ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

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エロ小説書いてたら、いつの間にかだいぶ間が空いておりました。
申し訳ありません、エロ小説書くのマジで楽しい。

アフちゃんがTSした理由。
ついにお見せ致しましょう。


ファル子さんじゅういっさい そのよんじゅうに 太陽に近づいた男

~前回までのあらすじ~

 

 『スマートファルコン』の想い。

 

 彼の想いを引き継いだ、彼女は偶像を目指し。

 

 気づいたときには、もう手遅れだった。

 

 全ての者に愛される。そのような幻想を抱いた彼女。

 

 知らなかったのだ。誰も教えてくれなかった。

 

 全てを掴むには、一人の手では小さすぎて。

 

 掴みきれない物は、手から零れていく。

 

 愛とは、手を放すと。逃げていくものなのだ。

 

 彼女は、失ってからそれを知り。

 

 そして、砂漠を産み出した。

 

 ユキオーは、砂漠の中で。

 

 幻想の友人(おじさん)の、求めていたものを知る。

 

 安全ではなく。

 

 勝利ではなく。

 

 必要だったものは。

 

 勝つという、生物としての根本原理。

 

 ただ座して、見守っていれば。

 

 得られる勝利に、価値は無く。

 

 その脚で掴まなければならない。

 

 それが生きるということだと。

 

 ウマ娘の価値観を、ようやく理解した彼女。

 

 何のことはない。大事なのは、ただ一つ。

 

 自分の力で、我がままを通すこと。

 

 生きるとは、闘争であったのだ。

 

 旗持つ彼女に、反旗を翻し。

 

 勝ち取ることを、決めた彼女。

 

 その想いは、愛するウマの虚飾を剝ぎ取った。

 

 歌えなくなった歌姫。

 

 全てを掴もうと、努力して。

 

 大事なものだけ、失った彼女。

 

 黒い太陽に照らされた黒鹿毛。

 

 黒い影は、彼女の目には映らない。

 

 愛してるから、見てはならない。

 

 愛してるから、たどり着けない。

 

 袋小路に迷い込んだ想い。

 

 想いは臨界点を迎え、偽りの太陽は。

 

 真なる太陽へと堕ちる。

 

 このままどこまでも堕ちてゆき。

 

 誰にも、見つけられなくなる場所へ。

 

 深海少女は、沈めたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 君に会うために、産まれてきた。

 

 君を幸せにするために、また生を受けたというのに。

 

 くろいくろい、どろどろとした膿みの中。

 

 後悔だけが、リフレインする。

 

 

 

 「……ウララ……!」

 

 トレーナーは、立ち上がろうと藻掻いた。

 

 あの衝撃、脆弱なヒト息子がまだ生きているのは奇跡。

 

 そう思った彼は。ぬるりとした感触に。

 

 奇跡など、存在しないのだと知った。

 

 

 

 「ああ。あああ。あああああ……!」

 

 (ノワール)に混じる(ルージュ)

 

 割れた、彼女の蹄。

 

 間に合わなかった再開。

 

 フラッシュバックしていく、存在しない記憶。

 

 ただただ、彼は泣き叫んだ。

 

 また、彼女に背負わせて。

 

 剥落していった、尊いもの。

 

 金銀ダイヤ、エメラルド。

 

 己の罪の重さに、堪え切れなかった。

 

 もう、ツバメは堕ちた筈なのに。

 

 

 

 「……潮時であるな」

 

 「アフちゃん、先輩……?」

 

 「ユキオー、ウララ先輩の処置を」

 

 「どうにもならないでしょ、あれ……」

 

 『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』

 

 偉大なる先達に守られて。

 

 無事だった彼女たちが、見る先。

 

 蟻地獄のように、砂を吸い込む空洞の中心。

 

 黒く塗り潰された、砂の巨人。

 

 愛を見失って、泣き叫ぶ彼女を見て。

 

 トネガワユキオーは、諦めを知った。

 

 

 

