ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第92話   さらにプラッチといっしょ

 

 

「ふるるる……さむさむ……」

「擬音でコミュニケーション取ろうとするのやめない?」

「これあったかい格好してこなかったら絶対ムリだったね。

 ナタネさん本当にありがとうございました、超助かってます」

「本当に、北に向かえば向かうほど気温が下がっていくんだね。

 ハクタイシティやカンナギタウンからそこまで大きく離れるわけでもないのに……

 キッサキ方面の寒冷地ぶりは本当に不思議だな」

 

 ハクタイシティの東の洞窟から、テンガン山内部へと踏み込んだパール達。

 この洞窟を真っ直ぐ東へと抜けきれば、山を隔てた反対側のカンナギタウンに渡ることが出来る。

 しかし、その道を途中で北へと進めば、シンオウ最北の街キッサキシティへと到達するルート。

 少し前には土砂崩れにより、北への道が塞がっていたそうだが、今は近隣住民の尽力の甲斐もあって道が開いている。

 道の脇にしばしば散見する、大きな岩を砕いた残骸らしきものは、数日前の作業の名残であろう。

 

「うひえ~、今度は霧?

 山の中にまでこんな濃い霧って凄いね」

「うーん、霧ってつまりは露点に触れた大気が水滴化したものだから……

 外ならともかく洞窟内で……もしかして気圧が……」

「エンペルトさん、"きりばらい"よろしくお願いしまーす!」

 

 パールがプラチナのエンペルトに指示を出している。

 そして出てきてくれるエンペルトさん。ちゃんと霧払いして、洞窟内の視界を最悪にしていた濃霧を吹っ飛ばしてくれる。

 

「なんでパールが指示してるの。

 エンペルトもなんで出てきて従ってるの」

「考察より先に霧払いだから! 濡れるでしょ!」

「――――」

 

「エンペルト、今日ごはん少なめね」

「!?」

「あっ、パワハラだ!

 エンペルトさん、ひどいご主人に愛想尽かしたらうちにおいで!

 うちはホワイトだよ!」

「~~~~」

 

 お馬鹿なやり取りをお楽しみである。

 ごはん少なめと言われて大げさに驚いてみせるエンペルト、勧誘するパール、そしてあっさりパールの方に歩み寄って鞍替えを演じるエンペルト。

 どうやらパールは、プラチナのポケモン達ともすっかり打ち解けており、こんな茶番を演じられるほど仲良しらしい。

 

「おーい、ミーナ。

 君もパールに不満が溜まってるんじゃないか?

 うちのエンペルトと交換する形でウチにこない?」

 

「あっ!?

 こらミーナ、ほんとに出てきてそっちに行っちゃうやつがいるかっ!」

「~~~~♪」

 

 プラチナも茶番で反撃だ。

 こういう時にパールを困らせる役回りをするのが好きなミーナの性格はよく知っている。

 プラチナの声に反応してボールから出てきて、プラチナの方に駆け寄ってすり寄れば、抗議するパールにお尻ふりふりしてからかってみせる。

 プラチナもプラチナで、パールのポケモン達ともしっかり打ち解けているのだ。

 トレーナーとポケモンを一世帯に例えるなら、ずっと一緒のパールとプラチナなんてお隣さん同士のようなものだし、付き合いも家族ぐるみみたいなものだ。

 

 実のところ。

 パールのポケモン達はみんなそうなのだが、パール以外にそのニックネームで呼ばれたりしても、びっくりするぐらいガン無視する。

 パールに貰ったパールと繋がる大事な大事な名前、他の誰に呼ばれても癪に障るらしい。あの温厚なニルルでさえそうなのだから、案外みんな我が強い。

 以前シロナと一緒に行動していた時、シロナが試しにピョコ君と呼びかけてみた時、露骨に無反応を見せた時は流石にパールも驚いた。

 例外はプラチナだけなのだ。それだけこの二世帯の繋がりは強い。

 

「ぬぐぐっ、エンペルトさんの力を借りてミーナにお仕置きしてみたい」

「後からミーナに直接仕返しされるよ」

「ほらもう、ミーナ戻っておいで。

 敵対ポジションにいられるとなんだかな~って気分に……っ、い゙っ!?」

 

 おふざけ茶番の落とし所を探っていたところ、パールが急に目も覚めるような声を発し、その手で頭の横を押さえた。

 蜂にでも刺されたかのようにだ。

 くすくす笑っておふざけしていたミーナも、すぐにやめてパールに駆け寄り、大丈夫かとばかりに彼女を見上げる。

 

「また頭痛?」

「う、うん……なんだろう最近、急にくるんだよね。

 すぐにおさまるんだけど……いたたたた……」

「やっぱり気圧が低いのかな?

