ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第95話   キッサキシティ

 

 氷、煌めく冬の街。

 もっとも簡潔にキッサキシティを語るフレーズであり、一年の殆どを雪に包まれて過ごす街である。

 よほど暖冬の年でもない限り、10月から翌年の4月までは常に雪が降るほど寒く、同じシンオウ地方の中でも浮いた異色の土地柄だ。

 長い歴史上においては、最速で9月半ばに雪が降った年もあり、最も長引いて5月末まで雪が降り続いた年もあるそう。

 万年凍土の地は外国に行けばあるが、同じシンオウ地方内において、ちょっと最北地だからというだけでここまでの寒冷地というのはやはり特筆点だろう。

 

 他の街ではちょうど秋も後期というこの時期、キッサキシティはとうに真っ白。

 シンオウ地方で一番雪が降るのが早い街として有名なこともあり、他の街には雪の気配一つ無いちょうどこの時期は、観光客もそこそこに増える。

 夏の避暑地としての需要には劣るが、今年の雪を一足先に楽しみたい人達の需要を満たすということだ。

 ジム挑戦を目的としてキッサキシティを訪れたパール達だが、結果的に、今年の雪を他の街で過ごすより一足先に堪能する機会でもある。

 個性的な街の多いシンオウ地方は、旅そのものが目的とは別に楽しく、刺激的。それを最も象徴する街の一つが、キッサキシティとも言えるかもしれない。

 

「んん~、さむっ。

 もうちょっと涼しい程度に抑えてもらいたい気分」

「この風景でちょうどいい涼しさは期待できないねぇ」

「でも建物の中にいると暑いよ。

 運動しすぎたっぽい」

「色々と急いだもんね」

 

 ポケモンセンターに駆け込んだパール達は、ニューラは勿論、他のポケモン達も預けて一度外に出ていた。

 ほんのついさっきまで、一秒でも早くニューラを何とかしてあげなきゃの精神で、一貫どたばたしていた二人。

 寒い寒い豪雪の中であったとはいえ、あれだけ激しい運動と急ぐ行動を重ねていれば、流石に身体も内からぽっかぽかである。

 ピョコの背中に乗せて貰い、自分の脚では走っていない時間も多かったが、あれはあれでしがみつくのに力が入るから、案外体が冷えもしないのだ。

 

 ポケモンセンター内は、中の人が風邪を引かないよう暖かくされているため、今のパール達にとっては防寒着の下が汗で滲むほど暑い。

 コートの下がじわぁっときているパールなんて、先にシャワー借りない? なんてプラチナに提案していたぐらいである。

 こんな時間にシャワーなんて浴びたら、湯冷めして風邪を引きかねないから今日はもう外に出づらくなる、という理屈で却下されたのだが。

 

「あ~でも身体が冷めていく感じがすっごいする。

 やっぱりひえっひえだね、キッサキシティ」

「そりゃパールそんな格好だし」

「ちゃんと長いの履こうかなぁ。

 ハイソックスぐらいなら検討してみたい」

 

 こってり厚着しているプラチナと違い、スカートなので脚が風晒しのパールは、やはりプラチナより寒さの痛感が早い。

 おかげで汗が引くのも早そうだが。

 そして、ある程度のところで見切りをつけて建物の中に入らないと、今度は汗が冷えて風邪を引くかもという懸念もあったり。

 雪とは無縁の地から山を越え、一転寒冷地へと参じた初日などは、体調管理に気を付けすぎるぐらいで丁度いいぐらいかもしれない。

 

「ちょっと早いけど戻る~。

 プラッチはもう少し涼んどく?」

「いや、別にいいよ。普通に寒いし。

 耳がひえひえ」

「耳たぶぺちんすると痛いぐらいには寒いよね」

「しなくていいじゃん、わざわざそんな」

 

 自分の耳を指先で弾いてみるパールの行為にプラチナが笑いながら、二人はもう一度ポケモンセンター内へ。

 ニューラの傷はやはり深かったようで、治療に少し時間がかかるかもしれないとポケモンセンターのお姉さんには言われている。

 温かい飲み物を買って、まったりとしながらお喋りし、終わりましたよの声をしばらく待つのみだ。

 

 やがてパール達の名が呼ばれ、預けていたポケモン達の入ったボールを受け取ったら、二人は改めてポケモンセンターの外へ。

 怪我が治ったであろうニューラのボールだけは鞄に入れず、手にしたままでポケモンセンターの玄関口をくぐるパール。

 ご挨拶の時間だ。パールはニューラのボールのスイッチを押す。

 

