ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

97 / 160
第97話   キッサキジム

 

 

「エイチ湖に入れて貰えないんだよー!

 お前がシンジ湖に突入したからじゃないのかー!?」

「うぐぐっ、あんたにまでそれを突っ込まれるなんてっ……」

「気持ちはわかるけどな!

 俺達の故郷のそばで、あんな風に暴れる奴らのことなんて許せねーし!

 パールはあれでいいんだぞ!」

「こらこらダイヤ、パールを甘やかさないで。

 正義感は褒められてもいいのかもしれないけど、やっぱあの行動は褒められたものじゃないから」

 

 久しぶりに会ってみればやはり、ダイヤのうるさいことうるさいこと。

 普通の話し声がでかい。でもパールは慣れっこで、プラチナもダイヤはこういう子だって受け入れているのか問題視していない。

 会話も普通にこなしている。パールのシンジ湖突入を肯定されるのは絶対に嫌なので、そこだけは強く突っ込んでいくプラチナだ。

 苦労したし、一番心配したのは僕やお母さんであって、君じゃないんだぞという話。

 

「えー、いいじゃん!

 悪い奴を許せないって思うのは当たり前のことだろ!

 俺がもしそこにいたら、絶対俺だって乗り込んでいってたよ!」

 

「ほらパール、わかるでしょ。

 パールが主張してたこととそんなに変わらないよコレ」

「は、反省する……私、こんなヤツだったんだ……

 ダイヤと一緒の思考回路で暴走してたなんて最悪……」

「やっとわかったか」

「なんだってんだよー!?

 パール俺お前の肩持ってるんだぞ!? なんてヘコんでんだよー!」

 

 自分が猪突猛進単細胞のダイヤと同じ発想の持ち主だと突きつけられ、パールは肩を落としていじけてしまった。

 こうも見えて普段はダイヤとも、実のところ仲良しのパールであるが、こういう所は一緒にされたくないらしい。

 残念ながら当人の想いとは裏腹、パールも大概の突っ走りガールだが。

 

「ねぇねぇプラッチ、ちょっと本気で教えて?

 私って何パーセントぐらいダイヤに似てる?

 100%一緒とかじゃないよね?」

「150%」

「なにその数字!?」

「普段はきちんと物事考えられるし、やっていいこと悪いことの区別はついてるでしょ、パールは。

 だから普段はダイヤと比べると50%ぶんぐらいの突っ走り気味。

 でも感情が昂ったら、冷静に考えればダメだって自分でもわかることでも、言い訳作って人の言うことも無視して暴走するじゃん。

 そしたらダイヤと100%一緒。残りの50%は普段持ってるはずのものを捨ててる差分」

 

「なんだよプラッチ~!

 俺だってやっていいことと悪いことの区別ぐらいはつくぞ~!」

「あ、いや、ダイヤがその辺わかってないっていう意味じゃないんだ。

 ダイヤはやっちゃいけないことは、いくら感情が昂ってもやったりしないでしょ?

 パールはそれをやっちゃうタイプだから、ダイヤよりも始末に負えないよって話をしてるだけ」

「あ、なんだ、そーいうことか。

 ぷぷぷ、パールいっつも俺のこと偉ぶって叱ってる割に言われてやんの」

「わらうな~!

 なぐるぞ~!」

「ふへっ」

「プラッチもわらうな~!」

 

 めちゃくちゃにいじられ過ぎて、顔を真っ赤にしたパールがプラチナに襲いかかる。

 暴力は駄目だって普段は言うし心から思ってるくせに、感情が昂っちゃうとこうなってしまう。今まさにそれを証明してどうする。

 掴みかかろうとしてくるパールの手を、きちんとその手首を掴んで止めて、ぐぐっと前からパールを制するプラチナ。

 彼女の扱いに慣れ過ぎ。怒って暴れても手綱で捌かれ無力化されるなんて、なんて哀しい子。

 未だにダイヤにすらプラッチ君と思われているプラチナも哀しい子。

 

「こらこらパール、暴力はダメだぞ」

「はなせ~! せくはら~!」

「ほらパールっ、そういうところだぞ!

