ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第79話   怪獣対決

 

「さて、ハガネール! 挨拶代わりだ!」

 

「わわわっ、ピョコっ、なに来るかわかんないけどとりあえず避けて~!」

 

 これまでのジムリーダーと同様に、技の名を明かさない指示を出すトウガンと、それを受けて何が望まれているかしっかり理解しているハガネール。

 対するパールの、よくわかんないけどとりあえず避けての指示を出す稚拙さたるや、バッジ5つ集めてきたトレーナーの姿かね、と。いっそ潔いが。

 こんなパールと一緒に戦ってきたピョコも慣れっこであり、相手の大振り"アイアンテール"を見極め、駆けて鋼の尾先をぎりぎり躱す位置取りまで移っていた。

 少々掠って痛いとは思ったが、大きなダメージにはなっていなさそうだ。

 

「っ、はっぱカッター!」

「――――z!」

 

「ハガネール! わかるな!?」

 

 巨躯による大迫力のアイアンテールと、それをあわやで躱すピョコの姿には、パールも背筋が冷たくなるのだけど。

 怯まず指示、勝つために。ちゃんとピョコの力にはなれている。

 ハガネールは頭と体を動かして、自らの胴体を頭部を守る盾のようにして葉っぱカッターの乱射を受け切っている。

 

 核とも呼べる頭部に比べて、胴体は余程に痛烈な攻撃を受けない限りは致命的にならないのだろう。

 しかし鋼タイプで草タイプの攻撃に耐性を持つハガネールながら、地面タイプを複合しているため、ドダイトスの草技に対する耐性を過信することは出来ない。

 自らの強靭さに驕らず、大切な頭部をきっちりと庇う姿に抜かりは無し。

 

「怖い挑戦者だな……!

 ハガネール、ここは落とさんぞ! 破れば自慢できる相手だ!」

「いけるよ、ピョコ! 頭、狙っていこう!

 はがねタイプがなんだっ、ピョコなら絶対勝てるよ!」

 

「「――――――――z!!」」

 

「キてるな、お互い……!

 気合入ってる……!」

「あわわわ……と、トウガンさんは負けまセーン!

 我々を指導するあの人の強さは本物デース!」

「トリデプスを破ったからって調子に乗り過ぎデース!

 ここから巻き返すのが、我らがトウガンさんデース!」

「さあ、どうかな……!

 パールとピョコのこと、そんな風に甘く見ない方がいいですよ……!」

 

 今の一往復の攻防だけで、ジムリーダーと挑戦者も、そしてバトルフィールドで対峙する巨躯の主役らも、収まりつかぬほどの情熱を燃え滾らせていた。

 未だ未熟さの目立つパールだが、まるで年長者のように自立したドダイトスの戦いぶりは、その頼りなさを問題にせず、むしろ自ら引っ張るほど。

 そしてパールも、ハガネールの弱みの一つが頭部へのダメージだと、推察し、見極め、導き果たさんとしているではないか。侮れようものか。

 

 ピョコも、ハガネールも、これを打ち破れば誇れる強敵であると、重々互いを強く認識したことだろう。

 トウガンとパールの声に対し、空気が震えるほどの咆哮で応えたピョコとハガネールの闘志たるや、観客席の三人に鳥肌を立たせるほどのものがある。

 師たるトウガンの勝利を信じてやまぬ元ギンガ団員の二人や、そんな二人を煽り返すプラチナが、胸を熱くした言葉を交わす根拠と言って何ら相違ない。

 

「いくよピョコ! はっぱカッター!」

「打ち返せ! ハガネール!」

 

 再び飛び道具を放たせるパールとピョコに、ハガネールはその葉っぱカッターを振り抜いた尾ではじきつつ、それをピョコ目がけて振り抜く動き。

 攻防一体、"たたきつける"とも"アイアンテール"ともつかぬ一撃を、ピョコは歩幅の大きな駆け足で避けている。

 元々回避されやすい大味な一撃は、巨体に似合わず反射神経に秀でて駆けるピョコには躱しやすい方だ。

 そしてハガネールの側面位置へと身を移せば、再びハガネールの横顔めがけて葉っぱカッターを発射する。

 ハガネールも前進するように頭を動かして躱しにかかるが、がすがすと数枚のカッターは頬に直撃し、少しハガネールも目を細めている。効いてはいる。

 