 それだと霧が出るほど露点が下がるのも……」

「プラッチうるさい、それいらない、余計アタマ痛くなるんですけど」

 

 くっそ真面目に頭痛の原因を考察し始めてくれるプラチナに、パールも半分は冗談と理解して苦笑いであしらっておく。

 表情が苦さ含みなのは、すぐにはおさまると言いながら、今は相当にきつい頭痛ということなのだろう。

 低気圧が頭痛を引き起こす例は無いでもないが、パールの頭痛には無関係だろう。先日から断続的に生じている頭痛だ。だからプラチナの考察も冗談である。

 

「少し休む?」

「んや~、このまま歩いていこ。

 どうせちょっとずつおさまっていくし、じっとしてたらよくなるカンジでもないし。

 ありがとミーナ、心配してくれて」

「――――!」

 

 ぷいっとパールから顔を逸らして腕を組むミーナである。

 別にあんたのことなんか心配してないし、という仕草。どツンデレ。

 素直になれないミーナの不器用さなんて百も承知のパールは、胸を温かくした上でミーナをボールに戻すのみである。

 プラチナもエンペルトをボールに戻して、二人で再び北へ向けて歩きだす。

 

「ふへー、おさまってきた。

 プラッチありがと、おさまるまで敢えて黙っててくれてるでしょ」

「まあ、本当にしんどそうだから。

 自分のことでもないのに伝わってくるぐらい、パール結構つらそうな顔してるよ」

「え、ほんと?

 じゃあ次はもっと平気なフリしてみよ」

「何それ、いらない努力でしょ」

「ただ苦しめられるよりも何かにチャレンジするきっかけにして、自分を成長させてみようぜ精神? 的な?」

「たくましいけどいらないやつ」

 

 頭痛がおさまってくると、パールもしばらく黙っていたのを取り返すかのように饒舌になる。

 頭痛に苛まれている時のパールは本当につらそうなのだ。何せあのおしゃべりパールが無口になるのだから。

 今日も一旦おさまったと見て、プラチナも一安心。

 出来れば明るい話題を振って、彼女の労をいたわってあげたいところでもあるが。

 

「あのさ、パール。

 言おう言おうと思ってて、なかなか言えなかったことがあるんだけどさ。

 きっかけが無くって」

「え、何?

 もしかして告白とか貰えちゃったりする?」

「いや、違うから……」

 

 それは別の機会にやりたい本音があるプラチナだが、今はそれではないので。

 寒くなりつつある中、パールは両手を口元に近付けてはぁ~っと息を吐いて温めつつ、プラチナの方を向きもせずそんなこと言ってくる始末。

 絶対無いだろうと思ってるからこそ、冗談でそれを言えてしまうパールということである。罪作りだこと。

 完全に冗談で冗談でそんなこと言われる辺り、なんだか脈が無い気がして内心テンションの下がるプラチナである。

 

「ギンガ団の話。

 パール、次に手の届く場所であいつらが動いた時、どうする?」

「……………………先のことはわかりませんねぇ」

「絶対行くでしょ。

 前科何犯あると思ってんの」

「でへへへ……」

 

 口ぶりこそふざけまくっているパールだが、相当気まずそうな顔をしている。

 リッシ湖に乗り込んで、シンジ湖に突っ込んで、プラチナに絶交寸前までされて、お母さんにもこってり絞られて。

 蒸し返されると風化できないレベルの自覚はパールとてある模様。

 

