ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

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ううむ。組み立てに悩む。
だが、頭をアホにすれば道は開けるッ……!


ファル子さんじゅういっさい そのさんじゅうなな 魔球の行方

~前回までのあらすじ~

 

 手前勝手な、想い。

 

 ツバメは、終わりに向かい飛翔した。

 

 そして、唐突に叫ばれる愛。

 

 六平トレーナーによる、SAN値チェック。

 

 ハルウララしか、頭にない。

 

 問題なし。既にこやつ、狂っていた。

 

 死んでも彼女を、幸せにする。

 

 その心意気しか、感じとれぬ。

 

 そして、ウマ娘の戦いは。

 

 デュエットにより、加速する。

 

 無限の渇き。

 

 輝きたいという願望。

 

 ちらりと黒鹿毛を見やり。

 

 ぴしりと心に一つの異音。

 

 旗を靡かせ、決然と告げる。

 

 フラスプネズミの総力。

 

 味わい尽くして、我が身に屈せ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふらりと、彼が向かうは小山。

 

 老人は、説明責任を果たさせるため。

 

 彼を止めようと、試みた。

 

 「あ、君ッ!」

 

 「止めねぇでくれ。頼む」

 

 「だが……泣いて、いるのか?」

 

 老人の、足を止めたのは。

 

 青年の、足元を濡らす滴。

 

 「泣いてねぇ。泣くモンか。

 男の門出だ。笑って見送るのが。

 筋ってもんだろう?」

 

 「……彼は、そんなに悪いのか?」

 

 「もうとっくに死んでておかしくねぇ。

 無理し過ぎたんだよ。

 よっぽど愛してたんだな。

 最後は。最後ぐらいはよ。

 彼女と一緒に過ごさせてやりたい」

 

 「……やはりか。自分勝手な男だ。

 責任重大だな……。この老体には堪えるよ」

 

 「大丈夫だ。俺らが支える。あんたも。

 その後継者も。クソみてぇな、この命。

 それが尽きるまでなァ」

 

 「なぜ、君はそこまで?」

 

 「恩義があるんだ。負け犬を拾ってくれた。

 言っただろ? 命を救われた。

 飯もくれた。仕事まで与えてくれた。

 それ以上に、何が必要だ?」

 

 だが、老人は。

 

 誤魔化されなかった。

 

 長きに渡る人生で。彼は知っていた。

 

 命を救われても。裏切る者はいる。

 

 人は、喉元を過ぎれば。

 

 熱さも、恩も忘れる物である。

 

 だが、この青年。

 

 「それだけではない。そんな顔をしている」

 

 「亀の甲より、年の功ってか。

 かなわねぇなあ。相変わらず、俺は。

 誰にもまだ勝ててねぇ。

 ……あの人はよ。馬鹿なんだよ。

 とんでもねぇ馬鹿」

 

 「ひどい言い様だな?」

 

 「それ以外に言えねぇよ。

 身体壊して働いて。

 やりてぇことが、馬との暮らし。

 しかもそれさえ、寄り道して。

 こんな、馬鹿ばっかりを拾いやがって。

 お陰で、彼女の死に目に逢えてねぇ。

 ……みんな、知ってたんだよ。

 あの人が大好きだからな。

 調べて、愕然とした。

 言えなかった。言える筈がねぇ」

 

 「彼女が、既に死んでいたことをか」

 

 ぽつり、ぽつりと青年は告解する。

 

 自らの、罪を。

 

 「ああ。だってそうだろう? 

 自分の身体を、ぶっ壊してでも。

 死んだっていいなんて、口では幾らでも言える。

 でも、あの人は実行しやがった。

 その、あの人の。幸せにしたい相手がよ。

 既に死んでるんだぜ? 言った瞬間よ」

 

 その瞳に宿るのは。

 

 後悔と、そして。

 

 「……そのままくたばっても、おかしくねぇ。

 だから、みんな黙ってた。

 ひでぇ裏切りだよな。

 俺たちは、あの人に生きて欲しかった。

 だから、あの人の一番大事なものを。

 あの人の、生きる目的が既に無いことを。

 示しあわせて、隠してたんだ。

 殺されたって、文句が言えねぇよ」

 

