ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第73話   異変の正体

 

「ミーナ頑張れ~! もう一回、とびげり!」

「ッ、――――z!」

 

 鋼鉄島の地下深い階層まで来たパール達。

 ここまで来ると、野生のハガネールまで稀に生息している環境で、中級者以上のトレーナーでなければ訪れるべきでないエリアである。

 しかし、今のパールは堂々と戦い抜いているものだ。

 巨大な相手に小さなミーナを、この対格差があっても勝てるはずだと見て繰り出し、勝利に導く指示をきちんと発している。

 流石に頑丈な個体、相性良好とはいえ退けるまでに跳び蹴り三発を要するが、舌打ち顔で引き下がるハガネールが逃げていく姿には、ミーナも胸を張っていた。

 

「あっ、まだだよミーナ、きずぐすりかけるからね」

「――――、――――」

「だめだめ、ハガネールのしっぽ攻撃ちょっと受けてたでしょ。

 そういうの、後から響いてくるんだから」

 

「ふむ……良くも悪くも粗削りなんだな。

 当人も自覚はあるみたいだし、アフターケアへの意識も高い」

「褒めてるのか、まだまだなのか、微妙なラインですか?」

「いい意味での方が強いよ。

 元々優しそうな子ではあるが、もっともっと優しくポケモン達に接しようという心構えの根拠はそれもあるんだろう。

 自身の未熟を認めての謙虚をきっかけに、大事なポケモンをいっそう大事にしていけるのなら、それは卑屈と称するにも相応しくない美点だからな」

 

 バトルを終えたミーナをボールに戻さず、いい傷薬をかけてあげるパール。

 そんなの別にいいのに、とふるふる耳を振って遠慮がちなミーナだが、パールは譲らずスプレー状の傷薬をしゅっしゅ。

 意地っ張りで、施しさえあまり受けたがらなかった昔のミーナと比べれば、態度はともかく二人の関係はかなり良化してきたものだと言える。

 

 見守る位置に立つゲンとプラチナは、パールのバトル模様だけではなく、こうした一面においても意見を交換する。

 とりわけゲンは、鋼鉄島の野生ポケモンを退け続けられる程度にはパールに一定の腕が備わっていると見て、主にバトル場面以外にも注目しているようだ。

 パールはハガネールの"しっぽ攻撃"と言ったが、トレーナーらしい言葉の使い方ではない。腕の立つトレーナーの多くはあれを"たたきつける"と呼ぶ。

 ゲンがパールを粗削りと感じるのはその辺りも含めてであり、腕より知識が先行しがちなトレーナーの多い昨今、その逆だなとも感じている。

 それでここまで強くなっているのだから、才にも情熱にも、何より向上心に溢れた女の子なのだろうなとも確信する限りだ。

 

「しかし、トウガンに敗れたか。

 この腕前なら、ジムバッジを5つ所持した相手を迎え撃つトウガンに、勝てないほどではないと思うんだがな……

 勿論、簡単に勝てる相手だとも思わないが」

「……えぇと、あんまり大きな声で言うとパールが気にするかもしれないですけど。

 けっこう一方的な展開で負けてるんですよ。

 やっぱり6つ目のジムは相当な難関だなって観てても思ったし、思い切ったトレーニングも必要なのかなって少し考えてもいるんですが」

「まあ、確かにな。

 バッジ集めの旅において、6つ目か7つ目のバッジ獲得が最大の難関とも言われやすい。

 この辺りで挑戦者を迎え撃つジムリーダーも、かなり本気に近い力を発揮してくるからな」

 

 先を進むパールの後ろ、内容を意識してやや小声の会話を交わすプラチナとゲン。

 5つ目のバッジを獲得するためのバトルは、半数のバッジを集めきった挑戦者に対して、ジムリーダーもそろそろ力を出してくる。

 6つ目のバッジを獲得するためのバトルは、3対3バトルの最終戦にして総決算。ジムリーダー側も気合が入る。

 7つ目のバッジを獲得するためのバトルは、ついに4対4のジムバトルとなり戦略性にも難しさが増す。無論、ジムリーダーの出す力も本気により近付く。

 バッジを8つ集める旅における後半戦は、いずれも大きな山場である。

 人によってどの辺りが一番の難関とするかは意見が割れるところで、ゲンは6つ目と7つ目が難関二山と感じるようだ。

 7つ目ではなく5つ目の方を強調する人も少なくはないが、6つ目は意見が二分することも少ない、誰しもが難関と称しやすい。

 パールが挑もうとしているトウガンは、過去と未来を含めた中でも最も大きな山場の一つ、と表現されやすいところである。

 

「……ポケモン達の能力に、6人目のジムリーダーとして立ちはだかるトウガンに敵わぬほどだという印象は無い。

 となれば、敗因はやはり彼女の方にこそあるのかもしれないな」

「やはり、って……?

