~前回までのあらすじ~
何もかも、飲み込んで。
ツバメは静かに燃え尽きた。
灰となった、彼の魂。
女神は抱え、微笑んだ。
これにはあると。
彼女はそっと、欠片を託し。
彼を見送り、決意する。
まだ、きっとある筈。
薄汚れた、輝く魂。
そして、トレーナーは思った。
三女神、相当フリーダム。
ならば、自分も好き勝手。
愛する彼女に声援を。
加速し続ける、
スマートファルコンの、脳裏を。
過ぎ去り続ける、忘れた記憶。
悲鳴の唄は、高らかに。
忘れなければ、ならなかったもの。
彼女の元へ、向かうための知識。
現地で、彼女を探すための言語。
彼女を傷付ける、全ての手段。
ハルウララは、強い。
このままでは、勝てない。
苦鳴の唄は加速していき、制御を失い。
彼女の秒針が、きしみ始めた。
失われたストーリー。
ここには居ない、魔法使い。
黒鹿毛の、罪の記憶。
だいすきなあなたを。
助けてあげられなかったこと。
愛しいウマから、奪われた全て。
取り戻さんと、彼女は告げた。
愛を、あなたに。
憎悪を、私に。
彼を、愛しましょう。
あなたが愛を取り戻すまで。
そして、いつの日か。
暴走し続ける想い。
強制的に開かれる世界。
その砂漠の名は、スマートファルコン。
己を濡らす、慈愛の雨を。
愛ゆえ、自ら奪った女。
「……君は、彼のなきがらを。
どうするつもりだい?」
「そうだな。彼女はどこに?」
「桜の下に埋まっているよ。
食肉になど、させるものか」
「なら、同じところかねぇ」
小山を登り、彼らは歩む。
「爺さん。あんたマメだな……」
「何がかな」
「道。ちゃんと整備してるんだな」
「彼がいつ来てもいいように。
最低限の義理だよ」
「あんた、損する性格って言われねぇ?」
「言われるな。だがそれがどうした。
私は、好きでやっているのだ。
嫌いなことをやるよりは。余程いい」
「……彼女の生の最後が。
あんたの元で良かったと。
きっと社長も思ってるよ」
「心にもないことを言うな。そんな筈がない。
必ず迎えに来ると。彼は私に言った」
しかめっつらの老人を見て。
青年は、少し笑った。
「あんた、社長にちょっと似てるよ」
「そうか? ……そうかもしれんな。
なんといっても、ひどい馬鹿だからな」
「あと、どんぐらいだ?」
「この坂を登れば、彼女の桜だ」
「そうか……きっと綺麗なんだろうな」
「当たり前だ。彼女が埋まっているのだぞ」
「あんたもさ。相当彼女のこと、好きだよな」
「彼には勝てんさ。私は、牧場にいる彼ら。
みなを愛しているからな」
「博愛ってやつかい?」
「偏愛というやつだ。私は人間が嫌いだよ」
「素直じゃねぇジジイだな……お、……!?」
「どうした? ……!」
彼らが、小山の頂上にて見たもの。
「……社長。あんたは願いを果たしたんだな」
「ウララ。お前はずっと、待っていたんだな」
馬の耳を生やした、少女が見守る中。
彼のなきがらに、頬を擦り寄せる。
鹿毛の、ぼろぼろの馬。
一声だけ、満足げに嘶いて。
霞ゆく空へと、消えて行った。
少女はそっと微笑み。
彼らに手を振り、姿を消した。
「爺さん。俺はもう一回だけ、社長を裏切る」
「奇遇だな。私もそう思っていたところだ」
彼らは、決意した。
「やっぱ、あの人が忘れられるのは。許せねぇ」
「馬耳美少女。これは流行るぞ」
そして、彼らは殴り合った。
心が、通じ合わなかったためだ。
滾る情熱と、老練の拳。
二人は桜の下で、ぼこぼこに顔を腫らし。
彼の話題で笑い合い、涙を溢し。
誓いを新たに、盃を交わし。
そして、産まれた二つの作品。
『幸福な王女』と号された、銅像。
『ウマ娘プリティ―ダービー』と号された、アプリゲーム。
後世に愛される、名作となったという。
今も桜の下には。
鹿毛の馬を撫で、微笑む巌のような青年。
彼らの生きた証が、残り続けているという。
くろいくろい太陽に照らされた。
永劫に、続く砂漠。
砂丘は無く、ただただまっすぐに。
地平線だけが、その輪郭を告げていた。
「なるほど。規模がバ鹿でかい。
やっぱりわたしのとは違うね」
「ウララさんの庭園。わりと小さいですもんね」
「多分、一番小さいんじゃないかな。
理由はよく知らんけど」
並び立つ、黒鹿毛を見やり。
ハルウララは、問うこととした。
「フラッシュちゃん、計画通り?」
「ええ。黙っていて申し訳ない」
「あとでボコる。……勝利条件は?」
「お好きなように。
必ず生き残りますから。
……ファル子さんの、愛を取り戻す。
私はそのために、生きてきました」
「純愛?」
「これが純愛でないのならば。
世界に愛など存在しないでしょう」
「ならいいや。協力してあげるよ」
「よろしいのですか?
