ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第74話   ギンガ団の内情

「さあっ!

 今度はここで何をしようと企んでたんですか! 白状して下さいっ!」

 

「な、なんなんデスかこの子は……おっかないデース」

「どうどうどう、あんまり"いかく"しないでくだサーイ。

 ギャラドスのようデース」

「誰がギャラドスかー!!」

 

「君の友達、凄いな。なかなか迫力があるぞ」

「それでも敬語っていうのが微妙にしっかりしてるんですよ」

 

 ギンガ団の二人組を、ポケモンバトルでけちょんけちょんにやっつけたパール。

 戦う手段を失った大人二人にずいずい近寄り、大人相手に引け腰しない問い詰めぶり。

 向こうが怯んでいるぐらいだ。勢いある時のパールって結構強い。

 

「あなた達ギンガ団でしょ!?

 どうせここでまた悪いことを企んでたに決まってるんだっ!

 さあ今すぐ白状です! 絶対に許さんぞー!!」

 

「別に我々はワルいことは企んでないデース!」

「ここで野生のポケモン達相手にトレーニングしてただけデース!

 ウソじゃありまセーン!」

「嘘だー! ギンガ団の言うことなんか信じられるかー!」

 

「随分と聞かんちんだが、彼女はギンガ団に特段の恨みでもあるのかい?」

「えー、まあ、因縁深い相手になってしまってると言いますか……

 とりあえず一旦落ち着かせてきます」

 

 極端に相手の言い分を聞かないモードに入っているパールである。

 色々あって、彼女の中でギンガ団員は絶対悪になってしまっている模様。

 これでは話が進まないので、プラチナがサポートへ。

 

「どうしてここの野生ポケモン達が……むぐぐっ!?」

「はいはいパール、一旦静かにしようね」

「むぐぐぐぐぐっ、プラッチのセクハラっ!」

「セクハラじゃないよっ!

 こうでもしなきゃパール止まらないでしょ!」

 

 後ろから両手でパールの口を塞いできたプラチナに、パールはその手から抜け出して抗議である。

 不名誉な罵倒を受けるプラチナは必死の抗弁をするが、結果的にギンガ団敵視一色だったパールの意識を、自分へ逸らすことには成功。

 ほんの一旦彼女を止められたこの隙に、ゲンがギンガ団の二人に歩み寄る。

 

「とりあえず、話を聞かせて貰おうか。

 君達二人の行動が、鋼鉄島のポケモン達を強く刺激していた可能性がある。

 ここで何をしていたのか、少し詳しく聞かせて貰えないか」

 

「ゲンさんっ! その人達の言うこと簡単に信じちゃダメですよ!

 ギンガ団はワルい奴ら……むぐぐぐっ!?」

「はーい、パールは黙っていようねー」

「むぐががっ、プラッチのドエロー!

 くちびるをさわるな~!」

「くちび……っ、うるさいなっ、嫌なら一旦静かにしててよっ!

 詳しい話はゲンさんが聞くんだから邪魔しないようにっ!」

「うるさいっ! プラッチがスケベなのはもうわかったぞっ!

 女の子の唇をべたべた触るなんてサイテーなんだからね!」

「そんなつもりじゃないってばっ!

 こうでもしなきゃパール絶対黙らなかったでしょ!」

「だまれ~! プラッチがだまれ~!」

「パールが黙れっ! 今すぐ黙れっ!」

 

 あまりにうるさいのでゲンがちらと振り返ると、二人とも顔を真っ赤にしてきゃんきゃん喧嘩している。

 仲が良さそうにしか見えない。放っておいても後で勝手に仲直りしそうだなぁと思って、ゲンは無視することにした。

 

「まあ、あちらは置いといて普通に話をしてくれればいい。

 潔白を証明するためと思って、少し話に付き合ってくれないか」

 

 問い詰めるような尋ね方をせず、穏やかに回答を求めるゲンに、ギンガ団員両名も頷き合って事情をゲンに話し始めた。

 あの子よりはゲンの方が、ちゃんと話を聞いてくれそうだと感じたのだろう。

 暴走気味のパールの接し方が、相対的にゲンの印象を良いものとする形となり、ある意味でパールの突っ走り具合が良い方向に傾いたとも言える。

 もちろん、ゲンがフォローしてくれたおかげとも言える。世話の焼ける子だ。

 

