ちょっとシリアスになりすぎた感。
反省である。
~前回までのあらすじ~
誘われる、新たな世界。
待ったを掛けて、彼は告げる。
負け犬の、咆哮を。
この世界に、響かせる。
そして、トレーナーは犬っ気を出し。
六平トレーナーは、謝罪する。
駄犬ブリーダーの、不徳のためだ。
そして、本命の闘い。
スマートファルコンは思う。
ハルウララ やっぱりヤバい この女。
なんとか攻撃を捌き。
マイクで砲音、ぶっ放す。
クレバーに。ジャブジャブ続けるハルウララ。
酔いが醒めたためだ。
犠牲は払わせたが。問題ない。
己一人で、事足りる。
領域など、魅せ技であり。
ジャブで世界を、蹂躙可能。
全ての基本は、ジャブなためだ。
猛禽類の、模倣技。
余裕で返し、栗毛は空へ。
隙見て放たれる美脚。
ノーダメ余裕で微笑む彼女。
告げられる、ちょい待った。
快く受け、楽しむふれあい。
そして、弱気になる猛禽類。
酔いが醒めたためだ。
だが、愛する部下の鼓舞。
勝機を見いだし、職権乱用。
下僕どもに、唄わせる。
絶対無敵の、幸福論。
降伏には、まだ早い。
さあ、お歌のお時間だ。
──あなたに、託す。
あなたなら、きっと。
正しく、響かせてくれるから。
痩せ細った老人は、戸惑った。
あの日。いつの間にか、去った彼。
一月の後に、また訪れ。
朗らかに笑う、青年だった巌。
傍らには、見慣れぬ青年。
何を託すというのだろう。
──彼女の生きた証。
俺にはもう、時間が残されていない。
こいつは、我が腹心である。
きっと、あなたを支えてくれるだろう。
「社長。言われるまま来ましたが。
私は、納得していません。
ご老体には、荷が重いのでは?」
──いいや。彼で無ければいけない。
金にもならぬ、引退馬。
彼らを引き取り、一時の安寧。
闘いの、報酬を与え続けた彼こそに。
我が、想いを託したい。
「この老体に、何をせよというのかね。
もう、この牧場は。私の代で終わりだよ」
「そうですよ、社長。お礼をするならともかく。
まだ働けとか。ちょっとどうかしてます」
──なに。頼みたいのは、一つだけだ。
綴って欲しい。あなたの見た。
彼女たちが、生きた軌跡を。
「生きた、軌跡?」
──この牧場で、どのように生きたか。
何を好み、何を嫌ったか。
勝利を得られなかった彼ら。
でも、確かに生きていた。
勝利を得られなかったから。
その闘いは、賞賛を受けぬ。
当たり前のことだ。
でも、敗者が居なければ。
勝者だって、生まれ得ぬのだ。
「……もう一度聞く。私に何を。
何を求めているのだ」
──世界に轟かせて欲しい。
彼女たちの誇り無き、嘶きを。
「……競馬の世界は残酷だ。
走れなくなった馬は。業績を残さねば。
殺処分は免れない。私はそれが嫌だった。
だから、自己満足で続けたのだ。
だが、この手はあまりにも小さい。
零れ落ちた数の方が、多い。多すぎる。
何も残せず、この世を去る老人に。
君は一体、何をさせようとしているのだ」
──世界に、伝えて欲しいのだ。
彼女たちが、敗者が。競走馬が。
何の業績も、得られなかったとしても。
それでも。必死に生きて、死んだこと。
その生に、確かに意味があったことを。
「私のやったことに、意味が有ったと?」
──俺は見た。
彼女たちを見上げ、笑う幼子が居た。
彼女の闘いを、覚えている青年が居た。
涙を飲んで、愛馬を手放した馬主が居た。
彼女たちは、確かに。ここで生きていて。
そして、人に愛されていたのだ。
それを、誰かに。一人でも多く伝えて欲しい。
それがあなたに、望むことだ。
「やれやれ。牧場を畳むこと。
それすら許してくれないと?」
──スタッフは、こちらで用意する。
運営資金も、俺の個人的な資産を充てる。
そして。
「はいはい。わかりましたよ。
売れない作家や、画家に彫刻家。
果ては、プログラマーまで。
そんな相手ばかりを集めて。
何をさせるのかと思ったら。
もうちょっと、売れる題材を。
与えてやるのが、優しさってもんでしょう?」
──チャンスは、与えてやる。
彼らは、至当な給金を支払われる。
その後人気を得るかどうか。
それは、彼ら次第だよ。
「社長。私が裏切るとは、考えていないので?」
──負け犬には、負け犬の誇りがある。
お前は俺に似てるよ。
「かなわねぇなァ。あんたに拾われて。
命を拾った。飯ももらった。
上等なおべべまで。着れるようにしてくれた。
俺にやってくれたことを、馬にもしろ。
そう言われちゃあ、裏切れねぇや」
──言葉遣い。
「知らねェよ。あんたは居なくなるんだろ?