 「……誰だって、大事な者には。

 生きていて欲しいものだろう。

 君たちは、間違ったことはしていない」

 

 「間違ってる、間違って無いじゃねぇ。

 仁義の話だ。俺らはあの人に救われた。

 あの人は、世界に負けちまった俺たちに。

 また、立ち上がるチャンスを。

 ケツを蹴飛ばしながら、くれたんだ。

 なのによぉ。俺らは裏切った。

 全員揃って地獄行き。間違いねぇ。

 だっていうのに、あの人はな。

 帰ってきた時、なんて言ったと思う?」

 

 「彼は。一月前に。彼女の死を知った時。

 君たちに、何を言った?」

 

 自らに対する、絶対の誓い。

 

 「『馬鹿ども。よくも騙してくれたな。

 ありがとう。罰として。

 俺の、最後の我が儘を。

 お前たちに、手伝わせてやる』」

 

 「……厳しい男だな。絶対に断れない。

 その信頼を、裏切れば。

 それはもはや、負け犬ですらない」

 

 「社長がよ。彼女に逢いに行くって聞いて。

 俺たちは、覚悟してた。

 その場で、あの人がくたばるかもしれねぇ。

 全てを知って、俺たちを殺すかもしれねぇ。

 全部、全部覚悟してたんだ。

 

 ……でもよ、あの人は言ったんだ。

 裏切った俺たちを。信じてくれるって。

 手伝わせてくれるって言ったんだ。

 これでよ。あの人の最後の我が儘を。

 聞いてやれなくちゃ、俺たちは。

 お天道様に、二度と顔向けができねぇ。

 墓参りだって、出来やしねぇ」

 

 燃えるような瞳。

 

 彼と同じ。

 

 生涯を、ただ一つのため。

 

 捧げると、誓った瞳。

 

 「だから、君たちは」

 

 「ああ。死んだってやる。誰だって殺す。

 俺らの、あの馬鹿みてぇなボスのためなら。

 一生を、馬鹿みてぇな仕事に使うぐらい。

 お釣りが来るってもんだろ。

 すまねぇな、爺さん。

 俺らの我が儘に、付き合ってくれや」

 

 「わかった。私も覚悟を決めよう。

 君たちは、本気なんだな。

 本気で、報われない生き方を。

 死ぬまで続けると、決めている。

 ここで引いては、老人として。

 馬鹿な若者どもに、示しがつかぬ」

 

 「ありがてぇ。でもいいのかい? 

 あんたには、何の義理もねぇってのに」

 

 老人は、ふんと鼻を一つ鳴らし。

 

 呆れたように、苦情を申し立てた。

 

 「ようやく合点が行ったよ。

 ……君たちは、揃って素直じゃない。

 てんでバラバラに、牧場に寄付なぞしおって。

 ここまで、ここが保ったのも。

 君たちの、彼への愛情故だろう。

 まとめて贈るものだぞ、そういうものは。

 私は、金勘定は苦手なんだ」 

 

 「バレてら! しゃあねぇだろう。

 俺たち、すげー馬鹿なんだから。

 社長のために、何かをしてやろうとか。

 恥ずかしすぎて、口にも出せねぇ。

 目立って社長にバレたら、事だしな」

 

 「そうか。馬鹿ならしょうがない。

 それで、具体的には。どうするつもりなんだ?」

 

 青年は、にやりと笑い。

 

 馬鹿な夢を。実現するための方策。

 

 それを、得意げに語る。

 

 「ああ。あらゆる媒体で。

 あんたの見た、彼らの姿を描き出す。

 馬主が権利放棄した馬、多いんだろう?」

 

 「ああ。名目上は、私が馬主。

 そういうことになっている、馬が殆どだ。

 ハルウララを、始めとしてな」

 

 「なら、権利問題はねぇ。

 負けた馬は、目立たねえ。

 目に写らなきゃ、居ないと同じ。

 なら、目に写るようにしてやりゃいい」

 

 「無名の馬ばかりだぞ。人気が出るとは思えん」

 

 「()()()()()()

 なんなら、人気がある馬も。

 馬主を説得して出す。金も積む。

 社長は、馬鹿だがすげぇ馬鹿だ。

 準備は、バッチリ整えてやがる。

 あとは、俺らが気張るだけだ。

 ……ここに、社長の原案がある。

 一か月かかって、作ったらしい」

 

 分厚い封筒の、封を解いて。

 

 それを、一目見た瞬間。

 

 彼らは、絶句した。

 

 「「……没ッ!」」

 

 そして、そのまま地面に叩きつけた。

 

 「あの馬鹿ッ! ふざけやがって! 