「…………」

 

「怪我はもう大丈夫?」

 

 雪上に姿を現したニューラは、深手があったはずの今は綺麗になったお腹をさすり、少し気まずげにパールの顔を上目遣いで窺っている。

 好意的でない態度にも見えそうだが、ばつの悪い表情から察するに、助けて貰ったことへの感謝自体はありそうだ。

 どちらかと言えば、こんな風に優しくしてくれる人に、あんな風に抵抗した自分に対する自責があると見える。

 

「なんだか、成り行きであなたのこと捕まえちゃったけど……

 よかったら、これからも私達と一緒に来ない?

 どうしても嫌だって言われたら寂しいけど、私はあなたと一緒にいたいな」

 

 いい返事が聞けますように、と少し緊張気味のパールが、膝を曲げてニューラに握手を求めるように手を伸ばす。

 ようやく顔を上げ、パールの顔を真っ直ぐ見据えてくれるニューラが、少し悩むかのように足先をもじもじさせる時間が、パールにとってはどきどき。

 拒絶的な反応をされたら、と思えば怖いところだ。

 

「…………――」

 

 しかし、不安はすぐに晴れた。

 ニューラは照れ臭そうにようやく表情を緩め、傷のあったお腹をさすりながら、短い鳴き声と共にパールに向けて頭を下げる。

 お礼を伝えたいのだろう。友好的な態度。

 ぱあっとパールの表情が明るくなる中、ニューラはパールの手を握ろうとその手を伸ばしてくれた。

 

 しかし、爪の鋭い自分の手ではパールを傷つけるかも、とでも思ったか、手首を返したり指先を曲げたり、ちょっと悩む素振りも見せる。

 こんな風に気を遣ってくれる優しさが嬉しくて、パールはそっと自らニューラの手を握ってあげた。

 氷タイプのニューラの手はやや冷たい。そしてそんなニューラにとって、パールの手は温かい。

 これからよろしく、という想いを、微笑むパールとはにかむニューラが言葉無く交わし合い、良い間柄として二人の関係は始まりを迎えられたようだ。

 

「――――z!」

 

「わわっ?

 なんで? ミーナ?」

 

 パールに5人目の友達が出来たことが確定した瞬間、鞄の中のボールからミーナが飛び出してきた。

 元々呼ばれなくても勝手に出てくることも多い子、タイミングも神出鬼没。

 何のつもりかわからず戸惑うパールだが、ミーナは新しい友達ニューラに歩み寄ると、まずは握手を申し出る仕草。

 ニューラも社交的な方ではあるのか、上手にミーナの手を傷つけないよう握手して、友好的な意志を表明する。

 

「――――、――――――」

「――――――?」

「――――!

 ――――――!」

 

「ミーナが先輩風を吹かせている」

「後輩が出来たみたいで嬉しいのかな?

 確かにミーナにとっては初めての、自分よりも後にパールが捕まえたポケモンだもんね」

 

 ニューラに話しかけるミーナは、ポケモン同士の言葉で語らいつつ、身振り手振りもあれこれ多い。

 どんな会話かはわからないが、どこかしらエラそうである。胸を張ってぽんと叩き、私のことを覚えておきなさいよという態度たるやまさにそんな感じ。

 ニューラはニューラで、愛想良く笑って応じており、好意的な対応だ。

 子供っぽい所が目立つミーナに対し、ニューラの方がどことなく大人っぽい。

 

「ミーナ、おいで。

 ここじゃなんだから、街の外に行こ。

 そこでみんなと一緒に、ニューラと遊ぼっか」

「――――!」

 

 街の真ん中でみんなをがやがや呼び出すのもしづらいため、パールの提案でキッサキシティの入り口付近まで行くことに。

 街から出た場所でみんなボールの外に出て、親睦会というところだ。

 結果的にここまでの旅足が急ぎ気味であったせいもあり、夕暮れ時までまだ時間がある。

 パールの嬉しい提案にぴょんと跳ねて喜びを表したミーナは、ニューラの手を握り、行こう行こうと駆けだすのも早い。

 ぐいぐい来られて足がもつれそうになりながらも、しっかりすぐに足をついて行かせて走れる辺り、良い足捌きをするニューラである。

 

「は、早いね~……プラッチ、急ごっ!」

「今日は走ってばっかりだなぁ」

 

