ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

21 / 69
今回のテーマはコンプライアンスと信頼。
とびっきりの、倫理法令遵守精神。
倫理はパワー。
完璧な理論武装を魅せてあげますよ。


元ネタは、大正浪漫の新撰組。
そして、パウロからの第二の手紙。


ハルウララさんじゅういっさい そのにじゅういち 大正バカ浪漫

~前回までのあらすじ~

 

 名誉の負傷から復帰し。

 

 喜びのポールダンスに興じ、更なる負傷を負ったハルウララ。

 

 寄生先へのサービスのため、必要最低限の犠牲であった。

 

 彼女は、自分の居ない大人気幼児向けクソ番組を見て。

 

 もはや、己の居場所が無くなったことを知る。

 

 せいせいするぜ。あのバ鹿ども。

 

 やはり、最後に勝つのは資本主義である。

 

 だが。彼女は気づく。

 

 Not in Education, Employment or Training.

 

 すなわち、ニート。

 

 そう。

 

 己もまた、資本主義社会へ参入できぬ身の上。

 

 むしろ同志ママーリンによって搾取される、彼ら。

 

 それよりも下等な存在であることに。

 

 葛藤と、暖かい家族。

 

 悟る己の、低学歴。

 

 世界はウマ娘に無条件の愛までは与えてくれぬ。

 

 そして、ある朝見つけた、絶望の。

 

 パンドラの箱から、ペットの証がこんにちは。

 

 新たな労働形態の予感に、彼女は家をエスケープ。

 

 愛玩動物は、勘弁である。

 

 

 

 

 

 

 「ここが、あの女のスタジオね……」

 

 

 

 二件目。

 

 そう。

 

 性癖の煮凝り。

 

 懐かしき、硝煙の香りが漂うそこ。

 

 

 

 第二の母という名の獣。

 

 大人気性癖歪曲型特撮。

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダー。

 

 ヒシアマゾンの職場である。

 

 

 

 スタジオと外界を繋ぐ、扉を前に暫し躊躇う。

 

 特撮と、教育番組は違う。

 

 幼き頃に見た、舞台女優の夢。

 

 自分は本当に、スターとしての華を、可憐に咲かせることが出来るのか。

 

 

 

 だが、もう迷わぬ。

 

 愛玩動物に堕ちるのか。

 

 華々しい二度目のメイクデビューを飾るのか。

 

 考えるまでもなく、後者である。

 

 

 

 何、以前我が古巣に訪れ、彼女が性癖を大胆に輸入してきたのだ。

 

 逆輸入が禁じられる道理など、有りはせぬ。

 

 テイエムオペラオーとも知らぬ仲でも無い。

 

 採用される公算は、極めて高いと言えるだろう。

 

 覚悟を決め、栄光への道を駆け抜けよう。

 

 

 

 「頼もう!」

 

 意気揚々とスタジオの扉を開ける。

 

 

 

 「アマさっ! おいがごと、撃てィっ!」

 

 「そんな、窮兵衛! アタシにそんなこと……!」

 

 「既に陰腹ば切っちょる……! 余命幾ばくも無かっ! 気にせず撃てィっ!」

 

 「アタシ……! アタシは……!」

 

 

 

 おっと。撮影中だったようだ。

 

 だが、こちらには気付いておらぬ。

 

 丁度良い。彼らのお手並みを拝見し、この将来の大女優。

 

 ハルウララの糧としてくれようではないか。

 

 

 

 そこらに立っていた若造に、椅子を要求する。

 

 直ちに準備される、丁度良いサイズの椅子。

 

 おまけにペロペロキャンディーまでついてきた。

 

 

 

 出来ておる小童だ。

 

 メイクデビューの暁には、付き人として雇ってやろう。

 

 メイクさんらしきウマ娘や、スタッフの皆様を侍らせつつ。

 

 撮影の行方を見守ることとする。

 

 

 

 うむ。撫ではあまりうまくない。

 

