ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

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さぁ、領域バトルはインフレーション。
アフちゃんの活躍。
ユキオーの、対抗手段は果たして。


ファル子さんじゅういっさい そのにじゅうきゅう 魔法が解ける時

~前回までのあらすじ~

 

 泡沫の。夢から覚めた、白髪ロリ。

 

 敵手をはじき、間合いを作り。

 

 増幅される、トラウマと領域。

 

 だが、彼女はノーダメージ。

 

 利根川先生が、痛みを引き受け。

 

 褐色ロリを、圧迫面接。

 

 これにはたまらず。駄犬メイドは、三つ指突きて。

 

 領域解除し、地を舐める。

 

 既に、アブドゥルは亡く。

 

 妻子の顔を、思い出したのとは特に関係なく。

 

 上下の圧力で、ウマスタ映え化。

 

 プレスされるのを、防ぐためだ。

 

 そして、強まり続ける圧力。

 

 アフガンコウクウショーは、考える。

 

 起死回生の策。増幅された領域。

 

 コンプライアンス。後輩との思い出。

 

 よし、恥をかかせてやろう。

 

 音速で決意し、上昇気流で恥ずかし固め。

 

 怪鳥と、爛漫先輩。

 

 彼女ら譲りの、ダーティプレイ。

 

 態勢を、強引にリセットし。

 

 ちょんとお澄まし、カーテシー。

 

 アブドゥルが死んだ日。

 

 告げられなかった秘密。

 

 怪鳥の、錯乱具合を大暴露。

 

 そして、開帳されるは絆。

 

 優雅に瀟洒にかわいらしく。

 

 航空力士の、土俵入りである。

 

 

 

 

 

 

 

 「ユキオー。私のアフターバーナー。

 この場合は、初期の領域という意味であるが……

 何のための。領域だと思う?」

 

 「飛ぶためでしょ。聞くまでもないじゃン?」

 

 「でも私の方が、速いですよ?」

 

 「スズカさん。ステイ」

 

 

 

 アフガンコウクウショーは、静かに問う。

 

 告げられたアンサー。

 

 なんか混じった、栗毛。

 

 わかっておらぬ、後輩である。

 

 

 

 「正解であり、不正解であるな。

 飽くまで、アフターバーナーは。

 土俵に上るための、領域である」

 

 「へぇ? 雲竜型。確か、横綱用の所作だよね? 

 部分展開も、土俵入りのためじゃないの? 

 意味が被ってるじゃン」

 

 

 

 頭の中で、相撲知識をひけらかすおじさん。

 

 利根川先生は、相撲についても詳しい。

 

 おじさんで、あるためだ。

 

 

 

 「土俵への移動と、土俵入り。

 意味が少々違うのである。

 この身は未熟故。完全展開には至らぬが……

 雲竜型は! 土俵を部分展開する領域ッ!」

 

 

 

 轟、と風が吹きすさぶ。

 

 

 

 「はぁ? 土俵を展開? 

 それが何の役に立つのさ。

 いいよ。もう十分。スカートを抑えながらでも。

 あンたを堕とすには十分。

 フォーリンダウ「遅い」ンッ!?」

 

 

 

 指を差し向けた時には、もう遅い。

 

 敵手を見失い、目を瞬かせたときには。

 

 ユキオーの、痩身は宙を舞っていた。

 

 

 

 「なンッ!?」

 

 慌ててスカートを、手で抑える。

 

 廻る景色。上下左右が、わからない。

 

 そして。耳元で聞こえる声。

 

 

 

 「ダウンバースト」

 

 

 

 下向きの圧力。自分と同じ。

 

 思った時には、ドンと快音。

 

 ユキオーは、地に伏せた。

 

 

 

 「ぐあっ!? 上昇気流しか! 

 使えないはずじゃないの!?」

 

 「言ったであろう? 土俵入りと。

 航空力士の土俵は、全ての空。

 地表から空への風しか、再現できぬアフターバーナー。

 

 雲竜型はな。ユキオー。

 高高度での気流を、我が身周辺に現出。

 航空相撲本場所を、再現する領域なのだ」

 

 「高高度の、気流ッ!?」

 

 

 

 愕然とする。

 

 そんな。それは。

 

 

 

 「つまり、どういうこと?」

 

 「しょうがない後輩である」

 

 

 

 わからなかったら、ウマに聞く。

 

 ユキオーは、とても素直な子であった。

 

 

 

 「アフちゃんが、丁寧に教えてやるのである。

 決して、自慢したいからではないのである」

 

