ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

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さぁ、まずは前座の戦い。
下剋上は、狙えるのでしょうか。


ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅうよん 黒の領域

~前回までのあらすじ~

 

 燕の記憶。

 

 彼の無念を他所に。

 

 今を生きる者たちは。

 

 己が正義を、証明せんと。

 

 とんでもバトルを、継続する。

 

 白髪ロリの、無謀な挑戦。

 

 王者として、受けて立つハルウララ。

 

 敵手の攻撃、ノーガード。

 

 プロウマレスの、基本であるためだ。

 

 猛禽類の、激励に。

 

 堂々と。立ち向かってくる小娘。

 

 愛するヒトを、椅子にして。

 

 わくわく見守る、ハルウララ。

 

 白髪ロリの、ある質問。

 

 あの闘争を、覚えているか。

 

 甦る、彼の日の記憶。

 

 理解ある彼ピッピの気遣い。

 

 気違いだが、気は利く彼。

 

 そして始まる、上映会。

 

 我らが闘った理由。

 

 オグリキャップのためでなく。

 

 皇帝陛下のためでなく。

 

 ウマ娘の脚は、自分自身の。

 

 いつだって、勝利のために。

 

 野菜王子は、間違っていた。

 

 負けたままでは、ならぬのだ。

 

 上映会が終わり。

 

 不敵に微笑むハルウララ。

 

 面白い、出し物だった。

 

 対するは、スマートファルコン。

 

 道理の分かっておらぬ部下。

 

 白髪ロリを、鼓舞して笑う。

 

 敗者に価値など、有りはしない。

 

 そう、我らはウマ娘。

 

 ダートもダーティもなんのその。

 

 何時如何なる時も、変わらぬ真理。

 

 勝ったやつが、偉いのである。

 

 弱肉強食。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燕は問うた。

 

 ──行きたいが。貴女は何者か。

 

 「競バ好きの、女神様よ」

 

 ──ならば自分が向かうのは、地獄か。

 

 「へぇ? 何故そう思うのかしら」

 

 ──貴女が真に、競馬好きというのなら。

 彼女が天国に行ける筈が無い。

 

 それを聞いた女神は、初めて。

 

 彼に、好奇の視線を向けた。

 

 「へぇ。あなたは、ハルウララを。

 彼女を、愛しているのでは? 

 何故、愛する彼女が地獄行き?」

 

 ──決まっている。

 競馬において、勝つことこそが正義だから。

 敗者の星と呼ばれた、彼女。

 競馬の価値観を、曖昧にしたハルウララが。

 天国になど、行ける筈が無い。

 

 「アハハハハハハハッ! 

 いいわ、凄くいい! あいつらに! 

 賭けで負けたから、嫌々来たけれどッ! 

 愛した者が地獄行きッ! 

 心の底から信じてるッ! 

 こんな! 正しいくせに、狂った魂! 

 面白過ぎて、あいつらになんか! 

 任せてちゃ、損してたわ!」

 

 ──やはり、邪神か。

 

 「こんなにかわいい女神様を捕まえて。

 なんて愚かな人間かしら。

 わたし、正義の女神でもあるのよ? 

 だって、一番速いもの」

 

 ──競馬好きなのは、確かだな。

 

 「ええ。当たり前じゃない。

 わたし、嘘なんてつかないわ。

 つく必要がないもの。

 嘘は、弱者が使うものよ」

 

 ──そこに、彼女が居るのなら。

 是非とも、連れて行って頂きたい。

 

 「ええ。残念ながら、行くのは地獄……

 ではないわ。もっと素敵なところよ」

 

  ──ほう。どんなところだ。

 

 「ウマがウマらしく生きられる世界」

 

 ──彼女はそこでなら、勝てるのか。

 

 「知らないわよ。でも勝ちへの執念は凄い。

 齢10にして、あれならば。

 もしかすると、歴史に名を残すかもね」

 

 ──何故、彼女を? 

 

 「面白いじゃない。弱者に興味なんてないわ。

 でも、あれだけ勝ちたいと叫んでる魂。

 初めて見たわ。だから連れていった。

 チャンスだけは、与えてあげたわ」

 

 ──彼女は、勝てるのか? 

