「な、なんだかすごい技デース!
これがトウガンさんの切り札、大技デスか!?」
「だとしたら、もうトウガンさんの勝ちデース!
本気を出したトウガンさんに、あんな子供が勝てるわけありまセーン!」
「"すなあらし"って、ドダイトス相手に有効じゃないはずなのに……?
これって……」
観客席の元ギンガ団員の二人は、やはりトウガン親分の勝利を疑っていない。
プラチナは冷静に、砂嵐の真意を考察中。砂嵐は、耐性の無いポケモンに対し、バトルフィールドにいるだけでダメージを蓄積させる技だ。
しかし使い手のハガネールは勿論としても、ドダイトスであるピョコも砂嵐に対する耐性は持っている。
この砂嵐は、ハガネールだけに大きな優位性を持たせるものらしくはない。バトルフィールド上のぶつかり合いにおいてのみは。
「いくぞ、ハガネール!
まずは狙い撃て!」
「うぅっ……ピョコ、相手は見える!?
なんとか避けてっ……!」
「…………!」
やっぱり、とプラチナも感じたが、パールの視界の悪さが鍵なのだろう。
砂嵐の範囲外である観客席からは、砂塵に溢れる中にもピョコとハガネールのシルエットは何とか視認できる。
一方で、自身も砂嵐の渦中にあるパールの視界は非常に悪い。ピョコとハガネールの位置だけでも、薄目の間から確かめるので精一杯。
漠然として、具体性に欠き、自信の無い指示を発する声からも明らかだ。
砂嵐の中に身を置いているトウガンも同様の状況であるはずだが、使い手側の彼は元より慣れと心構えもあり、視界が悪くても的確な指示が出せるのだろう。
敵にも味方にも自分にも悪影響を与える技は、断じてアドバンテージ双方プラスマイナスゼロの戦術ではない。
的確な場面でその戦術を選べるなら、選択権の無かった相手にのみ大きな不都合をもたらせる。使い手の腕を問われる戦法であり、トウガンにはその腕がある。
竜の息吹が放たれる音はパールの耳にも届いたはず。
砂嵐の中にあっても、ハガネールがピョコを見て攻撃できるように、ピョコも相手の動きを見て凌いでいる。
だがその竜の息吹はあくまで牽制。ピョコに回避行動を強いながら、再びハガネールは"まずは"の次に暗喩された指示に従い、柱に巻き付き登っていく。
がらがらじゃらじゃらという音が、地を這うものでなく高さを得た気配から、パールも何とかその実状を聞き取ることは出来ているはず。
「ピョコ、じしんっ……!」
「――――z!」
「やっぱり、指示が……!」
パールの指示自体は間違っていない。だが最速でなく、僅かにベストスピードではないのだ。
この遅れが良くないことはプラチナも感じているようで、ピョコも風向きの悪さを感じ取っているだろう。
地震発生が遅れれば遅れるだけ高い位置に登れたハガネールは、ピョコの起こした地震で柱が揺れだすや否や、あっさり体を柱からほどいた。
そのまま全身で地面に落ちてきたハガネールは、体全部で地面を打ち鳴らす形で、ピョコの地震に対抗する揺れを返す。
ピョコだって、自分が起こしたものでない地震の反撃には足を取られるのだ。それも、自分が起こしたものより大きな揺れ。
揺れに身構えられずに足をとられ、お尻を打ち付けたパールの小さな悲鳴も、ピョコの意識を引きつけてしまう。
「いっ、た……!
ピョコ来てる、来てるからあっ!!」
それでもパールは、砂嵐で目元を庇いながらもしっかり戦場から目を切っていない。
揺れに足を取られたピョコに襲いかかるのは、牙を光らせ噛みつきにかかるハガネール。
なんとか躱そうとしたピョコだったが、とうとう最も恐れていたその牙に、甲羅に噛みつかれる結果へと相成ってしまう。
「…………!?
~~~~~~~~z!!」
「よし……!」
「ああっ、ううっ、ピョコ……!」
草ポケモンのピョコに対して、異常なほどの自信と共に繰り出されていた牙を、パールは"ほのおのキバ"だと最悪想定さえしていたのだが。
現実はもっと最悪だ。ピョコの甲羅に噛みついたハガネールの牙は、内から溢れる冷気を流し込み、ピョコの全身の体温を奪い付くさんとし始める。
その"こおりのキバ"は、草ポケモンであり地面ポケモンでもあるドダイトスにとって、炎以上に大きなダメージとなる究極的な切り札だ。
「~~~~~~~~ッ!」
~~~~、~~~~……!」
「ハガネール、絶対に離すなよ!