 

 

 

 

「ほう、ギンガ団は希望したポケモンを支給してくれるのか。

 随分と振るまいがいいな」

 

「私はサターン様やジュピター様やマーズ様の強さに憧れて、グレッグルとスカンプーとニャルマーを希望したのデース。

 まあ本当はその進化系を希望してみたのですが、流石にそれはちょっと」

「私はバトルはあまり得意ではありませんので、遠くの状況を知るのも得意なズバットを希望したのデース。

 生活するにあたってもとっても便利で、今は頼れる相棒二匹デース」

 

 ゲンがギンガ団員の二人に話を聞いてみたところ、少しずつギンガ団の内情めいたものが明らかになってきた。

 普通、こうした場面で相手の言うことを鵜呑みにはしづらいところがあるが、ゲンは二人の言葉を概ね信じている。

 

 なぜならゲンのそばにいる、人が発する波導を感じ取れるルカリオが、嘘の気配を感じ取っていないからだ。

 決して100%の嘘発見機などではないが、拙い嘘なら見破ってくれるルカリオが無反応ということは、今のところこの二人の発言には概ねの信が置ける。

 

「ちなみに君達は、どうやってギンガ団に入った?

 トバリのギンガ団本部に、入社というか、正式な手続きを経て入団したのか?」

「私達はそうではないデスねぇ。

 彼もそうですが、このシンオウ地方の外からスカウトされてきた身デース」

「シンオウ地方は素敵な地方デース。

 私達が生まれ育ったところとは違って、街も自然も綺麗ですし、人々も優しいデース」

 

「ふーむ……君達と同じ境遇のギンガ団員も多いのかな?」

「まあ恐らくは。

 シンオウ地方に来る前に、三か月ぐらい言葉の勉強をさせられたのデース」

「おかげでみんな、ある程度はここの人達とも話せマース」

 

「……外国?」

「多分そうなんだろうね」

 

 この二人はシンオウ地方の外、それも言語が同じカントーやジョウトやホウエンではなく、海を隔てたもっと別の国から誘致されてきた身。

 そして、そんなギンガ団員は他にも結構いるらしい。 

 どうもマーズやジュピターやサターンが従えているギンガ団員達に、片言使いばかりだと思っていたパール達だが、その理由が明かされた気がする。

 

「つまり君達は、トバリシティのギンガ団とは別物なんだな?」

「そうデース。

 むしろトバリシティには行かないようにと言われてるぐらいデース」

「あそこはエリートギンガ団員が集まる場所だから、一般のギンガ団員は立ち入り禁止デース。

 本部に至りたければ、実績を出して昇進することだと言われてマース」

 

「君達のような境遇の者達は、みんなトバリのギンガ団とは無関係の、別の集団と考えていいのかな?」

「さあ、どうなんでしょ……

 私は同じ組織だと説明されてますが……」

「でも、別の組織のようにも感じマース。

 もっとも、我々にとってはあまり関係のない話デース。

 平穏なシンオウ地方で、仕事をしてご飯を食べて、それが出来れば何でもいいデース」

 

 どうもこの二人、生まれ育った地の環境があまり良いものではなさそう。

 シンオウ地方はいい場所だと言うのも、我々の育った場所とは違って、という言外が含まれている気がするし、ここにいられればそれで満足という主張もそう。

 サターンを始めとする悪のギンガ団幹部が従える尖兵は、こうして恵まれぬ地から呼び込んだ、傭兵集団のようなものなのだろうかという推察も立つ。

 

 実のところこの辺りは、先の事件いくつかで逮捕されたギンガ団員達も吐いていることで、警察側も知っていることだったりする。

 これを素直に解釈すれば、悪のギンガ団とトバリの真っ当なギンガ団が別物という気はしてくるのだが、その結論を急げないのも難しいところ。

 悪事をはたらくギンガ団員達が、全員すべてこうだとは断言できないのだもの。

 まして幹部格の三人が確保できていない以上、未だ真相は霧の中である。

 

