だが、オレはこれが書きたい。
~前回までのあらすじ~
お仕置きを終え。
進軍を再開した、ハルウララご一行。
アグネスタキオンと、駄犬メイド。
業の深さに、思いを馳せながら。
次なるジジイと接敵する。
初手の騙し合いの結果は、こちらの敗北。
ポンコツ栗毛は、壁をブチ抜き走り出し。
ジジイのご厚意により、崩れ落ちるハルウララ。
飲み過ぎたためだ。
愛する暴君の、膝を着く姿に。
腹を立てた、トレーナー。
彼女を地に伏せさせていいのは、自分のみ。
独占欲が強いためだ。
敬老精神を、遥か彼方に投げ捨てて。
老爺わからせ企画物バトル。
果敢に挑む、彼の姓。
その名も高き、九夢院。
桐生院に匹敵する、名家だ。
ジジイに嫡子たる、義務を問われるも。
そのようなこと、知らぬのだ。
家に縛られるのは、もう古い。
そう告げるも、老爺の唐突な自分語り。
なんと、神バのトレーナー。
ハルウララは、彼の動揺を見抜き。
駄犬の薄い尻を楽しみながら。
叱咤激励、待ったなし。
彼は、愛する暴君の声に。
ついに、秘められた力を開帳する。
催眠バトル。正式な作法であった。
告げられる、誇りある愛バの生き様。
振り回される、五円玉。
年季の違いに、んほぉするも。
愛バを傀儡と化す、奇策により。
見事、勝利を納める彼。
灰は灰に。塵は塵に。
ジジイはジジイの。
愛バに生を、搾らせる。
そして、最後の刺客が訪れる。
彼の名は。
ハルウララは、目を覚ました。
どうやら、楽しく観戦するうちに。
寝てしまっていたようだ。
自身は、彼の腕の中。
状況を見るに、勝ったのだろう。
後で、褒美をやらねば。
しかし、一つの違和感。
「トレーナー。何か頬が。
舐め回されたように濡れてる」
「ウララ。恐らく、倒れた時に。
地面が濡れていたのだろう。
どれ、オレがふきふきしてやろう」
「なんか、粘ついているような」
「気のせいだ」
「むぅ。釈然としない……」
何か。違和感を感じるが。
大人しく、奉仕を受け入れることとする。
忠実な臣下だ。
自分を害することは、未来永劫無い。
「これは、教えたほうが?」
「教えない方が、面白いから却下よ」
「あんなに思い切り、催眠に。
ドハマりし尽くす、ウマ娘。
初めて見ましたわよ、わたくし」
「思い出しますね。よく私のトレーナーも。
ファル子さんを、催眠していたものです。
私はもちろん、かかりませんでしたが」
「催眠なんて?」
「ありえないわ」
「絶対かかっている。私は確信したのである」
外野が、ややうるさいが。
大したことは、話していないだろう。
気を取り直し、前進再開である。
「ところでトレーナー。鏡」
「うむ。どうぞ」
差し出された、手鏡に映る。
一分咲きの、物足りぬ桜。
鹿毛のウマ娘の、ぷりちーフェイス。
「んー。回復が遅いな」
「完全展開に加え、あの威力の、謎奥義。
今元気に喋れている方が、不思議ですわよ」
「そうね。私も、あと10回ぐらいしか。
今日は、全力では走れないわ」
「スズカさん。容易くウマ娘の限界。
栗毛力で突破するのは、やめて頂けませんか」
やはり、栗毛はおかしい。
思いつつ、横を見ると。
駄犬メイドの、疑問顔。
何か聞きたいことでも、あるのだろうか。
「私は領域について、自分の物以外について。
あまり、良く知らぬのだが。
普通は、日に何回が限度なのだろうか」
「ルーティーン化した、部分展開でも日に一度。
レースを日に何回も走る、ウマ娘なんて。
見たことありますこと?
