ハルウララさんじゅういっさい   作:デイジー亭

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 お姫様編最終回です。

 ウララちゃんは愛され体質なのです。

 次回からは、いつものノリに戻ります。

 舞台設定と、主要人物はだいたい紹介できたので。

 元ネタは、ド直球彼氏と、彼氏彼女の事情(原作)。あと色々。名作ですよ。皆さんも見ましょう。


ハルウララさんじゅういっさい そのなな おひめさまのこころ

~前回までのあらすじ~

 

 憎きあの女のハウスにたどり着いたハルウララ。

 

 悪意の炎を燃やすも、初手からポンコツ天使たちの善意にその膝を折る。

 

 そして畳みかけられる愛情とポンコツの弾幕。

 

 仮病に対して安心沢。何も安心できはしない。

 

 悪意を疑うも、善意100%の回答。

 

 迫りくるええじゃないかの囃子声。

 

 想い出のハンカチに、ついに自らの不明を悟る。

 

 そして、田舎へ帰るのを決めたその時。

 

 ヤツが現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいまー!!! 愛する妻!! 産まれたばかりの娘!! そして随分ご無沙汰な、可愛いウララが来てくれていると聞いて!! 仕事の山も、パパっと解決!! パパだけにな!! ガハハ!! 大丈夫、上司には明日、土下座しよう!! 久し振りだなウララ!! オレは今、猛烈に感動している!! おや!? どうしたんだウララ!! なんでこちらを向いてくれないんだ!! 可愛い笑顔を見せてくれ!! もちろん背中も可愛いが!!」

 

 

 

 ドドドドドン。捲し立てられる、アホと愛情が入り混じった言葉の奔流。

 

 やめてくれないか。言葉の洪水をワッと浴びせるのは。

 

 

 

 だが彼は止まらない。

 

 自分の肩に手を置き、強引に振り向かせると、ギョッとした顔をする。

 

 「どうしたウララ! 泣いているのか! 誰が泣かせた! そんなヤツは俺がブチ殺してやる!」

 

 お前らだよ。思うも、言葉は出てこない。

 

 「ふむ……まぁいい。良くはないが。まずは再会を喜ぶのが先だろう! 

 改めて久しぶりウララ! 結婚式の次の日の喫茶店以来だな! 

 あまり元気ではなさそうだが、だが相変わらず可愛い! 

 涙を舐めてもいいか?」

 

 良いはずがない。だが彼は人の話をこれっぽっちも聞いた試しがない。

 

 言っても無駄であるので、黙っておく。

 

 決して舐められたい訳ではない。

 

 

 

 しかし相変わらず感嘆符の多い男だ。

 

 頬を大胆に舐め回されながら思う。

 

 「うむ! 可愛いウララの涙! やはり……ウマいッ! 

 よし、プリンセスは元気だな! ウララを慰めていてくれたのか! 

 やはりキングの娘、優しいな! よーしなでなでイイッ↑タイ↓メガァァァ↑!!!!!」

 

 不用意に愛娘の頭を撫で、目突きを食らい悶絶する彼。

 

 相変わらずうるさい男だ。思った事を全て口に出す癖も変わらない。

 

 

 

 それで損しかした事がない。

 

 だが彼は、決して自分にも他人にも嘘をつくことをしない。

 

 自分を曲げるぐらいなら死ぬ。そういう男だ。

 

 そんな彼だからこそ。

 

 自分も彼女も、好きになってしまったのだ。

 

 

 

 もう少し、賢い男なら良かった。

 

 自分を傷つけずに振ってくれただろう。

 

 

 

 もう少し、不誠実な男なら良かった。

 

 自分に嘘をつき、呆れた自分は離れられただろう。

 

 

 

 だが彼は、愚かで嘘をつけない。

 

 トゥインクルシリーズ最後のURAファイナルズ。

 

 あのレースが終わり、選択の時が訪れる前日。

 

 ドリームトロフィーリーグへの移籍か。ふつうのウマ娘に戻るか。

 

 悩んでいる自分の前に、彼は現れた。

 

 

 

 『すまないウララ! ちょっといいか!』

 

 ずかずかと、いつも通りにチームルームに入って来た彼。

 