「ピョコ、じしん!」

「――――z!!」

 

 すかさず畳みかけるパールの指示に、ピョコが両前足を振り上げてフィールドを力強く叩いた。

 ジム全体を揺らすその地震は、観客席の三人が息を詰まらせるほどの揺れを起こし、パールははなから立つことを諦めて自ら座り込んで。

 屈強かつスコップを杖代わりに出来るトウガンだけが辛うじて中腰で立てるほどの大きな縦揺れは、巨体のハガネールすら全身浮き足立つ。

 

 地に足を着けていないようなこの状態であの大きなドダイトスにぶつかられれば、自身の重さがあり過ぎるハガネールにとっては相当痛い。

 これが"地震"の恐ろしいところだ。地に足着けた戦い方を主流とする、どっしりとした岩ポケモンと鋼ポケモンの打たれ強さを削ぎ落とす技。

 

「いっけえっ!」

 

「ハガネール、こちらもだ!」

「――――z!」

 

 そしてトウガンも、鋼ポケモンのエキスパートとして、元より知れたそのような策に何の対策もしていないはずが無い。

 この揺れの上で人が立てぬように、身体を落ち着かぬほど上下させられた中で、ハガネールはその顎を振り下ろして床を全力で叩いた。

 それによって生じた衝撃波は、フィールド全体に波紋のように勢いよく広がって、ピョコの発した地震にいっそうの揺れを加える。

 それは自身の生み出した揺れの中でなら走れるピョコの足を取り、さらにハガネールの体を揺らし過ぎる振動を一部相殺し、ハガネールの身構えを許す。

 止まってたまるかとそのまま駆け込むピョコの体当たりが、顔面直撃を避けて頭を上げたハガネールの首元に、凄まじい音を立てて激突だ。

 激突の瞬間に頭を引っ込め、甲羅でぶつかる形に切り替えるピョコの判断力も的確であろう。頭をぶつけていくには相手が硬すぎて自分も痛い。

 

「ハガネール、噛み砕け!」

 

「っ……!?

 ピョコだめ~っ! 絶対避けてえっ!!」

 

 激突の衝撃で、ハガネールも身を引きピョコも反動めいた痺れに一歩退がったが、ハガネールが大口を開けて食らいつきにかかる反撃だ。

 あくまでただの"かみつく"か"かみくだく"でしかない一撃に、パールは背筋がぞわっとするような直感を覚え、思わず必死の回避を指示していた。

 甲羅にこもって凌ぐことも考えていたピョコも、あれほど必死なパールの叫びにはすぐに気持ちを切り替えて、素早く後方に退がってハガネールの牙を躱す。

 目の前でがちんと金属音めいた牙の音を鳴らしたハガネールと目が合うピョコ、間近で見たハガネールの殺意めいた目には、ピョコも戦慄を感じていた。

 

「まだだ! ぶつかれ!」

 

 牙の一撃を躱されたハガネールに、近い相手だぞと秒も置かぬ追撃を命じたトウガンにより、ハガネールがその頭を突き出してくる。

 あくまでただの"たいあたり"か"ずつき"に過ぎない一撃だが、大きく重いハガネールのその一撃は、巨体のピョコでも額で受け止め後退するほど。

 そのまま何歩も後退を足して、ハガネールから距離を取るピョコの判断はやや臆病だろうか。

 眼前で、必勝さえ意識して噛みつきにかかってきたハガネールの眼差しを間近で見たピョコが、慎重に距離を取るほどその眼は迫真だったということだ。

 

「ハガネール! そろそろいくぞ!」

「――――z!」

 

「えっ、えっ……!?

 ちょっと……!?」

 

 ピョコが強い警戒心を抱いたことを見受け、トウガンは次の作戦にシフトする。

 ハガネールがバトルフィールドにそびえ立つ四本の太い鋼柱、その中でも今のピョコに最も近い位置のものに直進だ。

 そして蛇が樹木に巻き付いて這い上がるかのように、らせん状に頭を天井に向けて登らせる。

 朝顔の蔓のように全身と鋼柱を一つにしたハガネールが、ぐいと顎を引いて高所から地上のピョコを睨み下ろす。

 

「狙い撃て! ハガネール!」

 

「ピョコ避けて!