「これから行くキッサキシティのそばには、エイチ湖と呼ばれる湖があるわけですよ。

 シンジ湖やリッシ湖に並ぶ、シンオウ地方の三大湖ですね。

 ところでギンガ団はリッシ湖に続いてシンジ湖も襲撃したわけですが、エイチ湖にも襲撃をかけてくる想定は出来ないでしょうか」

「プラッチ、敬語で詰めてくるのやめて。

 なんかこう、既にめちゃくちゃ叱られてるみたいで胸がきゅうっとする……」

「別に怒ってるわけじゃないんだけどさ。

 仮に、仮にだよ? 僕らがキッサキシティにいる間に、もしも今までのようなことがあったら、って僕は思わずにいられないんだよ。

 パール絶対に飛び込んでいくだろうから」

「ハイッ」

「は? 開き直ったら許されると思ってる?」

「すいませんごめんなさい調子乗りました許して下さい」

 

 優劣確定の話題である。

 ちょっとプラチナが強めに出れば、あっという間に降伏して腰を曲げてしまうパール。反省しているのは本当なのだろう。

 あんまりいじめても可哀想なので、プラチナも小さく笑う息遣いをあらわにして、大丈夫だからという空気は出してあげておく。

 

「でもパール。

 ナタネさんにあんなことをするのが、本当の悪党っていうものだよ。

 マニューラを差し向けたのが誰なのかはわからないけど、ギンガ団だって同じことをやってくる連中の集まりなのは確かだしさ」

「それは、うん……

 ハクタイシティのビルでもそうだったし、リッシ湖でも多分そうだったし……」

 

 ナタネを襲撃したのはギンガ団ボスの差し金だが、その事実を知り得ないパール達とて、ギンガ団はそれと同等のことをしかねない者達だという認識はある。

 ギンガハクタイビルでのジュピターはスカタンクに、パールに向けて火炎放射を放つ指示をした。

 リッシ湖でのサターンはパール達に対し、ギンガ団を妨げるつもりであるなら闇に葬ることも厭わないと恫喝した。

 ギンガ団に立ち向かうことの危うさは、現にナタネという親しい人が血みどろにされた今、改めて無視できぬほど浮き彫りになっている。

 

「そこまでわかってても、パールはいよいよとなれば挑みたがるの?

 本当に殺されるかもしれないんだよ?

 もしもそんなことになったら、お母さんだって凄く悲しむと思うよ」

「……………………」

 

 お母さんを引き合いに出されるとパールも苦しい。

 大好きなお母さんだ。一番、悲しませたくない人。

 先日、その切実な声を電話で聞いたばかりだからこそ、パールもプラチナのきつい詰問にすぐには返答できない。沈黙も生じよう。

 

「好きにすればいいよ、パールは。

 やりたいようにやればいい、ちょうどそれをサポート出来る友達もすぐそばにいる。いつだってね」

「プラッチ……」

「僕が、パールを守ってあげればいいんでしょ。

 結局、僕はあれだけ言っておきながら、パールと絶交できなかったんだしさ。

 パールはどうせ、その時が来たら立ち向かっちゃう自分が見えてるでしょ。

 僕だって、そんなパールに振り回されて、結局見捨てられない自分が見えてるよ」

 

 なんだかとげとげしい言い方になっているが、要は"何があっても僕がパールをサポートするし、絶対に守ってみせる"という内容でしかない。

 素直にそう口に出来ないのは、ミーナとは違う意味での不器用さ。

 だって暴走パールのフォローは本当に大変だもの。守ってあげるから好きにしていいよ、なんて明け透けに言って、調子に乗られてもそれはそれで本気で困る。

 プラチナも自分の腹の内を打ち明けるためだけに、妙な駆け引きを余儀なくされる話題である。

 自分で始めた話題なのであまり文句は言いづらいが、この面倒さの全ての根源はパールなので、ちょっとは意地悪な言い方して困らせてやりたくもなる。

 

「だから、お好きにどうぞ。

 ……何があっても、僕が全力で何とかしてみせるから」

 

 この言葉を、露骨にパールから顔を逸らして言うプラチナ、思い切ったことを言っている自覚はあるのだろう。

 覚悟の問題ではない。そんなものは、彼女と絶交しなかった時からずっと決めている。

 男の子というのは、女の子にきざったらしい言葉一つ言うだけでも、小恥ずかしさで大変だという好例である。

 

「……………………ありがとう、プラッチ」

「別にいいよ。

 僕が勝手に決めてることだから」

 

「……私、本当にプラッチに甘えてばっかりだよね」

「……別にいいよ、それも。

 僕も、パールに頼りにされるのは悪い気してないから」

 

