悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第十話

 アリアを奴隷から解放した俺は、きっと彼女はエルフの隠れ里に帰るだろうと予想していた。

 

 エルフが自ら人間に子どもを売ることがない以上、無理やり奴隷にされたのは間違いないからだ。

 

「ご主人様! 次はなにしたらいいかな⁉」

 

 だから、一緒の馬車に乗ってそんなことを言い始めるのは、俺としても予想外のことだった。

 

 ちなみにこの馬車は奴隷商人の物。

 怪我した馬をフィーナが治したら懐いたので、そのまま利用しているのだ。

 

「アリア、何度も言うが私のことをご主人様扱いする必要はない」

「駄目だよ! エルフは与えられた恩は絶対に返さないといけないんだ! ご主人様のおかげで奴隷から解放されたんだから、その恩は絶対に返すよ!」

「そ、そうか……」

「なんともまあ、あの人嫌いのエルフをここまで手懐けるとは……主は人誑しの才能があるな」

「……」

 

 ゲームではカリスマ溢れるラスボスだから、もちろんシオンに忠誠を誓う強力な部下たちもいた。

 彼らは主人公たちの前に立ち塞がり、強敵として戦ったものだ。

 

 そう言う意味では人誑しというのもあながち間違いではないが、中身が俺だとそうはいかない……はずなのだが?

 

「リオン様の優しさを考えれば当然です」

「優しい? この男が? 我、再起不能なくらいに恐怖を叩きこまれたのだが……?」

「え? レーヴァはご主人様と戦ったことあるの?」

「うむ……あれはまさに激闘に次ぐ激闘で、大陸の地形さえも変えてしまうような――」

「レーヴァさんはリオン様に叩きのめされてましたね」

「こらフィーナ! それは言わない約束だろう!」

「……」

 

 馬車の中では目麗しい少女たちがワイワイと盛り上がっていて楽しそうだ。

 

 話題は俺のことなのだが、各々が声を上げていくため、俺が入りこむ隙間がなかった。

 

 こういうコミュニケーション能力は、残念ながら俺が学んできた帝王学にはなかったのだ!

 

 ――今度帝都に戻ったら、帝王学に少女たちと楽しく会話する方法もいれるようにしよう。

 

 そんなしょうもないことを考えながら、俺は未だに隙なく話し続ける少女たちから視線を逸らして、馬車の窓から見える青空を見上げるのであった。

 

 

 

 帝国と隣接するサーギオス王国との国境付近に位置する街であるバルグ。

 大きくはないが帝国にしては自然豊かで、のどかな街だ。

 

 マーカスと交易都市ガラティアで別れた俺たちは、ここを一先ず拠点として冒険者活動を行っていた。

 

「さて……それでは俺はギルドにクエスト達成の報告をしてくる」

「一緒に付いて行きますよ?」

「……いや、とりあえずお前たちは先にアリアを連れて宿に戻るといい」

 

 すでに夕暮れ時となっており、これ以上遅くなってしまえば宿から提供される食事の時間に間に合わない。

 

 それに、元々三人で大きめの部屋を取っているが、さすがに四人となると手狭となるので部屋を分ける必要があった。

 

 そうなると当然、今の部屋をアリアに引き渡して俺は一人部屋となる。

 

「これまで奴隷として満足な食事も出来なかっただろう」

 

 ――それに身繕いも出来なかっただろうからな……。

 

 さすがに本人に汚いとは言えず、こっそりフィーナに耳打ちをすると彼女は顔を真っ赤にしながらコクコクと頷いた。

 

「フィーナ? 風邪か?」

「ち、違います。ただその、夕日が顔に当たってるだけです!」

 

 そうして顔をそむけてしまうので、結局理由は分からずじまいであったが、まあいいだろう。

 

「それじゃあ行ってくる」

「怪我に気を付けるのだぞ」

「誰に言っている」

「どちらかというと、主と喧嘩をしそうな他の人間だな」

 

