ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

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色々な言語を使うと、勉強になりますが。
書くのにやたらと時間がかかる。
詳しい方で、誤りを発見したらご指摘頂きたく。


ファル子さんじゅういっさい そのよんじゅうろく わがままばかりのオーケストラ

~前回までのあらすじ~

 

 苦しみ喘ぐ泥の怪物。

 

 わくわく見守るハルウララ。

 

 反省しないアホどもを、鉄板が悲しげに焼き続け。

 

 暇潰しに、トレピッピでケツドラム。

 

 ハルウララは、いつ何時もどこ吹く風。

 

 その行動は、常にユキオーの予想を裏切り続ける。

 

 道理を無茶で吹き飛ばしてきた、その生き様こそウマ娘。

 

 この世界で最もわがままないきものである。

 

 必死に駄目な見本を学ぶユキオーに、指差し告げるは次なる闘争。

 

 もっと楽しみたかったが、バ鹿をわからせるためなら致し方ない。

 

 口先だけの、許しの言葉。

 

 己の信条に反するそれは、ハルウララの心をいたく傷つけた。許さん。

 

 八つ当たり気味に連続ジャブ。

 

 叩き込むおてては乾いた泥にひびを入れ。

 

 崩れる繭から現れる、やたらでっかくなったバ鹿。

 

 スマートファルコンは、変質していた。

 

 その精神を体現する、ワガママボディ。

 

 三十路を過ぎた成長期。ハルウララは希望を見て。

 

 トレピッピとの愛のため、成長の秘訣を聞き出さんと試みる。

 

 スマートファルコンは告げる。

 

 時計が動き出したのだ。

 

 止まった針は軋みを上げてぶち壊れ。

 

 メフィストフェレスの懺悔もいらぬ。

 

 その意思を示すため己の罪を、朗々と歌い上げる。

 

 7つの美徳、7つの大罪。

 

 学生時代に詠われた、十四の化身。

 

 砂の隼が司るはグリード。強欲の化身たる海賊王。

 

 なにもかもをも奪いつくし、ハッピーエンドを叩き込む。

 

 タレーランの恋した飲み物のように。

 

 悪魔のように黒い欲望。

 

 地獄のように熱い想い。

 

 天使のように純粋で。

 

 甘やかな恋はこの胸に。

 

 後悔などは投げ捨てた。

 

 幸せな未来を掴みとれ。

 

 大航海を始めよう。わがままだらけの完全展開。

 

 バッドエンドを書き換えた、想いのままのハッピーエンド。

 

 渇いた砂漠は、愛に満ちた大海原へと変わっていた。

 

 

 

 

 「海ィッ!? なんであるかこれっ!」

 

 「さすが会長ッ! 道理がまったく通ってないッ!」

 

 「完全展開を、()()()()()だとぉッ!? ふざけんなウマ娘学会ッ! 会費返せッ!」

 

 「ファル子さんかっこいいっ!」

 

 ばしゃりと海面へと落下。

 

 慌てふためく衆愚ども。

 

 ハルウララは、やれやれと嘆息した。

 

 

 

 「状況適応力が低い。そんなんじゃ、これから先生きのこの山」

 

 「なんでっ!? 水面を走っているのであるッ!?」

 

 「わたしはちなみにたけのこ派ッ! 六おじいちゃんは!?」

 

 「煎餅」

 

 「六平トレーナー、せめてチョコ菓子にしてください」

 

 パパパパパパン、と連続して弾ける水面。

 

 愛しのトレピッピを濡らすわけにはいかない。

 

 当然の如く、ハルウララは水面を跳ねていた。

 

 

 

 「沈む前に跳ねればいける」

 

 「右足が沈む前に左足理論よりひどい。……ちなみにどンぐらい行けそう?」

 

 「13kmや」

 

 「藍染暗殺目論みそう」

 

 実際は、ほぼ無限に行ける。

 