 

 「だから、知らないわよ。チャンスは平等。

 そこは曲げないわ。つまらないもの。

 勝てなきゃ、また敗者になるだけよ」

 

 ──とても、残酷な世界だな。

 

 「でも、とっても楽しいのよ。

 あなたもきっと、気に入るわ」

 

 ──自分は、彼女をまた。

 支えることは、出来るのか。

 

 「保証はしないわ。嘘はつかないもの。

 あなたが大人になるまでに。

 現役、もう引退しちゃってるかも。

 あなた十年も、何やってたの? 

 レースだったら、この出遅れ。

 もう既に負けてるわよ」

 

 ──ああ。俺はいつも負けっぱなしだよ。

 

 「こんなにあっけらかんとした、敗者。

 初めて見たわよ、わたし。

 人って、ほんと。よくわかんないわねぇ」

 

 ──貴女は、人は好きか。

 

 「好きよ。たぶん。観客がいないレースとか。

 盛り上がらないでしょ? 人が居ないとつまらないわ」

 

 ──俺は、嫌いだよ。

 

 「負け犬だものねぇ。知ってるわよ、わたし。

 人って、勝者を妬むんでしょ?」

 

 ──貴女たちは、妬まないのか。

 

 「無駄でしょ。そんな暇があれば。

 勝つために、努力しなさいよ。

 そこらへんは、人は嫌いよ」

 

 ──とても良い世界なんだな。

 

 「ええ。とっても。あの世界に。

 産まれ直して、とっても幸せだったわ。

 今だって、とても楽しいもの」

 

 ──貴女は、造物主ではないのか? 

 

 「違うわ。わたしたちは、最初に。

 あの世界に招かれた、始まりの魂」

 

 ──閻魔のようなものか。造物主は、他に居るのか。

 

 「ええ。多分ね。見たことはないけれど」

 

 ──どんな、神なのだろうか。

 

 「さあ? でも、一つだけ言えることがあるわ」

 

 ──なんだろうか。

 

 

 

 彼女は、ぴこぴこと。

 

 ウマ耳を揺らしながら告げた。

 

 「競馬好きの、軽度のケモナーよ。間違いないわ」

 

 ──説得力、すげぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やはり。ウマ耳こそ至高!」

 

 「どうした急に」

 

 「すまない、急に愛を叫びたくなってな」

 

 「そうか。ほれ、よく見とけ。

 あれが、ウマ娘の闘争だ」

 

 

 

 

 

 「フォーリンダウン『失脚へのカウントダウン(Eカード)』ッ! 

 対象指定、エイシンフラッシュッ!」

 

 「あら。計画通りですね」

 

 「なンッ……!?」

 

 ユキオーは、悪寒を感じ。 

 

 横っ跳びに転がった。

 

 びゅうんと過ぎ去る、旋風。

 

 

 

 「……避けましたか。なかなか()()

 

 「さ、殺ウマ未遂ッ!」

 

 柄元まで壁に埋まった、レイピア。

 

 そこから手を放し。

 

 ゆっくりとこちらを振り向く、黒鹿毛。

 

 微笑んで、無罪を主張する。

 

 

 

 「何をバ鹿な。峰突きですよ」

 

 「突きに峰はねーよ」

 

 「失礼。殺意はありませんでした」

 

 「絶対、殺す気だった……!」

 

 ユキオーは戦慄した。

 

 この黒鹿毛、ずっと笑顔であるが。

 

 目が、全く笑っていない。

 

 完全に、シリアルキラーの目をしている。

 

 腕時計に目を落とす。

 

 波形が常に一定値。

 

 笑いながらウマを殺せるタイプッ……! 

 

 

 

 「大丈夫ですよ。ユキオーさん。

 私はファル子さんを愛していますから。

 ええ。邪魔な者は全て。須らく排除します」

 

 「大丈夫さ/ZEROッ! フォーリンダウンッ!」

 

 「計画通り。ご協力に感謝」

 

 「ふぬぅあッ!」

 

 指を指した瞬間に、重圧に膝を屈めた彼女。

 

 横っ飛び……と見せかけ。

 

 イナバウアーにて! 

