ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

40 / 69
うん。勢いがちょっと足りないかな……
精進せねば……!


ファル子さんじゅういっさい そのじゅうなな 機能美は、速いだけじゃない

~前回までのあらすじ~

 

 見事、宇宙戦艦をパンジャンしたメジロ一家。

 

 動揺のあまり、ユキオーはPRS……

 

 パンジャンリアリティショックを発症し、ヤッターした。

 

 ウマ生経験が浅いためだ。

 

 利根川先生の助言も聞こえぬ。

 

 彼はわりと、不測の事態に弱いためだ。

 

 そして、堕ちゆく宇宙戦艦を救うため。

 

 老人ホームに巣くうジジイの一人。

 

 北 燦三郎が、立ち上がる。

 

 ソウルを宿した この命。

 

 一華咲かせて やりやしょう。

 

 彼の童貞から繰り出される、男節。

 

 宇宙戦艦は、持ち直すかと思われた。

 

 だが、彼の渾身の脳破壊。

 

 それではフネは、応えない。

 

 実は童貞では無かったからだ。

 

 ユリモドキニクショクジューモチモチどもに。

 

 彼の純潔は、知らぬまに。

 

 ごっつぁんされていたのだ。

 

 そして、人生の墓場へのホールインワン。

 

 ほっぺに圧殺される未来を予感する。

 

 百合好きなろう系主人公を他所に。

 

 マックイーンは、老人ホームへの。

 

 不法侵入をキメていた。

 

 直下で蠢くは、加湿器の偽装を剥いだ。

 

 熱狂的なマック信者。

 

 ウィン・ドウズなど、もう遺物。

 

 時代はブイ・ヤネンである。

 

 メジロの闇は深い。

 

 近親プレイは、名家の嗜みである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さすがマックイーン。美事なブチギレ金剛ね」

 

 

 

 サイレンススズカは、その場左旋回を止め。

 

 そっと微笑んだ。

 

 

 

 「スズカさん。一つ聞いてもよろしいでしょうか」

 

 「え? ええ。どうぞ」

 

 

 

 背面から聞こえる、エイシンフラッシュの声。

 

 どうしたのだろうか。

 

 

 

 「何故。私はスズカさんに。

 縛り付けられているのでしょう。

 しかも亀甲縛り。ニホン文化は奥が深い」

 

 「宇宙戦艦に行くためよ。

 フラッシュさんは、自力では。

 あそこに辿り着けないでしょう?」

 

 

 

 背面を見ようとして。

 

 更地に鏡は無いことに気付く。

 

 まぁ問題無いだろう。

 

 てくてくと、目標地点に歩を進める。

 

 

 

 熟練の縄師たる、スペちゃんが結んだのだ。

 

 その堅固さと、淫らな肉のはみ出し方。

 

 それには全幅の信頼が置ける。

 

 

 

 彼女は今回お留守番だ。

 

 クソ重いからだ。

 

 

 

 「……私は、アフガンコウクウショーさんに。

 運んで頂ける物と。そう思っていたのですが」

 

 「アフちゃんは、ウララさんのトレーナーさんを。

 ヒト雄は脆弱だもの。優しく運ぶには、彼女でないと」

 

 「ヒト雄が、この闘いに。役に立つと?」

 

 「役に立たないかもしれないわね。

 でも。それでも」

 

 

 

 言葉を切る。

 

 

 

 「私たちには、もうトレーナーさんは居ない。

 とても寂しいことだわ。

 でも、私には。スペちゃんがいる。

 心を繋いだ、愛するウマが。

 でもね。ウララさんは違う」

 

 「…………」

 

 「あの関係は、まだ定まっていない。

 燃えるような、恋となるのか。

 大海のような、愛になるのか。

 それとも、悲しい終わりを迎えるのか。

 

 結論を見ぬままに、引き離してはいけない。

 ウマ娘は、いつだって。

 自分の夢と。愛のために。全力で走るのだから」

 

 「……そう、ですね。

 愛と言われては、何も言えません。

 私がここに居る、理由でもあります。

 ですが、ひとつ疑問が」

 

 「何かしら」

 

 「どうやってあそこに? 

 あなたの領域は、速度関連の物では?」

 

 

 

 言われて気付く。

 

 そうか、彼女は。

 

 自分のドリームトロフィーリーグ時代には。

 

 もう帰国していた。

 

 知らないのも、道理というものだろう。

 

 ならば、教えて……

 

 

 

 「おぎゃあ」

 

 

 

 「ワン? いえ、何か声が低いような……?」

 

 

 

 目の前に現れた、赤子を見る。

 

 

 

 「お久しぶりです。

 クリークさんのトレーナーさん。

 相変わらず、オギャっているんですね」

 

 「バブゥ……」

 

 「おぎゃあ♥️ばぶー♥️」

 

 

 

 サムズアップをキメる、でかい赤子。

 

 おしゃぶりと、サングラスが似合う。

 

 その膝には、スーパークリーク。

 

 愛しの赤ちゃんの、なでなでにより。

 

 顔が蕩けきっている。

 

 

 

 なるほど。ここ一帯が更地になってきたのに気付き。

 