そんな顔、してやがる。
最後ぐらい、本音で喋らせろ。
困るんだよなァ。目標が。
超える前に、居なくなりやがる。
俺は、何を見て。
これから生きればいいんですかい?」
──決まっている。前だよ。
前を見ろ。そして走り続けろ。
負け続けても、いつかは勝てる。
そう、俺は信じてるよ。
「あんたの大好きな、ハルウララ。
生涯勝てなかったっていうのに?」
──勝ったさ。彼女は。
そして、これからも勝つだろう。
「勝ってねぇでしょう。
何に勝ったって言うんですかい」
──愛され具合。
よく言うだろ、惚れた方の負けって。
少なくとも、俺にだけは勝ってるさ。
「あんたは本当に、馬鹿だなぁ!
あんたの一人負けじゃないですかい」
──何、これから勝つのさ。
さて、後は頼んだ。
俺は、彼女に会ってくるよ。
「社長、どこに行くんですかい?」
──満開の。桜の木の下で。
彼女を想って酒を飲む。
きっと、ウマいに違いない。
「へいへい。お熱いことで」
──ウララ。今行くよ。
そして彼は。終わりに向かって歩き出した。
「つまりは愛ッ!」
「何故そこで愛ッ!?」
六平銀次郎は、驚愕した。
あまりにも唐突な、愛情狂現。
こやつ、本当にハルウララを託して大丈夫か。
思いつつ、正気の実在を確認する。
「大丈夫か? 小僧。この指、何本に見える」
「ウララに見える」
「よし。大丈夫じゃねえな」
愛に狂っているだけである。
何、愛情がちょっと深すぎるだけ。
きっと彼女を、とんでもない勢いで。
幸せにし尽くしてくれるだろう。
安心して、戦いに目を向けられる。
「来た来た来たー! 力を感じるッ!」
「会長ー! かっこいいッ! 抱いてッ!」
「戦いが終わった後でねッ!」
スマートファルコンは、己に流れ込む力を。
社員からの、想いを受け取り。
高揚感に、酔いしれていた。
『会長ッ! ワイン足湯ッ! 待ってます!』
『会長ッ! ユキオーチャンカワイイヤッター!』
『会長ッ! 百合が好きだァッ!』
どんどんと、流れ込んでいく力。
膨らみ続ける、愛され願望。
『スマートファルコン』。
砂のサイレンススズカとまで呼ばれたが。
彼は、賞賛を受けることが少なかった。
裏街道を、走り続けたためだ。
中央8戦。地方25戦。
地方での戦いが多く。
地方荒らしと呼ばれ。
それでも必死で走った。
走って、走って、また走って。
そして、彼が最後に想ったことは。
「私はッ! 輝きたいッ!
世界の中心で、輝き続けたいッ!
煌めく星になるッ! そのためにッ!
勝つよ、ユキオー!」
「了解ッ! ファル子リヲンッ! リクエストッ!
領域増幅アンプッ! 出力最大ッ! 曲名ッ!」
「「『UNLIMITED DESERT』!」」
流れる、イントロ。
ハルウララは、顔をしかめた。
新曲。だが、この曲調。
歌ったことがある。
万雷の、拍手の中で。彼女と共に。
『衆目全部 奪い尽くす』
『打ち付ける歓声の中でも』
猛禽類の、リードに従い。
くるくると廻る白髪ロリ。
まるで、衛星のように。
『勝利全部さらい尽くし』
『いい空気 吸い尽くそう』
砂の覇者のみが、歌うことを許される曲。
かの、無限の衝撃と似ている。
だが。
『ぬかるまぬ砂 渇き尽くせ』
『気持ち籠る声援の中で』
これは、彼女の曲だ。
極限までの、渇きを表現するための。
彼女が、世界の中心であると。
告げる、強欲の唄。
『この声は響き渡るでしょう』
『その脚は勝利を掴むでしょう』
『『命の限り……!!』』
だって。あんなにも。
叫んでいる。魂が。
愛されたいと……!
