まぁこういう作品ですので、諦めてください。
~前回までのあらすじ~
トレーナーの、お姫様起床チャレンジ失敗。
堕ちてゆくは、記憶の中。
桜過ぎれば灰色が。
最深部すら突き抜けて。
記憶の海は、その底を見せない。
彼が堕ちるのに変わり、一羽の鳥が羽ばたいた。
ツバメはまた飛翔する。
最期の役割を果たすため。
抱えるは、鉛の心臓の片割れ。
彼女が持っていけなかったもの。
ところ変わりて現実世界。
彼女はううんと唸り聞く。
掲示板の作法に則り、土下座ロリに状況を問う。
だいたいわからん三行に、
わからなくても、どうにかなる。
トレピッピを椅子代わりに、焼き土下座の鑑賞会。
怪物じみた猛禽類に、愛しい娘が2匹とその他。
じゅうじゅうと焼き焦げるそれに、ほっこりと頬を緩める。
ママの愛を思い出す。ヤツもやたらと鬼畜だった。
我が家は相当スパルタであり、娘たる自分。
尊敬する母に倣い、躾の機会は見逃すべきではない。
実際肉体は灼けてないようだしセーフ。
バ鹿に目にもの見せるにも、とっても有効。
孝行娘な白髪ロリに、にこやかにエールを送る。
助けを求められるも自分に、完全展開を解くすべはない。
殴り倒して気絶させれば不可能ではないが、さすがに娘はドつけない。
想起するは、キングヘイロー。
彼女が起こしたその奇跡。
自分が初めて完全展開をした日。
ポンコツ天使が自分を助けた時のこと。
あまり、細部は覚えていないが。
確かに彼女に助けられた。
虫食いだらけのストーリー。
気絶していた彼女は知らない。
指輪の砕ける音とともに、一つの恋が終わりを告げ。
一つの狂愛が、産声を上げたことを。
彼女は愛に包まれていた。
その愛のカタチが、例え捻じ曲がり歪んでいたとしても。
硝子のように、溶け崩れて歪んだ愛。
それはとても、美しく無惨な姿を世界に晒していた。
『Luaaaaaaaaaaaaaaaaaa……』
「ははっ。ファル子ちゃん、かわいい顔を見せておくれ。
そろそろお前の泣き顔が見たい」
「ウララママって、ほンッ……と。ドSだよね」
「Mならレースに勝ててないだろ。ウマ娘が受け身で許されるのは、ベッドの上ぐらいだよ多分」
「うわぁ、下ネタまで……アフちゃん先輩、わたしたち母親を選び間違えたね」
「通常、親も子も互いを選べぬのである……あっちゅい」
ぐったりとした、褐色ロリ。
だいぶ反省したのであろう。
彼女の下の鉄板は、赤みをだいぶ失っていた。
「六おじいちゃんと、黒鹿毛は反省した?」
「オレ、絶対悪くないよなぁ……」
「私は愛のために生きています。省みる暇などありません」
「うーん、このクソども」
煌々と光を放つ鉄板の上。
アホなウマ娘たちを育てたトレーナーと、諸悪の元凶は。
じゅうじゅうと精神を灼かれながらも、己の罪に無自覚だった。
『Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……』
「会長……あなたの、ほンとの声が聴きたいよ」
そして、ユキオーが最後に目を移す先。
じゅうじゅうと溶け堕ちる泥。
少しずつ、小さくなりゆく怪物。
その歌は、濁ったヘドロのようで。
歌姫など、とても名乗れぬ艶姿。
スマートファルコンは、未だその正気を取り戻さずにいた。
「そンでウララママは……oh」
「うーん。いい音色だ。おなかに響く音。結婚式が待ち遠しいね」
パァン! パァン! とパパのケツが鳴り響き。
彼女はドラムソロに興じていた。
一心不乱のその手さばきは、ユキオーの思惑などどこ吹く風。
その精神性に、ユキオーは驚嘆の声を挙げた。
『どこ吹く風』。ハルウララを象徴するレアスキル。
彼女と共にトレーニングに励んだ者のみが、その片鱗を学ぶことが出来る。
それは、100を超える戦いにおいて『ハルウララ』が獲得した精神性の表出。
レースにおいては、中盤において囲まれた場合持久力を回復させ。
闘争の場においては、あらゆる精神的影響を無効化するスキルである。
彼女はキレる時は、身勝手にキレる。