 やはり、飼い主たちによる撫では別格である。

 

 考えつつ見ていると、撫での腕が追加される。

 

 

 

 ぬぅ。セプテットなでなでとは。

 

 学園の小娘どもにやられた以来。

 

 あやつら、大先輩をなんと心得る。

 

 思わず愛嬌を振り撒き、危うく持ち帰られかけた。

 

 苦い思い出である。

 

 

 

 「窮兵衛……アンタが居ないと、アタシ、どうすればいいのさ……!」

 

 「アマさ……おいどんのやっめは終いぞ。

 あかごんこがおる。とのじょもおる」

 

 「窮兵衛……」

 

 「そいどん、おいどんを哀れば思うなら……最期に! 

 そん胸を チェストのママに パイタッチ!」

 

 「惨たらしく死にな」

 

 

 

 タンッ! タァンッ! 

 

 

 

 薩摩川柳に対するアンサーは、銃声だった。

 

 魔法少女局中法度に触れたためだ。

 

 パイタッチは死罪である。

 

 

 

 レミントン式デリンジャーは、二連装。

 

 一発を窮兵衛に。もう一発も窮兵衛に。

 

 窮兵衛が羽交い絞めにしていた悪役は、こそこそと逃亡を開始した。

 

 

 

 ベビーカーから離れつつ。

 

 赤ちゃんの安全を第一とする気遣いを見せて射撃する。

 

 

 

 「ぬおぉぉぉ! そげなもん、効かぬ!」

 

 

 

 だが、恐るべしは薩摩隼人の頑強さ。

 

 もし薩摩ゾンビなるものが存在したならば。

 

 シューティングゲームのクリアは困難だろう。

 

 

 

 ちなみに、ここで言う薩摩隼人とは、この作品において限定的に生産される亜種。

 

 アマゾン原産のマスコットを言う。

 

 通常の鹿児島産の薩摩隼人では無い事を、留意した上でお楽しみ頂きたい。

 

 

 

 「チィッ! リロード!」

 

 だが仮面魔法ウマママ少女ライダーに死角なし。

 

 デリンジャーの装弾数問題など、シーズン1でとうに克服している。

 

 まずはバレルのホールドをリリース。

 

 

 

 「キエエエエエエエィッ!」

 

 猿叫と共に襲いかかるマスコットを躱し。

 

 身を沈め、後ろに大きくバックステッポ。

 

 着地した瞬間、母性の証が大きく揺れ。

 

 谷間から宙に放られる、ふたつの鈍色の輝き。

 

 

 

 腕を大きく振り、銃身に新たな母性を籠め。

 

 ロックを掛けて装填完了。

 

 

 

 魔法少女の不思議な魔法のひとつ。

 

 マジ狩る☆リロードである。

 

 

 

 「いい加減にくたばりなっ!」

 

 タン! タァンッ! 

 

 

 「リロード!」

 

 ぶるんっ! カチンッ! 

 

 タン! タァンッ! 

 

 

 「さらに!」

 

 ぶるんっ! カチンッ! 

 

 タン! タァンッ! 

 

 

 「おまけだっ!」

 

 ぶるんっ! カチンッ! 

 

 タン、タァンッ! 

 

 

 

 連続する銃声。

 

 サービスシーンも兼ねる、一石二鳥のリロード。

 

 叩き込まれた母性の数は、10を数えた。

 

 だが、邪悪なるマスコットは健在だった。

 

 護身用の拳銃では、火力に欠けるためである。

 

 

 

 「効かぬっ! 日ノ本のさぶらいに、そがぁな豆がごってっぽなぞ!」

 

 

 

 ハルウララは思った。

 

 自動拳銃使えよ。

 

 

 

 「しぶといねぇ! マジ狩る☆倍駆ッ!」

 

 

 

 ズドムッ! 

 

 

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダーの背後から現れ。

 

 大胆にマスコットに正面衝突する、操縦者不在の鉄の獣。

 

 ライダー要素だ。

 

 

 

 「ぬおぉぉぉっ! チェストォォォォ!」

 

 メキメキ……ドガァンッ! 