「君達は誰の部下なんだ?」

「サターン様デース。

 とても強くて頭もキレて、我々の憧れの的デース」

「サターン様のドクロッグはまさに最強デース。

 チャンピオンのポケモンより強いんじゃないかってさえ思いマース」

 

「そいつは凄いな。

 ところで君達は、先日のリッシ湖の作戦にも参加したのか?」

「ハーイ、爆弾の搬入を手伝わせて貰ったデース」

「む……犯罪への荷担をあっさり吐いたな。

 言い逃れの一つぐらいはすると思ったが……」

 

「えっ!? 罪デスか!?」

「私達は湖の水を一時的に抜くのを手伝っただけデスよ!?

 湖の水はやがて間もなく満たされますし、人の家を破壊したわけでもないデスよ!?」

「当たり前だろう、シンオウ地方はポケモンとの共存を重んじ、自然破壊への罰則が厳格だぞ。

 材木のための伐採ひとつとっても、きちんと役所に手続きを通して行わなければきっちりお縄だ。

 水棲ポケモンの多いリッシ湖の水を一時的にでも勝手に吹っ飛ばすなど、どう考えても真っ黒だ」

 

「えぇ~、我々の育った地方ではそんな決まりは……」

「家を修理する材木が欲しければその辺の木を切ってこいデス」

「生憎ここはシンオウ地方だ。君達の地方とはルールが違うぞ」

「オゥフ……」

「アゥフ……」

 

 ポケモンバトルで木が燃えたりもすることはあるので、多少の程度では目を瞑られる決まり事だが、あれほどの大規模破壊となれば流石に駄目。

 陸に打ち上げられたコイキング達の苦しそうな姿からも明らかなように、あれはポケモン達との共存を望む、シンオウ地方の方針に明確に反している。

 あれで水棲ポケモンの一匹でも死んでいたら大変な話だ。事後の報道では幸いにもそうはならなかったと報じられたが。

 それは事実なのだろう。悪い方に至っていたら、それも容赦なく報道して反ギンガ団の感情を世論に煽るのも、報道班の仕事には違いないので。

 

「まあ、それはさておいて、だ。

 君達は自分のポケモンをここで育てようとしていたようだが、それはどういうつもりでだ?

 力をつけて、またギンガ団の悪行に手を貸すつもりだったか?」

「い、いえいえ、ワルいことはあんまりしたくないデース。

 それで捕まったり、この地方から追放でもされたらたまりまセーン」

「あんまり我々、本国に帰りたいとは思ってないデース。

 シンオウ地方はいい所デース、離れたくはないデース」

 

「ギンガ団は乱暴な手段を取る組織だとは思わないか?

 正直、罪ではないと思っていたとしても、湖の水を爆弾で吹っ飛ばすのはやり過ぎだとは感じるべきだろう」

「それは正直思ってたデース。

 あんまりこういうことを繰り返すようなら、あまりギンガ団には戻りたくないデース」

「一応シンオウ地方に連れてきてくれた恩人のようなギンガ団ですから、義理といいますかそれも心苦しいデスが……

 出来れば、ヤメてしまいたいデース。

 でも、ヤメたらこの子達もギンガ団に返さなきゃいけませんし……」

 

「ん?

 こう言ってはなんだが、黙って持ち逃げという発想は無いのか」

「借りパクは良くありまセーン。

 人のものを取ったらドロボウデース」

「だけど我々もこの子達に愛着が移ってきましたし、離れたくもありまセーン。

 やっぱりギンガ団をヤメるのは、ちょっと考えにくいデース」

 

 なんだかこういう所は人間的。

 支給されたポケモン達ではあったものの、長く連れ歩いているとすっかり情が移ってしまったようで。

 こうなるぐらいなら、やはりポケモンというものは、どんな労を経てでも自分で捕まえた方がいいという話である。

 

「え~、ハクタイシティのギンガ団は人のポケモン奪ってたよ。

 おんなじギンガ団の人が、人のものを取ったらドロボウだ何だって、な~んか白々しいというか……」

「あれはジュピター様の率いる部隊デース!