 感情をコントロール出来ないんだったら、150%から200%に上げるからね!」

「うぐぐぅ~……! それはやだ……!」

 

 話がまとまりそうにないので、ダイヤがパールを羽交い絞めにしてプラチナから引き離す。ダイヤは久しぶりのパールとの絡みで楽しそうだが。

 落ち着きそうにないパールを、おとなしくさせる呪文をすぐに紡ぎ上げられるプラチナも流石である。

 ダイヤの倍ほどどうしようもない奴認定は、パールの自尊心にぶち刺さる。

 羞恥と屈辱を歯を食いしばって耐え、がまんがまんと鼻息ふんすふんすさせながら動きを止めるパールから、ダイヤが離れて解放する。

 今にも再び暴れ出しそうな興奮状態ながら、どうにか踏ん張っているパールである。まあなんとか大丈夫そう。

 

「落ち付いた?」

「私をいじるなっ!」

「そんなこと言われても、ねぇ?」

「な? パールって面白いだろ」

 

 楽しかったプラチナとダイヤ、なんだか意気投合している。

 パールを介して繋がる新しい絆。ダシにされたパールとも言う。

 

「そんなことよりパール、バッジはいくつ集めたんだ?

 俺はもうスズナさんにも勝って、バッジ7つ目だぞ?」

「えっ!?

 私これからスズナさんに挑むんだけど……」

「よしっ、勝ってる!

 今日パールが負けたら、当分このリードはもったままだな!」

「なにをー!?

 絶対勝つんだから今だけだぞ! すぐに追いつくんだから!」

「あははは! 頑張れよパール!

 張り合ってるお前がそうあってくれなきゃ、俺も張り合いがないからさ!」

「くぅ~! 上から目線~! むかつく~!」

 

 勝手に新しい話題に切り替えたダイヤだが、ここでもパールがマウントを取られる内容になってしまった。

 いじられまくって、ライバルにリードされて、パールの顔真っ赤ぶりがずっと続いている。

 興奮のし過ぎでそろそろ頭の中の太い血管が、一本か二本ぐらいぷちっと切れてクラッときそうである。

 

「まあいいや!

 俺はまだしばらくこの辺で修行しとくから、パールも頑張ってこいよ!

 勝ったら報告してくれよ! 勝ったらでいいけど!」

「うるさいっ! 勝つんだから絶対!」

「負けたらわざわざ報告しなくていいぞ!

 そこまでやれっていうほど俺も意地悪じゃないからさ!」

「だまれ~!

 ここまで言われて負けてたまるか~!」

「あはははは! じゃーなパール!

 頑張れよー!」

 

 言うだけ言って、ダイヤは修行目的なのか、217番道路へと突っ走っていった。

 憎々しげにがるるると怒り心頭のパールだが、あれもあれでダイヤなりの発破のかけ方なのかなぁとプラチナには感じる。

 結果的にパールはきっと、過去最大級にジム戦に向けて、絶対負けるかこんちくしょうの精神で燃えまくっている。

 彼女のモチベーションを焚き上げるのが目的であったと仮定するなら、ダイヤの言動はこれ以上無いほど完璧極まりない。

 

「プラッチ、帰るよ!

 すぐジム戦! あいつの鼻、ぜぇったい明かしてやるんだから!!」

「あー、うん、それはいいんだけどね、パール……

 ちょっと待って、その……えーっと……」

 

 さて、しかしながらダイヤとは違う形でパールを応援する立場のプラチナとしては、ちょっと待ったをかけておきたい。

 興奮し過ぎ。冷静の対極。熱くなるのはいいのだが燃えすぎ。

 これは勝ちたいあまり、冷静な指示が叶えられなくなって、躓くことさえ想定してしまう。

 最悪、負けるまであるとさえプラチナは考える。ジム戦というのは毎回そうだが、過去最多のバッジ数を手に、前のジム戦より強い相手と対戦する。

 一つ前のトウガン戦でも、あれだけ苦戦したのに。ピョコが進化するという大きな進歩があったから、どうにかなった側面も強いのに。

 今回そんな、大躍進要素も無く、相手がいっそう強くなり、まして冷静さを欠いているとなれば――プラチナは、パールの負ける姿を見たくない。

 

「……これ、重要な話だからよく聞いてね?」

「なに!?

 出来れば手短にお願いしたいっ!」

 

 もう少し冷静に、とはっきり口にしようかなとも思ったプラチナだが、ここまで興奮状態のパールにその言い方で伝わるかどうか、ちょっと怪しいと思った。

 わかってるよ! とか、冷静だよ! とか言い返してきそうな気がする。それじゃ駄目。

 短いシンキングタイムを挟んで、プラチナは、これは少し反則だけどとは理解しつつ、パールのために心を鬼にして魔法の言葉を紡ぐ。

 

「パール、今すごく興奮してるよね?

 かっかしてるよね?」

「してます! それは認める!」

「けっこう汗だくになってるのわかる?