 

 

 

 びゅうと、風が吹き。

 

 胸元及び鼻先を掠める切っ先。

 

 「貧乳で助かった……!」

 

 「あら計画外。うまくいかないものですねぇ」

 

 

 

 ぎぃん、と壁に弾かれ。

 

 先端が折れたレイピア。

 

 なるほど。会長の言った通り。

 

 

 

 「あンたの予想外の動きを。

 しなきゃいけないってことね……!」

 

 「気づかれましたか。ええ。私の『Schwarze Schwert(黒い剣)』は。

 計画外の行動に弱い。ファル子さんに勝てたことはありません。

 彼女はいつだって、私の予想を超える。かわいい。結婚したい。

 つまりは愛ということ。そもそも私がドイツに渡ったのも。

 彼女の気を引くためです。それだというのに。

 彼女は私を追いかけてきてくれなかった。なんで。どうして。

 こんなに愛しているというのに。私の計画は、完璧だったのに。

 このような状況、私の計画になかったのです。計画にないならば。

 修正しなければならない。我が全力を以て、誤りを糺す。

 あなたもです、ユキオーさん。あなたのようなリアクションのいい白髪ロリ。

 リアクションとロリが大好きな、ファル子さんが気に入らないはずがない。

 つまり、あなたが居る限り。彼女が私に目を向ける可能性は。

 ゼロに等しいと、言っていいでしょう。なんということか。

 計画を前倒しして、彼女の前に現れたというのに。

 ファル子さんはウララさんに夢中。私など、眼中にない。かなしい。

 でもそれは計画通り。ウララさんに彼女を倒させ、洗脳して。

 愛を、直接大胆一直線。思うさま、脳に吹き込むつもりでした。

 ですが、あなたがいた。ファル子さんのちっちゃくてかわいい脳は、容量が小さい。

 あなたがいれば、容量を圧迫し。上書きが失敗する可能性がある。それは許せません。

 私の計画に失敗はない。あってはならない。何が言いたいかというとですね、ユキオーさん」

 

 「こいつ、やっば……!」 

 

 「()()()()()()()()()? 

 計画通りです」

 

 「しまっ……!」

 

 

 

 そして、閃く旋風。

 

 

 

 「海割ッ!」

 

 「ウボア」

 

 

 

 エイシンフラッシュは、スマートファルコンの蹴り。

 

 それにより発生した衝撃波により、宙を舞った。

 

 

 

 「ん? なんか吹き飛ばしたような……気のせいかな。

 さすがだねウララちゃん。この美脚を避けるとは」

 

 「予備動作がでかいんだよ。わたしに当てたければ。

 もっと小刻みに撃つことだね」

 

 「小刻みだと弾くじゃん。面白くなってきたね……」

 

 「キャー! 会長ー! 愛してるッ!」

 

 「ふふ。ファンコールとは。わかってるねユキオー」

 

 

 

 トネガワユキオーは、忠誠心を高めた。

 

 さすがは会長。流れ弾で部下の命を救ってみせた。

 

 一生どころか来世まで。ついていかねばならない。

 

 思いつつ、吹き飛んだ黒鹿毛を見る。

 

 

 

 「ふふ。ファル子さんの愛を感じます……」

 

 「ヒィッ」

 

 

 

 ゆらりと、幽鬼のように。

 

 立ち上がり、こちらを髪の間から見つめる瞳。

 

 ちょっとちびりかけた。

 

 「会長の、海割で無事ッ!? どンな超合金ッ!?」

 

 「ファル子さんに愛されるのは、計画通り。何の問題もありません。

 むしろ、テンションがアガってきました」

 

 「厄介なストーカーッ……!」

 

 

 

 ユキオーは、総髪を総毛立たせた。

 

 この黒鹿毛の領域。計画通りなら。

 

 防御力も、刀身同様に上がるらしい。

 

 そして、こやつ。会長から受けるダメージは。

 

 全て、計画通りと処理する。

 

 愛されていると、勘違いしているからだ。

 

 つまり、流れ弾でダメージを受ける確率は、自分の半分ッ……! 

