下剋上は、狙えるのでしょうか。
~前回までのあらすじ~
燕の記憶。
彼の無念を他所に。
今を生きる者たちは。
己が正義を、証明せんと。
とんでもバトルを、継続する。
白髪ロリの、無謀な挑戦。
王者として、受けて立つハルウララ。
敵手の攻撃、ノーガード。
プロウマレスの、基本であるためだ。
猛禽類の、激励に。
堂々と。立ち向かってくる小娘。
愛するヒトを、椅子にして。
わくわく見守る、ハルウララ。
白髪ロリの、ある質問。
あの闘争を、覚えているか。
甦る、彼の日の記憶。
理解ある彼ピッピの気遣い。
気違いだが、気は利く彼。
そして始まる、上映会。
我らが闘った理由。
オグリキャップのためでなく。
皇帝陛下のためでなく。
ウマ娘の脚は、自分自身の。
いつだって、勝利のために。
野菜王子は、間違っていた。
負けたままでは、ならぬのだ。
上映会が終わり。
不敵に微笑むハルウララ。
面白い、出し物だった。
対するは、スマートファルコン。
道理の分かっておらぬ部下。
白髪ロリを、鼓舞して笑う。
敗者に価値など、有りはしない。
そう、我らはウマ娘。
ダートもダーティもなんのその。
何時如何なる時も、変わらぬ真理。
勝ったやつが、偉いのである。
弱肉強食。
燕は問うた。
──行きたいが。貴女は何者か。
「競バ好きの、女神様よ」
──ならば自分が向かうのは、地獄か。
「へぇ? 何故そう思うのかしら」
──貴女が真に、競馬好きというのなら。
彼女が天国に行ける筈が無い。
それを聞いた女神は、初めて。
彼に、好奇の視線を向けた。
「へぇ。あなたは、ハルウララを。
彼女を、愛しているのでは?
何故、愛する彼女が地獄行き?」
──決まっている。
競馬において、勝つことこそが正義だから。
敗者の星と呼ばれた、彼女。
競馬の価値観を、曖昧にしたハルウララが。
天国になど、行ける筈が無い。
「アハハハハハハハッ!
いいわ、凄くいい! あいつらに!
賭けで負けたから、嫌々来たけれどッ!
愛した者が地獄行きッ!
心の底から信じてるッ!
こんな! 正しいくせに、狂った魂!
面白過ぎて、あいつらになんか!
任せてちゃ、損してたわ!」
──やはり、邪神か。
「こんなにかわいい女神様を捕まえて。
なんて愚かな人間かしら。
わたし、正義の女神でもあるのよ?
だって、一番速いもの」
──競馬好きなのは、確かだな。
「ええ。当たり前じゃない。
わたし、嘘なんてつかないわ。
つく必要がないもの。
嘘は、弱者が使うものよ」
──そこに、彼女が居るのなら。
是非とも、連れて行って頂きたい。
「ええ。残念ながら、行くのは地獄……
ではないわ。もっと素敵なところよ」
──ほう。どんなところだ。
「ウマがウマらしく生きられる世界」
──彼女はそこでなら、勝てるのか。
「知らないわよ。でも勝ちへの執念は凄い。
齢10にして、あれならば。
もしかすると、歴史に名を残すかもね」
──何故、彼女を?
「面白いじゃない。弱者に興味なんてないわ。
でも、あれだけ勝ちたいと叫んでる魂。
初めて見たわ。だから連れていった。
チャンスだけは、与えてあげたわ」
──彼女は、勝てるのか?
「だから、知らないわよ。チャンスは平等。
そこは曲げないわ。つまらないもの。
勝てなきゃ、また敗者になるだけよ」
──とても、残酷な世界だな。
「でも、とっても楽しいのよ。
あなたもきっと、気に入るわ」
──自分は、彼女をまた。
支えることは、出来るのか。
「保証はしないわ。嘘はつかないもの。
あなたが大人になるまでに。
現役、もう引退しちゃってるかも。
あなた十年も、何やってたの?
レースだったら、この出遅れ。
もう既に負けてるわよ」
──ああ。俺はいつも負けっぱなしだよ。
「こんなにあっけらかんとした、敗者。
初めて見たわよ、わたし。
人って、ほんと。よくわかんないわねぇ」
──貴女は、人は好きか。
「好きよ。たぶん。観客がいないレースとか。
盛り上がらないでしょ? 人が居ないとつまらないわ」
──俺は、嫌いだよ。
「負け犬だものねぇ。知ってるわよ、わたし。
人って、勝者を妬むんでしょ?」
──貴女たちは、妬まないのか。
「無駄でしょ。そんな暇があれば。
勝つために、努力しなさいよ。
そこらへんは、人は嫌いよ」
──とても良い世界なんだな。
「ええ。とっても。あの世界に。
産まれ直して、とっても幸せだったわ。
今だって、とても楽しいもの」
──貴女は、造物主ではないのか?