そのまま決めてしまえ!」
「――――――――z!」
「んんっ、うっ……!
ピョコ、がんばっ、てえっ……!」
砂嵐の向こうでもがくピョコが発する悲鳴めいた咆哮は、パールでさえ一度も聞いたことのないほど悲痛なもの。
悶絶する叫び声に、耳さえ塞ぎたい衝動に襲われながら、パールは余震の残るフィールド上で必死に答えを導こうとする。
激しく揺れる中で立つこともままならず、頑張れと叫ぶ口に砂が入っても、必死でピョコを生き残らせる手段を必死で探す口は乾かない。
答えを導き出すのが遅れれば遅れるだけ、ピョコの体力は急速にゼロへと近付くこの窮地である。
「っ……ぶつかれえええぇぇぇっ!!」
「ッ――――!!」
時間が無いのだ。これしか閃けなかったけれど。
必死なその声を受け止めたピョコは、ハガネールに噛みつかれたままにして、駆けだし柱へ直行だ。
食らい付いた重いハガネールの頭部を引きずり、冷気を流されながらにして、血走った眼で柱へぶつかる寸前、ピョコはぐいっとハガネールの頭を柱の方へ。
走る勢いそのままで、自身の体と柱で挟むようにしてハガネールを叩きつけたピョコの一撃は、ハガネールの目の前に星を飛ばすには充分な威力だ。
「ハガネール……!」
目の前が白くなりかけながらも牙を抜かなかったハガネールの執念を後押しするように、トウガンもまた離すなという意を含めてその名を呼んでいた。
だが、ぎらりと眼を光らせたピョコが、少し身を捻って柱からハガネールの頭を離すと、すぐさまもう一度体を捻ってハガネールの頭を柱に叩きつける。
たまらず口を開いてしまったハガネールに、牙から免れたピョコは頭をハガネールの顎の下に潜り込ませ、そのまま振り上げ顎を殴りつけた。
がぢん、と金属音の牙音を鳴らしてのけ反るハガネールから、ピョコは力の抜けそうな足をぐっと踏ん張り、なんとか距離を取る。
「メガドレイン、っ……!
ピョコお願い、頑張ってえっ……!」
砂嵐に苛まれる中、足を震わせながらなんとか立っているパールの声に、ピョコは歯を食いしばって戦う意志を貫いてみせる。
確かにもうギガドレインは使えない。メガドレインの回復量では足りない。
それでもパールが自分をボールに戻そうとせず、戦って欲しいと訴えてくれているのがピョコには嬉しかった。心が漲ってくるほどに。
一度目のトウガンとのバトルではお声もかからず、鋼鉄島での特訓の中でさえ、最初からアテにされていなかったようにさえ感じたあの日。
パールの勝敗を左右する大事な局面で頼られる今再びは、どんな百の励ましにも勝り、ピョコの闘志を再び燃え上がらせてくれる事実に他ならない。
俺がパールの最初のポケモンなんだ。親しいパッチやニルルやミーナにさえ、絶対に譲りたくない何かがピョコにはある。
「――――――――z!」
「ハガネール、撃て!
