ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

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思ったより温度差が激しくなりました。
うーん、どうしてこうなった。


ファル子さんじゅういっさい そのよんじゅうよん 彼と彼女の理由

~前回までのあらすじ~

 

 空に消えた、褐色の君。

 

 ユキオーは、呆と一人呟く。

 

 何も、解決していない。

 

 何も、成果を得ていない。

 

 リターンが勝利ではない、愚かな戦い。

 

 アフガンコウクウショーの自爆。

 

 死へと向かう飛翔は、少しばかりの時間を稼ぎ。

 

 たった一人の心に、消えない蹄跡を残した。

 

 それは、受け継がれる焔。

 

 ウマ娘が走った後には、蹄鉄の傷が刻まれて。

 

 それが連なり、道が出来てきた。

 

 ユキオーは想いを継いで、決意した。

 

 走る意味など知らない。走ったことが無いから。

 

 だから自分は立ち止まろう。

 

 誰も彼をも巻き込んで。

 

 尊い飛翔は、自分だけの独り占め。

 

 彼女の蹄跡は、ここで途絶えさせる。

 

 ウマ娘は、わがままな生き物なのだから。

 

 指差し告げるはおじさんの記憶。

 

 目覚めの重圧。彼が蹴落とした記憶。

 

 皇帝奴隷と市民の姿。彼が堕ちる寸前の記憶。

 

 最後に掴み取ったのは、ウマ娘として誤った記憶。

 

 勝つためではなく、謝罪するための力。

 

 燃え盛る鉄板は、覚悟と決意を示すため。

 

 自分自身を贄として、全ての愚者を焼き尽くす。

 

 炎熱に喘ぎながらの謝罪は、責任者の虚飾を燃やし。

 

 ユキオーは、本質を見出だした。

 

 ぼとりぼとりと堕ちる愚者。

 

 心を灼かれ、苦鳴を溢す。

 

 肉体燃やさぬ、浄滅の焔。

 

 領域で、罪を自覚させることは出来る。

 

 だが、いつだってウマ娘は。

 

 己が肉体で結果を出してきた。

 

 謝罪で見つけた、大きな希望。

 

 彼女はトレーナーに叫ぶ。

 

 まだ終わってはいないと。

 

 トレーナーは、愛しい彼女を抱えて嘆く。

 

 失った者は、戻らないと。 

 

 それが大きな勘違い。

 

 ひゅるると堕ちた、褐色の君。

 

 太陽だろうと、焔で灼けるのは精神のみ。

 

 脚で語らぬ者は、犠牲にすらなれない。

 

 ユキオーの、再度の問い。

 

 始まりを告げるシグナル。

 

 お姫様を起こすのは、いつだって王子様のキスで。

 

 彼はそっとくちづけを落とし、思い切り顔面を強打した。

 

 高血圧過ぎると、寝起きもヤバい。

 

 ハルウララ、復活である。

 

 

 

 

 

 

 堕ちていく。堕ちていく。記憶の中へ。

 

 ちょっとした行き違いから、思う存分催眠に堕とした彼女。

 

 ポジションを奪われたと勘違いし、マ魔王にスライディング土下座をカマす彼女。

 

 スマートファルコンの歌を聴きながら、やれやれと肩を竦める彼女。

 

 なにかを間違えた、ビデオレターに映る彼女。

 

 桜舞う日に出会った彼女。

 

 鮮明なのは、そこまで。

 

 無味乾燥な、彼女と出会うまでの日々。

 

 桜色に染まらぬ世界は、色彩を失っていた。

 

 九夢院。トレーナーの名家。

 

 ウマ娘の肉体賦活……マッサージを得手として。

 

 彼女たちを、勝利へと導いてきた家。

 

 その嫡男として産まれた、笑顔を知らない少年。

 

 運命と出会うまで、機械のように従順に。

 

 家を継ぐため、トレーナーを目指していた日々。

 

 物心ついた後、流した涙はただ一度。

 

 満開の桜の下で、その美しさに忘我した。

 

 一瞬だけ色づいた記憶は、すぐに視界の後ろへ消え。

 

 ここからは、彼の知らない記憶。

 

 ゆりかごの中の彼に笑いかける、美しいウマ娘。

 

 写真だけで見た、今は亡き母。

 

 そして視界は闇へと染まり。

 

 

 

 『願わない。桜の下で、ハルウララ。彼女を想い、灰となり死ぬ』

 