何者も闘争に励む彼女に対し、負の精神的影響を与えることはできない。
このバ場においても、そのスキルは普段通り機能していた。
「さてユキちゃん、そろそろだよ」
「へ? そろそろって?」
そんな彼女が、ぐりんとこちらを向いた際。
ユキオーは、わりとガチビビりした。
いつでも彼女は唐突すぎて、自分の理解を超える。
思っていると、ちっちゃなおててで指差すは。
泥に包まれた、愛しいウマ。
「それ、たぶん繭だよ。あのままじゃ勝てないって思ったんだろうね。
まったく、何回お色直しするつもりだそいつ。披露宴じゃないんだから」
「繭? 会長は蛾だった……?」
「蝶と表現しないところが、育て方を間違えたところだよなぁ」
「うるさいよジジイ」
「アッツゥイッ!!!」
余計な茶々を入れるジジイを、香ばしく焼き上げる。
わりと制御に慣れてきた。
理不尽な八つ当たりは、ウマ娘の得意分野。
成長しつつある彼女は、少しずつ世界の真理を悟ってきた。
他人に遠慮するヤツは、損をするのがこの世界である。
勝手にきままにわがままに、己の心の赴くままに。
ただ、精一杯生きる。
それが、この世界の理。
それが、三女神の望み。
ウマがウマらしく生きられる世界。
誰もが幸せになれる世界。
競争の勝敗には厳しいが、勝利の形は一つではない。
心から、笑えた者が勝者ならば。
この世界は、きっと勝利に満ち溢れていた。
「…………………」
「乾いたね、そろそろだ。ユキちゃん、解いて」
「だからッ! ウララママに許して貰わないと! 解けないって言ってンじゃン!!!」
「でもわたし、心の底から誰かを許したこと無いよ?」
「ウララママは、根に持つタイプであるからなぁ」
「ウララはマジで、なんでこうなったんだろうな……」
泥が渇き、ぴしりぴしりと亀裂が入る。
娘に解除を打診するも、彼女の意思では出来ないらしい。
まぁ完全展開は、勝手に開くこともままある。
そういうものかと納得し、ハルウララは言葉を続けた。
「まぁ、相手に土下座させたままでも闘えるか。
フェアプレーとか、レース以外では必要ないよね」
「判断が早いッ……! これには天狗も呆然ですッ!」
「軽率な天丼は厳禁だよ、フラッシュちゃん」
「口で言うだけでいいから多分っ! お願いウララママ! 何でもするからッ!」
「ユキオー! ウララに何でもするはマズい! 軽々しく言ったら最後、骨までしゃぶられるぞ!」
「さすが、元トレーナー。しゃぶられた実感が籠っているのである」
「わたしが誰にでもしゃぶりつくみたいに言うの、やめてくれる?
貞淑なウララちゃんに、何と言うことを」
げしげしと、元トレーナーを老人虐待する。
確かに彼の老後資金を、大胆に切り崩すこととなったこと。
このハルウララにも、責任の一端はあるかもしれない。
だがニホン産の牛肉の醸し出す、確かな味。
それは、自らの体調管理に欠かせぬ物であり。
トレーナーとして、ウマ娘の身体作りは必須事項。
当然のおねだりであった。
「さて、んじゃあ非常に遺憾だけども。心の底から、言いたくないんだけど……」
「無念と言う言葉を題材にすると、今のウララ先輩の顔になるのである」
「ウララさんは変わりませんねぇ」
「三女神教が覇権握るまで、戦争が終わらなかった理由が理解できるよな」
苦渋の決断である。
だが当時三女神は、神託でこう告げたという。
『くだらんことやってないで、走れバ鹿ども。お前ら何のために産まれたと思ってんの?』
そのお告げを聞いた、当時のウマ娘たちは。
一切の戦争から手を引くだけに飽きたらず。
『レースのためだ、致し方ない』
そう言いながら、戦争を主導する者全てを殴り倒したという。
ヒトは、暴力と領域の前では無力であった。
「はぁー……。許すよ、バ鹿ども」
「クソデカ溜め息。ウララ先輩のどこからこんな風圧が」
「やった、ありがとうウララママ!」
「やれやれ、無辜の罪で灼かれるとは。これには聖ウマ娘もびっくりですよ」
「こいつはもうちょっと、灼いといた方が良かったんじゃねぇかな」