伝説の、キンチェムぐらいでは?」
「私、いつでもどこでも何度でも。
わりと、自由に飛べるのだが」
「レースに使えないからだろ。
三女神は、そういうとこザルだよ」
「スズカ先輩のは? めちゃくちゃレース向きである。
飛ぶこと以外。親近感を感じはするが」
「飛ぶからだからじゃ、ないですかね……
いや、飛ばなくても。とんでもない速度でしたが」
遠い目をする、エイシンフラッシュ。
何やら、思う所があるらしい。
「肉体負荷も、関係しているのだろう。
アフちゃんのは、上昇気流に乗るだけ。
サイレンススズカは、やたらと頑丈。
メジロマックイーンと、エイシンフラッシュ。
お前たち二人の領域については。
オレは、内容はわからないが。
ウララの領域は、身体の負担がでかい。
恐らく、防衛本能だろう。
己を壊さないための」
「なるほどね。つまりはこうだな。
か弱いウララちゃんはかわいい」
「その通りだ」
「ウソでしょ……」
珍しい、栗毛の呆然顔。
何かおかしい所が、あっただろうか。
トレーナーに、お姫様だっこされつつ。
動力部へと向かう。
「そういえば、トレーナーさん。
ご実家の話を、されておりましたが。
お家は、大丈夫なんですの?」
「心配は無用だ。いいか、考えてみろ。
名家は、幾つかあるが。
まず、サトノ。百合婚をした挙げ句。
謎の、引退した演歌歌手兼業トレーナー。
それも、己の親より年上。
そいつを囲おうと、画策しているらしい」
「どんなヤツなんだろうね。その被害者」
「顔を見てみたいものですわね」
既に見ているが、彼らは知らない。
北 燦三郎。
キャラは濃いが、先程の登場では。
影は死ぬほど、薄かった。
「次に、桐生院。家の秘伝だか知らんが。
鋼の意思とかいう、誰に役立つのか不明な。
よくわからんスキルを、嫌がらせのように。
ティッシュよりも気軽に、ばら撒いた挙げ句。
白毛のウマ娘に、執着されて未だに独身」
既に、二代目ミソジドクシンオーを襲名している。
「シンボリは、まぁ政治家だ。
誇れる職ではあるが。なんというか……
動機が欲に塗れている上、やり方がダーティ。
逮捕と変革。どちらが先になるやら」
「是非頑張って欲しいと、思ってるよ」
「ウララ。オレ一人では不満か」
「たまには、ステーキ以外も食いたいんだよ」
「そうか。まぁオレがメインディッシュであれば、それでいい」
「そういうところ、高ポイントだよ」
驚愕の顔で、こちらを見るバ鹿ども。
何か、おかしい所があっただろうか。
「なんと。どこまでも都合の良い。
顔と声とケツの、すこぶる良い男。
ウララさんは、どうやってこんな優良物件。
捕獲したのでしょうか」
「洗脳も完璧ですね。違和感を感じる、素振りも無し。
腕力だけだと、思っていましたが。
これは、後程やり方を。ご教示願わねばなりません」
「私は怪鳥一筋。あまり関係ないのである」
「最後に、メジロマック院。
ごらんの有り様だ」
全員の視線が、ゲーミング葦毛お嬢に集中する。
「わたくしだけ、何故名指し?
