ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第8話    クロガネシティ

 

「ダイヤっ、絶対離れないでよ!? 絶対だよ!?」

「もう~、そんなにくっつくなよぉ。

 歩きにくいだろ」

「や~だ~! あんた離したら先にすたすた行っちゃうもん!

 ズバットいない!? 周りちゃんと見ててよ!?」

「わかってるってば、来てないってば」

 

 クロガネゲートは抜けきるまでそんなに長くないのだが、パールがダイヤの腕にぎゅうっとしがみついており、なかなか進まず抜けきるまで時間がかかる。

 ズバットの棲む場所だと確定したら、パールはすっかりびびってしまい、周りを見回すのに忙しい首、震えっぱなしで遅い足。

 捕まっているダイヤも足並みを合わせねばならず、なかなか進まない。

 こんな所さっさと抜け出したいとパールは思っていそうだが、彼女が進みを遅らせているという本末転倒ぶり。

 

「3歳の時、ズバットに襲われてシンジ湖に落ちたんだっけ?」

「そうそう、あの時は本当に死んじゃうかと思って……

 それからずっと、コウモリがダメになっちゃって……テレビで見てても無理」

 

 怖がってばかりのパールの気を紛らわせようと、ダイヤはとっくに知っている話を敢えて振って会話を作る。

 パールとダイヤは今より小さい頃、お互いの家に遊びに行くような関係でもあったのだが、本当にパールはテレビ越しでもコウモリを見ると取り乱す。

 ズバットが映ると、小っちゃな頃は目に涙を溜めて怖がり、6歳ぐらいの頃には目を覆うかテレビの前から逃げ、今でもテレビから顔を逸らす。

 その一方で、ホラー系の番組なんかは、どきどきしたりたまに短い悲鳴をあげたりもしつつ、何だかんだでちゃんと最後まで見れるパールだったりもする。

 それほど彼女にとって、命を危ぶめられたコウモリポケモンというのは、心に根深いトラウマとなっているようだ。

 

「まあ、"あの人"が助けてくれたから助かったんけど……」

「そっちは未だに顔も思い出せねーの?」

「私だっていっぱい水飲んで、意識朦朧だったんだもん。

 全然思い出せないよ、そもそも顔も見えてなかったんだからさ」

 

 そのシンジ湖に落ちたパールを助けてくれた誰かというのが、その日よりずっと彼女が"思い出の人"と称する、顔もわからぬ想い人。

 何とかして再会して、あの時はありがとうございましたと伝えたい人である。

 パールがポケモンリーグを目指し、有名になりたいと思ったのも、そもそも有名になった場で自分の過去を打ち明け、"あの人"に自分の声を届けたいからだ。

 命の恩人であり、彼女が旅に出ることを志したきっかけを生み出したとも言える、パールの人生に只ならぬ影響を与えた人物と言っていい。

 

「はぁ~……会いたいなぁ……

 ダイヤよりずっとかっこよかった人」

「あっ、そんなこと言うなら振り切って逃げるぞ」

「だめだめごめん、許して許して。

 一人にしないで、一人にして逃げたら一生うらむ」

「うらまれる」

「うらむ」

 

 金色の思い出を脳裏に描けばちょっとは元気が出たか、パールも多少の軽い掛け合いが出来るようになってきた。

 でもダイヤの腕にしがみつく力は全力。一人にされたくない。

 自分が忘れられているような気がして、ピョコがものすごい目でじとーっとダイヤを睨んでいる。

 うちのパールを取るな、とでも妬いているのかもしれない。

 パールはそんなピョコにも気付かないほど余裕の無い有り様だが、ダイヤは刺すような視線に気付いていてなんだか気まずい。

 早くクロガネゲートを抜けてしまいたい。色んな意味で。

 

「あっ、ほら、見えてきたぞ出口。

 もう走らね?」

「あ、う、うん、もう急ご?