「違うわ。わたしたちは、最初に。
あの世界に招かれた、始まりの魂」
──閻魔のようなものか。造物主は、他に居るのか。
「ええ。多分ね。見たことはないけれど」
──どんな、神なのだろうか。
「さあ? でも、一つだけ言えることがあるわ」
──なんだろうか。
彼女は、ぴこぴこと。
ウマ耳を揺らしながら告げた。
「競馬好きの、軽度のケモナーよ。間違いないわ」
──説得力、すげぇ。
「やはり。ウマ耳こそ至高!」
「どうした急に」
「すまない、急に愛を叫びたくなってな」
「そうか。ほれ、よく見とけ。
あれが、ウマ娘の闘争だ」
「フォーリンダウン『
対象指定、エイシンフラッシュッ!」
「あら。計画通りですね」
「なンッ……!?」
ユキオーは、悪寒を感じ。
横っ跳びに転がった。
びゅうんと過ぎ去る、旋風。
「……避けましたか。なかなか
「さ、殺ウマ未遂ッ!」
柄元まで壁に埋まった、レイピア。
そこから手を放し。
ゆっくりとこちらを振り向く、黒鹿毛。
微笑んで、無罪を主張する。
「何をバ鹿な。峰突きですよ」
「突きに峰はねーよ」
「失礼。殺意はありませんでした」
「絶対、殺す気だった……!」
ユキオーは戦慄した。
この黒鹿毛、ずっと笑顔であるが。
目が、全く笑っていない。
完全に、シリアルキラーの目をしている。
腕時計に目を落とす。
波形が常に一定値。
笑いながらウマを殺せるタイプッ……!
「大丈夫ですよ。ユキオーさん。
私はファル子さんを愛していますから。
ええ。邪魔な者は全て。須らく排除します」
「大丈夫さ/ZEROッ! フォーリンダウンッ!」
「計画通り。ご協力に感謝」
「ふぬぅあッ!」
指を指した瞬間に、重圧に膝を屈めた彼女。
横っ飛び……と見せかけ。
イナバウアーにて!
びゅうと、風が吹き。
胸元及び鼻先を掠める切っ先。
「貧乳で助かった……!」
「あら計画外。うまくいかないものですねぇ」
ぎぃん、と壁に弾かれ。
先端が折れたレイピア。
なるほど。会長の言った通り。
「あンたの予想外の動きを。
しなきゃいけないってことね……!」
「気づかれましたか。ええ。私の『
計画外の行動に弱い。ファル子さんに勝てたことはありません。
彼女はいつだって、私の予想を超える。かわいい。結婚したい。
つまりは愛ということ。そもそも私がドイツに渡ったのも。
彼女の気を引くためです。それだというのに。
彼女は私を追いかけてきてくれなかった。なんで。どうして。
こんなに愛しているというのに。私の計画は、完璧だったのに。
このような状況、私の計画になかったのです。計画にないならば。
修正しなければならない。我が全力を以て、誤りを糺す。
あなたもです、ユキオーさん。あなたのようなリアクションのいい白髪ロリ。
リアクションとロリが大好きな、ファル子さんが気に入らないはずがない。
つまり、あなたが居る限り。彼女が私に目を向ける可能性は。
ゼロに等しいと、言っていいでしょう。なんということか。
計画を前倒しして、彼女の前に現れたというのに。
ファル子さんはウララさんに夢中。私など、眼中にない。かなしい。
でもそれは計画通り。ウララさんに彼女を倒させ、洗脳して。
愛を、直接大胆一直線。思うさま、脳に吹き込むつもりでした。
ですが、あなたがいた。ファル子さんのちっちゃくてかわいい脳は、容量が小さい。
あなたがいれば、容量を圧迫し。上書きが失敗する可能性がある。それは許せません。
私の計画に失敗はない。あってはならない。何が言いたいかというとですね、ユキオーさん」
「こいつ、やっば……!」
「
計画通りです」
「しまっ……!」
そして、閃く旋風。
「海割ッ!」
「ウボア」
エイシンフラッシュは、スマートファルコンの蹴り。
それにより発生した衝撃波により、宙を舞った。
「ん? なんか吹き飛ばしたような……気のせいかな。
さすがだねウララちゃん。この美脚を避けるとは」
「予備動作がでかいんだよ。わたしに当てたければ。
もっと小刻みに撃つことだね」
「小刻みだと弾くじゃん。面白くなってきたね……」
「キャー! 会長ー! 愛してるッ!」
「ふふ。ファンコールとは。わかってるねユキオー」
トネガワユキオーは、忠誠心を高めた。
さすがは会長。流れ弾で部下の命を救ってみせた。
一生どころか来世まで。ついていかねばならない。
思いつつ、吹き飛んだ黒鹿毛を見る。
「ふふ。ファル子さんの愛を感じます……」
「ヒィッ」
ゆらりと、幽鬼のように。
立ち上がり、こちらを髪の間から見つめる瞳。
ちょっとちびりかけた。
「会長の、海割で無事ッ!? どンな超合金ッ!?」
「ファル子さんに愛されるのは、計画通り。何の問題もありません。
むしろ、テンションがアガってきました」
「厄介なストーカーッ……!」
ユキオーは、総髪を総毛立たせた。
この黒鹿毛の領域。計画通りなら。
防御力も、刀身同様に上がるらしい。
そして、こやつ。会長から受けるダメージは。
全て、計画通りと処理する。
愛されていると、勘違いしているからだ。
つまり、流れ弾でダメージを受ける確率は、自分の半分ッ……!