 

 

 燃え尽きたツバメは、飛翔する。

 

 大切な、彼女の欠片をその胸に抱き。

 

 最期の役割を果たすため。

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅむ……ユキちゃん。今北産業」

 

 「ウララママ気絶。

 褐色ロリ自爆特攻。

 わたしとバ鹿ども焼き土下座」 

 

 「なるほど、わからん」

 

 ハルウララは、状況の把握に苦慮していた。

 

 椅子のクッション性はいいが、何故か気絶しているようだ。

 

 ケツを揉んで、その感触を楽しむぐらいにしか使えぬ。

 

 起きるまで、闘争のやる気など出ない。

 

 自分の戦いは、声援の中でなければならぬ。

 

 

 

 「ところでその鉄板、熱くないの?」

 

 「とっても熱い。ねぇ許すって言って?」

 

 「でも、焦げてはいないようだけど?」

 

 「ねぇウララママ。かわいい娘のおねだりだよ?」

 

 『Luaaaaaaaaaaaa!!!』

 

 「「「アッツゥイッ!!!」」」

 

 かわいい娘のおねだり。

 

 だが、肉体的なダメージは無いようだ。

 

 バ鹿どもともう一人の娘も、元気に悲鳴を上げているようであるし。

 

 ここは、様子を見るべきだろう。

 

 

 

 「ユキちゃん。ウマ娘なら、それぐらい耐えれるでしょ」

 

 「ウララママ、実はわたしのこと嫌い?」

 

 「愛してるよ。でもわたし、躾も重要だと思うんだぁ。

 わたしも子供の頃は、よくママにケツをシバかれたもんだよ」

 

 「クソが」

 

 うむ、悪態をつく元気がある。

 

 幼少期の自分と同じ。

 

 ならば、まだまだ余裕と言うことだろう。

 

 躾は、泣き叫ぶ気力が無くなってからが本番。

 

 ママも、そう言いながら自分をシバいていた。

 

 

 

 「完全展開出来たんだね、おめでとうユキちゃん。

 あとでお赤飯を炊いてあげよう。早いとこ解除したら?」

 

 「だからッ! 自分じゃ解除できないから、ウララママに頼ンでるンだってッ!!」

 

 「わたし、他のウマの完全展開の強制解除なんて出来ないよ?

 さすがに娘の心を圧し折るわけにもいかないし……キングちゃんが居ればなぁ」

 

 「キングヘイローは出来るのッ!?」

 

 「そりゃそうだよ。わたしもそれで助かったし」

 

 昔のことを思い出す。

 

 G1の冠を、初めて戴いた日。

 

 万雷の喝采を浴びながら自分は、何かを探していた。

 

  

 

 

 

 

 

 『……いない。……誰が?』

 

 ウマソウルが叫ぶのだ。

 

 きっと■は、自分を見つけてくれる。

 

 

 

 『『ハルウララ』。誰を探しているの?』

 

 勝者の問いは虚しく響いた。

 

 『ハルウララ』は、答えを持っていなかった。

 

 それが何かを知らなかった。

 

 でも、それを求めていた。

 

 

 

 『……ッ!? 領域がッ!?』

 

 だから、最も目立つ手段を使った。

 

 ■が、自分を見つけてくれるように。

 

 ウィナーズサークルに広がる、最期に見た景色。

 

 満開のそれは、必ず■の目に止まると信じて。

 

 

 

 『あ、ああああああああああああああああッ!?』

 

 『ウララッ!?』

 

 『ウララさんッ!?』

 

 突如として開かれる、桜の庭園。

 

 砂を踏みしめ、駆け寄る二人。

 

 彼らに必死に手を伸ばし、ぎしぎしと軋む手は宙を掻いた。

 

 

 

 『勝てばッ! 幸せになれるんじゃないのッ!?

 わたしは、見つけられるんじゃないのっ!?』

 

 重なる問いにも答えは無く。

 

 『ハルウララ』は、ただ桜の下で宙を見据えていた。

 

 闘争心しか、持ってこなかった彼女は。

 

 自分の求めているものが何かすら、失ってしまっていたから。

 

 

 

 『トレーナーッ! アレはッ!?』

 

 『恐らく完全展開だが、わからんッ! 今開く必要が無いッ!』

 

 『ウマソウルの暴走ッ!?』

 

 『暴走する理由が無いッ! 『ハルウララ』の無念はッ!