 友達だからね、とプラチナは続けるつもりだった。

 でも、それはぎりぎりのところで"感情"が封じ込め、口にできなかった。

 友達で終わりたくない本心がある中で、たとえ照れ隠しでも、それを口にしてしまうのは嫌だったのだ。

 本当にプラチナは大変な立場である。照れ隠しすら儘ならないんだから。

 

 見返り無き献身を誓ってくれるプラチナに対し、そもそも今までですらそうであってくれた、プラチナという親友の尊さを今改めて思い返すパール。

 身の丈に合わぬかもしれぬ誓いを口にして、しかし必ず最後までやり遂げる意識を強め、同時に、自分のパールに対する想いを再認識するプラチナ。

 きっと、初めてのことだ。

 二人ともが、お互いを意識した上で生じる、同じだけの、強い、とくとくと胸を打つ鼓動に息苦しくなる時間。

 今ばかりは、パールもプラチナもお互いのことで頭がいっぱいになり、無機質な足運びで北へ進む中で胸のざわめきにばかり意識が向く。

 今までのそれとは少しずつ移り行きつつあった、互いの大切さ、掛け替え無さを、テンガン山を進む二人は意識せずにはいられなかった。

 

 北上するにつれて下がるはずの気温。

 二人はその事実とは裏腹、顔が熱くなるほどの胸の高鳴りに集中力を奪われ、やがては無言で横並びに歩き続けるのみとなっていた。

 寒ささえ意識できなくなるほどなのだから、それだけ自分と、相手のことで頭がいっぱいになっていたということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひいっ!? さっむぅっ!?!?!?」

「いや~……

 いざ目の当たりにすると震えるねぇ……」

 

 そしてテンガン山を抜け、キッサキシティへと繋がる216番道路へと足を踏み出した時のこと。

 すっかり忘れていた気温の下降ぶりも、目の前の景色を見ればもう忘れてなどいられない。

 暦はまだ秋半ばだというこの時期、すっかり雪の降り積もった216番道路は、シンオウ地方の寒冷特異点の玄関口の有り様を、洗礼じみて見せつけてくれる。

 

 シンオウ地方は元より北国であり、真冬になれば地方全土で雪が降る程度には、地方全体が寒冷地であるのも確かである。

 しかし、それにしたってキッサキシティ近郊のシンオウ地方最北部は、雪が降るのもかなり早い。

 具体的に言うと、毎年10月には必ず雪が降り、5月を迎えてようやく雪がやむ。

 お空様の機嫌によっては、9月にはもう雪が降り始め、5月になっても未だ銀世界という年もあるほどだ。

 シンオウ地方の寒冷特異点と言われるだけのことはある。本当に、ここだけ異国かの如く寒さが別次元なのだ。

 

 今日は中秋。シンオウ最北部はとうに雪の降る時期に至っている。

 216番道路は既に、分厚く積もった雪で真っ白だ。

 足跡をつけずに歩くことは絶対に不可能だろう。こんな景色を目の前にすれば、忘れていた寒さも一気に無視できなくなる。

 

「ぷぷぷプラッチ……

 スカートは失敗だったかもしれませぬ……」

「あー、うん……だから言ったでしょ、とは言わないよ……

 僕もここまで寒いとは思わなかったしさ」

「心の準備が出来てないよ~!

 こんなにも寒いなんてぇ~!」

 

 ちょっとぐらい、あるいは思ったより寒くたって、根性出して脚を晒したお洒落を貫くのだと豪語していたパールである。

 こいつぁ厳しい。想像以上が過ぎる。

 肌寒さこそあれど、ひやっとする程度のハクタイ以南の世界から、山を越えれば雪国というここへ足を踏み入れれば覚悟もへったくれもない。

 体感温度20℃近く下がる世界へ、転移されてきたようなものである。

 今も空から雪がしゃんしゃん振ってくる寒冷地、風晒しの太腿を両手ですりすりして温めるほどパールへのダメージは大きいようだ。

 

「…………」

「なにプラッチ! 人のことじろじろ見てっ!