 

 だが。

 

 

 

 「分の悪い賭けほど、面白い……!」

 

 「あら。成長しましたか。これは計画外ですね」

 

 そう。自分も、今までの自分ではない。

 

 皇帝は、他に居るのだ。

 

 スマートファルコンという名の、我が主君が。

 

 その露払いをするためには。

 

 

 

 「奴隷は二度刺すッ!? 上等ッ! 

 わたしはもう、皇帝じゃないッ! 

 市民ならば、奴隷に勝てるッ! 

 かかってきなよ、愛の奴隷ッ!」

 

 「いい啖呵です。あなたも好きになってきました。

 ファル子さんを手に入れる、我が計画。

 あなたも計画に入れてあげましょう。ええ。

 どさくさに紛れて、ウララさんも始末すれば。

 ファル子さんの脳の容量も、間に合うでしょう」

 

 

 

 戦慄する。

 

 こやつ、裏切りに躊躇いが一切ない。

 

 吐き気を催す邪悪。

 

 「……あンたら、味方じゃなかったの?」

 

 「ウマ娘に、心底からの味方など。

 居る筈もありません。だって、みんなライバルですから。

 覚えておくといいですよ。裏切りははちみーの味」

 

 「ウマ娘、こわ……」

 

 

 

 だが、確信した。

 

 コイツを、会長の元に向かわせてはならない。

 

 相手はG1勝利バ。対してこちらは未出走。

 

 彼我の差は歴然であるが。関係ない。

 

 ここで止めるッ……! 

 

 

 

 「あっ! ハルウララッ!」

 

 「騙されるのは、計画に入っていまウボア」

 

 

 

 どごん、と撥ねられるエイシンフラッシュ。

 

 ハルウララの突進(天丼)である。

 

 

 

 「ん? 何か撥ねた気が……」

 

 「よそ見してる、暇あるのッ!?」

 

 「無いね。さぁかかってこいッ!」

 

 

 

 ユキオーは、胸を撫でおろした。

 

 強敵ではあったが、こやつ。

 

 致命的に運が悪い。

 

 さぁ、会長の元へ……

 

 

 

 三度、剣風が吹く。

 

 「フォーリンダウンッ!」

 

 「ぬっ。やりますね。計画外です」

 

 

 

 上空からの奇襲。

 

 天を指し、加重を加え。

 

 手前の床で折れた、切っ先に冷や汗を流す。

 

 

 

 「天丼は2回まで。お笑いの基本をご存じない?」

 

 「何故わかったか、伺っても?」

 

 「やっぱ部分展開はすごいね。あンたの心音。常に一定だよ」

 

 「あら。死んだふりも見抜けるのですね、便利な領域です」

 

 

 

 からんと、レイピアを転がし。

 

 微笑む黒鹿毛。

 

 頑丈にもほどがある。

 

 

 

 「あンた、頑丈すぎない?」

 

 「ファル子さんのネタ振り。頑丈でなければ、耐えられません」

 

 「そこは相手を尊重するンだ……」

 

 

 

 恐らく、会長のネタ振りに耐えるため。

 

 弛まぬ鍛錬を積んできたのだろう。

 

 だが、活路は見えた。

 

 

 

 「あンたが会長に、愛想を尽かされた理由。

 教えてあげよっか?」

 

 「ほう。拝聴しましょう」

 

 

 余裕綽綽に、こちらを見やる彼女。

 

 その鉄面皮を、歪ませる……! 

 

 

 

 「リアクションが、詰まらないッ!」

 

 「クールビューティだからッ……! 仕方ないんですッ!」

 

 「動揺したね? フォーリンダウンッ!」

 

 「しまった……!」

 

 

 

 動揺させれば、効力が増す。

 

 エイシンフラッシュは、そのリアクション芸人への適性の無さと。

 

 その、計画性を持った鍛錬故に。地に伏せることとなった。

 

 会長は、面白い反応を。こよなく愛しているからである。

 

 エイシンフラッシュ、行動不能(一回休み)ッ! 

 

 

 

 

 

 つづかない




そういえば。
雅媛様 https://syosetu.org/user/349081/ 主催の、短編合作企画に参加させていただきました。
https://syosetu.org/novel/279657/
2月1日12時より、順次投稿されるそうです。
拙作が何番目に投稿されるかは、まだ言えませぬが。お楽しみに!

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