 ごめんねダイヤ、ありがと」

「よーし行くぞ!」

「わっ、ちょ、もう~! 置いていかないでよぉ!」

 

 ゴールが見えたのであとは走っていこうと提案するダイヤから離れたパールだが、すぐさまダイヤは突っ走ってしまう。

 ずっと捕まっていて焦れていたせっかちと、置いていかれるのが嫌な女の子。

 なんか俺ほんとに忘れられてるなぁと溜め息をつくピョコを、ぽんとヒコザルが肩を叩くように手を添えて慰めていた。

 こちらでも密かに、男の子同士の友達関係が出来つつあるのを、ダイヤとパールは今のところ知る由もなし。

 

 駆けだすピョコとヒコザルは、ダイヤとパールにじりじり追い付いて、概ねみんなで揃ってクロガネゲートから出る形に。

 トンネルを抜ければそこはクロガネシティ。

 ジムへの挑戦を志すパールとダイヤが目指す、最初の目標地点である。

 

 

 

 

 

 クロガネシティは、炭坑で栄える町として有名だ。

 町の南に広がるクロガネ炭坑は、一般人にも見学が許されており、町の賑わいに一役買っている側面もある。

 そこで採掘される潤沢なエネルギーにより夜でも明るく、シンオウ地方最大の都とも称されるコトブキシティとはまた違う趣で人の集う都市の一つである。

 

「ダイヤはここ来るの初めて?」

「おう。パールもか?」

「砂っぽいよね。

 なんかまだクロガネゲートの中を歩いてる気分だよ」

 

 生まれて初めてクロガネシティを訪れたパールとダイヤは、ざりざりと鳴る自分達の足音と、靴の裏から伝わる砂の実感を得ながら歩いていく。

 道路が整備されたコトブキシティや、緑溢れる道脇に細かい砂地の道を敷いたフタバタウンやマサゴタウンと異なり、クロガネシティの歩道は確かに砂っぽい。

 平たく均した地面に粗い砂粒が目立ち、躓いて転んだりしたら硬くて痛そうな印象を受け、町の中の公道でありながら獣道のようにも感じられる。

 歩いて得られる感触は、確かにパールが言うとおり、先ほどのクロガネゲートを歩いていた時とあまり変わらない印象だ。

 

「見たこと無いものが結構あるなぁ。

 何だろコレ?」

「えーっと、炭坑の地下通路の空気を入れ替える通気口だってさ。

 時々地下からの蒸気が出てくることもあるみたいだから、あんまり近付かない方がいいよ」

 

 道の脇にはいっそうじゃりじゃりした地面が広がっており、そこには所々金属製の土管のようなものがいくつか整立している。

 近くにはそれが何かを説明する看板が立っており、初見のパール達にもそれが何かわかるように説明されている。

 町の南のクロガネ炭坑の地下深くと繋がっているようで、しばしば採掘に働く機械が発する熱蒸気が噴き出すこともあるので、近付き過ぎるとあまり良くない。

 蒸気はこの通気口を通ってくる過程でいくらか冷却されるそうだが、それでもまともに浴びれば熱い。

 

「へぇ~、じゃあコレは地下に通じてるんだ。

 おーーーーーいっ!」

「やめようよ、恥ずかしいじゃ……」

「って、わあっ!?」

「はわっ!?」

 

 離れた地下まで繋がっているというこの通気口を見て、思わずその通気口に顔を近付けて大声を出してみるダイヤ。

 期待はしていないけど返事が返ってきたら面白い、なんて思いながらのイタズラだ。

 しかし、偶然ながらそれに呼応するように、その通気口から真っ白な熱蒸気がぶしゅーと発射された。

 安全な程度に冷却された蒸気は、火傷するほど熱いものではないが、思いっきり上半身全体で受けてしまったダイヤはのけ反って離れてじたばた。

 浴びなかったパールだって、傍から見ていてびっくりするぐらいの真っ白で大量の蒸気だった。

 何せ蒸気に包まれたダイヤの顔が、一瞬完全にパールの前から消えたほど。

 

「も~、バカなことしてるから」

「うへええ、しっとりしちまった」

 

 水分を多く含む蒸気を浴びてしまったことで、大量の霧を吹きかけられたようになった顔を拭うダイヤと、呆れながらも笑うパール。

 そんなやりとりを交わしながらクロガネシティを歩く二人は、ひとまず町を歩いていく。

 炭坑で栄えた町らしく、炭坑博物館と呼ばれる施設もあり、この辺りも気が向いて訪れてみれば面白そうだ。

 観光客を呼び込む一因にもなっているようで、道行く人々の数々の中には、きっとこの町住まいでない人も多いだろう。

 コトブキシティのように都会的な町ではないながら、人の活気に溢れた景観は、"タウン"ではなく"シティ"と呼ばれることへの説得力を強めるものだ。

 

「さぁーて、ジム行くか!