 

 

 

 だが、敵もさるもの。

 

 奥義・薩摩式鯖折りで、瞬く間に不埒物を始末する。

 

 

 

 ハルウララは腰をさすった。

 

 見ているだけでトラウマが刺激されたためだ。

 

 

 

 「さすがは窮兵衛……! シーズンごとに強化される! さすがはアタシの相棒さね!」

 

 「フシュウウウウウウウウウウ……

 いざ! 参らん! 天下無双のもののふの! 

 願いは常に、ただ一つ! 

 パイタッチの他、あるわけなかぁぁぁぁぁ!!」

 

 ドドドドドドドド。

 

 

 

 マスコットによる突進。

 

 彼の真の得手たる、アマゾン示現流は、封じられている。

 

 叩っ斬ると、パイタッチが楽しめないためだ。

 

 だが、その突進の圧力。

 

 まるで千の悍バの狂奔が如く。

 

 捕まれば、貞操は危ういだろう。

 

 

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダーから。

 

 不倫魔法ウマママ少女ライダーにタイトルが早変わり。

 

 さすがにウマ娘警察特捜部の目溢しは期待できぬ。

 

 

 

 バクシン式拷問術により。

 

 テイエムオペラオーがアイアンメイデンに封じられる事態となる。

 

 アイアンオペラオーである。つよそう。

 

 

 

 流石の彼女も、バクシン式拷問術を味わうのは、月に5度が限度。

 

 それ以上の拷問は、マゾ性癖を開発される恐れがある。

 

 世紀末覇王とて、絶対無敵ではないのだ。

 

 

 

 だが、この程度のピンチなど、毎度の事である。

 

 彼女は慌てず騒がず、一度離れたベビーカーに近寄る。

 

 そのまま赤ちゃんを保護する覆いを取ると。

 

 怪物が姿を現す。

 

 

 

 束ねられた銃身が誇らしげに輝き。

 

 鋼の暴風の到来を予感させる。

 

 リチャードによる、一騎トーセン、ジョーダンのような兵器。

 

 

 

 そう。薩摩隼人にはガトリング砲。

 

 西と南の戦争で、特効作用が実証されている。

 

 

 

 そもそも、コンプライアンスをこそ重視するこの作品において。

 

 特撮の撮影という言い訳があったとしても、赤子を戦場に出演させる訳が無い。

 

 代わりにガトリング砲を出演させる。

 

 当然の心遣いである。

 

 

 

 ヒシアママのお腹もすっきりしている。

 

 妊婦のバトルシーンなど、論外も良いところ。

 

 幼子の性癖が歪みかねぬ、乱行である。

 

 コンプライアンスを軽視しては、ならぬのだ。

 

 

 

 「マジ狩る☆雅糖☆輪具ッ!」

 

 「おのれ! ガトリング斎ィィィィィィ!!」

 

 「ガトガトガトガトガトガトガトガトガト!!!」

 

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ! 

 

 

 

 金に汚そうでそれでいて黄金の精神を感じさせる叫び。

 

 火力は十分と言えるであろう。

 

 やはり連射速度は正義である。

 

 尚、宝具名は、ドーナツ紳士の商品から着想を得たということになっている。

 

 

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダーは、ベビーカーのハンドルを大胆にブン回し。

 

 この世界では、合法となったガトリングの威容。

 

 誇らしげなそれを、亡き武田観柳斎に見せつける。

 

 

 

 勿論、新撰組の五番隊組長である。

 

 彼は没後70年を越えている。

 

 著作権が失効しているのだ。

 

 そのため、遠慮なく作品にご芳名を記載することが叶う。

 

 もちろん、故人に対するリスペクトは忘れてはならない。

 

 ジーク新選組。

 

 その眼鏡、似合ってますよ。

 

 

 

