アフちゃんの活躍。
ユキオーの、対抗手段は果たして。
~前回までのあらすじ~
泡沫の。夢から覚めた、白髪ロリ。
敵手をはじき、間合いを作り。
増幅される、トラウマと領域。
だが、彼女はノーダメージ。
利根川先生が、痛みを引き受け。
褐色ロリを、圧迫面接。
これにはたまらず。駄犬メイドは、三つ指突きて。
領域解除し、地を舐める。
既に、アブドゥルは亡く。
妻子の顔を、思い出したのとは特に関係なく。
上下の圧力で、ウマスタ映え化。
プレスされるのを、防ぐためだ。
そして、強まり続ける圧力。
アフガンコウクウショーは、考える。
起死回生の策。増幅された領域。
コンプライアンス。後輩との思い出。
よし、恥をかかせてやろう。
音速で決意し、上昇気流で恥ずかし固め。
怪鳥と、爛漫先輩。
彼女ら譲りの、ダーティプレイ。
態勢を、強引にリセットし。
ちょんとお澄まし、カーテシー。
アブドゥルが死んだ日。
告げられなかった秘密。
怪鳥の、錯乱具合を大暴露。
そして、開帳されるは絆。
優雅に瀟洒にかわいらしく。
航空力士の、土俵入りである。
「ユキオー。私のアフターバーナー。
この場合は、初期の領域という意味であるが……
何のための。領域だと思う?」
「飛ぶためでしょ。聞くまでもないじゃン?」
「でも私の方が、速いですよ?」
「スズカさん。ステイ」
アフガンコウクウショーは、静かに問う。
告げられたアンサー。
なんか混じった、栗毛。
わかっておらぬ、後輩である。
「正解であり、不正解であるな。
飽くまで、アフターバーナーは。
土俵に上るための、領域である」
「へぇ? 雲竜型。確か、横綱用の所作だよね?
部分展開も、土俵入りのためじゃないの?
意味が被ってるじゃン」
頭の中で、相撲知識をひけらかすおじさん。
利根川先生は、相撲についても詳しい。
おじさんで、あるためだ。
「土俵への移動と、土俵入り。
意味が少々違うのである。
この身は未熟故。完全展開には至らぬが……
雲竜型は! 土俵を部分展開する領域ッ!」
轟、と風が吹きすさぶ。
「はぁ? 土俵を展開?
それが何の役に立つのさ。
いいよ。もう十分。スカートを抑えながらでも。
あンたを堕とすには十分。
フォーリンダウ「遅い」ンッ!?」
指を差し向けた時には、もう遅い。
敵手を見失い、目を瞬かせたときには。
ユキオーの、痩身は宙を舞っていた。
「なンッ!?」
慌ててスカートを、手で抑える。
廻る景色。上下左右が、わからない。
そして。耳元で聞こえる声。
「ダウンバースト」
下向きの圧力。自分と同じ。
思った時には、ドンと快音。
ユキオーは、地に伏せた。
「ぐあっ!? 上昇気流しか!
使えないはずじゃないの!?」
「言ったであろう? 土俵入りと。
航空力士の土俵は、全ての空。
地表から空への風しか、再現できぬアフターバーナー。
雲竜型はな。ユキオー。
高高度での気流を、我が身周辺に現出。
航空相撲本場所を、再現する領域なのだ」
「高高度の、気流ッ!?」
愕然とする。
そんな。それは。
「つまり、どういうこと?」
「しょうがない後輩である」
わからなかったら、ウマに聞く。
ユキオーは、とても素直な子であった。
「アフちゃんが、丁寧に教えてやるのである。
決して、自慢したいからではないのである」
「うんうん、それで? アフちゃん先輩の。
領域、すごくかっこいい。ユキオー、とっても気になる。
詳しく知りたいなぁ」
「しょうがないのであるなぁ! よく聞くのである!」
うまくいった。ユキオーは、ほくそ笑んだ。
学生時代と、変わらぬ。
こやつはウマだが、どこかおじさんくさい。
おじさんは、自分の自慢話が大好き。
要忖度おじさんの扱い方。
利根川先生の知識は、いつでも自分を助けてくれる。
「外道。プロジェクターで、大気の断面図」
「ああ、存分に使うといい」
「ユキオーは、頭はいいが。知識不足でなぁ。助かるぜ」
いそいそと、自分の領域。
そのネタバラシをする、アフガンコウクウショー。
前世と完全に融合した、彼女。
おじさんは、若い娘におだてられると。
ついつい、なんでも教えたくなっちゃうのだ。
「つまりだな。まずアフターバーナー。
上昇気流は、地表から空へ。
これに対し、雲竜型。
高高度……その中でも、対流圏から成層圏までの。
気流を、自由に再現できるのである」
これも借りた、ポインターで。
地上から、空への矢印と。
大気の層を、指す彼女。
「ふむふむ。それでそれで?」
「中間圏から上は、再現できん。中間圏界面は、約ー92.5度。
航空力士でも。装備が無いと、普通に死ぬのである」
「なるほど。高度の限界はあるンだねぇ」
アフガンコウクウショーは、ノリノリで。
自分の領域の、細部を囀る。
とても勉強になる。ペンでも回したい気分。
ユキオーは、学生時代を思い出しつつ。
メモを取り、気になることを質問することとした。
「さっきの、バ鹿みたいな速度は?」
「あれは、対流圏上層。ジェット気流を、再現したのである」
「なるほど。ダウンバーストって?」
「積乱雲は知っておるな? あれは、上昇気流によって形成されるのであるが。
減衰期に入ると、下降気流が発生する。それを、ダウンバーストと呼ぶのだ。
雲の中を泳ぐ、航空力士の姿。それを見て、ヒトは雲竜と呼んだ。
未確認飛行物体の正体は、だいたい航空力士である。うまよんにも書いてある」
なるほど。先ほどの重圧。
カラクリはそれか。
だが、疑問がある。
「万能すぎン? 何か弱点は?」
「うむ。実は弱点が一つだけあってな……」
「ほうほう! ユキオー、弱点知りたいなぁ!」
「ほう。そんなに知りたいか、ユキオー」
いける。この褐色ロリ。学生時代と変わらず。
あまりにも、おだてに弱い。
このまま、弱点を聞き出し……!