 『どうしたのトレーナー? そのほっぺたは?』

 

 『うむ! キングに思いっきり殴られた! 愛してると言われた際、オレも好きだ! うまぴょいしよう! と言ったらな! 訳がわからん! サイリウムも用意していたというのに!』

 

 

 

 こやつ、やはりアホだ。男女の仲でうまぴょい。普通そういう風に受け取られるに決まっている。

 

 いやちょっと待て。

 

 

 

 『き、キングちゃんに告白されたの……?』

 

 『うむ! された! その件でウララに相談があってな!』

 

 

 

 こいつマジか。鈍い鈍いと思っていたが、自分の好意に何も気づいていないと申すか。

 

 『ウララ! オレはどうしたらいい! オレはキングが好きだ! 彼女と家庭を持てば、とても幸せだろう! だがオレはウララのトレーナーでもある! ウララはまだ走りたいだろう? 目を見ればわかる!』

 

 

 こいつ、本当にそういう所は敏感なのに。恋心には気づきやしない。

 

 『ねぇ。ちなみに。トレーナーは私の事、どう思ってるの……?』

 

 『かわいい!』

 

 

 

 うむ。わかっておる。いやそうではなく。

 

 『そ、そうじゃなくて……私の事、恋愛対象としては……』

 

 『可愛いとは思うが性的な意味では対象外ッ!』

 

 

 

 おい。こやつ。即答しおったぞ。

 

 『それはキングちゃんを愛してるから?』

 

 『いや! ロリコンではないからだっ! ムッチムチボディだったら重婚を検討していた!』

 

 

 

 ゴガンッ。

 

 愛するヒトの頭部を大胆に凹ませて、自分は思ったのだ。

 

 これ、脈ゼロだわ……私、完全にペット枠だったんだな。

 

 こいつ、自分に正直すぎる……

 

 

 

 

 

 

 その後。自分は彼に三行半を叩きつけ。

 

 オグリキャップたちが引退し、暇を持て余していた六平トレーナーと契約。

 

 ドリームトロフィーリーグに進み。

 

 

 

 キングちゃんは、良妻願望の塊だったので、レースを引退。あのメルヘンが。

 

 彼は一般企業に就職。よく面接に受かったな。

 

 愛するキングちゃんと、ペット枠の自分。

 

 双方がトレーナーとしての自分の手から離れた彼は、続ける意義を見失ったのだろう。

 

 

 

 そしてキングちゃんの学園卒業を待ち、彼らは結婚し。

 

 その結婚式の次の日。キングちゃんとの初夜を臨場感と感嘆符たっぷりに語り聞かせる彼に辟易し。

 

 自分は彼らと距離を取るようになったのだ。

 

 

 

 

 (いや、やっぱり全部コイツが悪いのでは……?)

 

 ウララは訝しんだ。私絶対悪くない。

 

 キングちゃんはもう憎くないが、コイツは今でも死ぬほど憎い。

 

 

 

 「どうしたウララ! 可愛い顔が台無しだぞ! さぁリビングに行こうか!」

 

 がしっと自分を自分を赤子ごと抱え、リビングに歩みを進める彼。

 

 腹いせに赤子から片手を離してパンチをするも、効いた様子を見せぬ。

 

 昔から頑丈な男なのだ。

 

 「うむっ! 肋骨が折れた!」

 

 「あーうー!」

 

 いや、アホなだけかもしれない。ちょっとは痛がれよ。

 

 

 

 

 「おかえりなさい。あなた。レディーをそんな風に抱えてはいけないわよ?」

 

 「すまない! つい!」

 

 「もう。ごめんなさいね、ウララさん。

 分かっているとは思うけど、こういうヒトで……」

 

 「キングちゃんは悪くないよ。コイツが全部悪いから」

 

 「ハハハ!」

 

 「だー……」

 

 

 

 笑ってないで謝れ。私に誠意を籠めて土下座しろ。

 

 ほら、この子だって心なしか呆れた顔をしている。

 

 思いつつ、ひさしぶりのキングシチューに舌鼓を打つ。相変わらずべらぼうにうまい。

 

 星型の人参など、魅力的すぎて噛み締めるたびに多幸感に包まれる。

 

 ヤバい薬が入っていないか疑うレベルだ。

 