 あいつらは一度会ったこともありますが、なんだか目がギラギラしててあんまり好きじゃなかったデース!」

「サターン様は人のポケモンを奪ってこいなんて指示は絶対しないデース。

 我々はサターン様の部下デース」

 

 パールは未だ猜疑心に満ちた目で見ているが、どうやら片言ギンガ団員達にも、仕える上司ごとに派閥めいたものがあるのかもしれない。

 少なくともこの二人は、自覚のある限りで悪行に手を染めることは好みではないらしい。良心ゆえなのか、保身ゆえなのかは計りづらいが。

 やや表向きにも悪辣な言動の目立つジュピターと、それに従うことを好む者達とは、正味のところであまり気が合わないというところか。

 

「まあともかく、君達はこの鋼鉄島に、ただ修行に来ただけで他の目的は無いと。

 ギンガ団の任務というわけではないんだな?」

「そうデース。

 ここのポケモン達は強いですが、いい修行になりマース」

「うちの子達も結構強くなった気がしマース。

 トレーニングはなんだかやる気が出るのデース」

「ふーむ……それだけでここのポケモン達がここまで不機嫌になるとは思えんが……

 君達が原因では無い、ということなのか……?」

 

 鋼鉄島の野生ポケモン達は、基本的に人間に対して友好的だ。

 とおせんぼしてきても、それは腕試ししようぜという想いのみであり、勝ったら得意気、負けたら悔しがって逃げるだけ。恨みっこなし。

 普通に修行しにきただけのトレーナーが、ここのポケモンを怒らせるシチュエーションなんてそう多くないはずなのだが。

 

「倒したポケモンを過剰に痛めつけたりはしたか?」

「そんなことするわけありまセーン!

 かわいそうデース!」

「我々そもそも、リッシ湖のコイキング達だってかわいそうだと思ってたデース!

 正直あれがきっかけで、ギンガ団とは距離を置きたいと思い始めたぐらいデース!」

 

「うぅむ……視点を変えるか。

 君はニャルマーとスカンプーとグレッグルを使うんだったな。

 ゴローンが出てきたらどうバトルする? 相性は良くなさそうだが」

「そうですねー……スカンプーに"つじぎり"で頑張って貰うか、グレッグルの"リベンジ"デスねー。

 特にグレッグルは、ハガネールにもよく効く攻撃でここでの切り札デース」

「私もズバットの"ちょうおんぱ"でサポートしマース。

 二人でなら、なんとかある程度安定しマース」

 

「…………ん? 二対一か?」

「そうでもしなきゃ、ここまで来れまセーン」

「ここの野生ポケモン達は強いデース」

「ずるい」

「ずるいね」

 

「君達が二人なのを見て、野生ポケモンも二匹一度にかかってくることもあるだろう。

 その時はどうしている?」

「逃げてマース」

「二対二なんて苦しいデース」

 

「あぁ、なるほどな。

 ここのポケモン達が怒るわけだ」

「えっ!? 罪デスか!?」

「罪ではないが、ポケモン達にも感情というものがあってだな」

 

 これではっきりした。

 やはり鋼鉄島の野生ポケモン達の気が立っていたのは、この二人が原因だったらしい。

 

 要はこの二人、野生のポケモンが一匹で出てきたら二人がかりで倒して、二匹で出てきたら逃げる、その繰り返しでここまで来たらしい。

 島を進んでいきたいだけなら賢いやり方というやつなのだろう。修行という目的に沿ったやり方なのかが少々疑問だが。

 そしてそうした人間どもというのは、野生のポケモン達からすればあんまりいけ好かない。

 数で勝る戦いのみ望む、というこすいやり方にも好ましい感情は湧かないし、発想を広げれば修行目的じゃないのかも、とさえ思える。

 となれば、自分達の住処を荒らしにきたのか、あるいはポケモンの乱獲だけが目的なんだろうか、とも考えてしまう。

 

 鋼鉄島に生息するポケモン達のコミュニティにおいて、こんな得体の知れない奴がいるとなれば、ぴりぴりするというものだ。

 もっとも、警戒心がこの二人に向いて気が立っているだけで、他の来客に対する接し方は変えていなかったようだが。

 要するに、機嫌が悪くて目つき顔つきが悪かっただけである。危惧されていたような、人に危害を加えるかもしれないという精神状態ではなかったようだ。

 ここのポケモン達に神経質なミオシティの駐在員の心配は、結果的に杞憂だったと言える。この二人が島を去った後は、ポケモン達の機嫌も直るだろう。

 

「修行というならラクな手段ばかり取るのも考えものだぞ。

 単に最深層まで行きたいだけならともかく、修行に来たんだろう?