「知りたい知りたい! アフちゃん先輩の!
クソみたいにチョロいところ、ユキオー大好き!」
「やはり学生時代。煽てられ、奢らされ尽くした毎日。
お前の気持ちは、よ──────く。わかったのである」
「しまった。つい本音が」
「もはやこのアフガンコウクウショー! 容赦せぬ!」
バッと飛び退る、煽てに弱いバ鹿。
だが、十分である。
時間はだいぶ稼げた。
ハナから、初期段階の領域で。
上位の領域に勝てるなど。
思い上がっては、いないのだ。
「ちょっとタイム」
「む。タイムなどルールに……」
「アフちゃん。ルールは守らないと駄目ですわよ?」
「やきうの、おウマさん……!」
急に出てきた、メジロマックイーン。
狙い通りだ。野球好きな彼女。
タイムという言葉には、敏感に反応する。
「1イニングに2回。これは、譲れませんわ」
「プロやきうの、おウマさん……!」
なるほど。2回使うと交代。
このタイムで、決めねばならぬ。
急いで、後方へ駆け寄る。
「会長ッ! 起きてッ!」
「うにゅう……? ユキオー?」
その先には、愛しいウマ。
そう。彼女の酔いが冷めるまで。
その、時間稼ぎだったのだ。
褐色ロリが、愛するウマと魂を共振させ。
部分展開に目覚めたと、言うならば。
自分と、会長の絆なら。
出来ない方が、不思議というもの……!
「あれ? 前が見えない。でもいいにおい」
「そりゃっ」
「むぐっ。おお、見えるようになった」
会長の、顔から布を取り払い。
そっと、握らせてやる。
自分の全ては、彼女のもの。
衣類とて、例外ではない。
「会長。お目覚めの気分はどう?」
「えへへ。とってもいい気分。……あれ。ウララちゃんがいる」
ふりふりと、ツインテールを揺らし。
目敏く、トレーナーの膝枕で。
健やかに眠る、正妻を見つける彼女。
少し胸がざわつくが。
ナンバーツーで、構わない。
「ファル子さんッ……!」
「あれ。フラッシュちゃんも? お久しぶり」
「ッ……!」
平気な顔で、憎かった筈の彼女。
それに、挨拶する会長。
傷ついた顔をする、エイシンフラッシュ。
実感したのだろう。
もはや、彼女に会長は。
何の、感情も抱いていない。
愛情の反対は、無関心である。
「会長。魔法を解いて、欲しいンだ」
「魔法……?」
「そう。わたしの名前。冠名を、返して欲しい」
「どうしたの? 急に。学園に戻る気になった?」
不思議そうに、問うてくる会長。
わかっていない。だがそれが愛しい。
自分に、彼女から離れる気など。
未来永劫、有りはしない。
「んふ。違うよ。これは、誓い。
わたしは、おじさんとお別れする。
そろそろ、わたしも独り立ち。
おじさんを、解放してあげなくっちゃ」
「……よくわからないけど。いい顔するようになったね。
いいよ。返してあげる。今のあなたなら。
贅沢な冠名じゃないね」
(ユキオー。いいのか?)
心配そうに告げる、おじさんの声。
いや。もう自分に嘘をつくのは、やめよう。
「おじさん。今までありがとう。
わたしが心配だったから。今まで残っててくれたんだよね。
わたしの。わたしだけのイマジナリ・フレンド」
そう。おじさんとは。
幼きこの身が。魂が。
この美しくも残酷な世界に、耐えきれず。
前世の人格をもとに。
作り出した、幻想の友達。
でも、もう大丈夫。
わたしは、この世界に生きている。
「わたしの名前はッ! ユキオー!
誇り高き、敗者の魂を継ぐものッ!
そして、スマートファルコンを心から愛する!
たったひとりの、ウマ娘ッ!
さぁ、会長! 新しい魔法をかけて!
もう、わたしは迷わないッ!」
そして、夢から覚めたシンデレラ。
十二時の魔法は、この胸に。
脚を上げて、微笑む。
「んふっ。とっても私ごのみの展開。
ガラスの靴は、無いけれど。
履かせるなら、なんでもいいよね?」
「もちろん。悪い魔法使いさン。
でも、主君に履物を。温めさせるのは、不敬かな?」
「いいよ。許したげる。あとで制裁するけどね。
正妻を、手に入れたあと。たっぷりお仕置き、してあげる」
「ンッ♡エクスタシィッ!」
そして。心許なかった、スカートの下が。
会長の、ぬくもりに包まれる。
ヒトソウルが、彼女とつながり。
異常振動する、この魂。
「パーフェクト・トネガワユキオー! ここに推参ッ!」
「私は、何を見せられているのである?」
茶番劇である。
つづかない