「おはよ、プラッチ」
「はい、おはよう。
今日は普通のパールだね」
「今日も元気なんだけどね。昨日が元気すぎたっぽい」
ミオシティを離れ、コトブキシティに着いたパールとプラチナは、ポケモンセンターで一晩お休み。
朝になって、さあ出発だというところである。
「どうしようか。
クロガネルートでいく? それともソノオルート?」
「ソノオルートかな~。
クロガネルートだと、クロガネゲート通るじゃん。ズバットがヤだ」
「ソノオルートでも荒れた抜け道があるんじゃなかったっけ」
「そこさ、プラッチのケーシィのテレポートでショートカット出来ない?」
「なにぃ。そんなアテのし方をしてるのか」
「お願いお願い。ちょっとはいいじゃん、ね?」
パール達が次に目指すのは、7つ目のジムがあるキッサキシティ。
コトブキシティからキッサキシティを目指すなら、有力なルートが2つある。
一つはクロゲネゲートを経てクロガネシティへ行き、そこからサイクリングロードの206番道路を北上してハクタイシティへ向かうルート。
もう一つはソノオシティを経てハクタイシティへ向かうルートだ。
ハクタイシティにまで辿り着いたらあとは一緒で、テンガン山を越えてキッサキシティへ向かうのみである。
東西に長いクロガネゲートは、中を通らずやり過ごすことが出来ないが、ソノオルートの荒れた抜け道は、入口と出口が近い位置取りにある。
抜け道内で坂を経て登り、断崖の上に出口という階段洞窟のようなものである。
それぐらいの距離ならプラッチのケーシィにテレポートで、抜け道自体をやり過ごしちゃおうというのがパールの発想のようで。
谷間の発電所に侵入する際、離れた場所からその屋上にみんなでテレポートした実績があるので、そう難しくはない話だろう。
「まあ、いいけどさ。
それじゃあソノオルートで……」
「あっ、待って待ってプラッチ。
えぇと……ちょっとだけ、寄り道してもいいかな?」
「フタバタウン?」
「あっ、バレてる」
「言うと思ってたもん。
正直、ミオシティに向かう時に、フタバタウンに寄らないってパールが言った時にもちょっと驚いたぐらい。
せっかく近くまで来たっていうのにさ」
そう言ってプラチナは、はじめからキッサキシティに向かう気はなかったかのように、さっそく街の南へと歩き始めていた。
どうやらプラチナ、はなからパールが故郷に寄り道したがることぐらい、想定内だったようだ。
いいかな、の問いに返答もせず、その道を選んでくれるプラチナに驚き、でも嬉しくて、パールもぱたぱた駆けてプラチナと横並びの位置に落ち着く。
「でも、どういう心境?
寄り道はちょっと控えて頑張りたいって言ってたのに」
「いやぁ……鋼鉄島でしばらくじっとしてた時、なんか急に家が恋しくなっちゃって」
「あ~、なるほどね。
野宿しまくってたらちょっとね」
鋼鉄島での合宿生活をしているうちに、ちょっとホームシックに陥ったとな。
確かにポケモンセンターのベッドで休む日々と比較して、備え付けの寝袋で寝る生活は、不快じゃないけどやっぱり恋しいものも出てくる。
そこで我が家のベッドをふと思い出してしまうぐらいには、やっぱりパールもまだまだ子供である。
「まったり進んでも夕方ぐらいには着くよね?」
「プラッチ、うちに遊びにこない?
お母さんも、きっとダメなんて言わないよ」
「え、いいのかな。
……よかったら、お邪魔してみてもいいかな」
「えへへ、もし違う顔されても必死で頼み込むからね!
普段はポケモンセンターでも別の部屋で泊まってるでしょ?
今日はいっぱいお話しよ! 私、夜のお話長いよ!」
「っ……毎晩どんだけナタネさんと長電話してるのさ、それ言うぐらいって」
あれ? 僕女の子の部屋に入るの? なんて思ったら少しどきっとしてしまうプラチナだが、その動揺は隠し通してなんとか平静を装いきっている。
パールが久しぶりの里帰りで喜んでくれればいいな、ぐらいにしか思っていなかったプラチナだが、その先に待つのは人生初レベルの特別なイベントらしい。
意識すればするほどそわそわしそうなので、プラチナはパールとのお喋りを弾ませて、気を紛らわせるのである意味必死だった。
そんな、ちょっと普段とは違う、楽しい一日になりそうだって、パールもプラチナも思っていたはずだったのだ。
結論から言うと、この日も、明日も、パールはフタバタウンの土を踏むことは叶わなかった。
まさかあんなことになるなんて、今の二人に想像できるはずがなかったのである。
コトブキシティから南下するとマサゴタウンに辿り着く。
そこから西へと進み、南へ分かれる道を南下することで、フタバタウンに到着する。
今日のパール達にとってのマサゴタウンは、お昼ご飯を食べてフタバタウンに向かうための通過点というところ。
「あっ、見て見てプラッチ!