 そんなに弱ってる私を見るのが楽しいかっ!」

 

「怒られるかもしれないけど、はっきり言っていい?」

「怒るよ! さあ言え!」

「女の子がそんな風に生足さすりまくってる姿、かなりはしたないよ……」

「っ、かっ……

 このっ、どスケベ~~~~~っ!!」

 

 赤ら顔でパールから目を逸らして言うプラチナって紳士的な方。

 身をかがめて自分の太ももを両手でさすっていたパールだが、指摘されるとプラチナに脚を見られていたことに気付き、急に恥ずかしくなってくる。

 後ずさって股の間に両手を挟み、こっち見んなと恥じらうパールの真っ赤な顔に、そんな顔するぐらいなら元から気を付けてくれよと心底思うプラチナ。

 大抵この手の事案では女性優位だが、きっとこれは男の子の意見が正しいケース。

 

「あのさ、パール、大きな声はやめよう?

 雪崩が起こるよ」

「うぐぐっ……!

 雪山を味方につけて反論とは卑怯なっ……!」

 

 取り乱したパールを制する言葉のチョイスが絶妙なプラチナである。

 プラチナが指差すのは、今しがた自分達が出てきた洞窟入り口の遥か背面、高々とそびえ立つテンガン山。

 雪の降るこの近辺の山肌は既に真っ白に染まり、大きな声を出すと雪崩が起こるかもしれないよと言ってパールを黙らせる算法である。

 実際のところは、大声によって雪崩が起こり得るか否かなんていうのは眉唾ものだが、北国のシンオウ地方ではよく信じられる俗説である。

 

「あれが"やりのはしら"かな?」

「こらプラッチ。

 話を逸らすんじゃない」

「ごめんって、僕が悪かったですよはいはい。

 いいじゃん僕もこっち側からあれを見るのは初めてなんだから」

「ん~、確かにこっちから見ると近くてはっきり見えるね」

 

 ちょうどテンガン山を眺める形になったので、プラチナから世間話が振られる。

 自分の生足をさするパールの仕草を見ていたことで、ちょっとどきっとさせられたのを看破される空気をさっさと流してしまいたいらしい。

 パールも話を逸らすなとは食い下がるが、プラチナの指差す方を見て、地元じゃ見られなかった眺めを前にすればその話題に付き合う頭になる。

 何だかんだでパールもわざわざ積極的にプラチナと喧嘩はしたくないし、争いを避ける流れをプラチナが主張したら、だいたいのことは水に流せるらしい。

 

「普通、ああいう山っててっぺんほど白いものなんじゃないの?」

「標高の高い所ほど気温が低くなるし、雪も残りやすいからね。

 テンガン山の標高が高い所は、真夏以外は年中白さが残ってるよ」

 

「プラッチさぁ、そういう小難しい解説はどうかって思うよ。

 つまんないとまでは言わないけどさ」

「うっ……よ、良くなかった?」

「悪いとは言わないけど、なんだかな~。

 勉強させられてるみたいでヤだ。

 もっとこう、すごいよねぇ、ぐらい言ってくれる方が楽しい」

 

 景観を二人で眺めて、プラチナの発するコメントが小難しくて、パールもついつい苦笑い。

 これが彼の個性なのであって、別に罪でもなんでもないし、パールも別に退屈はしていないのだが、かすかでも情緒を含むことを仰ってもらいたいものだ。

 とりあえず、モテるコメントではあるまい。そういう話である。

 デートしている時にこういうコメントを発するより、もう少し考えて適解を求めるぐらいの方が、恐らくプラチナには丁度いい。

 

 別にデートでも何でもない今、そういうことを突っ込まれるのも少々酷ではあるが。

 でも、プラッチと共に過ごす時間に、自身も気付かぬうちにもっとあれこれ彼へ何かを求めている事実は、ある意味貴重な予兆なのかもしれない。

 今は二人とも、そんな本質に気付きようはないけれど。

 

「でも、理屈はときどき大事だよ?