 「仕方ない。私が処置するのである」

 

 「……もう、戦えないでしょ。ハルウララ」

 

 「命は繋げる。それだけで十分である」

 

 びりりと、引き裂いた白いもの。

 

 赤ん坊からの、三度目の卒業。

 

 衛生的にも、まぁセーフだろう。

 

 叩きつけられた感情を、真正面から受け止めて。

 

 傷つき倒れたハルウララに、優しく巻き付けていく。

 

 

 

 「応急処置など、久しぶりであるが。まだ覚えているものであるな」

 

 「アフちゃん先輩。紛争地帯にでもいたの?」

 

 「ああ。生涯が戦いだったのである」

 

 「……?」

 

 アフガンコウクウショーは、想起する。

 

 アブドゥルの記憶。

 

 別れを告げたと思ったが……

 

 どうやら、それも含めての今生らしい。

 

 こちらを見やる後輩に、そっと笑いかけ問うてみる。

 

 

 

 「ユキオー。おじさんとやらの話が聞きたいのである」

 

 「……笑わない?」

 

 「笑わないとも。私が考えている通りであれば。

 きっと、私たちが出会ったことにも。意味があるのである」

 

 ぽつりぽつりと、語られる。

 

 彼の闘争の記憶。

 

 届かぬものに手を伸ばそうとして。

 

 ついには、地へと堕ちた彼の記憶。

 

 

 

 「……やはり、似ているのである」

 

 「先輩……?」

 

 「処置は終わりである。完全展開も、永遠には続かないはず。

 時間を稼ぐ。2人を頼むのである」

 

 「時間なんて。下降気流でも吹き付けるの?」

 

 「いや。完全展開の領域内では、他の領域はだいぶ力が落ちるらしい。

 ウマ生とは、新発見の連続であるな」

 

 「駄目じゃン。どうやって時間稼ぎなンてする気なの?」

 

 「完全展開を使う。同位階の領域なら恐らく、多少は通じるであろう」

 

 こきこきと、首を鳴らし。

 

 目を白黒とさせる、後輩に笑いかける。

 

 

 

 「……なんで今まで使わなかったのさ」

 

 「無論、制御ができないからである」

 

 「制御できない力で、時間稼げるの?」

 

 「ああ、間違いなく稼げるはずである」

 

 「先輩って、ほンと謎だよね。やたらジジくさいし。

 急に、やる気出すし。わたし、訳わかンない」

 

 「何、お前のおじさんと似たようなものである」

 

 不思議そうな顔で、見上げてくる彼女に。

 

 種明かしをしてやることにする。

 

 

 

 「ユキオー。お前の友達。恐らく、実在していた人物である」

 

 「……なンでわかるのさ。おじいちゃんたちも、早く卒業しろって」

 

 「それはな。私の中にも、おじさんが居たからである」

 

 「アフちゃん先輩。まさか」

 

 「ユキオー。これを」

 

 「……ねえ。何する気なの」

 

 「バ鹿なことである」

 

 ホワイトブリムを、外して渡す。

 

 自分が、生きた証を。

 

 

 

 「先輩ッ!? やめてよ、まるで!」

 

 この場に集った、三つのヒトソウル。

 

 最も、馬鹿で。

 

 最も、尊いと女神が感じた。

 

 愚かなる、人の魂。

 

 

 

 「ツバメ」は、敗北しか味あわず。

 生涯をただ一匹の馬に捧げ。

 全ての記憶を失った。

 

 「利根川幸雄」は、二番手の栄光を掴むため。

 勝利だけを追い求め。

 勝って負けて、また勝って。

 最期の勝負で、奴隷に刺されて失意のうちに。

 その記憶を、彼女の内に残した。

 

 

 そして。

 

 

 

 「届かぬ物に手を伸ばそう。愚か者こそ世界を変える」

 

 「やめて! 置いていかないで! 先輩!」

 

 「さぁ。世界の果てを見よう。開け。彼が夢見た世界」

 

 『アブドゥル』の、人生は。

 