明日は晴れだって! シンジ湖の眺めが一番良くなるよ!」
「今日は曇ってるもんね。
やっぱり晴れの日の方が綺麗?」
「青くてぴか~ってなってるよ! 朝なんかは特に!
明日は絶対、シンジ湖を見に行こうね!」
ポケモンセンターでご飯を食べながら、テレビを眺めるパールとプラチナ。
今日はフタバタウンでゆっくり過ごして、明日の出発ついでにシンジ湖へ寄っていこう、というプランが、ここまでの道のりで既に語られている。
テレビで報じられる晴れ予報を見れば、パールはいっそう明日が楽しみ。
今日が既に、久しぶりに実家に帰ることが楽しみな日なのに。
まだ何一つ叶えていないうちから本当に幸せそうで、そんな彼女を眺めるプラチナの方が、無条件で頬が綻びそうである。
「ちなみにだけどパール、リッシ湖でギンガ団と戦ったじゃん?
あれ、テレビに映っててナタネさんにも叱られたそうだけど、家の人は知ってたりするの?」
「うっ……ど、どうでしょうね?
電話とかはかかってこなかったけど……バレてたら電話ぐらいかかってきそうだし」
「多分これ、黙ってた方がいいやつだよね?」
「はいっ、お願いします!
多分おこられる!」
「怒られるようなこと、最初からしちゃ駄目なんだぞ」
旅の中でポケッチを入手したパール、入手後さっそく実家にお電話はかけており、通信コードはお母さんにも知らせてある。
家から電話がかかってくることは充分あり得る話。特に、リッシ湖乱入の件なんて、お母さんが知ったら速攻で電話かけてきそうなところ。
かかってこないということは、運良くその場面は母の目に触れなかったと思いたい。
あれが人に心配をかけて、しっぽり怒られるようなことであるのは、ナタネさんの激おこ電話からわかったパールである。今更びびってる。
絶対お母さんには言わないで、と手を合わせる力の強いパールの必死さに免じて、向こうが知らないならもうこれは秘密にしておこうとプラチナも決めた模様。
冗談交じりのお小言も添えておくが。あんなこと、二度と無い方がいい。
「わ、わかって……あれっ?
緊急速報だって、ねね、プラッチ」
「はいはい」
風向きの悪い話題になりそうだったので、テレビが緊急速報画面に切り替わったこと幸いに、パールは無理くり話題を逸らしにかかる。
まあ、いいけど。プラチナもねちねち責めるつもりはなかったので、パールと一緒にテレビを眺めることに。
恐らくこの緊急速報は、今の二人にとって最低最悪のものだったはずだ。
ドローンでも使って撮っているのか、空中カメラから大きな湖を見下ろす映像が、風に揺らされるカメラに合わせて少し揺れ揺れ。
緊急速報を伝えるキャスターの発する言葉に含まれる、ギンガ団という強烈なワード。
そしてその空中カメラに見下ろされる湖の名が、シンジ湖と呼ばれるものだとわかるや否や、食事中だったパールの手が止まり、まばたき一つしなくなる。
「えっ……今、シンジ湖って言った……?」
「っ、パール!」
あの日、リッシ湖をギンガ団が襲撃した時の速報を、ヨスガシティで見た時と同じ感覚。
幼い頃から通い慣れたはずのシンジ湖とて、空中から見下ろした眺めなど見慣れないパールは、映された湖がシンジ湖であるとはすぐにわからなかったけど。
シンジ湖での出来事だと報道の声で知ってなお、信じられない、信じようとしない呆然とした横顔に、思わずプラチナはパールの名を強く呼んでいた。
「ぷ、プラッチ……!