 

 

 「ふふ。ウララさんは本当に美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐があるわ。

 このヒトは何を食べさせても、ウマいしか言わないから……」

 

 「ウマいッ!」

 

 愛する妻の手料理と、かつての愛バの涙の味。

 

 彼の中では等価値なのだろう。

 

 そりゃあ作ってて手応えもないわ。

 

 

 

 思いつつ、手の中のお姫様をあやす。

 

 よしよし、あんなクズみたいになっちゃダメですよ。

 

 キングちゃんみたいに……いやダメだな。

 

 悪い男に騙されるのが目に見えている。

 

 

 

 悪い男でなければ目の前の頭がかわいそうなバ鹿ぐらいだ。

 

 キングちゃんが幸福な家庭を築けたのは奇跡である。

 

 是非とも双方に似ず、独自性を持った奇跡の成長を遂げて欲しい。

 

 

 

 「ふむっ! しかしプリンセスは、本当にウララに懐いているな!」

 

 「ええ。ちょっと母親としての自信を無くしちゃうわ……」

 

 「大丈夫だよキングちゃん。いずれ本当の母親の素晴らしさに気づくよ」

 

 「あうー?」

 

 世辞である。何せこの中で一番まともなのは自分だ。確定的に明らかである。

 

 

 

 「でも困ったわね……ウララさんから離したら、泣きわめくもの……

 2日間ノンストップで泣き喚いたのはビビったわ……」

 

 「ふむっ! ならばウララがここに住めばいいのでは?」

 

 「だー!」

 

 「えっ」

 

 なんだそれは。いや解決策はそれしかないのだが。

 

 この男、自分が恨まれているのに気づいてもいない。

 

 

 

 「もう。ウララさんはちゃんと自分のお家があるのよ? そんなこと……」

 

 そうだ。もっと言ってやれ。

 

 「大丈夫だ! 家には酒とツマミしか転がってないらしい! ヒシアマゾンから聞いた!」

 

 「ア”マ”ゾ”ン”ッ!!!!」

 

 激怒する。あの女、たまに家まで世話を焼きに来るから。

 

 素直に感謝していればこの仕打ち。

 

 

 

 

 

 

 ヒシアマゾン。クリークママに匹敵する母性を持つ女。

 

 トゥインクルシリーズ卒業後、女優になり、大人気大きな子供向け性癖特盛特撮。

 

 仮面魔法ウマ少女ライダー。その第4作。

 

 仮面魔法ウマ少女ライダー・アマゾンを襲名する。

 

 

 

 アマゾン川流域で発見された、普通に日本語が堪能な少女。

 

 好きな物は手間のかかる子。

 

 何故熱帯雨林で発見されたのか。

 

 

 

 魔法少女要素はアレだ。

 

 マスコットが一応いた。

 

 密林の妖精。

 

 アマゾン淫獣、窮兵衛。

 

 ブラジル産の薩摩隼人である。

 

 示現流の達者であったが、パイタッチの罪により。

 

 放送初回にて、自ら腹をハヤテ一文字して果てた。

 

 真の薩摩隼人は、妄りに女人に触れると発狂して自刃する。

 

 まこと美事な、最期であった。

 

 

 

 

 

 

 戦闘に入ると同時に雑に投げ捨てられる、安っぽい仮面。

 

 ピッチピチの魔法少女風ライダースーツ。

 

 敵の攻撃で一瞬で破れる。

 

 中破ッッッッ!!!!!!!! 

 

 

 

 毎度ピンチに陥り、女騎士の如き媚態を魅せる。

 

 だいたい負けそうになるが最後は勝つ。

 

 顔を赤らめウマライダーキック。

 

 

 

 

 パンツの色は毎回変わる。

 

 キメポーズはもちろんあのポーズだ。

 

 入渠はしていないため、ほぼ毎回色々はみ出ている。

 

 ちなみに全年齢向けである。嘘だろおい。

 

 

 

 

 だが、順風満帆に見えた彼女の女優業は、突如暗雲に包まれた。

 

 ご懐妊である。

 

 愛する旦那になったトレーナーに、タイマンで毎夜ボロ負けしていたらしい。

 

 呆れた負けライダーである。

 

