ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第85話   ギンガ団幹部との対決

 

 

「今よマーズ! ここしかない!」

「わかってるわよ!!」

 

 切り札であるスカタンクを駆るジュピターが、その攻撃によって弱らせた小さなポケモンに向け、ボールを投げろとマーズに命じている。

 好かぬ相手に指図されるマーズにとっては激昂ものだが、マーズ自身もそう判断していたように、まさに今こそ絶交の機。

 脚を開いてサイドスロー気味に投げたマーズのボールが、凄い回転と勢いで対象めがけて飛んでいく様からも、気合の入った一投だ。

 

 そのボールとはただのモンスターボールではない。

 ナナカマド博士がサンプルを復元し、パール達に見せたものと同じギンガボールだ。

 いかに捕獲し難いポケモンであろうと、一度当ててその中に捕らえれば、強烈な苦痛を与え続けることで抵抗力を削ぐ悪魔的科学の賜物。

 そんなボールの中に捕らえられたとある個体は、絶対嫌だとばかりに必死で足掻き、しばらく地面に転がったボールを揺らしてはいたものの。

 やがてはもはや抵抗できぬほど力尽き、ボールの揺さぶりが止まったところで捕獲が完了する。

 マーズとジュピターが、二人がかりでとある一匹のポケモンを袋叩きにし、とうとうそれを手中に収めた一幕だ。

 ふぅ、と息を吐くマーズが、今しがたまで戦線に立っていたブニャットをボールに戻し、ほくそ笑んだジュピターもまたスカタンクをボールに戻していた。

 

「まったく、とんでもない強さだったわ。

 サターンの奴は、こいつと同等の個体を一人で捕まえたっていうんだからびっくりよ」

「何言ってるの、あいつは若かりし頃のシロナにも何度も勝っているのでしょう?

 あたし達と対等な立場の幹部格とはいえ、流石にあれは私達より一枚上手よ」

「まあ、あいつのドクロッグが反則級なのもあたしは知ってるしさ。

 癪だけどそれは認めるしかないわ。味方にすれば頼もしいしね」

 

 捕まえたポケモンの入ったギンガボールを拾い上げたマーズは、それをひょいっとジュピターの方に投げ渡して小話を挟む。

 シンジ湖に眠っていた古きもの。とある手段でそれを目覚めさせたマーズ達にとって、その存在はまさに強敵だった。

 恐らくギンガボールという特別製のボールが無ければ、こいつを捕獲することは叶わなかっただろうと、腕利きトレーナーの二人でも思うほどに。

 ともあれ最重要任務は達成できたので、両者とも一抹の時ながら、ほっとする想いである。それだけ、任務失敗も覚悟するほどの難敵だったのだ。

 

「さて、撤退するわよ。

 部下もいつまでももたないでしょうしね。

 逃げ切ったと思える場所まで逃げきれたら、撤退信号を出して任務完遂よ」

「だからもう、わかってるわよ!

 あんたがあたしに指図しないで、むかつくから!

 バットン! 出て来……」

 

「まてぇ~~~っ!! わるもの~~~っ!!」

 

 目的は果たした。後は不測の事態が何か起こる前に迅速な撤退を。

 とりわけ、捕獲対象を手中に収めたマーズとジュピターは、撤退完了までが重要なミッションだ。

 近くに脅威の一つも無い中、充分最速の次なる行動に移ろうとしていたマーズとジュピターだったが、それでもぎりぎり間に合っていなかったらしい。

 離れた場所からびんびん響いてくる大声。距離があってもはっきり聞こえてくる、あんなでかい声出せる子いるんだレベルの叫びである。

 

「はぁはぁはぁ……!