 愛する彼女の様子を、見に来たのだろう。

 

 

 

 「スーパークリークさんと。

 そのトレーナーさんですか。

 ……相変わらず、凄まじいですね。

 何がとは言いませんが。

 そういえば、スズカさんのトレーナーさんは」

 

 「……私のトレーナーさんは。もう居ないわ」

 

 

 

 思い出す。

 

 あの日のことを。

 

 

 

 『スズカ。今日の調子は?』

 

 『トレーナーさん。いい調子です。

 今日も、良い景色が見られそう』

 

 『好きに走っておいで。

 きっと。素晴らしい日になるよ』

 

 『そうですね』

 

 

 

 穏やかな声で告げる彼。

 

 牛乳で強化した足に、死角なし。

 

 前回のドリームトロフィーのように。

 

 また良い景色が見られるに違いない。

 

 自分は、うきうきとパドックに向かった。

 

 

 

 『スズカさん! 勝負です! 今回は負けませんッ!』

 

 かわいいスペちゃんの宣戦布告。

 

 どうやら、何か掴んだようだ。

 

 これは手強いライバルになる。

 

 自分は気を引き締めた。

 

 

 

 『さあ! 今回のドリームトロフィーリーグ! 

 勝利の女神が微笑むのは誰かっ!? 

 今…………ゲートが開いたっ! 

 先頭に飛び出したのは、サイレンススズカッ! 

 前回、奇跡の復活を魅せてくれましたっ! 

 その奇跡は、どこまでも続いていくのか!?』

 

 

 

 逃げ。

 

 主流から外れた戦法。

 

 最初から最後まで先頭を行くため。

 

 風除けはなく、ペースも自分で作る必要がある。

 

 先行・差しの方が、王道と呼ばれるのに対し。

 

 徒花とも言える戦法。

 

 だが。自分には関係ない。

 

 

 

 『サイレンススズカッ! 速い速い! 

 どんどんあげていくっ! 後続との差は、ニバ身! 

 スペシャルウィークが続いているっ!』

 

 

 

 先頭のまま、最終コーナーに向かい直進する。

 

 発動条件を満たした。

 

 曲がれッ……! 

 

 

 

 『サイレンススズカ! 逃げる逃げる! 

 最終コーナーでも、一切の減速無し! 

 工事現場の、ランマーのような轟音! 

 サイレンスはどこ行った!? 

 芝がめくれていくー! 

 作業員さん、レース後整備。頑張って!』

 

 

 

 ドドドドドドド、と。

 

 左右の足の回転数を変え。

 

 戦車のようなコーナリングを魅せる。

 

 最終直線へ。

 

 スペちゃんは……

 

 

 

 『甘いですよスズカさん。

 ニホン総大将。伊達じゃないんですっ!』

 

 

 

 コーナーを曲がり、速度を上げ。

 

 再度後ろに。詰めてきた彼女。

 

 なるほど。内ラチ沿いは諦め。

 

 

 

 最終コーナーを大回り。

 

 最終直線で差し切る作戦か。

 

 今回は、直線が長い。

 

 いい作戦と言えるだろう。

 

 

 

 だが……! 

 

 

 

 『先頭の景色は、譲らない……!』

 

 

 

 

 最終直線に、先頭で入った時点で。

 

 領域の発動条件は、満たしている。

 

 自分の勝ちは、揺るがない。

 

 その筈なのに……! 

 

 

 

 『うわあああああああっ!!』

 

 

 

 スペちゃんが離せない。

 

 何故だ。彼女の末脚でも。

 

 この領域発動時の自分。

 

 これに追い付くことなど……! 

 

 

 

 『ぬあああああっ! 勝ったら、ふともも! 

 好きなだけェェェェェェェ!!!』

 

 

 

 えっ。

 

 いや、そういえば昨晩。

 

 膝枕してあげた時に。

 

 スペちゃんが勝ったら。

 

 ふとももを好きにしていい。

 

 

 

 そう言った覚えはあるが……

 

 それだけで、ウマ娘の限界を超えつつある。

 

 自分に競ってくるとは……! 

 

 

 

 『負けない……! 先頭の景色! 

 例えスペちゃんにだって、譲らない……!』

 

 

 

 そして。自分は。

 

 

 

 普通に一バ身差で勝った。

 

 

 

 ゴールで見た、先頭の景色もそうだが。

 

 悔しがるスペちゃんの顔。

 

 最高の景色であった。

 

 

 

 

 回想から戻る。

 

 

 

 「とっても良い景色だったわ」

 

 「今の回想、必要でした?」

 

 「…………?」

 

 

 

 首を傾げ、左旋回する。

 

 おかしい。景色の話は鉄板のはずだ。

 

 スペちゃんも。

 

 いつも笑顔でふとももすりすりしながら。

 

 特別な笑い声で、相槌を打ってくれるのに。

 

 

 

 「あと、トレーナーさんとの関係は?」

 

 「普通に引退する時に。笑顔で別れたわ」

 

 「スズカさん、いつも何を考えて生きてます?」

 

 「走ることと、スペちゃんのことよ」

 

 「それ以外は?」

 

 「えっと…………」

 

 

 

 左旋回を早める。

 

 

 

 「いえ。わかりました。もういいです。

 で、どうやって宇宙戦艦に?」

 

 「そうね。じゃあ走りましょう」

 

 「フフフ。話を聞いてくれません……」

 

 

 

 赤ちゃんとスーパークリークに手を振り。

 

 スタートの体勢を取る。

 

 ゲートは無い。

 

 だが。

 

 

 

 「用意……ドンッ!」

 

 最高のスタートをキメる。

 

 初速から、凡百のウマ娘とは訳が違う。

 

 このサイレンススズカ。

 

 スタートからゴールまで。

 

 先頭でなくば、満足できぬ……! 