 この海、粘度がわりと高い。砂が混じっているためだろう。

 

 片栗粉を溶かし尽くした水のように、衝撃を与えれば反動を得られる。

 

 逆に引きずり込まれると、動きを通常の海より制限される。

 

 足元で藻掻く、バ鹿どものように。

 

 止まるわけにはいかない。アイツに対してその隙は大きすぎる。

 

 

 

 「あははっ! さすがだねウララちゃんっ!」

 

 「ファル子ちゃん、いつから魚になったんだい? ウマの誇りはどうした」

 

 ばしゃんばしゃんと跳ねる音。

 

 生き生きとした表情で、迫りくるスマートファルコン。

 

 生気に満ち溢れた顔は、悔しいが魅力的。

 

 その右足が、ぶぅんと不穏な音を立てる。

 

 ハルウララは、回避のために脚に力を籠めた。

 

 

 

 「誇りでハーレムが作れるかッ!」

 

 「捨てるにも理由がひどいのであるッ!」

 

 ドン、と快音。割れる海。

 

 『海割』。夏合宿でスマートファルコンが会得した奥義。

 

 それを見た彼女のトレーナーは、さすがに跪いて許しを乞うたと言う。

 

 エイシンフラッシュと、イチャイチャしすぎていたためだ。

 

 ただでさえ、バ鹿げた出力を叩きだすその奥義。

 

 彼女の成長した肉体は、聖者の奇跡を再現する。

 

 

 

 「さすがに冗談が過ぎるッ!」

 

 「モーセもこれにはびっくりですッ!」

 

 海がばかりと顎を開き、何も無い海底が見える。

 

 両側に聳え立つ壁は、数秒後に奈落の底へ流れ込む。

 

 

 

 「アフちゃん、ユキちゃん。頑張って生き残れッ! ジジイと黒鹿毛はどうでもいいッ!」

 

 「助けてくれないンッ!?」

 

 「わたしは優先順位を間違えない」

 

 「そこに痺れて恨むのであるゥゥゥぅッ! ウボァ」

 

 「やれやれですね。潜水は得意ではないのですが」

 

 「すまねぇオグリ……先に逝くぜ」

 

 ハルウララが緊急離脱すると、焼き土下座からの海底旅行。

 

 急転直下のその展開に、飲み込まれる娘2人とバ鹿2人。

 

 腕の中のトレピッピが、急激に増したGに苦し気に呻く。

 

 

 

 「あはは。死なないから安心してね? なんたって肉体()()優しい心折(しんせつ)設計だよ」

 

 「心は折るんじゃねぇか。まぁかわいい子は千尋の谷にダンクシュート。

 ママも言ってたように、いい社会勉強になるかなぁ」

 

 そう、先ほど実証されたように。

 

 完全展開で具現化された物だけでは、肉体にダメージは無い。

 

 砂に沈もうと、海に沈もうと。窒息死する危険性はない。

 

 その証拠に。

 

 

 

 「ぬおおおおッ! 海であろうとなんのそのッ! 雲竜型ァッ!」

 

 「おお、成長したねアフちゃん。母として鼻が高い」

 

 どぱんとノックアップストリーム。

 

 竜巻のように巻きあがる水流。

 

 アフガンコウクウショーと、愉快な仲間たちが海中より飛び出してきた。

 

 部分展開を無理やり使い、上昇気流ならぬ上昇海流を産み出したのだろう。

 

 

 

 「ぜはーッ! ぜはーッ! 絶対助けてもらえない! ならば、自分で助かるしかないのであるッ!」

 

 「アフちゃん先輩ナイスッ! わたしは沈むしかできンからッ!」

 

 「素晴らしいですアフさん。百点をあげましょう」

 

 「コイツ、どの立場から言ってんだろなぁ」

 

 部分展開も、使っているうちに慣れてきたのだろう。

 

