悲劇の運命を背負ったラスボスに転生しました   作:きりたい

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第一話

 俺ことシオン・グランバニアは北の軍事国家グランバニア帝国の第二皇子であり、自他ともに認めるエステア大陸最強の魔術師だ。

 

 長い黄金の髪と妖艶な瞳は太陽を飲み込むと謳われ、社交界では傾国の美女すら霞む美貌の持ち主として有名だった

 

 そのせいで皇帝や兄弟たちからは、「貴様がいるとその場で婚約破棄が始まるからパーティーには出席するな!」と言いがかりまでつけられる始末。

 

 『黄金の君』などと呼ばれる理由は、パーティーで正装した姿を一目見てみたいという令嬢たちから付けられたあだ名で、まるで滅多に出会えない宝石妖精《カーバンクル》のような扱いだった。

 

「実際、ゲームの中のシオンの見た目は美麗というしかないレベルだったな」

 

 外見は絶世の美を纏った破壊の帝王。中身はただのオタクリーマン。

 

 そのギャップの大きさはこの世界で俺だけ知っているが、それでも俺なりに色々と頑張ってきた甲斐あって、それなりに外面に見合った言動が出来るようになっていた。

 

 俺が転生してから十六年、超エリート教師たちに囲まれながら帝王学を学べば、誰でも最低限それっぽく取り繕うことは出来るらしい。

 

 言葉遣いも自然と王族のものになり、中身は未だに一般人のつもりだが外面は立派な皇族だった。

 

「しかし、こんなにゆっくりとした旅を出来る日が来るとはな」

 

 帝都から出た馬車に乗り、南へ南へと進んでいく。

 

 ゲームの主人公であるカイルが住む村は大陸の最南端にあり、最北にあるグランバニア帝国からは数ヵ月はかかる距離だ。

 

 俺は本気になれば空も飛べるし、移動時間はもっと短縮できる。

 

 だが本来の歴史と異なり、シオンという世界の破壊を目論む存在はおらず、暗躍していたクヴァール教団も俺によって教団の大部分を潰されて力を失っている状態。

 

 世界の危機などなく、魔物や悪人はいるとしても国家間の仲は表向き良好で、現在のエステア大陸は平和な世の中と言っていいだろう。

 

 穏やかでゆっくりとした時間が続く。

 

 窓の外に広がる景観を楽しんでいると、同乗者の男が巨大なバスタードソードを磨きながら話しかけてきた。

 

「なんだ兄ちゃん、旅は初めてか?」

「初めてではないが、こうして景色を楽しむ余裕はなかったのだよ」

「そうか、若いのに苦労してたんだな」

 

 俺がそう返すと、男は少し同情したように声を零す。

 

「それなりに、と言ったところだ。とはいえその苦労の甲斐あって今の私がいると思えば、そう悪いものばかりではなかったと思う」

「へぇ……中々良い目してるじゃねえか。気に入ったぜ兄ちゃん! 俺の名はマーカス、帝都で冒険者をしているもんだ」

「リオンだ。旅の魔術師をしている」

「魔術師か、ならもし盗賊なんかに襲われたら後衛は任せたぜ」

「ああ」

 

 快活な笑いをしながら色々と話しかけてくるマーカスに応えながら、俺は窓に映る自分の姿を見て苦笑する。

 

 黒い髪に黒い瞳。

 俺の姿と名前はあまりにも有名過ぎるので、偽名を使い姿を変えて旅をすることにしたのだ。

 

 黄金の君と呼ばれたそれとは異なるその姿は、幻影魔術で作り出したもの。

 

 前世の俺をこの世界風にアレンジして少しだけ格好良くしてみたのだが、中々どうして悪くない出来だと自画自賛してしまうものだった。

 

 俺と同じくオタクだった前世の妹に見られれば、少しだけ? と疑問形で返されるだろうが、そこはあまり気にしてはいけない。

 

「私は気ままに旅をしているだけだが、マーカスはどこに?」

「ちょっと火竜の討伐依頼があったからな。グラド山脈の火山帯へ小遣い稼ぎに行くところだぜ」

「火竜か……」

 

 マーカスは気軽に言うが、火竜とはこの世界における上位の魔物で、帝国の騎士団が一部隊は必要とされるレベルの魔物である。

 

 それを一人で、しかも小遣い稼ぎ扱いとは……。

 