 寒さとかあんまり感じてないでしょ?」

「確かに今はね!」

「……言いにくいことだけど、はっきり言うよ。

 ここまで、パールの匂いが届いてくるんだよね」

「ぇ……」

 

 一瞬でパールが冷めた。それ、相当ショックなやつ。

 年頃の女の子が言われて、一瞬で他のことなんかどうでもよくなる。

 まして、内心では懇意の異性であるプラチナに言われてしまっては最悪だ。

 

「く、くさい……?

 そう言ってる……」

「うっ……く、くさいとまでは言わないけど……

 パールの匂いがするなぁってだけ……」

 

 ああ、目に見えてパールの表情が暗くなっていく。さっきまでの熱なんて一瞬で吹っ飛んだらしい。

 もちろん、出まかせである。昨晩もしっかりお風呂に入って寝たパール、綺麗な体で一日を始めて、昼過ぎの今頃にもう匂うほど代謝は激しくない。

 こう言えば、とりあえずパールを一度立ち止まらせられると思ったから言っているだけだ。嘘も方便。

 しかしここまでショックを受けた顔で、自分のマフラーに鼻を近付けてすんすんするパールを見せつけられると、プラチナも罪悪感で胸がちくちくする。

 

「だ、だからとりあえず、シャワーでも浴びてからジムに行こう?

 スズナさんにも同じこと言われたら嫌でしょ?」

「……………………」

「パール?」

「ハイ」

 

 実は、これがプラチナの本題だったのだ。

 このままジムに突入されると、冷静さを欠いたままのバトルになりそうなので、シャワーでも浴びて時間を空けてから挑もう、という算段だったのである。

 ここに繋げるためにあんな芝居を打ってみたプラチナだったが、ここまでへこまれるとはプラチナも想定外だったというところ。

 

 すーんと沈んだ返事をしたパールは、ゆらーりふらふらとぼとぼと、プラチナのことなどほったらかして街の方へと帰っていく。

 これは駄目だ、女心を軽く見過ぎた、と猛省するプラチナであった。

 事実だったなら言ってもいいだろう。でも、嘘であれを言ったのが気まずい。

 あんなにメラメラしていたのに、今やしょんぼりした背中で、襟元と引いて自分の胸元を嗅ぐパールの哀愁がひどい。

 私そんなに臭いのかなぁ……と嘆くパールの内心の独り言が、プラチナの耳にまで届いてくるかのようである。

 

 あまりに申し訳なさすぎて、ごめん嘘、嘘だから、こうこうこういう理由で作り話しただけだから、と弁解したくなるプラチナ。

 でも、それを言っちゃうとパールは怒るだろう。間違いなく怒る。

 ここまで目に見えて落ち込ませたことが明らかな今、どんな怒られ方をするかまったくの予測不可能。流石にプラチナもこの地雷は怖くて踏めない。

 結局この日のことは、プラチナも墓まで持っていく秘密だと腹に決め、密かに心の中で、パールごめんと訴えかけておくのみである。

 

 関係無いが、この日と明日ぐらいは、プラチナがパールに対していつもよりさらにちょっとだけ優しくなる。

 パールの全くの存じないところで、プラチナは負い目からパールに借りを作った意識であったようだ。

 世の中、知らない方がいいことだって沢山ある。なんでもかんでも無闇に明るみにしないのも、一つの調和の秘訣である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めてようこそ!

 キッサキジムのバトルフィールドへ!」

「はいっ!

 よろしくお願いします、スズナさん!」

「うんうん、気合充分!

 それでいてどこか落ち着いててクール! ベストコンディションね!」

 

 一度ポケモンセンターに戻って、シャワーを浴びて、そしてプラチナにあらかじめ言われたとおり、湯冷めして風邪を引かないよう長めに体を温めて。

 大一番を控えた身とて、そうして時間をかけてのリフレッシュを挟めば、心が落ち着いて冷静なメンタル状態を取り戻せる。

 お風呂上がりにプラチナに近付いてきて、もう臭くないよねって少し恐る恐るパールは、大丈夫だよという太鼓判を貰って元気を取り戻した。

 へこんでいた気持ちは回復し、へこむ前の過剰な熱は冷め、心身共に最高の状態でキッサキジムに訪れたパール。

 

 本当にプラチナは、パールのマネージャーか何かだと例えるなら、彼女をベストのコンディションへと持っていく辣腕が半端ない。

 今日も観戦席でパールの応援に回っているプラチナだが、彼が応援してくれることで元気が出ることも含めて、プラチナの存在はパールにとって本当に大きい。

 ベストコンディションとスズナに言われて、嬉しそうに笑って応じるパールは、プラッチのおかげでもあるということを心のどこかでわかっているのだろう。

 観戦席のプラチナをちらっと見るパールと、手を振って応えるプラチナの間にある、確かな絆はスズナも間近に見て快い。

 あなた達どういう関係なの? と、興味本位の問いかけをしたくなるスズナだが、挑戦者にとっての大一番の前、そんな無粋は敢えて堪える。

 