 俺は平和主義者だから喧嘩などしない。

 

 それだけ伝えると、レーヴァたちから離れて俺が一人で冒険者ギルドに向かう。

 

 基本的にギルド内は酒場も併設されており、この時間だとクエストをクリアしたあとの冒険者たちが己の武勇伝を語り合いながら騒がしくしているものだ。

 

 少し遠くには見習いの冒険者たちがパーティーを組むための斡旋場もあり、ギルド職員が間に入ったりすることもあった。

 

 こうしたギルドの雰囲気が、実は俺は結構好きだ。というのも、これぞファンタジーという気分になる。

 

 とはいえ、俺たちはすでにパーティーを組み終わっている冒険者。

 今更職員から斡旋を受ける立場でなく、手にした薬草をもって受付へと向かう。

 

「よおEランク。今日も元気に薬草採取かぁ?」

「雑魚のくせに女を連れて、舐めてんじゃねぇぞぉ」

 

 その途中、いかにも力自慢だと言いたげな冒険者の二人組に道を遮られた。

 片方はスキンヘッド、もう片方は刈り上げ、どちらも威嚇するように武器に手をかけて、こちらを見下してくる。

 

「なんだお前たちは?」

「いやいやなぁに、この街に来てからお前ら、一度も俺らに挨拶しにこねぇなぁってずっと思ってんだんだよ」

「この街のギルドを仕切ってるのが俺様たちだって、まさか知らないわけじゃねえよなぁ」

 

 よくよく見ればこの二人、髪型こそ異なるが顔がよく似ている。もしかしたら兄弟なのかもしれない。

 

 まあそんなことはどうでもいいのだが、どうやら俺がEランクだからと舐めていようだ。

 

「……さて」

 

 こういう輩を叩きのめすのは簡単だ。ただ力を見せつければいい。

 

 そもそもこのバルグという小さな街で冒険者をしている時点で大したことのないのはよくわかる。

 

 少し離れたところには王国との国境となる城塞都市もあり、北に行けば帝都もあるのだから、立身出世を求めるのであればどちらかに向かえばいいのだ。

 

 そうでなくとも、帝国には多くのダンジョンがある。

 冒険者として一獲千金も狙えるというのに、こんな小さな街でお山の大将を気取っているというなど、あまりにも情けない。

 

「そうか、二人はこのギルドを仕切っているのか。それは知らなかった」

「おおとも、だからこの街でなにかしたけりゃ、俺らを通して――」

「俺たち兄弟には逆らうんじゃ――」

 

 一歩、前に踏み出した。

 

 その瞬間目の前の二人の表情が青白くなる。

 言葉も失い、足は震え、ただただ茫然と俺から目が離せなくなったように怯え始めていた。

 

「どうした? なにか言いたいことがあるなら聞くぞ?」

「あ……あ……あ……」

「ひ、ひぃ……」

 

 俺がこいつらの前にもう一歩進むと、バランスを崩したように倒れ始める。

 

 周囲の冒険者やギルド職員たちは何事かとこちらを見るが、彼らから見ればこの二人が勝手にバランスを崩して倒れた様にしか見えないだろう。

 

「喧嘩を売る相手は、しっかりと選ぶことだな」

 

 この二人の横を通り過ぎる瞬間、小声でそう呟く。

 生まれたての小鹿のように震えながら尻餅をついた二人は、俺の意図がわかったのか小さく頷いた。

 

「ふっ……」

 

 俺としては別にこの街で目立ちたいわけではないのだ。

 せっかく自由になって色々と経験が出来る今、普通の冒険者としてクエストをこなしていきたい。

 

 だからこそ、この二人を叩き潰すことはしない。

 

 今の俺はEランクの冒険者リオンであり、決して残虐なる皇帝シオン・グランバニアではないのだから。

 

「薬草を持ってきたぞ」

 

 どん、クエスト達成アイテムである薬草の束を受付に置き、俺はその報酬を受け取って満足するのであった。

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