悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第十二話

 獣人やドワーフなどエステア大陸には人間に限らず、様々な種族が混在して生きている。

 

 それぞれ種族ごと国を持つとはいえ、戦争のないこの時代では人の国に獣人がいることも、獣人の国に人がいることも珍しくはない。

 

 お互いがそれぞれの人権を認め合い、平和な時代ともいえるだろう。

 

 ――エルフという種族を除いて。

 

「つまるところ、エルフは時代に取り残されたと言ってもいいだろう」

「まあ森から出てないという選択肢を取ったのはやつらだからなぁ」

 

 ドワーフは山での生活を、獣人は平原で生活を、エルフは森での生活を。

 

 それぞれ生活圏が異なっていたが、人間がありとあらゆる場所で開拓を進めた結果、住み場所が失われていく過去のエステア大陸。

 

 ここで人間の行っていることにメリットを感じて共存出来たのが二種族で、出来なかったのがエルフだった。

 

「まあとはいえ、私はそれを愚かだと断じることは出来ないがな」

 

 アリアの案内で向かったのは、バルグから二日ほど西に進んだところにあるアークレイ大森林。

 

 俺たちの旅は順風満帆というか、珍しく移動中に何事も起きずに辿り着いた。

 

 元々グランバニア帝国に住む魔物は強力な個体が多く、グラド山脈同様このアークレイ大森林も危険な場所と言われている。

 

 『幻想のアルカディア』のメインストーリーからは外れているが、この森にある秘薬と交換で強力な武器が手に入るサブクエストが存在した。

 

 ……そういえば、そのとき戦うボスって。

 

 サブクエストとはいえ、物語後半の出来事。

 強力な魔物が守っている設定で、下手をしたらメインストーリーよりも難しかった気がする。

 

 とはいえ、もう十六年も前の話。

 文字が書けるようになってすぐに覚えているだけの情報を書き連ねていたが、それでも漏れる部分は多い。

 

 特にサブクエスト部分に関しては、俺の破滅フラグとは遠いところもあっただけに重要度も低く、覚え続けるには厳しいものがあった。

 

「ところで主よ」

「なんだ?」

「主は水浴びをしないのか?」

 

 レーヴァは森の中を流れる川を見ながら俺に問いかける。

 

「男と女が一緒に水浴びをするなど、破廉恥だろう」

「……」

「なんだレーヴァ?」

「主から破廉恥などという単語が出てきたことに驚いた」

 

 ……たしかに、黄金の君とまで謳われたシオン・グランバニアから破廉恥などという単語が出てきたら、俺もビックリしてゲームを一回止めるかもしれない。

 

「上手い言葉が出てこなかったのだ」

「ほほう……まあ主はその力や態度とは裏腹に、中々に人間らしいところを秘めているようだからな」

 

 それなりに行動を共にすることが多くなってきてからか、なんとなく俺の内面にも気付き始めているらしい。

 

 結構勘違いされることが多いのだが、別に俺はこのラスボスロールを楽しんでいるわけではない。

 ただ弱肉強食の帝国に生まれて、帝王学を徹底的に叩きこまれた結果、こうなっただけだ。

 

 ――まあ、帝国の腐った貴族たちに弱みを見せれなかった、というのもあるか。

 

 とにかく、俺としては隠しているつもりもないのだが、やはり十六年という月日は中々に頑固なもので、素の自分を出そうとしても中々上手く行かない。

 

「男ならオナゴの肌を見たいと思わんのか?」

「いずれ伴侶となる者ならばともかく、うら若き未婚の女性の肌を見るわけにもいくまい」

「主はかったいのぉ」

 

 どうとでも言え。

 

 帝国がハニトラ対策として俺に散々宛がってきた女どもと比べても、フィーナの美しさは群を抜いている。

 俺だって十六歳という健全な年ごろだ。彼女のような美人の肌なら是非とも見てみたい。

 

 だがしかし、フィーナは聖エステア教会の聖女だ。

 本物の神との交信が出来る存在唯一の存在であり、なによりも重要な人物。

 

