ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

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おっと・・・お姫様編、筆が暴れすぎてまた続く・・・!
これは失策・・・!しかも内容は完全に趣味・・・!
だが私は謝らない・・・!
ギャグにしんみりそしてギャグ。
ウララちゃんの七転八倒をお楽しみください。

モチーフは幸せの青い鳥。


ハルウララさんじゅういっさい そのろく ポンコツなやさしさ

~前回までのあらすじ~

 

 幼児たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

 

 母なる邪神の懐に投げ込み。

 

 性癖の大量殺戮に加担しつつも、良心の呵責には特には苦しまず、日々業務に勤しんでいたハルウララ。

 

 番組に現れた、邪悪を煮詰めてウマ娘で稀釈。最後に隠し味に隠しきれぬ性癖を加え、ウマ娘を引いた存在。

 

 ウマ美ちゃんことナイスネイチャの再登場に、さすがに世の無情をレ・ミゼラぶる。

 

 家にとぼとぼ帰り、お姫様の手厚いサービスに心を癒され。

 

 彼女との出会いを振り返るのだった。

 

 

 

 

 

 

 ここがあの女のハウスね。

 

 

 

 人がゴミのようだ! 

 

 〇〇君って、本ッ当に馬鹿だよねぇ! 

 

 それらに並ぶ、一回で良いから言ってみたかったセリフ。

 

 それを言えた充足感に、胸を満たしつつ。

 

 手の中の赤子をむずがらせることに夢中な隣のサイコパス。

 

 親友にして略奪者たるキングヘイローに声をかける。

 

 

 

 「キングちゃん。ここだよね?」

 

 「ぷにぷにぷにぷにぷに……ああ……かわいすぎるわプリンセス…… 

 えっ? ああ、もう着いたのね……でもよくわかったわねウララさん。

 ここが私たちの家だって」

 

 「女の勘……ってヤツだよ。キングちゃん」

 

 「そう……さすがね。じゃあ入りましょうか」

 

 あっさりと納得し、玄関に向かう親友。

 

 

 

 他愛ない。疑う事を知らぬ彼女。

 

 訪問販売にも容易く騙され、家の中は新聞と羽毛布団に埋もれているかもしれない。

 

 親友をまた騙してしまった。だが必要だったのだ。

 

 

 

 言えぬのだ。いつか燃やすために下調べをしていたとは。

 

 家に帰ったら、キャンプファイヤーのために貯め込んであるアレ。

 

 消防法を大胆に無視した量のガソリンは捨てよう。さすがにガロン単位はマズい。

 

 手にお縄がかかってしまう。

 

 そう思いつつ、赤ん坊を手の中であやす。

 

 よしよし、命拾いしたな貴様。さすがに情が湧いたから生かしておいてやろう。

 

 きゃっきゃと無邪気に笑う、戦後未曾有の大火災を未然に防いだ立役者。

 

 

 

 「さぁ、入りましょう。いらっしゃい、ウララさん。

 ふふ。貴女にずっと言いたかったのよ。これ。

 スカイさんたちには悪いけど、一番の親友だもの」

 

 玄関を開きこちらに振りむき、優しく微笑む親友。

 

 やめろ。未遂ながら、罪悪感がストップ高だ。

 

 なんでそんなに無垢な笑顔を。

 

 目の前に居るのは貴様を家ごとファイヤーしようとした女なのだぞ。

 

 

 

 「お邪魔するね、キングちゃん」

 

 さすがに顔を伏せつつ、敷居を跨ぐ。

 

 「ええ。今後は気軽に。自分の家だと思って来てね? 

 ずっとおもてなしの準備をしてたのだけれど。

 ウララさんったら、いつも忙しそうで。招待したくてもできなかったの」

 

 

 

 さらに追撃。これも本音だろう。

 

 なんでこんなに自分を追い詰めるのか。

 

 

 

 玄関に入り。靴を脱ぎ。

 

 ふと顔を上げると、目にある物が映る。

 

 あまりの衝撃に身が竦む。

 

 

 

 廊下に飾られた額縁。

 

 その中で笑っているのは、愛していたトレーナーと、目の前の彼女。

 

 それだけなら良かった。

 

 ただの夫婦の写真ならば。

 

 憎しみを持ったままでいられた。

 

 

 

 だが、3人目がそこで笑っていたのだ。

 

 2人の間で無邪気に笑う、自分の姿。

 

 3人で撮った記念写真。

 

 

 

 自分が幸せになれることに、何の疑いも持っていなかった頃の写真。

 

 大好きな二人とともに、いつまでも一緒に笑っていられると思っていた。

 

 ウマ生で一番輝いていた頃の思い出。

 

 

 

 涙腺が決壊する。身体が言うことを聞かない。

 

 膝が勝手に折れ、赤ん坊に顔を埋めて泣きじゃくる。

 

 

 

 こんなに自分を想っていてくれた彼ら。

 

 それに対し、恨みしか感じていなかった自分。

 

 こんな邪悪な生き物。

 

 生きている資格はあるのだろうか。 

 

 

 

 「え? ウララさん? 急にどうしたの!? どこか痛いの!? 