 部分展開の幻影は、勝利だけを求めていたはずだッ!

 まさか芝のG1で勝利せよとでもッ!? あまりにそれは酷すぎるッ!』

 

 万雷の喝采。得たことの無い勝利の味。

 

 それだけが『彼女』を癒す筈だった。

 

 だからハルウララは、幼き頃から闘争心に満ちていた。

 

 勝利を以てウマソウルを満足させ。

 

 そこから、歩き出すために。

 

 自分だけの、幸せを探すために。

 

 

 

 『催眠術はッ!?』

 

 『やってはみるが……そもそもウララには相性が悪いッ!

 全身の筋肉が常に緊張状態だッ! 常在戦場にも程があるッ!』

 

 制御できない完全展開は、自身の保護ではなく。

 

 ただただ、一つの指向性を示していた。

 

 さらに勝利を得るための強化。

 

 もっと勝たなければいけない。勝つ。勝つ。勝つ。

 

 勝って勝って勝って勝って勝って。

 

 最期に迎えに来てくれなかった■に、自分がここに居ると。

 

 伝えなければ、この世界に産まれなおした意味が無い。

 

 『ハルウララ』は、高らかに嘶いた。

 

 癒えぬ渇きは、桜を軋ませて。

 

 じゃりりと鳴る砂は、庭園の崩壊を暗示していた。

 

 

 

 『眠れ、ウララッ! ……クソっ! 止まらんッ!』

 

 『トレーナーッ! このままじゃウララさんがっ!』

 

 ハルウララの髪色は、鹿毛の色に染まりきり。

 

 そして、その色すらも失っていく。

 

 鹿毛は、葦毛へと近づき。

 

 目を見開くハルウララの瞳は、何者をも映さず。

 

 ぎしぎしと軋む身体は、崩壊へと歩き出していた。

 

 

 

 『ウララさん、必ず助けるわ。キングは嘘をつかないのよ?』

 

 『キング、ちゃん……』

 

 そして、ハルウララの記憶に残っているのはそこまで。

 

 最後に見たのは、キングヘイローの。

 

 覚悟を決めた、悲しい笑顔。

 

 

 

 

 

 

 「キングちゃんが、わたしを助けてくれた。

 ポンコツだけど、頼りになる天使ちゃんだよ」

 

 「キングヘイロー、すごいンだねぇ。

 それよりウララママ。早く許して? 

 わたし、超熱いンだけど」

 

 「んー。ファル子ちゃんの泥、いい感じで焼けてるし。

 もうちょい待ってからでいいかなぁ。ファイト、ユキちゃん」

 

 「このママ、鬼畜すぎる……!」

 

 「ウララさんは、生きていればオッケーと思っている節があります……!」

 

 エイシンフラッシュの言う通り。

 

 ハルウララは、命は決して奪わない。

 

 それが敵対する者であっても。

 

 それが例え、愛する子であろうとも。

 

 生きていれば、問題ないと思っている。

 

 どんなに痛くとも、苦しくとも。

 

 生きてさえいれば、また走り出せるのだから。

 

 

 

 「当然でしょ? 生きてりゃオッケー。

 取返しが付かなくなることなんて、めったに無いよ」

 

 「ウララは修羅場を潜りすぎてるッ……!

 やっぱりオレの責任じゃねぇなッ!」

 

 「見苦しいよ、六おじいちゃんッ! 誠心誠意焼け焦げろッ!」

 

 「オレのとこだけ火力上がるのッ!?」

 

 自分が、彼女に救われて。

 

 また、走り出して彼と出会えたように。

 

 ハルウララは、わくわくと鉄板焼きを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてここからは。

 

 ハルウララの知らない、残酷な真実の物語。

 

 もう取返しの付かない、悲しき愛の物語。

 

 

 

 『……トレーナー、私の完全展開を使うわ』

 

 『キング。お前のアレは……』

 

 『ええ。発動には、代償が必要よ』

 

 キングヘイローは、そっと彼に笑いかけた。

 

 自分の完全展開なら、彼女を助けられる。

 

 そう、確信していたから。

 

 例え、それで自分が犠牲になったとしても。

 

 

 

 『ねぇトレーナー。私、ウララさんのためなら。何でもするわ』

 

 『キング、それはトレーナーの仕事だ。我が王に、臣下が願い奉るッ!』

 

 だが、彼女の覚悟は無為に帰した。

 