 置いていかれてしまいそうなので、パールとプラチナも駆けてミーナ達を追う。

 しょうがないなあの子は、なんて気分にさせられながらも、その内心では二人ともわくわくしている。

 新しい友達が出来て、みんなで遊ぼうというこの瞬間のわくわくは、ちょっと他ではそうそう経験できないほど胸を満たしてくれるものだ。

 

 ポケモントレーナーは、最大6匹のポケモンを連れて歩ける。

 その一枠をあのフワンテと決めているパールにとって、5人目の友達となったニューラは、未定だった最後の枠。

 パールの思うフルメンバーは、この日どうやら確定した。

 きっと、一生涯の友達になる。チャンピオンになりたいという大きな夢を、共に追い求める仲間達への思い入れは、これからどんどん膨らむ一方なのだから。

 今ですら、充分すぎるほど思い入れのあるみんな。それでも、今よりもっともっと大好きになっていける。それがポケットモンスターだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのニューラって、女の子?」

「赤い耳が短いからメスだろうね。

 オスだったら赤い耳が長いはずだから」

「うちの子達、いま女の子比率が勝っちゃってるのかぁ。

 あ、プラッチ、ポッキンいる?」

「ありがと」

 

 キッサキシティを西に出てすぐのところで、パールとプラチナのポケモン達全員が、ニューラを中心に遊んでいる。

 ピョコだけはこの寒さの中では活動的に遊ぶ気にはなれないらしく、パールやプラチナと一緒に、遊んでいるみんなを眺めている立ち位置だ。

 正直、雪の中を走るのは足が冷たいので好みではないようで。パール達を乗せて走ってくれた時のように、必要とあらば仕事はするというだけで。

 

 ピョコの背中に座らせて貰っているパールとプラチナは、早くもみんなと打ち解けて楽しそうに遊ぶニューラを見て、ともかく微笑ましい。

 ちゃっかりポケモンセンターでお菓子を買っていたパールと、二人でそれを美味しく食べながら、あの微笑ましい光景を眺めるのみ。

 見ているだけで楽しい。至福の時間である。ちょっと寒いのも気にならない。

 

「あの耳がちょっと欠けてるのは、ケガじゃなくて個性なのかな。

 ケガだったら、ポケモンセンターで治せて貰えてるよね?」

「あるいは、野生の時に欠かしてから、古傷になってて今はもう治せないのかもね。

 僕達も人間も深い傷が出来てずっとほったらかしにしてたら、傷跡になっちゃうし」

 

 ニューラの雌雄を見分ける指標にもなり得る赤い耳だが、あのニューラの赤耳は、ネズミにかじられたかのように少し欠けがある。

 別段、生きていくために困るほどの傷ではなさそうだが些か特徴的。

 他のニューラに交じっても、一目で彼女が探せる個性である。

 

「それにしてもあのニューラ、能力かなり高そうだよね。

 ニルルとバトルした時も、レベルの高い個体じゃないと扱えなさそうな"きりさく"攻撃を使えてたし。

 何よりミーナより脚が強そうってのは凄い」

「反復横跳び対決してるね。

 ミーナあれ得意なんだよね。でも、ニューラちゃんも負けてない」

「元々ニューラは足が速いポケモンではあるんだけどね。

 でも、パールっていうトレーナーにきちんと育てられてきたミミロルに、今の時点で既に匹敵する脚があるってかなりレベル高いと思うよ」

 

 基本的に、トレーナーにしっかり育成されたポケモンというのは、そう簡単に野生のポケモンに劣らないほど能力を得ているものだ。

 逆に言えば、捕まえたばかりのポケモンが、長らく連れ添った自分のポケモンに匹敵するほど高レベル、というのは比較的稀である。

 しかし、しばらく観察してみたところ、あのニューラの能力高さは明らかだ。

 脚が自慢のミーナに機敏さで勝るとも劣らず。

 また、数分前にはエンペルトと力比べごっこをしていたが、勝てはしないもののぐぐっと耐える時間があった程度には力も強い。

 近日中にキッサキジムに挑む予定があるパールだが、あれだともしかすると即戦力なんじゃ? という印象すら抱かせてくれる。

 苦戦必至の予感がする7つ目のジム、普通は手塩にかけて育てた仲間達で万端の挑戦と臨みたいところだが、あれだと話も変わってくるかもしれない。

 

「……っていうかさ、プラッチ。

 私、あのニューラちゃんって、ただの野生のポケモンじゃない気がするんだよね」

「ん? どういうこと?」

「昔、テンガン山でアカギさんに初めて会った時のこと覚えてる?」

「うん、それはまあ」

 

「あの時、私アカギさんとちょっとバトルさせて貰ったじゃん。

 ……あの時にアカギさんが出してきたニューラも、赤い耳が欠けてたような気がするんだよね」

「……………………そうだっけ?