 ガガガガガガガガガガガガガガチンッ。

 

 「ガトガトガトガトガ……チッ。弾切れかい」

 

 辺りに漂う硝煙の香り。

 

 これには彼の拝金主義者も、草葉の陰で喜んでいることだろう。

 

 彼の活動は無駄では無かったのだ。

 

 

 

 「チェストォォォォォォォォォ!!!」

 

 だが。

 

 悪は滅んでは居なかった。

 

 呆れた耐久性である。

 

 

 

 恐らくそれを犠牲にして、凶弾から身を守ったのであろう。

 

 手には柄だけとなった、彼のトレードマーク。

 

 不殺の誓いを示す、逆刃刀が。

 

 悪人とて、更生する機会は存在する。

 

 その事を現しているのだ。

 

 

 

 「やっぱい、同田貫以外はいかんっ!」

 

 ガランッ。

 

 

 

 そして今まさに、雑に投げ捨てられた。

 

 悪人と性癖に更生する機会は存在しない。

 

 当然の事実を教えるためだ。

 

 そのママ、その魔手を、ついにヒロインへと……

 

 

 

 「逃ィげるんだよォッ!」

 

 そしてヒシアママはそのままケツを捲って逃亡を開始した。

 

 三十六計逃げるに如かず。

 

 

 

 薩摩隼人と言えど、ウマ娘に速度で追い付ける筈はなく。

 

 彼は、そのまま思う存分走り。

 

 寂寥感と出血多量に、その息を引き取った。

 

 

 

 マスコットは雑な扱いを受ける。

 

 これもまた、世界の真理である。

 

 いわんや、オリキャラであれば猶更である。

 

 

 

 「アタシにタイマンで勝とうなんざ、十年早いんだよッ!」

 

 ヒシアママは、途中で何の意味もなく破れたライダースーツを誇らしげに晒し。

 

 中破して入渠待ちのその肢体を存分にサービスしつつ。

 

 正々堂々闘う事の素晴らしさを、全ての子供たちに伝えたのだ。

 

 

 

 愛と勇気と重火器。

 

 そして、ウマ娘ならではの種族特性を活かした戦法。

  

 正に、コンプライアンスの勝利である。 

 

 

 

 ハルウララは、歓待という物を心得ているスタッフどもに頭を撫で繰り回されつつ。

 

 思わずその場に立ち、スタンディングオベーションを捧げた。

 

 素晴らしい。

 

 

 

 窮兵衛の駆除。獅子身中の虫を見逃さぬ、目配り。

 

 当初の悪役の逃亡。細かい事は気にはしてはならぬという、戒め。

 

 巨峰リロード。クソが。

 

 ガトリング砲の登場。火力は正義。

 

 ガチ逃亡による、薄汚い勝利。好みだ。

 

 コンプライアンス。知らぬ。

 

 

 

 ここだ。ここでこそ、自らは才能を開花させることができる。

 

 そうと決まれば、責任者に擦り寄らなければ。

 

 枕営業はせぬ。

 

 この愛嬌溢れる100万ドルの笑顔があれば、ベッドなど飾りである。

 

 どれ、テイエムオペラオーは……

 

 きょろきょろとあたりを見回すと、撮影セットの前。

 

 そこには学生時代に見慣れた姿。

 

 

 

 「バックシーン!!!」

 

 サクラバクシンオーである。

 

 ウマ娘警察の象徴。

 

 ミニスカート制服から覗くふとももが、目に眩しい。

 

 痴漢電車での囮捜査が得意そうだ。

 

 

 

 そして、彼女が台車に乗せているのは。

 

 「ハーッハッハッハッハッ!」

 

 アイアンオペラオーである。

 

 クソ映画及びクソドラマの象徴。

 

 鋼鉄の処女が流す血涙が、目に眩しい。

 

 既に封印済みなようだ。 

 

 

 

 なんということだ。

 

 自分のスターへの踏み台を、バクシンメイデンするなど。

 

 やはり国家権力は敵だ。そう思いつつ。

 

 鼻息も荒く、サクラバクシンオーの前に立ちふさがる。

 

 

 

 「おや? ウララさんではないですか! 何故ここに? 