シンジ湖が……」
「パール、ちょっと待って。
とりあえず落ち着こうか。ご飯、全部食べようね」
「で、でもでも……えっ、えっ……」
「何が起こってるかはもう僕がわかったから。
……いいからまず、ご飯全部食べよう。食べ残さないでよ。
お腹空いた、ってパールも言ってたよね」
あの日、リッシ湖をギンガ団が急襲した時と同様に、再びギンガ団が表舞台に姿を現したのだ。
そして今、ギンガ団が襲撃しているのは、パールの故郷フタバタウンのそばにあるシンジ湖。
かつてのように、湖の水を全て吹き飛ばすようなことこそしていないものの、幾人ものギンガ団員が湖に群がっていることは、上空カメラ映像からも明らかだ。
事態はシンプル。報道内容を十秒聞けば、どこで、何が起こっているのかなどプラチナにも明白だった。
それが故郷のそば、思い出深い特別な地での出来事だと知ったパールは、頭が追い付かずうろたえるばかり。
思い出の地が悪党集団の襲撃を受けて荒らされる。さながら、実家が火事だと知らされる感覚に近いものがあろう。
頭が真っ白になっていたパールは、プラチナの強い言葉を頭に刷り込まれ、操り人形のようにご飯を食べる手を動かし始める。
思考力を失った頭に命令を叩き込まれ、無思考に従うパールの姿は、まさしく催眠誘導されて操られるそれと何ら変わらない。
それほどまでに、この報道が彼女に与えたショックは大きかったのだ。
さあ、苦虫を噛み締めるような想いなのはプラチナの方だ。
ごちそうさまを告げ、ポケモンセンターから出た外で、パールが何を言いだすかなんてわかりきっている。
少しは冷静さを取り戻し、つまり、湧き上がる感情を言葉にしてはっきりと主張するパールが、プラチナの望まないことを訴え始めると見えているのだ。
止められるのだろうか。心底プラチナは、頭を抱えてしまいたいほどの衝動に駆られるばかりであった。
マサゴタウンからシンジ湖まで駆ければ、夕時を迎えるよりもずっと早く着くことが出来る。
報道によれば、ギンガ団が徒党を組んでシンジ湖に乗り込んできたこと自体は、昼前の出来事のようだ。
乱暴な言動でシンジ湖を訪れていた人々を追い出して、警察が駆けつけるも、ギンガ団員達による徹底抗戦の構え。
わざわざ報道陣がこれを言うことは無いのだが、田舎町のフタバタウンの警察は、都会の警察に比べて人数が多くない。
同じ田舎町のマサゴタウンの警察も駆けつけてはいるのだが、合わせてもやはり戦力としては心許なく、湖の占拠を現状許してしまっている。
少し遠いコトブキシティからの応援要請も発せられているらしく、今日まる一日ギンガ団の占拠を許すことはなさそうだが、撃退までは時間がかかるだろう。
見方を変えると、恐らく湖を占拠しているギンガ団に何らかの目的があるとして、それが達成されるまでの時間は与えてしまう算段が高いということでもある。
ギンガ団のシンジ湖を占拠してから、現時点ではそれほど時間が経っていないことを鑑みれば、その目的とやらを妨げるなら今しかない。
だが、空中カメラや現地映像から、ギンガ団の幹部と思しき者が二人、ギンガ団らの中にいることも判明しているのだ。
そのギンガ団幹部の強さは、パールとプラチナもよく知るところである。
子供が触れるべきヤマではないことぐらい、二人にだってわかるはずだ。
「パール、僕が何を言いたいかわかってるんじゃないかな」
「わ、わかってる、わかってるけど……」
「絶対に駄目だよ。
博士の忠告、忘れたの?
しかも今回は、ギンガ団幹部が二人もいる場所だよ」
わかってるよね、と尋ねるプラチナこそ、パールが今どうしたいかをわかっている問い方だ。
思い入れの無いリッシ湖を荒らすギンガ団さえ許せず、離れた街から駆けつけることを厭わなかったパールである。
特段の思い入れのあるシンジ湖を荒らすギンガ団が、足の届く場所にいるこの状況。
指をくわえて事件解決を待てるパールであるはずがない。
マサゴタウンのポケモンセンターを出たすぐそこで、シンジ湖方面を背にしたプラチナが、さながら自らを壁としてパールと睨み合う形を取る。
「でもプラッチ、私……」
「確かにリッシ湖は何とかなったよ。
マキシさんと戦ったギンガ団幹部と、二人がかりで戦って、ぎりぎり。
今日はギンガ団の幹部を抑えてくれる、強いジムリーダーさんもいない。
まして、相手は二人だよ。僕ら二人でどうにかなると思うの?」
「でも、シンジ湖は……!
わ、私にとって……私にとって、特別なっ……」
「負けたらどうなるの?