土下座を強要されるという、ハルウララの周りではよくある体験。
そこから解放された彼らは、大きく伸びをした。
ユキオーの完全展開、『
利根川幸雄が生きた世界と同様に、形だけの謝罪。
そのような結果に終わり、鉄板は無念そうに姿を消した。
「さーて、起きろファル子ちゃん。入ってますかオラッ」
「抉り込むようなボディ。やはり世界を狙える器……!」
「やっぱり、ウマ娘格闘家を志しておいた方が良かったンじゃない?」
「滅多なことを言うなユキオー。リングの上で相対したら、私は即座に腹を見せるのである。きゃいんきゃいん」
「この負け犬がッ……!」
よく躾けられた、アフちゃんを見て嘆くユキオー。
それを横目にしつつ、乾いた泥の塊に連続ジャブを叩き込むハルウララ。
「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラ……ウラァッ!」
「殺した後に『ブッ殺した』って言いそうですね」
「立派なイタリアンマフィアの鑑に育って、オレは世間様に合わせる顔がねぇよ」
そして、ついに繭が崩れ落ちる。
そこから姿を見せたのは。
「………………おはよう、ウララちゃん」
「おはようファル子ちゃん。気分はどう?」
「最高だね。空だって飛べちゃいそう」
「ファル子先輩、私のアイデンティティを奪うのはやめて欲しいのである」
「既にサイレンススズカに奪われてるじゃん、アフちゃん先輩」
「ファル子さん……!」
「おいおい、成長期かぁ? こいつはウマ娘学会に発表せんといかんぞ」
ゆっくりと、こちらを睥睨する彼女。
その姿は、変わり果てていた。
「ウララちゃん、ファル子気づいちゃったんだぁ」
「お前、今まで気づかなすぎじゃない? 赤ちゃんよりも、新発見の連続じゃん」
「くふふっ」
おかしそうに笑う彼女。
そのツインテールは、くるぶしまで伸びており。
「うわぁ会長、大人の女って感じ。また好きになっちゃうじゃン? 反則だよそれ」
「後でかわいがってやる。楽しみにしていろ駄犬」
「声までセクシー……! 濡れるッ!」
そのすらりと伸びた手足は、同じ栗毛のウマ娘。
タイキシャトル程の、視野の高さを彼女に与え。
「ファル子さんッ! そこでダブルピースッ!」
「…………」
そのたわわに実った果実は、クリークママを想起させる程に。
官能的な、母性に満ち溢れていた。
「強制的に成長したんだ……! ウララを倒せる年齢までッ!」
「三十路から何歳育てばああなるんだよ。
成長期来るの遅すぎだろ。……待てよ、わたしにもこれから成長期が?」
「それは無い」
「ありませんね」
「無いと思うのである」
「ウララママ、現実見なよ」
「ウララちゃんは、ちっちゃいからかわいいんだよ?」
「お前らマジでいい加減にしろよ」
あと、ケツもやたらにでかかった。
ハルウララは、三十路からの成長期の実例を見て。
希望にちっちゃなボディを震わせたが、バ鹿どもに全否定。
怒りにその身を震わせた。
先ほど余分な血を抜いておらねば、脳溢血もあり得る血圧の急上昇である。
「おい、アダルトファル子ちゃん(仮)。成長の秘訣をわたしに教えろ。
そうすれば、命だけは助けてやる。領域か? 領域なのか? マジで死活問題なんだよ。
このミニマムボディじゃ、百人はきついんだよ……!」
「ウララ先輩、マジで産む気なのであるな」
「成長してもきついと思うンだけど」
「だからヨルウララを、オレの前で赤裸々に話すのはやめろとあれほど」
「体験談から言わせてもらいますが、一人でも相当きついですよ」
ハルウララは必死だった。
周りのウマ娘たちは、結構育ったというのに。
自分は一向にちっちゃいまま。
このままでは、彼ピッピの愛は受け止めきれぬ。
根性でなんとかしようとは思うが、愛で殺害される危険性すらあるのだ。
ここは信条を曲げて、下手に出てでもコツを聞くべき時である。
「んふっ。ウララちゃん、別にファル子は大したことしてないよ?
時計が動き出しただけ。ねぇ、
「ファル子さん……!? まさか、記憶が……!?