 小官はこれから、常習犯に反省を促すダンスを踊らせるところです! 

 まさか、ウララさんも共犯ですかっ! 

 このサクラバクシンオー、身内の犯行はさらに苛烈なバクシンでもって! 

 全身全霊で拷問致しますッ! 委員長ですからっ! 訂正ッ! 

 ウマ娘警察ですからッ!」

 

  

 

 わかっておらぬ。自分はまだ無実だ。

 

 わからせてやらねばなるまい。

 

 何、このハルウララの威光を以てすれば。

 

 バクシン式捜査術など敵ではない。

 

 珍しく真面目な顔をした彼女に、毅然とした態度で告げる。

 

 

 

 「へへぇ……」

 

 

 

 諂いの笑み。

 

 クリークママといっしょを、数々の放送禁止の危機から救った奥義である。

 

 

 

 「……なるほど! 共犯ではないようですねっ! 

 それでは小官はこれにてっ! バックシ──────ーン!!!!!!!!!!」

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロズガン。

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ×2。

 

 

 

 元スプリンターらしい、凄まじい初速でスタジオの扉に向かい。

 

 アイアンオペラオーを途中で大胆に床に放逐しつつ。

 

 彼女は去っていった。ちょろいもんである。

 

 

 

 こちらに転がり迫る、アイアンオペラオー。

 

 「ハーッハッハッハッハッ! 彼女は相変わらずだねぇ! スカウトしたい!」

 

 目の前で拷問器具の回転が止まり、中から陽気な声が響く。

 

 罪の意識はゼロのようだ。さすがは我が監督である。

 

 

 

 彼女をアイアンメイデンから救出させる。顎をしゃくる。

 

 嫌そうな顔で、バ鹿を取り出し、タオルで拭いていく我が取り巻きども。

 

 終われば褒美になでなでさせてやらねばなるまい。

 

 

 

 「おっと。ウララじゃないか! どうしてここに? 

 クリークの番組はいいのかい?」

 

 

 

 おっと。当座の共演者のご登場だ。

 

 実は、かくかくウマウマ。

 

 

 

 「……なるほど。事情はわかった。クリークも薄情だねぇ。

 同じママとして、ちょっと幻滅しちゃったよ。

 よしっ! アタシに任せなっ! 

 先輩として、ウララを立派な特撮ヒロインにしてやろうじゃないかっ!」

 

 

 

 よし。計算通り。

 

 この全自動甘やかし装置が、突然の失職に震える、可哀想でかわいいこの身を。

 

 放っておく訳がない。女優デビューは確定である。

 

 

 

 「そうと決まれば配役だねっ! オペラオー、空いている役は?」

 

 「ふむっ! よくわからないが、ウララ君か! 久しぶりだねっ! 

 相変わらず、ブリリアントなロリ具合ッ! 

 ドトウはそちらの番組では……ああ。

 怒涛丸鶏が人気沸騰したから、出ていないんだったね。

 勿体ない。彼女の輝きを理解できるのは、やはり終生のライバルたるボク! 

 この世紀末覇王しかいないようだね! 

 今度、新しい映画に出演を打診してみようっ! 

 実は、今度令和おなか合戦・奔放鼓! の続編をだね……」

 

 

 

 べらべらと捲し立てるオペラオー。

 

 ウマの話を聞かず、突っ走るのはいつものこと。

 

 

 

 ただ、クソ映画の続編。

 

 名作ですら、続編がつまらなくなるリスクは常に付きまとう。

 

 いわんや、狂乱のクソ映画の続編である。

 

 今度はどんな鮫が宙を舞うのか。

 

 ミソジドクシンオーの出演は。

 

 

 

 話を大胆に聞き逃しつつも、メイショウドトウの息災を祈る。

 

 乳がもげろ。

 

 

 

 「……というわけで、蟲毒のグルメと、狸汁をだね……」

 

 「オペラオー。そろそろ本題に入らないかい?」

 

 

 

 なるほど。たぬ吉さんの身が危うい。

 

 まぁ畜生の味噌汁など、些細なことである。

 

 ヒシアママの援護射撃。

 

 ようやくメイクデビューが決まるようだ。

 

 

 

 「ああ。仮面魔法ウマママ少女ライダーへの出演かい? 