負けられんぞ!」
「――――z!」
取り戻した体力を、砂嵐の中で大量の息を吸って吐く咆哮に費やすことさえ、今のピョコは厭わない。
パール、指示頼むぞ、絶対に勝たせてやる。そんな意志を、打ち付けたお尻の痛みで中腰になっているパールに向けて発しているのだ。
砂嵐に苦しむ表情でありながら確かに小さく頷いたパールの姿さえ確かめられば、それだけでピョコの気力はギガドレイン以上に回復する。
再び自らに差し向けられる竜の息吹、それを凌ぐも足を僅かに焼かれる苦痛さえ、今のピョコには気絶を遠のかせてくれる痛みでさえある。
「じしん、っ……!」
そしてパールも、これ以上ピョコが長く戦えないことはわかっているのだろう。
早く勝負を決めるしかない。守りを捨てた猛攻の戦法へ。
そんな無茶を言ってくれることさえ、勝たせようとしてくれるパールの想いと正しく受け取り、地面を踏み鳴らすピョコの脚の力も漲ってくる。
揺れるフィールドと安定感を崩されるハガネールに、近い距離から突き進んでぶつかっていくピョコの一撃が、ハガネールに痛烈な打撃を与えている。
「ぐうぅ……! なんという……!」
氷の牙で致命的なほどのダメージを受けながら、なおもあれほど戦い抜けるドダイトスの執念には、トウガンも驚愕の念を禁じ得ない。
そして、パールに対してもだ。せっかく立っても自分のポケモンの地震で転ばされ、今度は膝を打ち付けたパールの影が見える。
、それでも揺れる中でなんとか立ち上がろうとする姿こそ、トウガンの目には脅威的に映ってやまない。
意地でも立って、ドダイトスと同じ土俵に立つことを望み、たとえそれで自分が痛い想いをしても、絶対勝ちたいという想いはあまりにも不器用だ。
それだけ必死なことだけは、間違いなく、痛切なほど伝わってくるのだ。砂嵐越しにでも伝わる勝利への執念など、恐れるべきもの以外の何ものでもない。
「ハガネール!!」
「ッ――――!」
持ち直したハガネールの名を呼ぶトウガンの声は、今日一番の大きさだった。
応えたハガネールが口を開き、氷の牙でピョコに噛みつこうとする。
もうこれ以上は絶対にそれを受けられないピョコは、決死の想いでどうにか躱したが、躱したその先で足が次の動きに移れない。
ぐいっとそんなピョコに顔を向けたハガネールの吐き出す竜の息吹は、回避行動に移れなかったピョコの全身を焼き包む。
「はっぱ、カッターっ……!」
ピョコがすぐに動けないことを、砂嵐の向こう側の景色からでもはっきり見極められるパールの指示は、きっとこの場で最善だったはず。
動けなかったピョコは、竜の息吹を突き抜けてハガネールの顔面に向けて葉っぱカッターを放ち、その顔面を散弾銃のように打ちのめす。
流石に怯んでのけ反ったハガネール、竜の息吹がこれによって中断されたことで、ピョコはぎりぎり力尽きる前に踏ん張ることが出来た。
どちらもいよいよ限界間近だ。あと一撃で勝負が決まってもおかしくないと、パールもトウガンも切実に感じているだろう。
「ハガネール、捕らえろ!
ここがチャンスだ!」
「――――!」
なんとか顎を引いてピョコを睨み返したハガネールは、トウガンの言葉にヒントを貰うとすぐに我が身を操った。
地面に広く横たわる自分の体が、今まさに輪を絞ればドダイトスを絞め上げられる形になっていることに気付いたハガネールの動きは早い。
それは意図して配置していた体ではなかったからこそ、戦場真っ只中のピョコですら気付くのが遅れ、ハガネールの身体が迫ってきたことで初めてはっとする。
そして砂嵐のせいで視界の悪いパールもまた、ピョコがそれに捕えられる直前までそれに気付けず、長い鉄蛇がピョコの身体に巻き付く結果がその後に続く。
「あぁっ……!
ピョコ、っ……!」
「とどめだ! ハガネール!」
「――――z!」
一度目は躱されたものの、ピョコに巻き付き縛り上げる形を求めたハガネールの狙いなど明らかだ。
動きを封じられたピョコに確実に当てる必殺技など、どの局面でも氷の牙しかない。
大口を開いてその頭をピョコに向かわせるハガネールは、血走った眼も合わせればまさに死神の形相そのものだ。
「っ、ピョコーーーっ!!
はっぱカッターっ!!」
「ッ……!」
他ならぬピョコさえもう駄目かとさえ思った中で、諦めないで戦うよう訴えてくれるあの声は、その絶望を吹き飛ばしてくれる希望の鬨。
迫り来るハガネールの顔面に葉っぱカッターの乱射を撃ち込むピョコの反撃が、窮鼠の一撃としてハガネールを打ち据える。
確かに痛烈だ。だがハガネールだってここで引き下がれようものか。
突っ込む速度が僅かに落ちただけで、その眼の闘志を一切失わなかったハガネールは、ピョコの顔の横にかぶりつく牙を閉じるその寸前だった。
だが、ほんの一瞬直進速度が落ちたことが、この局面では小さくなかったのだろう。
顔への痛みでハガネールの身体の力が弱まり、僅かにその締め付けが緩んだことにより、ほんの少し強引に動ける瞬間があったピョコ。
まさに自らにかぶりつかれる寸前、ぐっと頭を下げたピョコがその首を振るい、さらに振り上げハガネールの顎を下から殴り上げたのだ。
頑丈な鋼の顎を頭突きでかち上げるのは、ピョコの方こそ頭と首が痛くなるものではあったけれど。
結果、ハガネールはピョコに噛みつくことを叶えられず、その無防備な首元がピョコの目の前にして口を閉じている。
「がっ、頑張ってえっ……!