 ほ、ほら、いたくなーい。いたくなーい。いたいのいたいの、とんでけー!」 

 

 慌てて自分の頭を撫でる、親友の久しぶりのなでなで。

 

 温かさが身に沁みる。さらに涙が溢れ出す。

 

 やめろ。やめてくれ。私に優しくするな。

 

 許されると、勘違いしてしまうではないか。

 

 

 

 さらに涙が赤子を濡らす。

 

 この汚れた涙で、穢れなき彼女を濡らす罪悪感。

 

 

 

 未来ある彼女のためにならない。

 

 最低限の理性を取り戻し、顔を上げる。

 

 すると、自分を不思議そうに見上げる彼女と目が合う。

 

 ぐしゃぐしゃの顔でなんとか微笑みかける。

 

 その情けない自分を、彼女は。

 

 そっとその小さな手で、頭を撫でてきた。

 

 

 

 全てが赦された気がした。

 

 

 

 恐らく気のせいであるけれど。

 

 生きていてもいいのだ。

 

 そう、言われた気がした。

 

 

 

 「う、ウララさん、大丈夫……? 

 私、何かしてしまったかしら……?」

 

 

 

 やっと泣き止んだ自分に、恐る恐るキングちゃんが声を掛けてきた。

 

 誤魔化さなければ。

 

 

 

 「だ、大丈夫だよキングちゃん。ちょっと持病の……そう。椎間板骨折が……」

 

 「椎間板!? 持病なのそれ!? というかよく今まで立ててたわね!?」

 

 しまった。さすがに不自然すぎたか。

 

 これにはいくらこの天然鈍感サイコパス人妻でも……

 

 

 

 「待っててウララさん! 私、いいお医者様を知ってるの! 確か名刺があったはず……!」

 

 だだだだだだ。

 

 出産から数日と経っていない筈なのに、現役時代から衰えぬ、豪脚を魅せて廊下を走り去る彼女。

 

 

 

 騙せてしまった。

 

 さすがにポンコツ過ぎる。

 

 こやつ。もしも自分がトレーナーと結婚していたら、傷心の内に結婚詐欺にあっさり引っ掛かっていただろう。

 

 確信できる。

 

 間違いなくトレーナーと結婚したのは、彼女のウマ生において最低限必要な事項だった。

 

 

 

 赤子になでなでされながら、呆然と思う。

 

 自分が捨てられたのは、このためだったのかもしれない。

 

 こりゃしょうがねーわ。

 

 だってこうなってなけりゃ、アイツ絶対今頃どん底生活だもん。下手すりゃ死んでる。

 

 

 

 やっと彼女を許せた瞬間だった。

 

 有無を言わせぬポンコツ具合。

 

 この折り合いの付け方は予想してなかった。

 

 しゃくり上げながら、愛しいポンコツを待つ。

 

 

 

 だだだだだだ。

 

 ポンコツ超特急が回送してきた。

 

 手には一枚の名刺。

 

 「あったわ! ウララさん! ここならその難病も治るはずよ!」

 

 いつの間にか自分の仮病は彼女の中で、治療困難な難病と化していたらしい。

 

 涙に霞む目で、彼女が差し出してきた名刺を見る。

 

 

 

 安心沢クリニック。

 

 カラー印刷された、不敵に微笑むサングラスの女。

 

 涙が一瞬で吹き飛んだ。

 

 こやつ、マジか。

 

 

 

 

 

 

 脳内に悪夢が甦る。

 

 学園に訪れた不審者。

 

 安心沢刺々美と名乗った女。

 

 疑うことを知らない彼女は、自分が止めるのも聞かず、まんまと騙され針を打たれ。

 

 

 

 身体の調子が絶好調になったの! 

 

 そう言う彼女に唆され、トレーナーの勧めもあり、自分も針を打たれた。

 

 

 

 ケツに突き刺さった針。

 

 しばらく下痢と吐き気が止まらず、トイレの住人となった自身と、心配そうにドアの外で寄り添う彼女。

 

 たづなさんに連行されていく不審者。

 

 

 

 

 やはりこやつ、許せぬ。

 

 善意の顔で差し出された、致死に至る毒の刃。

 

 悪くも無い腰がガチで破砕されかねぬ。

 

 

 

 消えたはずの怒りが再燃する。

 

 自分があれほど苦しんだのを忘れたのか。

 

 真意を問いたださねば。

 

 

 

 「き、キングちゃん。学生時代に私がトイレに引きこもったの、覚えてる……?」

 

 「ええ! ウララさんとの思い出は、ひとつも忘れた事は無いわ! 

 私の作ったシチューを食べ過ぎて、お腹を壊してしまった時よね? 

 ふふ、相変わらず食いしん坊さんなの? 

 そうだ、今日はシチューにしましょう! ウララさんの大好物だものね! 