 にっ、逃げるなあっ! おとなしくつかまれえっ……はぁはぁっ……!」

 

「うっわ、マジで出たわ。

 ジュピターごめん、あんた天才だったかも」

「いや、まあ……

 あたしも本当に直面するとなれば正直びっくりだけど」

 

 ギンガ団ハンターあらわる。まあ、本当にハントし果たした実績は無いが。

 しかしながら、マーズ、ジュピター、そしてサターンまでもが、表舞台に上がった数少ない機会、そのすべてに立ち会ってきた少女がまた現れた。

 息切れしながら、自分よりも強いはずのトレーナー、大人に対して啖呵を切るパールの姿。

 それを目の当たりにすれば、マーズもジュピターも運命的なものすら感じるというものだ。

 よくもまあ、毎度毎度ギンガ団の大事な局面に、こうして直面してくれるものだなと。偶然が偶然に感じ難いほどの率である。

 

「ギンガ団……!」

 

「腰巾着の少年もやっぱり一緒なのね。

 どうするマーズ? 叩き潰しちゃう?」

「らしくないじゃない、あんたなら無視して逃げろ派じゃないの?」

「確かにね。

 でも、流石に何度も何度も邪魔立てしてくるクソガキ、そろそろへし折ってやらなきゃつまらなくない?」

「……まあ、そうかもね」

 

 このまま撤退する手筈だったマーズもジュピターも、気変わりしたようで逃げる方へと足を向けることはせず、モンスターボールを各々の手に。

 多少はここでもたついたって、警察がここまで踏み込んでくるにしてもまだまだ時間がかかるはずだ。

 猶予あるその時間を使って、パールと彼女の後ろから戦場に姿を現すプラチナを、ここで迎え撃つ暇は充分にある。

 

 いい加減、舐められっぱなしは面白くないものである。

 挑むだけでも危険な相手だとわからせて、泣かせてやりたい衝動がジュピターにはある。

 邪悪に笑うその口元には、こいつに負けたら大変なことになると、パールもプラチナもぞっとするだけのものがある。

 

「悪を穿つ正義の仲良しカップル、ってつもりかしら!

 見せつけてくれちゃって! むかつくわ!

 二人揃って泣かせてやるわ! 覚悟なさい!」

「えっ、そういう怒り?」

 

「カップ……」

「……悪いけど僕ら、いま絶交中なんで。

 カップルとか絶対あり得ませんから」

 

「あらら?」

「きーっ、何よそのプレイ! ツンデレごっこのつもり!?

 いいわ! ギンガ団幹部を前にして遊んでられるなんていい度胸!

 もう泣かすに留まらないわよ、大怪我させて湖に放り捨ててやる!!」

 

 毎回二人で力を合わせてギンガ団の野望を挫こうとしてきた二人を知るジュピター、どうも今日のパールとプラチナには溝のある態度と見える。

 素直にそう見て正解なのに、マーズは勝手に変な邪推をして、勝手にぷんすこぴーである。

 うちのマーズも何だか若者かぶれし過ぎてるなぁ、とジュピターは呆れているが、パールとプラチナはマーズの恫喝に鳥肌を立てている。

 負けたら本当にそうなるかもしれない。死んだっておかしくない。恐れが強い緊張感に繋がる。

 びしばしと火花を散らして睨み合う、マーズとパール&プラチナ。一人だけしらーっとしてるあたしの方がおかしいの? とジュピターも首をかしげる一幕だ。

 

「っ……!

 いくよ! パッチ!」

「さあ行くぞ! エンペルト!!」

 

「やるわよ! "ブルー"!」

「行きましょうか、ドータクン!」

 

 それぞれがポケモンを繰り出して、2対2の様相を形成する。

 だが、この中にあってプラチナの投げたボールだけが、他の三人の意図を大きくはずしている。

 プラチナはエンペルトの入ったボールを、湖の方に思いっきり投げ付けたのだ。

 宙でボールから出てきたエンペルトが、シンジ湖の水面にざばあと水しぶきを上げて着水だ。バトルフィールドの外である。

 

「エンペルト! なみのりだ!」

 

「ええっ!?

 ちょ、プラッチぃ!?」

「嘘でしょ!? これあたし達も巻き込む気!?」

「チッ……!