 洗濯機のような流れから脱し、空中でふわふわと元気そうにするバ鹿ども。

 

 ハルウララはなでおろす胸が無いことに気付き、さらに勝手に腹を立てた。

 

 

 

 「クソが。その無駄乳をもぎとってやる」

 

 「無駄じゃないよ? 夢と希望が大安売り。ファル子のお胸には、無限の未来が詰まってる!」

 

 「その未来をわたしが全部、投げ捨てて廃棄してやろう……!」

 

 ぶるんと胸を張って、海上に立つスマートファルコン。

 

 自分と違い、脚を動かす必要すらない。さらに腹が立ってきた。

 

 さらに怒りを天元突破し、ハルウララは加速する。

 

 その瞋恚(しんい)を示す連続する波紋は、怒涛の如く荒ぶった。

 

 

 

 「甘くて美味しいウララちゃんッ! ここはファル子の領域だよッ!?」

 

 「むおっ!? アフちゃんパスッ!」

 

 「ウボァ」

 

 突如として足元に開く渦潮。小刻みな走法では、次の足場に届かない。

 

 瞬時に判断し、トレピをパス。剛速球が褐色ロリを痛打する。

 

 自分だけなら、何があろうと生き残れる。

 

 その確信の元に行動したが、わりとマズいかもしれない。

 

 思いつつ、海底へと堕ちていくハルウララ。

 

 

 

 「あははっ! もう逃がさないッ! ウララちゃんさえ無力化すればっ! 

 全部手に入れたようなもんだよねッ! ファル子も優先順位を間違えないッ!」

 

 「ぬぅぅぅぉぉぉぉッ!」

 

 細く絞られる渦。

 

 揉みくちゃにされつつ、防御態勢。

 

 痛みはないが、なかなかに動きが制限される。

 

 思いつつ堕ちるその表情が、少しだけひきつった。

 

 

 

 「ウララママッ! アフちゃん先輩、完全展開って変わるもンッ!?」

 

 「変わるはずが無いのであるッ! 最後に選んだ夢であるぞッ!?」

 

 「ウマ娘学会の論文でも、一度選んだら変えられねぇと結論づけられてた筈だッ!」

 

 「ファル子さんはやはり、常識を超える……! それでこそ我が愛するウマッ!」

 

 「「「ちょっと黙っとれィッ!」」」

 

 海上で続く漫才に、スマートファルコンは口の端をゆがめた。

 

 完全展開を果たしたウマ娘が3人。夢を選んだ彼女たちは、もう次の夢を見られない。

 

 だが彼女たちとスマートファルコンは違う。完全展開をした状況が違うのだ。

 

 

 

 「勘違いしてないッ!? ファル子は()()()()()()()ッ!」

 

 「なンッ!?」

 

 「なるほど……! あの日、ファル子さんは強制的に……!」

 

 選択肢すら与えられず、開いてしまった砂漠。

 

 それは『スマートファルコン(ウマソウル)』の選んだ夢であり。

 

 スマートファルコン(今を生きる彼女)の選んだ夢ではない。

 

 彼女は先ほど選んだのだ。最後に見る夢を。

 

 三十一年にも及ぶ、自らの生の集大成。

 

 通常はトレセン学園のウマ娘が、レースに勝つために見る夢。

 

 海賊王は、まったく別の目的のために夢を見た。

 

 

 

 「人魚姫は泡になって消えました!? それじゃあどうみてもバッドエンド! そんなのファル子は許さない!」

 

 ごうごうと渦巻く波に乗り、スマートファルコンは加速する。

 

 その手に掴むマイク。たなびく旗は大漁を示すように。

 

 

 

 「人魚姫は王子様と結ばれました!? 意識が低すぎ、ノーマルエンド!」

 

 堕ちゆくハルウララを中心に、廻るワルツは情熱を示す。

 

 渦はその半径をぎゅるぎゅると狭めていき、ちいさな身体を締め上げる。

 

 

 

 「ぐああッ!?」

 

 「人魚姫は、あらゆるものを深海に! 引きずり込んで、ハーレム築く! 