 俺たちに、自分で考えろってか!?」

 

 「いいや、違うよ。彼は本気だ」

 

 「……マジで?」

 

 「マジだ」

 

 「……なんでそう思う? 

 正気の沙汰とは思えねぇ」

 

 「わかるさ。だって彼は」

 

 放り捨てられた企画書に。

 

 描かれていた、一枚のイラスト。

 

 二足歩行の馬と、筋骨隆々たる青年の。

 

 濃厚なラヴシーン。

 

 『ウマ娘ガチケモダービー』。

 

 そう、号された原案。

 

 「牧場で、いつもウマっ気を出していたからな。

 ガチのケモナーだよ、あの小僧」

 

 「俺にゃあわからねぇ……社長。

 あんた、童貞だって言ってたの。

 マジだったんだな……

 そりゃ、命も賭けるか。

 愛って、そっち方面も含んでたのかよ」

 

 彼らは、しばらく黄昏れて。

 

 老人は思った。

 

 彼が、手遅れになっていなくば。

 

 彼女が被害に遭っていた可能性が、高い。

 

 不謹慎ではあるが……

 

 「世の中、ウマく出来てるものだな……」

 

 彼の呟きは。

 

 優しく、空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこはちょっと……どうかと思うな」

 

 「どうした。急に冷静になりやがって」

 

 「いや、愛のカタチはヒトそれぞれ。

 そう、急に思い立ってな……」

 

 「ちなみにお前の愛のカタチは?」

 

 「ウララのカタチをしている」

 

 「知ってた」

 

 

 

 六平 銀次郎は、特に相手にせず。

 

 戦いに、目を移した。

 

 

 

 「さぁさぁさぁ! 盛り上がってッ! 

 参りましたァッ!」

 

 「相変わらずッ! 調子に乗ると鬱陶しい……!」

 

 

 

 たんたんと、ステップを刻むハルウララ。

 

 びゅんびゅんと、走り回るスマートファルコン。

 

 『個』の極み、ハルウララ。

 

 『集』の極み、スマートファルコン。

 

 彼女たちの、戦闘論理は。

 

 その、得意距離に於いても対照的だった。

 

 

 

 「ウララちゃんはッ! 

 マイル以上は、苦手だもんねぇッ!?」

 

 「お前が得意すぎるんだよッ……!」 

 

 

 

 ハルウララ。ダート短距離の王者。

 

 スマートファルコン。ダートマイル以上の王者。

 

 その、違いとは。

 

 

 

 「()()()()()()んだよ、ウララちゃんッ! もっと伸びやかにダンスしよッ!?」

 

 

 

 その、常識はずれな瞬発力を以て。

 

 地を蹴り、跳ぶハルウララ。

 

 その、過剰に搭載した筋力により。

 

 軽く地を蹴っても、膨大な推進力。

 

 ダート短距離に、敵はない。

 

 だが。

 

 

 

 「知ってるよ、ウララちゃんッ!」

 

 

 

 タタタタタタン、と。

 

 小刻みに動くハルウララに対し。

 

 たぁん、たん、たぁんと。

 

 伸びやかなステップを刻む、スマートファルコン。

 

 翼のように、旗をはためかせ。

 

 際限なく加速する。

 

 

 

 「加速力が高くてもッ! 最高速度が遅いッ! 

 当然だよねッ!? 跳ねすぎるとッ! 

 ()()()()()()()()()()()ものッ!」

 

 「ッ……!」

 

 

 

 そう。ハルウララの弱点。

 

 その絶大な脚力を以て、地を蹴り。

 

 跳ね続ける、特異な走法。

 

 性質上、速度に上限がある。

 

 速度を上げるため、蹴り脚を強めると。

 

 次に地を蹴るまで、滞空時間が伸びるためだ。

 

 バランスが崩れると、逆に遅くなる。

 

 領域を展開すれば、バランスを無視しても。

 

 過剰な出力で、一気に距離を稼げるが……

 

 今は、使えない。使えても、意味が無い。

 

 

 

 「短距離に特化しすぎたねッ!? 