殺されたっておかしくない、って話、僕したはずだよね」
「うぅ……」
会話になっていると見做せるか否か、果たして難しい局面である。
パールの言いたいことを総括すれば、危険かもしれないけど行きたい、出来ることを全部やりたい、というところに尽きる。
プラチナはその主張を退けるため、矢継ぎ早に、彼女の言葉を遮りがちなほど、いかにそれが危険なことであるかを畳みかけて説く。
パールの少ない言葉に対し、これだけきつく念を押して、初めてパールも言葉を失い一度黙ってくれる。
感情が先走っているのだ。何とかブレーキをかけさせるだけでも一苦労。
そして、それでも納得していない眼を保つパールだから始末に負えないのだ。プラチナが一番よくわかっている。
「……今までだってギンガ団のやることを、邪魔しようとしてきた僕達だよ。
負けたら絶対、大変なことになる。見逃してなんて貰えない。
その場で殺されたりしなくたって、必ず捕まる。
ポケモンを捕まえるために、そのポケモンを傷つけるボールまで作って、痛めつけるような悪の組織に捕まるってどういうことかわかってる?」
「そ、それ……は……」
「僕達が行っても、必ずそうなる。勝てる相手じゃない。
そして負ければ、本当に、その場で殺されたっておかしくないんだ。
ハクタイシティのビルで、パールに向かって炎を放ったジュピターがいるんだよ」
静かながらも強いプラチナの言葉が、パールの顔を青くさせ、彼女が一歩たじろぐほどの効果を見せている。
シンジ湖に現れたギンガ団幹部というのが、その髪の色から、マーズとジュピターであることは判然としているのだ。
両者とも指名手配の身。報道の時点で、その二人の存在は示唆されていたことだ。
「警察が、必ず何とかしてくれるはずだから。
コトブキシティからも応援が来るっていう話なんだからさ。
僕達は……」
「わ、私っ……それでも、行く……!」
「っ……!」
駄目だ、押し切れたと思ったのに。
あれだけびびらせたって、思い出の地を荒らす者達を許せないというパールの想いは、足が震えるほどの恐怖でも塗り潰せないほど強い。
これだけ言っても行くんだと訴えるパールに、プラチナも言葉を詰まらせるほどなのだから、付き合いの長い彼でもパールを知り尽くせてはいないということ。
一度その感情に真っ直ぐに定めた想いは、恐怖というもう一つの感情で以っても潰えぬほど、今の彼女は行動すべてを感情に殉じている。
プラチナの話を聞いていなかったわけではあるまい。殺されたって構わないとでもいうのか。
そう問えば首を振るだろう。しかし、じゃあやめろ、と言っても首を振るだろう。だから理念より感情を優先する者は、理屈で言うことを聞かせられない。
「……パール、僕と約束したはずだったよね。
もう、あんなことはしないって。
僕との約束、破るんだね?」
「っ……!
だ、だって……だって……!」
「破るんだね……!?」
プラチナもむかついてきた。
説得するための言葉は他にもあったのだ。
そんな無茶をしたら、お母さんが心配するよ。ナタネさんだって心配するよ。怒られるのはだからでしょ、という大人びた理論。
それ以上に、プラチナ自身がパールを心配してやまないのに。彼に言わせれば、身近だからこそ他の誰にだって負けないぐらいに。
そんな僕が、パールが最悪の結末を迎えるのが嫌だからこそ、ここまで言っているのに通じない。
本当に腹が立ってくるのだ。僕の感情をわかってくれないのか。
「プラッチ、お願い……
最後に、一回だけ……本当に、今回だけ……」
「あぁそう、約束破るんだね!?
僕がこれだけ言っても、パールにひどい目に遭って欲しくないって訴えても、パールはそれを無視するんだね!?」
「ぷ、プラッチぃ……っ……」
「じゃあ、もう絶交だよ。
僕はパールに、死んで欲しくないって本気で思ってる。
それもわかってくれない友達となんて、これからもずっと信頼し合える気がしないから」
過去一番、パールがプラチナの前で見せる、悲しさに溢れた感情で顔を染めてしまう。
ずるい言い方だとはプラチナだってわかっているだろう。人間関係を武器にした交渉なんて。
だけど、他ならぬプラチナこそ、パールと絶交なんてしたくないはず。
身を切る想いで、胸を締め付けられる想いでありながら、毅然とした顔でパールに言い放つプラチナの姿は、悲壮な覚悟を擁しているとさえ言っていい。
11歳の子供にとって、一番親しい親友との絶交なんて、自分が泣きそうなほど耐え難いことに違いないはずなのだ。
「ううぅ……プラッチ……」
「……行かないでくれれば、それでいいんだよ。
だから、今日だけ我慢してよ。
僕だって、心から、パールと絶交したいわけじゃないんだからさ」
女の子の涙は、男の子に対して凄まじい威力だ。
泣き落としの意図無き、プラチナとの絶交を迫られて、心からの悲しさから涙目になるパールには、プラチナもこれ以上強く出られない。
言い過ぎたかとさえ思うほど、現にこれ以上の言葉は用意していないのだ。
あとはもうプラチナも、踏み止まってくれることを願う他ない。
二人の間に沈黙が流れる。
時間にして、約十秒というところだ。長くて、短くて。
鼻をすすって、ぐしっと涙目を拭うパールの姿に、望む言葉よ彼女の口から紡がれて、と願うプラチナの想いは、過去最も強い。
「……………………ごめん、ね、プラッチ。
私、どうしても、立ち止まれない」
「っ……!