 これこそ完全無欠のハッピーエンド! お前ら全員、ファル子がかわいがり尽くしてやんよ!」

 

 ハルウララを巻き込む水流は龍と化し。

 

 その姿をどこまでも沈めて行く。

 

 堕ちて堕ちて堕ちゆく先は、スマートファルコンの腕の中。

 

 

 

 「(だい)(かい)(ショウ)ッ!」

 

 「グボァッ!?」

 

 ぎゅううと抱きしめる幼き身体。

 

 海底の水圧をも加算した、愛の抱擁はハルウララの腕力を超え。

 

 その肉体をぺしゃんこにすべく、彼女を締め付け悲鳴を絞り出す。

 

 

 

 「色気がないねウララちゃんッ! お歌の時間、楽しく逝こうッ!」

 

 「は、な、せぇぇぇぇッ……! 領域……」

 

 「展開されるわけあるかいッ! 私は今なら歌えちゃうッ!」

 

 桜色が失せた鹿毛。

 

 振り絞らせて、枯木にしては味わえぬ。

 

 抱きしめる両腕は強くハグを継続し。

 

 愛らしいウマ耳に、愛の限りを叩きつける。

 

 取り戻した歌は、轟音のオーケストラを奏で始める。

 

 マイクなど使わずとも、愛の力は無限大……! 

 

 

 

 「Freude schöner Götterfunken(歓喜よ! 美しき神々の光!)!」

 

 ドイツ語は、取り戻した。歌おう。この歓喜を。

 

 失った者の歌。苦痛と絶望に彩られた半生。

 

 だが、彼は喜びを奏でた。ならば取り戻した自分も奏でよう。

 

 きっとこの歌は、喜びと共に自分に勝利をもたらすから。

 

 

 

 「Drei Göttinnen aus Himmel(天上におわす三女神よ), Wir betreten feuertrunken(我らは情熱と陶酔の中), Himmlische dein Heiligtum(汝らの聖殿に脚を踏み入れよう)! 」

 

 三女神は望んでいるのだ。我らの幸福を。掴み取らねばならない。

 

 勝利を捧げて、その報酬を得よう。

 

 きっと甘美に違いない。甘やかな絶望を、叩きつけて全てを奪う。

 

 

 

 「Mein Gesang binden wieder(我が歌声にて再び一つとなる), Was die Mode streng geteilt(時の流れが引き裂いたもの)

 

 鬼畜外道おおいに結構。純真なままで居られるのは十代まで。

 

 三十路を過ぎれば、手段を選んでいられない。

 

 

 

 「Alle existieren werden mein(全ては我が物となる), Wo mein Flügel weilt(我が翼でもって)!」

 

 この翼で全てを包もう。飛べない自分にはふさわしい。

 

 この歌声は、ハルウララを包み込み。

 

 喜びで以て、その矮躯を吞み込んで。

 

 

 

 「愛してるぜ、ウララちゃんッ! 喰らい尽くして私を愛せッ! 

 強欲な人魚姫の、愛の歌はちと痛いッ! 交()曲第九ッ!」

 

 何も聞こえなくても、歌えていた。

 

 彼女の声も、ドイツ語も。あらゆる愛はこの耳には届かず。

 

 ならば全てを取り戻した今、この歌声はどこまでも響き。

 

 全てを呑み込む濁流と成す……! 

 

 

 

 「『歓喜の砲声(ベートーヴェン)』ッ! Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

 海底から天上へ向かい、打ち上げられるハルウララ。

 

 ちょっと気持ちよく歌いすぎた。生きてると思いたいな。

 

 スマートファルコンは、舌ペロしてウィンクした。

 

 手加減とか、忘れてた。

 

 

 

 

 つづかない


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