……いいえ、あの時あなたは気を失って居たはず! 覚えている筈が無いッ!」
「全部捨てようとしたけど、逆に全部思い出しちゃった。
フラッシュちゃんは、頭がいいけどバ鹿だよね。
「ッ……!」
「『スマートファルコン』が聞いてたよ。馬の言葉なんてわからないけど。
完全に取り込んだからね。聞いた言葉ぐらいはわかる」
エイシンフラッシュは、愕然と立ち竦んだ。
知られてはいけない物語。
彼女にだけは、教えられなかった。
罪は自分だけが、抱えていればいい。
「ああ、勘違いしないでね? ファル子、恨んでないよ。
二人が私を愛してくれたこと。
二人が私のために、色々な物を捨てたこと。
二人が私を想って、私から離れたこと。
ぜんぶぜんぶ、思い出した。
大好きだよ、フラッシュちゃん。もう二度と逃がさない」
「ファル子さん……」
「ハッピーエンドだね。でもファル子ちゃん」
ハルウララは、にこやかに告げた。
彼女の全身から立ち上る、ある感情を見て取って。
「このまま終わらせる気、無いよね?」
「当たり前だよウララちゃん。ハッピーエンドはまだ遠い。
ウララちゃんはさ、自分を怒らせたヤツを許せる?」
「さっき許したよ。戦いが終わったらシバくけど」
「許せていないのである」
「ウララに怒りを納めさせるには、人身御供かウマ身御供が不可欠だからな」
「怒った時のヤバさが、完全に荒御魂。水害とか疫病でも起こすンかな?」
『憤怒』の化身と言われるウマ娘。
ハルウララが、その怒りを抑えられないように。
「ルドルフ会長が、その傲慢を以て頂点に君臨したように。
ネイチャちゃんが、その嫉妬を以て全てを泥に沈めたように。
私たちは、その本質から逃れることは出来ない」
「ふぅん。
学園時代のつまらんあだ名に、何の意味がある?」
この世界では、奇跡を実現する三女神が駆逐したもののひとつ。
細々と残る、とある宗教の名残。
七つの美徳と、七つの大罪。
「ああ、学生時代聞いたことがあるのである」
「ウララママの世代の、十四人のウマ娘だっけ?」
「ああ、他にも強いウマ娘ばっかりの。一般ウマ娘にとっては、絶望の世代。
その中でも強すぎる十四人が、そう言われていたな」
『傲慢』のシンボリルドルフ。
一切の敗北を許容できなかった、誇り高過ぎた皇帝。
『謙譲』のエアグルーヴ。
身を尽くして、皇帝を支えた影の立役者たる女帝。
『嫉妬』のナイスネイチャ。
煌めく星に憧れて、全てを堕とす汚い帝王。
『忍耐』のトウカイテイオー。
度重なる故障にも挫けず、奇跡を起こした光の帝王。
『怠惰』のゴールドシップ。
彼女にとって価値ある戦いにしか、本気を出さぬ浮沈艦。
『勤勉』のメジロマックイーン。
貴顕の誇りを胸に抱き、目標に邁進した名優。
『暴食』のオグリキャップとスペシャルウィーク。
食べ過ぎ注意。
『節制』のスーパークリーク。
ちょっとは自制して欲しい(願望)。
『色欲』のダイワスカーレット。
色ボケ。
『純潔』のウオッカ。
恋愛クソ雑魚。
『憤怒』のハルウララ。
すぐキレる。
『寛容』のキングヘイロー。
ぽわぽわしてる。
『分別』のエイシンフラッシュ。
計画的犯行。
そして。
「私は、『強欲』のスマートファルコン! 何もかも欲しくてたまらない!」
「絶対考えたやつ、途中でめんどくさくなったのである」
「サイレンススズカとか入ってないし、十五人居るしね。
願望まで入っちゃってるじゃん。いつもの学園のアホなノリだね」
「うるさいぞ外野」
気を取り直して、スマートファルコンは高らかに告げる。
「だからさ、ウララちゃん! ファル子の物にしてあげる!
お友達だもんね? 答えなんて聞いてない!」
「こいつ、本当に厄介だな……! 敵にしても味方にしても、話を聞きやしない!」
「ウララ、世の中には鏡というものが有ってな?」
「うるさいぞジジイ」
「ウボア」
引き続く老人虐待。
オリウマ娘といえど、暴力の対象には出来ぬ。
コンプライアンスに反するからだ。
「さあ第三ラウンドだよウララちゃん! 今度こそ、ファル子の本気を見せてあげる!」
「はっ。長年溜め込んだアレも失くなったのに。大した自信だね、ファル子ちゃん?」
「ああ、勘違いしてるよウララちゃん」
天頂を指差して、スマートファルコンは告げた。
「ファル子は現役時代、確かにダート走者だったよ?
でもね、今は海賊王ッ! 愛は、形を変えても失われないッ!」
ざぁざぁと、降りしきる雨。
それは、悪魔のように黒く。
それは、地獄のように熱く。
それは、天使のように純粋で、
それは、恋のように甘やかに。
砂を溶かすほどの集中豪雨。
呆れるほどに膨大なそれは、いつしか領域に満ち満ちて。
「作者の書きたかったものなんて、知ったこっちゃないよねぇ!?
だからファル子が書き換えるッ! わがままだらけの強欲を見よ!
完全展開、『
続かない