 きっとレーザー……って違うぅぅっ!?」

 

 口を開いたハガネールから、てっきりラスターカノンでも撃たれるのかと思ったら、ピョコ目がけて放つそれは紫色の炎。

 正しくは"りゅうのいぶき"。しかし、赤い火よりも強い熱を含んでいそうな炎色ブレスは、パールを大慌てさせるには充分だ。

 ピョコは炎に弱い。竜の息吹が炎に見えれば焦る。

 あれが炎技じゃないことぐらい一目でわかるプラチナからすれば、パールの慌てようにはもうちょっと勉強しようよ感溢れる溜め息が出る一幕でもある。

 まあ、テレビで見る最高峰のポケモンバトルにおいても竜の息吹が繰り出される機会は少ないので、実戦で初見となるトレーナーも多い技ではあるが。

 

「さあ、こちらのターンだ!

 逃がすな、ハガネール!」

「――――z!」

 

「あわわっ……!

 ピョコ、避けて避けて! 今はとりあえず!」

 

 岩場の高所から炎を吐き下ろす竜のように、ハガネールは高い場所に陣取った頭部と口から竜の息吹を発してくる。

 駆けて躱すピョコだが、狙いの良いハガネールの攻撃はピョコの後ろ足など、身体の一部を焼く成果は残している。

 対象からやや距離があるゆえ、回避に徹されると命中精度に多少の粗が出るのだろう。

 その一方で、最も狙いたいハガネールの頭が高く離れた場所に構えているせいで、ピョコの方こそ反撃の手立てに悩ましい。差し引き、状況は悪い。

 

「離れれば安全圏だと思うか!?

 ハガネール、移れ移れ! 追い詰めろ!」

 

「えぇっ、ちょっとぉ!?!?

 そんなでっかいのに身軽なの!?」

 

 逃がさないハガネールだ。

 柱から柱へと跳び移るかのように頭を伸ばし、そのさなか空中で、柱からは遠かったピョコの上空にあたる位置から竜の息吹を吐き散らかしてくる。

 大蛇が樹から樹へと跳び移るかのような挙動にして、宙空でブレスを発して獲物を焼かんとする姿は、さながら伝説上の飛竜の如し。

 跳び移った先の柱にもぐるぐると巻き付いて、守るべき頭部をピョコから遠い場所に保って隙を見せない。

 

「駄目だこれ……!

 なんとか引きずり降ろさなきゃ……!」

 

「ハガネール、まだだぞ!

 徹底的に追い込め!」

 

 広いバトルフィールドだが、これではどこに逃げてもハガネールの射程圏内から逃れられない。

 駆けて竜の息吹によるダメージを最小限に抑えながら逃げ回るピョコも、ぐいと首を上げてハガネールの頭部を睨みつけている。

 はっぱカッターを撃ち込んでも、相手がくいっと頭を動かすだけで凌がれるだけだろう。

 焦ってそうした指示を出さないパールは正しく、トウガンも今は手を緩めるべきではないとハガネールに念を押している。

 対抗策を導き出されるより前に、少しでもダメージを積んでおかねば。

 

「ピョコ、じしんやってみて!」

「――――――z!!」

 

「やはりな……!」

 

 駆け足のまま低く跳躍し、四本脚で地面を打ち鳴らして地震を起こしたピョコに、トウガンも強き挑戦者と戦っている今に心躍る笑みがこぼれる。

 すぐにこの解答に辿り着くだろうとは思っていたのだ。幼く臆病と見える割に、風向きが悪くなったこの戦況を打破する技を選び抜ける強者ではないか。

 

 引っかける所も無いすべすべの鋼柱に巻き付いているハガネールは、いわば全身の握力で柱にしがみついているような状態なのが実状だ。

 人がその手で登り棒にしがみつくのと同様に。

 そんな中でしがみつく柱ごと揺らされては、どんなに力を入れたって隙間が空くたびずり落ちる。

 激しく揺れるフィールド上にあって、いびつな形ながら強引に柱へ巻き付いていたハガネールが、高度を保てず床に近付いてくる姿へ既にピョコは駆けている。

 

「いっけえっ! ぶつかって!」

 

