ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

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ギャグ控え目。シリアス多めであります。
この世界の、ウマ娘の価値観はこうなっております。


ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅうさん ウマ娘の産まれた意味

~前回までのあらすじ~

 

 トレーナーの脳裏に流れる、存在しない記憶。

 

 特に彼は気にしなかった。

 

 そして臨むは、最後の戦い。

 

 まずは、冷静に戦力分析。

 

 ボス戦前の、基本である。

 

 こちら、無敵のハルウララ。

 

 他は、駄犬とゴリラ。あとひよこ。

 

 錯乱した、トレピッピ。

 

 なかなか厳しい、状況である。

 

 自身の桜も、散ってしまった。

 

 これ以上の損害は、許容できぬ。

 

 思いつつ、駄犬に一つの疑問を問う。

 

 丸出しだったためだ。

 

 ゴリラのバナナ。その皮が。

 

 炸裂して、急遽ToL〇ve発生。

 

 およめに行けぬと嘆く駄犬。

 

 冷静に、彼女を叱責する彼。

 

 不測の事態に、戦力が減り。

 

 ハルウララは、舌打ちひとつ。

 

 倒れていった、仲間を想う。

 

 そして始まる、ラストバトル。

 

 再度の重圧。だが効かぬ。

 

 吶喊外され、壁を貫き。

 

 ゴリラによる、アサシネイション。

 

 猛禽の瞳は、見逃さぬ。

 

 類人猿と、猛禽類。

 

 字面だけなら、動物大バトル。

 

 ポンコツ、ケツデカ。栗毛勝負の行方。

 

 フェアリーゴッドファザーの嘆き。

 

 どこ吹く風と、ハルウララ。

 

 友にして、好敵手たる猛禽類の挑発。

 

 そして、戦いは次のステージへ向かい。

 

 飛翔する、第2部の当初の構想。

 

 どうしてこうなった。

 

 予定通りなのは、宇宙戦艦の登場ぐらいである。

 

 

 

 

 

 

 

 久方ぶりに、顔を合わせた。

 

 腰を屈めた、牧場の職員に導かれ。

 

 近くの小山に足を運び。

 

 彼が、そこで見たものは。

 

 満開の、桜の木の下。

 

 粗末な木で組まれた、十字。

 

 彼女で稼げるだけ稼いだ後。

 

 王様は、所有権を放棄し。

 

 預けられた牧場で。

 

 残ったのは、わずかな人々の善意のみ。

 

 支援者が、老人ばかりなのも災いした。

 

 (くしけず)られるように、優しき人々は減り。

 

 彼女の偉業は、人々の。

 

 心から既に消え去って。

 

 人は、食わねば生きられぬ。

 

 善意には、限りがあるのだ。

 

 彼を導いた、牧場職員。

 

 枯れ木のように、痩せ細った老人は。

 

 悲しそうに、呟いた。

 

 「君に、会いたがっていたよ」

 

 続く言葉を飲み込んで。

 

 老人は、その場から去った。

 

 泣き崩れる彼に、告げられなかった言葉。

 

 彼女は、もう十年も前に。

 

 優しき老人は、知っていた。

 

 真実は、嘘よりも人を傷つける。

 

 溌剌としていた、青年の。

 

 変わり果てた、その容貌。

 

 罅割れた、巌のような顔に。

 

 その言葉を、投げかけられる筈もなく。

 

 ただ黙することだけが。

 

 自分の与えられる、ただ一つの優しさであることを。

 

 優しき老人が、去った後。

 

 彼は、墓標に縋りつき。

 

 涙を枯らし。ただただ人を。

 

 愚かなる、自分自身を呪った。

 

 そして、涙が涸れ果てて。

 

 呆然と、桜を眺める彼の元に。

 

 現れた、一人の女。

 

 彼女は、安心したように微笑んだ。

 

 「やっと見つけた。()()()()()()で最も。

 人の想いを受けた、敗北者を支え続けた者。

 何もかもをも投げ捨てて。勝利を得られなかった、愚かな魂。

 彼女の魂だけでは。片手落ちになるところだったわ」

 

 彼女は、力尽きた燕に。

 

 嫋やかな手を伸ばし。そっと彼に囁いた。

 

 「彼女に、会いたい?」

 

 そして、燕は答えた。

 

 

 

 

 

 

 「さーて。そろそろファル子の出番だよねッ☆」

 

 くるくると、マイクを回し。

 

 不敵に微笑む猛禽類。

 

