ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

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今回はちゃんとしたバトル回です。
トレーナーにも活躍の機会を与えないと。


ファル子さんじゅういっさい そのじゅうきゅう ロマンシング・佐賀

~前回までのあらすじ~

 

 桜の花は何度でも。

 

 咲き誇るはこの世界。

 

 ハルウララは、覚醒を果たした。

 

 未だ七分咲き。覇を唱えるにはまだ足りぬ。

 

 忠実なる臣下に、タイミングの真意を問う。

 

 彼のアンサー。状況把握。

 

 なるほど、出来た臣下。

 

 先見の明を発揮し、作成しておいたスレに目を通す。

 

 通称、ウララン掲示板。

 

 バ鹿に思考環境を乱されることが多いが。

 

 カッ飛んだアイディアが出る時もある。

 

 学生時代から続けている、人気の処刑用スレッドだ。

 

 よくわからんが、やつめらは不法侵入を。

 

 頭のおかしい発想で、無事キメたらしい。

 

 スレッドに目を通し、レスバに興じる内。

 

 遅参した、駄犬メイド。

 

 九分咲を確認し、ついに主役の登場を決める。

 

 さぁ。愛する我が子たちよ。

 

 わたしを空へ。

 

 トレーナーよ。空中デートのお時間だ。

 

 一方、ユキオーは今回の被害者が。

 

 自分だとは、露とも知らず。

 

 レスバトルに興じ、モニター越しに見せつけられた異常な光景。

 

 彼女は、己の経験の浅さに。意識を月まで遠投した。

 

 なまじ、異なる常識を宿していると。

 

 この世界で生きるのは、とても大変なのである。

 

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「ぴよぉ……」」」」」」」」」」

 

 

 

 些か疲れた様子の我が子たち。

 

 ねぎらいのミミズを与え、しばらく休憩させた後。

 

 幼児たちの元へ、帰るように指示する。

 

 ナッちゃんについては、回復次第追随させる。

 

 じきに追い着くだろう。

 

 

 

 「ウララさん。遅いですわよ」

 

 「乙女の支度には時間がかかる。基本でしょ?」

 

 「なるほど。乙女と言われては。何も言えませんわ」

 

 

 

 納得する連コ葦毛。わかってもらえて何よりである。

 

 現在の位置は艦内左舷。

 

 栗毛たちが着弾したのは、右舷であるらしい。

 

 まずは合流するべきだろう。

 

 

 

 「ヘイ。尻。艦内の地図は?」

 

 

 

 情報収集に定評のある。トレーナーのケツを撫でてやる。

 

 

 

 「んっ……♡エクスタシィ……!」

 

 「なるほど。喘ぎ声もいい。良いトレーナーを見つけましたわね」

 

 「自慢のケツだよ」

 

 

 

 葦毛の感心した声。

 

 やらんぞ。

 

 

 

 「ふぅ。この第四世代型超光速恒星間航行用超弩級万能宇宙戦艦ファル子リヲン(早口)。

 スレッドにて。酔っ払いが上げた、画像はこれだ」

 

 

 

 トレーナーの嗜みとして、超小型プロジェクターを携行している彼。

 

 謎材質の白い壁面。そこに映し出された画像を眺める。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 「幼児が描いたイカかな?」

 

 「クリークママといっしょ。お絵描きのお時間が無くて、良かったのである」

 

 「まぁ酔っ払いの描く絵など。こんなものだろう」

 

 「それもそうですわね」

 

 「話を続けよう。今オレたちがいるのがここ。

 望遠鏡で観測した、栗毛と黒鹿毛の着弾地点がここだ」

 

 

 

 トレーナーが、先端付近のイカ耳の左右にポインターを照射する。

 

 左が我ら。右がバ鹿どもだろう。

 

 

 

 「そして、おそらく艦橋は。この丸の部分だろう」

 

 「そうですわね。下からしか見てませんので、断言できませんが」

 

 「丸だけやたらと綺麗であるな」

 

 「グラスの底を、使ったのではないかと思う」

 

 

 

 あの酔いどれ猛禽類、生意気に。良い酒に溺れおって。

 

 

 

 「ロマネ・コンティかぁ。一回でいいから飲んでみたいよね」

 

 「わたくしでも。たまにしか飲めませんわよ、アレ」

 

 「ふむ。食糧庫が見つかれば。強奪していくか? ウララ」

 

 「もちろん。アイツのものはわたしのもの。わたしのものはわたしのものだよ。

 むしろこの世にわたしのものでないものなんて。存在してはならない」

 