 柱にしがみつけず頭を下げてきたハガネールの頬に向かって、ピョコが地を蹴り跳びかかるような体当たりだ。

 頭を引っ込め、甲羅という名の砲弾でぶつかっていった一撃に、受けたハガネールものけ反るように頭を反らしている。

 地震による揺れでハガネールの踏ん張りが利かなかったこともあり、これは痛烈なダメージとして通ったはず。

 

「まだだ、ハガネール! 尻尾を引け!」

 

 それでもトウガンはハガネールに反撃を急がせた。いま相手に好き勝手な追撃を許してはまずい。

 柱に巻いていた胴体をほどき、太い尾先を操って、強烈なアイアンテールをピョコの側面からぶつけてくるハガネール。

 さすがに痛烈だ。硬い甲羅と鋼の塊の激突音は、交通事故のような激しい音で、パール達の耳の奥まで揺さぶってくる。

 

「焼き払え! もう一度行くぞ!」

 

「ピョコ大丈夫!? 頑張ってえっ!」

「ッ――――!」

 

 竜の息吹を吐いてくるハガネールの追撃を、ピョコは少々足にくるほどのダメージでも、駆けてしっかり躱している。

 そのままハガネールは、ピョコから離れた方の鋼の柱へと突き進み、ぐるぐるそれに巻き付いて上がるようにする。

 再び高所からピョコを見下ろす形になり、息を吸うような仕草はブレス放射の予備動作。

 

「もう一回地震!」

「――――z!」

 

「ハガネール! わかるな!?

 ブレスもだぞ!」

 

 登られれば引きずり下ろす、パールの判断に間違いは無い。

 だから、トウガンもそう来るだろうと最初からわかっている。そして、ハガネールも。

 具体的ではないトウガンの指示、それでもここでどうすべきなのか、最短の指示と自己判断で見定められる、ハガネールの賢さが最も脅威的。

 

 柱にしがみつけなくなった体を早々にほどき、長い体の尾先でピョコを突くかのように下半身を伸ばしてきたのが第一の反撃。

 地面を揺らされ降りてくるハガネールに向かって突き進もうとしていたピョコを、真正面から迎撃するかのような一撃だ。

 これをなんとか躱したピョコはなおも突き進むが、高い位置からずり落ちてきつつある中で、ハガネールは竜の息吹をピョコへ放つことを怠らない。

 二枚重ねの迎撃に、竜の息吹こそなんとか横っ跳び気味に凌いだピョコだが、ずしんと一度顎を床に降ろしたハガネールへの接近が止まってしまう。

 

「捕えろ! ハガネール!」

 

「えっ!? あっ!?」

 

 ピョコの当たらなかったハガネールの尾、しかしそれはなおも進み、動き、ピョコの周囲広くに輪を作るように曲がっていく。

 そして獲物を捕らえる投げ縄の輪のように、ピョコを中心に一気にその輪を縮めてくるのだ。

 長い鉄蛇ボディでピョコに巻き付き、動きを止めるための行動だとパールが気付いても、回避手段を閃くには時間が無さすぎる。

 ピョコの巨体と低い跳躍力で、ハガネールの太い体は飛び越えられない。

 

「っ、ピョコ~! なんとか……」

「――――z!」

 

「なに!?」 

 

 じゃらららと激しい音を立てて自らを締めにかかろうとするハガネールの胴体を、自ら駆けだしたピョコは思いっきりかち上げた。

 頭を下げ、鋼の大蛇の体を頭で殴り上げるようにして、甲羅に映える樹木の高さ以上にまで跳ね上げると、その下へ潜り込むようにしてくぐり抜ける。

 ハガネールの胴体が作った輪から免れると、パールの方を一瞬見て、すぐにハガネールの頭部を睨みつけるピョコは、パールを導くことも忘れない。

 

「っ……! じしん!」

「――――――z!!」

 

 そうそう、待ってたその声を、とばかりに低く跳んだピョコが、四本足で着地した瞬間に全方位へ放つエネルギー。

 激しい揺れがハガネールの全身を、頭部も含めてバランスを保たせず、そのまま突き進んでいくピョコの体当たりがハガネールにぶち当たる。

 顔面直撃はまずい、と辛うじて頭を振り上げたハガネールだが、喉元にあたる場所へ頭を引っ込めたピョコの甲羅が激突する衝撃は痛烈だ。

 揺れる地面のバランス悪さも手伝って、真上を向いたハガネールの体が後方にぐらつき、そのまま後頭部から地面に倒れ込んでいく寸前ですらある。

 