言えば、断られると。
そう思い、黙っておりましたが」
「バッドエンドに終わる純愛なんて。
作品としては綺麗かもしれんけど。
わたしは、とっても嫌いなんだよ」
「……感謝します。桜色の暴帝よ」
「さて。理由はいい。次は手段だ。
アレ、どうする?」
「ノープランです」
「この役立たずが……!」
彼女たちが、見つめる先。
「Lu La La La, La La Lu La La,
La La, Lu Lu Lu Lu, Lu La Lu La……?」
届かぬ太陽に、片手を伸ばし。
旗を片手に歌い続ける、その姿。
スマートファルコンは、じっと。
こちらを見据えていた。
「増幅機構。活きてるのかな」
「恐らく。見えていないだけかと。
完全展開は、上書きではありますが……
元々有った物を、潰す物ではありません」
「つまり、放っておくと?」
「どうしようもなくなる。
その可能性が濃厚ですね」
「んで、アレは。どういう攻撃を?」
「今から体験できるようですよ……ッ!」
「La La Lu La, La Lu La Lu La,
Lu La La La, La La Lu La La,
La La, Lu Lu Lu Luッ!」
太陽を取り巻く、
ほどけて、こちらに降り注ぐ。
「当たるとヤバそうっ!」
「ダートは苦手なのですがッ……!」
どんどんどん、と。
砂地に突き刺さる、黒炎。
エイシンフラッシュを抱え。
なんとか離脱を果たした、ハルウララは。
ごくりと、唾を飲んだ。
「足元の感触からすると。
ダートコースだね、これ。
と、いうか。覚えがあるぞ。ここ」
「と、いうと?」
「坂が無い、平坦なダートコース。
おまけに、このクッション砂。
間違いない。ここは。
「……詳しいですね?」
「お前ら、芝の選手と違って。
ダートは重賞が少ないからね。
現役時代、よく走ったもんだよッ!」
連続して突き刺さる、黒炎を躱しながら。
ハルウララは、右回りに。
太陽の周りを駆け巡る。
「やっぱりねっ!
右回りだね、この領域ッ!」
「右に回ると、どうなるのですかっ!?」
「完全展開は、ルールも上書き!
ここが大井レース場ならッ!
左回りすると、恐らく速度が落ちるッ!」
「詳しいですねッ!?」
「わたしは怒りっぽいからねッ!」
「今まで、何人潰しました?」
「数えてない。生きてるからセーフ」
「アウトだと思うのですが……」
なんとか避け続けるうちに。
「La Lu La, La Lu La Lu La, La Lu La Lu Lu,
La La, Lu La Lu La, Lu La Lu Lu, La La,
Lu La Lu Lu La, La La Lu Lu?」
こちらに降り注ぐ、黒炎を止め。
首を傾げる、スマートファルコン。
彼女の領域内で、こちらが避け続けられるのが。
恐らく、不思議なのだろう。
「チョン避けは、得意だからね……!」
「いつから、東方に向かったのです?」
「わたしの髪型がなんだって?」
「そちらではありません」
ちょっとした、ジョーダンにより。
空気をリフレッシュ。
シリアスを続けると、被弾からの回復。
これに、時間が掛かるためだ。
安全圏まで下がらせた、彼に向かい叫ぶ。
「トレーナー! あれの弱点はっ!?」
「弱点は、まだわからん。
だが、攻撃の起点は黒い太陽。
アレが、何にしろ核心だろう」
「なるほどね……良かろう。いい分析だ」
「感謝の極み」
美しい礼を魅せる、彼に満足し。
太陽を、堕とす方策を考える。前に。
「ファル子ちゃん! タイムッ!」
「Lu La Lu, La Lu La La, Lu La」
「よし。理性を失っても、お約束は遵守するらしい」
「お笑いソウル、強いですねぇ。さすがはファル子さん」
戦力を、今一度分析する。
あちら、正気を失った猛禽類。
「こっちは……」
安全圏に避難させておいた、他の者どもを見る。
「えぐえぐ……エル……そうだ、嘘NTR煽り……!