 パールも来るだろ?」

「や~、私は今日はいい。

 ポケモンセンターで一日休んでから行く」

「えっ!? なんでだよ、すぐ行こうぜ!」

「疲れたよ~、さっきほんとにびっくりしたんだから」

「ああ、ズバット疲れか。

 なんだよあれぐらいで、ちょっとびっくりして騒いだだけじゃん」

「私はきっついの、ちゃんと見てよほら、今でも立ち止まったら」

「あっ、ホントだ足震えてら。ぷぷ」

「その笑い方むかつくっ」

 

 ひっぱたく手を当てない程度に振り抜くパールの攻撃を、ダイヤはけらけら笑いながら避ける。

 さっきクロガネゲートで遭遇したズバットにパニックを起こしたパールは、どうやらあれだけで随分と疲れたらしい。

 あの後、いつまたズバットと遭遇するかで神経をすり減らしながらゲート内を歩いたことも疲れの一因だろう。

 本当にパールは、傍目が勝手に想像する以上にコウモリが怖いのだ。

 今でも当人が言うとおり、立ち止まったら体を支える二本の足が、少しだけ小刻みに震えているほどである。根深い恐怖がしばらく焼き付くのだ。

 

「しょうがないな~、じゃあ俺一人でジム行ってくる!

 お前もすぐにジム戦勝って、俺に追い付いてこいよ!」

「わかってるわよ。

 あんたこそ、とっくに勝つつもりでいるのはいいけど、負けないように気を付けなさいよ」

「もちろんだってば! じゃあな!」

 

 行くと決めたらダイヤってば行動が速い。

 パールと一緒に並んで歩いている時は足並みを合わせてくれるが、一人になったらすぐ走る。

 あっという間に駆けていったダイヤは、見送るまでもなくすぐパールの目の前からいなくなってしまった。

 

「さて、と。せっかくだし」

 

 パールもダイヤと同じで、ジム巡りをするためにシンオウ地方を巡る旅に乗り出しているが、ダイヤほどはせっかちではない。

 せっかく初めて訪れる町なのだ。ちょっとぐらい、色々見て回りたい。

 ジム戦で勝利して、次なる町へと出発することになれば、ここを再び訪れるのはいつになるかわからない。

 見て回るのであれば今のうち。二度と来ないわけではないとはいっても、町との出会いも一期一会だ。

 

 炭坑博物館を覗いてみて、石炭がどのようにして生まれるかなど、初めて知ることにへぇ~と思って楽しんだり。

 クロガネ炭坑の浅い場所を見学してみて、地下で発掘した石炭を地上まで運ぶ大きな機械を見上げて圧倒されたり。

 炭坑も地下まで潜ると野生のポケモンが出てくるそうなので、そこまで踏み込むのはやめておいた。

 時々ズバットが出てくることもあると聞いた時点で、パールに地下炭坑まで見学してみるという選択肢はなかった模様。

 もしかしたら、一生行く気はしないかもしれない。

 

 日が沈んできたのを見受けて、パールはポケモンセンターに向かい、そこで一夜を過ごした。

 夜になっても潤沢なエネルギーで明るく照らされるクロガネシティだが、パールはそもそも夜があまり好きじゃない。

 ズバットが活発になる時間帯だからである。町の中まで野生のズバットが飛んでくることはないけれど、それでも連想してしまう以上は夜が好きになれない。

 早寝、早起き。我が家以外での夜更かしは苦手。パールはそんな子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええっ、ジムリーダーさんいないんですか?」

「そうなんだよ。

 "ヒョウタ"さんはクロガネ炭坑に行ってることが多くてね」

 

 さて翌朝。

 気合を入れてクロガネジムへと赴いたパールだったが、さっそく問題発生だ。

 9時にジムを訪れて、入ってすぐの場所にいる受付の男性に話を伺ったところ、どうやらジムリーダーのヒョウタは不在の模様。

 