パールっ!」
「私、こういう時にどうしてもじっとしてられない……!
私にとっては、リッシ湖は大事な場所なの……!
プラッチにも話したよね……?
あそこは、私が旅立つきっかけも作ってくれた、すごく、すごく大事な思い出の場所なの!」
この時のプラチナの嘆きたるや、到底言葉では言い表せるものではなかっただろう。
説得は失敗している。そしてパールはその選択を、プラチナとの友情を天秤にかけてでも、選ぼうとしているのだ。
自分を大事にしてくれないパール、そして何よりもプラチナにとっては、切り捨てられたにも近い悲しみがある。
そんなプラチナの表情を歪むのを見て、パールが次の言葉を紡ぐのを躊躇いがちになる姿も、はっきり言って罪深さそのもの。
口にして初めてわかったにせよ、それでも貫くというのなら、判断能力ありしまま悪行に踏み込む犯罪者の業とさほど変わるまい。
「だ、だから……だから……
私、行く、から……プラッチ、とは……」
絶交。その言葉を口にすることは、パールには出来なかったけど。
代わりに、一度は拭ったはずの目からぶわりと涙が溢れ、頬をつたうほどではあったけど。
自分で選んで自分で絶交するのだ。もう、その事実から逃げようがない。
子供は自分のせいで何か悪いことが起こった時、言い訳を作って自分のせいじゃない風にして自分の心を守ろうとする。
どう足掻いたって自分のせいだと逃れられないつらさは、子供にだってわかる話だ。
「い、今まで、ありがとう、っ……
ごめんねプラッチ……っ……!」
「パール!!」
顔を伏せたパールが駆けだして、プラチナの横をすり抜けて、シンジ湖の方へと向かっていく。
決して、唖然としたわけではない。だが、手を広げて止めることも出来なかった。
やはり、プラチナにもパールを止めることは出来ないのだ。
友情を天秤にかけさせたって止まらないパールの、ほとばしる感情に自らの行動を委ねる性分は、きっと誰にも止められない。
せめて舞台が、パールにとって無二に思い出の地、シンジ湖でさえなければ。
駆けていくパールの背中を、振り返って立ちすくみ、見送る形のプラチナが思わず手を伸ばすほどには、この展開は悔やんでも悔やみきれない。
「――くそっ!!」
恐らく今までの人生で初めてのことだ。
汚い言葉を発して、八つ当たり気味に地面を蹴り上げ砂を舞い上げるなんて。
それほどまでに、自分にも、パールにも、儘ならなさと憤りを感じてやまぬやりきれなさは、プラチナにその自制を利かせなくするほど強い。
それでも、プラチナは賢かった。
パールはひどい決断をした。自分だって、後悔するほどのことを言った。
だけど、自分もパールも間違っていないことは、誰に何と言われようとわかっている。
悪事を許せないという想いを抱くパールって間違ってるんだろうか。彼女を案じた自分って、そんなのおかしなことだろうか。
間違ってるのはギンガ団だ。それを見失うから、不毛な議論になる。
しばしうつむき、興奮した頭でもぎりぎりその結論を導きだし、かろうじての冷静さを取り戻したプラチナ。
顔を上げた彼の強い眼差しは、自分が何をすべきかわかっている。
少し考えれば、理屈でも、感情でも、自分がとるべき行動は一つしかないのだ。
走りだしたプラチナは、真っ直ぐに、叶えたい何かに向かって突き進んでいる。
それは彼自身が愚かとした行動に、自らを導くもの。
だが、そうでなければ勝ち取れないものもある。理念と本質、そして現実は、必ずしも未来と直結しないのだ。
不条理な現実は、座して賢しく待とうと決して何ら変わりはしない。
求むるものに手を伸ばすために戦うこと。それが儘ならぬ現実に満たされた人生の中で、望む未来を勝ち取るために必要なことなのだ。