 

 

 

 スペちゃんが野生の本能で割り出した。

 

 必要な距離は約2000。

 

 芝では無く。アスファルトだが。

 

 問題無い。得意な距離だ。

 

 

 

 加速していく。

 

 エイシンフラッシュの重み。

 

 関係ない。

 

 足の負担は、許容範囲。

 

 牛乳は偉大だ。みんなももっと。

 

 

 

 「牛乳を。飲もう……!」

 

 

 

 現役時代から、欠かさず飲み続けている。

 

 スペちゃん農場の牛たちにも。

 

 既に我が子と認められている。

 

 

 

 スペちゃん農場の牛乳に。

 

 余りなど出るはずもない。

 

 自分が飲み尽くすからだ……! 

 

 

 

 宇宙戦艦に近づいていく。

 

 元より直線。

 

 これはレースではない。

 

 テンションが上がり、領域発動。

 

 

 

 『廃墟の景色も、乙なもの……!』

 

 

 

 加速度が上がる。

 

 

 

 「スズッ」

 

 「舌を噛み尽くせッ!」

 

 

 

 速度を上げて黙らせる。

 

 走る時はね。

 

 誰にも邪魔されず。

 

 自由で。

 

 なんというか、救われてなきゃあ。

 

 ダメなんだ……! 

 

 

 

 「但し、スペちゃんは可愛いから許すッ……!」

 

 

 

 宇宙戦艦を射程範囲に収める。

 

 今だッ……! 

 

 

 

 「領域完全展開ッ! 『天バのようにッ!』」

 

 「全力で、走りながらの完全展開ッ!?」

 

 

 

 荷物が驚愕の声を上げる。

 

 何を驚いているのか。

 

 このサイレンススズカ。

 

 走る時以外に、集中することなど。

 

 スペちゃんのおなかをすぺんすぺんする時ぐらいだッ……! 

 

 

 

 領域が姿を見せる。

 

 それは、夢幻に広がる草原。

 

 降りしきる雪。

 

 ああ。静かで。美しい景色。

 

 

 

 『サイレンススズカ』。

 

 速すぎた彼は。

 

 最期のレース。沈黙の日曜日。

 

 天へと駆けていったと、唄われた。

 

 

 

 この領域は、彼のあったかも知れない可能性。

 

 足さえ保てば。そう言われた彼。

 

 それを、牛乳の力により。実現した。

 

 無限に加速し続ける領域である……! 

 

 

 

 「速さ×速さ=速さァッ!」

 

 「頭が栗毛過ぎますッ!」

 

 

 

 うるさいぞ。

 

 

 

 速度を天井知らずに上げ、その時が来た。

 

 天へと昇る時が来たのだ。

 

 

 

 この、最速の機能美。

 

 実は速いだけではない。

 

 

 

 「スズカ・テイクオフッ!」

 

 「マヤノさんに謝ってッ!」

 

 

 

 そう。このサイレンススズカ。

 

 加速し過ぎると。

 

 この流線形の、魅惑のボディ。

 

 

 

 それがよくわからん理屈で、揚力を生み。

 

 ついつい空を飛んじゃうのだ……! 

 

 最速の機能美は、航空力学的にも機能の塊! 

 

 

 

 レースでの手加減など。

 

 出来る筈もなく。

 

 初めてフライトに成功した、あの日。

 

 『常識が逃亡した日曜日』にて。

 

 引退を、余儀なくすることとなったのだ! 

 

 

 

 

 『スズカはなんで飛ぶのん?』

 

 呆然と空を見上げた彼。

 

 トレーナーさん。

 

 飛ぶのも気持ちいい。

 

 

 

 景色が綺麗だもの すずか

 

 

 

 迫る宇宙戦艦の横ッ腹。

 

 さすがはスペちゃん。

 

 完璧な軌道計算だ。

 

 だが一つ、問題がある。

 

 

 

 「但し、離陸した後はっ!」

 

 「後はっ!?」

 

 

 

 「とっても緩い、放物線を描く。

 それだけよ。走れないもの。当然でしょ? 

 着地? 着艦……? どうしようかしら」

 

 「詐欺ですっ! あなたを訴えますっ!」

 

 

 

 栗毛飛行機は、美しい軌跡を描き。

 

 大胆に宇宙戦艦に突き刺さった。

 

 

 

 牛乳って大事。みんなも飲もう。

 

 彼女は後に、語ったという。

 

 

 

 

 

 つづかない


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。