 当然教会側も手放すことはしないだろうし、帝国の皇族に不貞を働かれたなどなれば、下手をすれば全面戦争である。

 

「ところで話は変わるが、貴様はエルフと会ったことがあるのか?」

「うむ。と言っても千年以上昔のことだがな」

「そうか……彼らは他の種族と違い、なぜ人と関わることを選ばなかったのだ?」

 

 俺の問いかけに、レーヴァは少しだけ顔を顰める。

 思い出すのが大変というよりは、当時の嫌なことを思い出したような顔だ。

 

「……プライド」

「ほう」

「あやつらは自分たちが神の眷属である精霊に選ばれたことを誇りに思っていて、地上で最も神に愛された種族だと言い張っていた。当時は今ほど人間の魔術も広がっていなかったし、我らドラゴンなどを除けば精霊術を使えるエルフたちはある意味最強の種族であった」

 

 数こそ少なかったため大陸を支配するようなことは出来なかったが、それでも種族として弱い人間などを見下していたのだろう。

 

 その結果、魔術を覚え、他種族と交流し、知識を蓄えた人間たちによってエルフたちは居場所を失うことになったという話だ。

 

「その割にはアリアは普通だったな」

「まあエルフもこの長い年月の中で変わってきたのだろう。さすがに人里にやって来るものはいないにしても、若くその歴史を直で見ていないエルフなら、里の外に興味をもってもおかしくはないさ」

 

 その結果、定期的に生まれるエルフの奴隷。

 

 彼女たちはその美しさから貴族に大金で支払われ、コレクションとして自慢されることがある。

 

 帝国のパーティーなどでも、俺に対して見せびらかすような貴族はいた。もっとも当時はそんなものに構っている暇もなかったのでスルーしていたが。

 

「エルフの里か……」

 

 アークレイ大森林の奥にそれがあるという噂は確かにあった。

 

 しかしここはAランクの冒険者でも危険な魔物が跋扈する地域。

 探索も上手く行かず、多くの兵士たちが血を流し、エルフを見つけるためにとはいえ、支払う対価が大きすぎたのだろう。

 

 結果、アリアのように外の世界に興味を持った若いエルフなどが捕まえられる程度の数となり、その分希少価値も高くなった。

 

「しかしアリアも中々に幸運じゃの」

「奴隷にされたのにか?」

「奴隷にされた後に主に見つけてもらったことが、だ」

「……そうか」

 

 今はフィーナと二人で水浴びをしているアリア。

 年が近いからか、昔からの友人のように二人は仲がいい。

 

 彼女たちの楽しそうな笑い声が時折聞こえてきて、少し微笑ましい気持ちになった。

 

「なんだ、やっぱり見たいのか? 主になら二人とも見られて良いと思っていると思うぞ?」

「同じことを何度も言わせるな」

 

 俺の役割は彼女たちが何の心配もなく水浴びが終われるように、ただ周辺を警戒することだけだ。

 

 さすがに遠く離れ過ぎると魔物が近寄ってきて危険かもしれないので、こうして近くで待機をしながら周辺を窺ってるのだが、今のところ魔物たちが近寄って来る気配はない。

 

「ところで主、気付いているか?」

「ああ、囲まれているな」

 

 魔物たちは近づいていない。おそらくレーヴァという強力な存在に恐れを成しているんだろう。

 

 それでも俺たちに近づいて来る者がいるとすれば、それは知性ある存在。

 

「出てこい――こちらを見張っているのは分かっている」

 

 そして俺が周囲一帯を吹き飛ばすように魔力を解き放つと、集まってきた者たちが森の木々から次々と落ちていく。

 

「ふん、やはりエルフか」

 

 一番近くにいたエルフの男は、尻餅をつきながら怯えた様子で弓を構える。

 そんな男に俺はゆっくりと近づいていき——。

 

「な、なんだこの魔力は貴様は……」

「私か? 私は……ただの人間だよ」

 

 そうしてエルフの弓を折りながら嗤うのであった。




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