 戦闘スタイルも、同じッ!」

 

 

 

 そして、インファイトでは無類の強さを誇るが。

 

 ヒット&アウェイは、苦手である。

 

 普通の相手ならば、問題ないが……

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 明確な弱点となり得る。

 

 

 

 

 「会長ッ! かぁっこ……いいッ!」

 

 

 

 じゃかじゃんと。ギターを掻き鳴らす、ユキオー。

 

 

 

 「「「「「会長ッ! 粉砕ッ☆ 玉砕ッ☆」」」」」

 

 「「「「「大喝采ッ!!!!!」」」」」

 

 

 

 社員(奴隷)どもの、コール。

 

 そして。

 

 

 

 「キャァァァァ! ファル子さーん! 

 ファルッ! ファルファルファルッ!! 

 ふぁるうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

 

 

 

 頭に「ファル子命」と、揮毫された鉢巻き。

 

 纏う法被の、背中には。

 

 スマートファルコン親衛隊、筆頭の文字。

 

 片手にうちわ、片手にサイリウム。

 

 凄まじい練度の、オタ芸。

 

 かの、アグネス家のデジたんが。

 

 教えを乞うたと、言われるほどの絶技。

 

 限界オタクと化した、ゴリラのコール。

 

 ハルウララは、歯噛みした。

 

 

 

 「みんなーッ☆ありがとーッ!」

 

 

 

 スマートファルコンの、速度は。

 

 天井知らずに、加速していく。

 

 スマートファルコンの、部分展開。

 

 『キラキラ☆STAR☆DAMN』(堕ちろ、私以外の煌めく星)

 

 オーディエンスの熱狂が。

 

 加熱すれば、加熱するほどに。

 

 その強化係数を、上げて行くのだ。

 

 注目を、浴びるほどに強くなる。

 

 

 

 短距離では、テンションがアガりきる前に。

 

 この身の勝利が、確定するが……

 

 マイル以上では。

 

 最高速度で、遅れを取る。

 

 追い付けないのだ。

 

 伸びやかに、真っ当に走る彼女に。

 

 加速力に、全振りし過ぎたためだ。

 

 

 

 「Lalalai! Lalalai! Lula-la!」

 

 「ぬぐぅっ!」

 

 

 

 そして、自らの射程外から放たれる。

 

 短い音節。弾ける衝撃。

 

 あの、マイク。

 

 あれが、手品の種だろう。

 

 判ったところで、どうにも出来ぬが。

 

 

 

 「あははははっ! どうしたのかなっ!? 

 ウララちゃん! キャッチミー! 

 イフッ! ユーキャンッ!」

 

 「調子に乗りおって……!」

 

 

 

 スマートファルコンは、確かな手応えを。

 

 その脚に、感じていた。

 

 

 

 (さすがに無手だと、厳しいけどね……!)

 

 

 

 ハルウララの間合いに入ったが、最後。

 

 どんなにこちらが速くとも。

 

 相討ち狙いで、合わせられた場合。

 

 身体強度と、膂力の差で。

 

 容易く、圧殺される。

 

 だが。自分には。

 

 『これ』があるッ! 

 

 

 

 「文明の利器(歌音砲)、万歳ッ! 

 Lalalalala! Lalala……La!」

 

 「鬱陶しいッ……!」

 

 

 

 そう。アウトレンジから、音の砲撃を。

 

 歌劇戦闘(ミュージカル)を、続ける限り。

 

 自分に負けは無いッ……! 

 

 

 

 「勝てば良かろうなのだァァァァァ!」

 

 「調子に……乗るなッ!」

 

 

 

 撞球のように、床だけでなく。

 

 天井と壁を蹴り、跳ね回るハルウララ。

 

 こちらに迫り、拳を振るおうとするが……

 

 無駄だ。

 

 

 

 「強化係数、大逆転ッ! 

 領域で補強されてない、ウララちゃん! 

 加速しきった、ファル子の方がッ! 