 そう思い当たる節があるんですか?」

「今はまだ、断言できないがな。

 現時点では、そう思える要素もあり、それが濃厚という印象だ」

 

 パールの耳に届かない程度の小声で、きっと彼女の耳に届こうものなら、たいそう辛辣であろう意見をゲンは発していた。

 パールのポケモン達には、充分トウガンに劣らぬほどの力量がある。

 それで何故勝てなかったのかを論じるなら、パールの方に問題があるのではと言っている。

 好きな女の子を批判される言葉に、プラチナが面白いはずがない。だが、真っ直ぐにパールの背を見つめて発するゲンの眼は、その結論を信じかけている。

 そこに一定の説得力を感じ取れてやまないプラチナは、感情的な反論をぐっと抑え、静かに息を吸って吐いてしながら自らを落ち着かせる。

 

「…………もしもそうだと結論付いたら、しっかり言ってあげて下さいね。

 パールはへこむかもしれないけど、強くなれるんだったら、って、きっと前向きに受け取ってくれる子ですから」

「……ああ、約束するよ。

 そうだと結論付いたらね」

 

 そんなプラチナの複雑な心境も、ゲンは充分察して応じてくれていた。

 へこむかもしれないから言葉は出来るだけ選んで欲しいとか、でも言わずにおくようなことはして欲しくないという強調も込めてあって。

 パールに強くなって欲しい、それで成功する彼女の喜ぶ姿は見たい、でも傷つく彼女を見るのはつらい。

 男の子の言外に込められた情念を感じ取れてやまぬゲンは、なんとなく、プラチナがパールをどう思っているのかまで概ね理解できてしまう。

 本当に、ただの友達以上に大切な人なんだなと。

 

 アドバイザーというのも大変だ。

 同行を依頼した代わりに求められる仕事は、きっとゲンが想像していたよりも、二人にとっては深刻で、重大。

 共に歩くルカリオと目を合わせて頷き合うゲンは、生半可な言葉は紡げないなと意識を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつては鉱山として長らく栄えただけあり、鋼鉄島は各階層が広く、その上で地下深くまである。

 海面から出ている鋼鉄島の大きなシルエットは、まさしく氷山の一角のようなもので、地下階層すなわち水面下の階層はもっと広い。

 階段を下るにつれ広くなる鋼鉄島の環境は、大柄なポケモン達でものびのびと過ごせる楽園であり、野生ポケモンの生息数も増える。

 地下に進めば進むだけ、野生のポケモンとの遭遇率も高くなるというわけだ。

 実に修行場所に適した環境である。ミオシティの中級者トレーナーの間では、地下何階まで行けたよ、というのが実力のバロメーターにもなるらしい。

 

「ニルル、まだ大丈夫?」

「~~~~♪」

 

「けっこう進んだけど、異変の正体みたいなものは見えませんね」

「これだけ島全域のポケモン達の気が立っているのなら、わかりやすい異変だと思うんだがな。

 ここまで進んでその片鱗すら見えないというのは、思ったよりも調査が難航していると言える」

 

 ゴローンを撃破したばかりのニルルに声をかけるパール、明るい声で返答するニルル。

 まだまだ大丈夫だよ、と主張するニルルだが、疲れは溜まってきているだろう。声の調子でパールにはわかる。

 とりわけニルルが一番出番が多い。ゴローンにもイワークにもハガネールにも、誰にでも通用する水ポケモンなのだから。

 ミーナを連戦させ過ぎると苦しそうなので、主にニルルの出番がどうしても多くなる。

 高い攻撃力による撃退が早いので受けるダメージはさほど蓄積していないが、継戦能力とは別の体力はかなり削られているはずだ。

 それなりに良い修行にはなっているだろう。

 

「…………む?

