元々構想自体はあったため、楽しく書けました。
「良いこのみんなー♡クリークママといっしょ、始まりますー♡」
甘く母性に蕩けたタイトルコール。
ハルウララ(31)は、軋む腰に鞭打ちながら、笑顔でぶりっ子ポーズを決めた。
「よい子のみんなー♡こんにちわぁ♡クリークママです♡」
この番組の顔、スーパークリーク。
「ウマのお姉さん、ハルウララだよ!」
体操や遊びを主に担当する、ハルウララ。
「歌のお姉さん、ファル子だよっ☆」
歌を担当する、スマートファルコン。
そう、今日もドリームトロフィーリーグを卒業した後の大事なお仕事。
大人気教育幼児番組「クリークママといっしょ」の収録である。
ドリームトロフィーリーグを引退した後、教育番組の主役に抜擢された、スーパークリーク。
彼女が、子供と同じ目線で遊べるウマ娘を。
そのように要望し、厳正なオーディションの結果、見事自分が当選したのである。
スマートファルコンは、スーパークリークの足を誠意を込めて舐め尽くした結果。
屠殺される豚を見るような目をした彼女の厚意で採用に漕ぎ着けた。
路上ライブだけではウマ娘は生きてゆけぬ。
スマートファルコン御年31歳。
ウマドルと言う名の無職を卒業し、見事定職を得たのだ。
「よい子のみんなー♡今日も、元気ですかー♡」
「「「「「げんきー!!!」」」」」
「はーい、みんな元気でちゅねー♡ウララちゃんはー?」
「ウララ、元気いっぱい!」
主役に全力で擦り寄る。
これは、重要な処世術である。
そのように自らを納得させながら、さらに腰に負担をかけて身体を捻り、媚を含んだ笑顔を見せる。
笑顔で頷くスーパークリーク。
どうやら、満足頂けたらしい。
安堵の感情と腰から感じる不吉な感覚。
これは、帰ったらまたツバメに湿布を貼らせねば。
そう思いつつ、元の姿勢へ。
腰を叩くのはNGだ。子供たちの夢を壊してはいけない。
「ファル子ちゃんは、元気かなー?」
「ファル子も、元気だよっ☆」
スマートファルコンも、必死でぶりっ子ポーズ。
以前ウマドルアピールをして、身の程を分からされた為だろう。
真剣みが違う。
やれやれ、しょうがない地下アイドルである。
肩をすくめて、見咎めたスーパークリークに睨まれる。
目が幼児番組で見せてはいけない感じになっている。
いかん。やられる。
背筋を走る死の予感。
ここで軌道修正を図る。
「クリークママ、元気の無い子がいるみたいだよ!」
指を指す先には、沈んだ顔の幼児。
たっくん(5)。
獲物を見つけたクリークママの瞳がぎらつく。
「あらあらー♡たっくん、どうしたんでちゅかー♡」
「あのね、僕ね……幼稚園で、気になる子がいて……よし子ちゃんって言うんだけど……」
「まぁ♡おませさんでちゅねー♡よーし、ママ、応援しちゃいますー♡」
おずおずとした仕草に、母性をたいへん刺激されたのだろう。
全力で、しかして脆弱なヒト息子を殺さぬよう、優しく抱擁するスーパークリーク。
「あっ……やわらかい……」
「たっくんは、いい子でちゅからー♡ぜったい、その子とうまくいきますー♡ママが、保証しちゃいます♡」
ぎゅむぎゅむぎゅむ。
「あっあっあっ」
その、未だ成長を続ける雄大な胸に埋もれながら、脳に直接蕩けた声を流し込まれるたっくん。
びくん! と断末魔の痙攣を残し、意識を失った。
「あらー? お昼寝しちゃいまちたねー♡いい子、いい子ー♡」
なでなでによる追撃。
ハルウララはしめやかに十字を切った。
また精通前の童貞が死んだ。
必要な犠牲だったとは言え、心が痛む。
彼は今後、Gカップ以下の女性を愛することはできないだろう。
よし子ちゃんとの仲も、うまくは行くまい。
無意識にまた幼児の性癖を破壊した母性の悪魔。
その恐ろしさに震えながらも、機嫌を良くした彼女に声をかける。
「クリークママ、今日は何して遊ぶのー?」
「今日はですねー♡みんな大好き♡他界! たかーいですよー♡」
冷や汗がこめかみを伝う。
まずい。
他界! たかーい。出演する幼児に大人気の遊びだ。
ウマ娘の膂力をもって投げあげられた幼児は、まるで天にも昇るかのような爽快さを味わい。
そして、その母性に富んだクッションをもって受け止めるクリークママの母性により。
男児は性癖を破壊され、女児は牛乳に対して異常な執着を見せるようになる。
子供たちが喜ぶ顔は自分も好きだ。
是非ともやってあげたいのだが……今はまずい。
恐らく今の自分の腰は、幼児を砲弾にする負荷に耐える事は出来ぬ。
助けを求め、スマートファルコンを見る。
全力で顔を逸らされる。
なるほど、ヤツも同い年。
腰痛に悩むのは同じということか。
役に立たぬ地下アイドルから、クリークママに目を転じる。
「ウララちゃん♡」
笑顔とは、ここまで攻撃的になれるものか。
まずい。このままでは、自分が砲弾にされる。
しかも、クッションは期待できぬ。
スタジオの床に汚い華が咲き、今回の収録が没になる。
そして、次回は新しいウマのお姉さんがこのスタジオに姿を見せるのだろう。
幼児相手に興奮を抑えきれず、べろちゅーをカマそうとして制裁を受けた、前任者。
ナイスネイチャの笑顔が浮かぶ。
今頃は泣き落としで転がり込んだトウカイテイオー宅にて。
真心の籠った看病を受けつつ、彼女の尻を撫でて鼻の下を伸ばしているだろう。
ナイスネイチャ。転んでも盛大に周囲を巻き込む女である。
「よーし、ウララ頑張っちゃうぞー☆」
「みんなー、ウマのお姉さんの前に並んでくださいねー♡」
幼児どもよ。このハルウララの生き様、とくと見るがいい。
あとそこのデブ。ダイエットしろ。
決意に燃える目と、痛みを訴える腰。
スマートファルコンは後に語る。
彼女こそ、我が永遠のライバル。
桜色の勇者。ハルウララである、と……
ハルウララは収録終了後、直ちに整形外科に緊急搬送され。
「ウララちゃん! 腰痛には座薬がいいんですのよ!!」
処置が終わった後に、お見舞いに来た親友の愛娘をあやしつつ。
また、生き延びた喜びと、無職になる危機を回避した安堵を胸に、求人情報誌に目を通すのであった……
つづかない