 航空力士の横綱として、勝利に彩られていた。

 

 そして、彼はその勝利の最期に。

 

 とても愚かな夢を見て。

 

 そのせいでただの一度、敗北した。

 

 彼は、彼女と同化した。

 

 

 

 シンボリルドルフは、前世の記憶を多く引き継いでいる。

 

 そのために、百駿多幸の夢を見た。

 

 この世界のルールでは、前世における勝利者が。

 

 多くの物を、ソウルに託せる。

 

 ハルウララは割れた魂、その片割れしか。

 

 引き継ぐことは、出来なかった。

 

 彼女のソウルに残っていたのは。

 

 人の温もりと、声援の味。

 

 勝たなければいけないということ。

 

 自分は、ここに生きていると。

 

 最期に逢えなかった■に。

 

 伝えなければいけないということ。

 

 

 

 「アフターバーナー、完全展開」

 

 全てを引き継いだ、アフガンコウクウショー。

 

 今から再現する夢は。

 

 彼しか知らぬ、神の火。

 

 知ってはならない禁断の炎。

 

 雲竜型と対を成す、横綱のみに許された型。

 

 ふわふわと、浮かび上がる痩身と記憶。

 

 

 

 

 

 

 『見たい。果てを』

 

 横綱にしか許されぬ、土俵入りの作法。

 

 それを、許された時には。

 

 彼は老境に達していた。

 

 横綱の土俵入り。

 

 雲竜型は、極め尽くし。

 

 残る型は、もうひとつ。

 

 使ってはならぬと、口伝のみで伝わる奥義。

 

 彼は、空へ空へと昇っていった。

 

 

 

 『対流圏などなんのその。成層圏もまだ低い』

 

 雲竜は、自らを育んだ雲海を抜け。

 

 その上へと昇っていく。

 

 手元の計器に目をやると。既に高度は地表より。

 

 50kmに近い位置。

 

 もうすぐ辿り着ける。前人未到の世界へと。

 

 中間圏界面は、-92.5度。

 

 通常の、航空力士では耐えられぬ。

 

 だが、横綱ならば話は違う。

 

 

 

 『気流よ、我が身を纏え』

 

 横綱の命に従い。

 

 アブドゥルの身を優しく包む、大気の鎧。

 

 極めた航空力士なら。気流の全てを支配下に。

 

 上昇気流は、中間圏に空気を流入させていき。

 

 彼の花道を確保した。

 

 

 

 

 

 「懐かしい。あの時も、私は太陽へと昇っていった」

 

 ふよふよと、黒い太陽を捧げ持つ怪物へと。

 

 気流を纏った彼女は、ゆっくりと近づいていった。

 

 べしゃべしゃと汚泥のように纏わりつく、悲鳴のような愛の絶叫。

 

 愛して欲しい。愛してはいけない。

 

 傍に居て欲しい。あなたに近づいてはいけない。

 

 あなたを忘れたくない。何もかも忘れたい。

 

 ただただ矛盾した絶叫を、放ち続ける彼女の悲鳴も身に纒いながら。

 

 アフガンコウクウショーは、笑った。

 

 

 

 「すまぬ、万全な状態で負けたことはないのだ。負け犬の気持ちはわからん」

 

 ぼう、と中天に浮かび上がる太陽。

 

 歪みゆく景色。

 

 展開が始まった。

 

 もはや、止めることはできぬ。

 

 上昇気流が空へと、自分と汚泥の怪物を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 『オケアノスは遥か下。人の夢は、今私が結実する……!』

 

 科学が発展した時代。

 

 アブドゥルは知識として知っていた。

 

 熱圏は、太陽に程近く。

 

 昇れば昇るほど、温度は高くなり。

 

 最高では、2000度に達するが。

 

 熱くはないということを。

 

 

 

 『さぁ、私は最も生身にて! 太陽に近づいた男となる……!』

 

 だが、彼は知らなかった。

 

 熱圏が、熱くない理由。

 