 「ウララ先輩は海賊適性SSであるな……天才はいる。悔しくはない」

 

 

 

 当初の目標を、食糧庫に設定。

 

 兵糧攻めは、兵法の基本である。

 

 やたらとデカい宇宙戦艦であるが、まぁ心配あるまい。

 

 

 

 この艦、やたらとバリアフリー設計。

 

 入居料が、クソほど高い老人ホームでも。ここまでではあるまい。

 

 まさかクルーが全員、老人というわけでもあるまいが。

 

 好都合だ。案内板はすぐに見つかるだろう。

 

 

 

 「ぴよっ!」

 

 

 

 ナッちゃんも来たようだ。

 

 これで準備は整った。

 

 蹂躙を始めるとしよう。

 

 

 

 「よいかトレーナー。

 我々は、インペリアルウララという陣形で戦う。

 キレやすい葦毛が前衛。両脇を、駄犬とひよこが固める。

 お前はわたしを喜ばせろ。お前のポジションが一番安全だ。

 安心してケツを振れ。ここのバ鹿どもにはわたしが立腹している。

 思う存分強奪し。用済みになれば自沈させるのだ。

 クズども、行くぞ!」

 

 「覇王の威風を感じますわね」

 

 「当初の目的を。完全に忘却している気がするのである」

 

 「ぴよぴよ」

 

 「なるほど。理に適った陣形だな。ウララに従おう」

 

 

 

 さぁ、まずは案内板だ。さて、どこにあるか……

 

 歩き出してしばらくして。葦毛が何かを見つける。

 

 

 

 「ウララさん。これを」

 

 「なぁにそれ」

 

 「おまるですわ。マニアが居ますわね」

 

 「ニッチな需要を満たそうとするんじゃないよバ鹿。

 マックEーンちゃんの見解では。この艦のクルー構成は?」

 

 「何か響きに不穏を感じますわね……」

 

 

 

 まさか本当に、老人ばかりなのか。

 

 老人に詳しい、葦毛に聞いてみる。

 

 

 

 「艦内のBGM。演歌が中心ですわ。

 わたくしのトレーナーが、老婆と共通の話題を得るため。

 聴いていた曲と、年齢層が一致しますわ。

 この艦内、思った通り限界集落ですわね」

 

 「お前、なんでそんなトレーナーに惚れてたの?」

 

 「顔とケツと声が良かったんですの。性癖は矯正できると思ってて……」

 

 「見通しが甘いよ。性癖を矯正できるんだったら。トレセン学園はもっと平和だったよ」

 

 「ぐうの音も出ませんわね。早いところドバイに渡りませんと……」

 

 「あきらめろって言ってるんだよ。バ鹿」

 

 

 

 諦めの悪い葦毛である。ハルウララはやれやれと首を振る。

 

 自分のように、全てを掴み取るための器量が足りぬ。

 

 優しいウララちゃんが、忠告してやるとしよう。

 

 

 

 「マックイーンちゃん。幸せを掴む方法を教えてあげよう」

 

 「なんですの? 今の私なら、藁にだって縋りますわよ」

 

 「まず声とケツと顔がいいトレーナーを探します」

 

 「ええ。基本ですわね」

 

 「堕とします。ここに愛の奴隷に堕ちたトレーナーをご用意しました」

 

 「オレだ」

 

 「それができないから悩んでいるんですが? かなぐり捨てるぞ貴様」

 

 「貴族の誇りを?」

 

 「学生時代を思い出しますわね……」

 

 

 

 緊張がほぐれたところで、行進再開。

 

 高級ワインが待っているのだ。

 

 足踏みしている時間などない。

 

 

 

 「ウララ先輩。あれを」

 

 「どうしたアフちゃん。くだらない事だったら粗相させるぞ」

 

 「報告するのやめようかな……」

 

 「さっさと言え。言わないと、さらにひどいことをしてやろう」

 

 「暴君すぎる。ほら、あれ」

 

 

 

 駄犬メイドが指し示す、右方向に目を移す。

 

 あれは。

 

 

 

 「止まってもらおうか。おぬしらの楽しい旅行は、ここで終いじゃ」

 

 

 

 一人の老爺。やはりジジイか。

 

 

 

 「ご老体。ここは危険だぞ。今から我が愛する暴君が。

 ここを蹂躙し尽くすからな。下がっているといい」

 

 

 