 

 

 大きなお腹を抱えては、仮面魔法ウマ少女ライダーの代名詞。

 

 ウマライダーキックも出来ぬ。

 

 パンツを魅せつけることが出来ぬのだ。

 

 すわ引退の危機と危ぶまれたが……

 

 ここに待ったを掛けたのが、新進気鋭の演出家として。

 

 数々の迷作を手掛けたあるウマ娘。

 

 テイエムオペラオーである。

 

 

 

 『待つんだ君たち! 逆に考えるんだ。妊婦さんだからこそ興奮する。そんな需要を狙うんだ!』

 

 感銘を受ける番組関係者。スポンサーに変態が多かったのも功を奏した。

 

 そして、暫しの放映中止後、彼女はまた銀幕に映し出された。

 

 

 

 仮面魔法ウマママ少女ライダー・アマゾンである。

 

 もはや属性を盛り過ぎて、何が何だかわからない。

 

 ウマライダーキックも出来ないし、もちろんバイクなど運転できぬ。

 

 彼女は徒歩で、現地に向かうのである。

 

 だいたい着いた頃には街は壊滅している。

 

 

 

 そして遅すぎる名乗りを上げ、悪役と対峙。

 

 自らのお腹を人質に取り、悪役を追い詰め。

 

 魔法少女ライダースーツはなんやかんやで中破する。

 

 そして囁くのだ。

 

 

 

 『ほら、あんたもこの子みたいな時が、あったんだよ……?』

 

 生命の神秘を宿すお腹に触れ、滂沱の涙を流す悪役。

 

 

 

 彼女は優しく微笑み、相手の頭をデリンジャーで撃ち抜いた。

 

 『悪いね。アタシのお腹は旦那専用でね。釣りはいらないよ。冥土の土産に取っときな』

 

 ニヒルに笑う彼女。ダークヒロインの誕生である。

 

 悪役と性癖に、更生の機会は永遠に訪れぬのだ。

 

 

 

 これがやたらにウケた。現在ではシーズン9に突入。出産した子の数も9人。

 

 オグリキャップがスペシャルウィークと共に。

 

 北海道にて繰り広げる、連続テレビドラマ。

 

 残虐! 飲食店壊滅型食い倒れドラマ『蟲毒のグルメ』に匹敵する快挙である。

 

 この世界には、変態しかいないのだ。

 

 

 

 

 

 

 それはさておき。

 

 子沢山かつ人気女優でありながら、有り余る母性でもって。

 

 知り合いの手間のかかる子(年齢不問)を自動追尾して世話を焼く。

 

 ちょっとイっちゃった母性の持ち主第2号・ヒシアマゾン。

 

 

 

 彼女によって、自分の悪しき生活習慣がバレたとなると……

 

 世話焼キングの反応は決まっている。

 

 「まぁ! ウララさん! 是非ともうちに住みなさい! 

 親友のそんな状態、放ってはおけないわ!」

 

 「あうあう! あー!」

 

 

 

 ほら来た。彼女は自分に対して過保護すぎる。

 

 自分の赤子に対してその母性を発揮しろ。

 

 今の状況を考えろ、今のお前はカッコウだぞ。

 

 無意識に托卵を目論見おってこのポンコツ。

 

 反論せねば。

 

 

 

 「いや、私にも私生活ってものが……」

 

 「日がな一日トレーニング! 空いた時間は六平トレーナーと茶を啜り! 夜は一人で酒浸り!」

 

 「トレーナー! うるさい!!! 私の私生活を的確に言い当てないで!!!」

 

 「あーうー?」

 

 「的確なの!? ますます放っておけないわ!!」

 

 「クソっ、この夫婦! サイコパスの癖にこういう時だけ理解が早い……!」

 

 ダメだ。詰んだ。

 

 話を聞かずに暴走するのは、彼らの得意技だ。

 

 学生時代、どんなに苦労させられた事か。

 

 諦めるしかないのか……! 

 

 いや! これがあった! 