 人畜無害そうな顔して……!」

 

 なみのりは、多量の水で対戦相手のポケモンに対し、重い水圧と水流でダメージを与える技。

 それをプラチナのエンペルトは、湖水を味方につけ、四人が睨み合うフィールドに津波のような水を一気に襲いかからせてきた。

 ビッグウェーブの上で獲物を見下ろすかのようなエンペルトに、危機感を感じたパールもマーズもジュピターも、各々の逃げ足で散開だ。

 そして一度は2対2のバトルフィールドになりかけていた場所は、水に押し潰されて一度誰もいない空間と化す。

 

「――パール! そっちは任せたよ!」

 

「プラッチ……!

 うんっ、わかった! プラッチも頑張ってね!」

「もちろん!!」

 

 そのまま浴びれば潰されるか流されるかの波乗りを駆けて躱したマーズとジュピター、その立ち位置は大きく離れた。

 プラチナは、そうしてマーズと距離が出来たジュピターの方へと位置を移し、彼女をマーズに近付けさせないようポジション取っている。

 そんな彼の発した声の意図は、パールにだって伝わるというものだ。

 比較的近い位置にいるマーズをぎっと睨み、既に場に出していたパッチと共に対峙する。

 

「へぇ、あなた達一対一であたし達に挑むつもり?

 おバカさんねぇ、勝ち目があるとでもお考えかしら?」

「二人一緒に手を組ませて戦わせるよりはマシでしょ……!」

 

 ジュピターと睨み合うプラチナは、一人であたしとやり合うつもりかと嘲笑する相手に、この戦い方で正しいと強く返した。

 マーズとジュピターに手を結ばれ、コンビネーション含みで攻め立てられては、それこそ勝ち目が無いとプラチナは踏んだのだ。

 だったら分断する方がいい。自分達より格上二人に挑むプラチナが導き出した、最低限の土俵を作り出した図式である。

 

「まあ、それはそうかもねぇ。

 だけど、あたしを一対一で破るつもりでいるのかしら?

 舐められたものよね」

「あなた達が何をしていたかは知らないですけど、任務であなた達のポケモンも疲れてるんじゃないですか?」

「へぇ~、希望的観測も正解してるのなら嗤えたものではないわね。

 ……で? だから勝てる、と?」

 

 シンジ湖の古きものを捕獲するため、ポケモン達に仕事をさせていたジュピターの手札は、確かに万全ではないだろう。

 それが勝てる根拠だと言うなら、力量差を覆す重大ファクターになると思っているなら、舐めたものだとジュピターはやはり嘲笑気味。

 たかだか子供の育てたポケモンと、ギンガ団幹部の握る札の力量差は、その程度のもので埋まるものか主張する含み笑いに、プラチナだって不安は感じるとも。

 

「……逃がしませんよ。

 それが僕の勝利条件です」

 

 完勝といかなくたっていい。逃がさなければいい。

 プラチナの勝利条件は、ポケモンバトルの完全勝利そのものよりもやや緩い。

 水でギンガ団幹部を分断する仕事を終えたエンペルトをボールに戻し、新たにガーメイルを出したプラチナは、既に死に物狂いで食らいつく覚悟を決めている。

 

「さて、それすら叶うものかしら?

 せいぜい震えなさい、追い詰められ、地獄へと一歩一歩後ずさりさせられるばかりの、ここからの戦いにね……!」

「ガーメイル、行くよ……!

 ここだけは、絶対に負けられない!」

「――――z!」

 

 ガーメイルが羽音に混ぜて大きな声を発したのは、大人のジュピターやそのドータクンの貫禄に、かつてない強敵との戦いに我が身を奮わすためのもの。

 プラチナとジュピターの一騎打ちが始まる。

 両者とも、離れた場所のパールとマーズの対峙する場に、水を差す余裕も無い激戦の幕開けだ。

 

 

 

 そして、パールは。

 

「ふふっ、一騎打ちがお望みなのね。

 あたしにとっても望むところよ、あいつ嫌いだし」

「パッチ、頑張ってね……!