 もちろん、大歓迎だとも! 

 実は、マスコットの役が来週まで空いていてね……

 窮兵衛は頑丈だが。

 さすがに治るまではしばらくかかるんだ」

 

 「いい考えだね。ウララは頑丈だし。

 ガトリング砲の次は、アームストロング砲を考えていたんだよ。

 やっぱり火力は正義だからね」

 

 「ガイドラインを読み直せ」

 

 パンッ! パァンッ! 

 

 「ンあッ! 天凛を感じさせるッ……! 

 仮面魔法ウマ違法ロリライダー、デビュー決定ッ!」

 

 「あひぃっ! タイマン勝負はアタシの惨敗ッ! 

 窮兵衛には包帯巻いとこう! これから共演、よろしくねっ!」

 

 

 

 バ鹿どもめ。

 

 ウマ娘を苦痛に喘がせるのは、禁忌である。

 

 加湿器の骨折芸が許されたのは、飽くまで原作。

 

 しかもストーリーライン上致し方無い、史実再現。

 

 あれがダンプに轢かれていれば、非難轟々だっただろう。

 

 

 

 二次創作では、繊細な忖度が必要なのだ。

 

 アームストロング砲をウマ娘にブチ込んではいけない。

 

 当然の気遣いである。

 

 先程の鋼鉄の処女の血涙も、勿論血糊である。

 

 

 

 反省を促す連続乳ビンタを叩き込み。

 

 ハルウララは遵法精神を高めた。

 

 

 

 身を翻し、思う。

 

 ここも我が理想の職場では無かった。

 

 なんだか異例の大抜擢を告げられた気がしたが、恐らく気のせいだろう。

 

 次なる職場を探すとしよう。

 

 

 

 名残惜しげななでなでを受けながら、勇者は歩む。

 

 次なる戦場へ。

 

 

 

 その身に秘められた力。

 

 果たして天使の祝福か。

 

 はたまた悪魔の禁忌か。

 

 覚醒の日は近い。

 

 

 

 

 

 

 つづかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけの蛇 その頃のおうち

 

 

 「さて、ママ。言い訳を伺いますわ」

 

 「プリンセス。ママを正座させるのは、ちょっとどうかと思うの……」

 

 「良いですこと!? ママ! この書き置き! 完全に家出ですわ!」

 

 

 

 お姫さまの手が握る、一枚の便箋。

 

 『探さないでください。ペットは勘弁』

 

 かわいらしい丸文字で、そう書いてある。

 

 

 

 「しかもなんですの!? この首輪ッ!」

 

 もう片方の手には、首輪。

 

 『うらら』とネームプレートに刻印してある。

 

 ゴツくて重い、ニクいやつ。

 

 

 

 なんということか。

 

 愛しの妖精は、ポジション変更の予感に。

 

 この家を出て行ってしまった。

 

 

 

 首輪は時期尚早すぎる。

 

 自分のトレセン学園入学直前と考えていたのだ。

 

 寮生活に入るまでに、完全に堕とすつもりだ。

 

 

 

 まったく、愛しの妖精をペット扱いとは。

 

 我が母ながら、何を考えているのか。

 

 多分何も考えていない。

 

 恐らくいつものポンコツだろう。

 

 

 

 連れ戻す事は確定している。

 

 逃がさぬ。絶対に。

 

 このプリンセスの涙目おねだり攻勢。

 

 駄々甘な彼女が断れた試しなど無い。

 

 

 

 だが、その前にこのポンコツにお説教をしておかねば。

 

 再度の家出は十分あり得る。

 

 とっとと今回はどんなすっとんきょうをしたのか、吐くがいい。

 

 

 

 「う、ウララさんも早とちりよね? 