今夜もホームランである! そうと決まれば、状況証拠を……!」
碌なことを考えていない、褐色ロリ駄犬。
恐らく、実行した瞬間に。
とんでもない勢いで、お仕置きされること請け合いである。
どうせここで生き残っても、拷問により。
儚く命を失う可能性が高い。
ここは、捨て駒とすべきだろう。
「会長……わたし、要らない子なの……? 会長ぅぅぅ……」
打ちひしがれる、白髪ロリ駄犬。
よほど、猛禽類に見向きもされなかったこと。堪えたのだろう。
やけっぱちになり、突っ込んで無駄死にする可能性が高い。
ここは、捨て駒とすべきだろう。
「おいおい。ジジイには刺激が強すぎるぜ、この展開……」
呆然と、帽子の庇を下げ。
ユキオーを、なでなでしているジジイ。
老い先短い身である。
ここは、捨て駒とすべきだろう。
「ウララさん。何か良からぬことを考えているような……?」
横で、レイピアを構えるゴリラ。
動物園かここは。あまりにも動物が多すぎる。
駄犬が二匹にゴリラが一匹。
メイショウドトウ回ではないのだ。
ここは、捨て駒とすべきだろう。
「ううむ。あの歌。何か法則性があるような……?」
必死に、敵手の動向を解析するトレーナー。
顔よし、声よし、ケツもよし。
おまけに気も利くときた。
気が、多少狂っているのが難点であるが……
生かしておいても、良いだろう。
理解のあるトレピッピ。
もう、逃すわけにはいかぬ。
「よし。捨て駒どもとトレーナー。
作戦を説明するよ」
自信を持って告げる。
ヤバい時こそ。堂々とした態度が必要なのだ。
「ウララさん。あまりにも判断が早い。
これには天狗も呆然です」
捨て駒その一、ゴリラ。
「まずは、あやつにいやらしいことを。
されている写真を、確保せねばならぬ。
ユキオー、自撮り棒は持っているのである?」
捨て駒その二、褐色ロリ駄犬。
「ほい、アフちゃん先輩。うう、会長……」
捨て駒その三、白髪ロリ駄犬。
「こいつの性格、俺の責任じゃねぇよな……?」
捨て駒その四、ジジイ。
「二進法……? いや、違うな……それにしては短い。
いいぞウララ。俺はお前の物だ。好きに使ってくれ」
彼ピッピ。
以上、5名の異常者を。率いて勝負に臨む。
分の悪い賭けだが……嫌いではない。
「いいか。まずアフちゃん」
「わんっ」
元気のよい、お返事を返す駄犬。
どうやら、回復したようで何より。
「飛んで、アレを堕とせ」
太陽に向け、顎をしゃくる。
「ウララ先輩。私、まだはいてないのである」
「だから?」
「だからッ! 飛んだら下から! こやつに見られちゃうし……!」
「俺は貴様のスカートの下になど。寸毫たりとも興味が無い。
調子に乗るなと言ったはずだぞ、アフちゃん」
鼻を鳴らして、見下した視線を向けるトレピッピ。
やはり出来た、男である。
「この男ッ……! これはこれで腹が立つのであるッ……!
もっといやらしい視線を向けてもらわねば!