 絶対、すごく強い相手だよ!」

「――――z!」

 

 パールと一対一の構図となったことにほくそ笑むマーズだが、対するパールは初めから必死である。

 かつて発電所でやり合った時でも、自分よりもずっと格上の相手だと、子供でもわかった相手だ。

 こちらも随分あの時より強くなったつもりだが、相手だってあの時と同じだとは思えない。

 現にパッチと睨み合うマーズのポケモンは、あの日から進化した姿でここに立っているのだ。

 

 マーズが"ブルー"と呼ぶ自分のポケモンはヘルガーだ。

 思い返せば谷間の発電所でも、マーズはブルーと呼ぶデルビルを使っていた。あれが進化して今の姿なのだろう。

 お互いコリンクとデルビルであった時に一度戦った者同士、パッチもブルーもその眼差しに抱く闘志は殊更に強い。

 

「……それにしてもあんた、あたしのこと結構ナメてない?

 あんたもここに至るまでに、全くバトルしてないわけじゃないでしょ。

 手薄な所から来たように見えるけど、見張りも少しはいたわよね?」

「うっ……で、でも、負けないから!

 そっちだって何してたか知らないけど、ポケモン疲れてるでしょ!」

「まあねぇ……

 確かにあたしの子達も万全とは言えない状況ではあるけれど」

 

 パールも、マーズも、手持ちのポケモン達が、無傷で元気いっぱいという状態でないのは確かである。

 パールは彼女がプランした、最短最速でマーズ達を見付けて迫れるルートでここまで来たが、ギンガ団の下っ端達に道を遮られる局面はあった。

 対するマーズも、つい先程までシンジ湖の古きものを捕獲するために戦っていたこともあって、ヘルガー含む自分のポケモン達に蓄積したダメージはある。

 双方、負けても言い訳できる状況とは言えるし、相手もそうであろうことを考えればイーブンとも言える状況であろう。

 

「で、あんたはあたしに勝つつもりでいるんだ」

「ぅ……」

 

「あんたむかつくわ、やっぱり。

 ジュピターじゃないけど、あんたのポケモン達をギタギタにした後、あんたのこともちょっと痛めつけさせて貰うわね。

 大人を相手に舐め腐った態度取ってるあんたには、丁度いい薬になるでしょうよ」

 

 やや感情的に声を荒げることも多いマーズだが、今は感情の赴くまま、しかしながら静かに冷徹な目でパールを恫喝する。

 怖い。パールも足が一歩退がりそうだ。

 怒った大人はやはり怖いのだ。怒気を孕んだ声と表情と眼差し、それだけでパールをすくみ上がらせるほどの気迫をマーズは放つことが出来る。

 パッチがパールの前に位置取って腰を沈め、パールに何かするなんて絶対に許さないと表す態度が、僅かにパールに勇気をくれるから持ち堪えられるのみ。

 

「ま、それ以前に?

 あんた達子供の浅知恵なんて、そもそも上手くいってないんだけどね」

「え……」

 

「――ムムッ!

 マーズ様が見慣れない子供と戦ってマース!」

「きっとウワサのギンガ団に歯向かう子供って奴デース!

 我々も加勢して、けちょんけちょんにしてやるデース!」

 

 しかしマーズはパールを迎え撃つことを急がなかった。

 余裕の表情を浮かべてすますマーズの態度に続き、パールの後方、湖東部から聞こえてくる厄介な声。

 湖に散開しているギンガ団の下っ端どもが、プラチナのエンペルトが起こした波乗りの激しい音に反応したか、異変を察して駆けつけてきたのである。

 警察を迎え撃つのが仕事の連中とは異なり、幹部の仕事を妨げる者を阻むための見張り役を仰せつかっていた者達だ。

 マーズだけでも勝てるかどうかわからないのに、ここに敵の加勢が入る顛末を突きつけられたパールの絶望感は只ならない。

 