 「うんうん、それで? アフちゃん先輩の。

 領域、すごくかっこいい。ユキオー、とっても気になる。

 詳しく知りたいなぁ」

 

 「しょうがないのであるなぁ! よく聞くのである!」

 

 

 

 うまくいった。ユキオーは、ほくそ笑んだ。

 

 学生時代と、変わらぬ。

 

 こやつはウマだが、どこかおじさんくさい。

 

 おじさんは、自分の自慢話が大好き。

 

 要忖度おじさんの扱い方。

 

 利根川先生の知識は、いつでも自分を助けてくれる。

 

 

 

 「外道。プロジェクターで、大気の断面図」

 

 「ああ、存分に使うといい」

 

 「ユキオーは、頭はいいが。知識不足でなぁ。助かるぜ」

 

 

  

 いそいそと、自分の領域。

 

 そのネタバラシをする、アフガンコウクウショー。

 

 前世と完全に融合した、彼女。

 

 おじさんは、若い娘におだてられると。

 

 ついつい、なんでも教えたくなっちゃうのだ。

 

 

 

 「つまりだな。まずアフターバーナー。

 上昇気流は、地表から空へ。

 これに対し、雲竜型。

 高高度……その中でも、対流圏から成層圏までの。

 気流を、自由に再現できるのである」

 

 

 

 これも借りた、ポインターで。

 

 地上から、空への矢印と。

 

 大気の層を、指す彼女。

 

 

 

 「ふむふむ。それでそれで?」

 

 「中間圏から上は、再現できん。中間圏界面は、約ー92.5度。

 航空力士でも。装備が無いと、普通に死ぬのである」

 

 「なるほど。高度の限界はあるンだねぇ」

 

 

 

 アフガンコウクウショーは、ノリノリで。

 

 自分の領域の、細部を囀る。

 

 とても勉強になる。ペンでも回したい気分。

 

 ユキオーは、学生時代を思い出しつつ。

 

 メモを取り、気になることを質問することとした。

 

 

 

 「さっきの、バ鹿みたいな速度は?」

 

 「あれは、対流圏上層。ジェット気流を、再現したのである」

 

 「なるほど。ダウンバーストって?」

 

 「積乱雲は知っておるな? あれは、上昇気流によって形成されるのであるが。

 減衰期に入ると、下降気流が発生する。それを、ダウンバーストと呼ぶのだ。

 雲の中を泳ぐ、航空力士の姿。それを見て、ヒトは雲竜と呼んだ。

 未確認飛行物体の正体は、だいたい航空力士である。うまよんにも書いてある」

 

 

 

 なるほど。先ほどの重圧。

 

 カラクリはそれか。

 

 だが、疑問がある。

 

 

 

 「万能すぎン? 何か弱点は?」

 

 「うむ。実は弱点が一つだけあってな……」

 

 「ほうほう! ユキオー、弱点知りたいなぁ!」

 

 「ほう。そんなに知りたいか、ユキオー」

 

 

 

 いける。この褐色ロリ。学生時代と変わらず。

 

 あまりにも、おだてに弱い。

 

 このまま、弱点を聞き出し……! 

 

 

 

 「知りたい知りたい! アフちゃん先輩の! 

 クソみたいにチョロいところ、ユキオー大好き!」

 

 「やはり学生時代。煽てられ、奢らされ尽くした毎日。

 お前の気持ちは、よ──────く。わかったのである」

 

 「しまった。つい本音が」

 

 「もはやこのアフガンコウクウショー! 容赦せぬ!」

 

 

 

 バッと飛び退る、煽てに弱いバ鹿。

 

 だが、十分である。

 

 時間はだいぶ稼げた。

 

 ハナから、初期段階の領域で。

 

 上位の領域に勝てるなど。

 

 思い上がっては、いないのだ。

 

 

 

 「ちょっとタイム」

 

 「む。タイムなどルールに……」

 

 「アフちゃん。ルールは守らないと駄目ですわよ?」

 

 「やきうの、おウマさん……!」

 

 

 

 急に出てきた、メジロマックイーン。

 

 狙い通りだ。野球好きな彼女。

 

 タイムという言葉には、敏感に反応する。

 

 

 

 「1イニングに2回。これは、譲れませんわ」

 

 「プロやきうの、おウマさん……!」

 

 

 

 なるほど。2回使うと交代。

 

 このタイムで、決めねばならぬ。

 

 急いで、後方へ駆け寄る。

 

 

 

 「会長ッ! 起きてッ!」

 

 「うにゅう……? ユキオー?」

 

 

 

 その先には、愛しいウマ。

 

 そう。彼女の酔いが冷めるまで。

 

 その、時間稼ぎだったのだ。

 

 

 

 褐色ロリが、愛するウマと魂を共振させ。

 

 部分展開に目覚めたと、言うならば。

 

 自分と、会長の絆なら。 

 

 出来ない方が、不思議というもの……! 