 速いって、知ってるでしょッ!?」

 

 

 

 全速力で、後方へ。

 

 ハルウララは、虚しく跳ねて止まる。

 

 追い付けないことを、悟ったのだろう。

 

 当たり前だ。

 

 もはや、戦いはマイルの長さを超え。

 

 中距離じみた、戦闘時間。

 

 例え、部分展開したとしても。

 

 速度で、自分が負けることなど。

 

 あり得なさ過ぎて、笑えてくる。

 

 

 

 「Lalalalala! La! La! La!」

 

 「何か、焦ってない?」

 

 「La……!?」

 

 

 

 ハルウララは、直感した。

 

 敵手が、圧倒的有利。

 

 そのはずだが、動きに余裕がない。

 

 まるで、時間制限でもあるかのように。

 

 伸びやかに、走るのとは対照的に。

 

 どんどんと、声撃間隔が。短くなっている。

 

 

 

 「時間稼ぎ。やってみる価値はあるね……!」

 

 「……Lalulalala! Laaaaaaa……laッ!?」

 

 

 

 そして、驚愕に。

 

 声撃を止めた、スマートファルコン。

 

 彼女に迫る、砲弾。

 

 

 

 「デッドボールってっ! 

 こういう意味じゃ、ありませんわぁぁぁ!?」

 

 

 

 メジロ魔球(マッキュ)イーンである。

 

 

 

 「うわぁおッ!?」

 

 

 

 あまりの衝撃に、足が止まってしまった。

 

 危ういところで、イナバウアー。

 

 ぶるんと、揺れた胸に。

 

 迫る、悪寒。

 

 過ぎ去った筈の。

 

 確かな、平坦なる殺意。

 

 

 

 「ユタカァァァァァァァァ!!」

 

 「ヒィィィィィィィィッ!?」

 

 

 

 メジロの魔球(マッキュ)は、追尾型。

 

 壁で跳ねた、デッドボールが再来。

 

 がしりと、胸を鷲掴みにされる。

 

 現役時代より、育っていたためだ。

 

 恐らく、イナバウアーのポーズ。

 

 逸らした胸が、自慢と判定された。

 

 憎しみが、尋常では無い……! 

 

 

 

 「放しッ……!」

 

 「やはり胸など、戦闘の邪魔。

 貧乳は、ステータスッ!」

 

 「しまっ!?」

 

 

 

 そして、揉みあうというか。

 

 揉みしだかれる隙に。

 

 迫る、桜色の殺意。

 

 これは。避けきれ……! 

 

 

 

 「フォーリンダウンッ! 

 会長の胸は、わたしのもンだよッ!」

 

 「ファル子の胸は、ファル子のだよッ!? 

 もげるかと思ったけどねッ! 

 だが、よくやった駄犬! 

 後でおさわりを許すッ!」

 

 「感謝の極みッ!」

 

 

 

 危ういところで、駄犬の援護射撃。

 

 べりっと床に堕ち、ハルウララの脚を掬えず。

 

 そのまま、蹴り飛ばされる葦毛。

 

 

 

 「ですわぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

 

 よほど、騎空士となり。

 

 特定部位を、盛られたかったのか。

 

 蒼空(グランブルー)へと、消えてゆく葦毛。

 

 なんだかとってもファンタジィ。

 

 想いつつ、次弾が来る前に。

 

 強化係数を、高めることを決める。

 

 

 

 「油断大敵ッ! 忘れてたよ、ウララちゃんッ! 

 ファル子リヲン! リクエストッ! 

 領域増幅アンプッ! 超過増幅(オーバーロード)ッ! 

 曲名ッ! 『†逃げられッ☆堕天恋†』……ッ!?」

 

 

 

 やはり、ここは十八番。

 

 告げて、マイクを構えつつ。

 

 走り出そうとした、矢先。

 

 脳裏に溢れだす、知らない歌詞。

 

 ぴきりぴきりと、響く音。

 

 忘れていたはずの……! 

 

 

 

 『……ッ! あなたに! 伝えたいことがあるのッ!』

 

 

 

 だが、もう止まれない。

 

 この身は、歌姫であるのだから。

 

 例え、黒い雨が降ろうとも。

 

 歌わなければ。

 

 

 

 

 

 つづかない


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