エルに嫉妬してもらえないのであるッ! もっと欲情してッ!」
「貴様。誰の男に手を出そうとしている……?」
「ゆるして。ころさないで。きゅーん♡きゅーん♡」
腹を見せて、転がるアフちゃん。
そのスカートの下を、じっと見るトレピッピ。
一切の、熱の籠らぬ視線。
恐らく、参考資料としているのだろう。
学術的興味しか、その視線からは感じられぬ。
「しょうがない。トレーナー、なんとかしてやって」
「ふむ。アフちゃん。これを」
「これは?」
スーツのポケットから、包みを取り出し。
駄犬に手渡すトレーナー。
「おむつだ。クリークママから頂いてな。
何かの役に立つかと思い。持ってきてあった」
「おむつ」
「おむつだ」
「つけるの? 私が?」
「つけるのだ。お前が」
しばしの、静寂。
「嫌であるッ! 私、まだにじゅっさいッ!
おむつをつけるには、まだ早いのであるッ!」
「ノーパンよりマシだろうがッ! 贅沢を言うな、駄犬!
クリークママなら、遅すぎるぐらいだと言うぞッ!?」
「あれは気が狂ってるだけであるッ!」
ぎゃあぎゃあと、喚く。躾けのなっていない駄犬。
それを、諭そうとするトレーナー。
ほのぼのと、見守るものとする。
「わたし。会長に履かせてもらっててよかったぁ……」
「俺は、アレを見た時眩暈がしたよ。育て方、どこで間違えたんだろう……」
無い胸を撫でおろす、もう一匹の駄犬と。
悲しみに暮れる、おじいちゃん。
かわいくて完璧な自分とは違い。
変なウマ娘を、担当してしまったためだ。
「いいリアクションは、ファル子さんの興味を引ける可能性がある。
頼みましたよ、アフさん」
計算高さを魅せる、ゴリラ。
「いつも通り、味方が居ないッ! 知ってたッ!
だが、私は、尊厳のためッ! エルへの純愛を貫くためッ!
これを、拒否するのであるッ!」
「ウララ。抑えてくれ」
「よしきた」
「ひぃぃぃぃッ!? HA☆NA☆SE☆ッ!」
「誰に口を聞いてるのかな」
「きゃんきゃんッ♡……ッ!? やめ、やめるのであるッ!
男におむつを履かされるのは嫌ァ! せめてフラッシュ先輩にッ!」
大暴れをする駄犬。だが、無駄だ。
恥ずかし固め合戦。このハルウララ、負けた事がない。
筋力がすごいからだ。
「うむ。ウララとの子のおむつを替える、よい予行練習となる。
さぁて、アフちゃん。おじちゃんが、おむつを替えてあげよう」
「履いてないのであるッ!」
「お前が今から履くんだよッ!」
「ゆ、ユキオー! 助けッ……なんで撮ってるのッ!?」
ウマホを構える、白髪ロリ。
きょとんとした顔で、告げる。
「証拠写真欲しかったンでしょ? アフちゃん先輩。
良かったじゃン。動かぬ証拠だよこれ」
「こんなのエルに見られたら、ガチで殺されるのであるッ!」
「じゃあ……先輩、今度遊び行かン?
いいレストラン見つけたンだぁ。
会長と行く前に、下見しとかないと」
「この流れだと、奢らされる予感しかしないのであるッ!
しかも、お主らは結構上流階級ッ!
私、お給料そんなにもらってないッ!」
「いいじゃン。ばら撒くよ? 不特定多数に」
「早速脅されてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!
じ、ジジイッ! 助けてッ!」
藁にも縋る表情で、よく知らないジジイに頼るアフちゃん。
往生際の悪い駄犬である。
「こいつらは、俺が育てたんじゃない……
俺、フェアリーゴッドファーザー……
気の狂ったシンデレラっていうか。
常識が死ンデレラだろこいつら……」
「現実逃避する気持ちはわかるけどもッ!
生産者責任果たしてジジイッ!」
「記憶にございません」
「ジジイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」
そして、審判の時は来た。
「さぁ。アフちゃん。赤ちゃんになろうなぁ?」
「嫌ッ! 嫌であるッ! 助けてエルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!
アッー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「Lu La La Lu, Lu Lu La Lu La, La La, La Lu」
彼女が最期に叫んだのは。
愛する、ウマの名だった。
合掌。
つづかない