 トレーナーが敬老精神を発揮し、うかつにも近づこうとするのを。

 

 ケツを鷲掴みにして止める。

 

 

 

 「あっふん」

 

 「トレーナー。陣形を崩すな。

 ものども。陣形を右正面に。

 マックイーンちゃん。おかしな挙動を見せたら。

 遠慮はいらん。残虐ファイトを魅せてやれ」

 

 「言われるまでもありませんわ」

 

 「老体は大事にするべき。アフちゃんは思うのである」

 

 「味方ならな。敵なら滅ぼしてから敬ってやろう」

 

 「世紀末すぎる……」

 

 

 

 「やれやれ。コンプライアンスを知らぬやつらよ。

 どれ。このわし……市川 五右衛門が。

 貴様らを。思うさまに海老反りさせてやろうぞ」

 

 

 

 老人が、ニホン刀を抜き放ち、見得を切る。

 

 

 

 「歌舞伎なんだか。釜茹でなんだか。はっきりしろよ」

 

 「ウララ先輩。問題はそこではない。痴呆による剣筋の乱れ。

 バ鹿にできるものではないぞ」

 

 「なるほど。強敵そうですわね」

 

 「わしはまだボケておらんわ。ところでよし子さん。

 メシはまだかいのう?」

 

 「誰がよし子ですの。おじいちゃん、3日前に食べたでしょ?」

 

 「毎日食わせてやれよ」

 

 「そうじゃった。風呂はまだかいのう?」

 

 「こやつ。介護士に迷惑を掛けるタイプ……!」

 

 

 

 小手調べで危険性を感じ取る。

 

 甘くみたらやられる。

 

 

 

 「そうじゃった。言い忘れていたな。

 ハルウララさん。メジロマックイーンさん。アフガンコウクウショーさん。

 ファンです。サインをくれんかのう?」

 

 「「「ぬっ……! ファン……!」」」

 

 

 

 思わず色紙を取り出して。サインを書き始める学園OG3人。

 

 時間に余裕があり。対面で、直接。

 

 少人数からサインを強請られた場合。対応しなければならない。

 

 みどりのアクマオーに仕込まれた、輝ける現役時代から残る習性。

 

 見事に利用された。

 

 

 

 「そうそう。わしの同僚の分も頼むぞい。

 そうさな……主要メンバーのみでよい。

 ユキオーちゃんも大ファンじゃし。7人分でよいぞ。

 ハルウララさんについては、6人分でよい」

 

 「くっ……! なんてことですの! 強欲なファンですこと! 

 各人のフルネームを教えてくださる?」

 

 「G3勝利バの私に、そんな熱心なファンがいるとは……! 

 このアフガンコウクウショー、感動の極みである!」

 

 「やるね。わたしたちの習性。こうまで見事に活用されるとは。

 わたしだけ一人分少なくていいんだね。知り合いでもいるのかな? 

 ところでイラストは要る?」

 

 「ぜひとも頼むぞい。孫に自慢できる。我が家の家宝にするわい」

 

 「「「えーと、市川 五右衛門さんへ……」」」

 

 

 

 トレーナーは唸った。なんという見事な封殺。

 

 これは、トレセン学園について詳しくなくば。

 

 とても出来る業ではない。

 

 

 

 トゥインクルシリーズの出走バと。

 

 少数で接触できる幸運など、稀なのだ。

 

 一般のヒトでは、サインをもらうチャンスなど。ほぼ無い。

 

 

 

 彼女らは大体、町ではウマ娘レーンで走っており。声を掛けるのはマナー違反。

 

 また、商店街等で出会ったとしても。周囲には人だかりができる。

 

 みどりのアクマオーの調教成果が出るのは、このような。極限定された状況のみ。

 

 思い付きでできることではない。

 

 

 

 「ご老体。もしやあなたは、元トレーナーでは?」

 

 「鋭いのうおぬし。若いのに大したもんじゃ。

 そうじゃよ。わしらはトレーナーじゃ」

 

 「そうでしたか……偉大なる先達を。

 老体扱いしたこと。ご寛恕を賜りたい」

 

 「よいよ。わしなぞ大したトレーナーではない。

 わしの担当したウマ娘は、全員最高じゃがな。

 若いおぬしが、知らぬのも当然のことよ」

 

 

 

 トレーナーは確信した。鎌をかけてみたが。

 

 間違いなく元トレーナーである。

 

 しかも、そこらに転がっているような。

 

 数年で夢を諦めたような、紛い物ではない。

 