 ポケモン達に強い相手とのバトル経験をきちんと積ませることを蔑ろにして、最深部到達を誇っても本末転倒だ」

「ムムム……言われてみればその通りだったかもデース」

「ましてや、それでポケモン達が不機嫌になるとは想像もしなかったデース。

 これは反省するべきデース」

「なに、わかってくれるならいい。

 話がわかるようであれば、解決も早くて助かるよ」

 

「ねぇねぇゲンさん、この人達の言うこと、信じちゃっていいんですか?

 ウソついてるかも」

「いや、まあ大丈夫だろう。

 君は本当に、ギンガ団が信用できないんだな」

「だって、悪い奴らですし。

 トバリシティ以外で会ったギンガ団、みんな悪いことしてたんですよ?」

 

「世間でギンガ団の評判が悪いのは仕方ないかもしれませんが、どうしても信用されないというのは悲しいデース!

 ホントのことちゃんと話したデース!」

「ギャラドスガールは人間不信すぎデース!」

「だから誰がギャラドスかー!」

「こっちもギンガ団相手に、直接色々あったんですよ。

 だいたいどうしてあなた達、今ギンガ団の服着てるんですか?

 何かの悪事の任務中だとこっちだって思うじゃないですか」

 

「これは私達の勝負服デース!

 修行という大一番、これを着ると気持ちが引き締まりマース!」

「ヘアースタイルも勿論ヅラデース!

 髪の毛はすぐには伸ばせまセーン! でもこれはこれで気に入ってマース!」

「勝負服……なんでいちいちそんなダサい服を……」

「っていうかあれ、ウィッグだったんだ……

 まあみんながみんなあんな自己主張激し過ぎる地毛なわけないか」

 

「ダサいとは心外なっ!」

「このシャープでオリエンタルなセンスがわかりませんか!?」

「わかりません」

「ありえません」

 

 流石にギンガ団員達も、プライベートでは私服らしい。

 そもそも現在シンオウ全体で、ギンガ団員そのものが要注意な人物像になっている昨今、いつもギンガ団員の服を着てうろうろ出来たものではない。

 そんなもの着ていたら、この島に来るための船に乗る時点で訝しげな顔をされるはずである。現に指名手配中のマーズには、パールも会ったが私服姿だった。

 私服で船に乗せてもらって鋼鉄島に来て、ここで着替えたということなのだろう。勝負服というだけあって、本当に気に入って着ているようである。

 まあこの二人の場合、好きじゃなかった故郷から素敵なシンオウ地方に導いてくれたギンガ団、その正装への感謝混じりの愛着もあるのかもしれないが。

 パールとプラチナにそのセンスは全然わからないが。ギンガ団への悪感情抜きにして、これは無いの一点張りのようで。

 

「強くなりたいというのなら、トウガンに紹介してみようか?

 あそこのジム生になって、みっちり修行させて貰うのもいいだろう」

「……そんなことが出来るのデスか?

 私達は、シンオウ地方に来たばかりの外国人ですよ?」

「根無し草の暮らしですし、住民票もゲットしていないのデスが……」

「ジム生にそんなものは必要ない。

 厳しく見るジムもあるが、トウガンなら大丈夫だろう。

 強くなりたいと思う者なら、彼なら喜んで受け入れてくれるさ」

 

 ジム生というのは案外敷居が低いものであり、希望者を募る門戸もやや広い。

 ジムそれぞれに扱うタイプの偏りが強いので、一つのタイプの愛好者たれる者でないと少し乗り気になれない部分もあるので、数も氾濫しないだけだ。

 一方で、右も左もわからず指導者もいない、だけど立派なトレーナーになりたいという者が、ジム生から始めて修行を積むというケースは結構多いらしい。

 

「でも、ミオジムは鋼タイプのジムでしょう?

