これは失策・・・!しかも内容は完全に趣味・・・!
だが私は謝らない・・・!
ギャグにしんみりそしてギャグ。
ウララちゃんの七転八倒をお楽しみください。
モチーフは幸せの青い鳥。
~前回までのあらすじ~
幼児たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
母なる邪神の懐に投げ込み。
性癖の大量殺戮に加担しつつも、良心の呵責には特には苦しまず、日々業務に勤しんでいたハルウララ。
番組に現れた、邪悪を煮詰めてウマ娘で稀釈。最後に隠し味に隠しきれぬ性癖を加え、ウマ娘を引いた存在。
ウマ美ちゃんことナイスネイチャの再登場に、さすがに世の無情をレ・ミゼラぶる。
家にとぼとぼ帰り、お姫様の手厚いサービスに心を癒され。
彼女との出会いを振り返るのだった。
ここがあの女のハウスね。
人がゴミのようだ!
〇〇君って、本ッ当に馬鹿だよねぇ!
それらに並ぶ、一回で良いから言ってみたかったセリフ。
それを言えた充足感に、胸を満たしつつ。
手の中の赤子をむずがらせることに夢中な隣のサイコパス。
親友にして略奪者たるキングヘイローに声をかける。
「キングちゃん。ここだよね?」
「ぷにぷにぷにぷにぷに……ああ……かわいすぎるわプリンセス……
えっ? ああ、もう着いたのね……でもよくわかったわねウララさん。
ここが私たちの家だって」
「女の勘……ってヤツだよ。キングちゃん」
「そう……さすがね。じゃあ入りましょうか」
あっさりと納得し、玄関に向かう親友。
他愛ない。疑う事を知らぬ彼女。
訪問販売にも容易く騙され、家の中は新聞と羽毛布団に埋もれているかもしれない。
親友をまた騙してしまった。だが必要だったのだ。
言えぬのだ。いつか燃やすために下調べをしていたとは。
家に帰ったら、キャンプファイヤーのために貯め込んであるアレ。
消防法を大胆に無視した量のガソリンは捨てよう。さすがにガロン単位はマズい。
手にお縄がかかってしまう。
そう思いつつ、赤ん坊を手の中であやす。
よしよし、命拾いしたな貴様。さすがに情が湧いたから生かしておいてやろう。
きゃっきゃと無邪気に笑う、戦後未曾有の大火災を未然に防いだ立役者。
「さぁ、入りましょう。いらっしゃい、ウララさん。
ふふ。貴女にずっと言いたかったのよ。これ。
スカイさんたちには悪いけど、一番の親友だもの」
玄関を開きこちらに振りむき、優しく微笑む親友。
やめろ。未遂ながら、罪悪感がストップ高だ。
なんでそんなに無垢な笑顔を。
目の前に居るのは貴様を家ごとファイヤーしようとした女なのだぞ。
「お邪魔するね、キングちゃん」
さすがに顔を伏せつつ、敷居を跨ぐ。
「ええ。今後は気軽に。自分の家だと思って来てね?
ずっとおもてなしの準備をしてたのだけれど。
ウララさんったら、いつも忙しそうで。招待したくてもできなかったの」
さらに追撃。これも本音だろう。
なんでこんなに自分を追い詰めるのか。
玄関に入り。靴を脱ぎ。
ふと顔を上げると、目にある物が映る。
あまりの衝撃に身が竦む。
廊下に飾られた額縁。
その中で笑っているのは、愛していたトレーナーと、目の前の彼女。
それだけなら良かった。
ただの夫婦の写真ならば。
憎しみを持ったままでいられた。
だが、3人目がそこで笑っていたのだ。
2人の間で無邪気に笑う、自分の姿。
3人で撮った記念写真。
自分が幸せになれることに、何の疑いも持っていなかった頃の写真。
大好きな二人とともに、いつまでも一緒に笑っていられると思っていた。
ウマ生で一番輝いていた頃の思い出。
涙腺が決壊する。身体が言うことを聞かない。
膝が勝手に折れ、赤ん坊に顔を埋めて泣きじゃくる。
こんなに自分を想っていてくれた彼ら。
それに対し、恨みしか感じていなかった自分。
こんな邪悪な生き物。
生きている資格はあるのだろうか。
「え? ウララさん? 急にどうしたの!? どこか痛いの!?