 

 

 「少々お待ちを。会長。

 わたし、試したいことがあるンだ」

 

 「へぇ? ウララちゃんに通じる自信は?」

 

 それを制し、前に出る白髪ロリ。

 

 小娘の癖に。挑戦を恐れぬ心。

 

 正直、嫌いではない。

 

 身の程知らずでなくば。勝利など得られない。

 

 いつだって。無謀な挑戦が、明日を切り開くのだ。

 

 

 

 「正直、そこまでは。だけど。少々の動揺ぐらいは」

 

 「ふゥん。素直でよろしい。やってごらん? ユキオー。

 うまくいったら。褒めてあげるし。

 うまくいかなかったら。お仕置きしてあげるよ」

 

 「つまりはどちらにせよハッピー! 

 トネガワユキオー、いっきまーす!」

 

 うっきうきで、こちらを見やる白髪ロリ。

 

 失敗を、これでより恐れなくなった。

 

 己のような、全てを自ら切り開く。

 

 そのような力を持ちはしない。

 

 

 

 だが、他者の心。自らの手足を掌握することに。

 

 長けたる、覇道の一つの形。

 

 この宇宙戦艦。運だけで手に入れたものではない。

 

 そもそも、これだけあっても意味が無い。

 

 母港まで、揃えてこその海賊王。

 

 そういうことだろう。

 

 

 

 「ごほンッ。さぁて。ハルウララ。

 この艦。おじいちゃんばっかりじゃなかった?」

 

 「老人ホームかと思ったよ」

 

 「だろうねぇ。わたしも最初はそう思った。

 ねぇ、ハルウララ。今のわたしのトレーナーの一人。

 六おじいちゃんの引退の真実。知ってみたくなァい?」

 

 「ほう?」

 

 「おい! ユキオー!」

 

 

 

 おじいちゃんが、焦ったような声を挙げる。

 

 なるほど。知られたら不都合な真実。

 

 大方、想像はつくが……聞いてみることとしよう。

 

 

 

 「話してみるといい。トレーナー、椅子」

 

 「うむ。この重みがオレを狂わせるッ……!」

 

 己に従順な、理解あるトレピッピを呼び寄せ。

 

 その背中に腰を下ろし。話を聞いてやる態勢を取る。

 

 ケツを撫でて、褒美をやりつつ。

 

 ポップコーンが無いことを、些か残念に思う。

 

 

 

 「さぁ。話すといい。咄家としての実力。見せてごらんよ」

 

 「会長。ちょっとわたし、自信なくなってきたわ」

 

 「大丈夫。あんま期待はしてない。思い切ってどうぞ」 

 

 「ひぃン。あんな唯我独尊が服着て歩いてるヤツ。

 このぐらいで、動揺してくれるかなァ……? 

 ごほン。ハルウララ。オグリキャップのクラシック。

 覚えてるよね?」

 

 「オグリちゃんの? うん。覚えてるよ」

 

 

 

 言われ、記憶の隅を探ってみる。

 

 オグリキャップ。カサマツのシンデレラ。

 

 彼女は、クラシック三冠に挑戦できる身の上ではなかった。

 

 地方からの移籍。登録制度など、知る筈もなく。

 

 シンデレラが、舞台に上がるには。

 

 些かの、時間が必要である筈だった。

 

 だが。

 

 

 

 「シンボリルドルフを中心とする、学生闘争。

 それで、出走をURAに。強引に認めさせたンだよね?」

 

 「そうだよ。懐かしいね。会長に頭を下げられたからね。

 バ鹿どもを率いて、戦ってやったとも」

 

 

 

 シンデレラを見つけた者は。不条理を許せなかった。

 

 自らが見つけた、大粒の原石。

 

 拾い上げた輝きを、古臭い慣習でくすませることなど。

 

 百駿多幸の夢以前に。彼女自身の責任感が。

 

 それを、許せる筈がなかった。

 

 

 

 『ハルウララ。協力して欲しい。君の力も必要だ』

 

 『へえ? なんで? 会長、URAと仲良くしておいた方が。

 夢の実現には、近道なんじゃないの?』

 

 心底、自分は疑問に思った。

 

 慣習で、出走を制限されるなど。

 

 哀れだとは思ったが……

 

 自身の戦場は、ダートを主とした。

 

 クラシック三冠など、対岸の話。

 

 そもそも、挑戦できぬ者など。山ほど居る。

 

 なぜ、オグリキャップにそこまで親身になるのか。

 

 

 

 『見つけてしまった。原石を。

 見つけただけならば、良かった。

 磨くのは、カサマツの誰かで良い。

 

 だが、私は拾い上げてしまったのだ。

 皇帝たるこの身が、彼女が埋没することを。

 認められず、拾い上げた。

 山が低くとも、頂点に立てる逸材を。

 

 強引に、中央に引きずり出しておきながら。

 走る場所を与えない? 古臭い慣習で? 