だが。
「分の悪い賭けほど、面白い……!」
「あら。成長しましたか。これは計画外ですね」
そう。自分も、今までの自分ではない。
皇帝は、他に居るのだ。
スマートファルコンという名の、我が主君が。
その露払いをするためには。
「奴隷は二度刺すッ!? 上等ッ!
わたしはもう、皇帝じゃないッ!
市民ならば、奴隷に勝てるッ!
かかってきなよ、愛の奴隷ッ!」
「いい啖呵です。あなたも好きになってきました。
ファル子さんを手に入れる、我が計画。
あなたも計画に入れてあげましょう。ええ。
どさくさに紛れて、ウララさんも始末すれば。
ファル子さんの脳の容量も、間に合うでしょう」
戦慄する。
こやつ、裏切りに躊躇いが一切ない。
吐き気を催す邪悪。
「……あンたら、味方じゃなかったの?」
「ウマ娘に、心底からの味方など。
居る筈もありません。だって、みんなライバルですから。
覚えておくといいですよ。裏切りははちみーの味」
「ウマ娘、こわ……」
だが、確信した。
コイツを、会長の元に向かわせてはならない。
相手はG1勝利バ。対してこちらは未出走。
彼我の差は歴然であるが。関係ない。
ここで止めるッ……!
「あっ! ハルウララッ!」
「騙されるのは、計画に入っていまウボア」
どごん、と撥ねられるエイシンフラッシュ。
「ん? 何か撥ねた気が……」
「よそ見してる、暇あるのッ!?」
「無いね。さぁかかってこいッ!」
ユキオーは、胸を撫でおろした。
強敵ではあったが、こやつ。
致命的に運が悪い。
さぁ、会長の元へ……
三度、剣風が吹く。
「フォーリンダウンッ!」
「ぬっ。やりますね。計画外です」
上空からの奇襲。
天を指し、加重を加え。
手前の床で折れた、切っ先に冷や汗を流す。
「天丼は2回まで。お笑いの基本をご存じない?」
「何故わかったか、伺っても?」
「やっぱ部分展開はすごいね。あンたの心音。常に一定だよ」
「あら。死んだふりも見抜けるのですね、便利な領域です」
からんと、レイピアを転がし。
微笑む黒鹿毛。
頑丈にもほどがある。
「あンた、頑丈すぎない?」
「ファル子さんのネタ振り。頑丈でなければ、耐えられません」
「そこは相手を尊重するンだ……」
恐らく、会長のネタ振りに耐えるため。
弛まぬ鍛錬を積んできたのだろう。
だが、活路は見えた。
「あンたが会長に、愛想を尽かされた理由。
教えてあげよっか?」
「ほう。拝聴しましょう」
余裕綽綽に、こちらを見やる彼女。
その鉄面皮を、歪ませる……!
「リアクションが、詰まらないッ!」
「クールビューティだからッ……! 仕方ないんですッ!」
「動揺したね? フォーリンダウンッ!」
「しまった……!」
動揺させれば、効力が増す。
エイシンフラッシュは、そのリアクション芸人への適性の無さと。
その、計画性を持った鍛錬故に。地に伏せることとなった。
会長は、面白い反応を。こよなく愛しているからである。
エイシンフラッシュ、
つづかない
そういえば。
雅媛様 https://syosetu.org/user/349081/ 主催の、短編合作企画に参加させていただきました。
https://syosetu.org/novel/279657/
2月1日12時より、順次投稿されるそうです。
拙作が何番目に投稿されるかは、まだ言えませぬが。お楽しみに!