「ピョコ来るよ! 退がってえっ!」

 

「しっかりしろ! 反撃だ!」

「――――ッ!!」

 

 やったか、と思ったのは苦しい戦いの中にあるピョコだけだ。早く勝ちたい、希望的観測が少し湧く程度にはピョコだって苦しい。

 それでもハガネールの目と身体が死んでいないことをちゃんと見ているパールの指示が早い。トウガンの指示よりもだ。

 それによって正しい現実を突きつけられるピョコの眼前、ぐいっと顎を引いてピョコを見下ろすハガネールは、竜の息吹を吐き出してくる。

 

 近すぎて元々完全回避は出来ない。紫色の炎がピョコの全身を焼き包む。

 それでも、一瞬でも早く逃げるべき局面だと思い出していたピョコの初動が早く、焼き続けられる時間は最小限に抑えられたとも言える。

 竜の息吹から逃れたピョコが、げはっと苦しそうな息を吐く中、ハガネールもブレスを吐き続けるのは苦しいかのように、べはっと荒い息を吐いてしまう。

 こちらも喉元に痛打を受けた身だ。その上で竜の息吹をすぐさま吐き返したというだけでも、充分過ぎるほどの根性を見せている。

 

「っ、ギガドレイン……!」

 

「5度目だな……!

 最後のギガドレインだろう!?」

 

「やっぱりバレてるか……!

 頑張れ、ピョコ……! パール……!」

 

 甲羅が目に見えて上下するほど息が荒くなっているピョコに、パールが少しでも立て直せるようにと指示を出す。

 ギガドレインは、一度のバトルで何度も使える技ではない。5回が限度、というのが一般的な目安だと、トウガンもプラチナも知識で知っている。

 一番それをよく知っているパールにとって、見抜かれていること以上にその事実は重い。もう、ピョコの体力を回復させる有力手段が無いのだから。

 

 メガドレインでは効果不足だ。そして"こうごうせい"も、このバトルでは使いものにならないであろうという事情がある。

 光合成は、技の完遂までしばらく動かずじっとしなくてはならないからだ。

 危険な大技を一つ持っている気配のあるハガネール相手に、今日この技は使えない。

 

「行け! ハガネール!

 勝負を決めにいくぞ!」

 

「ピョコ駄目だよ! 絶対それだけは受けちゃ駄目えっ!」

 

 ぐばぁと荒い息一つ吐いて体勢と呼吸を取り戻したハガネールが、それに際して開いた口のままピョコに襲いかかってくる。

 ただの"かみくだく"ならまだ良いが、あれは単なるそうした攻撃ではないと、パールはなんとなく察している。

 ピョコが弱っている今のように、当てられそうだという時にしかあの攻撃を仕掛けてこないのだもの。必殺技の気配がしてならない。

 かろうじて身を逃がすピョコのすぐそばで、ばきんと顎を噛み鳴らすハガネールの、これさえ当てられればと惜しむ眼もそれを物語る一幕か。

 

「まだだぞ! 撃ち込め!」

「――――z!」

 

「はっぱカッター! 頑張れピョコ!」

「ッ、ッ――――!」

 

 噛みつく攻撃がはずれれば、すぐに首を動かしてピョコへ竜の息吹。

 近いがそう来るとわかっていれば、ピョコも動いて半身を焼かれるだけのダメージになんとか抑える。それでも熱く、きついのだが。

 その眼は闘志を失っていない。葉っぱカッターでがすがすとハガネールの顔面を打ち据え、畳みかけんとするハガネールの猛攻を挫きつつダメージを積む。

 

「じしん!」

「こちらもだ!!」

 

 両前脚を振り上げたピョコが地面を叩くのと、ハガネールがその顎を振り下ろして地面を叩くのはほぼ同時だった。

 両者が起こす、地を揺らすエネルギーは今日最大に地面を揺らし、スコップを杖代わりに出来るトウガンさえ片膝をつくほど。

 そんな互いが起こした凄まじい揺れの中、敵に向かって突き進むピョコの全身とハガネールの頭部が、真正面からぶつかり合う。

 直撃寸前に頭を引っ込めたピョコの甲羅と、石頭以上の頑丈さを誇るハガネールの正面衝突は火花すら起こし、激突音だけで肌がびりびりするほど壮絶だ。

 