 高い山を見せておきながら。挑戦する事すらさせぬ? 

 私はね、ハルウララ。

 皇帝だ。皇帝なんだよ。

 

 嘘はついていない。だが、未だ私は。

 当然の道理も、通していない。

 私は詐欺師ではない。皇帝だ。

 オグリキャップのためではない。

 私は、私の自尊心のために。

 君に頭を下げているのだ。

 失望したかね?』

 

 『あはっ。さすがはわたしたちの生徒会長。

 エゴイズムの塊だね。オグリキャップのためとか。

 少しでも口に出したら。殴り飛ばしてたよ、陛下。

 ご命令を。ハルウララは、学園一番の負けず嫌いに。

 尊敬すべきあなたに、協力致しましょう』

 

 『感謝する。さぁ、闘争を始めよう』

 

 

 

 そう。オグリキャップに協力したつもりはない。

 

 自分たちは、尊敬すべき負けず嫌いの頂点。

 

 無敗の皇帝。愛すべき大バ鹿者。

 

 百駿多幸などと。口にしてしまったばかりに。

 

 ただ、自分が嘘をつきたくないだけの。不器用な彼女。

 

 誰も彼をも背負いこんで、走り続ける皇帝に。

 

 その脚を預けたのだ。

 

 

 

 『あらあら♡ウララちゃんもですか?』

 

 『あれ、クリークちゃんも? オグリちゃんとは?』

 

 『ライバルですよー♡不在だから勝てたとか。

 言われるのを想像するだけで、虫唾が走ります♡』

 

 『ははっ。こりゃ力強いね。ファル子ちゃんは?』

 

 『ファル子ね? クラシックは嫌い。ファル子が輝けないもの。

 だからね。ぶっ壊してやろうと思って。

 ファル子より、輝く筈だった星たち。

 カサマツのシンデレラに堕とされたらさ。

 きっと、いいリアクションをしてくれるよ』

 

 『コイツ、ただ単に性格が悪いだけだな……』

 

 『そういうところが可愛いんですよ。ファル子さんは』

 

 『趣味が悪いねぇ。フラッシュちゃんは。

 んじゃ、行こうか。世界を我がままで壊しに行こう』

 

 

 

 振り返り、背後を見る。

 

 目をぎらつかせる、綺羅星たち。

 

 三冠バ。G1バ。G2バ。G3バに、オープンバ。

 

 それぞれ、口に出した理由は異なるが……

 

 ここに集った理由は、ただ一つ。

 

 皇帝陛下が、我らに命じたのだ。

 

 私の我がままに、協力せよ。

 

 学園で、一番強いウマ。

 

 九冠バが命じたのだ。

 

 それだけで、十分。

 

 それ以外の理由など、必要ない。

 

 だって。強い者が正しいのだ。

 

 最も強い者の我がままが、通らないならば。

 

 この世に、ウマ娘が走る意味などない。

 

 ウマ娘は、走るために。

 

 走って、勝つために産まれたのだから。

 

 報酬は、勝つこと。

 

 意見を曲げるとは、つまりは。

 

 負けることに他ならない。

 

 

 

 『さぁ諸君。よく集まってくれた。

 私は、諸君に一つだけ命じる。

 勝て。私に我がままを通させろ。

 ならば、この世に勝利の価値はある。

 

 私の我がままこそが。この学園で最も価値がある。

 だってそうだろう? 弱者ども。

 弱者に産まれた価値など、無いのだから。

 

 悔しかったら、私に勝って見せろ。

 諸君ら以外に私が負けるとすれば。

 それは、ウマ娘の敗北である。

 潔く、枕を並べて死のうではないか。

 なに、敗北者にはお似合いの死にざまだよ。

 死にたくなければ、せいぜい張り切るんだな』

 

 

 嫌味たっぷりに、囀る皇帝。

 

 我らの答えは、ただ一つ。

 

 

 

 『『『『『『『『『『いつか、負けを認めさせてやるッ!!!!!!』』』』』』』』』』

 