 

 

 

 「ふ、夫婦の夜の生活とか……あるでしょ? この子の妹とか弟とか……」

 

 「しばらくは作る予定はないわよ。私。

 こんな勢いの子を同時に育てられないわ」

 

 「正論ンンンンンンンンンンン!!!!!!!!」

 

 そりゃそうだ。

 

 

 

 

 そしてその日の夜。夫婦の寝室にて眠る両サイドのサイコパスと、腕の中のお姫様。

 

 川の字に 一文字加え 四川風。

 

 麻婆豆腐のような、甘みと苦みと辛み。

 

 最後に少しばかりのウマみ。

 

 全てが渾然一体となった、渾身の一句が虚しく脳裏を過ぎ去っていく。

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 これはキングちゃんにイタズラをせねば収まらぬ。

 

 よし、やろう。

 

 

 

 「あうー?」

 

 赤子と目が合った。

 

 うむ。続けよう。

 

 

 

 うー! うまぴょいうまぴょい。

 

 「ああっ……!」

 

 わっしょいわっしょい。

 

 「いいっ……!」

 

 うー! うまだっち! 

 

 「ううっ……!」

 

 

 

 今日の勝利の女神は、私だ。

 

 キングちゃんを華麗にうまぴょい伝説しながら、確信し。

 

 トレーナーのケツもついでに揉み、彼を許した。

 

 このケツは、非常に好みなのである。

 

 

 

 イタズラできて、ケツさえ揉めればなんでもいいや。

 

 こいつらしゃぶり尽くしたろ。

 

 何、慰謝料というヤツである。

 

 

 

 

 

 

 

 回想を終える。

 

 「ウララちゃん、どうしたんですの?」

 

 ぼうっとしていた自分に、首を傾げるお姫様。

 

 「いや、プリンセスちゃんと初めて会った時のことを思い出しててね……」

 

 「まぁっ! そうなんですの! 当時はどんな感じだったんですか?」

 

 「ケツが柔らかかったかな……」

 

 「ケツ?」

 

 いかん。本音が。

 

 慌てて軌道修正を図る。

 

 

 

 「昔から、プリンセスちゃんは可愛かったんだよ。

 運命の王子様も、放っておかないかも」

 

 「まぁ、お上手なウララちゃん! でも大丈夫ですわ! 

 運命の相手は、もう見つけていますもの!」

 

 

 

 なんだと。運命の相手。どこの小僧だ。

 

 第2の母親どころか、第1の母親と言っても過言ではないこの自分。

 

 ハルウララの知らない間に。

 

 これは、家に連れて来たが最後。

 

 スタジオに連行し、母なる邪神に念入りに捧げ。

 

 そいつの運命を捻じ曲げ、かわいい娘の運命の相手で無くさねばなるまい。

 

 その小僧の運命は、バッドエンドで確定である。子孫を残せず死ぬが良い。

 

 

 

 もちろんこの娘はクリークママのようには育てぬ。

 

 このウララの手腕でもって、お淑やかでちょっと腹黒い、かわいいおよめさんに育て上げ。

 

 そして笑顔で見送るのだ。

 

 だがこの子には恋愛はまだ早い。

 

 この子が恋愛をしていいのは、自分が結婚してからである。

 

 

 

 生涯独身の道連れを増やさんとするハルウララ。

 

 プリンセスの未来も暗くなるかと思われた。

 

 

 

 「ち、ちなみにプリンセスちゃん。相手は何て子かな……? 

 

 大丈夫。変な事にするから!」

 

 「大丈夫さが見えませんわ! ウララちゃん、タンブラーが空ですわよ? 

 注いで差し上げます!」

 

 誤魔化された。いつか聞き出さねば夜も眠れぬ。

 

 キングちゃんの身体が更に開発される事態となるのだ。やったぜ。

 

 

 

 「ただいまー! キング! プリンセス! ウララ! 愛しているとも! だからパパにもビールを注いでおくれプリンセス! 後生だ!」

 

 「手酌で我慢なさって?」

 

 「畜生ォォォォォォォ!!!!」

 

 ハイテンションで帰って来て、つれない娘の対応に、すぐに泣き叫ぶかつての想いビト。

 

 あの日の夜に、蟠りは消えた。今では楽しく嘲笑うことができるのだ。

 

 いいケツに感謝である。

  

 

 

 

 

 

 さて、眠くなってきた。今日はどうやら、飲み過ぎたようだ。

 

 「ウララちゃん。眠そうですわ! ささ、ソファーに横になって?」

 

 「んん……ありがとうプリンセスちゃん……おひざ、痺れちゃうよ……?」

 

 かわいい娘の膝の上に寝かされる。

 

 本当におしゃまな子だ。誰に似たのだろうか。

 

 

 

 「んふ。おやすみなさい、ウララちゃん」

 

 「おやすみ。プリンセスちゃん」

 

 今日も、いい夢が見れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふふ。かわいいかわいいウララちゃん。運命の相手はここにいますのよ? 