 その首輪、犬用なの……実は、今度犬を飼おうと思って。

 気が逸って、首輪だけ先に買ってしまったの。

 ほら、お仕事をやめると、子供たちと遊べなくなるから。

 寂しいかなーと思って。可愛いわよね。わんこ。

 ねぇ、そろそろ足を崩して良い?」

 

 

 

 痺れる足を気にしつつ、上目遣いのポンコツ。

 

 

 

 「駄目ですわ。うららって書いてあるのは?」

 

 「ふ、フユウララ。わんこの名前。

 実は、プリンセスが名前を授からなかったら。

 その名前を着けようと思ってたの。

 ママ友の間で流行ってるのよ。親友のお名前をもらうの。

 足が。プリンセス。ママの足。もう限界」

 

 

 

 足をちゃっかり崩しながら、ウマホを見せてくる。

 

 一件のメール。

 

 

 

 『お久し振りです。

 キングさんはお変わりありませんか。

 ウララさんとプリンセスちゃんも、お元気ですか。

 

 最近、我が家にも可愛い天使が産まれました。

 名前は授からなかったため、スマートワンと。

 親友のファル子さんのお名前を頂きました。

 ええ。親友ですから。愛してます。

 

 ところで最近のファル子さんの様子はどうでしょう。

 前回以降の収録分、楽しみにしております。

 あと新しいシングルやファングッズがありましたら。

 是非とも送ってください。

 代金はいつも通り、スイス銀行に。

 あなたの友人改めママ友 フラッシュより』

 

 

 

 なるほど。内通者はここに居た。

 

 こやつ。番組を毎日見ておきながら。

 

 あの猛禽類の憎悪に、欠片も気付いておらぬ。

 

 

 

 我が母ながら、サイコパスにも程がある。

 

 というか本人に了解を取らずに名前を使うな。

 

 著作権を何と心得る。

 

 

 

 しかしながら、例の彼女も大概ヤバい。

 

 愛情が完全に歪んでいる。

 

 まさか、略奪愛の理由は。

 

 

 

 「さ、さーて。お夕飯の支度をしないと」

 

 「ママ!? お話はまだ終わっておりませんのよ!?」

 

 

 この母。隙を見て勝手に立ちおった。

 

 なんてやつ。まぁ、事情は分かった。

 

 妖精を探しに行かねば。

 

 

 「心配し過ぎよ。プリンセス。ウララさんは必ず帰ってくる。

 誤解させたことは、その時謝るわ」

 

 

 母の声に足を止める。

 

 こやつ、彼女を信頼し過ぎている。

 

 純真過ぎるのも考えものである。

 

 あまりに何もかもを、信じすぎるポンコツ天使。

 

 

 

 「もうっ! 何故、そう言いきれますの? ペット扱いされると! 

 そう、思ってるんですのよ!? 普通、愛想を尽かせますわっ!」

 

 

 さすがにここまで言えば、気付くであろう。

 

 だが、痺れた足を擦り、下を向く母。

 

 彼女が気にする様子は無い。

 

 

 

 「だって、親友ですもの。

 私、昔にね。ウララさんにもっと酷いことをしたわ。

 あの時も。ずいぶん長い間、待ったけれど。

 最後は私の元に、帰ってきてくれたもの。

 信じてるもの。ウララさんは、私の物よ」

 

 

 

 下げていた顔を上げて、にっこりと笑う母。

 

 愛しの妖精よりも、尚幼く映る。

 

 愛情に満ち溢れた、無垢なる天使のような笑顔。

 

 

 

 だが。恐らく。この世界に存在する、何よりも。

 

 誰よりも。とてもとても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サタンは、天使の姿を借りて現れるという。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。