「あっ、あっ……うあぁ……」

 

「あたしに挑む前からもう駄目ね。

 ほらほら、せいぜい頑張ってみなさいな。

 部下を全員ぶっ倒すまでは待っててあげるから、それからあたしにかかってきなさい。

 ゆっくり、じっくり、料理してあげるから」

 

 やっぱりプラッチの言うとおり、やめておくべきだったんだろうか。さしものパールもそう思わずにいられないほどの局面だ。

 数人がかりで迫ってくるギンガ団の下っ端達を、全身全霊で迎え撃てばそれらを撃破することも出来るかもしれない。

 そうして消耗した上で、マーズに勝てるとは思えない。現時点の限りの全力で挑んで、それでも勝てるかどうかという相手なのに。

 泣きそうになる。プラチナに絶交を突きつけられた時とはまた違う絶望感。

 敗北の末、公言されたとおりにいたぶられ、痛めつけられる、そんな恐怖がパールの胸をいっぱいにする。

 状況的にも精神的にも、もう勝ったとマーズが確信するには充分過ぎるほど、その一幕は大勢決したと言えるものだった。

 

 しかしながら。

 この直後に起こった出来事は、パールにとっても、マーズにとっても、そしてすべてのギンガ団員にとっても、全く予想外の展開だった。

 木陰から飛び出した小さな影が、パールに駆け迫るギンガ団員達に向かって、矢のように突き進んでいったのである。

 

「ホアッ!?」

「あいたあっ!?

 な、なんデスか~!?」

 

「え……!?」

 

「うそっ……!?

 アイツ、もしかして……!?」

 

 それは、一匹のニューラだった。

 赤い左耳が虫食いのように欠けたそれが、ギンガ団員達に襲いかかると、そいつらのモンスターボールを両の爪先でくすね取る。

 そしてそれを全力でぶん投げて、湖を取り囲む林の中に投げ捨ててしまうのだ。

 これで少なくとも、ギンガ団員達が繰り出せるポケモンが二匹、そう簡単には探して見付けられぬ林の中に捨てられて戦闘不能ということだ。

 痛いと叫んだギンガ団員は、びっくりして足をもつれさせて転んだだけで、ニューラの爪に斬りつけられたとかそういう話ではない。

 

「――――z!」

 

「えっ、えっ……!?

 なに、なんなの……? み、味方なの……?」

 

 ニューラはパールの方を睨みつけるように一度見て、さっさと戦えとばかりに首をくいっと動かした。

 突然の乱入者にうろたえるギンガ団員らとパールの間に立ち、パールに背中を見せて再びギンガ団員に向き合うニューラ。

 まるで、こちらは任せろと言わんばかりだ。

 いきなりの出来事にこちらも混乱気味のパールだが、それでもこの状況をポジティブに、あるいは都合よく解釈したくなるほどには追い詰めていたのだろう。

 だが、正解には違いない。ニューラがギンガ団員を睨みつける目は、強い強い敵視の眼差しであり、敵の敵は味方という理屈に則ればパールの味方に違いない。

 

「なんですかこのニューラはっ!

 我々に逆らう気のようデース!」

「たいへん生意気デース!

 ぎったんぎったんにしてやるデース!」

 

「っ……!

 ミーナ、行って! あのニューラのこと、助けてあげて!」

 

 立ちはだかったニューラに対し、ギンガ団員達は次々に自分のポケモンを出す。

 一匹のポケモンに対し、五人がかりで一匹ずつポケモンを出せば、多勢に無勢の出来上がり。

 これは良くない、と見たパールが、最速判断でミーナの入ったボールのスイッチを押し、外界に促されたミーナは勢いよくニューラのそばまで飛んでいく。

 いつ呼び出されても臨戦態勢の血気盛んなミーナ、ニューラと小さな背丈を並べたその瞬間から、ギンガ団員達と戦う腹は据わっている。

 

「――――z!」

 

「任せるよ、ミーナ……!