……やめてくださいまし。
わたくしを、憐れんだ目で。
そんなに見るのは、やめてくださいましっ!」
泣き崩れる、メジロ家首魁。
長らく、目を逸らし続けていたが。
本当は、気づいているのだろう。
愛するババコンに、愛される頃には。
恐らくとっくに、アガっている。
何かはコンプライアンス上、言えぬが。
新しい恋を見つけぬ限り。
子孫を残せぬ、身の上である。
「思い付くだけでも、この惨状。
オレは、子孫を残す気満々。
むしろ、100人は。愛の結晶が欲しい。
どうだ。家に貢献しているだろう」
「わたしはそんなに産めねーよ。
殺す気か、貴様」
「いけるいける。愛があれば」
「ツインテ栗毛どもと、一緒にするなよ。
いいか。いつも言っているだろう。
わたしは、一姫二太郎ぐらいが理想だ」
「オラッ♡催眠ッ♡」
「いけそう」
「よし」
バ鹿どもが、やれやれと首を振る。
どうしたのだろうか。
かわいい我が子に満ち溢れる、このハルウララの。
輝かしい未来に、嫉妬しているのだろうか。
「やっぱこいつは、ダメですわね。
罪悪感とか、倫理観とか。
欠片も、持ち合わせが無さそうですわ」
「オレ様系は、少女漫画でウケると聞きますが。
どちらかというと、そのような作品への出演。
登場した途端に、非業の死を遂げさせられる。
エロ漫画島に生息してそうな、ヒト息子ですね」
「ウララ先輩、退マ忍より催眠に弱くない?」
よくわからないが、無礼なことを言われている気がする。
トレーナーの首元を、くんかくんかしつつ。
反論を、試みることとする。いいにおい。
「誰が感度三千倍だよ。ウララちゃんは清い身だ」
「好感度は弄っていない。完全に合法だ」
「絶対弄ってますわよね?」
「いや。ウララには効かなかった。オレにできるのは。
ちょっと性癖を、オレ好みにすることだけだよ」
「十分大惨事だと。思うのだけれど」
「マゾなのか、サドなのか。私のように、はっきりするべきである」
「エルコンドルパサーさんへの、扱いを見るに。
アフちゃんも、相当歪んでいると。私は思うのですが」
失礼なヤツである。完全に純愛だというのに。
更なる反論を考えるうちに。よく知った気配。
通路の先から、感じるこれは。
「……おじいちゃん?」
「よう。久しぶりだなウララ」
つば短の、麦わらハットにサングラス。
手には、ステッキを携えた。
悪人面の、おじいちゃん。
己の、ドリームトロフィー時代を支えた男。
六平 銀次郎が、そこにいた。
「ほう。ウララの元トレーナー。
フェアリーゴッドファーザーか。
お噂はかねがね。ウララがお世話になっておりました。
もうオレの物だがな。羨ましかろう」
「敬意を払うか、喧嘩を売るか。どっちかにしやがれ。
あと、オレをそのあだ名で呼ぶな」
「失礼。ジジイ。これでいいか?」
「いいねぇ。はっきりしたヤツは好きだぜ。
ウララに相応しい、バ鹿野郎だ」
ゆらりと。身を揺らす、おじいちゃん。
何か、様子がおかしい。
と、いうか彼は。
「おじいちゃん。腰は大丈夫なの?
それが原因で引退したじゃん」
「お前と一緒の原因だということに。
そういうことに、していたな。
だがな。あれは方便よ。
本当の理由。お前が知る必要は無いがな」
「……貴様。ウララに嘘を?