ほ、ほら、いたくなーい。いたくなーい。いたいのいたいの、とんでけー!」
慌てて自分の頭を撫でる、親友の久しぶりのなでなで。
温かさが身に沁みる。さらに涙が溢れ出す。
やめろ。やめてくれ。私に優しくするな。
許されると、勘違いしてしまうではないか。
さらに涙が赤子を濡らす。
この汚れた涙で、穢れなき彼女を濡らす罪悪感。
未来ある彼女のためにならない。
最低限の理性を取り戻し、顔を上げる。
すると、自分を不思議そうに見上げる彼女と目が合う。
ぐしゃぐしゃの顔でなんとか微笑みかける。
その情けない自分を、彼女は。
そっとその小さな手で、頭を撫でてきた。
全てが赦された気がした。
恐らく気のせいであるけれど。
生きていてもいいのだ。
そう、言われた気がした。
「う、ウララさん、大丈夫……?
私、何かしてしまったかしら……?」
やっと泣き止んだ自分に、恐る恐るキングちゃんが声を掛けてきた。
誤魔化さなければ。
「だ、大丈夫だよキングちゃん。ちょっと持病の……そう。椎間板骨折が……」
「椎間板!? 持病なのそれ!? というかよく今まで立ててたわね!?」
しまった。さすがに不自然すぎたか。
これにはいくらこの天然鈍感サイコパス人妻でも……
「待っててウララさん! 私、いいお医者様を知ってるの! 確か名刺があったはず……!」
だだだだだだ。
出産から数日と経っていない筈なのに、現役時代から衰えぬ、豪脚を魅せて廊下を走り去る彼女。
騙せてしまった。
さすがにポンコツ過ぎる。
こやつ。もしも自分がトレーナーと結婚していたら、傷心の内に結婚詐欺にあっさり引っ掛かっていただろう。
確信できる。
間違いなくトレーナーと結婚したのは、彼女のウマ生において最低限必要な事項だった。
赤子になでなでされながら、呆然と思う。
自分が捨てられたのは、このためだったのかもしれない。
こりゃしょうがねーわ。
だってこうなってなけりゃ、アイツ絶対今頃どん底生活だもん。下手すりゃ死んでる。
やっと彼女を許せた瞬間だった。
有無を言わせぬポンコツ具合。
この折り合いの付け方は予想してなかった。
しゃくり上げながら、愛しいポンコツを待つ。
だだだだだだ。
ポンコツ超特急が回送してきた。
手には一枚の名刺。
「あったわ! ウララさん! ここならその難病も治るはずよ!」
いつの間にか自分の仮病は彼女の中で、治療困難な難病と化していたらしい。
涙に霞む目で、彼女が差し出してきた名刺を見る。
安心沢クリニック。
カラー印刷された、不敵に微笑むサングラスの女。
涙が一瞬で吹き飛んだ。
こやつ、マジか。
脳内に悪夢が甦る。
学園に訪れた不審者。
安心沢刺々美と名乗った女。
疑うことを知らない彼女は、自分が止めるのも聞かず、まんまと騙され針を打たれ。
身体の調子が絶好調になったの!
そう言う彼女に唆され、トレーナーの勧めもあり、自分も針を打たれた。
ケツに突き刺さった針。
しばらく下痢と吐き気が止まらず、トイレの住人となった自身と、心配そうにドアの外で寄り添う彼女。
たづなさんに連行されていく不審者。
やはりこやつ、許せぬ。
善意の顔で差し出された、致死に至る毒の刃。
悪くも無い腰がガチで破砕されかねぬ。
消えたはずの怒りが再燃する。
自分があれほど苦しんだのを忘れたのか。
真意を問いたださねば。
「き、キングちゃん。学生時代に私がトイレに引きこもったの、覚えてる……?」
「ええ! ウララさんとの思い出は、ひとつも忘れた事は無いわ!
私の作ったシチューを食べ過ぎて、お腹を壊してしまった時よね?
ふふ、相変わらず食いしん坊さんなの?
そうだ、今日はシチューにしましょう! ウララさんの大好物だものね!