「有名な冒険者なのだな」

「まあそれなりに。つっても、冒険者なんて世間一般には大して知られてねぇからお前さんが知らなくてもしょうがねえよ」

 

 ドラゴン退治は最低でもAランク冒険者の資格が必要だ。

 

 しかも帝国の冒険者の水準は大陸でも最高峰なので、この男がこのエステア大陸でも上位に位置する者であることは間違いない。

 

 立ち振る舞いから只者ではないと思っていたが、中々どうして旅の始まりから面白いことになってきた。

 

「火竜狩りか……良ければ私も同行させてもらえないか?」

「普通なら遊びじゃねえって怒鳴るところだが……リオンはどうも普通の魔術師とは違う気がするし、面白そうだ。いいぜ、ついて来いよ!」

「感謝する」

 

 自惚れではなく、俺はエステア大陸における最強の魔術師だ。

 

 今は一般の魔術師レベルまで魔力を抑えているが、並の魔術師では見抜けないはずの隠蔽をマーカスは感覚で見抜いたらしい。

 

「ん? どうした?」

「いや、なんでもない」

 

 鍛え上げられた身体に刈り上げられた茶色の髪。鋭い眼光は歴戦の戦士を彷彿させる。

 

 マーカスという登場人物はいなかったはずだが、ゲームに出てくるキャラクターだけが強者ではない、ということだろう。

 

 あまり立場上冒険者と関わることはなかったが、中々侮れないものだと改めて思った。

 

 そうして俺たちが馬車に乗って進んでいると、少し離れたところで慌ただしい様子の馬車が見える。

 どうやら商人の馬車が盗賊に襲われているらしい。

 

「おいリオン、どうするよ?」

「決まっている」

 

 弟に皇帝の座を押し付けて出奔したとはいえ、俺はこのグランバニア帝国の皇子。

 助けを求める民を放っておけるような人間ではない。

 

「出るぞ! 遅れるなら置いていく!」

「っ――早ぇなおい⁉」

 

 背後から驚いた声を上げるマーカスだが、今は目の前の馬車の方が優先だ。

 元々の身体能力はもちろん、魔力で強化された俺の動きは超人と言ってもいいレベル。

 

 一気に距離を詰めると、そのまま少女に覆いかぶさっている盗賊の男を蹴り飛ばした。

 

「大丈夫か?」

「え……?」

 助けた少女はどうやら聖職者らしく、白い法衣を身に纏っている。

 

 腰まで伸びている蒼銀色の髪は俺の物とは違いとても柔らかそうで、なんとなく天使に愛されそうな少女だと思った。

 

 少女は一体なにが起きたのかわからないと戸惑った様子で視線を彷徨わせ、どうにも焦点が合わない。

 見たところ怪我をしているようには見えないが……。

 

「大丈夫かと聞いているんだが」

「あ……はい! 大丈夫です!」

「そうか。なら隠れていろ」

 

 少女を背中に隠すと、殺気立った盗賊たちに向かって手を向ける。

 

「なんだテメェは⁉」

「ただの通りすがりだが、この国での蛮行は許さんぞ」

 

 瞬間、深紅の魔法陣が目の前に広がり、そこからうっすらと炎が漏れだす。

 

「こ、こいつ魔術師だ⁉」

「やべぇ、逃げろ!」

「逃がさん――ファイアランス!」

 

 炎の槍が魔法陣から飛び出すと、盗賊たちに襲い掛かる。

 

 『幻想のアルカディア』では初級魔術に分類されるものだが、俺の膨大な魔力から放たれるそれは、凄まじい威力を秘めていた。

 

 超高速で飛び交う炎の矢は正確に盗賊たちを貫き、声を上げることも出来ないまま一瞬で火だるまになって灰になる。

 

 キラキラと幻想郷の妖精のように舞う深紅の火粉は、しばらくすると風に乗って消えていった。

 

「まあ、こんなものだな」

「す、すごい……」

 

 少女が背後で驚いているが、盗賊たちの実力も大したものではなかったし、俺からしたらまるでチュートリアルの敵を倒したような気分だ。

 

「さて……」

 

 見れば少女の乗っていたであろう馬車はひっくり返り、御者や他の者は全員死んでいるらしい。

 

 残っているのはこの少女だけ。

 

「とりあえず……街まで乗っていくか?」

 

 俺がそう尋ねると、彼女は涙を浮かべた瞳で頷くのであった。

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