 じゃあ、だとしてあのニューラは、元はアカギさんの育てたポケモンかもしれないってこと?」

「ん~……」

 

 正直、今となってはかなり前の話なので、その時の記憶も薄れている。

 あの時のアカギのニューラの耳が欠けていたかどうかなんて、細かいところまで思い出せる自信はパールも無い。

 だけど、どうもそんな気がするのだ。そして実際、それは正しい記憶である。

 

「それに、アカギさんに関連付けて思い出すと、もう一つ気になることがあるだよね」

「えぇと、もしかしてカンナギタウンでのこと?」

「そうそう。

 プラッチあの時のニューラの耳、どうだったか覚えてる?」

「いや~、流石にあの時そこまでは見てないよ」

「駄目かぁ。まあ私も全然覚えてないしね」

 

 次に思い出すのは、カンナギタウンでアカギと行動していたパール達を、野生と思しきニューラが急襲してきた時のこと。

 あの時アカギは、マニューラを出して対抗していた。

 あのマニューラは、テンガン山でバトルしていたニューラが進化したものなのかなと、その時のパールは考えたりもしたのだが。

 今こうして、あの時のニューラはアカギの手を離れ、野生のポケモンとして自分に捕まえられたのではという仮説があると、話も変わってくる。

 何らかの形でアカギと別れたニューラこそが、あの時アカギを襲撃した個体とイコールなのでは、という発想にも繋がってしまう。

 動機も何も想像つかないため、現実的な推察だとは現時点で考えにくくもあるが。

 

「思い返せばニューラっていうと、シンジ湖でもなんか乱入してきたニューラいたよね。

 ちなみにパール、あの時のニューラの耳どうだったか覚えてる?」

「無理無理、私あの時いっぱいいっぱいでそんなとこ見てる余裕なかったし。

 あの日は色々ありすぎたからさぁ」

「あぁ、そう言えば僕ら当時は絶賛絶交中だったんだよね」

「そーいうのもあって私はとっても追い詰められてたわけなのですよ。

 プラッチはどう? 覚えてない?」

「言っとくけど僕は僕で気苦労すごかったんだからね?

 余裕が無かったって仰るなら、当時の僕の余裕の無さも察して貰いたい」

「やぶへびだっ!

 はいはいっ、その話は終わりっ! 永遠に封印!」

「早いね、撤退が」

 

 蒸し返されると気まずさしかないのでパールは即逃げ。

 まあ、プラチナもわざわざあの日のことを深くつつく気は無いので結構というところ。

 その話になるとパールは何も言い返せなくなってしまうので、積極的にその話をするというのは、プラチナ目線ではパールをいじめている気分になってしまう。

 

「ニューラってこういう寒冷地にしか生息してないポケモンだから、この辺り以外でこんなにニューラと接点持ってる僕らって少し特殊だよね」

「まさかそれが、全部あのニューラちゃんっていうのは偶然が過ぎるから、無いだろうなとは思うけど……

 どれか一つぐらいは、実はあの子でしたっていうパターンあるのかな。

 ちなみに私は、やっぱアカギさんのニューラは耳欠けてたと思うし、あの子のような気がしてるんだけどな」

「まあ、一度は人の手で育てられてたなら、あの能力の高さも辻褄合うしね。

 それはもしかしたらあるのかもしれないな。

 そうならそうで、どうしてアカギさんと別れたんだろうな、っていうのは気になってもくるけれど」

「……ニューラちゃんに聞いてみたいけど、どうせポケモンの言葉はわかんないしなぁ。

 それに、もしもそこに良くない思い出があったんだとしたら、わざわざ思い出させるのも良くないかもしれないし」

「それは……うーん、あるのかもね。

 気にはなるけど、わざわざ尋ねたりしない方が、確かにいいかもしれないな」

「まあ、全部想像だしね」

 

 好奇心こそありながら、ニューラを慮って過去を詮索しないことを考えるパールに、出来たばかりの友達に心遣いの届くパールだなとプラチナも感じつつ。

 あくまですべて推測に過ぎず、自信の程も知れている空想に近い。

 思い至った今日のみこそ色々と気になるが、明日になる頃にはもう忘れていそうな話題に過ぎまい。

 この日限りの与太話として、パール達の意識からこの話題は流れていく。

 

「それはそうとパール、さっきからあの子のことニューラちゃんって呼んでるけど」

「ん? なにかヘン?」

「ニックネーム、つけないの?