ピョコっ、かみついてえっ!」
「――――z!」
きっとパールは、自分の指示通りにしてくれたとして、その後どうするかまで思考が追い付いてなどいなかったのだろう。
がんがん攻めて、なんとか勝って欲しい。その一念。
ハガネールの喉元にばくんと噛みついたピョコに、次の指示が飛んでくる気配をピョコ自身感じてなどいなかった。
大丈夫、それでもいい、俺に任せろ。それを補うのが俺だから。
「ハガネール!?」
ハガネールの喉元に噛みついたピョコは、そのまま敵の頭を振り回すようにして、ハガネール自身のボディにぶつけにいった。
頭部も身体も頑丈なハガネールだ。自分の体への頭突きなど、凶器で殴られるのと変わらない。
それによって意識が飛びかけたハガネールの身体からは、ピョコを締め上げる力がいっそう緩み、ピョコはハガネールに食らい付いた口を放さぬまま抜け出る。
柱は遠くない。渾身の力を脚に込め、頑丈な柱へと突き進んだピョコは、力いっぱいハガネールの頭部をその柱に叩きつけた。
その一撃で力の殆どを使い果たしたかのように、顎から力の抜けたピョコはハガネールを離してしまうが、よろめくようにハガネールから離れるように後退。
今の連続攻撃で仕留められたならいいけれど。きっと、そうじゃないんだから。
あれだけ負けてなるかの感情を間近でぶつけ合った好敵手に敗北を突きつけるには、あと一撃は決定的な一打が必要だとピョコもわかっている。
パールに次の手を促す立ち位置に移っている。なんなら指示が無くても次の行動は決めている。
地震、と叫んでくれたパールの声と、ピョコが前脚を振り上げたのは全く同時だった。
完全にシンクロしたそのバトルフィールドの一幕の中に、ハガネールの名を叫ぶトウガンの声もあったのだが。
激しく揺れる地面の上、朦朧とする意識の中でバランスを失ったハガネールが、半ば倒れるように地面に顎から落ちていく。
地震を起こし返す余力も無かったハガネールの頭部が、自分と同じ目線の高さに下りてきたところへ、ピョコは最後の力を振り絞って突き進む。
最後の一完歩に全身全霊の力を込め、激突の瞬間に頭を引っ込めたピョコによる、砲弾めいた甲羅の一撃がハガネールの鼻先に激突だ。
頑丈なハガネールの鼻先が、びしりと明確にひび割れたほどの一撃は、ぐるんとハガネールの両目を剥かせるには充分だった。
その一撃でのけ反るように頭部を浮かせたハガネールの頭部含む全身が、力を失って横たわると同時、バトルフィールド全域の砂嵐も収まっていく。
誰の目にもはっきりと明らかなハガネールの失神を以って、トウガンのポケモン三匹全員が戦闘不能になるという結末が迎えられたのだった。
「無念だ……!
すまない、ハガネール……!」
歯ぎしりしたいほどの想いと共に、トウガンはハガネールをボールへ戻した。
あれだけ勝ちたいという気持ちを見せてくれたハガネールを勝たせられなかったのは、トレーナーとしてこれ以上なく悔しいこと。
気絶したハガネールが収められたボールを握る手を見下ろして、せめてもの労いめいた、小さな苦い笑みを向けるトウガン。
まるでこの敗北は、お前のせいではないと言わんばかりに。お前は今日も頼もしかった、という想いがその表情には溢れていた。
「ピョコっ……!」
「!!