今度は食べ過ぎちゃ駄目よ?」
ばちこーん。渾身のウィンク。
悪意ゼロ。
学生時代の悲惨な思い出は、彼女の中ではただの食い過ぎによるものと処理されていたらしい。
再燃した怒りが、航空機によるダイナミック消火をされたように鎮静化される。
こやつはこういうヤツだった。
善意の塊。悪意無き破壊者。
学生時代悟ったこと。
いちいち怒っていたら身が持たぬ。
今も感情のええじゃないかに乗せられ、振り回されている。
いつからここは、富士急ハイ○ンドになったのか。
凄まじい虚無感に襲われる。
脳内に降り注ぐ御札。
ええじゃないか。ええじゃないか。
よいよいよいよい。
囃し立てる民衆。
明治維新の日は近い。
「ほら、ウララさん、ちーんして。ちーん」
涙が引っ込み、落ち着いたのを見て、涙を拭き取り。
ハンカチを自分の鼻に優しく当てるポンコツ。
お言葉に甘え、鼻に力を込める。
ズビョオッ!
鼻水がたらふく出た。
「わ。すごい量」
しげしげとハンカチを眺め、満足そうに自分の頭を撫でると、洗面所に向かう彼女。
そういえばあのハンカチ、学生時代から使っている、母から貰ったといういつものハンカチではあるまいか。
飾り刺繍で補強されていて気付かなかったが、柄に見覚えがある。
染みの位置も、記憶と一致する。
数少ない母からの贈り物。
とても大事にしていると語っていた。
だが、必要な時が来たなら。
彼女はそれを躊躇いなく、友の血と涙を拭うために差し出した。
自分と、黄金世代の彼女たち。
自らの涙は決して拭わず。
ただ友の為に、大切な母との絆を使い、我等の絶望を拭い去る彼女。
その優しさにどれだけ救われただろう。
その優しさにどれだけ傷を抉られただろう。
無垢過ぎる優しさは、時に人を傷付ける。
そんな彼女が大好きなのだ。
優しい優しいポンコツ天使。
彼女を憎むことなど。
玄関の写真で彼らの想いを知り。
ハンカチで大切な記憶を思い出した自分には、もう出来ない。
今日をもって、彼女たちの元から完全に姿を消すことを心に決める。
ドリームトロフィーリーグももういい。
自分はもう十分走った。
栄光を得た。
挫折を知った。
怒りを覚え、絶望を味わった。
だけどそれよりも、大切なものを沢山彼女に貰っていた。
青い鳥は、そこにいた。
ずっと心は傍に。
離れていても、寄り添ってくれていた。
彼女から逃げたのは、自分自身だ。
そして、今。
もう彼女の傍に居て、幸せを与えられる資格を失っていた自分に気付いた。
地元に帰ろう。
地元では、あまり自分は有名ではない。
まぁ、飽くまで中央や、高知に比べてだが。
それでも、望めばひっそりと暮らすことが叶うだろう。
黄金世代の一人。
スペシャルウィークも、引退後は地元に戻っている。
彼女の牧場で雇って貰い、輝かしかったあの日々を語り合いながら、生きるのもいいだろう。
そこでの生活に満足したら、そうだな。
どうしよう。わからないや。
多分、満足なんて、もう二度と出来ないような気がする。
青い鳥は、二匹とは居ない。
「さぁウララさん、リビングに………………
いいえ。プリンセスをしばらくお願い。
我が家自慢のシチューは時間が掛かるの。
落ち着いたら、来て頂戴」
洗面所から帰ってきたキングちゃん。
私の顔を見て、立ち竦み。
深呼吸を一つして。
リビングへと向かう。
なんだろう。どうしたのかな。
背中が霞んで見えないや。
あの日のように。
ドバァン!
玄関のドアが凄まじい勢いで開かれる。
「ただいまー!!! 愛する妻!! 産まれたばかりの娘!! そして随分ご無沙汰な、可愛いウララが来てくれていると聞いて!! 仕事の山も、パパっと解決!! パパだけにな!! ガハハ!! 大丈夫、上司には明日、土下座しよう!! 久し振りだなウララ!! オレは今、猛烈に感動している!! おや!? どうしたんだウララ!! なんでこちらを向いてくれないんだ!! 可愛い笑顔を見せてくれ!! もちろん背中も可愛いが!!」
この、能天気な声。
勢い任せの生き様。
間違いない、ヤツだ。
かつて愛していたヒト。
トレーナーのお帰りである。
つづかない