「ジム生のみんなとのバトルで、氷ポケモン達との戦い方はわかった?」

「はい、あんまり氷ポケモンとバトルする機会って今までなかったですけど……

 なんとなく、私なりに、スズナさんに勝つための戦い方は考えてきました」

「ええ、いい返答だわ。

 知ってのとおり、私は氷ポケモンのエキスパートとしてジムリーダーの名を背負わせて貰ってる。

 弱点の多い氷ポケモン達だけど、容赦なくその隙を突く心構えでかかってきて。

 それぐらいなりふり構わずかかってこなきゃ、あたしに勝つのは難しいかもしれないわよ?」

 

 氷タイプのポケモン達は、スズナの言うとおり弱点の多さで有名だ。

 炎に弱く、岩に弱く、格闘に弱く、鋼タイプに弱い。対して、自身が受けて耐えやすい技と言えば同じ氷タイプの技のみ。

 耐性の少なさと弱点の多さがよく語られる、それが氷タイプのポケモン達。

 氷タイプのポケモンの使い手と知られるスズナ、見方を変えれば彼女とのバトルは、他のジムと比べて弱点を突きやすいバトルとも言えそうだ。

 

「氷ポケモンって弱点ばかり。

 弱いポケモン達だと思う?」

「え?

 いや、そんな気は全然しないですけど……」

「ふふっ、そうよね。

 毎週末にはテレビで放送される、トップトレーナー同士の試合でも、氷ポケモンの登場率ってそんなに低くないでしょう。

 みんな、ただの酔狂で弱いポケモンを使ってると思う?

 勝つために最高のメンバーを作ろうとしたトップトレーナー達が、氷ポケモンの採用を躊躇わないことが、氷ポケモン達のポテンシャルを表してるわよね」

 

 弱点の多い氷ポケモンは弱い部類なのか。

 そんな短絡な理屈は、過去に幾千幾万のポケモントレーナー達が刻んできた、最高峰のポケモンバトルが容易に否定する。

 いつの時代とて氷ポケモン達は、一定以上の活躍を見せてきたのだ。きちんと育てれば、ハイレベルのバトルでも戦果を上げる精鋭たち。

 弱点の多さは玉に瑕だ。それを補って余る強さが、氷ポケモンにはある。

 

「脆くて、危うく、しかして強い。

 あたしが愛する氷ポケモン達に向けて唱えられる、最大級の賛辞よ。

 そしてあたしは、氷ポケモンのエキスパートとして、シンオウ地方に8つしかないジムのリーダーを任せられている。

 さあ、パール? この意味がわかる?」

「えっと……!

 スズナさんは、すっごく強いっていう意味ですね!?」

「ふふっ、ご名答。

 勝ちたいならば、全身全霊を賭してかかってきなさいね。

 でなきゃ、善戦さえ許さずにこてんぱんに負かしちゃうからね!」

 

 開戦前の最後の挨拶とばかりに強い声を発し、握手を求める手を差し出すスズナ。

 パールも迷わずその手を握った。そして、ぎゅっと力を込める。

 背丈で勝るシロナを見上げて、決意ごもった目で、恥ずかしくないバトルを見せますと表すパールの眼が、寒さに強いはずのスズナをぞくぞくさせる。

 

 ジムリーダーは、挑戦者の全身全霊を望むものだ。スズナだってそれは同じ。

 だけどパールが勝利してきた前例とは違う、知らぬ者ではない彼女を迎え撃つスズナは、パールの眼差しがたまらないほどわくわくする。

 親友が推しとする若駒。話に違わぬ情熱と純真さを兼ね備えた挑戦者。

 しかも、しっかりバッジを6つ集めてここに至る挑戦者だ。彼女は長旅の中で、それを果たせるほど強くなってここに至っている。

 身震いするほど楽しみな一戦。スズナの想いはただそれに尽きる。

 

「勝負は4対4!

 破ってみせなさい! 挑戦者パール!」

「はいっ!