 今度は食べ過ぎちゃ駄目よ?」

 

 

 

 ばちこーん。渾身のウィンク。

 

 

 

 悪意ゼロ。

 

 学生時代の悲惨な思い出は、彼女の中ではただの食い過ぎによるものと処理されていたらしい。

 

 再燃した怒りが、航空機によるダイナミック消火をされたように鎮静化される。

 

 

 

 こやつはこういうヤツだった。

 

 善意の塊。悪意無き破壊者。

 

 学生時代悟ったこと。

 

 いちいち怒っていたら身が持たぬ。

 

 

 

 今も感情のええじゃないかに乗せられ、振り回されている。

 

 いつからここは、富士急ハイ○ンドになったのか。

 

 凄まじい虚無感に襲われる。

 

 

 

 脳内に降り注ぐ御札。

 

 ええじゃないか。ええじゃないか。

 

 よいよいよいよい。

 

 囃し立てる民衆。

 

 明治維新の日は近い。

 

 

 

 

 「ほら、ウララさん、ちーんして。ちーん」

 

 涙が引っ込み、落ち着いたのを見て、涙を拭き取り。

 

 ハンカチを自分の鼻に優しく当てるポンコツ。

 

 お言葉に甘え、鼻に力を込める。

 

 ズビョオッ! 

 

 鼻水がたらふく出た。

 

 

 

 「わ。すごい量」

 

 しげしげとハンカチを眺め、満足そうに自分の頭を撫でると、洗面所に向かう彼女。

 

 そういえばあのハンカチ、学生時代から使っている、母から貰ったといういつものハンカチではあるまいか。

 

 飾り刺繍で補強されていて気付かなかったが、柄に見覚えがある。

 

 染みの位置も、記憶と一致する。

 

 

 

 数少ない母からの贈り物。

 

 とても大事にしていると語っていた。

 

 

 

 だが、必要な時が来たなら。

 

 彼女はそれを躊躇いなく、友の血と涙を拭うために差し出した。

 

 

 

 自分と、黄金世代の彼女たち。

 

 自らの涙は決して拭わず。

 

 ただ友の為に、大切な母との絆を使い、我等の絶望を拭い去る彼女。

 

 

 

 その優しさにどれだけ救われただろう。

 

 その優しさにどれだけ傷を抉られただろう。

 

 

 

 無垢過ぎる優しさは、時に人を傷付ける。

 

 そんな彼女が大好きなのだ。

 

 優しい優しいポンコツ天使。

 

 

 

 彼女を憎むことなど。

 

 玄関の写真で彼らの想いを知り。

 

 ハンカチで大切な記憶を思い出した自分には、もう出来ない。

 

 

 

 今日をもって、彼女たちの元から完全に姿を消すことを心に決める。

 

 ドリームトロフィーリーグももういい。

 

 自分はもう十分走った。

 

 

 

 

 栄光を得た。

 

 挫折を知った。

 

 怒りを覚え、絶望を味わった。

 

 だけどそれよりも、大切なものを沢山彼女に貰っていた。

 

 

 

 青い鳥は、そこにいた。

 

 ずっと心は傍に。

 

 離れていても、寄り添ってくれていた。

 

 彼女から逃げたのは、自分自身だ。

 

 

 

 そして、今。

 

 もう彼女の傍に居て、幸せを与えられる資格を失っていた自分に気付いた。

 

 

 

 地元に帰ろう。

 

 地元では、あまり自分は有名ではない。

 

 まぁ、飽くまで中央や、高知に比べてだが。

 

 それでも、望めばひっそりと暮らすことが叶うだろう。

 

 

 

 黄金世代の一人。

 

 スペシャルウィークも、引退後は地元に戻っている。

 

 彼女の牧場で雇って貰い、輝かしかったあの日々を語り合いながら、生きるのもいいだろう。

 

 そこでの生活に満足したら、そうだな。

 

 どうしよう。わからないや。

 

 多分、満足なんて、もう二度と出来ないような気がする。

 

 青い鳥は、二匹とは居ない。

 

 

 

 

 

 

 「さぁウララさん、リビングに………………

 いいえ。プリンセスをしばらくお願い。

 我が家自慢のシチューは時間が掛かるの。

 落ち着いたら、来て頂戴」

 

 洗面所から帰ってきたキングちゃん。

 

 私の顔を見て、立ち竦み。

 

 深呼吸を一つして。

 

 リビングへと向かう。

 

 なんだろう。どうしたのかな。

 

 背中が霞んで見えないや。

 

 あの日のように。

 

 

 

 

 

 

 ドバァン! 

 

 玄関のドアが凄まじい勢いで開かれる。

 

 

 

 「ただいまー!!! 愛する妻!! 産まれたばかりの娘!! そして随分ご無沙汰な、可愛いウララが来てくれていると聞いて!! 仕事の山も、パパっと解決!! パパだけにな!! ガハハ!! 大丈夫、上司には明日、土下座しよう!! 久し振りだなウララ!! オレは今、猛烈に感動している!! おや!? どうしたんだウララ!! なんでこちらを向いてくれないんだ!! 可愛い笑顔を見せてくれ!! もちろん背中も可愛いが!!」

 

 

 

 この、能天気な声。

 

 勢い任せの生き様。

 

 間違いない、ヤツだ。

 

 

 

 

 

 

 かつて愛していたヒト。

 

 トレーナーのお帰りである。

 

 

 

 

 

 

 

 つづかない


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