 元々こういうことは多いらしい。ポケモン達と共に炭坑での採掘を手伝ったり、あるいは単に珍しい石を探しに行ったり。

 地下深くまで掘られたクロガネ炭坑、ごく稀にだがポケモンの化石が発掘されることもあるようで、ヒョウタにとって炭坑潜りはライフワークに等しいそうだ。

 

 ジムリーダーがジムを留守にしていていいのかと時々言われるそうだが、かといって、極論ずっとジムにいなきゃいけないというのも少々酷な話でもある。

 毎日朝から夕方までずっとジムで挑戦者を待ち続けていなさい、なんて、ひどい拘束時間になりそうだ。

 趣味の時間もありませんでは、誰もジムリーダーなんてやりたがるまい。

 

「いつぐらいに帰ってきそうだとか、わかりませんか?」

「夕方にもなれば必ず帰ってくるけどね。

 ただ、待ちたくないならクロガネ炭坑に会いに行けば早いよ。

 挑戦したいんです、って言えばヒョウタさんもすぐに帰って来てくれるから」

「ん~、そうですか……」

 

 さて、パールにとっては悩ましい話になってしまった。

 話の流れから察するに、ヒョウタがいるのは地下炭坑。

 会いに行けばすぐジム戦をして貰えそうだが、その地下炭坑とやらにはズバットが生息している。

 あんまり行きたくない。夕方まで待つのも充分選択肢。

 

「あっ、そうだ。

 昨日、夕方かそれぐらいの時間帯に、私と同じ年ぐらいの男の子が来ませんでした?」

「昨日? えーっと……せっかちそうな子?

 やたら早口だった男の子なら来たよ」

「えぇと、その子ってヒコザル連れてました?」

「ああ、そうだね。知り合い?」

「多分そうだと……ちなみに、ジムリーダーさんには勝ってました?」

「勝ってたよ、随分苦労してたようだけどね。

 ヒョウタさんも筋がいいって褒めてたな」

「うぐぐ……」

 

 しかし困った。

 恐らくそれはダイヤであり、昨日ここのジムリーダーに勝利し、次なる地へと出発したのだろう。

 そもそも昨晩、ポケモンセンターに帰ってこなかった時点で、もしかしたら勝っちゃったのかなとはパールも思っていたのだけど。

 負けていたら、もう一日以上この町に滞在するために、ポケモンセンターに泊まりに来そうなものだから。

 帰ってこなかった時点で、ジム戦をクリアして、あのせっかち足でとっとと町を出発したとしか思えない。

 

 こうなってくると、パールもなんだかのんびりしていたくなくなる。

 夕方にジム戦、仮に勝ったとして、夜のクロガネゲートを再びくぐって帰るなんて出来ない。夜はズバットが多くなるらしいし。

 勝ててもこの町を出発するのがダイヤより二日も遅れるとあっては、あいつにどんどん置いていかれそう。

 それでいつの間にか追い付けないほどの差をつけられでもしたら悔しくなっちゃう。実はパール、対ダイヤに関しては負けず嫌いなところがあるようだ。

 

「わ、わかりました……ヒョウタさんに会いにいってみます」

「そうか、そうするといいよ。

 ……あ、でも君、ヒョウタさんに挑戦するつもりなんだよね?

 だったら先に、ジム生の子達と先にポケモンバトルしておくかい?」

「ジム生さん?」

「ヒョウタさんに挑戦するほどの腕があるか、先にジム生の子達と勝負してみることを推奨してるんだ。

 しなきゃいけないわけじゃないけど、君もポケモンバトルの経験が積めていいんじゃないかな」

 

 ジムごとにしきたりは異なるのだが、いくつかのジムではジム生とされるポケモントレーナーが、挑戦者の腕を確かめる試験官めいた立ち位置を務める。

 言い方を変えると、俺に私に勝てないようじゃうちのジムリーダーには挑戦させませんよ、という人達。

 クロガネシティでは挑戦者にそれを強制していないようだが、今後も考えればそれを経験しておくのも良いのでは、というのが受付の男性の言うところだ。

 

 せっかくなので、パールはその話を受け、ジム生のポケモントレーナー二人とポケモンバトルをするに至った。

 さっそく炭坑に、と赴くには、ズバットとの遭遇の恐れから僅かに躊躇も残っていたので、ちょっとした気分転換を兼ねたところもありそうである。

 

 

 

 

 

「パッチ、大丈夫?