 

 

 

 「あれ? 前が見えない。でもいいにおい」

 

 「そりゃっ」

 

 「むぐっ。おお、見えるようになった」

 

 

 

 会長の、顔から布を取り払い。

 

 そっと、握らせてやる。

 

 自分の全ては、彼女のもの。

 

 衣類とて、例外ではない。

 

 

 

 「会長。お目覚めの気分はどう?」

 

 「えへへ。とってもいい気分。……あれ。ウララちゃんがいる」

 

 

 

 ふりふりと、ツインテールを揺らし。

 

 目敏く、トレーナーの膝枕で。

 

 健やかに眠る、正妻を見つける彼女。

 

 少し胸がざわつくが。

 

 ナンバーツーで、構わない。

 

 

 

 「ファル子さんッ……!」

 

 「あれ。フラッシュちゃんも? お久しぶり」

  

 「ッ……!」

 

 

 

 平気な顔で、憎かった筈の彼女。

 

 それに、挨拶する会長。

 

 傷ついた顔をする、エイシンフラッシュ。

 

 実感したのだろう。

 

 もはや、彼女に会長は。

 

 何の、感情も抱いていない。

 

 愛情の反対は、無関心である。

 

 

 

 「会長。魔法を解いて、欲しいンだ」

 

 「魔法……?」

 

 「そう。わたしの名前。冠名を、返して欲しい」

 

 「どうしたの? 急に。学園に戻る気になった?」

 

 

  

 不思議そうに、問うてくる会長。

 

 わかっていない。だがそれが愛しい。

 

 自分に、彼女から離れる気など。

 

 未来永劫、有りはしない。

 

 

 

 「んふ。違うよ。これは、誓い。

 わたしは、おじさんとお別れする。

 そろそろ、わたしも独り立ち。

 おじさんを、解放してあげなくっちゃ」

 

 「……よくわからないけど。いい顔するようになったね。

 いいよ。返してあげる。今のあなたなら。

 贅沢な冠名じゃないね」

 

 

 

 (ユキオー。いいのか?)

 

 

 

 心配そうに告げる、おじさんの声。

 

 いや。もう自分に嘘をつくのは、やめよう。

 

 

 

 「おじさん。今までありがとう。

 わたしが心配だったから。今まで残っててくれたんだよね。

 わたしの。わたしだけのイマジナリ・フレンド」

 

 

 

 そう。おじさんとは。

 

 幼きこの身が。魂が。

 

 この美しくも残酷な世界に、耐えきれず。

 

 前世の人格をもとに。

 

 作り出した、幻想の友達。

 

 でも、もう大丈夫。

 

 わたしは、この世界に生きている。

 

 

 

 「わたしの名前はッ! ユキオー! 

 ()()()()()()()()()

 誇り高き、敗者の魂を継ぐものッ! 

 そして、スマートファルコンを心から愛する! 

 たったひとりの、ウマ娘ッ! 

 さぁ、会長! 新しい魔法をかけて! 

 もう、わたしは迷わないッ!」

 

 

 

 そして、夢から覚めたシンデレラ。

 

 十二時の魔法は、この胸に。

 

 脚を上げて、微笑む。

 

 

 

 「んふっ。とっても私ごのみの展開。

 ガラスの靴は、無いけれど。

 履かせるなら、なんでもいいよね?」

 

 「もちろん。悪い魔法使いさン。

 でも、主君に履物を。温めさせるのは、不敬かな?」

 

 「いいよ。許したげる。あとで制裁するけどね。

 正妻を、手に入れたあと。たっぷりお仕置き、してあげる」

 

 「ンッ♡エクスタシィッ!」

 

 

 

 そして。心許なかった、スカートの下が。

 

 会長の、ぬくもりに包まれる。

 

 ヒトソウルが、彼女とつながり。

 

 異常振動する、この魂。

 

 

 

 「パーフェクト・トネガワユキオー! ここに推参ッ!」

 

 「私は、何を見せられているのである?」

 

 

 

 茶番劇である。

 

 

 

 

 

 つづかない


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