悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第九話

 助けたエルフの少女はアリアと名乗り、奴隷商人に捕まった所をさらに盗賊たちに襲われていた状況だったらしい。

 

 なんというか、ずいぶんと運の悪いエルフだな。

 少し親近感を覚えてしまう。

 

 そんな風に思いながらフィーナの回復魔術で癒されるアリアを眺める。

 

「なんだかとても他人事には思えません」

「ん?」

「私もリオン様に助けられなかったら、盗賊たちの慰み者になっていたか、どこか遠くへ売り払われていたかもしれませんから……」

 

 アリアの傷を治しながら語るフィーナもまた、帝都に向かってくる途中で盗賊に襲われていた。

 

 たしかに帝国は弱肉強食というか、貴族たちの地位が高い分だけ平民に負担が大きい国だ。

 

 俺が大部分を粛清したとはいえ、何百年と長く染み渡った風習は中々崩しきることは出来なかった。

 

 小さな村などでは極寒の冬を超えることが出来ず、子どもを売り出す家も少なくはないこの国では、盗賊に堕ちる者も後を絶えないとはいえ……。

 

「さすがに多すぎるな」

 

 こうして人攫いや盗賊に遭遇したのが偶然であればいいが、それにしては頻度が多すぎる。

 どこか大規模な集団が出来上がっているのかもしれない。

 

「クーデターの芽は潰しておいたはずだが……」

 

 本来の歴史では、グランバニア帝国では貴族の圧政に対するクーデターが起きる。

 

 それにより国力が失われた帝国は、虎視眈々と帝位の座を狙っていたシオンによって奪われることになった。

 

 ――もっとも、それすらもクヴァール教団の掌の上だったわけだが。

 

 クーデターを起こした面々もクヴァール教団が裏で手引きをしていたため、用済みになったあとはシオンによって粛清される。

 

 そうして皇帝となったシオンは皇族をすべて皆殺しにし、自らの絶対王政を築いたうえで全世界に向けて宣戦布告。

 

 最強の魔術師が率いる、強大な軍事国家が世界征服を始まったのであった。

 

「あの……」

「ん?」

 

 俺が考えごとをしていると、傷が完全に癒えたアリアが近づいてきて頭を下げる。

 

「助けてくれてありがとう! あのままだったら盗賊に連れ去られて、酷い目に合ってたから……」

「礼なら先ほども聞いた。とにかく無事ならばそれでいい」

 

 横転した馬車の近くでは多くの血が流れている。

 

 奴隷商人は逃げ出したらしく、あそこで倒れているのは護衛の冒険者とアリアと同じ奴隷たちのものだろう。

 

「……」

「どうした?」

「……リオンは、人間だよね?」

「それはいったいどういう質問だ?」

「だって、精霊たちがリオンを見て喜んでる。こんなの初めてだから」

 

 喜んでいる? 恐れられているではなくて?

 

 そんな疑問があるが、彼女が嘘を言うメリットは今はないだろう。

 

「普通、精霊は人を嫌うものだろう?」

「だから驚いているんだよ」

 

 精霊はエルフのみに気を許す。

 そのため精霊魔術は一部の例外を除いて人間には扱えないのだが、今こうして俺を慕ってくれているというのであれば……。

 

「そうか」

 

 俺は顔には出さないように気を付けながら、内心小躍りをしたいくらい嬉しかった。

 

 なにせ精霊魔術である。はっきりいってロマンの塊である。

 

 帝国で学べる魔術を極め、禁術とも呼ばれる魔術も覚えた俺だが、世界にはそれ以上の魔術が多く眠っているのを知っていた。

 

 その中には精霊魔術も含まれており、人の魔術では起こせない現象のものも多い。

 

 とはいえ、いくら精霊に好かれようとそもそも精霊魔術を知っている者に教えを請わなければ学ぶことは出来ないだろう。

 

 そして先ほど奴隷として連れ去られようとしていた通り、この世界ではエルフと人間では確執がある。

 

 確執といっても、人間がエルフを愛玩動物として扱おうとし、エルフはそんな人間を毛嫌いしているというものだが……。

 

「……」

「ん? なに」

「お前はこれからどうするつもりだ?」

「どうするって言われても……これがあるし」

 

 アリアは自分に付けられた黒い首輪を触れながら、顔を俯かせる。

 

「奴隷の首輪か」

「うん。これのせいで逃げることも出来なくて、でもあの奴隷商人は死んでないから効果は失われてないし……」

「そうか……」

 

 奴隷の首輪は冒険者ギルドのカード同様、古代のアーティファクトを複製して作られたものだ。

 

 本物に比べるとその力は各段に落ちるが、それでも普通に人間では抵抗することなど不可能なほど強い力が込められている。

 

 これが付けられた者は主人に抵抗することが出来なくなり、居場所さえも常に把握されてしまう代物。

 

 悪用されれば大変なことになるため、どの国でも奴隷の首輪の使用は国の許可が必要となっていた。

 つまり、奴隷商人とは国が認めた者だけがなれる職業なのだ。

 

 とはいえ、そんなものは俺には関係ないな。

 

「少し痛いかもしれないが、我慢しろ」

「え? ――っ⁉」

 

 一気にアリアの首を掴むと、そのまま首輪に魔力を注ぎ込む。

 

 奴隷の首輪は無理やり外そうとすると奴隷の首を絞めようとするが、こうして強い魔力を注ぐ分には問題ない。

 

 だがどんなアイテムであっても限界という物はあり、魔力を注ぎ込まれ過ぎた奴隷の首輪はオーバーヒートを起こして故障してしまうのだ。

 

 ――もっとも、宮廷魔術師クラスが十人いても、オーバーヒートはさせられないくらい容量があるが……。

 

「え、え、え?」

 

 奴隷はたとえ法で認められている必要悪とはいえ、現代日本に住んでいた俺として胸糞悪い代物だ。

 

 ただの首輪となったそれを俺はアリアから外すと、そのまま空中で燃やしてしまう。

 

「これでもう問題ないな」

「嘘? だってこれ……奴隷の首輪って、え?」

「さて、もう一度尋ねてやろう。これからお前はどうしたい?」

 

 信じられないといった風に戸惑っている彼女に対して、俺は改めてそう問いかけるのであった。

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