 我々のポケモンは……」

「ジムではそれに近いポケモンの育成を推奨されるが、だからといって自分の手持ちを手放せとは言われないさ。

 ジムに関わる時間以外の、プライベートな時間で育ててやればいい。

 まあ、ジム生としての本業と、それとは関係ないポケモンの育成という二足の草鞋、楽ではないかもしれないがな」

 

「……どうしマス?」

「いいかもしれないデース。

 強くなって、ジム生を卒業してからでも、この子達をより育てていくことはできマース」

「うむ、決まりだな。

 トウガンには後で話を通しておくとしよう」

 

 なんだかするすると、ミオジムにジム生が二人増えそうな流れである。

 ギンガ団員の二人だが、根はそこまでの悪人ではなさそうだ。常識に欠けるところはあるが、それもジムリーダートウガンが矯正してくれるだろう。

 実はトウガン、豪気で人当たりのいい大人だが、ああ見えて身内が道理に反することをしようとすれば、お叱りの剣幕は尋常じゃない。

 悪のギンガ団に半ば騙されて悪行に荷担させられたこの二人も、トウガンの門下生として日々を積めば、真っ当なトレーナーにして貰えるだろう。

 根は悪くなさそうな二人という面を鑑みて、トウガンとこの二人を信頼し、ゲンが導き出した結論である。

 

「まあ、しかしその前にだ」

 

 とはいえ、ついていないケジメがあるのも事実だったりする。

 ジム生になれるかも、なんて無邪気に少し喜んでいた二人の前には、にこっと笑ったゲンの姿がある。

 

「まずは警察だ。

 リッシ湖の事件に加担していたんだろう? 罪は償わねば」

「逃げマス!!」

「ラナウェーイ!!」

「あっ! こらーっ!!」

 

「逃げても無駄だぞー。

 今から警察に連絡して、迎えに来て貰うからな。

 君達は船に乗らないとこの島から逃げられないだろう?」

 

 逮捕宣言を受けた瞬間、踵を返して走りだした二人に、ゲンは冷静に呼びかける。

 大丈夫、もう詰んでるから。逃げ道なし。

 ジム生になる前に、少々厳しい禊の時間が待っていることを確定づけられ、二人は足を止めてがっくりとうなだれるのであった。

 

 まあ、様々な事情を鑑みれば、そこまできつい刑罰にかけられることはなさそうだ。

 二人の場合、一時的な自然破壊への荷担が罪行であり、マーズやジュピターの部下がやっていた、施設の占拠やポケモン強奪に比べれば少し罪も軽い。

 あくまで騙されていただけ、とも取れる境遇を顧みれば、情状酌量の余地もあろう。

 執行猶予つきで、身元引取人のいない二人の場合、ミオジムに引き取られて社会貢献して過ごせ、という判断になりそうなところ。

 牢屋にがっつり入れられるようなことは無さそうである。

 

 とはいえ、しばらくきつい縛りを受ける暮らしになるのは間違いない。前科も付きそう。

 それぐらいはわかっている二人、せっかくの新天地なのにお先真っ暗という顔だったが、更生を最良とする法に救われて再起することも決して夢ではない。

 長い人生、誰しも間違えることはある。その都度あるべき報いによって打ちのめされることもあるが、正しい道に向かって再び立ち上がることは出来るのだ。

 きちんと人生をやり直していけばいい。せっかく、人にもポケモンにも優しいシンオウ地方で、第二の人生を歩み始めているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「警察に連行される人の後ろ姿を見るのって初めてです」

「なんだか気の毒にも見えてきちゃう。ギンガ団なのに」

「悪行は結局、いつか必ず自分自身を苦しめるということだよ」

 

 一度鋼鉄島からミオシティに帰ってきたパール達。

 ギンガ団の二人は警察の人達に連行されていった。すっかりしょぼくれた背中。

 反省と後悔に溢れたその姿には、仮にも罪人をしょっぴく警察の方々ですら、背中をぽんぽんと叩いての優しい連行であったほど。

 あそこまで哀愁漂わせられると、ギンガ団憎しのパールですら気の毒に感じてしまう。余程である。

 

「とりあえずのところ、事件は解決だな。

 二人ともありがとう、心細くなかったよ」

「いえいえ、そんな。

 なんだか大事件とかじゃなくてよかったです」

「それじゃあ、もう行くよ。

 君達とは、いつかまたどこかで会えるといいな」

「はいっ! ゲンさん、またいつか!」

 

「えっ、ちょ、あの……!?