「キャー! ファル子さーん! 愛してるー!」
「お前空気読めよ……」
すげー愛されてた。
狂ったように、サイリウムを振り回すゴリラ。
台無しである。
「読んでいますとも。ほら、ファル子さんがこっちを向きました。
これはウィンクの前触れでは? 私だけを見ている……!」
「厄介なファンがいたもんだね……」
この黒鹿毛。己が憎まれていたこと。完全に忘却している。
これは、あの盛り上がりも……
「ん……?」
一滴の。違和感。
(相変わらずだね、フラッシュちゃん……)
スマートファルコンは、ひっそりと。
胸中で独り言ちた。
やめて欲しい。
もう、忘れられたと思ったのに。
あんなに、冷たくしたというのに。
あんなにも、真っすぐにこちらを見てくる。
誰よりも、夢を応援してくれた彼女。
誰よりも、自分を支えてくれた理解者。
だが。
『お前は私を、裏切った……!』
『会長は、渡さない……!』
ワンフレーズ唄い終わった。
心象風景が、強制的に励起される。
無限の砂漠。愛を吸い込む砂。
そして、黒い太陽。膨らみ続ける、渇望。
ぴきりと罅割れる、異音。
『『フルルルルルルルルァァァァァァァッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』
そして、領域が華開く。
部分展開。
その、象徴は。
「私は、奪い続けるッ! 衆目を奪い! 先頭を譲らないッ!」
旗が現出する。
現役時代は、勝ち取ったG1の、勝利レイ。
それを、旗印としたものだが……
今は、違う。
「フラスプネズミ商事、万歳ッ……!」
誇らしげに告げるユキオー。
そう。この身は、もはやウマドルではない。
フラスプネズミの、社章。
それこそが相応しい……!
始めよう、骨肉の争いを!
スプ〇と、ラ〇タも、見守ってくれている!
「さぁ! 行くよウララちゃんッ!
ファル子の純情ッ! 味わい尽くして知るが良いッ!
フラスプネズミの総力ッ! 経営者系
旗を振りかざし、告げる。
まるで、救国の聖ウマ娘のように。
『ジャンヌ・ダル子』。
彼女は神の声を聴いたと告げ。
民衆を先導し、その剛腕で全てを薙ぎ払い。
そして、その戦いの最後に。
異端審問に掛けられ。
三女神を崇拝せぬ、異教徒どもを。
その、輝かしき領域。
『
ジル・ザ・サーヴァント。
通称、ジル奴隷と共に。
田舎で、いちゃいちゃ百合ライフを送ったという。
三女神を、太陽だと思っていたためだ。
太陽崇拝である。
「我が領域も、かの聖ウマ娘と同じッ……!」
「旗だけだろ。共通点」
スマートファルコンの領域。
『個』を極めた、ハルウララの領域とは対照に。
『集』を極めた領域である。
その効果は、極めて単純。
「『衆目』を奪えば奪うほど強くなるッ! フラスプネズミ商事、全社員ッ!
テーアイより、1200人ッ! キョーセイより、1200人ッ!
あとジジイが8匹ッ! ロリ1匹ッ! 最後にかわいいファル子ちゃんッ!
2410人の、総力に! 膝を屈してかわいがられるがいい……!」
「現役時代より少ないだろ」
「りょ、量より質だし……」
冷静なツッコミにより、多少我に返るも。
そこは、ファル子リヲンの増幅でカバー。
全く何も、問題ない……!
「ファル子さんが、私の名を……! ウララさん、聞きました!?
愛の告白ですよ、あれは!」
「どう見ても、憎悪の絶叫だった気がしたけど……
フラッシュちゃんがいいんなら、いいんじゃない」
訂正。2411人であった。まぁ、誤差であろう。
だが、この流れ込む力。
気狂いじみた、黒い愛情。
みしみしと、魂が軋む。
忘れていた、何か。
はて、私は何故。完全展開ではなく。
部分展開したのであったか……
だが、気にしない。だって。
「ファル子、むずかしいことわかんないッ!
脳がちっちゃくてかわいいものッ!
スマートファルコン、いっきまーす!」
「いいだろう。受けて立ってあげよう、ファル子ちゃん。
魅せてやるよ、格の違いを……!」
「キャー! ウララ―!」
「怪我はしないようになー」
『『『『『『『『『『会長ぉぉぉぉッ!』』』』』』』』』』
「会長ッ! 頑張ってッ!」
「ファル子さん、ウララさんなんてワンパンでッ!」
「黒鹿毛は後で殺す」
この声援。完全にホームである。
さらに調子が、ノッてきた。
さぁ、本番を始めよう。
つづかない