 

 

 こいつが、自分以外に負けるのはムカつく。

 

 それだけだった。

 

 

 

 

 

 皇帝、負けず嫌いでクラシック制度破壊事件。

 

 URAは、彼女が自分以外に負けることを許さぬ者たち。

 

 我ら、ウマ娘の我がまま故に。

 

 その膝を屈したのだ。

 

 トレーナーが、投影していた再現ドキュメンタリー。

 

 スタッフロールを見ながら。

 

 回想を終え、呟く。

 

 

 

 「懐かしいね……いつかヤツとは、決着をつけねばならぬ」

 

 「ヒトは何故、ウマ娘と共存できているのだろうな……」 

 

 「かわいいからだよ。ほら」

 

 「かわいい」

 

 「よし」

 

 

 椅子に、顔を近づけて。とびっきりのウィンク。

 

 それだけで、彼は納得してくれた。

 

 できた男である。

 

 

 

 「んで、それがどうしたの」

 

 「い、いや……あの事件の責任、誰が取ったか知ってる?」

 

 「URAの職員とかでしょ? 知ってるよ」

 

 「そ、それだけじゃないよッ! あの事件で、学園にいたヒトたち! 

 トレーナーたちの、責任も問われたッ! 

 おじいちゃんたちは、あンたらの被害者なンだよッ!? 

 六おじいちゃんだってッ! もうちょい長く続けられた筈ッ!」

 

 「そうなの? おじいちゃん」

 

 「んあ。年長のヤツらはそうだよ。

 燦三郎は、愛バどもから逃げるためだから違う。

 俺は、アレだ。オグリがグルメドラマに出演したろ? 

 学園にまで、報道陣が押しかけてきてなぁ。

 めんどくせーし、上層部に目をつけられてたし。

 いい機会だったから辞めた」

 

 「わたしのラストランぐらい、見てくれても良かったのに」

 

 「無茶いうない。アイツらに詰め寄られながら、お前の世話とか。

 老骨には、荷が勝ちすぎるぜ」

 

 「まぁ、トレーナーと出会えたし。許してあげるよ。感謝するといい」

 

 「お前、ほんと唯我独尊だよなぁ……」

 

 

 

 そして、立ち上がり。

 

 ユキオーとやらに、聞いてみる。

 

 

 

 「全員死ぬか。勝つか。戦うのは当たり前でしょ? 

 負けるわけにはいかないからさ。必要な犠牲だったよね」

 

 「こいつら、頭が戦国時代すぎるッ……! 島津かよッ! 

 会長、お役に立てず申し訳ありませンッ! お仕置きしてッ!」

 

 ユキオーは、欠片も動揺していないハルウララを見て。

 

 自分が、レースに向かぬという。会長の真意を悟った。

 

 ウマ娘は、皆。勝つためだけに走っているのだ。

 

 ヒトには理解できぬ価値観。

 

 自分などが、出走しても。

 

 生半可な覚悟では、食われるだけであるッ……! 

 

 

 

 「あはっ。ユキオーったらおバ鹿さん。

 何をするかと思ったら。誰の首が飛ぼうと。

 私たちは、止まらなかったよ。

 教えたでしょ? 敗者に価値なんてないって。

 さぁ、勝つよ。私に我がままを通させろ」

 

 「はいっ! 勝たねば……! 勝たねばゴミッ! 

 おじさんも正しかったッ! 戦わなきゃ、生きられないッ! 

 この生は、闘争に満ちているッ! なんて世界だッ! 

 楽しくて仕方がないッ! 会長の我がままのためッ! 

 粉骨砕身ッ! この身を如何様にもッ! 使い捨てて頂きたいッ!」

 

 「お前を使い捨てなくちゃ勝てないとでも? 

 バ鹿を言っちゃいけないよ、ユキオー。

 当然の如く。笑いながら勝つ。それが王者だよ。

 まぁ……まだ皇帝には勝ててないけど。

 いつか勝つ。この身が果てる前にはね。

 さぁ、やろうかウララちゃん。

 負け犬同士、無様なダンスを踊ろうよ。

 そんで勝った方が、挑戦権を得る」

 

 「ははっ。泣かせてやるよ、ファル子ちゃん。

 最後に勝つのは、このわたし!」

 

 

 

 「「わたしがあいつをブチのめすッ!」」

 

 

 

 誠、残酷な世であった。

 

 

 

 つづかない


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