌てかけたが、なんとかちゃんとした考えを持った指示を出せた。

 亀さんみたいな姿ながらも案外動けるピョコではあるが、それにしたってヒコザルはパールが知るピョコの素早さを上回っていると見えた。

 下手に避けるより一度防御しよう、というパールの判断は悪くない。

 

「――――ッ!」

 

「おっ、やるじゃんパール!

 先手必勝作戦だったのにちゃんと反応したな!」

「ばかっ、今のは先手必勝じゃなくて不意打ちみたいなものでしょ!

 でも私達そんなのには負けないんだから! ね、ピョコ!」

「――――!」

 

 甲羅に身を隠したピョコに爪を振り下ろしたヒコザルは、手首を振りながら少し距離を取る。

 硬い甲羅に爪を打ち付ける形になって少し痛んだようだが、ピョコにもダメージが無いわけではない。

 ナエトルにとっては甲羅も身体の一部だ。引っかかれもすれば痛くもある。ただ、顔や四肢を傷つけられるよりは痛みも小さい。

 パールの意気込んだ声に対しても良い返事をするピョコは、たいしたダメージじゃないよと雄弁に語っている。

 

「へへっ、パールも熱くなってきたな!

 ヒコザル、行くぞ! 野生のポケモン相手だと思っちゃダメだぞ!

 相手は強いぞ!」

「――――!」

 

「ピョコ、お返しいくよ!

 たいあた……」

 

「――あっ!?

 パールっ、後ろ後ろっ!」

 

 熱が入ってきたパールの姿に、迎え撃つダイヤもいっそうテンションが上がっていたところだ。

 しかし、パールがピョコに体当たりを指示しようとしたその矢先、何かに気付いたダイヤがパールの後ろを指差す。

 指示を遮るような声と指摘であり、前のめりだったメンタルのパールが勢いを挫かれてしまう。

 

「え、ちょ、何なのっ。

 後ろ向かせてまた不意打ちする気?」

「違う違う! マジで後ろっ!」

「もう、なに……」

 

 あっ、後ろ、で相手を振り向かせて、隙あり、的なことでも仕掛けられてるのかと思って、パールはダイヤをはじめ信じなかった。

 最初のヒコザルの攻撃が、パールが身構える前の奇襲的な攻撃だったせいで、一時的にだがダイヤがずるい子に見えていたようだ。

 しかし、そんなことをする幼馴染でないと思い直して、パールはふいっと後ろを振り返った。

 

「………………ゃ」

 

「ヒコザルっ!

 バトル中止! あのズバットにひっかく攻撃!」

「――――z!」

 

 振り返ったパール。

 彼女に背後から近づきつつあった野生のズバット。

 そしてそれを目の当たりにした瞬間、ぞあっとパールの表情が一変する。

 意気盛んにダイヤとのバトルに集中し始めていた強い眼差しの色が失われ、瞬く間に恐ろしいものを目の当たりにしたかのように歪み。

 そんなパールの事情を知っているダイヤは、楽しくなり始めていたバトルを中断してでも、ヒコザルをそのズバットへと差し向けた。

 

「や~~~~~っ!?!?!?

 やだやだやだいや~~~~~っ!!」

 

 飛来してきたズバットから離れるように後ずさり、パニックを起こしたように慌てた足取りがもつれ、パールはお尻から地面に座り込む。

 地面に打ち付けたお尻を痛がる暇もなく、顎を引いてぎゅっと目をつぶり、来ないで来ないでと両手をぶんぶん振るう。

 パールに襲いかかろうとしていたズバットの方が、過剰な挙動に驚いて戸惑うほどであり、そこへ地を蹴ったヒコザルが飛びついてひっかく攻撃を放つ。

 ざしゅっと引っかかれたズバットはよろめいて、これはたまらんとばかりにいそいそ逃げていくのだった。

 

「やだやだ来ないで~っ!

 ピョコ助けてえっ!」

「落ちつけパールっ! ズバットならもう逃げたから!

 お前ほんと今でもコウモリ駄目なんだな!」

 

 ヒコザルとズバットの交戦や、逃亡していったズバットの動きも見ず、とうとう頭を抱えて背中を丸めてしまうパール。

 ナエトル姿になってがたがた震えながらピョコに助けを求める始末。完全に我を失っている。

 駆け寄ったダイヤがゆさゆさと揺さぶりながら、なんとか落ち着かせようと宥めていた。

 

 両者ともに気乗りしつつあった、幼馴染同士のポケモンバトルも有耶無耶だ。

 野生のポケモンに乱入されたから、と単に言い表すだけでは少々足りない。

 パールは蝙蝠の姿をしたポケモンが、これほど取り乱してしまうほど苦手なのだ。付き合いの長いダイヤも知っている事実である。

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