 

 

 養成所を出たての、若いトレーナーなどは。勘違いしがちだが。

 

 トレーナーとは。自らを卑下することはあっても。

 

 担当ウマ娘。我らの全てたる、彼女らを。

 

 自らが貶めること。それだけはしてはならない。

 

 

 

 例えオープン戦未勝利で終わったとしても。

 

 それは自らの責任であり、愛バこそが至上の存在。

 

 それは永遠に変わらぬ事実。そうあらねばならぬ。

 

 自分も若造であるが、トレーナーの心構え。

 

 それだけは、実家で叩き込まれた。

 

 

 

 彼が見せた、担当バたちを想う顔。

 

 間違いなく、一廉のトレーナーであったに違いない。

 

 愛する暴君たちは動けぬ。ここは自分が何とかせねば。

 

 

 

 「……侮っておりました。元トレーナーといえど。

 大した人物ではなかろうと、そう思っておりましたが。

 違うようですね。一手御指南願いたい」

 

 「ほう。アレだけで感じたか。

 わしも侮っておったよ。……アレは、習得しておるか?」

 

 「偉大なる先人よ。愚かな質問をされますな。

 私の担当バ。最高のウマ娘である、彼女。

 ハルウララに認められたトレーナーが。

 習得していないはずがない。そうは思いませんか?」

 

 「……謝罪しよう。そうさな。そうであるに違いない。

 桜色の暴帝。蹂躙する者。彼女が生半可なトレーナーなど。

 選ぶ筈がない。やれやれ、わしも年を取ったのう……

 遠慮する必要などないな。全力で仕る! 

 いざ。尋常にッ!」

 

 「勝負ッ!」

 

 

 

 お互い、一気にバックステッポ。

 

 慎重に間合いを計る。

 

 一足一刀の間合い。

 

 

 

 相手の二ホン刀に、注意を払う必要などない。

 

 極まったトレーナー同士の勝負。

 

 その闘争に、物理的な威力など。

 

 意味を持たぬからだ。

 

 

 

 「……抜かぬのか?」

 

 「ご老体こそ。いつまでそのような鈍ら。

 握っておられるので?」

 

 「言うてくれるのう。大業物とはいかぬが。

 初代ヤスヒロ、二尺五寸四分。斬鉄剣の名も高い業物よ。

 そんじょそこらのトレーナーなら。

 ビビってくれると思ったんじゃが。

 

 やれやれ。人生思ったようには、いかぬもんじゃのう。

 まさか、半世紀も生きておらぬ若造に。

 初心を思い出させてもらおうとは」

 

 

 

 じりじりと、間合いを詰める。

 

 舌戦で、熟練のトレーナーに勝てるなどと。

 

 そこまで思い上がれはしない。

 

 ただの時間稼ぎだ。

 

 

 

 「長さではなく、生き様。

 そのように考えております。

 あなたも同様では?」

 

 「やれやれ。老いた身には耳が痛い。

 その通りじゃよ。だがな。若人よ。

 愛バを幸せにするためには、命を無駄にしてはいかぬよ」

 

 「まっことその通りですな。

 あなたに勝利し、我が愛バの覇道の礎。

 そうなっていただきましょう」

 

 「言うてくれる……!」

 

 

 

 痺れを切らしたのか。

 

 先達が懐に手を。

 

 今だッ……! 

 

 

 

 「ナッちゃん、ゴー!」

 

 「ぴよー!」

 

 「何ィッ!?」

 

 

 

 先達の後頭部に突き刺さるひよこ。

 

 愛バの愛する子である彼女。

 

 自分の子でもあるのは、当然のこと。

 

 もちろん、我が想いが伝わらぬ筈がない。

 

 

 

 「ぬぅ……! 無念……」

 

 

 

 崩れ落ちる、人生の先輩。

 

 さぁ、勝鬨を上げよう。

 

 肩で頬を擦り寄せてくる、ナッちゃん。

 

 嘴についた血を、優しく拭き拭きしつつ叫ぶ。

 

 

 

 「オレたちの、勝利だ!」

 

 「やっぱりこやつ、ウララ先輩のトレーナーなんじゃなって」

 

 「このダーティーな勝ち方。さすがはウララさんのトレーナーですわね」

 

 「お前らどういう意味? まぁよくやった。トレーナー。

 サインも書き終わったことだし、先に進むとしよう」

 

 

 

 彼女たちの、蹂躙行進曲は続く。

 

 

 

 

 つづかない


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