 ゲンさん、アドバイスは!?」

 

 ともあれ事件は解決だ。二人に別れの挨拶を告げ、去って行こうとするゲン。

 そのまま笑顔で見送るパールもどうかしてる。事件解決のめでたしめでたし感で忘れていらっしゃる。

 プラチナが慌てて引き留めなかったら、このままこれ以上何も聞けずにそのままお別れだったこと間違いなし。

 

「あ……そ、そうだったな、すまないね。

 そうだそうだ、手伝ってくれたお礼に何か気付いたことを言うんだったな」

「ちょ、ちょっとゲンさーん!

 忘れていっちゃうなんてあんまりですよっ!」

「パールも忘れてたでしょ……」

「しっ!」

 

 二人から離れ始めていた場所から、慌てて振り返って小走りで近付いてくるゲンであった。

 申し訳なさで足が早まっている辺り、心底しまったと思ってくれている模様。

 

「えぇと、君のバトルの仕方に気付いたことか……

 そうだな……有り体に言えば、君はもっと、自分のポケモンのことを良く知るべきというところかな」

「えっ、今よりですか?

 ……みんなのこと、私はまだまだちゃんとわかってない的な?」

 

「ゲンさん、もっともらしいこと言ってやり過ごそうとなんてしてませんよね?

 なんかこう、いつでも言えちゃうアドバイスにも聞こえるんですか」

「いやいや、元々途中から思っていたことだよ。

 まあ、一度忘れて去ろうとしたから、慌てて取り繕って言っているように聞こえるかもしれないが……これは本音だ。

 少し厳しい言い方をしてしまうと、パール君自身の言ったとおり、君はまだ自分のポケモン達に対してわかっていない所が多々見られる。

 それを知ることは、間違いなくトウガンに勝てるほどの実力を身に付けるにあたって、非常に重要なきっかけになるはずだ」

 

 さて、どうだろう。未熟なトレーナーには、誰に対してでも言えてしまいそうなアドバイスだが。

 じとーっとした疑わしそうな目でゲンを見つめるパールとプラチナ、本当にそれが元々思っていたアドバイスですか? と言わんばかり。

 一回忘れて帰ろうとしてしまったから、適当に取り繕って逃げようとしているように見られてしまう。ゲンもちょっとだけ悪い。

 内容が月並みなのも、ちょっとは不運だったが。

 

「むぅ……

 でも、私これ以上みんなについて、どうやって知らないとこまで知っていけばいいんでしょう……

 今までだってずっと一緒だったし、みんなに対して出来るだけいっぱいのことを知ろうとしてきたつもりなんだけどな……」

「あれ、パール、もしかしてへこんでる?」

「へこんでいるっていうか、まあ……

 あれだけみんなと一緒にいて、まだわかってないことあるんだって思うとさ。

 それを、初めて会うゲンさんにもそう思われてるって、パッと見てわかることも私わかってこなかったみたいだし」

 

「いや、そんなに気落ちするようなことじゃない。

 人間とポケモンは言葉が通じないんだ。特に、ポケモン達の言葉が我々にはわからないんだからな。

 長年連れ添った仲間ですら、数年付き合って初めて気付くようなことがあったりもするものだよ。

 私の場合は初見でわかるというより、ルカリオという波導によってポケモン達の感情の揺らぎを読み取るパートナーがいてくれるからだ。

 まあカンニングに近いよ。そう気にしないで欲しい」

 