オレがウララを担当出来たのは、貴様の引退が原因。
それについては、感謝しよう。
だがな、担当ウマ娘に。嘘をつく。
それだけは、トレーナーとして。
やってはならない事ではないか?」
トレーナーの、怒り。
この顔も、わりと好みだ。
だいたい大好物だが。イケメンだし。
「お前にはわからねぇよ。若すぎる。
必要だったんだ。嘘なんてつきたかぁ、無かった。
だがな。世の中には、それが必要な時がある」
「……サングラスを外してくれないか。
オレは未熟者でな。目を見ないと。
相手が、尊敬すべき者であるのか。
ちゃんと、催眠にかかっているのか。
まだ、見抜くことができんのだ」
「さらっと催眠を自白したな。こやつ」
「うるせぇぞ。育て甲斐がありそうなロリ。
おい、小僧。オレの目を見たきゃあな。
実力で見てみやがれってんだ」
ステッキを、こつこつと。
突きながら告げる彼。
感じる圧力が増す。
「……ウララ。ヤツの実力は?」
「強いよ。シンデレラを作る魔法使い。
フェアリーゴッドファーザーは、伊達じゃない。
おじいちゃんじゃなきゃ、オグリは2冠を取れてない」
「なるほどな。……なるほど。
強いな。未熟なオレでもわかる。
先ほどの、銅大地とやらが最強。
そう考えていたが……
どうやら、この世界は。
オレが思っていたよりも、広いらしい」
「銅大地の兄貴か。
あっちの方がつえぇぞ。だがな。
オレは、アイツほど甘くねぇ。
その違いだと考えろ」
「……ウララ。降ろすぞ。
どうやら、お前を抱えたままでは。
一瞬で、勝負が決められる。
お前を抱えたまま、喘ぎたくはない」
「当たり前だろバ鹿」
そっと、地面に降ろされる。
かつんという音。少しばかりの喪失感。
下がって、見守ることとする。
「さて。こちらの準備は良いぞ。
ご老体、やはり催眠で?」
「それもいいが。せっかくウララがいるんだ。
ネ・トレ・ラレWピース。そいつで決めようや」
「ネ・トレ・ラレWピースですって……!?」
「知っているのですか、スズ電!?」
「ええ。知っているわ。恐ろしい勝負方法よ……」
栗毛が、平坦な胸に手を当て。ゆっくりと告げる。
「ネ・トレ・ラレWピース。ピ・クシブを発祥とする勝負よ。
安直な、嫌われの氾濫。現れる、謎の敏腕トレーナー。
ちょっとチョロすぎる、ウマ娘たち。
これを問題視した、理事長が提案した方式よ」
「大丈夫ですの? なんかすごい勢いで、喧嘩売ってませんこと?」
「安心して。今さらよ。……続けるわね。
1人のウマ娘を争う時。トレーナーは、催眠で勝負をつける。
そして、愛の深さを競うのよ。
当然よね。催眠に最も重要なのは、リラックスと信頼関係。
絆が深いトレーナーだけが、愛バを催眠にかけられるの」
「愛っていったい。私は思ったのである」
朗々と紡がれる、栗毛の美声。
そうか。こやつも確か。
「スズカさんも。トレーナーが交代したのでしたね」
「そうよ。私の、2人のトレーナー。
王道戦法を至上とする、前トレーナーと。
私を好きに走らせようとした、彼。
彼らは、私に催眠をかけ。
そして、勝者が私を勝ち取ったの」
「スズカさん。なんでもないように言ってますけど。
基本的ウマ権の侵害では?」
「正式な作法だもの。しょうがないわね」
「スズカ先輩、メンタルつっよ……」
ちょっと引いた感じのアフちゃん。
栗毛に慣れていないためだろう。
こやつは、走ることと、スぺちゃん以外。わりとどうでもいいのだ。
……というか。ちょっと待て。
「わたしの意志は?」
「ウララ。わがままを言ってはいけない」
「そうだぞ。たまには言うことを聞きやがれ」
「釈然としない……」
だが、こやつら話を聞きそうにない。
まぁいいだろう。ウララちゃんは、催眠になど。
絶対に、負けはしないのだ。
※負けます
「さぁ! 五円玉を出せ! ちっとばかし、ブランクはあるが!
オレたちの十一年、お前の一年で勝てるかな!」
「愛とは、時間ではない。忘れてしまったようだな」
ゆっくりと、己の前で五円玉を揺らす彼ら。
なんだこれは。どうしろというのだ。
「ちなみにスズカ先輩。先輩は催眠には?」
「かからなかったわ。普通に前トレーナーを殴り倒したわ」
「さすがすぎる……勝負の意味、ゼロである」
そして。
「「オラッ♡催眠ッ♡」」
最低の勝負が、始まった。
こいつら、後で殴る。
ハルウララは。
そう思いつつ、催眠にドハマりした。
つづかない