「~~~~~~ッ……!」

「――――ッ、ッ……!」

 

 両者たじろぐように後退するが、頭を出したピョコも、のけ反りかけた頭部をぐいと引き戻すハガネールも、再び相手を睨みつける。

 どちらも痛過ぎて片目が開けられていない。両目開いた眼光半分の迫力。

 それでいて、きっとパールがそれに真正面から睨まれでもすれば腰を抜かすであろうほど、その眼力が放つ不屈の闘志は凄まじい。

 両者の横顔を見ただけで、観客席のプラチナがぶるっとするほど、この一戦に懸けるピョコとハガネールの執念には只ならぬものがある。

 

「「――――――――z!!」」

 

「ピョコ……!」

「むうぅ……っ!」

 

 大気まで震わすほどの咆哮をあげたドダイトスとハガネールが、トレーナーの指示も仰がずして、両足や顎を振り下ろして再び地を揺らす。

 一度目の余震が残る中で、再度加えられた地震エネルギーはいっそう地を揺らし、ピョコとハガネールが再び全力駆け。

 額と甲羅の頭の部分をぶつけ合う二人は、開いた片目で至近距離で一瞬睨み合い、折れぬ闘志を突きつけ、受け止め合う。

 

 意地めいた消耗覚悟のぶつかり合い、己の甲羅か顔面にヒビでも入ったかと思うほどの苦痛に表情を歪めながら、よろよろと退がった両者の目。

 一瞬のみ、気絶しかけたかのように遠い目すらしたものの、その執念で意識を引き戻し、ばちりと両目を開いて相手を睨みつける。

 絶対に負けたくないのだ。

 自身の敗北がトウガンの敗北そのものであるハガネールも。

 悔しい悔しい敗北を一度経験したパールに、あの日のことさえ良い思い出に出来るぐらい、今日は最高の結末を掴ませるんだと腹を括ったピョコも。

 負けられない気持ちに戦況など関係ない。ひとつひとつの戦いが当事者にとってはすべてだ。後があるかどうかなんて関係ない。

 

「負けたくないんだな、ハガネール……!

 嬉しいぞ……!」

 

「っ、っ……ピョコ!!

 勝とうね! 絶対! ぜったい、ぜったいに!」

 

 自分達の指示を無視して、意地っ張りの地震と激突を重ねたポケモン達を、咎めるトレーナーは一人もいなかった。

 勝ちたい、負けさせたくないと、これほどまでに強く想ってくれるパートナーの気持ちを見せつけられて、嬉しくないトレーナーがどこにいるだろう。

 年甲斐もなく熱くなる目頭を押さえるトウガンも、この揺れの中にあって、なんとか立ち上がろうと努め始めたパールも。

 単なる自分の勝利ではなく、パートナーと一緒に勝利を掴み取りたいという想いをいっそう強め、持てる全てを尽くさんとする想いに駆られるというものだ。

 パールのような経験の浅いトレーナーに限った話じゃない。時にポケットモンスター達は、ジムリーダーのような練達者さえ導くほどの力がある。

 

「いくぞ、ハガネール!

 一気にカタをつける!」

「――――――――z!」

 

「うぁ……!? な、なに、なに……っ!?」

 

「"すなあらし"か……!」

 

 天井を見上げて今一度の大きな咆哮を発したハガネールの周囲から、多量の砂がまき上がって渦を巻く。

 それがバトルフィールドいっぱいに拡散し、あっという間にフィールド全体が砂嵐の吹き荒れる世界へと一変だ。

 揺れがおさまってきてなんとか立ち上がれたパールも、腕で顔を覆うようにして吹き荒れる風と砂を防がずにいられない。無論、トウガンもだ。

 そんな砂嵐のど真ん中にいるピョコとハガネールが、パールやトウガン以上に視界最悪の、過酷な世界に身を置いていることなど語るべくもない。

 

 ピョコもハガネールも、間もなく限界が近付いているほど消耗しているのは、誰の目にも明らかだった。

 そんな激しい消耗戦を経て辿り着いた、さらなる苛烈な砂嵐に支配されし戦場。

 これが、6人目のジムリーダーとの戦いだ。この苦境を乗り越える強さを問われし、過去最高の試練である。

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