 間違えた男。黒鹿毛と栗毛のトレーナーよりも。

 

 即断即決、果断なる男。

 

 その結果が、導く物を知っていながら。

 

 一切の躊躇を、不要と断じて。

 

 間違えなかった男は、そっとハルウララの頭を撫でた。

 

 

 

 『待ってトレーナーッ! 何を捧げる気ッ!? 私が、自分を……ッ!』

 

 『知れたこと。オレの持っている物で、最も重い物だよ。

 そうでなくば、止めることなど叶うまい。

 ……王が自身を捧げては、効果が正しく発揮されないだろう?』

 

 『……ッ!』

 

 王は、臣下の言葉を正しいと思ってしまった。

 

 無理やり思いこんだ確信が、揺らいでしまう。

 

 キングヘイローの完全展開は、スマートファルコンの物に似る。

 

 『スマートファルコン』が奪って強化するのに対し。

 

 『キングヘイロー』は、捧げられて強化する。

 

 どちらも、代償を必要とする領域であるが。

 

 違いは、いくつかある。

 

 

 

 『で、でも! 卒業したら、伝えるんでしょう!?』

 

 『ああ。……いいんだ、キング。オレはウララが笑っているのが好きだ。

 彼女の全てが好きだ。だから、彼女のために捧げよう』

 

 『……ッ! 赦さないッ! 絶対に赦さないわッ! 私はそれを受け取らないッ!』

 

 『君は、拒否できない。王とは、そういうものだから』

 

 『いや……! 嫌よ……! やめて! やりたくないッ!』

 

 奪った物は、自分を強化することにしか使えない。

 

 捧げられた物は、他者を強化することにも使える。

 

 奪うことは、能動的な行動だ。

 

 捧げられることは、受動的な行動である。

 

 そうでなくては、その効果を正しく発揮できない。

 

 そのため、エイシンフラッシュは自身を捧げられず。

 

 キングヘイローは、捧げられる物を拒めなかった。

 

 

 

 『キング。我が王よ。我が儘を言わないでおくれ。

 オレは、彼女を失えば生涯後悔する。

 ……ウララを頼んだ。君にしか頼めない』

 

 『ずるい。一流のする顔じゃないわ、そんなの。

 そんな未練がましい顔して、笑わないで。

 あなたって、本当に最低よ……』

 

 最大の違いは、その不可逆性。

 

 捧げられた物は、奪った物と違い。

 

 持ち主の元には、二度と帰らない。

 

 略奪された物は、帰ってくる可能性があるが。

 

 王に捧げるとは、そういうものだから。

 

 

 

 『受け取ってくれ。オレが持つ最も重い物。

 彼女が、これからも走り続けるために。

 ……新しい恋を、見つけられるように』

 

 『……我が臣下よ。汝の心からの願い。

 その捧げる想いを以て、この王が叶えましょう。

 ……さぁ、あなたは何を捧げ、何を望むの?』

 

 『ありがとう、キング。……ウララ』

 

 トレーナーは、晴れやかに笑った。

 

 ぐしゃぐしゃに歪んだ顔で、ポケットの小箱を握り潰し。

 

 

 

 『愛してるよ、心の底から。だから……

 王よ、我が愛を捧げよう。ウララを、助けてくれ』

 

 『……完全展開。『絶対王権(キングス・オーダー)』』

 

 王権の錫は彼の肩を叩いて、虚しく音を響かせて。

 

 広がった王城は、庭園を優しく押し潰し。

 

 ぼろぼろの馬は、桜の下に埋められた。

 

 

 

 『あ……』

 

 その力は、彼女の生きるための力を強化して。 

 

 ハルウララは、また走り出す力を得た。

 

 気を失った二人の男女。

 

 キングヘイローは、そっとつぶやいた。

 

 

 

 『愛してるわ、ウララさん。世界で一番、愛してる。

 ……だって、二人分だもの。そうじゃなくっちゃ、おかしいじゃない……』

 

 これは、ハルウララが知ってはいけない物語。

 

 終わった恋の物語。始まった、狂気の愛の物語。

 

 真実は、永遠に秘されたまま。

 

 夫妻は、黙して決して語らない。

 

 彼が彼女を、愛さない理由。

 

 彼女が彼女を、愛する理由。

 

 この世界は、きっと無限の愛に満ちていた。

 

 

 

 

 

 つづかない

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