 5年前から、ずっと」

 

 眠りに就いた、彼女の頭を撫でながらつぶやく。

 

 本当に、愛らしい。31歳とは思えない。

 

 彼女の時は、トゥインクルシリーズを卒業した日。その日に止まったのだ。

 

 恋という名の呪いによって。

 

 

 

 「プリンセスは本当にウララが大好きだな! パパは嫉妬してしまうぞ!」

 

 「ねぇ。たまにはママにも甘えてもいいのよ?」

 

 こちらを見て微笑む両親。彼らには感謝している。

 

 

 

 愛しい彼女に呪いをかけて。自分をこの世に産んで。

 

 そして彼女と出会わせてくれたのだから。

 

 この、桜色のお姫様に。

 

 

 

 桜の舞うあの日。ゆりかごの中で。自分は彼女と出会った。

 

 涙を目に溜め、微笑む笑顔。

 

 自分はそれを見て、一目で恋に堕ちたのだ。

 

 

 

 直感したのだ。自分は彼女を愛するために生まれてきたのだと。

 

 両親が彼女を不幸にした贖い? いいや違うとも。

 

 

 

 だって、彼女は自分が溺れる程に幸せにするのだ。

 

 もう幸せしか感じられないぐらい。

 

 ±0どころではない。無限の愛をくれてやろう。

 

 

 

 「ねえママ。織姫と彦星は、一年に一度しか会えないんですわよね?」

 

 「え? ええ。織姫の父親である、天帝に引き裂かれてね。

 でも、彼らもまだ子供よね。親の事なんて聞かず。

 川なんて渡ってしまえばいいのに。でも、プリンセスはまだまだ私たちに甘えていいのよ?」

 

 「ええ。いっぱい甘えさせてもらいますわ!」

 

 そう。この家から膝の上の愛らしい生き物を追い出そうとすれば、おねだり攻撃により絶対阻止だ。

 

 まぁ、そうなることは無いだろうが。

 

 もはやあの日に勝敗は決した。

 

 彼女は自分の握撃とギャン泣きにより、この家に連れてこられた時点で、負けているのだ。

 

 

 

 七夕の話。自分の好きな話だ。

 

 なんと甘ちゃんな母か。

 

 川の両端に引き裂かれた時点でもう遅い。

 

 このプリンセスならば。

 

 引き裂かれる前に、天帝を引き裂いてやろう。

 

 それが唯一の正解である。

 

 

 

 「覚悟してくださいまし? ウララちゃん。絶対に、逃がしませんから」

 

 ぎゅうっと彼女の左手の指を握る。赤子の頃からの自分の癖だ。

 

 

 

 「んんん……甘えん坊だね、プリンセスちゃん……」

 

 可愛らしい寝言を言う彼女。

 

 もう慣れ過ぎて、ふつうなら痛いはずなのに。

 

 自分が甘えているとしか感じられないのだ。

 

 

 

 

 

 

 左手の。

 

 その薬指には赤い痣。

 

 毎日欠かさずつけている、自分のもののしるし。

 

 「わたくしの運命の相手。桜色のお姫様。誰にも渡してなるものですか。

 夢見るプリンセスは、止まりませんわ」

 

 いつかお姫様のキスで、お姫様の呪いも解いて差し上げましょう。

 

 その日はきっと、遠くない。

 

 

 

 

 

 

 カワカミプリンセス。御年5歳。

 

 赤子の頃からの記憶を保持する、ちょっと不思議なおんなのこ。

 

 

 

 職業は、愛娘、幼稚園児、お姫様。そして、ラスボスである。

 

 おねロリ。

 

 

 

 

 

 

 つづかない

 

 


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