 ルカリオ、どうした?」

「――――」

 

「ゲンさん、どうしたんですか?」

「ルカリオが、あちらに妙な気配を察知したらしい。

 向かってみよう」

 

「ルカリオ、ってそういう能力があるんです?」

「ああ、波動の力で様々な……いや、まあその解説は後にしよう。

 とりあえず、異変の正体を突き止めねばな」

 

 "波導"ポケモンのルカリオは、生物の発する気やオーラに対して非常に敏感で、人には感じられぬ多くのことを感じ取れる能力がある。

 音や光といった波動とは全くの別物である"波導"は、科学的に定義されたそれとは全く異なるものだ。

 単に目や耳がいいだけで遠方の何かを察する能力とは全く別物で、存在や気配、果ては感情や心境、善意や悪意などさえ感じ取ることが出来るのだ。

 こう表現すると五感以上のものを持っているように感じるが、はっきり見たり聞いたりするよりは遠方に対して確信が持てなかったりと、不安定な所もある。

 優れた聴力と超音波により、遥か遠方のものの存在を明確に認識するゴルバットの能力などと比べれば、一長一短というところか。

 超常的な能力を持つポケモンは枚挙に暇がないが、ポケモン同士において、絶対的上位互換と言える固有能力はそう多くない、というのが面白い。

 

 ひとまずそんなルカリオが察知した何かというものへ向かい、やや駆け足で向かっていく三人。

 そこまで急がず早歩きでもいいと思うゲンなのだが、パールとプラチナが走るので、ゲンも走らざるを得ない。

 子供達は元気だな、とゲンも思わせられる一幕である。

 パールとてバトル自体はポケモンに任せているとはいえ、結構な距離を歩いてきて足も疲れていそうなものなのだが。

 

「…………んあっ!?」

「うっわ、あれって……!」

「なるほど、とびきり怪しいな。

 ルカリオ、あれがお前の察知した連中か?」

「――――z!」

 

 駆けた先でパールが見たものは、彼女に裏返った声を出させ、プラチナの表情を曇らせ、ゲンに確信に近いものを抱かせる。

 緑色のおかっぱ頭で、シルバースーツで胸元にはGのシンボル。

 それは最近世間を大きく騒がせる連中の姿そのものであり、パールとプラチナにとってはある意味、非常に因縁深い存在だ。

 

「――ムッ!?

 野生のポケモンですカ!?」

「いや、どうやら違うようデース!

 トレーナーっぽいデスよー!」

 

 どこからどう見てもギンガ団である。それも下っ端の。

 パールとプラチナにはもう、あいつらがここで余計なことをして、野生のポケモン達を怒らせたようにしか見えない。

 前に出た二人の後ろ姿を見るルカリオには、急にめらぁと燃えた二人の波導を感じ取らずにはいられない。まあ、それはゲンにも見えるほど明らかなのだが。

 

「ギンガ団だなっ! 今度はここでどんな悪いことしてるのっ!

 鋼鉄島のポケモン達がすっごい不機嫌になってるんだよ!」

「オゥ! なんですかこのちんちくりんガールは!

 出会い頭にとっても失礼デース!」

「生意気デース! 親の顔が見てみたいデース!」

「んあ……っ!?

 お母さんは関係な……っ、こいつらぁ~~~っ!」

 

「あっ、やば……パール、落ち着いてっ」

「いだあっ!?!?

 ちょ、プラッチぃっ!?」

「カッカし過ぎちゃダメだよ。

 叩いたのは後で謝る、何でも言うこと聞いてお詫びする。

 でも今は冷静に、こいつらを叩きのめさなきゃ」

「うぐぐ……わかってるよっ!

 平常心、平常心、っ……!」

 

 ただでさえ目の敵であるギンガ団を前にして、親まで侮辱するようなことを言われて、パールがぶっちん切れかけてしまう。

 流石にそこまで冷静さを欠いてはいけないとしてプラチナの荒療治。パールの背中をばっしーんと叩いた。

 強引すぎて申し訳ないとは思っているようで、プラチナは思い付く限りの詫びを告げ、今は相手に冷静に向き合うべきだと訴える。

 パールも痛くて怒りの矛先がプラチナに向きかけたが、信頼するプラチナの言葉なら聞けるらしい。鼻息を鳴らしながらなんとか気持ちを鎮めて。

 怒りは抱えつつ、少しは頭の冷えた頭でギンガ団員達を睨みつける。

 

「敵意を感じマース!