 絶対、勝ってみせますから!」

 

 お互いの手が少し痛くなるぐらいの力を入れた握手を最後に、スズナとパールはバトルフィールドの立ち位置へと歩んでいく。

 キッサキジムのバトルフィールドは、真っ白な床に氷をまぶしたかのような、平坦かつ煌めく舞台で戦う世界。

 パールも靴でそこを踏んで、足を擦ってみるが、ダイヤモンドダストのように輝く割には滑らない床である。

 

 氷のジムリーダーとのバトルだから、スケートリンクのような氷のフィールドさえ想像していたパールだったが、実質平坦さだけが際立つだけの戦場だ。

 そりゃあつるつるする氷の床でもあれば、氷のジムリーダーに挑む舞台としてそれらしいかもしれないが、それはそれでジムリーダーが有利すぎる。

 氷の上でバトルすることに慣れているポケモンの方が稀だ。そんな地の利の取り方をするスズナじゃないし、それをやられたらきつ過ぎる。

 ただし、そんな床に散りばめられた氷晶が溶けて消えないよう、バトルフィールドの気温そのものは、特注の空調設備を以ってしてかなり低い。

 雪国の野外のように寒いこの舞台、それによって起こり得ることがあるとするならば、それもまたスズナのホームグラウンドゆえの何かになり得る。

 さあ、パールはよく考えて挑もう。元より相手の得意とするタイプが知れているジムリーダー戦、そのアドバンテージを覆されぬよう心構えるのも挑戦者。

 

「さあ! パール!

 あなた、ナタネに勝ったのよね!?」

「はいっ!

 危なかったけど、勝てました!」

「その底力、ここでも見せて頂戴ね!

 だらしない負け方して、あたしをがっかりさせたらナタネにチクっちゃうから!」

「……任せて下さいっ!

 ナタネさんには、私が、あのスズナさんにも勝ちましたよって報告するんですから!」

「あははっ、その意気よ!

 最高のバトルにしましょうね!」

 

 お互い、バトルフィールドを挟んでの立ち位置に着き、先鋒のボールを手にしたスズナ。

 発せられる言葉は情熱に満ちたもの。氷のポケモン使いという肩書きから想像される、クールあるいは冷徹さとは対極たる彼女。

 きっと彼女の素の性格は、炎ポケモンの使い手であったとしたって、それらしいなと言われるほどの熱い。

 極寒の地に生まれ育ち、しかし雪の中にあろうと、この寒いバトルフィールドにあっても、決して凍てつかぬ熱血に満ちたジムリーダー。

 そんな熱きものに触れてしまえば、意識しようがしまいが同じほど燃えてしまう感受性豊かなパールは、冷静さこそ失わぬままにして燃えずにはいられない。

 

 舞台は整った。

 最高の挑戦者との最高のバトルを望むジムリーダーと、それを求められていようがいまいが熱くおらずにはいられぬ挑戦者。

 双方が握りしめたボールを介し、その想いは彼女らの先鋒にも伝わっている。

 

「行くわよ、ユキカブリ!

 大事な緒戦、あなたに託したわ!」

「ミーナ、頼むよ!

 あなたのこと、すっごい頼りにしてるからね!」

 

 スズナのユキカブリと、パールのミーナがバトルフィールドに降り立った。

 双方、気合の入った眼差しだ。この寒い中で、威嚇するような鳴き声まで発し合って。

 ここをまず私が勝って、良い流れを作るんだという気概が、身内よりも対戦相手のトレーナーにこそ強く伝わるその声が、この場の空気を象徴している。

 冷えた気温など関係ない。燃え滾る戦意の前に、所詮人造の寒冷地など心まで凍らせられやしないということだ。

 

 7つ目のバッジ獲得に向けて。

 一つ前のジムで、敗北という大きな挫折を味わい、また、それを再戦による勝利によって過去のものとすることを果たしたパール。

 さあ、今日はいずれの結末か。

 一戦一勝以外の結末を望まぬパールの真剣な眼差しを対極点に見据えるスズナは、寒さとは無縁の震えに体を襲われていた。

 きっと、最高のバトルになる。そう確信したジムリーダーの歓びは、他7人のジムリーダー達全員が共感を覚えずにいられず、羨ましくさえあるものだ。

 

 今、あたしはそれを迎えた。そう心躍るスズナの想いに、果たしてパールは応えられるだろうか。

 6つものバッジを手にしてきたトレーナーがそれを果たせずして何とする。

 7つ目ものバッジに挑むとは、それだけ高次元の実力が当然に認められるほどの身分であるということだ。

 

 かつては素人あるいは初心者。今はもう初心者ですらない。今やもう、そう名乗るべきではない。それだけの道を歩んできたのだ。

 果たしてパールは、恥ずかしくない戦いぶりが出来ることを証明し、名実ともなるトップトレーナーへの仲間入りを果たせるか否か。

 この戦いには、それさえもが懸かっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。