悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第十三話

 俺が危険な存在だと思ったのだろう。

 

 完全に戦意を喪失してしまったエルフ以外の、少し離れたところにいた者たちが一斉に弓矢を放ってきた。

 

「主、我が……」

「いや、いい」

 

 前に出て俺を守ろうとしていたレーヴァを手で制し、飛んでくる矢を見る。

 強力な風の魔力が込められたそれは、恐らく大木ですら貫通してしまう代物だ。

 

「だが、その程度ではな」

 

 俺が軽く腕を振るうと風が舞い、矢に乗せられている風の魔力に揺らぎが生じる。

 本来なら寸分違わず俺に突き刺さるはずだったはずの矢は、その力を失い地面に落ちていった。

 

「なっ――⁉」

「馬鹿な⁉ これはただの矢ではなく、精霊の力を纏わせたものだというのにっ!」

「さて……」

 

 なにが起きたのか理解出来なかったのだろう。エルフたちは揃って声を上げながら驚愕の表情を浮かべていた。

 

 軽く周囲を伺うと、エルフの数は足元に一人転がっているのを入れて十人。

 木々から落ちた後すぐに森に姿を消したとはいえ、その気配までは隠しきれていない。

 

 ましてや力の差が理解出来ていないのか、こちらに向ける怒気は衰えず、隠れる気があるのかとさえ疑ってしまう始末だ。

 

「まさか、この程度で私をどうにかできると思っているのか?」

 

 力も、数も、全然足りない。

 

 ラスボスであるシオン・グランバニアを相手取るには、あまりにも弱い戦力。

 

「ほざけ人間風情が! ここはもう我らエルフの縄張りだ!」

「今出ていくなら見逃してやるが、これ以上進むなら覚悟することだな!」

「一つ言っておく。私はお前たちエルフと戦いに来たわけではない。ただ同胞である――」

「主よ、やつら聞く気がないらしいぞ」

 

 怒号とともに再び弓矢を構えるエルフたち。

 先ほどよりも多くの魔力が注がれたそれは、この森に棲む強力なモンスターでさえも一撃で屠ることが出来るだろう。

 

 もとより人よりも個体としての能力値に長けた種族だ。

 エルフが単独で動いていたときならともかく、こうして徒党を組まれてた時点で普通の人間であれば勝ち目はない。

 

「こちらは平和的に解決したいのだがな」

「そもそも争いに来たわけではないのに、主が下手に魔力で怯えさせたのも原因だと思うぞ」

「……そうか」

 

 とはいえ、これ以上問答を繰り返しても同じ結果にしかならないだろう。

 

 頭に血が上っている相手に話を聞いてもらうには、力を見せつけるしかないのだ。

 それも、圧倒的な力の差を。

 

「では、やるとしようか」

「ってぇぇぇぇ!」

 

 凄まじい轟音を立てて風を貫く矢の数々。

 エルフ自慢のそれらは、しかし先ほどと同じく俺に届くことはない。

 

 なにせ、俺に当たる端からそのまま地面に落ちていくからだ。

 まるで玩具の矢が当たっているかのような状態に、エルフたちはなにが起きているのか理解出来ずに困惑していた。

 

 俺の行動は一つ、ただ前に進むことだけ。

 わざと矢を避けずに真っすぐに、一人のエルフの前に立つ。

 

「どうした? その手に持ってる矢で攻撃しないのか?」

「あ、あ、あ……」

「攻撃をしないなら、眠っておけ」

 

 軽く魔力を飛ばしてやると、彼はまるでジェットコースターで垂直落下をしたように身体を仰け反らせて背中から倒れる。

 

「「っ――⁉」」

「さあ……順番に行くぞ?」

 

 周囲のエルフたちが驚いたのが伝わってきた。

 そして俺はただ圧倒的な力の差を見せつけるためだけに、彼らにもわかるようゆっくりと動くのであった。

 

 

 

 しばらくして、フィーナとアリアが川での水浴びから戻ってきた。

 

「あのリオン様……これはいったい?」

「攻撃を仕掛けられたから反撃したまでだ」

「……えーと、ご主人様、その……ごめんなさい?」

「ああ、アリアは気にしなくていい」

「う、うん……」

 

 彼女の謝罪が疑問形なのは、この場で正座して並べられているエルフたちの顔を見たからだろう。

 

 誰も彼もが両頬を真っ赤に染め上げられて、半泣きの状態だった。

 

 あのあと俺は一人一人、手の届く所まで近づいていきビンタを喰らわせてやったのだ。

 

 だいたいのエルフは一発で泣いてしまったのだが、それでも睨んできたので反対側ももう一発。

 

 それで戦意を喪失してしまい、地面に崩れ落ちると、次のエルフへと向かっていく。

 

 それを繰り返した結果がこれである。

 

「殺す気で矢を放ってきたのだから、この程度で済ませてやっただけ優しいと思え」

 

 俺がギロリとエルフたちを睨むと、彼らはコクコクと必死に頷く。

 

「我から見ても酷い惨状だった……」

「エルフの戦士は普通、人間より強いはずなんだけど……」

 

 レーヴァとアリアはなんとも言えない表情で俺を見てくる。

 それに対してフィーナだけはキラキラと、尊敬の眼差しだった。

 

 ――俺が言えたことじゃないが、この子はもう少し俺を疑った方がいいんじゃないか?

 

 どうやら裁きの女神であるアストライアからなにかを言われているせいか、どうにも信用度がカンストしているように思える。

 

 これはいずれは大変なことになりそうだと思い、定期的に話はしているのだが、どうにも改善の兆しが見られなかった。

 

「さて、とりあえず全員揃ったところで……アリア、お前から説明を頼む」

「あ、うん。だけどこの状態でまだ説明してなかったの?」

「私は自分を攻撃してくる者に対して、これ以上優しくしてやる気などないからな」

 

 このエルフたちも俺が他のエルフを助けたと言えば、多少態度も軟化していたかもしれない。

 

 しかし先に攻撃を仕掛けてきたのはこいつらだ。だからこそ、なぜ俺がこの場にいたかなどの理由は教えてやらなかった。

 

 ――絶対に勝てない敵が目の前にいるという恐怖を、少しでも味わえばいいのだ。

 

 そんなラスボスにしてはちょっと小物っぽいことを考えながら、アリアによって怒られながら事情説明を受けているエルフたちを見続けるのであった。

 

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