 パールが目に見えて元気の無い愛想笑いをプラチナに向けるので、これはへこませ過ぎて良くなさそうだと、ゲンも必死のフォローである。

 道中でもよく見てきたが、パールは自分のポケモンが好きで好きでしょうがない。

 今までも、きちんとポケモン達の気持ちに対して、理解を深めようと努めてきたであろうことは想像に難くない子だ。

 それが報われていない現状と、それを突きつけられてショックな彼女の姿には、それをきっかけに潰れて欲しくないとゲンも言葉が多くなる。

 

「思えば、鋼鉄島はそんな君の事情を解決するにあたっても、丁度いい環境なのかもしれないな。

 一度、自分のポケモン達以外と触れ合わない時間を、可能な限り取ってみたらどうだろう。

 早い話が、鋼鉄島への島籠もりという形でね」

「えーと……それってしばらく鋼鉄島に泊まり込む、みたいな?」

「それが出来る環境は整っているよ。

 キャンプ地もあるし、そこには簡素だがシャワーボックスもある。

 飲食物は缶詰だが定期的に支給されているしね。過ごせるはずだ」

 

「鋼鉄島って本当に、ミオシティに修行場所認定されてるんですねぇ……」

「行き詰まったトレーナーが自分自身を見つめ直すために、人里を離れてポケモン達のみと触れ合う、鋼鉄島での短期の合宿というのはしばしばあるんだ。

 それによって新たな何かを発見し、一躍したトレーナーも多いからね。

 今の君には、それがちょうど勧められるよ」

 

 それはつまり、踏ん切りがつくまでミオシティにも帰ってこない、文字通りの島籠りという武者修行。

 危険そうな響きだが、子供がやっても安全だと評価されるほど、鋼鉄島のポケモン達は人間に対して友好的なので問題は無いらしい。

 むしろ島では人間同士の喧嘩にすら、騒ぎの気配がすればポケモン達が群がってきて、仲裁しようとするらしいというのだから凄い話だ。

 本当に、まさしくノモセ大湿原のポケモン達と人間の関係のように、あるいはそれ以上に、積年の実績が成す人と鋼鉄島のポケモン達の特別な関係性である。

 

「出来ればその間は、君もパール君には関わりに行かない方がいいぐらいだ。

 信じて待てるかな?」

「待つぐらいなら……

 僕も僕で、フィールドワークして時間を潰しておこうか、な?」

「え~っと……じゃあプラッチ、島から帰る時には電話しよっか?

 それで合流する的な?」

「うん、まあ、そんな感じで……」

 

 女の子には結構な勇気が要りそうなことを提案している自覚のあるゲンだが、するっとパールはそれを受け入れ、さっそく今日からやるつもりでいる。

 プラチナの方が、えっもうやる気なの? という本心をあらわにしないよう努め、戸惑い気味にパールと会話しているぐらい。

 強くなれるなら……という想い一途に、やや突拍子もない提案に対し即時乗ってしまうパールの素直さは、ゲンも少々驚いている。

 

 その後、ゲンと別れてから、パールとプラチナは一度ポケモンセンターに帰り、これからどうするのかをしばらく話した。

 急に行っても何だから、明日からにしようと。

 そして今夜は、毎日電話している相手にも、これからしばらく電話はし合わないように約束を取り付けたりもしようと。

 毎晩電話している相手からすれば、ある日を境に連絡がぷっつり途絶えたら心配する。それも含めて準備は必要である。

 

 翌朝からは鋼鉄島に改めて赴いて、パール一人で電話も断ち切り、ポケモン達と一緒に島籠りだ。

 今宵はポケモンセンターのベッドにて一夜を過ごしたパール、明日からはどんな毎日が始まるんだろうと、不安大きくどきどきする胸を鎮めながら目を閉じる。

 自分のポケモン達について、今よりも知る。果たして島籠りはそれを解決させてくれる有力手段なのだろうか。

 そんな疑問も今一度封じ、パールは明日からも頑張るぞと意気込んで、深い眠りについていくのだった。

 

 成長のための最善手や最速手、そんなものはなかなか見つからない。遠回りすることだってあり得る。

 道に迷ったら、効率や近道への意識を捨て、目の前にあるものをがむしゃらに追ってみることがあってもいい。

 その中で何を見付けられるかというのも、当人の意識と資質次第である。

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