 あんな風に山のてっぺんだけ、あんな風に雪が積もってないっていうのは、本来やっぱり異常なことだからさ」

「それはわかる。

 やっぱりあそこって、テンガン山の特異点ってやつなんだよね」

 

 さておきプラチナの小難しい話が表すとおり、二人が遠方に見上げる山の頂上は、理屈に合わぬ色模様だ。

 てっぺんは雪を纏わぬ岩肌色、その僅か下は雪に覆われて真っ白、そして標高が下がるにつれて山本来の色を取り戻していく巨峰が一つある。

 てっぺんほど気温が低く、雪も残るはずだという理屈に反するそれは、その山の頂上に神秘性を感じるには充分であろう。

 テンガン山の北寄り位置にある、最高峰を誇る巨山の最上部、それが"槍の柱"と名付けられて特別視される聖地の如き場所。

 踏み入れば、そこには古代遺跡の祭壇めいたものもあり、シンオウ神話の真核を司るのがそこであるのではないか、とさえ囁かれる場所だ。

 神話の多いシンオウ地方だが、特段あの場所ははっきりしていないこともあり、考古学者にとっては永遠の注目対象である。

 

「ねぇねぇプラッチ、いつか二人であそこ目指して登ってみない?」

「え?

 まあ、僕も一度は行ってみたい場所ではあるけど……」

「あはは、そうだよね。

 私がもしもバッジ全部集められたら、一緒に行ってみようよ!

 きっと楽しいよ!」

「ぼ、僕は願ったり叶ったりだけど……

 意外だな、パールがあんな場所に行きたがるなんて。

 遺跡みたいなものだよ? そんなに行きたい?」

「プラッチは行きたいみたいな顔してるもん。

 二人で行けば楽しいよ、ぜったい!」

 

 学者の卵であるプラチナは、一度は槍の柱に行ってみたいという願望もある。

 そんな彼の気持ちを語り口などから推察し、じゃあ行ってみようと言ってくれるパールなのだと、プラチナも今わかった。

 二人で行けば楽しい。そう、パール自身が言っている。

 プラチナの行きたそうな場所に、一緒に行ければ私も楽しい、と言っているに等しい。

 親しい友達との旅行なら、行き先がどこであっても楽しいものだ。それだけパールにとって、プラチナはそんな親友であるということだ。

 ついついプラチナも、胸が温かくなるものである。

 

「……じゃあ、パールも頑張ってよ?

 バッジ全部集めてくれなきゃ、いま言ってくれたことも叶わないでしょ」

「任せなさいっ!

 私にはピョコもパッチもニルルもミーナもついてるのだっ!

 トウガンさんにはすごく苦戦したけど、ここからもっと頑張るよ!」

 

 嬉しいプラチナだ。

 返す言葉は素直じゃなかったけれど、パールはそんなこと気にしない。

 バッジは集めきりたい。大変かもしれないけどやりきってみせる。

 そしたらプラッチの行きたそうなあそこに、二人で遠足するきっかけも出来た。

 それを嬉しそうに口にするパールの姿が、自分との時間を大事にしてくれてこそのものだと、鈍感に見過ごすプラチナではない。

 

「それじゃあ、キッサキシティを目指していこうか。

 すごく寒いけどね」

「うっ……さむさむさむっ!

 思い出させないでよプラッチ! 急にさむくなってきた!」

「やっぱりスカートは無防備だったんじゃないの」

「ちょ、ど、どこ見てんのっ!

 こっ、このエローーーーーっ!!」

「だから大きな声は駄目だって……雪崩が起こるよ」

「うるさいっ!

 どすけべプラッチっ! いつかセクハラで訴えてやるっ!」

「はいはい、その時は全力で戦いますよ」

 

 お馬鹿さんなやりとりに苦笑しながら、キッサキシティ方面に向かって歩きだすプラチナに、パールはぷりぷり怒ってついていく。

 生足に吹き付ける雪風が冷たくて、常に唇をきゅっとしながらだ。

 きっちり防寒完備の服でここまで来たプラチナと、ナタネさんから貰えたコートだけに甘えたパールの差は、やはり小さくないらしい。

 プラチナは堅実だ。パールは感情に忠実ゆえ、しばしば不安定。おしゃれこだわりでスカート一枚の下半身で雪地に踏み込むのは、やはりかなりの冒険としか。

 

 同じシンオウ地方であっても、山を越えて辿り着いたキッサキシティ近辺の地方北部は、さながら外国の北国のように寒さが一変する。

 パール達は、まるで新天地か外国にでも訪れたかのように、今まで歩いたことのない新天地を歩いている心地だったものだ。

 ここだけこんなに雪が降って別世界みたい。

 旅路の中で巡り会う、新鮮で今までに経験したことのない体験というのは、広域を旅する冒険者が味わえる最高のスパイスである。

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