 空気が無いから、気温が無い。

 

 彼の身に纏う上昇気流は、彼を確かに守っていた。

 

 熱圏の、上層に達するまでは。

 

 

 

 『……ッ!?』

 

 彼は夢を叶えた瞬間、堕ちた。

 

 堕ちても命は拾えたが、無理を推して出勤した空港にて。

 

 ニホンの暗黒力士に勝つための力は、残されていなかった。

 

 薄れゆく意識の中で、彼が最期に見たもの。

 

 涙ながらに縋りつく、妻子の顔。

 

 

 

 「ユキオー。お前、似ているのである。

 馬鹿な男に似た、空を目指すと言った我が娘(ライカ)に」

 

 彼女が戦うと決めた理由。

 

 彼は、記憶を残してしまった。

 

 愛する家族。彼を優しく迎えてくれた妻。

 

 宇宙飛行士を目指すと、父とは違う道で空を目指すと。

 

 朗らかに笑った、賢い娘。

 

 ユキオーは似ていた。それだけで。

 

 彼女はまた、愚かになると決めた。

 

 

 

 「愚かな男の夢を見よ。見果てぬ夢の果て。燃え尽きよ、我が翼。」

 

 『Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?』

 

 かっ、と闇の砂漠を照らす太陽。

 

 怪物が、光を感じて絶叫を挙げる。

 

 ばたばたと、汚泥を垂れ流しながら。

 

 掲げ持った、黒い太陽に身を隠そうとする。

 

 偽りの太陽は、真なる太陽に勝てない。

 

 上昇気流は容赦なく。2人の身を空へと運ぶ。

 

 

 

 「泥だらけであるな。メイドの誇りが台無しである」

 

 暴れ狂う怪物。なんとか逃れようと、全方位に泥をばらまく。

 

 だが、無駄だ。完全展開は、夢を再現する。

 

 頭上には、大きな大きな太陽。

 

 どこまでも続く、蒼い空。

 

 ここは、()()()()()()()の世界。

 

 外気圏のすぐ下。

 

 熱圏の中でも、最も太陽に近い場所。

 

 その温度は、摂氏2000度に達する。

 

 熱は感じない。空気の濃度が薄いからだ。

 

 だが、航空力士が操る上昇気流を構成するのは。

 

 地上から噴きあがる、密度の高い空気。

 

 

 

 「愚かな男を知っているか? 彼は蠟の翼を用いて、空を目指したらしい」

 

 じゅうじゅうと、汚泥が焦げる音。

 

 流入した空気が、太陽熱で熱せられる。

 

 気温はどんどんと上がっていき。

 

 灼熱の地獄に包まれて、彼女は笑った。

 

 この領域は、制御できない。

 

 ただただ、己と相手を焼き尽くすだけ。

 

 

 

 「太陽に近づこうとした不遜な者は、こうなるのだよ。

 理解して、共に焼き尽くされろ。『不知火型(イカロス)』」

 

 アフガンコウクウショー。

 

 彼女が、ポンコツクソかわTS異世界転生褐色合法ロリメイド系オリジナルウマ娘力士(精神年齢還暦越え妻子持ち)(早口)である理由。

 

 女神が、彼を彼女にした理由。

 

 なんのことはない。

 

 サブカルチャーに毒された女神は、ツバメの次に見つけた彼の魂。

 

 3つのヒトソウルの中で、最も男らしい(勝者たる)彼を、その記憶を残したまま転生させたのだ。

 

 

 

 「ああ、エル。許しておくれ。私はやはり、アブドゥルだった。でも、もし願いが叶うなら」

 

 泣いている子は見捨てられない。いわんや、実の娘に似ている彼女。

 

 父親として、男として。どうしても、黙っているわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 「もう一度、君に逢いたい」

 

 そして、陽炎の中に彼女は消えた。

 

 TS雌堕ちとは、男の中の男にしかできない、最も男らしい行為である。

 

 

 

 

 

 つづかない


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