 これは迎え撃つしかありまセーン!」

「子供達といえど容赦はしませんヨー!

 ポケモンバトル、できるカナ!?」

 

「古いな……」

 

「やるよ、プラッチ!

 ぎったんぎったんにしてもらうんだから!」

「あぁもうそれでいいや、もう……!

 向こうもやる気みたいだし、まずは相手を黙らせるよ!」

 

 冷静さたるものを取り戻しきっていないパールと見えるが、プラチナ目線ではまだマシになったかなと思えた。

 ぎったんぎったんに"してやる"じゃなく、ポケモン達にぎったんぎったんに"してもらう"と言えているだけ、まだ彼女本来の価値観に近いというか。

 ポケモントレーナーとしてはやや珍しい傾向なのだが、パールは言動端々にすら、バトルで勝っても自分の力という認識が殆どない。

 みんなのおかげ。そんな彼女の根本的な観点が垣間見える発言である。プラチナにはよくわかる。

 

 同時にゲンも、"ぎったんぎったんにしてもらう"という珍しい文字列に、パールの価値観めいたものは感じ取っている。

 これはもしかすると、後でアドバイスを求められる身として、大きなヒントになるだろうか。少し、そんな気がしている。

 ルカリオと目を合わせるゲンの言動には、そんな想いが表れている。

 

「ミーナ! 絶対勝つよ!」

「ポッタイシ! 頼んだよ!」

 

「ニャルマー! やってしまいなサーイ!」

「ズバット! 絶対勝つのデース!」

 

「うひえあっ!?」

「あぁもう、ポンコツ……!」 

 

 五秒前まであんなに血気盛んだったのに、相手がズバットを出してきた瞬間に三歩ばたばた退がって腰の引けるパールである。

 事情を知らなければとんだ情緒不安定ガールであろう。プラチナもパートナーの不安定ぶりに出鼻を挫かれた気分。

 パールの苦手なズバットの撃破を最優先に、ポッタイシをケーシィに入れ替えようかとさえ思うぐらいである。

 

「パールっ! だらしないところ見せるなっ!

 ギンガ団だぞ! 戦い抜くよ!」

「うぅっ……! わかってるっ……!」

 

「あのちんちくりんガール、ズバットに怯んでマース!

 臆病なちびっこデース!」

「この勝負貰ったデース!

 雑魚ガール相手に、ここまで来た我々が負けるわけがありまセーン!」

 

「誰がちんちくりんかー! 誰が雑魚かー!

 ミーナお願い頑張ってー! 私こいつらに絶対負けたくないよー!」

 

 キーワードに反応して、両拳を振り下ろしてふしゃ~と怒り散らすパールである。

 何というか、心理戦では既に惨敗ぶりが少々気にかかるところだが、敵対陣営にズバットがいてもこれだけ燃えてくれるならパールにしては良い方。

 プラチナはそう考えることにした。難儀なパートナーである。

  

 結論だけを先に言ってしまうと、パール達はこのギンガ団の二人を、この後けちょんけちょんに負かすことになる。

 ゲンも展開次第では、ルカリオと共に二人を助けるべきだと考えていたようだが、それは杞憂だったということだ。

 その一方でゲンは、プラチナはともかく、パールの戦いぶりをよく見届けていた。

 そんな中で彼なりに見定めたものは、どうしてパールがトウガンに惨敗したのかを、充分言葉にできるほどはっきり確信できるものでもある。

 

 結果的にパールはこの後、ゲンに非常に大きなアドバイスを得ることになる。

 野生のポケモン達を相手取る修行のつもりで鋼鉄島に訪れたパールにとって、ゲンとの出会いはきっと、後から思えば並々ならぬ縁。

 彼女に決定的に欠けているものは何か。それはきっと、パール一人では気付けない、そしてプラチナにも気付けぬであろうことだったから。

 

 その痛烈な現実を突きつけられるパールがどんな顔をするか、核心に気付いたゲンは、早くから言葉を選ぶことに意識を割いていたものだ。

 自分のポケモン達が大好きな子供にとって、これはきっとショックな現実だから。

 つくづくゲンも、難しいことを引き受けてしまったものだと、ギンガ団連中を撃破してぐっと拳を握るパールを眺めながら、溜め息一つ挟んだものである。

 そんなゲンを彼のパートナーであるルカリオも、彼の心情を波導で察したかのように、悩ましい目で見上げていた。

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