――――――――z!!」
「ひゃ……!?」
砂嵐がやんでいった末の光景、ハガネールが気絶した姿を見てピョコの勝利を理解し、トウガンがハガネールを戻したことで完全に確定した事実。
歓喜の想いをピョコの名を呼ぶ声に表したパールだったが、ぐるっとパールを振り向いたピョコは、何やらもの凄い声で吠えた。
怒鳴り声めいていて、パールもびくりとするものであり、ピョコに駆け寄ろうと前に傾いていたパールも身がすくむ。
ふぅ、とほっとしたように息を吐き、ピョコはどかどかとパールの方へと駆け寄っていく。
正直、しんどいのだけど。頭はくらくら、焼かれまくった脚は今でもひりひりする。
でも早くパールのそばに行ってあげねば。あの子は勝利の喜びを、肌を合わせてでも表現したがる子なので。
激しい揺れの中でも無理に立とうとして、転ばされて、お尻を打って、あるいは膝を打ち付けて擦りむいて。
そんなパールの、傍目には真意のわかりにくい行動を、語られずしてどんな気持ちだったのか理解している辺りも、流石はピョコというところ。
気持ちは嬉しかった、でももうあんな無茶しなくていいから、などなど、ピョコが喋れたら言いたいことは沢山あったけど。
ピョコはパールに駆け寄ると、パールの膝をぺろっと舐め、とりあえず一番大事なことだけお伝えしておく。
そんな脚で駆け寄ってこようとしちゃ駄目だぞ、という、パールを見上げてぱっと笑うピョコを前にしたら、彼女にもそれは伝わっただろう。
「っ~~~~~!!
ピョコ~っ! やったぁ~~~っ!!」
胸いっぱいの想いでピョコを抱きしめるパールの胸元で、ピョコは今までで一番満足する笑みを浮かべていた。
本当に嬉しかった。自分の力でパールをここまで喜ばせることが出来た。
きっとこれまでの生涯の中でも、今日ほど自分が誇らしいことは無かっただろう。
ぎゅうっと抱きしめられる強い力は、戦い疲れた今の身体には少し苦しいが、そんなの今のこの喜びでお釣りが払えるぐらいである。
「一匹残しで私に勝ち切った、か……
実績もさることながら、あのドダイトスの意地だったのだろうな。
まったく、敵ながら天晴れだ」
「どうしても、三連勝したかったんだな……
パールがこの間、それで負けたから……」
喜びいっぱいのパールとピョコの姿を眺める中、トウガンもプラチナも、今は無邪気に喜ぶピョコに嘆息するばかり。
ピョコの後ろにはもう一匹控えていたのに。あんなに無茶して一人で戦い抜かなくたって、最終的なパールの勝利は揺るがない図式は作れていたピョコである。
それでも意地でも最後まで根性を振り絞り、自分の手でハガネールを撃破することに諦めなかったピョコの、本当の想いとは何だろう。
後続に任せられないなんて思うほど、ピョコはニルルやパッチを信用していないわけでは決してないはずなのに。
トリデプス一匹に三人抜きされた、完膚なきまでの敗北は、きっとパールにとってショックだったと思うから。
あの日のことを忘れられるぐらい、気持ちのいい、すかっとする、完璧な勝ち方をさせてあげたかった。ただただその一存だったのだろう。
それが果たせたピョコの、嬉しい一方でどこかほっとする横顔は、単に勝つより難しい何かを果たせて安堵する、そんな感情も僅かに漂わせている。
ジムリーダーとしては褒められたものではない負け方をしたトウガンも、自らを律するよりまず先に、相手を賞賛したくなるというものだ。
本当にたいした奴だ。その一言に尽きる。
「本当にありがとう、ピョコ……!
私、ピョコのこと一番好きだよ! 絶対、これからも、ずっとそう!」
みんな聞いてる。でも、パールは言っちゃう。
もっとも、出番の無かったパッチもニルルも、やっぱりそうだろうなと微笑ましくその言葉を聞くのみである。
私も頑張ったんだけどな~、とボールの中で頬を膨らませるミーナもいるが、彼女も案外そこまで拗ねてはいない。
流石に一人で三人抜きしたピョコの勇姿に免じて、今日ぐらいはいいかと苦笑い気味に溜め息をつくミーナも、普段は我が儘でも意外と話は分かる方らしい。
特別なほどの好意を一身に、抱きしめる腕と言葉から受け止めて胸いっぱいのピョコの鳴き声に、ただただ祝福の感情を向けるほどには、他の三人も仲良しだ。
6つ目のバッジ獲得。
長い旅の中で、このバトルの結末を飾る端的な言葉とは、そうした大きな節目を表す言葉で言い表せる。
だけど今、パールとピョコが共有する喜びは、まるでチャンピオンとなるためのバトルを制した瞬間であるかのほどに格別だ。
最愛のパートナーと共に、雪辱戦を最高の結末で飾る。
その格段の喜びを言い表す言葉など容易に見つからぬことは、ピョコに拙い言葉で今の感情を伝えんとする、パールの姿に象徴される事実である。