悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第十五話

 しばらくして、俺たちはエルフの恩人だということで一つの家を用意された。

 この後、攫われた仲間が助かったことに対する宴が催されるという。

 

 それまでの間は客人としてゆっくりするようにと言われたため、窓の外から見える自然の景色を楽しんでいるところだ。

 

「それにしても、最初から対話もなく殺す気だったのは少し気になるな」

 

 スルトたちに襲われたとき、彼らは有無を言わさず襲い掛かって来た。

 もちろん人間が敵だという認識は彼らにもあるだろう。

 

 だからといって、彼我の力量差を見極めることもせず、ましてや他に仲間がいる可能性すら考慮せずに襲い掛かってきたのはあまりにも短慮としか言えない。

 

 エルフたちを叩きのめしたあと、ちゃんと聞いておけばよかったと、今更ながらに後悔してしまう。

 

「アリア、お前はなにか知っているか?」

 

 改めて事情を知っているであろうアリアに問いかけると、彼女は少し暗い顔をしながら語り始める。

 

「……実は、ここ最近人間に攫われるエルフが多くて、みんなピリピリしてたんだ」

「なに? エルフがか?」

「うん……」

 

 それは、少しおかしな話だ。

 

 たしかにエルフは希少な種族で、好事家などに人気の存在。

 人間に捕まると、そのまま貴族などに売るための奴隷にされることが多い。

 

 上位冒険者の中にはエルフを専属で捕まえるエルフハンターを名乗る者までいるくらいで、ドラゴンの討伐以上に金になるという話だ

 

 とはいえ、エルフという種族は単体であれば人間よりも強い存在だ。

 

 精霊術を駆使し、長く生きた戦闘経験もあり、今回あったように集団行動にも森での活動にも長けている。

 

 上位の冒険者でなければ手が出せないのもその強さが原因であり、普通なら返り討ちに出来るはず。

 

 エルフが捕まるときは大抵、アリアのようにまだ成人していない子どもであることがほとんどなのだが……。

 

「なんか最近、変なの」

「変?」

「うん……僕が捕まったときも、もちろん抵抗したよ。だけど最初は言うことを聞いてくれていた精霊たちが急にいなくなっちゃったんだ。それでそのまま戦う力を失って、人間に負けて奴隷の首輪を付けられちゃった」

 

 アリアもまだ子どもとはいえ、精霊術を使える程度には成長している。

 

 森に人間がやってきたと気付いた時も、最初は警戒していたし、隠れてやり過ごそうとしたらしい。

 

 しかしまるでそこにアリアがいるのを知っていたかのように、奴隷商人と人間の集団が襲い掛かってきたという。

 

「精霊たちが逃げ出すようなことは、よくあることなのか?」

「ううん、今までそんなこと一度もなかったよ。怖い魔物相手だって、精霊たちは逃げないし……」

 

 アリアの話では、人間の一人がなにかをした瞬間、精霊たちが逃げ出したらしい。

 

 精霊術の使えないエルフは、人間より少し強い戦士程度。

 アリアなど、そこらの人間と変わらないレベルの子どもだ。

 

「他のみんなも、同じように捕まったんだと思う」

「そうか……」

 

 精霊が逃げ出すようななにかを準備していたというのであれば、その奴隷商人は元々エルフを捕まえるつもりで来たのだろう。

 

 普通なら難しいはずだが、情報を揃え、精霊術の対抗手段も手に入れているとするならば……。

 

「厄介だな」

 

 精霊術を無効化する術があるということはつまり、やつらにとってエルフは脅威でもなんでもないということだ。

 

 もちろん戦士長であるスルトのように、戦闘経験豊富な者ならそう遅れは取らない。

 だがアリアのような精霊術以外に戦う術を持たない子供たちにとっては、それはあまりにも恐ろしいこと。

 

「エルフたちがあれほど敵意を剥き出しにしてきたのもよくわかるというものだ」

「うん……ごめんね」

「別にお前が謝ることではない」

 

 しかし、このままでは不味いかもしれない。

 下手をすればエルフと帝国の戦争にまで発展する可能性があるぞ。

 

「アリアは人間が憎いか?」

「……憎いって気持ちより、怖いかなぁ。なんで自分たちが持ってる物で満足できないんだろうって」

「たしかにな」

 

 元々の原作でも、グランバニア帝国は南へと侵攻していった。

 

 ラスボスであるシオンの目的は、クヴァールの意思を受けて世界そのものを支配することだったからまだわかる。

 

 だがしかし、他の帝国民は普通の人間だ。

 そんな彼らでさえ、勝利に酔い、侵略される土地の人間にも家族がいることを忘れ、ただ暴虐の限りを尽くした。

 

「僕たちは、ただ静かに暮らしたいだけなのに……」

「アリアさん……」

 

 蹲るように泣き出したアリアを、フィーナが悲痛の面持ちで見る。

 

 正エステア教会の聖女である彼女は、人間の汚い所もたくさん見てきただろう。

 その度に心を痛め、それでも己の傍に在り続ける神を信じて信仰を続けた。

 

 だが、こうして実際に人間によって被害を受けた『人以外』の存在を見たのはきっと初めての経験だったはずだ。

 

「リオン様……こういうとき、私はどうしたらいいのでしょうか?」

「さてな」

 

 戸惑ったよな、救いを求めるような瞳でこちらを見てくる彼女に、俺は何も答えてやらない。

 

 なぜならここは選択肢を間違えたらロードできるようなゲームの世界ではなく、現実なのだ。

 

 だからこそ、自分の道は自ら切り開いていかなければならない。

 

「ごめんね、これから宴なのにしんみりさせちゃって。えへへ、えっと、もう大丈夫だから」

 

 明らかに無理をした笑顔。だがそこには強い意志を感じ取れた。

 涙をぬぐい、元気な姿を見せるアリアの姿は、子どもとは思えないほどに美しい。

 

「リオン君?」

「アリア……私はその精霊たちが恐れる存在に心当たりがある」

「……本当?」

「ああ。もっとも、実物を見ていないから確信はないがな」

 

 精霊たちが逃げ出した、ということは精霊が恐怖する存在がそこにいたという仮説が立てられる。

 

 『永遠のアルカディア』ではエルフという存在がいないため、精霊術に関する記述はなかった。

 

 だがしかし、物語の中で精霊という存在と関わることはある。そして、その内容というのが……。

 

「精霊喰い。強い力を持っているわけではないが、精霊たちの力を奪う魔物だ」

 

 そして奪った力は、破壊の神クヴァールへと捧げられた。

 

 つまり今回の敵は――。

 

「く、くくく……まったく、まるでゴキブリのように這い出てくるやつらだ」

 

 散々叩き潰してやったというのに、どうして俺の道の先に現れるのだ奴らは!

 

「り、リオン様?」

「リオン君……凄い怖い顔してるけど」

「……すまない。少し苛立つ奴らの気配を感じただけだ」

 

 ただの奴隷商人や冒険者が相手であれば、俺もこの力を振るうことにためらいを感じてしまう。

 

 だが敵がクヴァール教であるというなら話は別だ。

 やつらの外道さは、俺が誰よりも知っていた。

 

 だからこそ、俺は決めていたのだ。

 

 ――私の破滅フラグを増やそうとする輩は、すべて叩き潰すとな!

 

「……まあとはいえ、今から宴があるのだろう? ならばまずはそれを楽しませてもらう」

「あ、うん。盛大におもてなしするからね!」

 

 俺の力の一端を感じたアリアが少し驚いた様子。

 

 それに申し訳なさを少し感じながら、俺はこれからのことを考えて、暗く嗤うのであった。

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