 今までなんか、捕まえて挨拶したらすぐに付けてたよね?」

「あ~、えぇと、考え中で……

 あの子、けっこうムズかしいんだよねぇ……」

「そうなの?」

「一番最初に閃いて、絶対駄目で没にした名前が邪魔する」

 

 頭に葉っぱがあるからピョコ。

 ぱちぱちと静電気を放っていたからパッチ。

 にゅるにゅるする体だからニルル。

 大きくて可愛らしい耳が目立つミーナ。

 そうしたニックネームを、捕まえてすぐに閃いてきたパールにしては、今回あのニューラにニックネームを閃くまで時間がかかっている。

 

「やっぱりさ、ちゃんと可愛い名前を付けてあげたいじゃん?

 女の子だってわかったら、余計にさ」

「うん」

「それで、出来れば短くパッと呼べる、呼びやすい名前がいいじゃん?」

「二文字か三文字ぐらいってことね」

「ニューラ、って最初から(発音上は)三文字でしょ?

 出来れば二文字ぐらいの名前だといいんだろうなって思ってる」

「より呼びやすくするためには、ってことね」

 

「ニューラ。

 はい、短く二文字にしてみて」

「…………」

「…………」

 

「ニラ?」

「絶対駄目でしょ。でも私も一番最初にフッと頭よぎってる。

 ボツにはしたけど、頭の中でニューラ、ニューラ……って繰り返して考えてると、時々チラッと邪魔してくる二文字。強敵」

 

 流石に野菜の名前を大事な友達のニックネームには出来ない。

 もっとも、韮は胃腸の不調に対する改善作用があったり、高い薬効を持つ野菜なので、ニラという単語自体は思いのほかポジティブなのだが。

 まあそういう問題ではないので。

 

「"ニーナ"だとなんとなくミーナとかぶっちゃってるし。

 "ラーニャ"っていうのも考えたけど、それだとニューラって呼ぶのと気分的にそんなに変わらないし。

 今のところは"ユラ"が候補に残ってるけど、これはこれでニューラの面影少ないし、あの子の特徴の何かを拾ってる感じもしないしな~」

「けっこう苦戦してるんだね……」

「でも、絶対なにかいい名前つけてあげたいんだよね。

 っていうか、他の子達はニックネーム持ってるのに、あの子だけ無しとか絶対あり得ないし」

 

 思い付かずになし崩しに、ニューラちゃんと呼び続けるのだけは絶対に無い選択肢だ。

 悩ましくもあるが、パールにとっては絶対に解決したい問題。

 一人だけニックネームの無い、仲間外れみたいなことには断じてさせたくない。

 

「出来れば早く呼び始めて、あの子に馴染んで欲しいしねぇ……

 みんなが遊び終えるまでに、なんとか頑張っていい名前決めるつもりだよ」

「ごめん、僕そういうの得意じゃないから、あんまり力になれそうにない」

「いいよいいよ、こういうのは私が、私の力で頑張らなきゃいけないんだし。

 ニューラちゃんは、私の友達なんだからね」

 

 自分のポケモンのことだから、人任せにはしたくない。普通の発想だ。

 一度付ければ、何らかあって変えない限り、ずっと付き合うニックネーム。

 それこそ人に頼らずに、自分で考えて答えを出した方が愛着が出るというのを、パールだってわかっているのだろう。

 こんな大切なことを人任せに出来ないというのは、使命感とは別の感情である。

 

 悩んでいたパールだったが、どうにか最後には自分の中でも納得できる語感を選び取り、ニューラのニックネームを決めることが出来た。

 空が赤らんで、そろそろ帰ろうかとみんなに声をかけ、ニューラ以外の全員をボールに戻して。

 そしてニューラと膝を曲げて向き合って、あなたの名前は今日から――という旨を告げる。

 ニューラも喜んでくれていた。それが、パールにとっても嬉しかった。

 時間はかかったが、やっぱり人の力を借りず、自分で考えるのが一番だなってパールは改めて感じるのだった。

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