 けっこう大変だったでしょ」

「――――」

「ジム生さんのポケモン、強かったよねぇ。

 ジムリーダーのヒョウタさんは、あれよりもっと強いんだもんなぁ」

 

 さて、ジムでのバトルを二戦終えて、パールはクロガネ炭坑に訪れた。

 地下に入る前の露天地帯をパッチと共に歩き、話題はさっきのジム生とのバトル。

 

 流石にジムで本格的にポケモンバトルを練習しているトレーナーの皆様方、自分と同じ年頃か年下だというのに、今まで戦ってきたトレーナーとは力量が違う。

 ポケモンは強く、指示も早く、パールは相手のポケモンの淀みない動きにわたわたすることが多かったほどだ。

 はっきり言って、ピョコとパッチが強かったおかげで勝てただけである。

 パールも今ちょっと気にしているぐらい、頭が追い付かず指示もあまりしてあげられなかったことが、自分の経験不足を知るきっかけになっている。

 へこみ気味なパールだが、先にやっておいてよかったとは言えるだろう。反省点は早めに知れておくに越したことはない。

 

「でも、知ってるようでわかってなかったけど、ポケモン同士の相性って大事だね。

 ごめんねパッチ、無理させちゃった」

「――――」

「岩タイプのポケモンに、普通に体当たりさせるばっかりじゃダメなんだよね。

 私がもっとしっかりしなきゃ」

 

 得られたものはもう一つある。

 一人目のトレーナーとの戦いは、パッチと相手のイシツブテとの戦い。

 今のパールが知るパッチの唯一の攻撃手段である"たいあたり"は、岩タイプのイシツブテには大きなダメージを与えづらい。

 その認識が甘いパールの未熟な指示は、パッチに体当たりの指示を繰り返すだけで、勝負を長引かせることに繋がってしまった。

 勝負が長引けば相手の反撃も増える。パッチが受けるダメージも増える。

 勝つには勝ったが、勝利後のパッチが息を切らしていた姿に、パールの胸は申し訳なさでちくちく。

 自分の指示がなっていなかったことを、その結果から思い知らされて二重の意味でショックでもあった。

 

 一方で二戦目は、ピョコの"すいとる"攻撃が、相手のイシツブテとイワークの二体を次々と仕留める快進撃。

 岩タイプにはよく効く攻撃なのだ。

 パッチがあれほど苦戦したイシツブテをあっさり下すばかりか、続く勝負もあっさり勝利した結末から、パールもタイプ相性の重要性を肌で感じただろう。

 知識としては持っていたことでも、いざ実戦で経験してみれば、本当に大事なことなんだなと思い知るというものだ。

 それを痛感できただけでも、ジム生二人との勝負に大きな意義があったと言えるはず。

 

「ジムリーダーさんとの勝負はピョコに頑張って貰うから……

 パッチは、炭坑で私を守ってね」

「――――♪」

 

 傷薬で先ほどの戦いの傷を癒して貰って元気になったパッチは、先ほどからパールに謝られても、気にしなくたっていいよと微笑んでくれる。

 まるで戦力外通告をするようで気が引けることを言うパールにも、パッチはわかった、炭坑では任せてと意気込んで鼻を鳴らしてくれる。

 "おっとりとした性格"で、嫌な顔一つしない。優しくていい子だな、と感じるパールは、こんな子にさっき無茶をさせたんだなぁと再び胸がちくちく。

 

 もっともパールだって、先のジム戦でパッチが負った傷を、無料で癒してくれるポケモンセンターに行くでもなく、傷薬を使ったりもしているのだが。

 引け目があったから自分で傷を治してあげたかったというところだろう。

 申し訳なさそうに、消耗品を使ってでもいたわってくれるパールの姿に、パッチもその気持ちは伝わっているのかもしれない。

 

「よ~しっ……!

 いくぞ~! たんこう!」

「――――♪」

 

 周りに人もいるのであまり大きな声は出さなかったが、パールは恥をかかない程度に強い声で地下炭坑への階段を降りていった。

 ズバットに遭う"かもしれない"というだけで、毎回気合を入れなきゃ足が気持ちについていかないようだ。 

 余程に、相当、苦手なのである。想像しただけで身が震えるほどにだ。

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