 指示は出せないかもだけど、頑張ってね……!」

 

 こっちは任せろ、とばかりにパールに強い声を発したミーナに、不安含みながら強く懇願する声を発していたパール。

 ミーナを心配している余裕なんて無い。自分はこれから、とんでもなく強いとわかっている相手に挑むのだ。

 それもジムリーダー相手のポケモンバトルではない。その勝敗が、自分が明日歩ける体でいるかをさえ左右する、まさに戦いの舞台なのだ。

 改めてパッチとともに、マーズとそのポケモンと睨み合うパールは、もたついているギンガ団員の事さえ、一度頭から締め出して一対一に集中する。

 

「つくづく、むかつくことばかりだわ……!

 あんた達だけじゃなく、あのニューラまで……!

 どこまであたし達のことを舐め腐れば気が済むのかしらねぇ……!」

 

 マーズの口ぶりは、あのニューラのことを知っている風だ。

 そして、自分達の敵だと認識している。今ギンガ団員の妨げをしているからではなく、元々そんな個体であると覚えがあるのだろう。

 今の彼女にとっての予想外とは、よりにもよってのこのタイミングで、あれが姿を見せたということのみに過ぎないのだ。

 

 いや、あるいは必然だったのかもしれない。

 ギンガ団が大きく前進すべきこの日、あのニューラはそれを狙い澄まして飛び込んできたのだろう。

 ギンガ団を強く憎むニューラなのだ。動くとしたら、まさにこんな日だったのだ。

 そして、ギンガ団幹部にパールとプラチナという、強さを感じるトレーナーが迫ったこの瞬間を目の当たりにして、いっそうに。

 今こそのタイミングを見極めて、自分の為せること最大限の仕事を見付けるしたたかさは、野生のそれとは一線を画すほどに賢い。

 

「――――!」

「――――――z!」

 

 ミーナと目を合わせ、加勢してくれるなら助かると頷くニューラ。

 私に任せろ、あんたも頑張れ、と発破をかけるような力強い笑みを返して声を出すミーナ。

 やいのやいのと騒ぎ立てるギンガ団員達が、自分のポケモンに指示を出して、そんな二人を袋叩きにしようとする光景がそこに続いた。

 

 機敏さが最大の武器である二人が、敵勢の集中砲火めいた攻撃を躱し、反撃の脚と爪を繰り出す戦いが幕開ける。

 そしてそこから離れた後方で、パールとパッチ、マーズとヘルガーが、邪魔立て入らぬ一騎打ちを認め合って視線をぶつけ合っていた。

 不都合続きにいらいらしているマーズの形相に、パールは心底震え上がりそうになりながら、ぎゅうと拳を握りしめて逃げないよう耐えている。

 過去最強の敵と呼べるかはわからない。だが、過去最恐の敵には違いない。

 

「ブルー! 行くわよ!

 あの生意気な顔を、泣いて謝っても許して貰えない絶望の顔に染め上げるわ!!」

「っ……パッチ! 勝とうね!

 絶対、許しちゃいけない相手なんだから!!」

 

 大事な大事な思い出の地を、故郷のみんなも大好きなシンジ湖を荒らし回る者達への怒りを、今一度胸の奥から呼び起こして。

 恫喝混じりのマーズの怒声に、パールは声量のみならず、気力でも全く劣らない芯の強さを取り戻し、勝利を勝ち取らんとする魂を燃え上がらせる。

 そんな二人の気迫に応えるように、パッチもヘルガーも大きく吠え、対峙する相手を叩き潰してやるという闘志を、これ以上ないほど表すのだ。

 

 ギンガ団の幹部に初めて単身で挑むパール。

 後で思い返せばぞっとするほどの挑戦の真っ只中にあるパールにとって、これまでの人生最大級の戦いが幕を開けていた。

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